『リアル〜完全なる首長竜の日〜』:2013、日本

藤田浩市と恋人である漫画家の和淳美は、マンションにで幸せな同棲生活を送っていた。その1年後、先進医療センターを訪れた浩市は、緊張した面持ちで「センシング」を待っていた。センシングとは、他人の意識下に入り込む医療技術である。彼は精神科医の相原栄子に、「淳美は、本当に俺ともう一度会いたいと思っているんでしょうか」と問い掛けた。すると相原は、「彼女が今、何を思っているのか、それを探るのがセンシングの目的です」と告げた。
2人の相性は医学的に良好で、精神的に強く惹かれ合っているため、淳美の意識下に入り込めるのは浩市しかいないのだと相原は説明した。淳美は1年前に自殺を図り、深い昏睡状態に陥っているのだ。覚悟を決めた浩市は、脳神経外科医の米村に指示されてセンシングの準備に入った。彼は米村の説明を受け、インターフェイスを装着された。仮想現実の中に入り込んだ浩市は帰宅し、漫画を描いている淳美と会話を交わした。
締め切りが迫って漫画に没頭していた淳美は、「首長竜って覚えてる?小学校4年生ぐらいだっけ?島でさ、首長竜の絵を描いてみせたでしょ?欲しいっていうからプレゼントしたじゃない?」と言う。しかし浩市は、全く覚えていなかった。淳美は「あの首長竜の絵、完璧だったんだ。探してきてくれないかな。あの絵を見たら、また漫画家としての自信、取り戻せるんじゃないかって思うんだ」と彼に語った。それから彼女は、「漫画を描いてると落ち着くけど、ペンが止まると急に心がフワフワする」と述べた。
浩市は彼女に「ここは現実じゃない」と言い、彼女が1年前に仕事に息詰まって自殺を図ったことを教える。しかし淳美は全く記憶に無い様子で、自殺未遂の理由を問われても「覚えてない」と答える。「ここから抜け出して、もう一度、2人でやり直したいんだ」と浩市が言うと、彼女は「じゃあ探してきて、首長竜の絵」と告げる。2人は漫画を巡って口論になり、その直後にセンシングは終了した。浩市が自分の体験を報告すると、米村は「第一回のセンシングは成功しました」と述べた。
浩市は相原に、淳美が連載漫画『ルーミィ』で描いていたグロテスクな死体が一瞬だけ部屋に現れたように見えたと話す。すると相原は、「一種の副作用かもしれません。センシングのストレスで、藤田さんの脳と淳美さんの意識が混線するんです。今後、藤田さんの実生活の中にも、そのイメージが紛れ込むことがあるかもしれません」と述べた。浩市は自宅へ戻り、淳美のアシスタントをしている編集者の高木と共に首長竜の絵を探す。しかし発見できず、高木は「藤田さんの実家か、貸し倉庫にあるんじゃないですか」と告げた。
淳美の未発表原稿を発見した高木は掲載したいと考え、先輩編集者の沢野に連絡を入れた。浩市が「掲載は淳美の意思が確認できるまで待ってほしい」と頼むと、高木は承諾した。浩市は貸し倉庫へ行くついでに、高木を出版社まで送ることにした。淳美と幼馴染の関係であることについて質問された浩市は、小学校の3年間だけ飛古根島に住んでいたこと、その時に彼女と出会ったことを話した。浩市の父親はリゾート開発のために島を訪れたため、住民からの反発は激しかった。大学生になって、浩市は淳美と再会した。
浩市は貸し倉庫を調べるが、首長竜の絵は無かった。背後で物音がするので振り向くと、別の貸し倉庫の扉が開いていた。エレベーターに乗った時、浩市は濡れた少年の幻覚を見た。浩市は母の真紀子を訪ね、小学校時代のノートが無いかどうか訊く。どこにあるか分からないと姉が言うので、彼は自分で探すことにした。浩市の父親が死んだ後、真紀子は宮内という男と再婚していた。首長竜の絵は見つからず、浩市は宮内が帰る前に立ち去った。
浩市がマンションに戻ると、センシングの最中に見たのと同じ状態に変化していた。奥の寝室は水没しており、その真ん中で淳美が漫画を描いていた。彼女は「漫画が全然進まない」と焦りを示し、首長竜の絵が見つかっていないことを聞かされて残念そうな表情を浮かべる。ここから出たいという意思を彼女が示すので、浩市は「きっと意識が戻る兆候だよ」と告げる。彼は出てみるよう提案し、マンションの外を確認するが、一面が霧に包まれていた。男が部屋から出て来たので、彼は怯えて後退した。
浩市が部屋に戻ると、淳美は再び漫画に没頭していた。浩市が「漫画のことを考えるのは、ちゃんと社会復帰してからにしよう」と持ち掛けても、淳美は「だから、こうやって描いてるの」と告げて作業を続ける。彼女は「私はこれが楽しいの」と言い、「貴方が首長竜の絵を見つけて来ないからでしょ」と口にする。急に出現した3体のゾンビを目撃し、浩市は激しく動揺するが、すぐに消えた。それは淳美が漫画に描いたゾンビであり、彼女は笑って「ここは私の意識の中でしょ。だからどうにでもなるんだ」と告げた。
センシングが終了し、米村は浩市に「二回目のセンシング、成功しました」と告げる。相原から1度目との違いについて訊かれた浩市は、マンションの外が霧に覆われていたことを明かして「あの先には何があるんでしょう?僕は進んでくのが怖かった」と言う。「恐らく、それは淳美さんの意識の限界です。その先は淳美さん自身も認識できない無意識の領域だと思います」と相原は説明した。マンションに人がいたこと、普通の人間ではなく人形のようだったことも、浩市は話した。すると相原は、それが淳美の作り出した外面だけの存在、フィロソフィカル・ゾンビであることを教え、「一種の記号のような物なので気にする必要はありません」と述べた。
