『ルームメイト』:2013、日本

ビル内で倒れている3人の男女が発見され、大量出血した2名が救急車で搬送された。大和署の松井刑事と部下の笹部はビルに入り、血の付着したナイフと死体を確認した。女が逃げ出すのを目撃した松井たちは急いで追い掛けるが、見つけることは出来なかった。ビルの外に出た松井は、落ちている手帳を発見した。翌朝、松井は笹部から、保護された2人の身許について報告を受けた。27歳の工藤謙介と、彼の会社でアルバイトをしていた23歳の萩尾春海だ。春海には年齢不詳の西村麗子というルームメイトがいて、トラブルがあったらしいと笹部は説明した。松井は彼に、早く麗子を見つけ出すよう指示した。
3ヶ月前、病院で目を覚ました春海は意識を取り戻し、交通事故で入院したことを看護師のリカから説明される。しかし春海は、事故のことを覚えていなかった。リカと話している時、春海は病室の入り口にいる看護師の麗子に気付いた。しかし少し目を離している間に、麗子は姿を消していた。翌日、事故の加害者である工藤謙介が見舞いの品を持ち、病院にやって来た。彼は高校からの友人で保険会社に勤める長谷川を伴っていた。
病室に入った工藤は春海を見た途端、奇妙な感覚に捉われた。長谷川は春海に、賠償を担当することを告げた。2人が去った後、麗子が春海に話し掛けた。彼女は春海に、事故現場を通り掛かって拾ったという日記帳を渡した。長谷川は工藤に、余計な行動を取らずプロに任せるよう告げた。病院を出たところで山崎という男を見掛けた長谷川は、声を掛けて挨拶した。彼は謙介に、山崎が児童養護施設の理事であること、次の市長選に立候補することを教えた。長谷川は工藤を山崎に紹介し、会社を立ち上げたばかりだと説明した。
春海は金を借りようと母親に電話するが、帰って来るよう促される。その言い方に腹を立てた春海は、「帰らないから」と電話を切った。その様子を、通り掛かった麗子が見ていた。後日、精密検査に問題は無く、退院の決まった春海に麗子が話し掛けた。麗子は病院を辞めることを告げ、ルームシェアを彼女に持ち掛けた。春海は喜んで受け入れ、古いマンションに麗子を案内した。麗子は春海に、賠償問題の代理人をやると申し出た。さらに彼女は手帳を渡し、連絡日誌に使おうと提案した。
2ヶ月前、麗子と散歩していた春海は幼い姉妹と飼い犬を見掛け、ペットを飼いたいと言い出す。すると急に麗子は不機嫌な様子を見せ、「ペットなんて面倒だし、責任取れるの?」と口にした。麗子は気分転換として、春海を高級レストランに連れて行く。トイレで看護師のリカと出会った麗子は、席に戻ると春海を急かして店を出た。その夜、春海は麗子が誰かと口論している声で目を覚ました。しかし春海が部屋を覗き込むと、麗子しかいなかった。春海が心配して声を掛けると、彼女は冷たい表情で「春海はいいよねえ、嫌いな人とは離れて暮らせばいいんだから」と口にした。
春海がリハビリで病院へ出向いた日、工藤が来て声を掛けた。工藤と話した春海は、彼に好感を抱いた。その帰り、彼女は姉妹が迷子になった飼い犬を捜すための張り紙を掲示版に張っているのを目撃した。春海が張り紙を貰った帰宅すると、台所には血まみれになった犬の首輪が置いてあった。春海がガスコンロの鍋を開けると、犬の頭部が煮込まれていた。そこに麗子が来ると、彼女は怯えた様子で「誰か入って来たんだよ」と口にした。
春海は麗子の態度に不審を抱きつつも、警察に電話を掛けようとした。すると麗子は嫌がり、「春海が私を疑ってる状況で警察と会いたくない。ずっと一緒にいたいって言ってたのに」と述べた。春海は長谷川からの電話で、「代理人の西村さんと連絡が取れなくてですね」と告げられた。彼女は玄関の錠前を取り換え、新しい鍵を麗子に渡した。すると麗子は冷たい表情で、「あの女の子たちも、目を離しちゃいけなかったんだよ」と姉妹を責めた。
1ヶ月前、リハビリで病院を訪れた春海は、工藤と遭遇した。工藤は病院で開かれるチャリティコンサート&シンポジウムに来たことを話し、「良かったら、ご一緒にどうですか」と誘う。彼は春海に、長谷川から山崎の応援を頼まれたことを語る。コンサートでステージに上がった学生の中に、一人だけ浮かない顔で全く歌わない絵里という少女がいた。そろそろ新しい派遣に登録しようと考えていることを春海が話すと、工藤は自分の会社で働かないかと持ち掛けた。「会社って言っても一人でやってて、手伝ってくれる人がいると助かるんです」と工藤が言うと、春海は「他に当てが無かったら」と告げた。
そこへ長谷川が来て、相変わらず麗子と連絡が取れないのだと困った様子で春海に告げた。工藤の元を離れた春海は、山崎が「奥の部屋で休もうか」とエリを連れて行く様子を目撃した。帰宅した春海は、そろそろ働こうと考えていることを麗子に話す。すると麗子は工藤と会っていたことを知っており、「隠し事なんて寂しいなあ。病院でリカとも話してたでしょ」と怖い口調で述べた。春海が怯えていると、彼女は「春海が困ってる時に助けてくれる人、いた?春海には麗子しかいないでしょ」と告げた。
その日の深夜、リカは病院からの帰り道で女に硫酸を浴びせられ、階段から転落死した。翌朝、リカが殺されたテレビのニュースを見た麗子は、春海の前で不気味な笑みを浮かべて「酷い死に方。自分のこと可愛いと思ってたのに」と呟く。しかし少し席を外して戻って来ると、初めて見たような様子でニュースに驚いた。さらに彼女は、「マリ、こんなこと」と漏らした。春海が話し掛けても麗子は反応せず、慌てた様子で外出した。春海が麗子の部屋に入ると、犯人の特徴としてニュースで報じられた服があった。
3週間前、春海は工藤の会社を訪れ、働き始めることにした。麗子はリカが殺された翌朝に出て行ったきり、帰って来ないままだった。だが、春海は夜の街で麗子を目撃し、後を追った。すると麗子は歓楽街に入り、春海に声を掛けて「アリアドネ」というクラブへ連れて行く。「どうして帰って来ないの?」と春海が訊くと、彼女は「ホントは分かってるくせに。前にもあったでしょ。麗子とゴッチャになってるみたいだけど」と言う。春海が困惑していると、彼女は「麗子のルームメイトのマリ。よろしくね」と告げる。
マリは「麗子なんて忘れて、私と仲良くしよう」と述べ、いきなりキスをした。春海が拒絶すると、マリは平手打ちを浴びせて「そんなに麗子が大事?だったら、ちゃんと目を離さないようにして」と語った。春海は店を飛び出し、マンションに戻った。シャワーを浴びた春海は誰かの気配を感じ、慌てて浴室のドアを塞ぐ。浴室を出た彼女は麗子が戻って来たかも知れないと感じ、彼女の部屋に入った。すると、部屋の壁には「私はマリ」という殴り書きがあり、机には硫酸の瓶が置かれていた…。

