『リアル鬼ごっこ』:2015、日本

ミツコが通う女子高の生徒たちは2台のバスに分乗し、修学旅行の道中だった。生徒たちが枕投げを始める中、ミツコは参加せずに自作のポエムを書いていた。クラスメイトのさやかたちがノートを見ようとした時、ミツコのペンが床に落ちた。ミツコがペンを拾うために身をかがめた直後、突風が吹いた。すると2台のバスの上部が、立て続けに切断された。ミツコが体を起こすと、運転手や担任教師、生徒たちの全員が下半身だけの状態になって死んでいた。
ミツコは血まみれの制服で停止したバスを降り、迫り来る風から慌てて逃げ出した。前方を歩く4人組の女性たちを見つけた彼女は、危険を訴える。しかし誰も理解できず、ミツコが助けた1人以外は上半身を切断されて死亡した。向こうから来た自転車の女性5人組も、声を掛けた生き残りの1人も、やはり上半身を切断されて死んだ。川に辿り着いたミツコは、女子高生たちの死体を発見した。顔に付着した血を洗い流した彼女は、そこにあった綺麗な制服に着替えた。
しばらくミツコが歩いていると、見知らぬ女子高が建っていた。ミツコが歩いて行くと、登校中の生徒がミツコに声を掛けて来た。なぜか生徒たちが自分を知っているので、ミツコは困惑する。親友らしきアキという生徒に、彼女は「私はいつからこの学校に通っているの?」と問い掛ける。しかしアキはミツコが変な質問をしたと捉え、軽く笑った。風が吹いて生徒たちのスカートがめくれ上がると、ミツコは怯えて逃げ出した。その反応に、アキは怪訝な表情を浮かべた。
ミツコがアキと話していると、教師の映子と美代が現れた。彼女たちもアキと同じように、ミツコのことを知っていた。ミツコはアキに「夢を見た」と言い、突風で大勢の生徒たちが死んだ出来事を語った。するとアキは窓を開け、怖がるミツコに「大丈夫、怖くないって」と優しく告げた。ようやく落ち着きを取り戻したミツコに、アキは学校をサボって散歩へ出掛けようと持ち掛けた。彼女は親友のタエコとシュールにミツコを会わせ、4人で学校を抜け出した。
湖畔へ出掛けたアキは、ミツコから聞いた夢の内容をタエコとシュールに話した。するとシュールは「有り得る」と言い出し、「この宇宙は確率の世界で生きてる。たぶんミツコは別の宇宙にいたんだ。この宇宙には無数の宇宙があって、無数の私がいる」と説明する。理解できないミツコたちに例を挙げた彼女は、普段は絶対にやらないことを自分の気付く前にすることで運命は変えられると話す。それから彼女は、「シュールに負けんな。人生はいつだってシュールなんだ。シュールに耐えられなくなったら負けだ」と呟いた。
学校に戻ったミツコは、2時間目から授業に参加した。すると授業をしていた映子が突如としてガトリング砲を連射し、生徒たちが次々に死亡した。アキも殺される中、ミツコは駆け付けたタエコ&シュールに連れられて教室を飛び出した。ミツコが他の生徒たちと共に隠れていると、美代がショットガンと散弾銃を持って現れた。美代は次々に生徒たちを殺害し、タエコとシュールも銃弾を浴びた。シュールはミツコに「この世はシュールなんだ。シュールさに負けんな。シュールを乗り越えろ」と言い、息を引き取った。
ミツコが生き残った生徒たちと共に校庭へ出ると、映子と美代が銃撃して来た。ミツコは他の生徒たちから、「アンタが何とかしないと」と告げられる。ミツコが校庭から脱出すると突風が吹き、一緒に逃げていた4人の生徒が死んだ。ミツコは必死で逃亡し、商店街に突入した。女子派出所を見つけた彼女は、交番の巡査であるトモコに話し掛けた。するとトモコは「ケイコじゃないの?どうしたのよ」と口にする。「なんで制服着てんの?」と言われたミツコが鏡を見ると、別人の姿に変身していた。
トモコは「行こう、式に遅ちゃう」と告げ、ケイコをパトカーに乗せる。教会へ向かう途中、トモコは「制服って。私たち、もう25歳よ」と軽く笑う。教会に到着すると、大勢の友人たちがケイコを待ち受けていた。ケイコが建物に入ると、メイク担当としてアキが待っていた。ケイコから事情説明を求められたアキは、「分かってる、アンタが思ってること。ここはヤバいからね」と小声で告げる。アキは「2人にして」と言い、他の面々を退室させた。
アキはパニック状態のケイコに落ち着くよう促し、「アンタはミツコでもありケイコでもあるの。今日はアンタの結婚式」と言う。ケイコが「何が起きてるの?」と訊くと、彼女は「今は言えない。長い話になるから。奴らが見てる」と述べた。アキから自分の言う通りに動くよう指示されたケイコはシュールの「シュールに負けんな。人生はいつだってシュールなんだ。シュールに耐えられなくなったら負けだ」という言葉を思い出し、ウェディングドレス姿に着替えた。
ケイコの友人たちが部屋に入って来ると、アキは次々に殺していく。アキに促されたケイコは、殺人に加わった。割れたワインボトルをケイコに渡したアキは、それで戦うよう指示した。ケイコが教会に赴くと、友人たちは罵声を浴びせて物を投げ始めた。用意されていた棺桶が開けられると、豚の顔をした花婿が待ち受けていた。ケイコはワインボトルを豚男の首に突き刺し、列席者に襲い掛かる。列席者が逃げ出すと、アキがケイコの元へ駆け付けた。そこへ映子と美代が現れたので、ケイコとアキと共に戦った。
ケイコとアキは女教師たちを蹴散らし、教会から逃走する。アキは「誰か来る気配がする。私が引き付けるから」と告げ、ケイコを逃がす。ケイコが走っていると、ランニング中の女性が「いづみ、久しぶりね」と声を掛けて来た。困惑するケイコが鏡を見ると、また別の姿に変貌していた。いづみは小学校からの親友だという3人の女性たちに囲まれ、一緒に走り始める。沿道には応援する大勢の人々が現れ、むつこという女性が大会の実況を始めた。
いづみがスピードを上げていると、タエコ、シュール、そしてアキが次々に現れる。アキが集中するよう促した直後、後ろから女教師2名と豚男が追い掛けて来た。いづみはシュールから「この世界を脱出して。アンタに任せるから」と言われ、アキの指示を受けてフェンスを越えた。いづみが懸命に山道を進んで採石場に辿り着くと、ジュンという女子高生が現れた。彼女は「こっちよ」と言い、いづみの手を取って洞窟へ誘い込む。すると他にも大勢の女子高生が待ち受けており、ジュンは「アンタ、死んでくれる?アンタがこの世界にいる限り、みんな死ぬのよ」と告げる。いづみはジュンに詰め寄られるが、そこへアキが駆け付ける。アキはジュンを始末し、いづみを連れて洞窟の奥へと走る。いづみがアキの指示通りに「私はミツコだ」と何度も繰り返すと、ミツコの姿に戻った…。

