『Returner リターナー』:2002、日本

ミヤモトはブラック・マネーを強奪して依頼者に戻す、通称“リターナー”だ。10月20日、ミヤモトは人身売買の取り引き現場で、親友を殺して臓器を売り飛ばした憎き相手、溝口を発見する。だが、ミヤモトは空から降ってきた少女に邪魔され、溝口を取り逃がす。
その少女ミリは、ある任務のために2084年の未来からやって来たと語った。彼女の任務とは、全人類を滅亡させる宇宙生物ダグラの最初の一匹を殺すことだった。最初のダグラが母船を呼んで戦争が勃発し、2084年に人類が滅亡するのだという。
ミヤモトはミリの懇願を受け、彼女の任務に協力することになった。戦争が勃発したのは、2084年の10月22日だ。あと3日間で、ダグラを殺さねばならない。ミヤモトとミリは情報を得て筑波の宇宙開発研究所に潜入し、最初のダグラを発見した。
しかし、ミヤモトとミリが目にしたダグラは地球侵略を企む凶悪な生物ではなく、ただ故郷へ帰りたがっているだけだった。情報屋の謝と会った2人は、人間が最初のダグラを殺したことで戦争が始まったと気付く。ミヤモトは、ダグラを殺したのが溝口だと確信した。ミヤモトとミリは、ダグラをマザーシップに帰すべく行動を開始した…。

監督&脚本&VFXは山崎貴、共同脚本は平田研也、製作は亀山千広&島谷能成&阿部秀司、企画は関一由&宮下昌幸&島村達雄&長瀬文男、プロデューサーは宅間秋史&堀部徹&安藤親広、アソシエイトプロデューサーは前川万美子&小出真佐樹、撮影は柴崎幸三&佐光朗、編集は田口拓也、録音は佐藤忠治&田中靖志、照明は上田なりゆき、美術は上條安里、アクション監督は高橋伸稔、トータルアクションサポートは恒吉竹成、特殊監督は尾上克郎、ビジュアルエフェクトディレクターは渋谷紀世子、音楽は松本晃彦、主題歌はレニー・クラヴィッツ『DIG IN』。
出演は金城武、鈴木杏、岸谷五朗、樹木希林、清水一哉、川合千春、岡元夕紀子、村田充、飯田基祐、ディーン・ハリントン、趙暁群、高橋昌也、石井愃一、松浦隆、PATRICK、稲宮誠、島津健太郎、森嶋將士、金原泰成、本宮賢二、鈴木雄一郎、徳山貢介、池田猛、樋口真嗣、神谷誠ら。


『ジュブナイル』で監督デビューを果たした特撮マン出身の山崎貴の第2作。今回も監督、脚本、VFXの3役を担当している。
そもそもは『ジュブナイル』の続編として企画された作品が基になっているらしい。
ミヤモトを金城武、ミリを鈴木杏、溝口を岸谷五朗、謝を樹木希林が演じている。
今回、VFXは260カット使われているそうだ。

メイン3人は、明らかにミスキャスト。
まずミヤモト役の金城武は、とにかく日本語台詞を喋らせると、ぎこちなくて仕方が無い。この人を邦画で起用するなら、英語や中国語で喋らせるか、無口な役柄にするか、どちらかに限定した方がいいだろう。
次にミリ役の鈴木杏は、生意気で大人ぶったキャラクターを演じているが、その男っぽい口調が、どうにも口に馴染んでいない。それと、厳しい戦場から来たはずなのに、いかにも栄養たっぷりですと言わんばかりの、ふっくらした頬ってのは違うだろうに。
溝口役の岸谷五朗は、ヤクザの幹部やチンピラ軍団の親分というなら、良く分かる。しかし、武装集団を率いて研究所を襲撃するような巨悪のボスには似合わない。彼は、そこまでのスケールの大きさを感じさせるようなタイプの役者ではないのだ。