監督は古澤健、原案は今邑彩「ルームメイト」(中公文庫)、脚本は古澤健、脚本協力は三宅隆太&泉澤陽子、製作は後藤亘&木下直哉&水口昌彦&間宮登良松&矢内廣&松田陽三&宮本直人&小林敬和&鈴木竜馬&木村良輔&有川俊、エグゼクティブプロデューサーは白倉伸一郎、企画・プロデュースは神戸明&小川真司、プロデューサーは川田亮、ラインプロデューサーは藤原恵美子、撮影は浜田毅、美術は清水剛、録音は高野泰雄、照明は加瀬弘行、編集は張本征治、音楽は安川午朗、音楽プロデューサーは津島玄一。
主題歌「Missing」:androp lyrics:Takahiro Uchisawa、music:Takahiro Uchisawa。
出演は北川景子、深田恭子、高良健吾、田口トモロヲ、螢雪次朗、尾上寛之、大塚千弘、萩原みのり、田中仁、戸田昌宏、筒井真理子、濱田万葉、宮本大誠、吉田里琴、川瀬陽太、見雪太亮、長野裕明、うらん、酒井奈夢、村田舞子、吉田祐希、青柳亨、池本洋子、山下百合恵、佐藤美咲、竹倉愛、春園幸宏、谷岡推、伊藤向日葵、本城愛、真辺照太、石川ゆうや、小館亜希乃、伊藤楓、高加美和、直井忠道、宇田誠之、松田靖之、山田真由美、宇津明範、簾田徳彦、市村奈央、稲川祥子、島田佳奈ら。


