『連合艦隊』:1981、日本
昭和15年9月、日本を取り巻く世界の情勢は日毎に緊迫の度を加え、日本海軍は激動の時を迎えようとしていた。政府はドイツ、イタリアと軍事同盟を結ぶべきか否かを巡って70数回の会議を開き、内閣も5度代わった。その間、一貫して慎重な態度を保って来た海軍も、ついに三国同盟に同意した。連合艦隊司令長官の山本五十六は海軍首脳会議において、「同盟を結べばアメリカが資源の供給を断る」と最後まで反対した。海軍大臣の及川古志郎が「内乱を避けるための止むを得ない決断だ」と説明しても山本の怒りは収まらず、「国家国民の存亡に関わる」と口にした。
船大工の小田切武市は妻を亡くした後、長女の照代、長男の正人、次女の加代、三女の美代と暮らしていた。正人が海軍兵学校に合格したと知り、彼は大喜びで妻の遺影に報告した。18年の海軍勤務で准士官止まりだった武市にとって、正人が兵学校から出世していくことは夢だった。一方、海軍兵学校を出た本郷英一は若くして海軍少尉に昇進し、婚約者の早瀬陽子と会った。彼は弟の真二が三高に合格したと知り、笑顔で祝福した。かつて英一は奈良博物館の館長を務める父の直樹から、兵学校行きを反対されていた。そんな彼は弟に、父の夢を叶えてほしいと頼んでいたのだ。
昭和16年6月、日本は破竹の進撃を開始した。ドイツに刺激されて南部仏印に進駐を強行し、アメリカは態度を硬化させて石油の輸出を禁止した。軍令部総長の永野修身は及川の前で、「山本の言う通りになって来た」と口にした。彼は南雲忠一が航空艦隊長官に着任した件に触れ、海軍大学校長を務める小沢治三郎の方が適任だと考えていることを明かした。山本は小沢を呼び寄せ、「ハワイを飛行機で攻撃できないか」と問い掛けた。
連合艦隊は空母を主軸とする機動部隊を結成し、第一航空艦隊司令長官の南雲と第一航空艦隊参謀長の草鹿龍之介は空母城に乗船した。山本を補佐する連合艦隊参謀長には、軍令部出身の宇垣纏が着任した。昭和16年9月16日、海軍大学校で軍会議が開かれ、軍令部次長の伊藤整一や部長の福留繁たちは真珠湾奇襲攻撃に反対した。彼らは艦隊決戦に持ち込む南方作戦を主張して譲らず、小沢は空母瑞鶴の完成を急がせて機動部隊の戦力を増やす案を提示した。それでも軍令部は承諾しなかったが、最終的には山本が押し切った。
昭和16年12月8日、英一は工藤飛曹長や友人の茂木たちと共に、空母瑞鶴飛行隊の九九式艦上爆撃機部隊として真珠湾へ向かった。奇襲は成功するが、空母がいないという報告を受けた山本は「意味が無い」と口にした。日本海軍は航空機時代の到来を自ら明かしながら、時代に逆行するように巨大戦艦大和を誕生させた。昭和17年2月12日、大和は連合艦隊旗艦となり、工作科分隊士となった武市も乗り込んだ。山本は早期和平を結んで戦争を終結させるためにミッドウェー海戦を提言したが、軍令部は南方作戦に固執した。しかし昭和17年4月18日に本土を空襲されて衝撃を受け、ミッドウェー戦を支持した。
南雲機動部隊と山本たちの主力部隊は、ミッドウェー島へ向かった。ハワイの時と違って芸者の鈴川さえミッドウェー海戦について知っており、英一は「いいのか、こんなことで」と漏らした。6月5日、第一次攻撃隊はミッドウェー島を空襲したが、事前に情報を掴んでいた米軍に万全の防衛体制で応戦された。爆撃の効果が不充分と見た第一次攻撃隊指揮官は、第二次攻撃の必要有りと打電した。南雲は索敵の結果から近くに敵の空母はいないと判断し、第二次攻撃隊の攻撃目標を敵機動部隊からミッドウェー島に変更した。
第二次攻撃隊が魚雷に爆弾に付け替えて出撃準備をしていると、後方に空母3隻が発見された。これを受けて、南雲は爆弾から魚雷に付け替えさせた。この時間ロスが致命傷となり、日本海軍は主力空母の大半を失って大敗を喫した。ガタルカナル島の攻防戦では米軍が空母ホーネットを失い、エンタープライズも大破した。一方の日本軍も空母2隻が大破し、残るは瑞鶴だけとなった。昭和17年10月26日、瑞鶴では第三次攻撃隊が編成され、英一は飛行長の下田久夫から指揮官に任命された。