監督・脚本は園子温、原作は山田悠介『リアル鬼ごっこ』(幻冬舎文庫・文芸社刊)、製作は林裕之&内ヶ島正規&高橋敏弘&長澤修一、企画・プロデュースは柴田一成、プロデューサーは谷島正之&稲垣竜一郎&大野貴裕、撮影は伊藤麻樹、照明は松隈信一、録音は小宮元、美術は松塚隆史、アクション監督は匠馬敏郎、特殊造型プロデューサーは西村喜廣、編集は伊藤潤一、VFXプロデューサーは赤羽智史、音楽は秋月須清&カナイ・ヒロアキ、音楽プロデューサーは菊地智敦。
出演はトリンドル玲奈、篠田麻里子、真野恵里菜、斎藤工、磯山さやか、高橋メアリージュン、桜井ユキ、平岡亜紀、冨手麻妙、屋敷紘子、三田真央、秋月三佳、菊池真琴、安竜麗(現・安竜うらら)、奥田ワレタ、澤真希、安田聖愛、緒沢あかり、宮原華音、サイボーグかおり、村上穂乃佳、桃奈、日高七海、岩崎風花、佐々木萌詠、堀口ひかる、柴田千紘、横田美紀、佐野光来、最所美咲、石丸奈菜美、柴田あさみ、坂本亜里紗、麻生真桜、IZUMI、吉田芽吹、ほのかりん、星名利華、吉岡千波、長矢澪、岩方虹夏、錦辺莉沙、高木彩那、渡辺大貴、一ノ瀬ワタル、谷本幸優ら。


