『REX 恐竜物語』:1993、日本

北海道の十勝。自閉症気味の少女・立野千恵は、馬のバッフン、犬のタンタンを友達にして暮らしている。彼女の父・昭吉は古生物学者で、恐竜の研究に没頭している。昭吉と助手の盛岡大助は縄文人の洞穴に入った際、恐竜の卵のカケラと卵の化石、縄文中期のペトログラフを発見していた。恐竜は1億年前に絶滅したはずだが、洞穴では少年がティラノサウルスに乗る縄文時代の像も発見されていた。
大助はペトログラフの古代文字を解読し、1万2千年ほど前に海へ沈んだムー大陸で使われていた文字だと突き止めた。さらに彼は、そこに書かれているのが「ムーの人々は神の国を地底に求めた。ここより奥は巨大な神の棲むところなり。立ち入るべからず」という言葉であることも読み解いていた。千恵の父・昭吉は妻の直美と離婚していたが、義母の早苗とは同居している。直美は子育てよりも自らの研究を優先し、ニューヨークへ行ったのだ。
千恵が自閉症気味になったのは、両親の離婚がきっかけだった。早苗は学校へも行かない孫娘を心配するが、研究で頭が一杯の昭吉は「その内、行くようになるでしょう」と軽く言う。昭吉は調査のために再び洞穴を訪れようと決め、早苗に千恵の世話を頼む。すると千恵は、自分も洞穴に行くと言い出した。「これは遊びじゃなくて仕事なんだ」と昭吉は難色を示すが、早苗は連れて行くよう促した。昭吉は仕方なく、千恵も連れて行くことにした。
翌日、千恵、昭吉、大助、そしてTVプロデューサーの福富吉行は、アイヌの聖地である国有林に赴いた。昭吉は滝へ行き、そこで砂金を採取しているアイヌの老人・信田仙次郎に挨拶する。千恵が「誰かが呼んでる。ここから出してって呼んでる」と言い出すと、信田は「聞こえるのか。そうか」と告げた。一行は信田に案内してもらい、洞穴に向かった。信田は入り口でオカリナを吹いて神を降ろしてから、洞穴に足を踏み入れた。
一行が洞穴を進み、前回の探検で昭吉と大助が恐竜の卵などを発見した場所に到達した。その地点には、御神体である黄金の恐竜像が祀られている。信田は千恵に、「これ以上先へは行ったことが無い。二度と戻れないかもしれん。どうする?」と問い掛けた。千恵の選択に従い、一行は先へ進む。しばらく歩いていると、千恵は「頭が痛い。声が大きくなってる」と言い出した。すると信田は祈りを捧げ、空中を浮遊して姿を消した。残された一行は行き止まり地点に来てしまうが、滝の奥には氷のスロープが隠れていた。
4人がスロープを落下した先には、信田の姿があった。そこにはクリスタル・スカルが鎮座し、オベリスクが立てられている。そして透明のピラミッドの中には、恐竜の卵が入っていた。千恵は「ここから出してって言ってるよ」と口にする。昭吉たちが近付くと、ピラミッドが開いた。卵に触れるとクリスタル・スカルが光り、信田は「神が怒っておる。この中に邪な心を持った者がおる」と述べた。洞穴の天井が崩れて、氷柱が次々に落下した。信田は祈りを捧げ、「今の内に後ろの穴から逃げろ」と指示した。彼は千恵にオカリナを渡し、「これを吹けばカムイの心が安らぐ」と告げた。「ワシは神の怒りを鎮めねばならん」と言う信田を洞穴に残し、千恵たちは脱出した。
1週間後。福富は昭吉から「恐竜が生まれるまでは放送しない」という条件を提示され、テレビ局の上層部の承諾を取り付けた。さらに必要経費として、テレビ局が3億円を支援する約束も取り付けていた。必ず卵を孵化させてもらわねば困る福富は、昭吉に内緒で発生学の第一人者をニューヨークから呼び寄せていた。その第一人者というのは、直美のことだった。千恵は花束を用意し、笑顔で母を迎えるが、直美は冷たく一瞥しただけだった。
