『リベンジgirl』:2017、日本
東京大学経済学部4年生の宝石美輝は、ミスキャンパスでグランプリに選ばれた。感想を問われた彼女は、グランプリ受賞は当然の結果だと口にする。美輝は毎年の争いが低レベルだと感じていたこと、真の美貌を伝えるために参加したことを語る。「戦う相手が悪かった」と彼女は参加者を扱き下ろして反感を買うが、全く気にしなかった。ステージから落ちそうになった美輝は、斎藤裕雅という男に助けられた。美輝は「こんな綺麗な人、初めて見た」と言われ、彼と付き合い始めた。
妹の美咲から「最近のお姉ちゃんはキラキラしてる。人生初の彼氏が出来た効果だね」と言われた彼女は、「私が彼氏にしてあげたの」と反論した。しかし彼女は、「こんな気持ちは初めて。裕雅のことを考えると胸が熱くなる」と嬉しそうに語った。「それを人は恋と呼ぶんだよ」と指摘された彼女は、「あんな素敵な人に出会えるとは思わなかった」と言う。裕雅はハーバード大学出身で頭が良く、イケメンで優しく、政治家の由緒正しい家柄だった。
浮気が心配ではないかと訊かれた美輝は、「私が浮気なんかされるはずないでしょ」と笑い飛ばした。1年後。ブルガリに就職した美輝は、裕雅との交際も順調だ。付き合って1年の記念日を翌日に控えた彼女は、裕雅からの電話で「ミスキャンパスのパーティー会場で待ち合わせしよう」と言われる。戸惑う美輝だが、裕雅は「大勢の人たちに祝福してもらおう。後は明日のお楽しみだ」と言う。電話を切った裕雅は、邪悪な笑みを浮かべた。
美輝は同僚から裕雅が本店でダイヤのリングを買っていたと聞かされ、彼がプロポーズするつもりだと確信した。翌日、美輝がパーティー会場に行くと、後輩で去年の準グランプリだった仲手川万里子が声を掛けて来た。美輝は全く覚えておらず、アナウンサーをやっているという彼女の話を無視して立ち去った。美輝が裕雅を捜していると、百瀬凛子という女性が「裕雅を連れて来てよ」と騒いでいた。美輝が裕雅のフィアンセだと得意げに自己紹介すると、凛子は「残念な女」と嫌味っぽく告げた。
凛子は裕雅の子を妊娠したこと、彼には大勢の女がいることを語るが、美輝は全く信じず自信満々な態度を見せた。凛子が呆れて去った後、美輝は裕雅から「美輝の笑顔で癒されたいな。写真送って」というメールを受け取る。自撮りしようとした美輝は、会場にいる多くの女性たちが一斉に同じ行動を取るのを目にした。声を掛けて来た万里子のスマホを確認した彼女は、そこにも裕雅が同じ文面のメールを送っていたと知った。
会場を飛び出した美輝が裕雅の元へ行くと、すぐに凛子もやって来た。凛子は秘書から渡された手切れ金の封筒を見せ、「これで無かったことにしろと言われた」と教えた。それでも何かの間違いだと思った美輝は、裕雅に詰め寄る。裕雅は面倒そうな様子を見せ、秘書が美輝を追い払おうとする。美輝がリングについて尋ねると、裕雅は笑って「それは君のじゃないよ」と告げる。パーティー会場に呼んだ理由を問われた彼は、「ちょっと見てみたくてさ。俺のことを好きな女が一堂に会しているところを」と冷めた目で言い放った。
裕雅は車に乗り込み、その場を後にした。喚き散らした美輝が立ち去ろうとすると、門脇俊也という男が「痛い女」と呟いた。美輝が抗議すると、彼は「お前が騒いでも、政治家一家の御曹司さまは痛くも痒くもない」と語る。「もう一度あいつを振り向かせて、ゴミのように捨ててやる」と美輝が言うと、俊也は「じゃあ総理大臣にでもなってみれば?そうでもしなきゃ、あいつに勝つなんて無理だ」と告げた。俊也が去った後、美輝は「やってやるわよ」と口にした。
「あすなろ政治塾」の入塾式では、裕雅の祖父である茂の政治秘書だった如月凪子が壇上でスピーチを始める。美輝は会場へ乗り込んで「注目」と大声を発し、総理大臣になるための勉強をさせてもらうことにしたと語る。彼は壇上へ行き、「私を入塾させなかったら後悔しますよ。会社も辞めて来ました」と自信満々に言う。しかし入塾試験は既に終了しており、特別待遇にするよう要求する美輝に俊也が「ルールを守れない奴は政治家失格だ」と冷たく言い放つ。
