『RANMARU 神の舌を持つ男』:2016、日本

朝永蘭丸は歩いている途中で疲れ果て、意識を失って倒れ込んだ。そこへ肥田文吾、島六郎、岩月丹治という3人の中年男性が車で通り掛かり、蘭丸を温泉へ運んだ。温泉に沈んで再び意識を失った蘭丸は、女医である武田竜胆の人工呼吸で目を覚ました。彼は竜胆からキスされたのに、全く不快感を抱かなかった。野々村龍之介という男が汚れていた服の代わりに着物を渡し、それを着た蘭丸は金田一耕助のコスプレ状態になった。
そこは山形県鬼灯村の露天温泉で、龍之介たちは青年団5人組のメンバーだった。竜胆が村で唯一の医者だと聞き、蘭丸はキスではなくて人工呼吸だと悟った。5人組なのに4人しかいなかったが、1人は抜けたのだと丹治が告げた。蘭丸が三助だと知った文吾たちは、村の温泉で働いてくれないかと要請した。観光シーズンにも関わらず訪れる客は減る一方で、温泉管理組合の理事を務める文吾たちは困っていたのだ。龍之介は実家である旅館「菩辺美庵(ぼへみあん)」に泊まるよう持ち掛け、竜胆の病院からも近いと聞いた蘭丸は「お世話になります」と喜んで引き受けた。
かつて龍之介は県民都市開発という会社の温泉掘削課で働いており、村は「鬼灯温泉」と呼ばれていたこともあったと蘭丸は知った。村の水はペットボトルで販売されており、その工場が唯一の産業だった。龍之介たちは村を栄えさせたいと思っていたが、酒蔵「鬼ノ蔵(おにのくら)」の跡取り息子である卜真は「子殺しの村だべ。こん村に未来なんかねえ」と反発していた。5人組から抜けたのは真であり、最近の彼は様子が変なのだと龍之介が蘭丸に告げた。
蘭丸たちが鬼灯の咲く道を歩いて旅館へ向かっていると、甕棺墓光と宮沢寛治が追い掛けて来た。2人も同行して歩いていると、鬼源水飲料水興社鬼灯村工場の看板が見えた。蘭丸が工場の入り口を覗き込むと、関係者以外は立ち入り禁止となっていた。さらに一行が歩いていると老女たちが待ち受けており、「黒水はおめえらか」と詰め寄った。文吾は蘭丸たちに、村のあちこちで黒水が出たので県へ調査の陳情に行ったことを説明する。老女たちは「鬼火に違いねえ。おめえのせいだ」と竜胆に激しい怒りを向け、手を繋いで『かごめかごめ』を歌い始めた。
蘭丸たちは菩辺美庵に到着し、龍之介の母である花乃に挨拶した。竜胆は祖母の代から医者だったが、村の老女たちが診療所へ来なかったことを蘭丸に語った。蘭丸の名前を聞いた花乃は、激しく動揺した。蘭丸が三助として仕事をしている間に、花乃は龍之介を呼び止めて「あの人が蘭丸って名前だってこと、絶対に言ってはダメだぞ」と釘を刺した。しかし彼女は、その理由については何も話さなかった。その夜遅くに目を覚ました蘭丸は、まばゆい閃光を目撃して旅館を飛び出した。
真が何か話している様子を見掛けた蘭丸だが、再び閃光が見えたので後を追う。しかし光は立入禁止の陥没現場で消えてしまい、翌朝になって蘭丸が同じ場所へ行くと真の遺体が埋まっていた。山形県警から柴刑事と若村刑事が来て捜査を開始し、真の父である辰夫は遺体に抱き付いて号泣した。辰夫は竜胆が息子を捨てたと思い込んでおり、彼女を非難した。竜胆は恋仲を否定し、真の告白を断っていたのに諦めてくれなかったのだと説明した。しかし老婆たちは納得せず、竜胆を「鬼子の呪い」と糾弾した。竜胆にアリバイが無かったため、刑事たちは彼女を警察署へ連行した。
女岩で水が湧いているという情報が届き、蘭丸たちは現場へ向かった。蘭丸は地下水の流れが変わったのではないかと推理し、丹治は黒水ではないと知って安堵した。蘭丸が神の舌を持つ男だと知った龍之介と丹治は、事件を解決してほしいと頼む。龍之介が竜胆と付き合っていることを告白したので、蘭丸はショックを受けた。蘭丸は寛治から『かごめかごめ』の意味について聞き、老婆たちが水子供養の儀式をやっているのではないかと推測した。
鬼ノ蔵を訪れた蘭丸は辰夫に質問し、鬼源水の工場は村にあるが本社は別の場所だと知る。会社は数年前に役場が誘致し、鬼ノ蔵の隣の土地から給水していた。蘭丸&光&寛治は丹治に紹介してもらい、工場の見学へ行く。経営者の湯川麗子と会った蘭丸は、鬼源水が輸出専用だと知った。光は村で起きた陥没が工場のせいであり、真を殺したのが麗子だと決め付けた。蘭丸は会社のホームページが無いことや上場されていないことを知り、不審を抱いた。光は蘭丸と寛治に、会社の所在地が鬼灯村になっていることを教えた。
また鬼火が発生したので、蘭丸たちは現場へ向かった。蘭丸は放電プラズマ現象が原因だと推理し、地下水の汲み上げで局地的な地震が起きたのかもしれないと話す。その場を去ろうとした蘭丸は、自分の名が刻まれた墓石が逆さになっているのを発見した。そこへ老婆たちが現れ、男子禁制に入ったことを責めた。蘭丸の名を知った彼女たちは鬼子だと言い、3人を捕まえた。老婆たちは「お清め」として、檻に入れた蘭丸たちを水に沈めようとする。そこへ刑事が駆け付けたため、老婆たちは逃げ出した。
旅館へ戻った蘭丸は、墓を見て老婆たちが変になったのだと青年団の面々に教えた。そこへ花乃が現れ、村に伝わる忌まわしい名だと口にした。かつて武士が国元の女を孕ませ、産まれてくる子に蘭丸と名付けた。しかし武士は江戸詰めが決まり、女を流産させて捨てた。その女が恨みを込めて息子の墓を作り、蘭丸の名を刻んだ。その直後、武士の藩は世継断絶が理由で改易となり、屋敷も身分も没収された。それ以来、堕胎を希望する女たちが鬼灯村を訪れるようになった。
村に群生する鬼灯を舐めた蘭丸は成分を知り、慌てて村の簡略図を描いた。彼は「この事件の下には水が流れている」と呟き、真の殺害された陥没現場から全てが始まっていると確信した。その辺りは全て鬼源水の土地であり、取水口から外れた場所を購入した目的を蘭丸に問われた麗子は投資目的だと説明した。工場が出来たのは5年前だが、その土地を購入したのは今年に入ってからだった。元々の所有者が野々村家だと知った蘭丸は龍之介と花乃に質問し、多額の相続税を支払うために土地を売ったのだと聞かされた。
陥没現場へ戻った蘭丸たちは、落盤事故で地下の空洞へ転落した。湧き水を飲んだ蘭丸は、その成分が女岩の時とは異なることに気付いた。壁に付着している白い粉を舐めた蘭丸は、それが人工物だと気付いた。壁には何やら中国語らしき文字も書かれていたが、解読することは出来なかった。その直後に再び落盤事故が発生すると、蘭丸は笑顔で「謎は全て解けました」と口にした。彼は村の関係者を全て旅館に集めてもらい、事件の真相と犯人について語り始めた…。