昭吉から娘を見捨てたことを批判された直美は、「母親は何より子育てが第一っていうパターンで考えないでほしいわ」と反論する。昭吉は「そういう女は結婚したり、子供を産んだりしちゃいけないんだ。恐竜の卵を孵すのに君は向いていないと思う。恐竜が滅びたのは、親子関係が無かったからだという学説がある。母親は産みっ放しで子育てしないんだよ」と語るが、直美は挑戦的な態度で「産みっ放しの私が卵を孵したら、新しい学説を発表してちょうだい」と告げた。
恐竜の卵を見た直美は、その核を健康なウミガメの卵に移植し、それから再移植するという方法を取ることにした。昭吉は千恵に「もしも恐竜の赤ちゃんが産まれたら、千恵がお母さんになってあげなきゃダメだぞ。恐竜ってのはね、哺乳類と違って子育てしないんだよ」と語った。予定日を1週間過ぎても卵は孵化せず、心拍がゼロになってしまった。しかし千恵が「生まれておいで」と呼び掛けてオカリナを吹くと、卵が割れて恐竜の赤ちゃんが孵化した。千恵は「こんにちは、レックス。私は立野千恵。お母さんよ」と挨拶した。レックスは部屋の中を勝手に走り回るが、千恵が注意すると止まった。
福富が所属するテレビ局「JTB」でレックスの誕生が報じられ、緊急会見を前にしてCMの出演依頼が18社も届いた。大助は福富と相談し、昭吉たちが知らない間に契約を交わしていた。大助は全く悪びれず、「仕方が無いですよ。レックスを維持していく上では、莫大な金が必要なんですから」と自分の行動の正当性を主張した。レックスが何も食べないので、千恵は「私がやってみる」と言う。すると直美は嫌いなピーマンをレックスの目の前で美味しそうに食べる作戦を指示した。千恵はピーマンを食べ、レックスにも与えた。
銀座三越ではレックス展が開催され、福富は番組の高視聴率によって社長賞を貰う。レックスは1日にCM3本の仕事が入り、最後の撮影では千恵も一緒に出演することになった。千恵はレックスがストレスを溜め込んで疲れているのに気付き、休憩を取るよう求めた。大助は「誰のおかげで生きてると思ってるんだ」とレックスを殴り、噛み付かれた。千恵は昭吉や早苗たちに、「どんどん元気が無くなってる。ホントのお母さんに会いたいんだと思う」と告げた。
1ヶ月後、レックスは地下の研究施設にある柵を壊し、地上の牧場へ出た。厩舎に入ったレックスは、バッフンとタンタンに出会って仲良くなった。窓の外に目をやった千恵は、レックスがタンタンと一緒に歩いている様子を目にした。研究所にあるティラノサウルスの巨大模型を見たレックスは、ゆっくりと歩み寄った。そこに現れた千恵はレックスが泣いているのに気付き、「お母さんだと思ったの?そう思うよね?」と声を掛けた。一方、大助は昭吉からCM撮影のキャンセルを聞かされ、「今月限り、辞めさせて頂きます。レックスに関する権利の半分は僕にあることを忘れないで下さいよ」と告げた。
1ヶ月後、クリスマス・イヴ。オモチャ売り場を訪れた千恵は、同級生の愛川健太と遭遇した。健太は「転校の挨拶だけで全然学校へ来ねえじゃねえかよ。登校拒否か。楽だよな、レックスと遊んでりゃいいんだから」と責めるように告げた。大助は内閣調査局の近藤局長、土方部長、沖田課長、ヒラの坂本を引き連れて研究所を訪れ、昭吉にレックスの引き渡しを要求した。大助は東京に進出する国立恐竜展示館の館長に内定しており、国有林で恐竜の卵を見つけた情報を政府にタレ込んでいた。
大助が「引き渡さない場合は内閣調査局に逮捕される」と脅しを掛けると、昭吉は「明日まで待て。千恵に言い聞かせる」と述べた。その会話を、千恵は盗み聞きしていた。彼女はレックスの元へ行き、「信田さんの所へ帰ろう。そこには、きっとレックスのお母さんがいるよ。千恵も、あのお母さんなら要らないから。レックスと一緒に行く」と告げた。千恵はレックスを馬車に乗せ、牧場を抜け出した。そしてジープの荷台に姿を隠し、さらに移動する…。

