『ランウェイ☆ビート』:2011、日本

都立月島高等学校の跡地に、卒業生の塚本芽衣(メイ)がやって来た。本当なら彼女たちは、その場所で卒業を迎えるはずだった。平凡 だった彼女の高校生活は、溝呂木美糸(ビート)との出会いによってドキドキする日々へと変わった。ビートは小さなテーラーを営む祖父 ・将人と暮らしていたが、幼馴染みの宮本きららが東京の中央区立臨海病院に転院したため、「出来るだけ彼女の傍にいてやりたい」と いう理由で、疎遠だった父・隼人の元へ移ることにした。
メイは東京の下町、月島商店街で生まれ育った。理髪店を営む父、もんじゃ秋川の女将、郷田洋品店のおじさんの井戸端会議から、月島の 朝は始まる。メイはもんじゃ秋川の娘・アンナのバイクで、骨折した母が入院している病院へ送ってもらう。クラスメイトのミキティは、 小さい頃からモデルをやっていて人気上昇中だが、性格に若干の問題がある。ワンダは先輩だが、2年間も引き篭もっていたので今はメイ の同級生になっている。
ビートは隼人が営むアパレル会社「スタイル・ジャパン」のあるセントラルビル原宿へ赴き、専属デザイナーの南水面と会う。隼人は息子 が来ても冷淡な態度で、「一緒に暮らしても構ってる暇は無い」と告げる。それはビートも予測していたことで、クールに受け止める。母 を見舞ったメイは、自販機の前で小銭を落とした同年代の少女に気付き、拾ってあげた。それが、きららだった。そこへやって来たビート は、メイが月島高校の生徒だと気付いて「明日から同じ学校。よろしくね」と微笑した。
メイが帰宅するとアンナが髪を切っていて、「文化祭のファッションショー、ミキが学校中からデザインを募集するらしい」と聞く。採用 されたら、ミキティがモデルを務める雑誌『Sweeteen』に、彼女と一緒に掲載されるのだという。マンションにいたビートは、神経質な 隼人から「自炊は止めてくれ。ゴキブリが出る」と言われる。さらに隼人は奥の部屋を指差し、「あの部屋には入らないでくれ。物置に なってる」と命じられる。
翌日、ビートは転校生としてメイのクラスにやって来た。担任の山崎が、ビートを生徒たちに紹介する。ミキティはクラスメイトが描いた デザイン画を集めるが、全て却下した。ビートは、ワンダがミキや郷田のイジメを受けて「俺なんかもう学校へ来なければいいんだ」と 貰し、教室から出て行くのを目撃した。ミキティは「ろくなデザインが無いし、ファッションショーは中止。文化祭は勝手にやって」と 冷たく言う。するとビートは「俺にもデザイン描かせてくれないかな」と自信満々に提案した。
放課後、ビートはメイに付き合ってもらい、ワンダの家を訪れる。ビートは、ワンダが小学生時代に描いた絵を発見した。ワンダの部屋に 入ると、彼は父の建築デザインの仕事を手伝っていた。ビートは「ちょっと力貸してくれない?デザイン画を渡すだけってのは癪じゃん。 だからまずは、君をクラス一カッコ良くする」と彼に言う。ビートは困惑するワンダを説き伏せ、メイの父に頼んで髪をカットしてもらう 。そして家に帰り、ミシンで服を作った。メイはビートの父がアパレル会社社長と知り、「サラブレッドなんだ」と言う。するとビートは 、小さい頃に母親が亡くなったこと、父親がショーの真っ最中で帰って来なかったことを語る。
翌日、ビートがイメチェンさせたワンダを見て、クラスメイトは驚愕した。ビートはクラスメイトに手伝ってもらい、デザイン画を黒板に 貼り出す。ビートが「ワンダだけじゃなくて、みんなも変われると思うんだ。こんな感じで、みんなのポテンシャルを引き出せたらなあ って思って」と言うと、学級委員長の清水圭子を始めとして「着てみたい」と興味を示す者が続出した。アンナから「ここはアンタが 仕切るところじゃない」と言われたミキティは、ビートに「ダサイ服、着せないでよね」と笑う。
ビートがデザインを担当し、クラスメイトが手分けして服を縫っていった。メイは進行役で、振り付けはミキティが担当した。ショーの 会場は、学校のラウンジを提供してもらうことになった。ワンダがCADを使ってランウェイのデザインをしていると知ったミキティは、 「すごいじゃん」と感心した。Sweeteenでミキティが連載している「ミキティ日記」のページには、月島高校のファッションショーのこと が掲載される。ビートの名前や、彼のデザインした服も掲載された。ビートは、その記事をきららに見せる。
隼人は水面から、ライバル会社である「ワールド・モード」がミキティに接触していることを知らされる。ターゲットを1つ下の年齢層 にも広げるつもりだと聞き、隼人は「ウチと被せて来る気か」と苛立つ。水面に「受けて立ちますか」と訊かれ、彼は「当たり前だ」と 答える。すると水面は「だったら社長ご自身がデザインしたらどうです?第一線を退くには早すぎたんじゃないですか」と持ち掛けるが、 隼人は「俺はもう経営者だ」と告げた。
公開生放送のラジオ番組に出演したミキティは、ファッションショーのデザインを担当するビートが隼人の息子だと語る。さらに彼女は、 文化祭までの経緯は番組で話すだけでなく、公式ブログにもアップしていくと説明した。ビートのデザインした服を着たミキティの写真が ブログにアップされると、その服を買いたいというコメントが殺到した。ビートたちは盛り上がり、ショーの準備を進める。
そんな中、ビートたちは今年度で廃校が決まったことを知る。全員の気持ちが一気に落ち込むが、ワンダだけは「春にはバラバラになるん ですよ。このまま終わりたくないです」と強い口調で言う。ワールド・モードの社長・安良岡はミキと彼女の母・江美に、中高生向けの プロジェクトを新たに展開したいと説明する。さらに彼は、ミキのデザインということで、ビートのデザインに酷似した服を着るよう要求 した。ミキは困惑するが、江美は勝手に話を進めてしまう。
きららは見舞いに訪れたビートに、「私、もう、この病室から出られないのかな」と弱音を吐く。ビートは「大丈夫。俺、ずっと傍にいる から」と元気付ける。病室を出たビートは、きららの母から「このまま投薬を続けても、半年持つかどうかなんだって」と聞かされる。 骨髄移植は危険を伴うので、相当の覚悟が必要だという。ビートは、幼少時代にきららからウェディングドレスを作ってほしいと頼まれ、 「絶対作る」と約束したことを回想した。
ビートが帰宅すると、父から「入るな」と言われていた部屋の扉が少し開いている。覗き込むと隼人の姿があった。隼人はビートに気付き 、「入れ」と告げる。ビートが部屋に入ると、隼人が妻のために用意していたウェディングドレスがあった。ビートは「俺は親父とは違う 。大切な人をほっておいて洋服なんて作りたくない。きららには絶対、寂しい思いなんかさせたくない」と泣き出した。
ビートが学校へ行くと、クラスメイトが険しい顔で待ち受けていた。ネット上で流れているCMで、ミキティがビートのデザインに酷似 した服を着たいたからだ。郷田はビートを「親父さん、スタイル・ジャパンの社長だろ。裏でワールド・モードのデザインとか盗んでるん じゃねえの」と非難し、多くのクラスメイトも彼に同調した。ビートはメイやアンナたちに擁護されるが、「俺のことが信用できないなら 、どうでもいいよ」と無表情で告げた。
ビートは学校に来なくなり、文化祭でのファッションショーは取り止めになった。きららの見舞いに訪れたメイは、彼女から「ビートを 信じてあげてください」と告げられた。その時、メイは彼女が白血病だと初めて知った。水面は隼人に、ビートをデザイナーとして入社 させるよう勧めた。隼人が断ると、水面は退社届を出した。彼女はビートと接触するため、もんじゃ秋川へ赴いた。そこにはワンダがいた 。彼は水面に、ワールド・モードがビートのデザインを盗んだことへの憤りを吐露した。すると水面は「悔しかったら、ビート君に伝えて くれる?出来る限り協力するから」と言い、連絡先を書いたメモを渡した。
メイはビートに会い、「このまま終わらせちゃっていいのかな。ビート君、全部諦めちゃってる。きららちゃんのことだって、ずっと病院 から出られないって決め付けてる」と語る。ビートが「もう洋服の話はいいよ」と拒絶する姿勢を示すと、メイは「そういうビート君、 カッコ悪いよ」と言って走り去った。ビートは水面に会いに行く。すると彼女は、隼人がデビューしたホールでファッションショーを やらないかと持ち掛けてきた。
ビートが「ここは親父が母ちゃんを捨てた場所でしょ。ファッションショーがそんな大事なの?母ちゃんの手術の日だったんだよ。親父は 母ちゃんの傍にいるべきだったんじゃないの」と反発すると、水面は「デザイナーにとってランウェイは勝負の場所なの。ここに立てる ことを誰よりも喜んでいたのはお母さんなの。ショーの成功が自分の病気と闘う勇気になるって。だからここは2人が戦って勝利した場所 なの。でもね、最後を飾るマリエ(ウェディングドレス)が無かったの。着るべき人が、その時にはもういなかったから」と語る。
ビートが帰宅すると、隼人が現れて上着を脱がせる。彼は近くにあった布を使い、手早く服を仕立てる。そして「デザインなんて要らない 。相手を思っていれば、常に頭の中にイメージはあるもんだ」と言う。ビートは「俺、親父のこと勝手に恨んで誤解してた。上手く 言えないけど、親父の背中がちょっとだけ見えた気がするよ」と述べた。彼はビートはメイやワンダたちに、みんなでファッションショー をやろうと促すメールを送信した。ミキが「ごめんね、私のせいで嫌な思いさせて」と詫びると、ビートは「俺たちは信じてるから」と 告げた。クラスのみんなも、ビートたちを待っていた。ビートは、そのプロジェクトを「ランウェイ・ビート」と名付ける。水面が借りた ホールでのファッションショーを宣伝するため、ビートたちは都心の街に出てチラシを配った。
ランウェイ・ビートのことを知った安良岡はミキと江美を呼び出し、「3月20日はウチのコレクションとぶつかってるな」と不快感を露わ にする。ミキは母から「私を悲しませないでって言ったわよね」とプレッシャーを掛けられる。メイは水面に「私、胸が苦しいんです」と 打ち明ける。水面は「それは恋をしてるからじゃない」と指摘した。水面から「難しく考えることない。気持ちを貫きなさい」と言われた メイは、「それは届かなくてもいいですか。無理なの分かってるけど、ビート君が好きなの」と打ち明けた。水面は「自分の気持ちに嘘を つくぐらいなら、思いっきり泣きなさい」とアドバイスを送った。
水面の携帯に連絡が入り、ショーの2日前だというのにホールがキャンセルされたことが告げられた。他の会場も全て押さえられていた。 安良岡の仕業だった。水面は隼人から「諦めて帰って来い」と言われるが、「私はハヤト・ミゾロギのデザインに恋をして、貴方を 追い続けた。そして、あの時と同じように、ビート君の目にドキドキして、恋をしています。ちゃんと見てあげてください。あの時の貴 方と同じように、輝いていますから」と語る。隼人は、ビートのデザインした服が保管されている場所を訪れた。
ショーの開催がダメになってもビートは気落ちせず、マリエの製作を進めていた。そんな彼に、メイは「ずっとビート君が好きです」と 告白する。「届かなくても、ずっとずっと大好きだよ」とメイが言うと、ビートは「ありがとう。だけど俺、今はデザインのことしか 考えられない」と告げる。落胆しているクラスメイトたちの前に現れたビートは、「みんな大事なこと忘れてない?俺たちのランウェイは 学校でしょ」と告げる。そこへ隼人が姿を現し、メイの両親やアンナの母たちに「商店街の皆さんの力を、この子たちのためにお借り できませんか」と告げ、頭を下げた。ワンダが図面を描き、商店街をランウェイにする準備が開始された…。

監督は大谷健太郎、原作は原田マハ『ランウェイ☆ビート』(宝島社刊)、脚本は高橋泉、エグゼクティブプロデューサーは間瀬泰宏、 企画は劔重徹、プロデューサーは齋藤寛朗、撮影は福本淳、照明は赤津淳一、録音は浦田和治、美術監修は林田裕至、美術は橋本創、 編集は今井剛、ファッションショー演出は林保弘、スタイリストは二村毅&飯嶋久美子、VFXスーパーバイザーは中村明博、音楽は上田禎、 音楽プロデューサーは安井輝。
主題歌『ランウェイ☆ビート』Words by FUNKEY MONKEY BABYS、Music by FUNKEY MONKEY BABYS/田中隼人、Performed by FUNKEY MONKEY BABYS。
出演は瀬戸康史、桜庭ななみ、田中圭、IMALU、桐谷美玲、田辺誠一、中村敦夫、RIKACO、吉瀬美智子、風間トオル、加治将樹、小島藤子、 水野絵梨奈、西岡徳馬、いとうまい子、七瀬なつみ、菅田俊、つみきみほ、手塚とおる、並樹史朗、児玉頼信、松浦佐知子、剣持直明、 駿河太郎、渡邊紘平、藤井聖子、池上幸平、ひろか、橋本朋果、岩波弘明、市村直樹、谷藤力紀、遠藤由実、紺野相龍、 青木一世、麻生千恵、飯塚大夢、石橋菜津美、笠井しげ、岸井ゆきの、黒木辰哉、桐山梓、才川コージ、北山詩織、鈴木龍之介、咲世子、 土屋シオン、沙恵莉、那須庄一郎、柊子、村田敬希、結梨ら。


原田マハのケータイ小説を基にした作品。
監督は『NANA』『NANA2』の大谷健太郎。
ビートを瀬戸康史、メイを桜庭ななみ、ワンダを田中圭、アンナをIMALU、ミキティを桐谷美玲、隼人を田辺誠一、将人を中村敦夫、江美 をRIKACO、水面を吉瀬美智子、安良岡を風間トオル、郷田を加治将樹、圭子を小島藤子、きららを水野絵梨奈、メイの父を西岡徳馬、メイ の母をいとうまい子、アンナの母を七瀬なつみ、郷田の父を菅田俊、きららの母をつみきみほ、山崎を手塚とおるが演じている。

「本当ならあたしたちは、その場所で卒業を迎えるはずだった」というメイのモノローグから映画は始まるが、回想シーンに入ると、 ビートがテーラー溝呂木を出るシーンになる。
これは繋がりとしておかしい。
メイのモノローグから過去のシーンへ移るんだから、それは彼女の回想であるべきで、つまり最初に登場するのはメイでないと繋がりが おかしい。
そうなると、「ビートが祖父の家を出て云々」とい流れを描くことは難しくなるが、彼が転校して来るまでの経緯や家庭環境については、 後から説明することも出来る。
どうしても最初にビートが上京するところから描きたいのなら、「メイが回想する」という導入をやめればいい。そこから始めたことの 効果って、特に感じられないし。

その後のキャラ紹介シーンも、スムーズとは言い難い。
メイのナレーションで次々にクラスメイトを紹介していくが、アンナの前に郷田が登場しているのに、彼の紹介は無い。
ワンダを紹介したところで、彼をイジメている郷田が再び登場するが、そこでも彼の紹介は無い。
また、アンナに関しては、仕事中のシーンで紹介した後、母の車で学校へ向かうシーンがあるが、だったら、そこで彼女を紹介すればいい 。
一通りのキャラ紹介を終えたら、次はビートのターンに移った方がいい。

っていうか、「ビートが上京して、父と会って、転校してきて」というところまでは、一気に描いた方がいいんだよな。
ビートとメイの様子を並行して描くという構成自体に、難があるのよ。
ビートが転校してくる前にメイとクラスメイトを紹介するなら、まだビートは登場させない方がいいんじゃないの。
メイたちのクラスに謎の転校生であるビートがやって来て、「彼は何者?」というところから彼の周辺を描写する流れにした方がいい。

ビートは「きららの傍にいてやりたい」という理由で上京し、ずっと嫌っていた父と同居するようになる。
ってことは、ビートにとって、きららは非常に大きなウェイトを占めている相手だと考えていいだろう。
ところが、どうやら恋愛感情は無い様子だ。
惚れているわけでもないのに、「彼女のために上京し、嫌っていた父と暮らす」ということまでやっているのは、かなり不可解じゃ ないかね。

隼人が会社の一室でデザインに関して文句を付けていたり、ビートが「父はアパレルの社長」と語ったりするシーンが序盤にあるので、 隼人の仕事については理解できる。
ただ、どれぐらいの規模の会社なのか、現在の業績はどうなのか、どういう層が主なターゲットなのか、どういうタイプの服を売って いるのかなど、もう少し詳しい情報も発信すべきでしょ。
彼の会社名やブランドの名前さえ、ミキティがラジオで話すまでは出て来ない。

いじめっ子だったミキティや郷田が、そのキャラを捨てるのが早すぎるでしょ。
ビートがデザインを描いてファッションショーの準備が始まると、すっかり悪党キャラが消えている。
ミキティなんて、悪党キャラが消えるどころか、ワンダに惚れて、すっかり「可愛い女」に変貌してしまう始末。メチャクチャだよ。
大体さ、あの流れだと、ミキはビートに惚れなきゃ変じゃないか。雑誌の連載でも「かなりカッコイイ」と書いているぐらいなんだし。

っていうかね、「急に悪党キャラじゃなくなる」とか「急にワンダに惚れちゃう」ってのも、やり方次第では、受け入れられるモノに なっていたと思うのよ。
そのやり方ってのは、「コメディー漫画みたいな演出をする」ということ。
例えば、キャラのリアクションを誇張したり、映像に漫画みたいな飾り付けを施したり、効果音を入れたりするってこと。
それはハッキリ言って、「陳腐になる」とスレスレのラインではあるんだけど、そういう方法なら、「まあ、いいか」と許せるものに なっていた可能性はある。

予算的にエキストラが雇えなかったのかもしれないが、スタイル・ジャパンにしろ、学校にしろ、商店街にしろ、「周囲の人々」が全く 見当たらないってのは気になるぞ。
スタイル・ジャパンの受付には誰もいないし、オフィスの中で働いているのも数名しか見当たらない。
高校にしても、ビートたちのクラスしか存在しないのかのようだ。
商店街も、終盤になってショーの準備が始まるまでは、メイとアンナと郷田の親しか存在していないかのような状態だ。

ビートのクラスメイトは、全員がミシンで服を縫っているし、学校には何台ものミシンがあるんだけど、ってことは、そこは被服科がある 学校で、そいつらは被服科の生徒という設定なのか。
その辺りも、サッパリ分からないんだよね。色んな情報が不足しすぎている。
あと、そこが廃校になるってのは、すげえ無理がある設定に思えるぞ。
東京の月島商店街の面々が通うような場所にある学校なんでしょ。しかも人気上昇中のモデルや、大手アパレル会社の息子が通うような 学校だぜ。
私立なら「理事長が多角経営に手を出して失敗した」とか、そういう理由も考えられるけど、都立の学校だよ。
そこが財政的に苦しいって、ちょっと現実的には思えないなあ。

ワールド・モードがビートのデザインをパクる展開は、かなりバカバカしい。
大手のアパレルなんでしょ。たかが素人高校生のデザインをパクるって、なんだよ、それ。
しかも、ビートのデザインは、モードが発表する前にミキティの雑誌やブログで掲載されている。つまり、どっちが盗作なのは、すぐに 分かることでしょ。
しかも、そんなことをしたら、ミキティもイメージダウンになるわけで、彼女を起用するワールド・モードにとってもマイナス でしょうに。
それを考えると、そんな盗作を大手アパレルがやるってのは不可解だ。

クラスメイトが「ビートがワールド・モードのデザインを盗作した」と決め付ける展開も、ちょっと苦しいものがあるぞ。
あと、ビートが「やはりファッションショーをやる」と決めた時、彼を疑っていた連中まで、なぜ簡単に賛同しちゃうのか。
そこは例えば、「ミキティが郷田たちに、ワールド・モードが盗作したことを明かしてビートの潔白を証明する」という手順があるべき じゃないのか。

メイのモノローグから入ったのなら、彼女の視点でビートたちを描いて行くべきだろうに、彼女がいなくても物語が成立してしまうような 形になっている。
彼女は「視点」という役割も果たさないし、「ビートに片思いする同級生」というポジションとしても弱い。
後半、彼女がビートに告白するシーンはあるし、そりゃ展開として彼女がビートを好きになるのは分かるんだけど、「メイがビートに思い を寄せる」というのを示すための描写って、ほとんど無いからね。

メイが「ずっとビート君が好きです」と告白した時、ビートは「ありがとう。だけど俺、今はデザインのことしか考えられない」と告げる 。
「きららのことが好きだから」とか、「きららの傍にいてやりたい」とか、そういう返答じゃないのね。
そうなると、「どうせビート君にはきららがいるから、自分の恋心は彼に届かない」と思っていたメイの気持ちって、どうなるのよ。
そもそも、ビートのきららに対する気持ちが、良く分からないんだよな。

ビートが「やはりファッションショーをやろう」と決めると、なぜか会場は水面が押さえたホールということになっている。
彼女がビートに持ち掛けた「ここでショーをやらない?」というのは、学校のショーのことだったのかよ。なんで学校の行事なのに、学校 から遠く離れたホールでやるのよ。
しかも都心の街中でチラシまで配っているし。
もはや学校行事じゃなくなってるじゃねえか。
ホールを押さえる金や舞台装置をセッティングする金なんかは、全て水面が出したってことなのか。

ワールド・モードが全ての会場を押さえてランウェイ・ビートを妨害するってのは、すげえアホな展開だ。
大手のアパレル会社が、たかが高校生の素人デザイナーのショーを、そこまでして妨害するかね。どんだけビビってるんだよ。
そんなに恐れるぐらい、ビートのデザインが日本中で話題になっているとか、安良岡が嫉妬するぐらい大物デザイナーに高く評価されて いるとか、そういう描写でもあったのなら、まだ納得できたかもしれないよ。
でも、せいぜいブログのコメントが殺到したという程度でしょうに。

全ての会場を押さえられた後、ビートがクラスメイトに「みんな大事なこと忘れてない?俺たちのランウェイは学校でしょ」と言うので、 「最初からそうすべきだろ」とツッコミを入れたくなった。
しかも、それは置いておくとして、直後に隼人が現れて商店街をランウェイにする展開になるのには唖然とさせられた。
だったらさ、ビートが「学校を舞台にしよう」と言い出す手順は削除した方がいいでしょ。
彼も他のクラスメイトと同様に落胆し、どうしようか悩んでいるところへ隼人が来て「商店街を舞台にしてはどうか」と提案する展開に すればいいでしょうに。

きららの緊急手術を受ける時に、ビートは自分のショーに行ってしまう。
父親が母親の傍にいなくてショーを優先したことについては、わだかまりが解けて隼人と和解しているけど、だからって自分も隼人と同様 にショーを優先するってのは違うんじゃないのか。
しかも、そこに「手術を見守るべきか、ショーに行くべきか」という迷いが全く無いんだよな。隼人に対して「俺の思いだけじゃなくて、 みんなのデザインも、このまま終わらせたくない」と強く言い、笑顔で「自分の夢、叶える場所、やっと見つけた気がする」と口に する。
いやいや、今は自分の夢よりも、きららの傍にいてやれよ。なんで平然と自分の夢を優先できちゃうのよ。
彼女のために上京するぐらい、ビートにとって大切な人なんでしょ、きららって。
そこは例えば、きららが「私のことはいいから、みんなの所へ行って。ビート君がショーで頑張ってくれたら、私も頑張る」とか言ったの ならともかく、そういうわけでもないし(そもそも、きららは既に昏睡状態にあるから喋れないしね)。

ビートが幼少時代、きららのためにウェディングドレスを作る約束をしていたという回想シーンが途中で挿入されている。
それなのに、彼はランウェイ・ビートの際、メイに「これ(マリエ)を着て、俺と一緒にランウェイを歩いてほしい」と告げる。
それって、きららに対する裏切り行為でしょ。
っていうか、学校行事のファッションショーなのに、ラストの服がマリエっていう時点で変でしょ。

「信じていれば絶対に自分は変われる」というのがビートの考えであり、それが本作品のメッセージになっているようだ。
だったら、高校を卒業して1年が過ぎたメイが「まだ何も決められていないけど」ってのは、ダメでしょ。
「それまでは何の夢も無く、冴えない日々を過ごしていたメイが、ビートと出会うことで精神的に大きく変化し、人間的に成長し、自分の 生きていく道を見つけ出す」という筋書きになっているべきでしょ。
そうじゃないと、そのメッセージが体現できていないってことになるでしょ。

(観賞日:2012年4月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会