山田悠介の同名小説を基にした作品。
同じ原作が2008年に映画化され、シリーズとして全5作が製作されている。そのシリーズに携わった柴田一成が今回の企画・プロデュースを担当しているが、話としての繋がりは無い。完全に別物、リブート作品と捉えるべきだろう。
監督&脚本は『TOKYO TRIBE』『新宿スワン』の園子温。
ミツコをトリンドル玲奈、ケイコを篠田麻里子、いづみを真野恵里菜、むつこを磯山さやか、ジュンを高橋メアリージュン、アキを桜井ユキ、タエコを平岡亜紀、シュールを冨手麻妙、映子を屋敷紘子、美代を三田真央、終盤に登場する老人&若いクローンを斎藤工が演じている。

園子温監督は「原作は読んでいないし、旧作も見ていない」と発言したことで、かなりの批判を浴びた。
それが事実かどうかは不明だが(ある種のパフォーマンスとして嘘をついた可能性もゼロとは言えないし)、どっちにしても、普通であれば最低の監督だ。
演出だけならともかく、脚本も書いているんだからね。原作を読まず、旧作も見ない状態で、どうやって脚本を書くのかって話になるわけで。
だから嘘だったとしても、そういうことを言っちゃダメだわな。

ただし、この作品に関しては、原作や旧作を完全に無視するのも例外的に有りではないかと思う。なぜなら、原作がドイヒーな出来栄えってのは有名な話だからだ。
なので、ちゃんと原作の内容を盛り込んで製作された旧作も、当然っちゃあ当然だが、ポンコツな仕上がりになっていた。だから完全オリジナルのストーリーを構築するのも、悪くない考えだ。
「だったら『リアル鬼ごっこ』じゃなくてオリジナル作品として作れよ」と言いたくなる人もいるだろう。
ただ、柴田一成プロデューサーが園子温にオファーを出して、原作や旧作を無視した脚本でOKを出しちゃったんだから仕方がないでしょ。園子温監督にしても、この映画は完全に「単なる金儲けの手段」として雇われ仕事をしただけだろうし。

ここまでの文章を読むと、まるで私が園子温の本作品に関する仕事を肯定しているように思われるかもしれない。
しかし、そうではない。それだけ擁護するための要素があることを考慮しても、完全にアウトである。
何がダメかって、タイトルと内容が全く合っていないってことだ。
内容を「リアルな鬼ごっこ」にするってのは、絶対に守らなきゃいけないルールでしょ。そこまで無視してしまったら、それは娯楽映画の監督として失格だわ。
商業映画の監督を引き受けた以上、幾ら雇われ仕事であろうとも、最低限の矜持は守らないとダメでしょ。そうじゃなきゃ、観客に対して失礼だよ。これは自主制作でもなければ、芸術映画でもないんだから。

