『REDLINE』:2010、日本

ずっとずっと未来の話。車が四輪を捨てエアカーに移行する時代に、失われていくその魂にこだわり疾走する愚か者たちがいた。5年に1度の祭典“REDLINE”グランプリ大レース予選に参加したJPは、先頭集団から大きく差を付けられていた。しかし余裕の表情で加速装置を使ったJPは、一気に先頭集団へと迫った。ミサイル攻撃を軽く回避した彼は、華麗なテクニックでトップを狙う。ラストクォーターまでは賭け率を低く保ってラストの直線で一気にトップに躍り出るというのは、八百長を仕掛けているイヌキ組長の計画通りだ。
メカニックのフリスビーはイヌキ組長に「このままJPが勝つことはないだろうな」と念を押され、「ありません。私が保証します。保釈金を返せなければ檻の中に逆戻りですよ」と告げた。ゴール直前でトップにソノシーを抜いて立ったJPは、そのままスピードを上げた。だが、タイヤが外れて車がクラッシュし、ソノシーに追い抜かれた。優勝したソノシーが、REDLINEに出場する最後の1人に決定した。
フリスビーはJPの病室に金の入ったアタッシェケースを持って行き、「また八百長やる気があるなら、いつでも言ってくれよ」と告げる。JPはアタッシェケースを投げ付け、「お前が使え。気が変わった」と言う。「保釈金どうするんだ」とフリスビーが言うと、「おとなしく戻るさ、檻の向こうに」と彼は口にした。そこへ大勢のマスコミが押し掛け、REDLINEにノミネートされたことへのコメントをJPに求めた。テレビを付けると、2人が棄権したために人気投票で三木&轟木組とJPがノミネートに挙がっていることが報じられていた。
JPが「なんで?」と漏らすと、記者はREDLINEの開催地がロボワールドと発表されたことを教える。ロボワールドのあるM3星雲の大統領は、「REDLINEの開催を認めず、外部からの侵入者は抹殺する」と宣言していた。JPはマスコミの前で、REDLINEへの出場を表明した。彼はソノシーたちと共に、衛星エウロパスへ向かった。エウロパスは条約で非武装地帯に指定されており、ロボワールド軍も迂闊には手出し出来ない。その上、漂流難民がスラム地区を点在させているため、REDLINE関係者の隠れ家には持って来いだ。
JPはジャンク屋を営むもぐらオヤジの元を訪ね、加速装置を3回使えるようにトランザムを改造してくれと依頼した。「武器を付けろよ。REDLINEは何でも有りだぞ」と勧められても、JPは「俺らにとってのREDLINEはレースなの。加速装置以外は付けないの」と拒否した。設計とチューンはフリスビーがやると彼が話すと、もぐらオヤジは「お前らがコンビだったのはいつの話だよ。あいつはもうカタギじゃねえ。ろくでなしだ」と声を荒らげた。
「八百長レースのことか」とJPがクールに言うと、もぐらオヤジは「あいつは変わったんだよ」と口にする。そこへフリスビーが現れ、「俺たちゃいいコンビなのさ。昔からな」と述べた。JPはレストランにいるソノシーの元へ行き、彼女を口説こうとする。彼女は父親がレーサーで家はジャンク屋という環境で育ち、幼少時代からレースに明け暮れていた。2人が話していると、REDLINEに出場するシンカイがやって来た。彼の相棒であるトラヴァは、泣くと強くなる同期のディズナ弟と喧嘩をしてボコボコにされていた。
宇宙最速の男と称されるマシンヘッド鉄仁がやって来た直後、室内の水槽が割れて水が溢れ出した。JPがソノシーの腕を掴んで一緒に避難すると、ロボワールドの軍隊が乗り込んで来た。ボルトン大佐はディズナ弟を見つけると、「随分と捜したぞ。貴様に出撃命令は出ていないはずだぞ」と告げる。マシンヘッドが「非武装地帯で軍隊にウロチョロされると目障りなんだがな」と言うと、ボルトンは「だから何だ?」と淡々とした態度で受け流す。さらに彼は、「我が部隊にもREDLINE当日、出撃命令が出た。くだらん草レースに花を添えよとの大統領の御意思だ。せいぜい軍事演習になるよう這いずり回ってくれ」と語った。
ソノシーをガレージまで送り届けたJPは、若かった頃を回想した。まだ少女だったソノシーはレースに出場するが、エンストしてコーナーに突っ込んだ。観戦していたJPが軽い口調で「充分走ったよ」と言うと、ソノシーは泣きながら「私はいつか絶対REDLINEに立つの。そのために死ぬほど練習してるの。こんな所でエンストしてる場合じゃないの。悔しかったら、貴方たちも同じ舞台に上がって来なさいよ」と語った。彼女は車のエンジンを掛け、レースに復帰した。
JPがジャンク屋に戻ると、フリスビーともぐらオヤジが揉めていた。もっと破壊力のあるエンジンを要求するフリスビーに対し、もぐらオヤジは「どでかいだけじゃレースになんないでしょ」と反発する。パワーばかりで安定性が無いエンジンを使うようフリスビーが要求すると、JPはオヤジに「用意してやってくれよ」と頼んだ。一方、ソノシーやマシンヘッド、スーパーボインズのボイボイとボスボス、リンチマン&ジョニーボーヤ、ゴリライダー、三木&轟木といったライバルたちも、レースに向けた準備を進めていた。
主力電力基地が下級労働者の襲撃を受けたため、ロボワールドは予備発電に切り替わった。国防大臣は大統領に、地上からの大型兵器の攻撃は復旧まで使用不能になったことを告げる。しかし彼は「御安心下さい。大気圏を突破した者への最適な攻撃方法があります」と言い密かに開発を続けていたソーラーシステム搭載型軍事兵器の存在を明らかにした。リンチマン&ジョニーボーヤはREDLINE委員会の依頼を受け、ソーラーシステム搭載型軍事兵器に乗り込んで細工を施した。
特殊な魔法を使う姫が率いるスーパーグラス星の軍隊がロボワールドを襲撃し、デストタワーにゴールラインをマーキングした。出場者を乗せた輸送船がスタートラインのノックアウトタワーに超次元ドライブしてくると確信した国防大臣は、軍事兵器を起動させた。しかし発射ボタンを押しても、何の反応も無かった。輸送船からレーサーたちが3つに分かれて降下したため、ボルトンは部隊を差し向ける。レースが開始される中、ボルトンの部隊がレーサーたちに襲い掛かって来た…。

