『ROOKIES -卒業-』:2009、日本

2009年3月、二子玉川学園、通称“ニコガク”は卒業式を迎えた。野球部の2年生・安仁屋恵壹や御子柴徹、新庄慶や関川秀太たちは、 キッチリと髪型を整えてスーツを着ている顧問の川藤幸一を見つけて「来年度からの採用だろ。どうせ卒業式には出られねえんだから」と 笑った。しかし川藤は大真面目に「どんな生徒も、卒業式では今までのことを思い出し、教師に感謝する。だから教師は出来る限りの礼を 尽くして応える」と語った。
川藤が卒業式の様子を覗くと、3年生は携帯電話をいじったり口々に喋ったりして、藤村輝弘校長の挨拶を全く聞かずに騒いでいた。我慢 できなくなった川藤は壇上に上がり、教壇に強く額を叩き付けて出血した。彼は血を流しながら礼儀作法の大切さを説き、「夢にときめけ 、明日にきらめけ」と叫んだ。一方、安仁屋たちは、数名の卒業生が不愉快な教師・島野右京を捕まえて暴行している現場を目撃した。 安仁屋たちにとっても島野は嫌な教師だったが、彼らは助けに入って卒業生を叩きのめした。
春になり、安仁屋たちは新入部員を心待ちにする。問題ばかり起こしていたニコガク野球部だが、2人の新入生が入部届を出した。一人は 平塚平をヒーローと崇める濱中太陽だ。平塚平が中学3年生の頃、オヤジ狩りの返り討ちに遭った濱中を助けたことがあったのだ。それは 偶然に過ぎなかったが、平塚が調子に乗って「俺は野球部を救った救世主で、エースで4番だ。150キロの球を投げる」と自慢したため、 濱中は信じ込んだのだ。濱中に追い掛けられ、嘘がバレるのを恐れる平塚は逃げ回った。
野球部の練習に現れた濱中は、御子柴たちから平塚が控え選手だと教えられても、全く信じようとしなかった。平塚は濱中に、桧山清起が 控えだと吹き込んでいた。そこへ平塚が背番号1のユニフォームを来て現れたので、桧山は自分に投球するよう告げてバッターボックスに 入った。覚悟を決めてマウンドに立った平塚だが、150キロの速球どころか、2球連続で大暴投をやらかした。
平塚の嘘を知った濱中は激怒し、「この大ボラ吹き野郎」と罵った。それを聞いた桧山は、平塚に「来い」と怒鳴った。平塚はド真ん中に 速球を投げ込み、桧山は空振りを喫した。平塚は得意げに「見たか、これが俺様の真の実力だ」と得意げに言うが、濱中は険しい表情の ままグラウンドを去った。彼と入れ違いに、もう一人の新入部員・赤星奨志が現れた。しかし彼は「練習なんかしませんよ。ヘタクソな奴 がすることでしょ」と鼻で笑った。彼は下校する近道として、グラウンドを通過しただけだった。
夜、コンビニで雑誌を立ち読みしていた御子柴たちは、夏の大会の目玉選手として、笹崎高校のエース・川上貞治が取り上げられている 記事を見つけた。春のセンバツでは、笹崎高校はベスト4まで進んでいる。安仁屋は中学時代、彼に3打席連続で三振を食らったことを 思い出した。3打席目は振り逃げで、安仁屋は1塁へ走ったが、川上を見ると見下したような笑みを浮かべていた。
翌日も赤星は、近道としてグラウンドを通った。御子柴が「お前も甲子園を目指してんだろ」と声を掛けると、赤星はバカにした態度で で「俺はメジャーリーグ行くんすよ。甲子園なんて、ただの高校の思い出作りでしょ」と告げた。赤星が落としていった学生手帳を拾った 御子柴は、そこに「多摩体グランド 6:30〜」と書かれているのを見つけた。6時半に多摩体育大学のグラウンドを覗きに行くと、赤星 は大学生に混じって練習していた。
翌日、御子柴は赤星に声を掛けるが、そっけない対応だった。赤星が不良に絡まれるのを見て、御子柴は助けに入った。その時、積んで あった何本もの鉄パイプが落下し、御子柴は骨折した。医者の診断では、完治までに1ヶ月は掛かるという。病院へ見舞いに来た川藤と チームメイトの前で、彼は気丈で前向きな様子を見せた。しかし、みんなが去った後、御子柴はベッドで涙を流した。
相変わらず練習に参加しない赤星に、安仁屋は「本気なら、とっととアメリカへ行ったらどうなんだ。テメエには道を切り開く自信と勇気 がねえだけだ」と言い放った。川藤は屋上で濱中に会い、「平塚はエースだ。平塚だけじゃない、全員が一人も欠けちゃいけない自慢の エースだ」と熱く語った。その言葉を、建物の影にいた赤星は耳にした。病院を訪れた赤星は、御子柴が担当医に「甲子園が終わったら 歩けなくなってもいいですから」と早期退院を懇願している声を聞いた。
濱中は川藤の言葉に打たれ、野球部に加わった。赤星はグラウンドに現れ、「あの人が戻ってくるまで、ここは俺が守ります」とセカンド に立った。2人の新入部員が加わり、やがて退院した御子柴も松葉杖姿で戻ってきた。ニコガク野球部は予選大会に挑み、順調に勝ち進む 。決勝に駒を進めた彼らの相手は、笹崎高校に決まった。川上は注目の選手として、大勢のマスコミの取材を受けていた。
いよいよ決勝戦、1回の表、安仁屋はチャンスで打席が回って来たが、振り逃げなのに一塁へ走らず、アウトになった。ベンチに戻った彼 は自分の甘さに腹を立て、川藤に頼んで殴ってもらった。笹崎高校は冷静に安仁屋の投球を分析し、1回の裏にツーランで先制する。その 後も笹崎高校は、着実に追加点を上げた。6回が終わった時点で、ニコガク野球部は0対5と大差を付けられてしまう…。