監督は角川春樹、原作は畑正憲『恐竜物語〜奇跡のラフティ〜』(角川書店刊)、脚本は丸山昇一&角川春樹、製作は角川春樹&奥山和由、プロデューサーは霜村裕、恐竜製作はカルロ・ランバルディー、ダイアローグライターは内館牧子、撮影は飯村雅彦、美術は稲垣尚夫、録音は瀬川徹夫、照明は小林芳雄、特技監督は大岡新一、編集は稲垣恵一&荒川鎮雄、音楽は朝川朋之、音楽プロデューサーは石川光、主題歌は米米CLUB『ときの旅路 〜REXのテーマ〜』。
出演は安達祐実、渡瀬恒彦、大竹しのぶ、草笛光子、常田富士男、伊武雅刀、平田満、山崎裕太、佐藤蛾次郎、塩沢とき、樹木希林、伊藤俊也、野崎海太郎、友居達彦、貞永敏、永作博美、松野有里巳、佐藤愛子、寺田理恵子、石川小百合、落合ひとみ、金子昌義ら。


畑“ムツゴロウ”正憲の小説『恐竜物語』を基にした作品。
監督は角川春樹事務所の総帥である『キャバレー』『天と地と』の角川春樹。
脚本は『ウォータームーン』『いつかギラギラする日』の丸山昇一で、ダイアローグライターとして『BU・SU』の内館牧子が携わっている。
千恵を安達祐実、昭吉を渡瀬恒彦、直美を大竹しのぶ、早苗を草笛光子、信田を常田富士男、福富を伊武雅刀、大助を平田満、健太を山崎裕太、坂本を佐藤蛾次郎が演じている。松竹100周年、角川書店50周年記念作品。

恐竜製作としてカルロ・ランバルディーがクレジットされるが、たぶん名義貸しに近い状態だったんじゃないだろうか。
そうとでも解釈しないと、カルロ・ランバルディーの経歴に傷が付く。
製作には500万ドルが投入されたらしいが、「それだけ費やして、この仕上がりか」と言いたくなる。
どこからどう見ても、作り物感がハンパないぞ。
「かなり質の高いオモチャ」ではあるけど、生き物としての印象は全く感じさせない。

この映画が公開されたのは、『ジュラシック・パーク』と同じ1993年。
ただしムツゴロウさんによれば、原作は『ジュラシック・パーク』より先に書いていて(マイケル・クライトンの小説『ジュラシック・パーク』の発表は1990年)、バリー・レヴィンソンが映画化する企画も進んでいたらしい。
でも、原作についてはともかく、この映画は明らかに『ジュラシック・パーク』に便乗、というか対抗する意識で角川春樹が作っている。
ただし、やってる内容は『E.T.』の劣化版だけど。

角川春樹が作っているので、かなり強いオカルト風味が入っている。
「現代の世界に恐竜が誕生する」という部分だけを絵空事にすればいいのに、オカルト風味を強くしたもんだから、序盤から陳腐なことになってしまっている。
ムー大陸とか、クリスタル・スカルとか、ピラミッド・パワーとか、そんなの本作品に全く必要性の無い要素だ。
そんなのは以降のストーリー展開に全く影響を及ぼさないんだし、バッサリと排除してしまえばいいのに。

