『レンタネコ』:2012、日本

サヨコは子供の頃から、なぜか周りに猫が寄って来た。しかし人間にも寄って来てもらいたいので、彼女は「今年こそ結婚するぞ」という目標を紙に書いて家の中に貼り出した。2年前に祖母を亡くしたサヨコは、広い一軒家で数匹の猫たちと暮らしている。レンタネコ屋を営むサヨコは、リヤカーに猫たちを乗せて町を歩く。子供たちは彼女を怖がり、「猫ババア」と言って逃げ出す。しかしサヨコは全く気にせず、猫のレンタルを宣伝する。
吉岡という上品そうな老婦人がサヨコに声を掛け、猫を借りたいと申し入れた。14歳のチャトラが気に入った吉岡に、サヨコは「猫たちが気持ち良く過ごせるかどうか、審査があります」と説明した。彼女が家の確認に赴くと吉岡は広いマンションに一人で暮らしていた。吉岡は夫が死んでから猫のモモコと暮らしていたが、去年亡くなったのだと話す。彼女は息子が好きだったゼリーをサヨコに作り、チャトラを見て「モモコちゃんが戻ってきたみたい」と口にした。
サヨコは「審査は合格です」と吉岡に言い、借用書にサインしてもらう。彼女は前金に千円だけ請求し、「生活は大丈夫なの?」と心配する吉岡に株で儲けていることを語った。後日、サヨコは隣に住む老女から「知り合いに調べてもらったんだけどね、アンタの前世はセミだって」と言われて不快感を覚えた。吉岡が死んだという連絡を受け、サヨコはチャトラの引き取りに出向いた。すると吉岡の息子が電話を掛けており、マンションが想定より安価でしか売れないことへの不満を漏らしていた。冷蔵庫に大量のゼリーを見つけた息子が処理に困っていると、サヨコは1個だけ分けてもらって自宅で食べた。
サヨコがリヤカーを引いてレンタネコ屋を宣伝していると、吉田という男が興味を示した。一匹の猫が気に入った彼に、サヨコは審査があることを説明した。彼女は吉田のマンションを訪れ、6年前から単身赴任していること、ようやく来月には家族の元へ帰れることを聞く。しかし吉田は娘から臭いと言われ、ショックを受けていた。サヨコは彼に猫をレンタルし、マンションを引き払う日に電話を受けて引き取りに行く。すると吉田は「別れられなくなった」と言い、猫を引き取らせてほしいと頼む。猫アレルギーの妻も説得したと彼が言うので、サヨコは「どんなことがあっても最期を看取る」と約束させて承諾した。
「ジャポンレンタネコ」という支店に入ったサヨコは、猫の種類によってランク付けされていることに腹を立てた。店員の保護した雑種がCランクで安いことを知った彼女は、「誰かにとって最高の猫だったとしたら、どうするんですか」と抗議した。彼女が「Cランクの猫をAランクの値段で借ります」と言うと、自分の飼っている猫が出て来た。それは全て、サヨコが見ていた夢だった。うだるような暑さの中でレンタネコの商売に出た彼女は、「ハワイ旅行が当たる」という幟を見てレンタカーショップ「ジャポンレンタカー」の支店に入った。彼女が抽選くじを引こうとすると、受付係の吉川は車を借りてもらう必要があることを説明した。
吉川が車種によってAからCまでランク付けがあることを話すと、サヨコは腹を立てて抗議する。サヨコが「貴方は何ランク?」と訊くと、吉川は少し考えてから「私はCランクです」と言う。彼女は勤務して12年になること、全ての仕事を任されていること、客は少なく家に帰っても1人であることを語る。サヨコが猫の貸し出しを持ち掛けると、吉川は一緒にランチを食べてほしいと頼んだ。吉川が1匹の猫を気に入ると、サヨコはレンタルを快諾した。借用書の「期間」の項目に、彼女は「待ち人が現れるまで」と書いた。後日、電話を受けたサヨコが店に行くと、吉川は初めて車を借りたら抽選くじでハワイ旅行が当たったことを話す。彼女は旅行に行く間、猫を預かってほしいとサヨコに頼んだ。
サヨコはエサを缶詰に切り替えようかどうか、猫たちに意見を求めた。猫たちが何の反応も示さないので、彼女は「確固たる意見を持って、しっかり主張してください」と説教した。レンタネコ屋の仕事に出掛けたサヨコは、中学時代のクラスメイトである吉沢と遭遇して声を掛けられた。彼女が「人違いです」と嘘をついて去ろうとすると、吉沢は「猫貸してよ、今日1日だけ」と言う。彼は行方不明の叔父を捜すために明日からインドへ行くと話すが、すぐにサヨコは嘘だと見抜いた。吉沢は中学時代から、嘘ばかり言っていたからだ。サヨコは走り去るが、吉沢は家まで押し掛けて来た…。