俊也は「さっさと帰れ」と怒鳴り付け、美輝は職員たちに連れ出された。美輝が腹を立てて歩いていると、凪子が追って来た。総理大臣になりたい理由が自分を振った裕雅へのリベンジだと聞いた凪子は軽く笑い、「総理大臣の椅子、座らせてあげましょうか」と持ち掛けた。凪子は俊也の元へ美輝を連れて行き、秘書としてサポートするよう命じた。美輝も俊也も嫌がるが、凪子は「総理大臣になるには、まず選挙に受かって国会議員にならなきゃいけないの。そして選挙は1人では出来ない」と語る。凪子は美輝に、俊也は新人候補を何人も当選させてきた優秀な教え子だと教えた。
凪子は命懸けで支えたいと思う政治家が現れるまで休業すると言う俊也に、「今のままの貴方じゃあ、一生そんな政治家には会えないわよ。どんな候補者でも勝たせる。それが一流の政治秘書なんじゃないの?」と説いた。俊也は承諾するが、「指示に従わなければ降りる」と美輝に通告した。彼は美輝に「選挙で必要なのは地盤、看板、鞄の3つだ」と語り、それぞれ応援団体と知名度と金を意味することを説明した。俊也は「お前が持っている物は1つも無いが、1つだけ勝てる物がある」と言い、それは大きな政党の公認候補になることだと話す。彼は最も大きな民自党の公認を取れば勝てる可能性があると言うが、簡単ではないと補足した。
美輝は書類審査も論文もクリアし、簡単に面接まで漕ぎ付ける。俊也は最も難しいのが面接だと言い、どれだけ票を集められる人材かを探って来ると告げる。美輝は「ファンが大勢いる」と胸を張るが、ツイッターもインスタグラムもやっていなかった。俊也は彼女に、面接のある2週間後までにインスタグラムを始めて30万人のフォロワーを獲得するよう要求した。挑発された美輝は、「やってやるわ」と反発する。彼女は美咲に写真を撮ってもらって毎日更新するが、30万人には程遠かった。俊也は美輝に選挙を諦めさせるため、わざと無謀な数字を提示したのだ。凪子は彼に、「選挙に勝てるかどうかは秘書次第よ」と告げた。
凪子は茂に呼ばれ、次の衆院選で裕雅を出馬させるので選挙参謀を務めてほしいと依頼される。凪子は「別の候補者に関わっているので」と断り、それが美輝だと教えた。美輝は凪子の指令を受け、俊也と共に民自党の特別講演会へ赴いた。その帰り、彼女はお腹の大きい凛子が雨の中でティッシュ配りのバイトをしている姿を目撃した。美輝は彼女に歩み寄ってティッシュ配りの仕事を始め、俊也も手伝う。美輝への印象が変わった俊也はテレビ局の取材を取り付け、インスタのフォロワー数は30万人に達した。
俊也は美輝に「7時にトンカツ屋の『とんき』に集合。勝負の前はトンカツだ」と言い、「勘違いするな。ポイントが貯まってるだけだ」と告げて事務所を去った。デートに誘われたと感じた美輝は動揺し、妹に電話で相談した。事務所を出ようとした彼女の元に、裕雅から連絡が入った。美輝は俊也に「妹の体調が良くない」と嘘の電話を掛け、裕雅の待つバーへ出掛けた。裕雅は謝罪して「本当は美輝と結婚したかった」と言い、美輝は仲直りの握手に応じた。
翌日、事務所へ出向いた美輝は、SNSでアップされていることを俊也に知らされる。俊也は面接が中止になったことを彼女に伝え、凪子は「こんな大切な時期に何やってるのよ」と叱責した。美輝は他の政党の公認を得ようと考え、スポーツ青空党、帝国政党、生きるパワーの会、動物革命党の事務所を次々に回って自分を売り込む。彼女は全て断られるが、俊也が青和党の公認候補になる話を取り付けていた。青和党では決まっていた候補者が体調を崩して辞退し、代わりの人物を探していたのだ。
美輝は青和党代表の山下健作や運営委員長の川口たちに会い、裕雅と同じ神奈川19区から出馬することを知った。俊也は美輝の選挙事務所を開き、凪子に「必ずこいつを勝たせてみせます」と宣言した。俊也はポスターやビラを作成し、美輝は選挙活動を始める。美輝が街宣車で演説すると、周囲の人々が集まってきて拍手した。しかしビラを配ると目の前で捨てられ、ほとんど人は集まらなかった。俊也は彼女に、「SNSでは人気でも、直接、有権者に訴える力は足りないってことだ」と言う。
街頭テレビに目をやった美輝は万里子がアナウンサーを卒業すると知り、彼女に会って選挙活動への協力を要請した。最初は断った万里子だが、土下座で懇願する美輝の様子を見て承諾した。万里子が友達を動員したことで、人が集まるようになった。万里子は美輝に「感謝の気持ちを忘れないことが大事」と告げ、人に愛されるように振る舞うべきだと助言した。美輝は彼女の指示に従い、老人や子供たちが相手でも優しく振る舞った。
選挙活動が続く中、美輝は万里子から「俊也さんってイケメンですよね。誘っちゃおうかな」と言われる。美輝は動揺するが、「いいんじゃない」と告げた。俊也がデートの誘いを断ったと知り、美輝は安堵した。俊也は彼女に、町内会一同が応援メッセージを書いた色紙を渡した。それを見た美輝は、「みんなさ、私がリベンジしたくて始めたことを知らないんだよね。なんか、騙してるみたい」と漏らした。すると俊也は、「どんな理由で目指したかなんて関係ない。申し訳ないと思うなら、周りの人を幸せが自分の幸せになる、そういう政治家になれ」と説いた…。監督は三木康一郎、原作は清智英・吉田恵里香「リベンジgirl」KADOKAWA刊、脚本監修は吉田恵里香、脚本は おかざきさとこ、製作は依田巽&ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント&亀山慶二&林誠、エグゼクティブプロデューサーは小竹里美、プロデューサーは朴木浩美&増山紘美&植村真紀、ラインプロデューサーは竹山昌利、撮影は吉沢和晃、照明は小沢均、録音は甲斐田哲也、美術は花谷秀文、編集は伊藤潤一、音楽は坂本秀一、音楽プロデューサーは菊地智敦、主題歌はJY「Secret Crush 〜恋やめられない〜」。
出演は桐谷美玲、鈴木伸之、斉藤由貴、大和田伸也、清原翔、佐津川愛美、馬場ふみか、竹内愛紗、クリス・ペプラー、ガッツ石松、木下ほうか、バービー(フォーリンラブ)、山村紅葉、田窪一世、諏訪太朗、邱太郎、兒玉宣勝、笠松将、櫻井圭佑、越村公一、勝倉けい子、河原康二、坂本文子、上田実規朗、真下玲奈、佐々木史帆、田中佐季、高田靖士、向里憂香、三味弥生、三辻茜、早乙女バッハ、菊池飛向、守水伊吹、田崎伶弥、結城さなえ、田中貴裕、鈴木つく詩、空花、Giuseppe D.、安藤聡海、山田帆風、和川美優、鈴樹志保、広谷豪、仲村風香、広野由麻、山崎蘭永、岡本千明、宮本あゆみ他。
『のぞきめ』『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』の三木康一郎が監督を務めた作品。
脚本は『風のたより』『忘れないと誓ったぼくがいた』のおかざきさとこ。
美輝を桐谷美玲、俊也を鈴木伸之、凪子を斉藤由貴、茂を大和田伸也、裕雅を清原翔、凛子を佐津川愛美、万里子を馬場ふみか、美咲を竹内愛紗が演じている。
ミス・キャンパスの司会者をクリス・ペプラー、スポーツ青空党代表をガッツ石松、帝国政党代表を木下ほうか、生きるパワーの会代表をバービー(フォーリンラブ)、動物革命党代表を山村紅葉が演じている。まず美輝がスピーチするシーンから、「掴みで失敗しているな」と感じる。
ここは美輝の高飛車で自信過剰な性格をアピールするシーンであり、それだけなら特に大きな失敗はやらかしていない。ただし問題は、単純に彼女が「嫌な奴」にしか見えないってことだ。
もちろん、大半の観客は「最初は身勝手だったヒロインが次第に変化する」という精神的な成長が描かれることぐらい分かるだろう。そして実際、そういう展開が用意されている。
しかし、そうであっても、無駄に好感度の低いトコから始めていると感じるのだ。
そこは、もっと美輝のキャラを誇張して描けば、「嫌な奴だけど笑って見られる」という状態になったはず。そして作品のテイストや内容を考えると、そういう漫画的な方向性でいいと思うのだ。スピーチを終えた直後のシーンでも、また失敗をやらかしている。これは少し変えれば何とかなる問題ではなく、もっと根本的な部分から改変する必要がある。
何が失敗かというと、美輝が裕雅に一目惚れする展開だ。
その直前、彼女は自身の美貌を高く評価し、周囲を見下す態度を取っていた。
そんな女が、出会ったばかりの男に一目惚れするってのは、キャラとして統一感が取れていない。
「自信過剰で周囲を見下す」という態度は、男に対しても同じように向けられるべきだろう。だから裕雅に惚れさせるのなら、例えば「超が付くほどのイケメン」という表現が必要だ。あるいは見た目じゃなくて、彼のステータスを詳しく知った上で「私にふさわしいハイレベルな男」ということで惹かれる展開にでもした方が、さらに望ましい。
っていうかさ、美咲の台詞によると、美輝にとって裕雅は人生初の彼氏なんだよね。それって、かなり大きな意味を持つ要素だぞ。
そして、それは邪魔な要素でもある。
このヒロイン設定で「初めての彼氏」ってことなら、そこで恋愛劇を作るべきだよ。裕雅を噛ませ犬にして、他の男との恋愛劇を展開させるのは、得策とは到底思えない。シンプルな問題として、演出が淡白で薄味なのよね。
映画の内容からすると、もっとアクが強くてクドいぐらいの演出が合っているのだ。なのに、妙に遠慮したような、いわゆる「置きに行っている」ような演出になっている。
こんな映画で安全運転を心掛けても、何の意味も無いぞ。
極端なことを言っちゃうと、「のるかそるか」ぐらいのチャレンジをしたって構わないぐらいなのよ。演出でエッジを効かせないと、脚本だけではエナジーやパワー不足が否めないんだから。導入部で時間を使い過ぎているってのも、大きなマイナスになっている。
美輝が「総理大臣になる」と決意してタイトルが表示されるのは、映画が始まってから約22分後。しかし全体の構成を考えると、もっと早い段階で美輝が選挙に向かって行動する展開に入りたいところだ。
とは言え、そこまでの経緯を説明する時間も必要だ。
そこを解決する方法として、時系列を入れ替えるという方法がある。美輝が選挙戦を繰り広げる様子から話を始めて、「こういう経緯があって」と回想で処理するのだ。
しかし時系列を入れ替えなくても、別の方法もある。ものすごく簡単な方法で、美輝が社会人として働き、裕雅と交際している状態から始めればいいのだ。そうすれば、前述した「美輝が裕雅に惚れる手順の問題」も解決できてしまうしね。
ハッキリ言って、彼女がミス・キャンパスを受賞する出来事も、裕雅と会う出来事も、カットしても何の問題も無いでしょ。裕雅は憎まれ役なので、序盤から嫌な部分を積極的にアピールするのは決して間違ったことではない。ものすごく薄っぺらい悪役になっているけど、それは作品の質にも合っているからひとまず置いておこう。
それよりも問題なのは、パーティー会場で裕雅が取る行動だ。
彼は交際している全ての女性を集め、一斉に笑顔の写真を送信させる。
つまり、「自分は大勢の女と関係を持つ浮気男です」ってことを堂々とアピールするのだ。そんなことをした理由について、「自分に割れた女たちが一堂に会しているところを見たかった」と臆面も無く語る。
裕雅が浮気男なのは、悪役なので一向に構わない。しかし、それを隠そうともせず、それどころか全員を集めてバレるような行動を平然と取るのは、キャラ造形として間違っていると感じる。