第三次攻撃隊は出撃するが、茂木は空母2隻を失った米軍の編隊が瑞鶴へ向かうのを目撃する。彼は戦闘機隊を引き連れ、編隊を討つために引き返した。彼が編隊を撃墜したおかげで、瑞鶴の武田上整曹たちは助かった。しかし第三次攻撃隊は戦闘機無しでの突撃を余儀なくされ、無事に戻って来たのは4機だった。深手を負った工藤と帰還した英一は命令違反の茂木を殴り付け、「俺は絶対許さん」と激怒した。下田は部隊の溝が深まることを避けるため、茂木を転勤させた。
帰郷した英一は直樹に「婚約を取り消してほしい」と頼むが、花嫁姿の陽子が来ていることを知らされた。英一は彼女と旅館へ出掛けるが、「急に基地へ戻ることになった」と綴った手紙を残して去った。彼は真二への手紙に、「お前は生き残れ。学問は死ぬためにあるのではない」と記した。海軍兵学校を卒業した正人は、照代だけに軍艦ではなく飛行機に乗ることを明かした。昭和18年3月、ガダルカナル島を失った連合艦隊司令部は、小沢長官率いる機動部隊の艦載機までをラバウル基地に投入して連合軍の反撃を食い止めるしか無かった。それに対し、米軍は後方に下がって本格的な反撃に出る準備を整えていた。
英一はラバウルへ向かう途中で燃料が足りなくなったため、ブイン基地に立ち寄った。そこで彼は茂木と再会し、殴ったことを謝罪した。すると茂木は、「俺は殴られて当然のことをやったんだ。だがな、あの日死んだ仲間のことを忘れてはいないぞ」と話した。基地が爆撃を受けると彼は戦闘機で飛び立ち、そのまま戻って来なかった。山本は第三艦隊司令長官となった小沢の訪問を受け、「戦争を始めるのも難しいが、終わらせるのはもっと難しい」と語った。彼は制空権の無い前線視察に出るが、無電で情報が漏れて撃墜された。
英一は真二からの手紙で、学生の徴兵猶予が廃止されて海軍に入ることになったと知らされた。米軍の反撃が開始され、マリアナ沖海戦は日本軍の一方的な敗北に終わった。サイパン島守備隊は玉砕し、南雲中将は自決した。連合艦隊司令長官には豊田副武が着任し、神重徳が先任参謀を務めることになった。昭和19年9月29日、連合艦隊司令部は慶応義塾大学の地下壕に移った。その2週間後、米軍はフィリピン東南部のレイテに上陸を開始した。
豊田と神は小沢と会い、大和を始めとする9隻の栗田艦隊がレイテ島へ突入するための協力を要請された。司令部は小沢に、海峡にいるハルゼー機動部隊を北へ吊り上げる仕事を依頼する。それは撃沈覚悟の囮作戦だが、小沢は承諾して栗田の指揮下に入ることを申し出た。第一戦隊司令官となった宇垣は第二艦隊司令長官の豊田副武と参謀長の小柳に対し、、旗艦を大和に変更してはどうかと提案した。しかし豊田は「必要が無い」と却下し、宇垣は司令部の意見がまとまっていないのではないかと指摘した。
貝塚武男が艦長を務める瑞鶴には、左目の視力を失った工藤が乗り込んでいた。昭和19年10月20日、小沢艦隊は豊後水道を南下した。搭載した飛行機は4隻で108機であり、米空母の1隻分に過ぎなかった。武田や森整長たちは新しく着任した若い中鉢二飛曹から、「出撃したら二度と帰って来られないので敵艦に体当たりします」と聞かされた。武田は中鉢と仲間たちに、「着艦に失敗してもいいから、必ず帰って来い」と声を掛けた。
英一はロタ島から潜水艦で脱出して瑞鶴に戻り、転属して来たばかりの真二と再会した。彼は工藤が乗っていると知り、酒を酌み交わした。彼が「ずっと一緒だったが、今度こそ帰れんかもしれん」と言うと、工藤は「どこまでもお供します」と告げた。パラワン水道を進んでいた第二艦隊の空母愛宕は潜水艦の攻撃を受けて爆沈し、栗田たちの司令部は大和に移った。栗田艦隊が無事に海峡を突破し、大林参謀長から報告を受けた小沢はハルゼー機動部隊を北方へ吊り上げたと確信して全機出動の命令を下した。
