『リバーズ・エッジ』:2018、日本

ハルナは深夜の学校へ侵入し、旧校舎のロッカーに裸で閉じ込められているクラスメイトの山田一郎を発見した。次の朝、教室で友人の小山ルミ&よっちゃんと話していたハルナは、同級生の観音崎を見つけて飛び出した。よっちゃんが「ハルナは観音崎と付き合ってたのも秘密にしてたじゃん。言えばいいのに」と言うと、ルミは「私、観音崎くんって嫌い」と告げる。ハルナは観音崎に蹴りを浴びせて山田を虐めたことを非難し、「今度あんなことやったら、ぶっ殺すから」と睨み付けた。「山田となんかあんのかよ」と観音崎が不満そうに言うと、彼女は「あるわけないじゃん」と呆れ果てた。
よっちゃんはルミに、山田がホモだという噂、モデル活動をしている1年生の吉川こずえと付き合っている噂を語る。それはタカハシくんから聞いた情報であり、ルミは「タカハシくんの話って嘘ばっかじゃん」と言う。観音崎は旧校舎の科学室へ山田を連行し、暴行して裸にした。屋上で煙草を吸っていたハルナはルミたちと合流した直後、山田のノートがビリビリに破られて降って来るのを目にした。ハルナは観音崎の仲間たちを問い詰め、観音崎が授業をサボって早退したこと、山田が旧校舎の科学室にいることを聞き出した。ハルナは科学室へ行き、山田に制服を渡す。山田は彼女に、「今晩、暇?僕の秘密の宝物を教えてあげる」と述べた。
その夜、山田はハルナを連れて、学校の裏にある河原の藪へ向かう。その途中、彼は同性愛者であることを打ち明けた。B組の田島カンナと交際していることをハルナが指摘すると、山田は同性愛を隠すためのズルであること、彼女は何も知らないことを語る。観音崎はルミに電話を掛けて呼び出し、コカインを吸ってからセックスした。藪に到着した山田は、白骨化した死体をハルナに見せた。ハルナが驚いていると、彼は発見したのが去年であること、秋頃は肉が付いていたことをハルナに語った。山田は「これを見ると勇気が出るんだ」と言い、こずえも死体の存在を知っていると語る。彼はハルナに、「去年の終わり、ここに来たら先に彼女がいた。それからたまに2人で来てる。これは彼女の宝物でもあるんだ」と話した。
翌日、授業をサボって保健室にいたハルナは、こずえと目が合った。ハルナが屋上で喫煙していると、こずえが来て声を掛けた。彼女は校庭でサッカーをしている1人の男子生徒を指差し、「山田くんの好きな人。あの人が、山田くんのもう1つの宝物」と言う。よっちゃんはハルナとルミに、「河原の小屋に住んでいた老人が死亡し、溜め込んでいた大金が藪に埋まっている」という情報を興奮した様子で話す。すぐにハルナはこずえを捜しに行くが、彼女は教室にいなかった。
こずえが旧校舎の科学室に隠れてドカ食いしていると、観音崎とルミがやって来た。こずえが身を潜めていると、2人はセックスを始めた。観音崎たちが去った後、こずえはトイレの個室に駆け込んで嘔吐した。大勢の男子生徒が藪の金を掘り当てようとして盛り上がっている、それを見たタカハシくんはよっちゃんの前で「バカじゃねえか」と笑う。彼はよっちゃんに、老人の葬式に出た母親が「もしかしたら埋めたかもしれない」と言っていただけだと語る。その話を聞いたハルナは男子生徒たちに噂は嘘だと説明するが、誰も耳を貸さなかった。観音崎はハルナを校舎裏に連れ込み、体を求める。ハルナは彼を突き飛ばし、その場から走り去った。
カンナと歩いて下校していた山田は、藪を探す男子生徒たちを見て動揺する。彼は慌てて制止しようとするが、暴行を受けた。カンナが助けを呼びに行き、入れ違いでハルナが藪へやって来た。男子たちは藪から去り、ハルナは倒れている山田を発見した。その夜、ハルナ、山田、こずえは藪へ行き、穴を掘って死体を埋めた。翌日、ハルナは観音崎とセックスするが、ずっと気持ちは冷めていた。事が終わってハルナがテレビを付けると、こずえの出演CMが流れていた。観音崎が「いい金入んだろうなあ。モデルなんてスタイルいいだけだろ」と言うと、ハルナは「いいよね、悩みとか無さそうで」と軽蔑したように告げた。
山田はカンナに誘われて水族館でデートするが、まるで楽しんでいなかった。しかし彼女と別れる時には、「楽しかったよ」と嘘をついた。彼はラブホテルへ行き、中年男性と肉体関係を持った。次の日、授業をサボった山田が捨て猫を可愛がっていると、ハルナが来て一緒にミルクを与えた。山田が片想いの相手を見つめていると、ハルナは「好きな人に好きって言いたくならない?」と尋ねる。「なるよ」と山田が答えると、ハルナは性的な質問を矢継ぎ早に浴びせる。山田は落ち着いた口調で、「失礼だよ、ゲイだからってすぐセックスの質問するの」と指摘した。ハルナが謝罪すると、山田は「そんなことより、僕はあの人がいるだけでいいんだ」と述べた。山田とハルナが一緒にいる様子を見たカンナは、2人の関係を誤解して激しく嫉妬した。
観音崎はルミをセックスに誘い、「ハルナがさせてくれないんだ」と言われる。ルミの馬鹿にしたような態度に、観音崎はカッとなって平手打ちを浴びせた。ルミが睨み付けて「生理が来てないの。どうしてくれんの?」と言うと、彼は黙り込んだ。ルミは他にも大勢の男と肉体関係があり、観音崎が子供の父親かどうかは分からなかった。彼女は全ての男性との関係について、日記に書いた。彼女が目を離した隙に姉が部屋へ忍び込み、日記を盗み見た。
山田は饒舌に喋り続けるカンナに我慢できなくなり、「うるさいな。自分のことばっか喋って楽しい?」と声を荒らげて立ち去った。その夜、彼はハルナと会い、藪に言ったが落ち着かなかったことを話す。山田は「UFO呼んでみようよ。一度だけ呼んだことがあるんだ」と言い、「どうすればいい?」という質問に「念じればいいんだよ」と答えた。ルミは風邪だと嘘をつき、3日も学校を休んだ。ハルナの靴箱には、「お前なんか死んでしまえばいい」とビッシリと書かれた手紙が投じられた。
こずえは保健室でサボっていたハルナに声を掛け、「面白い物がある」と告げて校舎裏へ連れて行く。彼女が惨殺された捨て猫の死骸を見せると、ハルナは嘔吐して泣き出した。こずえはハルナに謝罪し、強く抱き締めた。夜、ルミは観音崎を藪へ呼び出し、手術代の15万円を出すよう要求した。観音崎が渋々ながら承知すると、彼女は「ハルナはアンタのことなんか全然好きじゃないよ。私だってアンタのことなんて好きじゃない」と言う。「誰もアンタのことなんか好きじゃないから」と嘲笑された観音崎は、ルミを殴り付けて絞殺した…。