監督は堤幸彦、原案は堤幸彦、原作はTBSテレビ ドラマ『神の舌を持つ男』、脚本は櫻井武晴、製作総指揮は大角正、製作は高橋敏弘&木下直哉&長坂信人、エグゼクティブプロデューサーは武田功、プロデューサーは福島大輔&植田博樹&楠千亜紀、撮影は小林純一、照明は大金康介、録音は小高康太郎、美術は永田周太郎、VFXスーパーバイザーは定岡雅人、編集は大野昌寛、音楽は荻野清子。
主題歌『女は抱かれて鮎になる』 坂本冬美 作詞:荒木とよひさ、作曲:弦哲也、編曲:南郷達也。
出演は向井理、木村文乃、佐藤二朗、市原隼人、木村多江、財前直見、黒谷友香、宅麻伸(写真出演)、竹中直人、岡本信人、渡辺哲、矢島健一、春海四方、落合モトキ、永瀬匡、中野英雄、間宮夕貴、百合沙、大島蓉子、広山詞葉、大串三和子、田村律子、佐藤禮子、滝澤多江、田内一子、都村敏子、益田ひろ子、渡邉杏奴、遠山陽一、北澤雅章、たくしまけい、石井菖子、宮田道代、小林允子、山科ノロ、土師正貴、登美大地、ジェリーピーチ、小林碧依、宮本美優、葛城ユキ(写真特別出演)ら。


2016年7月期のドラマとして放送されていた『神の舌を持つ男』の劇場版。
監督の堤幸彦、脚本の櫻井武晴は、いずれもドラマ版からの続投となる。
蘭丸役の向井理、光役の木村文乃、寛治役の佐藤二朗は、ドラマ版のレギュラー。蘭丸の父親役の宅麻伸も、写真だけで出演している。
龍之介を市原隼人、竜胆を木村多江、花乃を財前直見、麗子を黒谷友香、文吾を岡本信人、六郎を渡辺哲、丹治を矢島健一、柴を春海四方、若村を落合モトキ、真を永瀬匡、辰夫を中野英雄が演じている。
藩士役で竹中直人が出演している。

『RANMARU 神の舌を持つ男』ってのは省略したタイトルであり、正式タイトルはものすごく長い。
『RANMARU 神の舌を持つ男 酒蔵若旦那怪死事件の影に潜むテキサス男とボヘミアン女将、そして美人村医者を追い詰める謎のかごめかごめ老婆軍団と三賢者の村の呪いに2サスマニアwithミヤケンとゴッドタン、ベロンチョアドベンチャー!略して…蘭丸は二度死ぬ。鬼灯デスロード編』ってのがこの映画の正式タイトルだ。
これは2時間サスペンスドラマのタイトルが長いのをネタにしているのだ。
スタンリー・キューブリック監督の『博士の異常な愛情』も正式な邦題は異様に長いが、あれと一緒にしないように。こっちの方は、単なる悪ふざけである。
そして映画の中身も、堤幸彦の持ち味が存分に発揮された悪ふざけのオンパレードとなっている。

TVシリーズは平均視聴率が5.6%であり、完全に失敗作と言っていい。そんなドラマの劇場版を作るってのは、マトモな感覚なら絶対に有り得ない。
ただしTBSドラマの場合、ドラマの視聴率は振るわなかったものの、熱烈なファンが大勢いたので映画はヒットして続編まで作られた『木更津キャッツアイ』というケースがある。
ひょっとすると、あれの再来を狙っていたのだろうか。
しかし、あの作品は熱烈なファンが大勢いて、放送終了後に続編を望む声が高まったことを受けて映画が作られたのだ。
この作品の場合、ファンの要望なんて無い中での映画化なのだ。

堤幸彦作品で言えば、かつてテレビ朝日で放送された『スシ王子!』が低視聴率だったのに、「最初から映画も含めての企画だったから」という理由で劇場版を製作し、やはり惨敗したという過去がある。
そんなテレビ朝日の愚かな失敗から、この映画を製作した松竹や木下グループは何も学習しなかったのだろうか。
ドラマ版を放送していたTBSは今回の映画版に出資していないので、痛くも痒くも無かっただろうけどさ(危険を察知して、さっさと映画製作から逃げ出したのだ)。

やってることをザックリと言うならば、『トリック』シリーズの二番煎じである。ミステリーの上にユルいギャグやマニアックな小ネタを 散りばめ、最後は何となくシリアスな雰囲気も入れて事件を解決するってのは、まんま『トリック』シリーズのフォーマットである。
同じ堤幸彦が監督なので、他人の作品を模倣しているというわけではない。同じモチーフやテーマを何度も繰り返して使う監督なんて世の中には数え切れないほど存在するので、それが悪いとは言えない。
ただし、そもそも劇場版に向いているとは思えなかった『トリック』を模倣して、それを劣化させまくっているんだから、そりゃ駄作に仕上がるのは当然である。
『トリック』の劇場版なら「深夜枠のドラマだったら楽しめる」と批評することも出来るが、この映画は「深夜ドラマでもキツい」というレベルだからね。

ドラマ版は見ていないが、少なくとも劇場版で笑えるポイントは皆無に等しい。ドラマも映画も監督や脚本家は共通なんだから、「ドラマは面白かったのに」という可能性は低いだろう。
ともかく、この映画は冒頭から寒々しいことになっている。
映画が始まると寛治が登場し、「あまりにもたくさんの皆様にこのドラマをご覧頂いていないので」と前置きしてドラマの粗筋をザッと説明する。
自虐ネタをカマしているのだが、そんな自虐さえも外している。

粗筋を説明した最後には「そんなドラマも打ち切りになり、我々の旅も終わりになるはずだった。ここ、笑うトコです」という寛治の台詞が入り、笑い声のSEが入る。
もちろん「笑うトコです」と言われても全く笑えないのだが、たぶん、それは織り込み済みだろう。まるで笑えないネタに、あえて笑い声のSEを入れて過剰に演出している、というネタなんだろう。
だが、それも含めて寒々しいことになっている。
ちなみに、そんな粗筋を紹介する映像の際、右下にはアニメ化した寛治の顔が写し出され、そいつが口をパクパクさせて喋っているという形を取るのだが、この演出も全く笑いには繋がらない。っていうか意味不明。
あと、どうせドラマ版を見ていない人からすると、冒頭の「今までの粗筋」は何の手助けにもならない。

蘭丸が温泉で目を覚ました後の会話シーンで、六郎の頭部が一時的に大きくなる。それに蘭丸が気付く様子も無いし、誰も気にしていない。
そういう現象は1度だけでなく、以降も登場人物の頭部が急に大きくなるシーンが何度かある。しかし、誰も頭が大きくなっていることを指摘せず、そのままスルーされる。もちろん映像が乱れているわけではなく、意図的に頭部を大きくしているのだ。
しかし、それに何の意味があるのかサッパリ分からない。
確実に言えることは、「間違いなくネタとしてやっているが、笑いを生む効果はゼロで困惑を招くだけ」ってことだ。

それ以降も物語の展開には全く影響を与えない小ネタが次々に提示されるが、ダラダラと上映時間を引き延ばしている以外に効果は無い。
っていうか、そんな効果を発揮しても全く映画にとっちