『リゾートバイト』:2023、日本

深夜、内田桜は真っ暗な旅館「八代屋」の扉を開けてスマホのライトを付け、恐る恐る階段を上がって2階へ移動した。彼女が扉を開けて廊下を進むと、突き当たりには何枚もの護符が貼られた引き戸があった。桜は引き戸の前に立ち、怯えた様子を見せた。大きな物音が響き、彼女は悲鳴を上げた。2週間前、桜は同じ大学に通う真中聡、専門学校に通う華村希美という幼馴染3人組で、砒石島へやって来た。休みの期間を利用して、八代屋でアルバイトをするためだ。
八代屋の従業員である岩崎公太が、船着き場まで桜たちを迎えに来た。彼は大正時代に青森の偉い坊主が来た場所であること、信心深い言い伝えが色々とあることを桜たちに話した。八代屋に到着すると女将の八代真樹子が笑顔で挨拶し、調理場で働く夫の健介を紹介した。健介はぶっきらぼうな男で、左足を引きずっていた。岩崎は桜たちに、普段は3人で仕事をしているが、健介が怪我をしたのでバイトを雇ったのだと説明した。
深夜、桜は廊下を歩く人の気配で目を覚ました。次の夜も人の気配を感じた彼女が廊下に出ると、歩いて行く真樹子の後ろ姿が見えた。桜は後を追うが、角を曲がると真樹子の姿は消えていた。翌朝、岩崎は桜たちに肝試しをやろうと持ち掛けた。彼は旅館に秘密の部屋があると言い出し、夜中に真樹子が料理を運ぶのを見たと告げる。彼は「扉を開けて中に入って行った。中から階段を上がる音が聞こえた。5分ぐらいで出て来ると、お盆が空になっていた」と語り、その謎を解き明かそうと提案した。
桜は怖がるが、希美が前向きな態度を示した。彼女は2人1組でやろうと言い、桜と聡が先に行くよう促した。希美は桜と聡が互いに好意を抱いていると知っており、くっ付けようと考えていたのだ。聡は怖がる桜に階段の下で待つよう言い、2階へ向かった。扉を開けた彼は中に入らず、しゃがみ込んで何かを食べ始めた。桜が話し掛けても、聡は無視して食べ続けた。桜はスマホのライトを聡に当て、大声で話し掛けた。すると聡は不気味な目で鋭く睨み付け、桜は怯えた。
聡は何事も無かったかのように、「どうした、大丈夫か」と桜に問い掛けた。口の周りには食べカスが付いていたが、聡は自身の行動を全く覚えていなかった。彼の足の裏には、切った爪が幾つも突き刺さっていた。そこへ真樹子が来て、「何をしてるんですか」と質問した。岩崎が希美と共に駆け付け、肝試しをしていたのだと弁明した。翌朝、桜が仕事を始めると真樹子が現れ、無言で笑みを浮かべた。聡は夫婦の客を迎えるが、なぜか子供がいるような対応をした。
聡は桜と休憩している時にも、子供がいると言い出した。桜には何も見えなかったが、聡は「あそこにいる」と言い張った。桜が聡を部屋で休ませると、彼は「窓の外から誰かが覗いている」と怯えた。そこへ希美が来ると、聡は「覗いていた奴が入って来た」と言い出した。彼は窓から飛び出し、桜は慌てて追い掛けた。すると聡は左肩に残っている掴まれた痕跡を見せ、「どっかに連れて行こうとしたんだ、俺のこと」と漏らした。
その夜遅く、桜は2階の部屋へ赴いた。扉を開けると、廊下の隅には残飯の皿と護符があった。廊下を奥へ進むと、何枚もの護符が貼ってある引き戸があった。桜が引き戸を開けると、部屋は何かの儀式を行うような状態になっていた。部屋の隅には小さな箪笥が置いてあり、3段の引き出しがあった。上の引き出しには「禁忌」と書かれた紙と大量の爪、真ん中には幾つの歯が入っていた。階段を下りて来た桜の口元には大量の食べカスが付着していたが、本人は何も覚えていなかった。
翌朝、桜は聡と希美に、2階の部屋へ行ったことを打ち明けた。島の中学生4人組が歩いてきた時、桜と聡には5人目が見えた。5人目の両目が怪しく変化して歩いて来ると、桜と聡は逃げ出した。2人はスーパーに隠れるが、桜が不気味な少年に腕を掴まれた。2人は逃亡し、不気味な少女が来るので隠れた。逆方向から不気味な少年が来たので、桜と聡は逃走した。希美は岩崎に、護符の部屋へ行くよう要求した。岩崎は怖がりながらも、引き戸を開けた。すると中から手が伸びて岩崎の腕を掴み、希美は逃げ出した。
聡は囮になると言い出し、桜に「あいつを撒いてから合流しよう」と告げた。彼は桜を逃がし、少年をおびき寄せて逃亡する。しかし4人の子供たちに包囲され、逃げ場を失った。桜が待っていると、健介と希美と岩崎がバンで現れた。健介は険しい形相で、「お前、あそこへ行ったな」と桜に問い掛けた。聡の絶叫が響き、桜は急いで現場へ向かった。すると聡は倒れ込み、動かなくなっていた。希美がスマホで医者を呼ぼうとすると、健介は「無駄だ。そういうもんじゃない」と述べた。
健介は岩崎に、旅館へ戻って真樹子の様子を見て来るよう指示した。彼は聡をバンに乗せ、桜と希美を連れて寺へ向かった。希美が2階の部屋は何なのかと尋ねると、健介は島の古い言い伝えを説明した。それは海で子供が行方不明になると、部屋に臍の緒を備えて扉に護符を貼り、毎晩の食事を積み上げれば帰って来るという言い伝えだ。八代夫婦は4年前、14歳の息子を海で亡くしていた。それ以来、真樹子が食事を運ぶようになり、健介は住職の佐々木六朗に相談していたのだと明かした。
健介が寺のある弘法山に着くと岩崎が来て、旅館に真樹子がいなかったことを知らせる。佐々木は桜たちに、「聡の魂は持って行かれてる。いずれ体も朽ちる」と話す。桜が助けてほしいと頼むと、彼は「まずは我が身を案じろ」と警告した。岩崎が不安を吐露すると、佐々木は「島で魂を抜かれたのは若い者だけだ。中年に用は無い」と述べた。佐々木は聡に対して呪術による蘇生を試すと言い、桜に「その前にアンタだ」と告げた。彼は希美たちに聡を屋敷へ運ぶよう指示し、桜を本堂へ連れて行った。
健介は希美に、佐々木が14歳の娘を海で亡くしていることを教えた。佐々木は桜に、明朝まで本堂で滞在するよう指示した。彼は「童の憑き物を祓う。除霊が終わる夜明けまで、言葉を発することは許されない。扉を開けることも、食べることも、寝ることもだ」と説明し、護符を障子に貼って本堂を去った。夜、本堂の外からは奇声が響き、障子を這う手足の型が付いた。しばらくすると、今度は引き戸を何度も激しく叩く音が聞こえた。
音が止むと、桜は引き戸を開けた。すると帽子をかふぷった巨大な女の怪物が立っており、桜の魂を吸い取って姿を消した。佐々木は希美と岩崎に、八尺様の仕業だと告げた。八尺様は身の丈八尺の巨大な女で、声を自在に操って十代の若者や子供たちを連れ去るのだと佐々木は解説した。さらに彼は、桜と聡が目撃したのは八尺様に魂を奪われて成仏できなかった子供たちであり、助けを求めようとしていたのではないかと語っった。
佐々木は「奪われた魂を朝までに取り戻す」と言い、桜と聡の魂は旅館の2階の部屋に留め置かれていると述べた。ただし魂を取り戻すことが出来るのは本人だけなので、2人の体に別の魂を入れて操るためのに禁忌の術を使うと彼は話す。失敗すれば二度と魂は戻らないと言われた希美は怖くなるが、覚悟を決めて桜の体に入ると申し出た。岩崎は聡の体に入るよう要求されるが、頑なに拒否した。佐々木は自分が聡の体に入ると言い、儀式を執り行った…。