『アベックパンチ』『アナザー Another』の古澤健が監督&脚本を務めた作品。
春海を北川景子、麗子を深田恭子、工藤を高良健吾、山崎を田口トモロヲ、松井を螢雪次朗、長谷川を尾上寛之、リカを大塚千弘、絵里を萩原みのり、笹部を田中仁、精神科医の本城を戸田昌宏、春海の母を筒井真理子、指定入院医療機関の看護師を濱田万葉、春海の母の恋人を宮本大誠、幼少期の春海を吉田里琴が演じている。
萩原みのりは、これが映画デビュー作。

この映画は前半の内に、麗子が二重人格者であることが容易に分かる仕掛けになっている。
「実は二重人格で」というのは、ミステリーやサスペンスでは終盤のドンデン返しとして使われることもある仕掛けだ。だから、それを早い段階と明かしてしまうってのは、普通に考えると「ホントに大丈夫なのか、それで正解なのか」という構成ってことになる。
しかし本作品の場合、むしろ早々と明かすことが、ネタ振りのようなモノになっている。
前半の内に明かしてしまえば、当然のことながら観客は「麗子は二重人格者」と捉えて観賞することになる。で、それ自体をミスリードに利用しているのだ。

説明に必要だから完全ネタバレを書くと、麗子は「マリという別人格を持つ二重人格者」ではなくて、さらに別の人格も持つ多重人格者だ。そして、春海も多重人格の1つなのだ。しかし春海は交通事故により、そのことを完全に忘れてしまったのだ。
「二重人格をドンデン返しに使わず、それをミスリードに利用して、さらなるドンデン返しに繋げている」という風に解説すると、「巧妙な構成を持つ優れたミステリー」なのだろうと思うかもしれない。
ただ、確かに構成としてはキッチリとやっているんだけど、実際に観賞すると、冴えない出来栄えという印象になってしまうんだよね。
その原因は幾つかあるけど、最も大きいのは、「計算ミスをやらかしている」ってことになるんじゃないかと思う。

何がどう計算ミスなのかっていうと、「ヒントを与えすぎている」ってことだ。
「二重人格を匂わせる」という部分で分かりやすくヒントを示し、ドンデン返しがバレバレになっているのは構わない。そのヒントは、ある意味では撒き餌に過ぎないからだ。
しかし本作品の場合、「本当に観客を驚かせたいドンデン返し」の部分に繋がるヒントも、早い段階からバレバレになっているのだ。
そのため、せっかく餌を撒いて「二重人格」の部分に観客の意識を引き付けようとしても、その後に待ち受けている仕掛けが透けて見えるのだ。

具体的に例を挙げると、もう導入部の段階からネタが割れるような描写が散見される。
序盤、「春海は病室の入り口にいる麗子に気付くが、少し目を離している間に姿を消している」という描写がある。
親切っちゃあ親切だが、あまりにも分かりやすいヒントを早い内から出し過ぎでしょ。
「そこにいたのに、ちょっと目を離した隙にパッと消える」という描写って、ホラー映画なんかで実在しない存在(例えば幽霊とか幻覚)を表現する時に良く用いられる演出なんだよね。

麗子が春海に日記帳を渡し、「事故現場、帰り道だから通り掛かったんだよね」と言っているのも、かなり分かりやすいヒントだ。
「帰り道だから事故現場を通り掛かり、春海の日記帳を見つけた」って、普通に考えりゃ「んなアホな」という話でしょ。
そういうのが「あまりにも無理のある御都合主義」として使われることもあるだろう。
だけど、もしも下手な御都合主義じゃないとすれば、前述したホラー的仕掛けと組み合わせて考えると、何となく「こういうことなんじゃないかな」という推測に至る。

そういう導入部で分かりやすいヒントに気付き、ある1つの推測を持ったまま観賞することになってしまうと、「まさかのドンデン返し」として用意されている展開に至っても「まあ、そうだろうね」という感想しか沸かなくなる。
ただし、「だけど2つ目のドンデン返しに気付かなければ、優れたサスペンスとして観賞できるんでしょ」と思うかもしれないが、そこも難しい。
実は本作品において一番の問題は、「早い段階から分かりやすいヒントを出し過ぎている」ってことではないんじゃないかという気がする。
それよりは「ヒントに気付かず、何の推測も沸かないまま観賞したとしてもB級ホラーみたいな印象になってしまう」という問題の方が深刻なんじゃないかと。