少年を目撃した浩市が後を追うと、そこには首長竜の骨のレプリカが展示されていた。階段で死体の幻覚を見た浩市は、恐怖心を必死に抑えて立ち去った。沢野から『ルーミィ』の連載打ち切りを知らされた彼は、あと3ヶ月だけ待ってほしいと頼む。すると高木は、一度だけ増刊で番外編を執筆し、まだ淳美が健在であることを読者に知らせてはどうかと提案した。「誰が描くんだよ」と沢野が言うと、高木は自分がゴーストを担当すると申し出た。浩市は「それで連載が続くなら」と賛同するが、淳美の意思を確認するまで結論を待ってほしいと沢野に頼んだ。
3度目のセンシングを行うと、淳美は嬉しそうに「驚くほど順調だった。締め切りにも間に合ったし」と言う。沢野と高木がマンションに来ると、彼女は「原稿は出来てますよ」と告げる。淳美は沢野に「どうして高木君に番外編なんか描かせたんです?」、高木に「どうして私のゴーストライターなんかやるって言い出したの?」と尋ねる。しかし2人とも中身が無いフィロソフィカル・ゾンビなので、何も答えない。すると淳美は描いた拳銃を実体化させ、「貴方たちに私の漫画が分かるはずない」と告げて2人を射殺した。
淳美は浩市の腕を掴み、手の甲に丸を描いて「これが私。目が覚めても忘れないで」と告げた。センシングが終わり、浩市は手の甲に視線をやるが、そこに丸は描かれていなかった。彼は沢野から、番外編が好評であることを聞かされた。第2弾の掲載が決定しており、高木に新連載の話も持ち込まれていることを知った浩市は、いつの間にか右手に拳銃を握っていた。彼は2人に向かって発砲するが、それは幻覚なので何も起きなかった。
夜、原稿に虫が群がっているのを見た浩市は、右腕を伸ばす。虫は消えたが、手の甲には丸が出現していた。浩市は手を洗うが、丸は全く消えなかった。背後に濡れた少年が出現し、浩市は驚愕した。相原から電話が入り、淳美が強くセンシングを希望していると言うので、浩市は先進医療センターに急行した。センシングを行うと、淳美が廊下で倒れていた。浩市が駆け寄ると、「ずっと待ってた」と彼女は言う。部屋は水没しており、淳美は「外に出たい」と訴えた。
浩市が「ここは君の意識の中の世界だ。君が冷静になって、いつも通りの日常を取り戻したら、ここの秩序も回復すると思う」と語ると、淳美は「戻りたくない。漫画を描いていない時の自分が全然思い出せないの」と言う。浩市は「行けるとこまで行ってみよう」と告げ、彼女を連れて外に出た。2人が霧の町を越えると、いつの間にか飛古根島に移動していた。淳美は「15年前に戻った」と興奮し、生家へ戻った。後を追った浩市は、淳美が15年前の家族と食事を取る様子を目にした。
浩市は「これは現実じゃない」と告げ、淳美を生家から連れ出した。入り江を見た淳美が「私、覚えてる」と言うので、浩市は「そんなはずは無い、これは現実じゃない。こんな場所は無かった」と訴える。急に悲鳴を上げた淳美が、海を指差した。浩市が目をやると、少年が海から出現した。淳美がショック症状を起こしたため、センシングは中断された。心配する浩市に、相原は「脳波が乱れていますが、命に別状は無いと思います」と告げた。
相原から淳美の容体が安定したことを知らされ、浩市は安堵した。意識下で何があったのか問われた彼は、自分の見た光景を説明して「俺、どうしたらいいんでしょう?一度、島に戻るべきでしょうか」と問い掛ける。「藤田さんが、そうしたいのなら」と言われた浩市が飛古根島を訪れると、すっかり廃墟の島と化していた。浩市は淳美の父である晴彦と出会い、批判的な言葉を浴びせられた。「父は過労死しました。父だって犠牲者なのに」と浩市が反論すると、晴彦は「じゃあ誰が悪い?誰が責任を取るつもりだ」と口にした。
少女に気付いた浩市は後を追って入り江に辿り着き、「淳美なのか?」と話し掛ける。淳美は海に入り、浮かんでいる旗に近付く。浩市が「それに近付いちゃ駄目だ」と叫んだ直後、少年が出現した。しかし浩市が目を離した隙に、2人とも姿を消していた。浩市は飛古根島署へ行き、15年前に事件や事故が起きていないかどうか警官に調べてもらう。すると警官は、1件の捜索願が出されていることを教える。しかし「もしかして少年ですか」と浩市が尋ねると、警官は「どうかな」と冷淡に言って奥へ引っ込んでしまった。
森の秘密基地に入った浩市は、古いスケッチブックを発見した。しかしボロボロになっており、首長竜の絵が描かれているかどうかは判別できなかった。そこで東京に戻った彼はセンシングを行い、15年前の飛古根島でスケッチブックを確かめることにした。浩市は淳美に事情を説明し、彼女を連れて秘密基地へ赴いた。しかしスケッチブックを開くと、全て白紙だった。狼狽する浩市に、淳美は「もういい。私の見てた夢、これで終わった」と告げる。彼女はフィロソフィカル・ゾンビとなって消滅し、浩市は絶叫した…。