「基本的には隠そうとして、バレたら開き直って高慢な態度を取る」というぐらいでいいんじゃないかと。
変なトコで自信満々な様子を見せられても、嫌悪感より違和感が上回ってしまうよ。そもそも裕雅って、政治家として出馬を予定している立場なんでしょ。そんな奴が、あんなに派手に女たちを食い散らかして、大勢が見ている前で美輝に詰め寄られるような騒ぎを起こしていたら、選挙に影響が出るでしょ。全ての情報を隠蔽できるほど、圧倒的な権力を保持しているわけでもないんだし。
なので、そういう彼の女遊びを父親が放置しているのも絶対に有り得ない。
「何でも金で解決しようとする一族」という設定にしてあるけど、金で解決できない問題もあるからね。そして金で解決できるとしても、選挙や支持率を考えれば、茂は裕雅に苦言を呈するべきでしょ。
それが無いのは、「設定として間違っている」と断言できる。俊也が聞こえるように「痛い女」と漏らし、「じゃあ総理大臣にでもなってみれば?」と言うのは、かなり強引な展開だ。さらに言うと、そこで美輝が「総理大臣になる」と決意して動き出す話にしちゃうのは「風呂敷を広げ過ぎ」と感じる。
実際に総理大臣になろうとしたら、かなりの手間や年月が必要になるわけで。つまり、この映画で彼女が総理大臣になるトコまで描くのは、まず不可能だ。そして実際、衆議院議員に当選したトコで終わる。
だけど、それだと「総理大臣になると言っていたのに、随分と手前で終わるのね」と感じてしまう。
いっそのこと、荒唐無稽をやりまくって、ホントに「ヒロインが総理大臣になる」という話にしちゃえばいいのに。
そこまでバカバカしさを貫けば、それはそれで面白くなった可能性はあるぞ。あすなろ政治塾の入塾式に乗り込んだ美輝は、自信満々で「総理大臣になるから入塾させろ」と要求する。「ルールを守れない奴は政治家失格だ」と俊也が批判するのは当然だが、「凪子が美輝をスカウトする」という展開になる。
これまた、ものすごく強引だし、全く乗っていけない筋書きだ。
凪子が美輝のどこに「見込みがある」と感じたのか、それがサッパリ分からない。凪子は経験豊かで優秀な政治秘書という設定のはずなのに、「まるで見る目の無いボンクラ」にしか思えなくなってしまう。
それは凪子が悪いんじゃなく、もちろん「政治家としての資質を全く感じさせない女」にしか見えないように美輝を描いていることが悪いのだ。あとさ、もっと根本的なことに触れるけど、そもそも美輝って衆議院選挙に出馬できる資格の保有者なのか。
彼女は大学を卒業して1年後、ブルガリで働いている。裕雅と交際して1年の記念日、彼に激怒して総理大臣を目指すと宣言している。
彼女は成績優秀だから、浪人や留年は経験していないはず。ってことは、大学卒業から1年後の美輝は、まだ被選挙権を持つ25歳には達していないはずだ。
そこの問題に関しては、幾らバカバカしい話であっても、絶対に超えられないリアルの壁だぞ。俊也の設定には、かなりの無理を感じる。
彼は大勢の新人候補を当選させたという実績を持ち、政治の世界に幻滅して休業していたという設定だ。その設定だけ見ると、秘書としての活動年数が長い人物に思えるでしょ。
だけど演じているのは鈴木伸之で、どう考えても「若手の政治秘書」でしかないのだ。キャラ設定と演じる俳優が、まるで合っていないのよ。
鈴木伸之を起用するのなら、そこは「秘書として駆け出しの男」という設定にしておくべきでしょ。俊也が「選挙で必要なのは地盤、看板、鞄の3つだ」と説明した後、まず美輝に要求するのは「インスタグラムで2週間以内に30万人のフォロワー数を取る」というノルマ。
いやいや、なんで最初の要求が、インスタのフォロワー獲得なのよ。
そりゃあ、いかにも現在っぽい方針だとは思うよ。でも俊也って、大勢の新人を当選させてきた実績を持つタイプの秘書なんでしょ。「古い価値観を打ち破ろうとする新世代の政治秘書」というキャラじゃないんでしょ。だったら、そこは違うんじゃないかと。