英一は真二に手紙を残し、工藤と共に出撃した。この両名を含む多くの犠牲を出しながらも囮作戦は成功し、小沢は司令部と栗田への打電を指示した。しかし小沢の発した電報は、なぜか栗田には届かなかった。司令部からの激励電報も、なぜか栗田には届かなかった。栗田は背後に敵機動部隊が迫っているという報告を受け、囮作戦が失敗に終わったと誤解する。彼はレイテ島へ向かうべきだという宇垣の進言を聞き入れず、北方へ針路を変更するよう命じた…。監督は松林宗恵、脚本は須崎勝彌、製作は田中友幸、製作補は高井英幸、企画協力は児島襄&豊田穣、撮影は加藤雄大、美術は阿久根巌、録音は矢野口文雄、照明は小島真二、編集は黒岩義民、編曲は服部克久、特技監督は中野昭慶、音楽は服部克久&谷村新司、主題歌『群青』作詞・作曲・歌は谷村新司。
出演は小林桂樹、森繁久彌、鶴田浩二、永島敏行、金田賢一、丹波哲郎、古手川祐子、中井貴一、丹波義隆、三橋達也、高橋幸治、奈良岡朋子、松尾嘉代、財津一郎、長門裕之、中谷一郎、藤岡琢也、佐藤慶、神山繁、小沢栄太郎、金子信雄、佐藤允、安部徹、田崎潤、藤田進、友里千賀子、川島光代、里見奈保(鶴田さやか)、橋本功、なべおさみ、織本順吉、南道郎、近藤宏、長谷川弘、石田茂樹、伊藤敏孝、今西正男、加地健太郎、浜田寅彦、中山昭二、平田昭彦、富田浩太郎ら。
ナレーションは平光淳之助。
太平洋戦争をテーマにした映画。
監督は『恋の空中ぶらんこ』『関白宣言』の松林宗恵。脚本は『潮騒』『大空のサムライ』の須崎勝彌。両者は共に、旧海軍の出身。
企画が立ち上がってから映画の完成までに、4年の歳月が掛かっている。
山本を小林桂樹、直樹を森繁久彌、伊藤を鶴田浩二、英一を永島敏行、真二を金田賢一、小沢を丹波哲郎、早瀬陽子を古手川祐子、小田切正人を中井貴一、茂木を丹波義隆、草鹿を三橋達也、宇垣を高橋幸治、歌子を奈良岡朋子、鈴川を松尾嘉代、武市を財津一郎、武田を長門裕之、照代を友里千賀子、加代を川島光代、美代を里見奈保(鶴田さやか)が演じている。序盤で正人と英一が紹介されるので、当然のことながら2人の若者を中心にして物語が進んでいくのだろうと思った。
しかし実際には山本や宇垣など、海軍上層部の動きを描くシーンが多い。
とは言え、真珠湾攻撃やガタルカナル島攻防戦など「戦闘の現場」を描くシーンでは、下っ端である英一が主役として描かれている。
その一方、正人は作戦を決定する上層部でもなければ現場で戦闘に参加しているわけでもないので、しばらくの間は全く出番が無い。英一は命令違反の茂木を殴り付けた次の朝、下田から「瑞鶴も危うかった。戦闘機隊が引き返してくれなかったら、どうなっていたか」と聞かされる。彼は「茂木に会ってきます」と言い、転勤を知らされる。
茂木に会おうとするのは、下田の言葉で「自分が間違っていた」と反省したからだろう。
だが、下田の言葉を聞いた時の表情からも、「茂木に会ってきます」と言う時の様子からも、その心情を表現できているとは言い難い。
そこはシンプルに永島敏行の演技力不足が大きいが、もう少し演出の工夫があっても良かったんじゃないか。英一は帰郷して婚約の取り止めを父に頼もうとするが、花嫁姿の陽子が現れる。このシーン、陽子のアップで終わらせているが、英一の反応を見せるべきだ。
そこからシーンが切り替わると、英一と陽子が河原で楽しそうに喋っている。これだと、陽子の奇襲で英一の気持ちが変わったようにも見える。
笑顔から真剣な表情に変化するので別の思いがあることは伝わるし、置き手紙からは何も変わっていないことも伝わらないわけじゃない。