監督は黒沢清、原作は乾緑郎 『完全なる首長竜の日』(宝島社刊)、脚本は黒沢清&田中幸子、企画プロデュースは平野隆、エグゼクティブプロデューサーは田代秀樹、プロデューサーは下田淳行、共同プロデューサーは幾野明子、ラインプロデューサーは及川義幸、撮影は芦澤明子、照明は永田英則、美術は清水剛、録音は渡辺真司、VFXスーパーバイザーは浅野秀二、VEは鏡原圭吾、編集は佐藤崇、音楽は羽岡佳、音楽プロデューサーは桑波田景信。
主題歌「REM」 Mr.Children 作詞:桜井和寿、作曲:桜井和寿、編曲:小林武史&Mr.Children。
出演は佐藤健、綾瀬はるか、中谷美紀、オダギリジョー、小泉今日子、松重豊、染谷将太、堀部圭亮、浜野謙太、青木綾平、川島鈴遥、柴郁織、神岡実希、管勇毅、雨音めぐみ、澤山薫、金子ゆい、向雲太郎、水間貴弘、山肩重夫、本山歩、鷲尾英彰、徳橋みのり、石澤彩美、高木健ら。


第9回『このミステリーがすごい!』大賞を満場一致で獲得した乾緑郎の小説『完全なる首長竜の日』を基にした作品。
監督は『回路』『トウキョウソナタ』の黒沢清。脚本は『雷桜』『アントキノイノチ』の田中幸子と黒沢清の共同。
浩市を佐藤健、淳美を綾瀬はるか、相原を中谷美紀、沢野をオダギリジョー、真紀子を小泉今日子、晴彦を松重豊、高木を染谷将太、米村を堀部圭亮が演じている。
内容は大幅に改変されており、ほぼ原作とは別物になっているらしい。