しかも「俊也がテレビ局の取材を取り付けてフォロワー数は30万人に達した」という、ものすごく淡白な処理で片付けちゃうし。どうしてもインスタを絡めたいのなら、例えば美輝の方から提案するという方法にでもすればいい。
つまり、美輝が「看板」を得る方法として、「じゃあインスタのフォロワー数を増やせばいいんじゃないか」と言う。そんなことで選挙に勝てるわけがないと分かっている俊也が呆れると、反発した美輝は高いハードルを自分で提示する。そこで俊也が「絶対に無理」と告げ、美輝が「やってやる」と燃えるという流れだ。
ただ、それでも無理があるなあ。何とかなるかと思ったけど、どうにもならないなあ。
あとさ、美輝みたいに自己主張の強い女性が、ツイッターもインスタもやっていないのは不自然極まりないぞ。美輝は妊婦の凛子が雨の中でティッシュを配る様子を見ると、その隣で仕事を手伝い始める。
だけど、そこまでの彼女の描写からすると、そんな「人に優しく」の行動は、あまりにも不可解だ。「お前、そんな奴じゃなかっただろ」と言いたくなる。急に性格が変貌したようにしか思えないのだ。
この女は、自分のことしか考えない性格だったはずでしょ。何がどうなって、そんな親切心に目覚めたのかと。
こいつの良さは、凪子の言う「嘘をつかない」という部分しか無かったはずでしょうに。美輝はフォロワー数の目的を達成した後、俊也と顔の距離が近付いてドギマギする。そして『とんき』に誘われ、デートだと思って動揺する。
序盤から見え見えだったけど、ようするに本作品のメインは恋愛劇なのだ。選挙関連の部分は、それを描くための舞台に過ぎない。
ただし、だから選挙や政治に関する部分は適当でも構わないのかというと、それは絶対に違うよ。そこのディティールは、ちゃんと丁寧に作り込む必要がある。
でも、そういう作業が出来ているのかというと、「全然」と断言できる。
大きな嘘をつくためには土台の部分を雑に済ませちゃダメなのに、そういう意識が全く感じられない。美輝は裕雅に冷たく捨てられて復讐心を燃やしていたはずなのに、彼から電話で呼び出されるとホイホイと出掛けて行く。
もちろん、まだ未練があったという設定なのは、どれだけボンクラな私でも理解できるよ。
ただ、美輝の動かし方を考えると、そこで「まだ未練たっぷりでした」という動かし方をするのは、整合性が取れていないようにしか思えない。
どうしても彼女をバーへ行かせたいのなら、まず裕雅が連絡してきた時点で、「メールや電話で彼女の頑なな気持ちを溶かすような言葉があった」という描写は必須でしょうに。民自党の公認を取れなかった美輝は、凪子に叱責されて落ち込む。すぐに気持ちを燃やして様々な政党にアタックする美輝だが、全て拒否されると再び落ち込む。
だけど、前半の彼女の描写からすると、そんなに簡単に打ちのめされるようなタマじゃないでしょ。
自信満々で、「私は誰よりも有能」というぐらいのタカビーな意識の持ち主だったわけで。
物語が進む中で、「様々な出来事を体験することで美輝の考え方や性格が変化していく」というドラマを上手く描けていないから、美輝の動かし方がデタラメにしか思えないのよ。終盤、裕雅陣営の策略で劣勢に立たされた美輝は、最後の街頭演説でマイクを握る。彼女は自分のために裕雅を殴って辞職した俊也のことを思いながら、リベンジのために出馬したことや、彼のおかげで自分が変われたことを語る。聴衆が彼女に応援の声を掛ける中、美輝は俊也を見つけてキスをする。
恋愛劇としては、収まるトコに収まったわけだ。で、選挙の方は、圧倒的大差で美輝が勝利する。
なんでだよ。
「候補者が自分の秘書と恋仲だった」って、それだけでも落選しておかしくない要素だぞ。それ以外でも、美輝が圧倒的大差で勝利する筋書きを納得させられるような要素なんて何も無いぞ。(観賞日:2020年1月29日)