監督は平川雄一朗、原作は森田まさのり、脚本はいずみ吉紘、製作統括は加藤嘉一、企画プロデュースは石丸彰彦、プロデューサーは 佐藤善宏&東信弘&津留正明&秋山真人、エグゼクティブプロデューサーは濱名一哉、共同製作は鳥嶋和彦&島谷能成&細野義朗&鈴木 聡&當麻佳成&畠中達郎&掘義貴&渡辺ミキ&川合敏久&松田英紀&溝口博史&喜多埜裕明、撮影は斑目重友、編集は大野昌寛、録音は 金澤康雄、照明は川里一幸、美術は永田周太郎、美術制作は小林民雄、音楽は羽毛田丈史&高見優、音楽プロデューサーは志田博英、 主題歌は『遥か』GReeeeN。
出演は佐藤隆太、市原隼人、小出恵介、城田優、中尾明慶、高岡蒼甫(現・高岡蒼佑)、桐谷健太、佐藤健、五十嵐隼士、川村陽介、 尾上寛之、村川絵梨、伊武雅刀、大杉漣、吹石一恵、浅野和之、平泉成、平田満、渡部篤郎、綾瀬はるか、山本裕典、石田卓也、 天野ひろゆき、能世あんな、平山広行、森山米次、鳥羽潤、勝野洋、武田航平、永井浩介、兼子和大、明石純、武田雄輔、和泉貴臣、 檜尾健太、関野隼外、阿部新、原大和、松村龍、三浦大輔(横浜ベイスターズ)、鈴之助、美好研吾、伊崎央登、山田親太朗、ユージ、 遠藤公太朗、松川領佑、中村泰三、折山みゆ、滝沢カレン、谷隆次、今國雅之、谷桃子、升田尚宏(TBSアナウンサー)ら。


週刊少年ジャンプに連載された森田まさのりの漫画『ROOKIES』を基にしたTBS系の連続ドラマの劇場版。
ドラマの続きという形で公開された。話の内容もドラマの続きとなっている。
川藤役の佐藤隆太、安仁屋役の市原隼人、御子柴役の小出恵介、新庄役の城田優、関川役の中尾明慶など、ドラマ版のレギュラーが 引き続き出演している。
他に、赤星を山本裕典、濱中を石田卓也が演じており、御子柴を診察する医師役で平田満、オヤジ狩りで濱中を返り討ちにする男を横浜 ベイスターズの三浦大輔が出演している。

のっけから、川藤が額を教壇に叩き付けて血を流し、「夢にときめけ、明日にきらめけ」と呼び掛けるというテンションの高さを 見せる。
濱中が絡むエピソードに入っても、嘘を知った彼が「大ボラ吹き野郎」と怒鳴り、それを聞いた檜山が平塚に「来い」と怒鳴るという テンションの高さを見せる。
全てのエピソードが熱血モードで描かれており、あっという間にハイテンションになる。
1つのエピソードが始まると、すぐに着火する。

少しずつテンションを高めていくとか、「前半はテンションを抑えて、中盤ぐらいで1つ盛り上がりを用意し、後半に大きな山場を作る」 といった計算は全く無い。
最初から最後まで、熱く燃え続けようとする。
最初はこっちも燃えられるかもしれないが、次第に感覚が麻痺してしまい、それが普通になってしまう可能性がある。
もっとマズいケースとして、熱血ハイテンションの連続に付いて行けず、途中で疲れてしまうということも考えられる。
ちなみに私の場合は最初から冷めていたので、どちらでも無かったが。

「とにかく感動させたくて、常にウズウズしている」という感じの映画である。
5分と我慢することが出来ず、すぐに「ここで感動してくれ」とばかりに、熱い芝居とBGMで場面を盛り上げようとする。
スローモーションも多用されているが、それとBGMは、「ここで燃えてください」「ここで感動してください」という合図になって いる。
それで感動できるかどうかは、貴方次第だが。