「リアル鬼ごっこが成立していない」という問題外の欠陥を抜きにしても、この映画は相当にドイヒーだ。旧作とは別の意味で、デタラメ極まりない。まだストーリーを真っ当に作ろうとしていた旧作の方が、遥かに誠実だと言える。
園子温監督は、前からやりたかったことや実現しなかった企画のアイデアを幾つも盛り込んだらしいが、ようするに「やりたい放題&散らかし放題」なのよね。それらのアイデアを1つのストーリーに上手く組み込むとか、スムーズに進行するとか、整合性を持たせるとか、そういう意識は皆無に等しい。
そこの作業を手抜きした結果が、「いきなり突風で女子高生たちの上半身がチョンパされ、ミツコが逃げ出して」という始まり方である。
この時点で、既に「リアル鬼ごっこ」としてのルールが崩壊している。
で、ミツコが逃げた後も次々に死者が出るので、それならそれで「残酷ショー」としての面白さを追求すればいいものを、余計な不条理を持ち込んでしまう。そのせいで、「つまらないシュール作品」に仕上がってしまった。

たまに登場人物が意味ありげな台詞を語るが、いかにも説明しています」という感じで疎ましいだけ。しかも、それが実は説明や伏線としては、そんなに機能していないという始末。基本的には、単なる下手な言い訳やカッコ悪い自己弁護に過ぎないのである。
だから、そういう台詞の数々はものすごく寒々しいし、虚しく上空へ消えて行くだけだ。
まだ「監督は真面目にやったけど結果的に壊れてしまった」という方が、遥かにマシだ。
この映画は、監督が好き放題に散らかして、壊してしまった作品なのだ。

ケイコが教会へ赴くと、彼女とアキが戦うシーンが用意されている。
このシーンで、ようやくアクション監督に匠馬敏郎(坂口拓)を起用した意味が生じる。そこまでは逃亡シーンが何度も登場し、銃撃や爆破はあったけど、格闘アクションはゼロだったからね。
っていうか、そこの格闘アクションも、取って付けた感がハンパないけどね。見せ場としての力なんて、全く無いしね。
なので、どっちにしても、完全なる坂口拓の無駄遣いである。

「そんな行動を取る意味は何なのか」「そのシーンや台詞が持つ意味は何なのか」ってのを真剣に考えても、ただ無駄に疲れるだけだ。
だから、あまり深く考えたりせず、ボーッと見ていた方がいいだろう。
ただしボーッと見ていたら、何も頭に入って来ないまま終わってしまう可能性もあるけどね。
長編映画としては短めの85分という上映時間なのに、無理に尺を引き延ばしているとしか思えないような箇所があるのも大きなマイナスで、どんだけスッカラカンな中身なのかと。

ミツコがケイコ、いづみと次々に変身していく仕掛けは、まるで有効に機能していないし、何の面白味も感じない。
そんな仕掛けで演者の共演シーンを排除してしまうよりも、普通に「トリンドル玲奈&篠田麻里子&真野恵里菜が一緒に行動する」という内容にしてくれた方が、よっぽど有意義だわ。
ただ、その3人だけでなく大勢の若い女性たちを使っているにも関わらず、ちっとも「可愛く撮ろう」「魅力的に見せよう」という意識が感じられないので、どっちにしろグダグダだった可能性は高いけどね。
そういう部分に関しては、金子修介監督を見習ってほしいわ。

終盤に入り、「ミツコがいたのはゲームの世界であり、彼女やアキたちは死んだ人間のDNAを使って作られたゲームのキャラクターだった」ってことが説明される。
ただ、そこまでハッキリとした答えを丁寧に解説すると、それはそれで陳腐になってしまう。
そんなわけで、どうしようもなくドイヒーな映画てある。
ただし、女優陣が頑張って取り組んでいること、TVドラマ『昼顔』でブレイクした斎藤工が相変わらずバカな役を楽しそうに演じていることなど、出演者たちの仕事は全面的に評価する。この映画に関しては、出演者には何の責任も無いよ。

(観賞日:2017年1月7日)

 

*ポンコツ映画愛護協会