実を言うと、タイトルが『ルームメイト』で、しかも「ヒロインがルームシェアで女性と一緒に暮らし始める。2人は仲良く過ごしていたが、やがてヒロインは同居相手の狂気を知るようになる」というサスペンスなので、最初は1992年にアメリカで公開されたバーベット・シュローダー監督の同名映画(原題は『Single White Female』)をリメイクしたのかと思ったら全くの別物で、今邑彩の小説をモチーフにした作品だった。
ただし原作小説が存在する場合、通常なら「原作」と表記されるはずが、この映画だと「原案」になっている。その理由は、「原作」と表記することを回避せざるを得ないぐらい、古澤健が大幅に内容を変更しているからだ。
まあ世の中には小説や漫画を基にしながらも大幅に逸脱した内容になってにも関わらず、「原作」と表記しているケースなんて山ほどあるので、それと比べれば誠実という見方も出来る。
ただし、「そんなに大幅に改変するぐらいなら、その原作を使う意味は何なのか」という感覚もあるけどね。

私は未読だが、ちょっと調べてみると、原作は叙述トリックを使ったミステリー小説のようだ。
だから「原作の叙述トリックをそのまま映像化することは難しいので、映像化しやすいような内容に改変した」ということなのかと思ったりもしたんだが、どうやら違うのね。
実際に映画を見ると、やっぱり叙述トリックじゃないと成立しないようなネタが使われていた。
それを映像化しているもんだから、本格ミステリーとして捉えた場合は「完全に反則」という仕掛けになっている。

「本格派ミステリー」と謳って公開されたわけではなくて、むしろサスペンス寄りの宣伝になっていたこともあるし、本格ミステリーとしては卑怯な手口を使っていても、「だから駄目だ」ということにはならない。
ただ、そんなことより「安っぽいホラー映画みたいな内容になっちゃってるなあ」ということの方が気になる。
あと、いきなりネタバレになるけど、仕掛けとしては完全に『ファイト・クラブ』と一緒なのよね。
まあ、そこも「ネタが被ってる」というだけで否定はしないけど、春海が行動している時、まるで麗子にも意識があって完全に別人物として行動しているかのような描写をしているのは、「さすがにルール違反が過ぎるだろ」とは感じるぞ。

具体的に例を挙げると、春海が病院で母親に電話を掛けている時、そこに通り掛かった麗子が見ているという描写がある。
この時、麗子の姿は春海視点でのみ写し出されるわけではなく、むしろ麗子は彼女が後ろで見ていることに気付いていないという形になっている。そして、春海の様子を後ろからじっと見つめている麗子の姿がアップで写し出される。
それは「麗子がちゃんと存在する」ということじゃないと成立しないはずの映像表現なんだよね。
でも実際には、麗子は春海の別人格なわけで。
つまり、そこに麗子は実在せず、あくまでも「春海の中にいる別の人格」なんだから、「春海は気付いてないけど、後ろから彼女を見ている」という表現はおかしいんじゃないかと。

あと、春海が入っている病室って、何の仕切りも無いスペースに、4×4で無造作にベッドが並べられているという奇妙な空間なんだよな。
とてもじゃないけど、マトモな病院とは思えない。「戦場の病院なのか」と言いたくなってしまう。まだ朝で外は明るいのに室内は妙に薄暗いし、かなり異様な印象を感じさせる。
これが「病院で不気味な出来事が次々に起きる」ということなら別に構わないのよ。だけど、あくまでも「春海が入院した場所」に過ぎず、そこは「ごく普通の場所」でないとダメなはず。
それなのに、そこで無意味にリアリティーを欠いた「異様な病院」を表現するってのは、どう考えても間違いでしょ。

麗子がルームシェアを持ち掛けたのに、それを同意した春海が自分の部屋に彼女を案内する展開になっているので、そこは違和感が強い。
普通に考えれば、提案した方が自分のアパートやマンションに相手を招待するでしょ。
ひょっとすると、そこもヒントのつもりなのかもしれない。
だけど、そこは普通に「春海が麗子の部屋に転がり込む」という形か、もしくは「春海が麗子にルームシェアを提案する」という形にしておいた方がいいんじゃないかと思うけどね。

終盤、「春海が麗子と同一人物だった」ということが明らかになり、彼女がアリアドネで自分の腹を刺して、それが冒頭で描かれる事件になっている。
つまり、そのシーンが描かれた時点で、物語としては「後はエピローグで終了」という段階に入っているわけだ。だから本当なら、そこでエピローグだけを描いて終わらせるのがスッキリした形だ。
ただし、そうなるとエリという少女の存在を際立たせたまま放置することになってしまう。
そこを放置せずに片付けるってのは、そういう意味では正しい。でも、そもそも「エリなんて登場させず、真相を明らかにしたところで締め括ればいいのに」という風には思うよ。
ぶっちゃけ、エリのエピソードって蛇足でしかないよ。そこをカットすれば110分じゃなくて90分ぐらいで済むし、上映時間としてもスッキリする。

(観賞日:2015年5月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会