『るろうに剣心 最終章 The Beginning』:2021、日本

元治元年(一八六四年)、一月十六日早朝。緋村剣心は京都・対馬藩邸で捕縛され、佐幕派の藩士たちの暴力的な尋問を受けていた。重臣の勝井隆智たちは、相手が人斬り抜刀斎だと気付いていなかった。黙秘を貫いていた剣心は「貴方がたには死んでもらう」と囁き、不用意に近付いた藩士の耳に噛み付いた。彼は藩士が落とした刀を口にくわえ、勝井は慌てて逃げ出した。剣心は両手を縛られたまま、藩士たちを次々に倒す。彼は縄を切り、残る面々も一掃した。現場に来た新撰組の近藤勇や土方歳三、沖田総司に斎藤一といった面々は、すぐに犯人が人斬り抜刀斎だと見抜いた。
四月五日、京都・重倉家屋敷前。重倉の家臣である清里明良は祝言が決まっており、仲間から冷やかされていた。そこへ剣心が現れ、彼らを次々に斬った。剣心が去ろうとすると、清里が立ち上がって「死ねない。大事な人がいる」と口にする。剣心は無慈悲に斬り捨てるが、なおも清里は立ち上がる。清里は心の左頬に傷を付けるが、ついに絶命した。剣心は「斬奸状」と書いた文を置いて現場を去り、宿泊している料亭「小萩屋」に戻った。
京都・四条小橋の枡屋には、長州藩の桂小五郎が同志と集まっていた。彼は人斬りを一任している配下の剣心を呼び出し、新撰組には警戒するよう指示した。一年前、長州・阿弥陀寺。高杉晋作が奇兵隊の隊員を募った時、志願する面々の中に剣心の姿もあった。彼は1人の男に難癖を付けられ、勝負を要求された。高杉が容認すると、剣心は抜刀術で力の差を見せ付けた。同席していた桂から「人を斬ったことがあるか」と訊かれた剣心は、「いいえ」と答えた。「斬れると思うか」という質問に、彼は「犠牲になった命がある限り。誰もが必ず安心できる未来が来るならば」と言う。その言葉を聞いた桂は、は高杉に「あいつは俺が貰う」と述べた。
桂は恋人である幾松の前で、剣心が人斬りであることに迷いを感じ始めていると話した。剣心が酒場で飲んでいると、雪代巴がやって来た。似非志士2人組が彼女に絡むと、剣心が威嚇して追い払った。店を出た剣心は似非志士たちに襲われるが、返り討ちに遭わせた。そこに巴が現れ、「本当に血の雨を降らすんですね」と言うと意識を失った。剣心は巴を小萩屋へ連れて行き、女将に介抱してもらった。翌朝、元気になった巴は台所を手伝い、宿泊客たちに挨拶した。彼女の態度を見た客たちは、剣心の妻だと誤解した。
剣心は巴に立ち去るよう要求するが、拒否されて「私を始末しますか」と問われる。「刀を持たぬ市井の者は斬らない」と剣心が告げると、巴は自分が刀を持てば斬るのかと問い掛けた。剣心は桂の命令で人斬りの仕事を続け、巴の「このまま人を殺め続けるおつもりですか」という言葉を受けた。桂は巴と会い、剣心の刀を鈍らせないでほしいと要請した。巴は剣心を誘って祇園祭の山鉾巡行を見物し、子供たちの様子を眺めて「貴方も被害者ではありませんか」と質問する。剣心は「時代を進めるためには誰かが太刀を振るわねばならない」と述べ、人斬りの仕事を肯定した。
新撰組は尊王攘夷派の宮部鼎蔵たちが天皇を長州に連れ去る計画を企てている情報を掴み、彼らが潜伏する池田屋へ向かった。剣心は長州の片貝から宮部の動きを知らされ、その陰謀を止めようとしている桂も危険だと告げられる。池田屋に乗り込んだ新撰組は、尊王攘夷派を次々に始末する。1人の志士が池田屋から逃げ出したので、沖田が後を追って止めを刺そうとする。そこへ桂を助けようと池田屋へ急いでいた剣心が現れ、沖田と戦う。しかし沖田が吐血したので、剣心は刀を収めた。
そこへ斎藤たちが駆け付け、剣心と戦おうとする。そこへ長州の飯塚たちが現れ、桂が無事だったことを剣心に伝える。飯塚は「ここで新撰組と斬り合っても意味が無い」と言い、斎藤の挑発に憤慨する剣心を説き伏せて退却させた。元治元年七月十九日には禁門の変が勃発し、長州志士は朝敵として追われる身となった。新撰組が小萩屋に乗り込んで来たため、剣心は巴を連れて逃亡した。剣心は桂と合流し、「しばらく身を隠す。時期を待てということだ」と告げられた。
桂は剣心に農村に住処を用意したことを話す、身を潜めるよう指示した。彼は必要な物を家臣の飯塚や片貝が運ぶと告げ、女性と一緒なら怪しまれにくいので巴に剣心との同居を依頼した。剣心と巴は田舎の家に行き、畑仕事に精を出す平穏な暮らしを始めた。剣心は巴に笑顔を見せるようになり、「人々の幸せを守るために剣を振るってきたつもりだが、思い上がりだと気付いた。幸せというのがどういう物か、俺は何も分かっていなかった。ここでの君との生活が、それを教えてくれた気がする」と語った。
飯塚が剣心の元を訪れて生活費を渡し、薬を作って売るよう促した。商売をしていれば疑われないだろうと告げた彼は、薬売りの道具も持参していた。剣心と別れた飯塚は、暗殺集団である闇乃武の詰め所に立ち寄った。彼は闇乃武の頭領を務める辰巳に剣心の目の色が変化していることを知らせ、襲うなら今だと進言した。密かに尾行していた片貝は飯塚が闇乃武の間者だと知って桂に報告しようとするが、見つかって殺された。飯塚は焦るが、辰巳は「これをもって抜刀斎抹殺の開始とするまでよ」と落ち着き払って語る。彼は巴の弟である縁に、「お前の出番だ」と声を掛けた…。

監督は大友啓史、原作は和月伸宏『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』(集英社ジャンプ コミックス刊)、脚本は大友啓史、製作は高橋雅美&池田宏之&千葉伸大&瓶子吉久&森田圭&田中祐介、エグゼクティブプロデューサーは小岩井宏悦、プロデューサーは福島聡司、アクション監督は谷垣健治、撮影監督は石坂拓郎、照明は平野勝利、美術は橋本創、録音は湯脇房雄、編集は今井剛、アソシエイトプロデューサーは藤田大輔、衣裳デザイン / キャラクターデザインは澤田石和寛、VFXスーパーバイザーは小坂一順、脚本協力は藤井清美&赤松義正、音楽は佐藤直紀、主題歌『Broken Heart of Gold』はONE OK ROCK。
出演は佐藤健、有村架純、高橋一生、江口洋介、北村一輝、村上虹郎、安藤政信、窪田正孝、大西信満、池内万作、藤本隆宏、和田聰宏、中村達也、荒木飛羽、高杉亘、高橋努、堀田真由、石田法嗣、大西武志、渡辺真起子、奥野瑛太、平埜生成、一ノ瀬ワタル、成田瑛基、野中隆光、松澤匠、増田健一、渡部龍平、菅原健、菅原永二、長野克弘、朝香賢徹、鈴之助、増田修一朗、中崎敏、上原武士、三濃川陽介、橋本禎之、高松周平、中村尚輝、長田成哉、福居惇平、大曽根敬大、坪田ヒロキ、遊屋慎太郎、川連廣明、脇崎智史、辻本一樹、敬太、小林峻、大山竜一、佐藤誠ら。


和月伸宏の漫画『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』を基にした2部作の後篇で、OVA作品『追憶編』をベースにしている。
監督&脚本は、シリーズ1作目から手掛けてきた大友啓史。アクション監督も谷垣健治が続投している。
剣心役の佐藤健と斎藤役の江口洋介は、1作目からのレギュラー。清里役の窪田正孝は、2作目からのレギュラー。巴役の有村架純、辰巳役の北村一輝、八ツ目役の成田瑛基、縁役の荒木飛羽は、前作からの続投。赤空役の中村達也は、2作目からの復帰。
他に、桂を高橋一生、沖田を村上虹郎、高杉を安藤政信、飯塚を大西信満、片貝を池内万作、近藤を藤本隆宏、土方を和田聰宏が演じている。

前作は一応、ハッピーエンドになっていた。剣心が長きに渡って抱えていた罪悪感は解消されたし、薫と共に歩んでいこうとする気持ちが見えた。なのでシリーズの締め括りとしては、どう考えたって前作の方がふさわしい。
もはや比較に値しないほど、この映画はシリーズの最終作として不適格だ。何しろ、この映画に大団円は用意されていないのだ。
どうせ前作を見ていれば承知だろうから早々とネタバレを書くが、最後に待ち受けているのは「剣心が巴を殺してしまい、縁の恨みを買う」という結末なのだ。
そこに悲劇のカタルシスがあるわけでもない。言ってみれば「不殺の剣心・誕生篇」みたいな内容なので、本来ならば番外編的な扱いにすべき作品なのだ。

それに、内容としては、前作で「剣心の回想シーン」として描かれたパートを2時間強に引き伸ばしたモノだ。だったら前作の回想シーンを長めに取って、1本にまとめてしまえばいいんじゃないかと。
2時間強の尺を使って詳細に描いたことによって、清里の一件に関しては「剣心は酷い奴だな」としか思えない。ちっとも応援したくなるキャラクターに思えない。
あと、どうしても2部作にしたかったのなら、1作目の途中で「回想シーン」として今回の内容を描いて、前作の後半の内容を後篇に回せば良かったんじゃないかと。
そういう構成にしておけば、「シりーズ最終章なのに、物語が綺麗に着地していない」という問題は解消できるでしょ。