それを角川春樹が意図していたのかどうかは別にして、この映画が発信しているメッセージは、「子供は親を選べない」ということだ。
昭吉は千恵から訊かれてもいないのに、自分の研究について「これは恐竜の卵のカケラと卵の化石で、1億年前に絶滅したはずなのに少年が恐竜に乗っている像があって云々」などと饒舌に喋る。
それを聞かされている娘はまるで興味が無さそうなのに、まるで気付いていない。
自分が楽しければ、それでいいのだ。

直美は研究のために娘を見捨ててニューヨークへ渡り、それに対して何の罪悪感を抱いていない。
その気になれば、暇な時期に会いに来るとか、電話を掛けたり手紙を出したりするとか、そういうことも出来るはずだが、全く連絡を取っていない。久々に帰国しても、笑顔で花束を用意した娘を冷たく一瞥するだけ。
「娘は愛してるけど、第一とは限らない」と言うが、それは嘘で、本当は愛が無いのだ。
だが、そんな連中であっても、残念ながら千恵からすると両親なのだ。

昭吉が洞穴で見つけた恐竜の卵のカケラや化石について話していた時は全く興味が無さそうだった千恵だが、なぜか急に「洞穴へ行く」と言い出す。
何がきっかけで洞穴へ行きたいと思ったのか、その心境はサッパリ分からない。
だったら、自分から昭吉に恐竜の卵について尋ねたり、好奇心が沸いているような表情を見せたりしておくべきだろうに。
研究室にいる時は、まるで無表情だったじゃねえか。

千恵が洞穴へ行くことになった翌日、国有林へ向かう一向が写し出されると、急に一人増えている。で、その増えている福富が何者なのか、なぜ同行しているのかという説明が無い。
後になって、そいつがテレビ局の人間であることは分かるけど、まず洞穴へ向かう段階で観客に対してキッチリと紹介しておくべきでしょうに。
その福富、信田が洞穴へ入る時にオカリナを吹いて神を降ろす時も、御神体に祈りを捧げる時も、馬鹿にしたような態度だったのに、先へ進もうとした時には「これ以上深入りして祟られたら事だぞ」と怖気付く。
霊的な現象を信じているのか、信じていないのか、どっちなんだよ。

昭吉と大助がどのようにして洞穴を見つけたのか、なぜアイヌの聖地にある洞穴への案内を信田が快く引き受けたのか、その辺りは不明。
で、洞穴で信田が「この先には行ったことが無い。二度と戻れないかもしれん」と言うと、昭吉は何の迷いも無く「是非」と言う。
自分だけならともかく、娘も一緒なのに、「もう戻れないかも」という危険な場所へ行くことへの躊躇は一切無い。
自分の好奇心を満たすためなら、仮に娘が二度と戻れなくなっても構わないのだ。
っていうか、娘を心配する気持ちなんか全く頭に無いのだ。

昭吉は千恵に「もしも恐竜の赤ちゃんが産まれたら、千恵がお母さんになってあげなきゃダメだぞ」と言うが、なぜ母親にならなきゃダメなのかサッパリ分からない。
「恐竜ってのはね、哺乳類と違って子育てしないんだよ」と言うけど、だったら子育てする必要は無いってことにならないか。
「子育てしなかったから絶滅した」という学説の存在を彼は口にするけど、でも絶滅するまでには相当の年月があるわけで、そこには無理がある。
あと、母親役が欲しいなら自分がやればいい。
「直美と千恵の母子関係」と「千恵とレックスの疑似親子関係」を重ね合わせようとしているのは分かるけど、それは無理があり過ぎるわ。

JTBでレックスの誕生が報じられた途端、研究所にはCM出演の話が18社も舞い込んでいる。
でも、まだ緊急会見も開いていないのに、そんなのは有り得ない。会見が開かれてないってことは、本当に恐竜の子供が誕生したのかも確定していないんだから。
それと、本物の恐竜なのかを確認する必要があるんだから、政府機関が絡んで来たり、研究所に取材が殺到したりするはずだろうに、その気配が全く無い。でも昭吉が「恐竜の卵を発見して孵化させた」と主張するだけだったら、本物だということは認定されないだろうに。
で、どういう会見を開くのか、記者からどんな意見が出てくるのかと思ったら、会見のシーンは無いのだ。
そこをカットしちゃうのかよ。

