『恋愛寫眞 Collage of our Life』:2003、日本

カメラマンの瀬川誠人(マコト)は、里中静流(シズル)と名乗っている。なぜ、そう名乗っているのか、その理由を一度も話したことは 無い。話しても、誰も信じないと思うからだ。その日、誠人はカメラマンをクビになった。彼はサラ金広告の写真を撮影したのだが、 クライアントの愛人の三流モデルが写真に文句を付けた。ビルから投げ出された広告代理店勤務の友人・白浜は、怒りをぶちまけた。 侮辱的な言葉を浴びた誠人は白浜を殴り飛ばし、それで下請広告店社長からクビを宣告された。
誠人は大学を出て就職もせずにプロのカメラマンになり、3年目に突入していた。アパートに戻ると、3年前に別れた静流からの手紙が 届いていた。手紙には、ニューヨークにいることや、そこにはWONDERがあることなどが綴られていた。彼女が趣味で撮影していた写真を、 たまたま雑誌社の人に認めてもらい、個展を開くことになったので来てほしいと書いてあった。同封されていた写真を見た誠人は「こんな 写真は今の自分には撮れない」と苛立ちを覚えた。暴れて右手を打ち付けた彼は、病院で診察してもらった。
1999年。大学生の誠人は、白浜が「アンアンのモデルだ」とスカウトした女子学生の写真を撮影した。しかし、それは「アンアンアン」と いう名のエロ雑誌だったため、騙されて写真を使われた女子学生たちは白浜に報復した。キャンパスを歩いていた誠人は、ある女子学生に 「ねえ、写真撮ってよ」と声を掛けられた。それが静流との出会いだったが、誠人は「見つけた」という気がした。
誠人が承諾すると、静流は近くで女子と喋っていた河合という男子学生を引っ張ってきた。静流は誠人に写真を撮影させて、河合にキスを すると見せ掛けてパンチを食らわせた。静流は誠人を引っ張って逃げ出した。彼女は水飲み場で口に含み、霧のように放出して虹を作った。 そして誠人に視線を向けて、「ちょっとしたWONDERだったでしょ?」と微笑を浮かべた。
静流は「写真がキレイに撮れていたら、あのバカ男に遊ばれた友達にあげるから一枚ちょうだい」と告げ、連絡先を言わずに立ち去った。 誠人が知らなかっただけで、静流は学内では有名人だった。ミステリアスな女だと評され、モテモテで言い寄る男は数知れなかった。誠人 は同じ講義を受けていた女子学生から、「雑誌のライターのバイトをやっているらしい」「ロスへ取材旅行に行っているらしい」「恵比寿 の高級マンションに住んでいるらしい」といった噂話を聞いた。
町を歩いていた誠人は、泣いている少女に声を掛ける静流の姿を目にした。少女は、風船が飛ばされて電柱に引っ掛かり、泣いていた。 静流は電柱に登り、風船を取ってあげた。その様子を見た誠人は、カメラのシャッターを切った。それに気付いた静流は、電柱の上で ポーズを決めた。静流は誠人が撮影した写真を見て、「どこでもドアみたいだ」と口にした。静流から「素敵な写真だね」と誉められて、 誠人は舞い上がった。彼は静流をモデルにして、何枚も写真を撮った。
誠人の女友達・みゆきは、静流が市山教授に恋人の如くベタベタしながら「聞いてほしいことあるんだよね」と話し掛ける様子を目撃した。 みゆきは誠人の元へ行き、彼が撮った静流の写真を目にして嫉妬心を覚えた。みゆきは「市山教授の授業が今日から休みになったのは、 静流と北海道へ不倫旅行に行ったから」と告げた。「見たのかよ」と苛立つ誠人に、みゆきは「見た」と答えた。
誠人がアパートへ戻ると、外に静流がいた。無視して部屋に入ろうとすると、静流は寂しそうに「独りぼっちにしないでよ」と告げた。 だが、「どうしたの」と尋ねると、彼女は「何でもないよ」と言う。何か袋を持っているので、それについて質問すると、やはり「何でも ないよ」と言う。「さっきから変だよ」と誠人が口にすると、静流は袋から位牌を取り出した。
誠人が部屋に招き入れると、静流は母親の死を打ち明けた。「お父さんがいなかった。お母さんはずっと独りぼっちだった。私は愛人の子 で、お母さんにとっては不幸の種だった。あたしが負担になって、その男と別れた」と彼女は語った。誠人は、市山と噂になっていること を教えた。すると静流は、市山が父親だと明かした。嫌がらせとして、静流は市山と付き合っているとか愛人だという噂を流したのだと いう。誠人は「そんなことしても、傷付くのはお前だけだよ」と告げた。
静流が帰ろうとするので、誠人はぶっきらぼうな口調で「もう少しいろよ。蜜柑、ぜんぶ食いきるまでさ」と告げた。この日から、静流は 誠人の部屋に住み着いた。「写真の撮り方、教えてよ」と静流が言うので、誠人はカメラを渡して説明した。静流はコインランドリーで 洗濯機の上に立ち、撮影しようとした。そこへオバサンが現れて「下りなさい」と言うが、静流は「一生下りない」と拒否した。オバサン が引っ張っても静流は抵抗して、その時にカメラが洗濯機へと落ちてしまった。