ドラマ版で「不良だった奴らが野球部員として真剣に甲子園を目指すようになる」「最初はヘタクソだった奴らが練習を積んで上達する」 という話は既に処理されているので、映画版では「バラバラだったチームが1つにまとまる」というドラマも、「特訓を重ねて野球の実力 を向上させる」というドラマもやれない。
そこで濱中&赤星という新キャラを登場させ、そこで新たなドラマを作っていくのかと思いきや、不穏分子や不協和音を持ち込む存在と しては、あまりにも扱いが弱い。
「濱中が平塚に幻滅するが、川藤の演説を聞いて野球部に加わる」というエピソードも、「生意気だった赤星が、御子柴たちの熱い思いに 心を打たれて野球部に加わる」というエピソードも、それほど時間を掛けずに片付けられる。そこに時間を掛けると試合のシーンに長い尺 を使えなくなるということなのか、前半でパパッと簡単に終わらせている。
濱中や赤星がチームの一員として馴染むドラマを描きながら、並行して予選大会を描くことも出来るのだが、原作から逸脱した構成に なるので、避けたのだろうか。それとも、そんなことは深く考えていなかったのだろうか。
まあ後者だろうとは思うが。

予選大会は大半がカットされており、あっという間に準決勝まで勝ち進む。準決勝も、延長戦がチラッと描かれる程度で終了。 だから、濱中と赤星が試合で活躍し、チームの戦力になっていくという様子も描かれない。
正直、この2人の存在価値は皆無と言ってもいい。
原作でもそれほど上手く活用されていたキャラとは思わないが、比較にならないほど「要らない子」になっている。
要らないと言えば、川藤の存在価値も薄くなっている。濱中に熱く語るシーンはあるものの、口先だけで熱血教師っぽいことを言って いるだけの薄っぺらい男にしか見えない。
野球部のために何もしていないに等しい。

決勝の相手が笹崎高校ということで燃えるためのモチベーションは、何も用意されていない。
コンビニで雑誌を見るシーンで、振り逃げで走る安仁屋を川上がバカにしたように笑う回想がチラッと写るだけ。
その後、彼が「川上のフォークをレフトスタンドへ放り込む」と熱く燃えているシーンはあるが、それは個人的なモチベーションでしか ない。チームとして、笹崎に勝とうとするモチベーションの源は用意されていない。
それどころか、ニコガク野球部員が「甲子園に行きたい、絶対に甲子園へ行くんだ」と熱く燃えるモチベーションの源さえ、この映画を 見ているだけでは全く伝わってこない。

そもそも笹崎高校は、後半戦を丸々使って戦う強敵チームとしてのアピールが充分にされているとは言い難い。
川上だけはフィーチャーされているが、それも「安仁屋がライバル視する」という形であり、強敵としての存在感は弱い。
また、川上以外の選手は、名前さえ良く分からない程度の扱いだ。
監督にしても、勝野洋が演じていることは分かったが、キャラとしての存在感は薄い。

前述のように、笹崎高校との試合に随分と長い時間を割いているのだが、そこに観客を引き込み、熱く燃えさせるための作業が前半戦で 全く出来ていない。
その場その場でニコガクの連中が勝手に盛り上がり、熱くなることで、「お前らも熱くなれ、感動しろ」と、観客を強引に巻き込もうと する。
いわば感動と熱血の押し売りだ。
しかも、その押し売りの手口が、すげえヘタなんだよな。

若菜智哉が指を骨折したことを新庄が知るシーンは、かなりスゴいモノになっている。
新庄がタイムを心配に要求した後、まるで周囲の時間が止まっているかのように、長く時間を割いて感動劇をやらかす。
審判は早くプレーに戻るよう促すことも無い。
っていうか、その感動劇をやっている間は、審判も笹崎高校の選手も、その場に存在していないかのように画面から消えている。
で、ようやく選手交代するのだが、怪我をした若菜の代役が、まだ怪我から完全に回復していない御子柴というメチャクチャな展開だ。

あと一球で勝利というシーンでは、平塚が「行くぞ、甲子園」と叫ぶと、安仁屋がチームメイトを見回し、泣き始める。
それにつられて、チームメイトも涙を浮かべる。
だが、「タイムが掛かっているわけでもないのに、ノンビリしてるなあ」と、こっちは顔に失笑が浮かぶだけだ。
あと、その場面でも、なぜかバッターボックスから笹崎高校の選手が消えている。
ようするに、内輪で勝手に感動や熱血で盛り上がって、周囲にいる登場人物も、そして観客も、みんな置いてけぼりにする、そういう映画 なのである。

(観賞日:2010年9月30日)


第3回(2009年度)HIHOはくさい映画賞

・最低作曲賞:羽毛田丈史

第6回(2009年度)蛇いちご賞

・作品賞

 

*ポンコツ映画愛護協会