レックスが何も食べておらず、千恵が「私がやってみる」と言うと、直美は「1つだけ考えられる方法があるわ。レックスが食べそうな草の周りにピーマンがたくさん植え込んであるわ。それを千恵が美味しそうに食べて、これが食べ物だって教えてあげるの。千恵、レックスが産まれた時に言ったわよね。千恵がお母さんよって。自分が言ったことに責任を持ちなさい」と、まるで責めるような口調で言う。
そのシーンは、ツッコミを入れたくなることが色々とある。
まず直美に「お前が言うな」とツッコミを入れたくなるが、そこは大助が即座に指摘しているので、スルーしておこう。
その指摘を受けて直美が反省したり考えを改めたりする様子はなく、それどころか千恵に対して挑戦的な態度を取るのだが、こいつが母親失格なのは既に明確なので、そこもスルーしておこう。
ただ、それ以外でも、「なんでレックスに草を食べさせるのに、千恵がピーマンを食べなきゃいけないんだよ」という大きな疑問がある。
そんな必要、全く無いでしょ。

レックスに食べさせたいのは、研究施設に生えている草なんでしょ。それを食べさせるために「これは美味しい食べ物」と教えるのなら、その草を食べなきゃ意味が無いでしょ。
それに、なぜ研究施設の中でピーマンが育てられているのかってのも疑問だ。他にも多くの野菜を育てているならともかく、ピーマンだけがポツンと植えてあるんだぜ。
で、千恵は嫌いなピーマンを美味しそうに食べて、それをレックスにも食べさせる。
いやいや、食べさせるのはピーマンなのかよ。草じゃないのかよ。
っていうか、レックスの犬歯から推測すると、明らかに肉食恐竜だぞ。草もピーマンも、与える食事として間違ってるんじゃないかと。

レックスが誕生した後、千恵は一緒にパターゴルフを楽しんだり、ピクニックごっこをしたりする。
そんなことより、もっと他にさせるべきことが色々とあるんじゃないかと思うが、昭吉はレックスの世話を千恵に任せっ放しにしている。それを事細かく観察し、生態を研究したり動きを分析したりしている様子も全く見られない。
お前は恐竜の研究に没頭していたんじゃなかったのかよ。
恐竜を孵化させたら、もう満足しちゃったのかよ。

本当に恐竜が卵から誕生したら、百貨店で展示会が開催されるとか、テレビ番組の視聴率がアップするとか、そういうレベルじゃなくて、もっと世界的に大きな問題になるはずでしょ。それに、科学的な分野で色んな動きが出て来るはずでしょ。
でも、そういう方面の描写は皆無なのね。
ただ単に「大きなブームが起きています」というだけに留まっている。
だから、エリマキトカゲやウーパールーパーのブームを少し上積みした程度の出来事にしか見えないのよ。

CM出演でレックスが疲れた様子を見せると、千恵は「ホントのお母さんに会いたいんだと思う」と言い出す。
いやいや、違うから。単に疲れが溜まっているだけだから、そこで「母親に会いたがっている」とか言い出すと、「レックスが金儲けに利用されている」ということを批判的に描こうとしていたはずなのに、焦点がズレちゃうから。
あと、レックスは刷り込みによって千恵を母親だと思い込み、だから言うことを聞いていたはずなのに、途中で「本物の母親に会いたがっている」ということになってしまうのも変だろ。
そうなると、今まで千恵がレックスと疑似母子関係を築く様子を描いていたのは何だったのかってことになるぞ。

で、レックスがCM出演で疲れているとか、ホントのお母さんに会いたがっているとか言っていたのに、それに対して何の対処方法も提示しないまま、「1ヶ月後」のテロップが出る。
そしてレックスが柵を破壊し、牧場へ出て来る様子が描かれる。
窓からレックスとタンタンの様子を見た千恵は、全く表情を変えない。
なんでだよ。レックスが外に出て来ちゃったんだから、もっと慌てろよ。
慌てないにしても、無表情は変だろ。何かリアクションしろよ。