誠人と静流は、一緒に町を歩きながら写真を撮った。誠人がシャッターを切っていると、静流が撮りたそうな顔をするので、カメラを 渡した。静流は嬉しそうにシャッターを切った。静流が“日本カメラ、フォトコンテスト”の応募を誠人に知らせ、2人で応募した。誠人 は落選し、静流は新人部門奨励賞を受賞した。通知を受け取った誠人は、静流の書面をグシャッと握りつぶしてゴミ箱に捨てた。そこへ 雑誌を購入した静流が戻り、自分の写真が掲載されたページを嬉しそうに見せた。
卒業が近付く中、みゆきから「就職はどうするの?」と訊かれた誠人は、「カメラマンになる」と答えた。だが、何の当てがあるわけでも ない。「誠人ならやれるよ」と静流が言うので、誠人は「簡単に言うなよ。同情されたくないんだよ」と苛立ちをぶつけた。静流はポツリ と、「賞を取りたかったわけじゃない、誠人と同じ世界にいたかっただけだよ」と言った。
誠人は「お前は俺より上の世界にいるんだ、全然、別々の世界なんだ」と告げた。それが実質的に、別れを告げる言葉となった。静流は 「誠人がちゃんとプロのカメラマンになれるって信じてる。私たち、誠人がプロになるまで会わないことにしよう。待ってるから」と告げ、 誠人の元から姿を消した。それが2000年3月7日の出来事だった。そして本当に、二度と会わなかった。
2003年2月7日、病院の診察で、誠人は医師から右手の中指にヒビが入っていることを告げられた。大学の同級生・関口から電話があり、 誠人は同窓会に赴いた。みんな今の自分を自慢するために来ており、誠人は自分が浮いていると感じた。帰ろうとした時、みゆきが声を 掛けてきた。TBSの記者をしている彼女は、ニューヨークへ駐在員として行っていた時期があった。みゆきは誠人に、「静流が1年前に ニューヨークで殺された。捜査を担当した刑事から聞いたから間違いない」と語った。
誠人は静流の死を信じられないまま、アパートへ戻った。静流が送ってきた風景写真を手に取ると、誠人は真冬のニューヨークへ旅立った。 しかし静流を捜そうにも、何の当ても無い。途方にくれて歩いていた誠人は、拳銃を持った黒人3人組に襲われて失神した。目を覚ますと 、どこかの部屋にいた。その部屋の住人はカシアスという黒人で、日本の物が好きなアーティストだった。カシアスは親切な男で、誠人は 泊めてもらえることになった。カシアスは、表向きは牧師ということになってるが、マリファナを売って稼いでいた。
誠人の持っている写真を見たカシアスは、その場所へ彼を案内した。そして護身用としてスミス&ウェッソンを渡し、その場を去った。 近くのアパートに入った誠人は、ローマ字で「サトナカシズル」と名前が出ている部屋を発見した。部屋に行くと、ドアに鍵は掛かって いなかった。部屋に入って中を見回していると、そこにアヤという女が現れた。アヤによると、静流は2ヶ月ぐらい留守にしており、友人 である彼女が部屋のメンテナンスをしているという。
誠人は、静流が死んだという噂について口にした。するとアヤは、「静流は撮影旅行でメキシコにいる。先週、連絡があった」と告げた。 アヤは誠人に静流宛ての督促状を見せて、「家賃3ヶ月分の立て替えを頼まれた」と言う。誠人は関口に電話して金を借り、アヤの口座に 振り込むことを約束した。アヤは、自分がミュージカル女優だと言って、その場を去った。
誠人が部屋にいると、ドアの下から自分宛ての手紙が差し込まれた。差出人の名前は静流になっていた。手紙には、アヤから連絡を貰った こと、個展のための撮影旅行でメキシコにいること、部屋の電話が壊れているから連絡は出来ないこと等が書かれていた。さらに、「まめ に手紙を書きます。個展のための場所をリコンファームしておいてほしい」と書かれていた。
静流の個展が開かれるという場所の持ち主は、コンヴォイという名前だった。誠人はコンヴォイに会うためチャイナタウンに行くが、 チャイニーズ・ギャングからスパイと間違われて暴行を受け、失神した。気が付くと、誠人はアヤに介抱されていた。アヤは、コンヴォイ が不法入国者で名前を変えて暮らしていること、コンヴォイのギャラリーは存在しないことを教えた。コンヴォイは気に入ったアートを 自分のオフィスのショーケースに飾っていて、それをコンヴォイズ・ギャラリーと呼んでいるのだ。
コンヴォイが気に入ったアーティストは、みんなビッグになっているという。アヤは「静流がコンヴォイのギャラリーを予約したのは嘘 かもしれない」と口にした。誠人はコンヴォイのオフィスへ行くが閉まっていたので、外で待とうとした。すると一人のオバサンが声を 掛けてきた。静流の写真を見せると、彼女は「ついて来い」と歩き出した。彼女が案内した場所には、一人の女性が待っていた。その女性 がコンヴォイで、オバサンは母親だった。
誠人はコンヴォイに追い払われそうになるが、母親は「写真を見てごらん」と娘に促した。写真を目にすると、コンヴォイは気に入った。 誠人は「必ず静流は写真を撮って戻って来る」と告げたが、彼女からの連絡は全く無かった。誠人は、静流が見ていたニューヨークの風景 を撮ろうと考えた。彼はカシアスにカメラを貸してもらい、街に出てシャッターを切った。誠人はカシアスから「お前は静流に騙されて いるのではないか」と言われ、心に迷いが生じた。そんな中、思い掛けない事実が明らかとなった…。