脚本・監督は荻上直子、エグゼクティブ・プロデューサーは大島満&室川治久&喜多埜裕明、プロデューサーは久保田暁&小室秀一&木幡久美、撮影は阿部一孝、照明は松尾文章、録音は木野武、美術は富田麻友美、編集は普嶋信一、エンディングイラストは くるねこ大和、音楽は伊東光介、音楽プロデューサーは近藤貴亮、エンディング『東京ドドンパ娘』唄は平井ひらり。
出演は市川実日子、草村礼子、光石研、山田真歩、田中圭、小林克也、眞島秀和、児玉貴志、荒井春代、柴田龍一郎、恒松祐里、渡邉亜門、石井拓巳、鈴木孝正ら。


『かもめ食堂』『めがね』『トイレット』の荻上直子が脚本&監督を務めた作品。
制作したスールキートスは『めがね』でプロデューサーを務めた木幡久美が設立した会社で、『トイレット』も手掛けている。
サヨコを演じた市川実日子は、スールキートスに所属する唯一の役者だ。
吉岡を草村礼子、吉田を光石研、吉川を山田真歩、吉沢を田中圭、謎の隣人を小林克也が演じている。
これまで荻上直子の映画には全て、もたいまさこが出演していたが、今回は参加していない。

サヨコはレンタネコ屋をやっているが、これで生活費を稼ごうという気は無いらしい。吉岡か生活は大丈夫なのかと問われると、彼女は株で儲けていることを話す。その後、実際にサヨコがパソコンを使って株を買っているシーンがある。
ただ、株を買っているのが夜なのよね。それは絶対に有り得ないでしょ。夜中に株式市場は開いてないでしょ。
そこを「寓話だから」ってことで受け入れるのは絶対に無理だ。
っていうかさ、「どんな方法で生活費を稼いでいるのか」ってのを具体的に描く必要性なんか無いのよ。作品のテイストを考えても、そこはフワッとさせておけばいいのよ。
中途半端にリアリティーを持たせても、生々しさが見えてマイナスしか無いわ。

レンタネコ屋ってのは、なかなか客が来ないような商売なのかと思ったら、すぐに吉岡が声を掛ける。なので、のっけから不自然さが満開になっている。
寓話として捉えるにしても、「レンタネコ屋は客に困らない商売」という描き方は受け付けないわ。
そもそもレンタネコ屋って、嫌な感じのする商売なのよね。猫に癒やしを求めるのは別に構わないんだけど、それを売りにして人にレンタルするってのは、どうなのかと。
猫にとっては生活環境も重要なのに、貸し出される度にコロコロと場所も飼い主も変わるわけで。それって借り手からすると癒やされるかもしれないけど、猫にしてみりゃ相当なストレスになるんじゃないかと。
自分のストレスを猫に肩代わりしてもらうような形になるわけで、それって完全なるエゴだよね。猫を愛する気持ちは皆無だよね。

借り手だけじゃなくて、サヨコにしても猫への愛が感じられないのよね。そういう商売を平気でやっているわけだからね。
しかも審査があるとは言うけど、すんげえ適当だし。借用書も手作りで、「猫を貸し出す」というビジネスを真剣に考えているようには到底思えない。
たまたま借りた相手が悪い奴じゃなかったというだけであって、サヨコの適当な審査だと、猫が酷い目に遭っても仕方がないんじゃないか。ちっとも猫を大切にしていないように見える。
便利で都合のいい道具としか扱っておらず、猫への思いやりが欠けているんじゃないかと。表面的には可愛がっているが、根本的な部分で大きく間違えているようにしか感じられない。
あと、死ぬまで永遠にレンタルできるってことは、もはやローンで売却したのと一緒じゃないのかと。

サヨコは「人間にも寄って来てもらいたい」と冒頭で語っているが、序盤から普通に客が寄って来るので、「ずっと猫は寄って来るけど人は寄って来ない状況が続いている」ってことは全く伝わらない。
また、「今年こそ結婚するぞ」と目標を紙に書いているが、これも全く意味が無い。実際に結婚するための行動を取ることは無いし、結婚願望が言動の中で感じられるシーンも無い。結婚したがっているという設定は、全く有効活用されていない。
吉岡のエピソードが終わると「焦りは禁物!顔で選ぶな」と書かれた紙が増えているけど、サヨコが顔で男を選ぼうとするシーンがあったわけじゃないのでピンと来ない。それどころか、サヨコが結婚相手として男を意識するようなシーンがあったわけでもない。
この設定は、完全に死んでいる。