ティラノサウルスの巨大模型の前で泣いているレックスを見た千恵は「お母さんだと思ったの?そう思うよね?」と言うけど、それは完全に勘違いだから。
恐竜の目から涙がこぼれても、それは人間のような悲しみの感情表現とは全く違うっての。ウミガメが産卵の時に涙を流すのと似たようなモンで、ただの生理現象に過ぎないっての。
悲しくて涙を流す生物は人間だけだよ。
あと、そもそも、なんで研究所に恐竜の巨大模型が展示されているんだよ。

それと、そういった出来事を、わざわざ「1ヶ月後」に設定して描写している意味は何なのか。
「CM出演で疲れている」ということを描いた流れで、次の日の出来事にでもしてしまえばいいだろ。わざわざテロップまで出して1ヶ月後にした意味が分からん。
で、レックスが地上へ出たり、守銭奴に変貌した大助が研究所を辞めたりする様子が描かれると、また「1ヶ月後」のテロップが出てクリスマス・イヴになるけど、時間を経過させるにしても、もうちよっとスムーズにやろうよ。
そこは「1ヶ月後」の表示なんか要らないし。クリスマスの街の風景を描けば、それだけで「ああ、クリスマスの時期になったんだな」ってことは分かるんだから。

そのクリスマス・イヴのシーンで健太を初登場させるのは、明らかにキャラの出し入れが下手。
もっと早い段階で登場させておくべきだ。
そうじゃないから、後で健太が内閣調査局の連中を雪玉で妨害し、千恵とレックスを逃がしてやるという行動を取った時に、違和感が強くなってしまうのよ。
千恵とは全く交流を深めておらず、レックスとは会ったこともない健太が、そんな行動を取るのは変でしょ。

大助が内閣調査局の連中を連れて研究所にやって来るシーンは、ものすごく陳腐。
今まで日本政府は全く絡んで来なかったのに、なんで内閣調査局が関わって来るんだよ。内閣調査局の仕事って、そういうことじゃないだろ。「逆らえば逮捕される」って言うけど、そいつらに逮捕権なんて無いはずだし。
大助は「国有林で発見された卵から孵化したのでレックスは国有財産。だから政府に引き渡せ」と主張しているけど、彼が接触するまで政府が全く動いていなかったのは何なのかと。
国有財産か否かということは別にして、日本で恐竜が誕生したなら大発見なんだから、何らかの動きは見せるべきだろ。

千恵はレックスに「信田さんの所へ帰ろう」と言って連れ出すので、すぐに洞穴へ向かうのかと思いきや、なぜか娯楽施設でノンビリと楽しんでいる。
そこには大勢の客がいるが、なぜかレックスに気付かない。
千恵が人形の中にレックスを紛れ込ませ、そのレックスが子供に向かって吠えたことで、ようやく気付かれる。
でも、それで騒ぎになるけど、なぜかレックスは客に気付かれずに逃げ出している。

都合良く人が誰もいない場所に移動した千恵は、なぜか唐突にレックスと踊る。そのバックでは米米CLUBの歌が流れているのだが、カットが切り替わって教会の中が写し出されると、子供たちが同じ歌を歌う。
教会の席には内閣調査局の面々と大助が座っており、歌を聴いている。坂本の隣にはスーツ姿のレックスが座っており、坂本はレックスの持っているハウス食品の「オーザック」を食べる。
「お前は何をワケの分からないことを書いているんだ」と思うかもしれないが、ホントにそういう展開なのだ。
内閣調査局の近藤が「12時までは夢を見させてあげよう」ということで千恵とレックスを捕まえずに放置していることも含めて、たぶんファンタジックな雰囲気を充満させたかったんだろうとは思う。
ただ、前半ではその手のファンタジーが全く無かったので、内閣調査局の連中が登場して急に「浮世離れしたメルヘンな世界」を作り上げようとしても、そこに入り込めず、ただ陳腐なだけになってしまう。