冒頭シーン、剣心に顔を近付けた藩士が耳を噛まれた途端、他の藩士たちは怯えて腰が引けてしまう。
それは反応として変じゃないか。仲間の耳を噛んだ敵に対して、なぜ腹を立てて襲い掛かろうとはしないのか。
しかも、相手は両手を縛られていて、自由に戦える状態ではないのだ。それなのに全員が怯えているのは、どんだけヘタレなのかと。相手が抜刀斎だと気付いたならともかく、そうじゃないんだから。
こいつらをヘタレ集団しておく意味なんて、何も無いでしょうに。

剣心が騎兵隊に志願し、桂の指示で動く人斬りになった理由が乏しい。
彼は騎兵隊に志願する時に「討幕のために戦いたい」と言うけど、そこは「なぜ討幕のために戦いたいのか」という理由が欲しいのよ。
しかも、この時点で彼は1人も殺していないのに、なぜ1年後には佐幕派から恐れられるほどの人斬りに変貌しているのか。そこまで急激に変貌するなら、かなり大きなきっかけが無いと説明が付かないぞ。そこを省略するのは、ただの手抜きでしか無いぞ。
っていうか、もう騎兵隊に入る時点で何人か殺している設定にしておけば良かったんじゃないかと。

荒唐無稽なアクションが売りのシリーズではあるが、今までの4作に比べると、今回は恋愛劇の要素が多くを占めている。そうなってくると、谷垣健治よりも大友啓史の仕事の割合が大きくなる。
しかし大友啓史は人間ドラマを描くのがお世辞にも上手とは言えない監督なので、剣心と巴の恋愛劇は惹き付ける力が弱い。
っていうか根本的な問題として、ずっと剣心と薫の関係で恋愛劇を描いていたはずで。
それがシリーズ最終作になって、急に薫とは別の女性の恋愛劇で締め括るって、どういうつもりなのかと。

そりゃあ、剣心と薫の恋愛劇が魅力的だったとは到底言えないし、それどころか薫の存在価値そのものが危うかった。だけど、シリーズのメインヒロインは間違いなく薫だったはず。
それなのに、最後の最後で他の女に浮気するって。
あと、巴からすると、剣心は許嫁を殺しただけでなく、目の前で2人の男を惨殺した冷徹な人斬りでしょ。そんな奴に惚れるのは、説得力が乏しい。
また、まるでメンターのように巴が剣心に何度も「ずっと人を殺し続けるのか」「それは本当に正しいことなのか」などと疑問を投げ掛け、諭して導こうとするのも、「なんで?」と言いたくなるし。

巴にしろ、彼女を差し向けた暗殺集団の闇乃武にしろ、新選組とは何の関係も無い。闇乃武は幕府直属の組織だが、新選組と連携して行動しているわけではないのだ。
そのため、剣心と巴の恋愛劇と、剣心vs新選組の対決の構図は、上手く絡み合っていない。
それに伴って、有名な池田屋事件のエピソードにしても、ただアクションシーンのためだけに用意されたモノになっている。
ストーリー展開としては、別に無くてもいいんじゃないかと感じてしまう。

前作の回想パートで、「巴は許嫁を殺され、恨みを晴らすために組織の密偵として剣心に近付いた」という事実は明らかにされている。
だから本作品では、彼女の素性や目的を早めに明示してもいいんじゃないかと思うんだよね。それによって、巴の心情の揺らぎを前半から描写できるし、悲しい恋の物語としての厚みや深みを持たせることも出来るはずだし。
あと、巴との関係を明かすかどうかは抜きにしても、闇乃武の登場が遅すぎやしないか。
ずっと剣心と新選組の対立をメインの図式として表示しておいて、後半に入ってから急に登場した闇乃武との対決をクライマックスに据えるのは、構成としてマズいでしょ。
終盤に入ると新選組は完全にカヤの外へ放り出されているし、いびつな構成と言わざるを得ない。

ラストバトルはテンポが悪いし、高揚感も爽快感も全く味わえない。
じゃあ悲劇のカタルシスがあるのかというと、そこまでの恋愛劇が描けているわけでもないし。
で、全てが終わった後、最後に鳥羽伏見の戦いのシーンが用意されている。剣心が戦っていると官軍の勝利が決定し、「来たか、新しい時代がやっと」と呟く。
そこへ斎藤が来て「これで終わりだと思うなよ」と怒りを向けると、剣心は刀を地面に突き刺して立ち去る。
でも、こんなのは完全に蛇足でしかないよ。

(観賞日:2022年10月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会