監督は堤幸彦、脚本は緒川薫、製作は迫本淳一&近藤邦勝&石川富康&亀井修&島本雅司、プロデューサーは植田博樹&田沢連二&原克子 &市山竜次、撮影は唐沢悟、編集は伊藤伸行、録音は田中靖志、照明は上妻敏厚、美術は佐々木尚、フォトグラファーは斎藤清貴、 VFXは原田大三郎、音楽は見岳章&武内亨、主題歌は山下達郎「2000トンの雨」。
出演は広末涼子、松田龍平、小池栄子、大杉漣、デーブ・スペクター、岡本麗、山崎樹範、西山繭子、高橋一生、佐藤二朗、江藤漢斉、 原田篤、塩山みさこ、野口かおる、吉岡麻由子、今泉野乃香、さば男、加井華恵、沼尻隆、Dominic Marcus、Stephanie Wang、 Norma Chuら。


『トリック 劇場版』の堤幸彦が監督を務めた作品。
静流を広末涼子、誠人を松田龍平、アヤを小池栄子、下請広告店社長を大杉漣、コインランドリーの女 を岡本麗、白浜を山崎樹範、みゆきを西山繭子、関口を高橋一生、医師を佐藤二朗、市山教授を江藤漢斉が演じている。

誠人は白浜に侮辱されると、なぜか「ユー・ダイ・バスタード」と下手な英語で言いながら殴る。
大学でカメラを構えながら、「ザッツ・ソー・コールド」と口にする。
みゆきが「12年間、キングス・イングリッシュを学んでいた」と言うが、いかにも日本語英語の発音だ。
みゆきの言葉が冗談なのかマジなのかは良く分からないが、誠人は家で007のバッタモンみたいなスパイ映画を見てセリフを真似して いる。
どっちがワルだか分からないB級映画で、これもたぶんギャグなんだろうな。

病院を訪れた誠人の右手のレントゲン写真から、時代は1999年へと戻る。
そのタイミングは、どういうセンスなんだろうか。
しかも、戻った先はレントゲン写真でもなければ病院でもなく、全く関係の無いアンアンの表紙だ。
女子大生に成敗された白浜は、キャンパスにあるデーブ・スペクター1世の銅像にまたがる。
名前から分かるだろうが、銅像はデーブ・スペクターの姿をしている。
このギャグは完全に不発。
っていうか、この映画に、そんな脱力系ギャグは要らないでしょ。

静流が河合にパンチを入れるタイミングでBGMを入れるが、そこは要らない。
講義が始まると、教授が点呼する学生の名前は東京の地名ばかりだが、それもギャグなんだろうなあ。
静流がマヨネーズを入れたカップヌードルを食べる時にリズム楽器のBGMが入るが、それも邪魔だよ。
どういう効果を狙っているのかサッパリだ。
「変な子でしょ」というのをアピールしたいのだろうか。

静流は風船を取るために電柱を登るが、それはエキセントリックな女だとアピールするために用意した場面なんだろうなあ。
でも、なんかワザとらしいし、そういうアクティヴでワイルドな方向でのエキセントリックって、ちょっと彼女に求める行動とは違う ような気もする。
っていうか、危ないんだから、誠人は写真を撮っている暇があったら止めろよ。
静流を「変わった女」として描きたいようだが、それを止めずに撮影している誠人も普通じゃないぞ。