千恵とレックスは健太に助けられて娯楽施設から逃げ出し、観光バスに乗り込む。
しばらく進むと、都合良くスノーモービルで先回りしていた健太が現れ、スノーモービルに取り付けた荷台に千恵とレックスを乗せる。
内閣調査局の連中が追って来るが、健太は事前に風船を幾つも付けた気球を用意しており、それに千恵とレックスを乗せて逃がす。
わずかな時間で気球まで用意するとは、すごい奴だな。

どうやったのか分からないが無事に気球を着陸させた千恵は、なぜか都合良くポツンと作られていた「かまくら」にレックスと共に入る。ダイヤモンド・ダストが出現し、それが消えると、なぜか目の前には昭吉と直美と信田が立っている。
千恵の幻覚や夢なのかと思ったら、現実という設定だ。
で、なぜか千恵は「お父さん」でも「信田さん」でもなく「お母さん」と言い、直美は泣いて彼女を抱き締める。
でも、いつの間に母性に目覚めたのかはサッパリ分からない。
ニューヨークへ戻ろうとする直美が娘へのプレゼントを用意していた様子も描写されていたけど、彼女が十勝で暮らす中で母親としての自覚に目覚めて行くようなドラマなんて、何も無かったからね。

天井落下が起きた洞穴に留まったので死んだのかと思っていた信田は普通に生きていて、千恵たちを導く。
で、前回とは異なる光景が広がっていて、昭吉が「ムーの神殿跡だ。レックスは5千年前から、ここでこの日を待っていたんだ」と電波っぽいことを言う。
一行の視線の先にはモアイ像が並び、その向こうには広大な峡谷がある。
非現実的な光景が広がる状況に対して昭吉が「ブロッケン現象だ」と言うが、ブロッケン現象で説明が付く状況ではない。
っていうか、それはブロッケン現象ではない。

どう見てもセットとマットペイントで形成された光景を見た昭吉が「ここには遠く3億年前の超古代がそのまま残ってる」と語ると、直美も「5千年前のムーの人たちは、ここを神の国って言ったのね」と納得する。
モアイ像とムー大陸の関係については面倒なのでスルーしておくとして、そんなバカっぽい会話が交わされた後、千恵がレックスに付けてあったミサンガが外れる。
千恵は「願いが叶うのよ。この奥に本当のお母さんがいるのよ」と言い出す。
彼女までオカルトに染まってしまったらしい。

信田とレックスがマットペイントの絵に向かって歩き、姿を消すと、クロージング・クレジットが入る。
しかし、それで映画は終わりではない。
その後、牧場で早苗がカレーを作っている近くで、千恵が習字をしている様子が写る。
昭吉が「何書いてんの?おっ、“貝”か」と言うと、千恵は「“具”なんだけど」と口にする。
これは、公開当時に安達祐実が出演していたハウス食品のカレーのCMを意識したネタだが、「何だかなあ」という感想しか沸かない。

その後、ニューヨークへ戻ったはずの直美が牧場に現れるという展開が最後にあるのだが、それは違和感しか無いなあ。
全く描写は出来ていなかったけど、「直美が母性に目覚める」という着地を用意するのは間違っちゃいないと思うのよ。ただ、ニューヨークでの研究を断念して、北海道に戻って家族と暮らすことを選ぶのは、やり過ぎだわ。
研究は続けて、でも娘への愛情に目覚めたから、暇があれば会いに行ったり、手紙や電話で頻繁に連絡を取ったりするということでいいでしょ。
大体さ、何度も離婚したり愛人を囲ったりしていた角川春樹が「家族は一緒に暮らすべし」というメッセージを発信する話を撮っても、説得力が無いぞ。
そんで、そんな角川春樹がコカイン密輸事件で逮捕されたせいで、この映画の上映が打ち切られるという事態まで引き起こすんだから、なんともはや。

(観賞日:2014年6月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会