監督は永江二朗、原作は投稿者『日向麦』、脚本は宮本武史、製作は藤原信幸&上野境介&加瀬林亮&小山洋平&桑原佳子、プロデューサーは上野境介&伊藤修嗣、撮影は早坂伸、照明は東田保志、美術監督は遠藤剛、編集・VFXは遊佐和寿、録音・整音は指宿隆次、主題歌『しあわせレストラン』は弌誠。
出演は伊原六花、藤原大祐、梶原善、佐伯日菜子、秋田汐梨、松浦祐也、坪内守、やなしまみほ、伊原木隆太、黒田志音、希咲うみ、ルーク、濱田華、大岩主哉、有賀とういちろう、浦宗航、織田彩未、寺島弘樹、鳴海壱成、中田凱仁、藤岡紗丞、淺岡和花、坂本宝愛、安倉柚羽、川瑛斗、村上優衣、白井孝誠、紀伊凛香、奈波希弦、伊達萌々香、澤井さと子、山口瑛巧、道本成美、坪井楓侑、玲唯ら。


ネットミームを基にした作品。
永江二朗が『真・鮫島事件』『きさらぎ駅』に続く「ネット都市伝説3部作」の最終作として監督を務めている。
脚本は『きさらぎ駅』でも永江監督と組んだ宮本武史が担当している。
桜を伊原六花、聡を藤原大祐、佐々木を梶原善、真樹子を佐伯日菜子、希美を秋田汐梨、岩崎を松浦祐也、健介を坪内守が演じている。
「日向麦」という投稿者が書き込んだリゾートバイトのネットミームだけでなく、そこに「八尺様」という別のネットミームも組み合わせている。

粗筋で書いたように、のっけから桜が怯えるシーンを見せて観客を怖がらせようとしている。だけど、時系列を入れ替えて、そのシーンから始める意味を全く感じないのよね。
例えば「怪物が現れて人を襲う」とか、そこぐらいまでの出来事を描くのであれば、そういうのを最初にカマしておくのも分からんではないのよ。
だけど、「物音がしてヒロインが悲鳴を上げる」ってだけでは、どういう状況なのか良く分からないし。
その程度だと、恐怖よりも「なんだか良く分からん」ってのが大きくなるのよね。

岩崎が旅館へ案内する途中で「青森の坊主が云々」などと説明するのは、たぶん佐々木が「呪術で蘇生させる」と言い出した時に「突飛なことを言い出したな」と思わせないための作業だろう。
ただ、そんな説明があろうと無かろうと、大して変わらないんだよね。バカらしいっちゃあバカらしいし、世界観として有りっちゃあ有りだし。
まあ、どっちにしても陳腐ではあるんだけどさ。
そこに説得力を持たせようとするのなら、前半の内に呪術による不可思議な現象の1つでも見せておかないと厳しいんじゃないかな。

旅館に着いた夜、桜は廊下を歩く人の気配で目を覚ます。だったら、その夜の内に廊下を歩く真樹子を目撃させた方がいい。ただ単に目を覚ますだけなら、無くてもいい。
っていうか夜中に誰かが廊下を歩くことぐらい、普通にあるでしょ。
それだけなら、別に不審な行動とは言えない。急に尿意を催すとか、何か用事がある場合もあるだろうし。
実際、岩崎は「真夜中に健介に叩き起こされ、倉庫の固形燃料を運んでおいてくれと言われた」と語るし。

旅館に着いた時、2階の窓から白い服の人物が覗いている。桜が視線をやると消えており、まるで怪奇現象のように演出している。
だけど、たぶん真樹子でしょ、それって。なので、このコケ脅しは意味が無いよ。
桜たちが調理場を去った後、健介が持っている血の付いた包丁カメラがアップで捉えるが、これまた後に繋がらない余計なコケ脅しだ。
ホラー映画だから、序盤から不安を煽るのは悪いことじゃない。だけど、まだ何も起きていない内から、コケ脅しが過剰だし、先走り過ぎている。