ただ、見せ方としては今一つで、本気で「死を覚悟したので婚約を取り止めよう」と腹を括ったのなら、陽子の奇襲を受けても「少し揺らぐけど、やはり決意は固い」という形で描いた方がいい。何なら陽子は奇襲は無くてもいいし。英一はブイン基地で茂木と再会した時、「生きてたのか」と笑顔で再会を喜ぶ。ここは完全にリアクションを間違えている。
そうではなく、殴ったまま別れたことへの気まずさを態度で示すべきじゃないかと。あるいは、いきなり謝罪するかの二択だろう。
ただ、茂木は「謝る必要は無い」などと話した直後に飛び立って、ナレーションで「そのまま戻らなかった」ってことが語られて出番が終わるんだよね。
彼を途中で死なせるのは別にいいんだけど、もう少しだけ粘った方がドラマとしては高まったんじゃないかな。英一はロタ島から潜水艦で脱出して瑞鶴に戻って来るのだが、そこの経緯は台詞で説明されるだけ。なので、どうしてロタ島にいたのか、どうやって潜水艦で脱出したのかという理由や経緯はサッパリ分からない。
日本海軍の動きを描くため、上層部を含む色んなキャラに目を向けるのは別に構わない。
ただ、その煽りを受けて、肝心なメインキャストである英一と正人の描写が疎かになっている。
正人なんて卒業した時にチラッと出てきた後、また完全に姿を消してしまうから、前半の出番が少ないこと少ないこと。粗筋の最後で触れたように、なぜか小沢の電報も司令部からの電報も栗田には届かない。
そのせいで彼は、囮作戦が成功したかどうか全く分からない状態でレイテへ向かっている。
そこに「南西方面艦隊司令部から、敵機動部隊有りとの打電があった」と部下が知らせたため、それがハルゼー艦隊だと栗田は思い込む。そのせいで栗田は予定を変更し、ますま日本は敗戦へ向かって突き進むことになるわけだ。
だが、なぜ電報が届かなかったのかは全く分からない。また、実際には背後に敵機動部隊はおらず、南西方面艦隊司令部が打電した事実も無かった。そのことはナレーションで説明されるが、「誰がどこで作成したかは今も謎」という説明で片付けられる。
実際に謎だから仕方が無いんだろうけど、この映画なりの考察や匂わせを持ち込むことも無いんだよね。
それなら全く触れずに済ませても良かったんじゃないかと。
肝心な部分に謎が多すぎるせいで作戦が失敗しているので、なんかモヤモヤするんだよね。英一が陽子に嘘をついて旅館から姿を消すのは、死を覚悟していたからであり、そこは理解できる。
ただ、真二に残した遺書に「俺は陽子を美しいままにしておいた。陽子を頼む」と書いてあるのは、ちっとも美しくない行動だ。
また、それを受けて真二が何の迷いも無く陽子に「兄貴の言葉をそのまま受け取りたい」と求婚するのも、これまた美しさが無い。
ところが映画では、そこを美しい人間ドラマのように描いているので、かなり気持ちの悪いことになっている。そりゃあ当時は「死に行く男が兄弟に婚約者のことを任せる」「長男が戦死したら婚約者が次男に嫁ぐ」みたいなことは、そう珍しいことでも無かったのよ。
ただ、それを感動的なエピソードのように提示されると、それは違うんじゃないかと言いたくなるのよ。
しかも、陽子は英一に惚れていたくせに、彼が死んだ途端、真二からのプロポーズを何の迷いも無く受けちゃうんだよね。
それって、ただの尻軽じゃねえか。
そんなのを「切なく美しい恋愛劇」みたいに描かれてもさ。正人が特攻隊員に志願して戦場にやって来るのは、英一が死んだ後になってからだ。だから、この2人は全く接点も無いままで終わっている。そこで主役の交代劇が行われているわけでもない。
そもそも、最後まで上層部を描く割合が多いから、どっちも「主役」ではないし。
そして主役か否かを抜きにしても、交代という作業も行われていない。バトンタッチは英一と真二の間で行われている。
そのため、英一のパートは明らかに浮いている。
中井貴一は松林宗恵がスカウトして本作品で役者デビューだが、監督権限でネジ込んだのかな。(観賞日:2025年10月30日)