監督は小池健、原作・クリエイティブディレクターは石井克人、脚本は石井克人&榎戸洋司&櫻井圭記、製作は二宮清隆、エグゼクティブプロデューサーは福島正浩、プロデューサーは吉田健太郎&小池由紀子、アソシエイトプロデューサーは木村大助、企画原案は石井克人&木村大助、絵コンテ・演出・作画監督 キャラクター・マシン・バックグラウンドデザインは小池健、メインキャラクター・マシン原案は石井克人、バックグラウンドデザイン・プロップデザインは森山洋、絵コンテ協力・バックグラウンド原案は山本沙代、色彩設計・色指定・検査は小針裕子、撮影監督は滝澤竜、編集は寺内聡& 河西直樹(MADBOX)、音響監督は石井克人&清水洋史、設定協力は山本健介、マシン原型制作は高浜幹、アニメーションプロデューサーは篠原昭&松尾亮一郎&諸澤昌男、音楽はジェイムス下地。
声の出演は木村拓哉、蒼井優、浅野忠信、我修院達也、岡田義徳、津田寛治、森下能幸、小林明美(現・AKEMI)、青野武、廣田行生、石塚運昇、三宅健太、石井康嗣、チョー、堀内賢雄、三木俊一郎、轟木一騎、阪井あかね、郷里大輔、太田真一郎、立川三貴、向井修、寿美菜子、大山健、白仁裕介、森岡龍、深澤翼、牧野愛、佐藤健輔、三浦潤也、谷口節、高桑満、紺野相龍、長谷瞳、近藤広務、佐藤美一、野宮いづみ、新田万紀子、鈴森勘司、高橋研二、長松博史、石井克人、丸井庸男、清水洋史ら。


『PARTY7』『茶の味』の石井克人が原作&脚本&企画原案&クリエイティブディレクター&音響監督を務めた長編アニメーション映画。
『アニマトリックス ワールド・レコード』の小池健が監督&絵コンテ&演出&作画監督&キャラクター・マシン・バックグラウンドデザインを担当している。
JPの声を木村拓哉、ソノシーを蒼井優、フリスビーを浅野忠信、リンチマンを我修院達也、ジョニーボーヤを岡田義徳、トラヴァを津田寛治、シンカイを森下能幸、ボスボスを小林明美(現・AKEMI)が担当している。

石井克人は「あまり映画を観ない人に楽しんでもらえる映画を作りたい」という思いで本作品を作ったらしい。
だとしたら彼の中にある「あまり映画を観ない人に楽しんでもらえる映画」のセンスが思い切りズレているか、出来上がった映画が本人の思惑と違う物になっていたか、どちらかだろう。
この作品、あまり映画を見ない人が楽しめるとは思えない。
いつもの石井克人作品と同様に、やはりマニアックな映画になっている。

木村拓哉や蒼井優、浅野忠信といった有名な役者を声優に起用しているのは、「あまり映画を観ない人への訴求力」ということも考えていたのかもしれない。
しかし中身は一般受けしないような仕上がりなので、そこにズレが生じてしまっている(ただし蒼井優の声優としての仕事ぶりは素晴らしく、本職と比べても全く遜色が無い)。
それと、一部のマニアにしか受けないような映画ではあるのだが、一方で既存のアニメから色々と要素を拝借して繋ぎ合わせているため、斬新さは薄い。