で、そんな風に序盤からコケ脅しを重ねておいて、「桜が夜中に人の気配で目を覚ます」という様子を描いた後、シーンが切り替わって朝になると、「桜たちが島で生活する様子」を明るい青春ソングに乗せてダイジェストで見せるのよね。
まるで「キラキラした青春ドラマ」みたいな演出になっているのだ。
そこまで極端に真逆のテイストへ振り切るぐらいだから、意図的にやっているんだろう。
だけど結果としては、完全に外している。

岩崎は肝試しを提案した時、秘密の部屋があると言っている。だけど、旅館の外観を見れば2階があるのは誰の目にも明らかだ。そして2階へ上がる扉は、普通に誰の目からも見える場所にある。そして誰でも簡単に入れるので、ちっとも秘密じゃないんだよね。
あと、なぜ岩崎が真樹子に部屋のことを尋ねないのかという疑問も沸くし、それを桜たちが疑問に思わないのも引っ掛かるし。真樹子に見つかった翌朝、微笑むだけで部屋のことを何も言わないのに桜たちが全く気にしないのも引っ掛かるし。
桜たちが真樹子に「あの部屋は何ですか」と質問しないのも、これまた引っ掛かるし。せめて聡がおかしくなった時には、質問すべきだろ。
そんな行動を取らず、いきなり「夜中に部屋へ行く」という行動に出る神経が理解できん。しかも、夜中じゃなくて昼間でもいいだろうに。

聡は2階の部屋に入った翌朝、子供の姿を目撃するようになる。
ただ、1人目と2人目は「他の人には見えない子供を目撃する」というだけで、特に怖がる様子は無いんだよね。それなのに、部屋で休んだ途端に「誰かが覗いている」と怯え始めるのは、どういうことなのか。
あと、子供が無言で近付いて腕を掴んだら怖いだろうけど、そこからどうなるのかが分からないので「ちょっとビビりすぎじゃないか」とも感じる。
「誰かが子供の悪霊に連れ去られて失踪している」とか、「子供を見た人間が死体で見つかっている」といった話を聞いたり事例があったりするならともかく、そういうことでもないからね。

本堂で数々の怪奇現象に怯えていた桜が、音が止んだ途端に引き戸を開けるのはアホ丸出しだ。
八尺様が引き戸を開けさせる罠を仕掛けたならともかく、そうじゃないからね。「音が止んでホッとしたから外へ出ようとした」ってだけだからね。
あれだけ「夜明けまで本堂から出るな」と佐々木にキツく厳命されていたのに、まるで聞いちゃいなかったのかと。
その行動は、スラッシャー映画で序盤に殺害される雑魚キャラみたいなバカバカしさだぞ。

それまでは「童の憑き物が魂を奪う」という話だったのに、急に八尺様という怪物が登場する。ここで「リゾートバイト」のネットミームだけでなく「八尺様」のネットミームが入って来るのだが、何も考えず無造作に合体させただけなので、まるで上手く混じり合っていない。
八尺様について佐々木の解説が入ることによって、今までの話は丸ごとチャラになる。見事なぐらい、大胆に梯子を外している。
急に飛び出した話によって全てを塗り潰すのは、見事などんでん返しなんかじゃなくて、ただデタラメなだけだ。整合性とか辻褄は完全に無視しているし。
「ホラーだから何でも有り」とか、そんなことは無いからね。

ネタバレを書くが、佐々木は儀式に失敗する。そして佐々木が桜の体に入り、希美が岩崎、岩崎が聡に入ってしまう。
TPOを考えないギャグシーンを持ち込んでいるわけだが、どういうつもりなのかと。それは「恐怖と笑いは紙一重」ってのと、まるで別物だからね。終盤に入って、急に真正面から笑いを取りに行くのだ。
それ以降も、八尺様との追い掛けっこでレースゲームの映像を挿入するとか、急に桜と聡がロマンティック・モードになるとか、やたらとコメディー色が強くなっている。
全編に渡ってホラー・コメディーにしているなら理解できるけど、なんで終盤だけ笑いの要素を強くするのかと。

(観賞日:2024年9月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会