監督は行定勲、原作は岡崎京子『リバーズ・エッジ』(宝島社刊)、脚本は瀬戸山美咲、製作は斉藤剛&中山道彦&原田知明&木下直哉&佐野真之&瀬井哲也&倉田奏輔&小川真司&古賀俊輔、エグゼクティブプロデューサーは金吉唯彦&遠藤日登思、プロデューサーは小川真司&吉澤貴洋&古賀俊輔&杉山剛、アソシエイトプロデューサーは小林亜理&行実良、ラインプロデューサーは新野安行、撮影は槇憲治、照明は中村裕樹、編集は今井剛、録音は伊藤裕規、美術は相馬直樹、衣裳は杉本真寿美、企画協力は藤野良太、脚本協力は池田千尋、音楽は世武裕子、音楽プロデューサーは北原京子。
主題歌『アルペジオ』小沢健二 作詞・作曲:小沢健二。
出演は二階堂ふみ、吉沢亮、森川葵、上杉柊平、SUMIRE、土居志央梨、西田尚美、田嶋真弓、安澤千草、綾田俊樹、白洲迅、富山えり子、安藤輪子、松永拓野、嶺豪一、岡村いずみ、笠原崇志、小橋川建、江口千夏、片山友希、小川紗良、市川しんぺー、斉藤マッチュ、トクナガクニハル、結城さなえ、加藤翔、岸田大地、小宮健太郎、田川聖也、田中涼、渡辺大地、渡邉拓、金子寧々、佐藤あすか、中村美優、藤丸千、奥崎愛野、鈴木健斗、竹内雅人、佐久間麻由、菊地伸幸、早坂知、熊田梨沙、阪翔、小笠原蒋悟、上杉宗睦、屋良学、兎本有紀、よしのよしこ、坪井木の実、横堀悦夫ら。


1993年から1994年まで雑誌『CUTiE』で連載されていた岡崎京子の同名漫画を基にした作品。
監督は『ピンクとグレー』『ナラタージュ』の行定勲。
脚本は『アズミ・ハルコは行方不明』の瀬戸山美咲。
ハルナを二階堂ふみ、山田を吉沢亮、カンナを森川葵、観音崎を上杉柊平、こずえをSUMIRE、ルミを土居志央梨、ハルナの母親を西田尚美、ルミの姉を富山えり子、よっちゃんを安藤輪子、タカハシくんを松永拓野が演じている。

「それを言っちゃあ、おしめえよ」ってことになるかもしれないが、2018年という時代に『リバーズ・エッジ』を映像化しようとしたこと自体が、果たしてどうだったのかなと思ってしまう。
『リバーズ・エッジ』という漫画、っていうか岡崎京子の漫画全てに共通することかもしれないが、「あの頃の空気を見事に捉えてマッチしていた」という部分が、かなり大きいんじゃないかと思うんだよね。
だけど、今の時代の若者が同じく空気を感じていることは、絶対に有り得ないわけで。