序盤、ミリの持っている時間停止装置ソニックムーバーの回数制限が6回であることが、いかにも伏線っぽく提示されている。ところが後半になると、そんなことは完全に忘れ去られている。6回という制限回数に、どういう意味があったんだろうか。
ミヤモトと死んだ友人の幼少時代が何度か挿入されるが、その回想シーンは要らない。というか、その設定自体を全く使いこなせていない。ミリが弟を亡くしたという設定と絡ませようとしているのかもしれないが、それも上手く行っていないし。
ラストシーンは余韻を残して終わらせればいいのに、長々と説明してダレてしまう。ミヤモトが胸に入った鉄板に「借りは返した」と書いてあるのを確認した段階で、観客も分かってるのよ。そこを詳しく説明することには何の効果も無くて、完全に蛇足だよ。

さて、どうやら山崎監督は確信的に、ヒット映画を中心にして色々な所から要素を頂戴している。最初のミヤモトの衣装や動きは、明白に『マトリックス』だ。『MI:2』そっくりのアクションシーンもあるし、ミヤモトとミリの関係は『レオン』を感じさせる。ダグラの擬態戦闘機は、『超時空要塞マクロス』のバルキリーのガウォーク形態っぽい。
だが、模倣することが全て悪いわけではない。模倣という意味では、例えば『マトリックス』だって様々な作品から拝借している。衣装は『ザ・クロウ』の真似っぽいし、日本のアニメも色々と取り込んでいる。あと、『レオン』だって『グロリア』の模倣だ。
重要なのは、模倣の要素を寄せ集めたモノを、どのように見せて行くのかという部分にある。その点で今作品は、大げさに誇張するとか、パロディーにするといった方法を取っていない。そんで結局、まんま模倣を並べただけの劣化版コピーになっている。もっと荒唐無稽にやれば、模倣の寄せ集めでも充分に楽しめたと思うのだが。

ただし、物語の方は見事に荒唐無稽だ。例えば2002年にダグラが地球襲撃を開始して人類の大半が死んだはずなのに、2084年のチベット山奥の人々はハイテクノロジーな道具を色々と所持している。そこには世界各地から生き残った人が集まっているはずだが、ミリ以外は西洋人ばかり。ね、荒唐無稽でしょ(ということにしておこう)。
研究所での爆発事故なんて大規模なんだから新聞やテレビで報道されていると思うのだが、なぜかミヤモトとミリは謝に聞くまで全く知らない。まあ、そういうことを言ってしまえば、警察や政府も全く動いていないが。つまり、荒唐無稽ってことだ。とにかく、どう考えてもマジな科学考証も行っていないだろうし、荒唐無稽なシナリオになっている。

ところが監督、妙なところで日本人気質が出てしまったのか、そういうバカっぽい内容を、マジに作っちゃったのである。ミヤモトとミリの掛け合いでユーモラスな雰囲気を出そうとしているのかもしれないが、流れを止めてまで、場違いでフィットしないコミカルさを入れるのは、全体を荒唐無稽なテイストにするのとは全く意味が違う。
そもそも、「迷子のガキンチョ宇宙人を親に返さなかったから、戦争が起きて人類が滅亡した」というんだから(そこだけ取ると、ちょっとファミリー映画っぽいノリだ)、見事にバカバカしい話なのだ。それを大マジ&ハードにやってるんだから、ちょっと辛いね。

荒唐無稽になっていないので、「タイム・パラドックスの問題はどうすんだ?」とマジにツッコミを入れたくなってしまう。ダグラの問題を解決できたら、その段階で未来も変わるわけで、ミリの弟も死んでいないし、そもそも別の未来にミリは戻ることになるわけだ。というか未来が変わっているんだから、ミリが帰る場所は無いと思うぞ。

たぶんVFXやアクションシーンがセールスポイントなのだろうが、どこかで見たようなモノばかり。何しろ、その手のモノが良く使われているSFアクションというジャンルで、前述したように模倣を並べているわけだから、そりゃ新味が無いのも当然だ。
山崎貴監督は1つ1つの見せ場を演出する力はあるが、全体を構成する能力やストーリーテリングの能力、人間ドラマの表現力は低いようだ。これからは、アクションとVFXだけで引っ張れるような、単純明快で中身カラッポの映画を担当した方がいいだろう。

 

*ポンコツ映画愛護協会