まず序盤で感じるのは、「センシング」なる技術に現実感を持たせるためのディティールが粗く、そこで陳腐な印象を受けてしまうってことだ。
SFとして捉えようとしても意匠が不足しているし、なぜセンシングという技術を必要とするのかも今一つピンと来ない。「混線の影響で実生活にも幻覚のイメージが紛れ込むことがある」というリスクまで説明されると、「そんなヤバい副作用のある状態で、なぜセンシングの使用が承認されているのか」と思ってしまう。
で、だったら開き直って「これは荒唐無稽な話です」という見せ方をすれば何とかなったかもしれないが、何しろ黒沢清なので、そっちの方向へは舵を切らない。
っていうか、これってミステリーのはずなのに、完全に黒沢ホラーの雰囲気なんだよな。で、黒沢ホラーってのは、ある意味では荒唐無稽なんだけど、「センシング」という設定の持っている荒唐無稽とは質が異なる。
黒沢ホラーの雰囲気の中では、「最先端の医療技術」として持ち込まれているセンシングは、よっぽど細かい設定を施して馴染ませないと、浮いてしまう。

「不気味な物音がして、振り向くと貸し倉庫の扉が開いている」とか、「エレベーターに乗ると少年の幻覚が見える」とか、「ゾンビがアパートに現れる」とか、そういった描写は、明らかにミステリーではなくホラー寄りだ。
ただしゾンビに関しては、本当に怖がらせようという意図で見せているのかどうかは良く分からない。
ぶっちゃけ、急に出現するから驚きはあるけど、怖さは無い。むしろ、何となく滑稽さを感じる。
恐怖と笑いは紙一重なので、黒沢監督が意図的にやっている可能性は排除できない。
ただし、仮に意図的だったとしても、そこで「バカバカしさ」を感じさせるゾンビを登場させるのは、マイナスでしかない。

「センシングの副作用で実生活に幻覚のイメージが紛れ込むことがある」という説明を受けた直後から、そういう現象が浩市に起きる。
だが、最初のセンシングの時点で既に副作用が起きており、かなりハッキリとした形で何度も幻覚を見ることになるってのは、あまりにも拙速すぎるんじゃないかと思ってしまう。もう少し段階を踏んで、少しずつ進めた方がいいんじゃないかと。
たぶん、これって本来は「センシングを繰り返す内、次第に現実と幻覚の境界線が曖昧になり、どっちがどっちか分からなくなっていく」という流れになるべきじゃないかと思うんだよね。
だけど、もう早い段階で現実と幻覚の境界線がボヤケちゃってるんだよね。

しかも、それは「現実と幻覚のどっちにいるのか、浩市が分からなくなる」ということじゃなくて、2度目のセンシングに入っているのに現実と地続きの流れで突入し(一応、浩市が夢の世界に入る時の表現はあるけど、装置に乗ったりインターフェイスを付けられたりしている映像は無い)、観客に対して現実と幻覚の境界線を見せないようにしている、という演出なんだよね。
浩市に先んじて観客を混沌の世界に迷い込ませるんだけど、それが果たして映画の面白さに繋がっているのかというと、大いに疑問だ。
っていうか、ホント、まるでミステリーから外れちゃってるんだよな。
しかも、2度目のセンシングでそういう演出をしたくせに、3度目はハッキリと「これからセンシングに入る」というスタートを見せちゃうんだから、どうしたいのかと。

高木のキャラクター設定が、ちょっと良く分からない。
「(番外編を)誰が描くんだよ」と沢野が言った時、「アシスタントの僕が」と口にしているけど、高木って出版社の編集者のはずでしょ。いつの間にアシスタントになったんだろうか。
そりゃあ編集者が漫画家の仕事を手伝うってこともあるだろうけどさ、自分から「アシスタント」とは言わないでしょ。しかも、ゴーストとして1本の漫画を執筆できるレベルってことは、編集者の域を完全に超えている。
それと、ゴーストとしての番外編が好評だったのに、新連載の話が持ち込まれるというのも不可解だし、編集者なのに受ける気満々なのも不可解だ。
後でドンデン返しに到達した際、「夢の世界の出来事だから、おかしな設定になっている」ということで納得するしかないのか。