「連載当時に原作を読んでいたファン層を狙う」という戦略も、興行としては考えられるだろう。
ただし、漫画を読んでいた熱烈なファンにしても、当時とは全く異なる空気の中で暮らしているわけで。
そうなると、映画を見て受ける感覚も、おのずと違ってくるわけで。劇中に当時の雰囲気を反映させて、ノスタルジーを喚起させたとしても、難しい部分があるんじゃないかと。
なので諸々を考えると、企画の段階で厳しいモノがあるんじゃないかと。

っていうか、この映画って、たぶん1990年代前半の時代設定だよね。正確な年代が表記されることは無いけど、牧瀬里穂のコマーシャルについて話すシーンがあるし。
ただ、その当時の時代設定って、ほとんど感じないんだよね。せいぜい「誰も携帯電話を使っていないから、2018年ではないんだろうな」と感じる程度だ。
あえて年代はボンヤリさせてあるんだろうけど、いっそのこと割り切って現代にしてしまい、そこに合わせて改変するという手もあっただろう。
ただ、そこまでするなら、これを映画化する意味は無いだろうしね。

出演者の面々がまるで高校生に見えないってのは、この作品にとって大きなネックとなっている。
まあ実際に高校をとっくに卒業した面々が演じているから当然っちゃあ当然なのだが、それでは困るのだ。
それが気にならない作品もあれば、ファンタジーとして成立している作品もある。だけど、この映画に関しては、そこにリアルな高校生としての感覚や生々しさが欲しいのだ。
土居志央梨なんて、夜間高校の生徒かとおもっちゃうぐらいだ。

観音崎とルミがコカインを吸ってセックスするシーンなんかも、2人とも見た目の印象が年を取り過ぎているため、「高校生がそんなことをやっている」という本来の意味が成立しないんだよね。
まるでホストとキャバクラ嬢のシーンみたいになってんのよ。
勘違いしてほしくないんだけど、決して「高校生を演じている面々の芝居が下手」ってことじゃないからね。
そうじゃなくて、「どうしようもないぐらいミスキャスト」ってことなのよ。

たぶん岡崎京子の原作漫画って、1990年代前半、もう少し限定するならばバブル景気が崩壊した後の日本を覆っていた閉塞感であったり、暗さであったり、そういう空気を切り取っていたのだと思うんだよね。
もちろん、そこには若者が抱える孤独や焦燥といった、普遍的な要素も含まれているだろう。
ただ、そういう部分にしても、そこを鋭く描写しようとするのなら、やはり演じる役者がリアルなティーンズであることは必須条件じゃないかと思うのだ。

粗筋では全く触れなかったが、映画の冒頭にはハルナがインタビューを受けているシーンがある。それ以降、観音崎、山田、ルミという順番で、主要キャストのインタビュー映像が劇中に挿入されている。
ここで家庭環境など各人の背景について喋らせており、キャラ紹介として使う意図があったようだ。でも、成功しているとは思えないし、不細工な演出に感じる。
そもそも、誰が何の目的でインタビューしているのか不明だし。
それに、そこを全てカットしても、ほとんど影響が無いんだよね。そこで語っている内容は全く分からなくなるけど、そんなに大切な情報は含まれていない。
ホントなら、そこが大きな意味を持って本筋と絡まなきゃいけないはずなんだけど、上手く機能していないんだよね。

ハルナ、山田、こずえの3人だけでなく、観音崎やルミにしても何かしらの悩みを抱えている。それは簡単に解決しそうな問題ではなく、だから彼女たちは心に闇を抱き、苛立ちや不安の中で暮らすことを余儀なくされている。
そこから目を背けようとしても、決して逃れることなど出来ない。必死にもがいても希望の光が見えてこない閉塞感の中で、ある者は自堕落なセックスに救いを求め、ある者は暴力をストレスのはけ口にする。
だが、どんな方法で逃げ道を探っても、それは一時的な痛み止めや現実逃避に過ぎない。それが終われば、すぐに虚しさや寂しさの大波が襲ってくるだけだ。
傷付きやすく、とても脆い若者たちの痛々しい青春模様が、原作には描かれていたはずだ。それをもちろん、映画版でも表現しようとしているんだろうとは思う。
でも、これっぽっちも高校生には見えない面々が芝居をしていることによって、別の意味での痛々しさが際立ってしまうのである。

映画が終わった時に、「で、何が言いたかったのか」と思ってしまう。
最後に小沢健二の主題歌『アルペジオ』が流れて来ると、何となく誤魔化されたような気になってしまうのは確かなのよ。だけど実は、原作の本質を捉え切れていないんじゃないかと思ったりもして。
ただ、「じゃあテメエは原作の本質について、どう解釈しているんだよ」と喧嘩腰に訊かれたら、尻尾を撒いて逃げ出すけどね(クソ野郎じゃねえか)。
それと、どうでもいいことだけど、UFOを呼びたいのなら念じるだけじゃなくて「ベントラー、ベントラー」と唱えた方がいいと思うぞ(ホントにどうでもいいわ)。

(観賞日:2019年6月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会