「そのミカンは、悲しいほど酸っぱくて、静流の苦しみそのものだった」という、いかにもブンガク的ナレーションは完全に外して いる。
コインランドリーでカメラが洗濯機に落ちた時、争いを止めに入った誠人のズボンもズリ落ちるが、なんだ、そのギャグは。
部屋に帰った誠人が、静流の写真から炎が吹き出す幻覚を見るシーンがあるが、「策士、策に溺れる」という感じ。

コンテストの通知を受け取った誠人が静流の分をグシャッと握り潰したりする辺りは、SEも手伝って、ちょっとサイコ・ホラー的に 見えてしまう。
松田の表情も怖すぎるし。
「嫉妬心で苛立つ」とかいうレヴェルじゃなくて、ほとんど「殺してやろうか」みたいな世界だ。
っていうか、松田の芝居は、ただ表情に乏しいだけで、何をそんなに最初から陰気なのかと思ってしまう。

静流って「ミステリアスな女」と評されているけど、ちっともミステリアスじゃないよな。
ミステリアスなのは市山教授との関係だけで、そこが明かされたら、完全に「ごく普通の子」になっちゃうし。
エキセントリック度数も低い。
たまに、それをあえてアピールするかのような行動はあるけど、普段の行動や言葉からは、エキセントリックが全く匂ってこないのよね。

ってなわけで、日本を舞台にしている部分だけでも出来映えが良いとは言えないが、それでも全国公開の映画じゃなく、単館公開の小品と してなら、まだ何とかなったかもしれない。
しかし、舞台がニューヨークへ移ると、もはや救いようの無い状態へと落ちていく。
前半でテメエが地均しをしたのに、そこを完全に無視しているかのように、おかしな方向へ歩き始める。
静流が1年前に死んでいる設定自体がどうかとは思うが、それは置いておくとしても、そこからは思い出を辿る旅、「なぜあの時に冷たく したのか」という後悔に至る記憶の旅路、「まだ彼女はずっと自分を愛してくれていた」と痛感する心の旅にすれば良かったのだ。
なのに事件性を持たせて、出来損ないのミステリー&サイコ・サスペンスみたいな方向へ急に舵を切るんだよな。

ニューヨークに渡った誠人は、「ギャングスター」とか「平和」とか「健康」というタトゥーのある連中に襲われるが、そこで脱力ギャグ が要りますかね。
ユルさは、この作品には要らないでしょ。
その後、チャイナタウンでも誠人が暴行を受けるシーンがある。
このように「バッドラックで暴行を受ける」という天丼ギャグを用意しているんだが、どういうセンスなのかサッパリだ。

カシアスが登場する辺りで、既に前半とは全く雰囲気が変わっている。別の話を無理に繋げてあるかのようだ。
この映画に、暴力とか拳銃とかドラッグとか、そういう要素なんて要らない。
いや、要らないっていうか、出しちゃダメだ。
っていうか、そもそもニューヨークという場所そのものが合っていない気がするぞ。
どうしても監督が行きたかっただけなのかもしれないけど。

「静流は本当に死んだのか」を探る旅にもならない。
彼女は生きているものとして進んでいく。
そして、初めてのニューヨークで誠人がトラブルに巻き込まれて苦労しながら精神的に成長するという、「ジャパニーズ・イン・ ニューヨーク」の異邦人モノになってしまう。
ラブストーリーとしての歩みを終わらせて、そんな展開にした狙いがサッパリ分からない。

終盤に入って、やはり静流は死んでいたということが明らかになる。
で、いきなり誠人はアヤの発砲を受ける。
この超飛躍した展開には唖然とさせられる。
そこまでの暴力やドラッグや、そういうものでさえ邪魔だなあ、雰囲気を壊すなあと思っていたのに、誠人が襲われるとは、恐れ入谷の 鬼子母ブタ(by山本正之)だ。
しかも誠人は「あいつが静流を殺した」と恨み骨髄で、こっちからも発砲するのである。
いやあ、バカな展開だよなあ。

それにしても、そこでのアヤのブチ切れた行動は何なんだ。
それを「精神的にイカれているから」ということで説明しようとするが、納得できるかよ。
で、そこで誠人は、前半に見ていたスパイ映画の真似をしてアヤの銃口に指を突っ込み、キックで拳銃を弾き飛ばすというアクションまで やっちゃう。
なぜ、そこで安いアクション映画に急展開するのかねえ。
まだ日本が舞台の時間帯は、広末涼子の出番が多いので何とか見ていられるが、ニューヨークに移ってからはホントに退屈で苦痛。
もし観賞するなら、2人が別れるシーンまでにしておくといい。
っていうか、まあ見なくてもいいし。

(観賞日:2009年12月19日)

 

*ポンコツ映画愛護協会