冒頭、REDLINEについて説明する会場アナウンスが聞こえて来るのだが、会場にいる面々の声の方が大きいので、何を喋っているのか良く聞こえない。
REDLINEについての説明をハッキリと伝えようとしない理由は、サッパリ分からない。どう考えたって、最初の時点で観客に「REDLINEとは何ぞや」を紹介しておいた方が得だろう。
説明のアナウンスをハッキリと聞かせないのなら、そんなのを入れないで後からキッチリと説明する形にすればいい。何の得も無いんだから。
ちなみに、それ以降、ちゃんとした説明は二度と無い。そこに限らず、説明不足が甚だしいため、内容が無駄に分かりにくい。

JPとフリスビーが現在は正式なコンビを組んでいないことも、八百長レースだとJPが聞かされていない(でも何となく気付いている)ことも、予選が行われている段階ではちゃんと説明されていない。
で、そこをボンヤリさせていることで何かメリットがあるのかというと、何も無い。
むしろデメリットしか感じない。
そこに限らず、たぶんカッコ付けて謎めいた感じを出しているんだろうと思える箇所が色々とあるけど、それが全てマイナスに作用している。

JPとソノシーの関係は「幼い頃からJPがソノシーに惚れていた」という設定が用意されているが、これが全くと言っていいほど有効に活用されていない。そんな過去が無かったとしても、中身は大して変わらない。なぜなら、それぐらい恋愛劇がペラペラだからだ。
ライバルとなるレーサーたちは、それぞれに個性的な設定があるようだが、それが劇中で活かされることは無い。スーパーボインズ、リンチマン&ジョニーボーヤ、ゴリライダーに関しては、中盤辺りで紹介VTRが入るまでは、その存在さえ明らかになっていない。
キャラクター描写や人間ドラマが軽視されている一方で無駄なシーンは多く、例えばロボワールドの地下資源発掘場で作業員が仕事をしている様子や、地下違法賭博場がロボットの攻撃を受けるシーンなんて、まるで必要性が無い。
特殊な魔法を使う姫が率いるスーパーグラス星の軍隊がロボワールドを襲撃してデストタワーにゴールラインをマーキングするとか、そんなのも余計な要素。
映像的な意味だけでなく、そういう意味でもゴチャゴチャしている。

映像表現としては、ザックリと言うならば「もしも金田伊功がアメコミ風のアニメを描いたら」という感じだろうか。
凝っていることは分かるんだけど、ゴチャゴチャしすぎている印象を受ける。
クドい絵柄ってのは個性だから別に構わないんだけど、その中で画を整理してスッキリしたモノにしてほしかったし、それは可能だと思う。
スッキリさせていないのは意図的なモノらしいんだけど、それがプラスに作用すればともかく、そうじゃないのよね。

絵の動きは多いが、キャラクターの表情を変化させることに対する意識は乏しい。それは、ただでさえ薄っぺらい登場キャラクターの印象を、ますます空虚な存在に仕立て上げている。
それと、映像に凝っていることは分かるんだけど、絵がゴチャゴチャしていて、特にレースのシーンにおいて、何がどう動いているのか分かりにくい。
そもそも、レースが行われていない時間帯も無駄に長いし。もっと全体の中でレースの占める割合を増やすべきだろうに。
レース以外のシーンを増やして人間ドラマを充実させているならともかく、ただ時間を無駄遣いしてダラダラしているだけなんだし。

抜きつ抜かれつのデッドヒートとか、駆け引きの妙とか、そういうカーレースの醍醐味は、ほとんど味わえない。カタルシスも皆無だ。
カーレースの映画かと思いきや、どうやらカーレースの面白さを描こうなんて気は全く無いらしい。
しかも、予選よりもREDLINE本選の方が盛り上がらなきゃいけないのに、ボルトン軍が執拗に攻撃を仕掛けて来るせいでレースに集中できない。そこに巨大な生物兵器まで登場してしまい、ますます散漫な印象になってしまう。
やりたいことを全て盛り込んでいるんだろうけど、見事に散らかっている。

一番の問題は、「映画としての面白味が著しく薄い」ってことだろう。
「アメコミ風の絵を動かす」ということばかりに意識が捉われていたのか、お話がペラペラだし、キャラクターの魅力も乏しい。
だから、もっと大幅に短くして「ミュージック・フィルムの背景としての映像」という形で使えば充分に満足できたかもしれないけど、102分は厳しい。
最初は「あまり見慣れないタイプの映像」ということで引き付けられるけど、15分もすれば慣れるし、そして飽きる。
映像にこだわるだけでは、面白い映画にならないのだ。映像に凝るタイプの映画監督は、そこを誤解しがちだ。

(観賞日:2014年7月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会