何しろ原作は『このミステリーがすごい!』大賞を満場一致で獲得した小説なんだから、最初の内は黒沢ホラーの世界でも、どこかでミステリーとしての筋道が見えて来るんだろうと思っていたが、一向に見えて来ない。
さすがは黒沢清、自分のやりたいことしかやらない。原作がミステリーでも、ミステリーをマトモにやろうという気は一切無い。
大林宣彦とは全く持ち味が異なるが、大幅な改変で脚本を自分の色に染め上げてしまうという部分は共通している。
そして、「その持ち味がハマった時には絶賛されるような秀作を撮るが、大抵の場合はハマらない」というのも同じだ。

一応、導入部の段階で「なぜ淳美が自殺を図ったのか」という謎は生じているのだが、それを探ろうとする展開が描かれることは無いし、そもそも「淳美が自殺を図った理由」に対する興味を持ち続ける観客は少ないだろう。
黒沢ホラーの世界に浸食され、自殺未遂の理由など、どうでも良くなってしまう。
「なぜ淳美は首長竜の絵に固執するのか」という謎もあるのだが、こちらに関しては、ただ単に違和感があるというだけ。
ミステリーとしての興味が湧くわけではないし、やはり「その謎を解こうとする」という筋書きも無い。

この映画の大きな欠点の1つは(欠点は1つどころじゃ済まないが)、「浩市の行動に興味が持てない」ってことだろう。
なぜなら、それによって事態が好転したり、謎が解明されたりする気配が微塵も感じられないからだ。彼が複数回にわたってセンシングを行っても、それで淳美が意識を取り戻すようには到底思えない。彼が首長竜の絵を見つけ出したとしても、それで事態が好転するようにも思えない。
っていうか、そもそも彼は首長竜の絵を見つけることに対して、それほど躍起になっているわけでもない。また、観客は首長竜の絵が何を意味する物か教えてもらっていないので、それを見つけたからといって何なのかと思ってしまう。
見つけることよりも、むしろ「首長竜の絵は何の意味があるのか」という部分を先に解決してほしいと思ってしまうのだ。
しかし前述したように、その謎を探ろうとする筋道は用意されていない。

完全ネタバレだが、後半に入ると「実は自殺未遂で昏睡状態にある漫画家が浩市で、淳美がセンシングで彼の意識下に入っている」ということが明かされる。
しかし、そこに向けての「ミステリーとしての手掛かり」は乏しいので、「ミステリーの種明かし」としての面白味は味わえない(そのくせ、立場が逆であることは、何となく予想できる人も多いだろう)。
そもそも、そのことが明かされても、「だから何なのか」と思ってしまう。
浩市と淳美の立場が逆だと分かったところで、それが物語として意味のあるモノになっていない。ドンデン返しそのものが目的化しており、目的を果たすための手段として機能していないのだ。

ちなみに、2人の立場が入れ替わったことで「淳美の自殺未遂の理由は何なのか」という謎も「浩市の自殺未遂の理由は何なのか」という内容に変わる。
だが、上述したドンデン返しの直後、「仕事に息詰まり、酔っ払って堤防を歩いていた際、無くしたペンダントに似た物を見つけて手を伸ばし、足が滑って転落した」というバカバカしい答えが明かされる。
「自殺じゃなかったんだ」という淳美の言葉で、あっさりと終了である。
「絶対に助けたい」というヒロインの思いに共感させない設定にする意味は、サッパリ分からない。

終盤、少年の正体が同級生のモリオであること、彼が淳美と仲良くなった浩市への敵対心を剥き出しにしていたこと、海で浩市を沈めようとした時に海中のロープに足を引っ掛けて水死したこと、浩市が罪悪感を抱き続けていたことが明かされる。
そこは一応、幻覚の中で少年を何度も登場させたり、事故現場を登場させたりしているので、伏線は用意されている。ただし、それが明かされても、ミステリーの種明かしとしての面白味が味わえるわけではない。
「浩市が首長竜の絵を描き、モリオの死を首長竜のせいにして封印していた」ということも明かされるが、それによって首長竜の絵が意味するトコロは判明するものの、やはりミステリーの面白さは感じない。
その後にはモリオが首長竜に変貌して浩市と淳美を襲う展開があるけど、「なんじゃ、そりゃ」って感じ。終盤の数分だけCGの首長竜を登場させてアクションをやっても、取って付けたような印象しか受けないぞ。

(観賞日:2014年12月30日)

 

*ポンコツ映画愛護協会