最初のエピソードは、吉岡の息子がゼリーを食べているシーンで終わる。
だけど、それってマトモに着地できていないでしょ。上手い締め括り方が見つからず、途中で投げ出しちゃったような印象しか受けないぞ。
結局、吉岡にとって猫がどういう意味を持っていたのか、幸せな気持ちで最期を迎えることが出来たのか、その辺りはサッパリ分からない。
吉岡と息子の関係にも、猫は何の影響も与えていない。吉岡の息子は、猫に何の興味も示していない。
このエピソードって、実は猫の存在意義がゼロなのよね。エピソードの核となる部分を描かず、全く関係の無いトコだけを見せているような状態なのよ。

吉岡に猫を貸す時、サヨコは前金として1本だけ指を突き刺す。吉岡は1万円だと捉えるが実際は千円で、生活費を心配されたサヨコは他の仕事で儲けていることを語る。
このやり取り、次に借り手が現れた時も、同じことが繰り返される。でも、そこに天丼の笑いなど無い。2度目となる吉田のシーンで、早くも「またかよ」とウンザリするだけだ。
稼いでいる方法がその度に異なるが、ここにも笑いは無い。吉田の時には「占いで行列が出来ている」と話し、実際に占い師として活動するシーンも挿入されるが、「見事なぐらい外しているなあ」と感じるだけだ。
ちなみに吉川の時は前金が無いけど、それだけじゃなくて家の審査も無いんだよね。ホント、雑な審査だわ。

吉田のエピソードに関しては、吉岡の時と違って、猫の存在意義はそれなりに持たせることが出来ている。
ただし1つ目と同様に、中身はスッカスカなのよね。心に響くようなモノは何も無いし、ユルい雰囲気でほっこりした気持ちになれるわけでもない。
ほっこりするどころか、ちょっと不快感さえ抱いてしまった。それは、吉田が「猫アレルギーの妻を説得した。猫を飼えないから一緒に暮らせないと言った」と語ったトコだ。
自分の奥さんが猫アレルギーなのに、それでも飼うことを半ば脅迫するような形で強引に決めるって、どんだけ身勝手なんだよ。
そんな奴に猫を引き渡すサヨコも、「クソだな」と感じるわ。

サヨコは「ジャポンレンタネコ」で種類によって猫がランク付けされていることを知り、「誰かにとって最高の猫だったとしたら、どうするんですか」と激しく抗議する。
だけど、これを非難できるような商売を、アンタはやっていないでしょ。
それに何より、このシーンが時間の浪費にしか思えない。その後に「同じような出来事が実際にも起きる」という展開はあるけど、「だから何なのか」と思うだけだ。
なので夢のシーンは「余計な寄り道」と言いたいところだが、この映画は「ほぼ寄り道」で構成されており、ガッチリした本筋があるわけではない。

ジャポンレンタカーのシーンでサヨコは、車のランク付けに文句を言う。
だけど、車種によってレンタルの値段が違うのは当然であって。それを「差別的な考え方」みたいにマジで非難するのは、ただのクレーマーでしかないぞ。
しかも、それで終わらずに、サヨコは「貴方は何ランク?」とか言い出すんだよね。もうさ、ホントに疎ましい奴だわ。
向こうから話し掛けたり相談を持ち掛けたりしたのならともかく、そうじゃないんだから、ただデリカシーの無い失礼な奴でしかない。
これを「ハートウォーミングな話」みたいに見せようとしてるけど、何も共感できない。ここで猫のレンタルを持ち掛けるのも、あこぎな商売にしか思えない。

最後のエピソードでは、サヨコの中学時代の回想シーンが挿入される。「当時の吉沢の行動が現在のシーンと重なる」という形にしてあるが、何の効果も無い。
最後のエピソードだけはサヨコの個人的なドラマを掘り下げようってことなら、その趣向は分からんでもない。でも実際のころ、何も掘り下げていない。
「吉沢は嘘つきだけど、仕事が泥棒だという説明だけは本当だった」というエピソードなのだが、「だから何なのか」と言いたくなるだけだ。ホントに中身が何も無いまま終わってしまう。
「猫さえ出しときゃ間が持つだろう」とでも思っていたのなら、大間違いだぞ。しかも、そこまで猫を写し続けているわけでもないし。

(観賞日:2019年7月11日)

 

*ポンコツ映画愛護協会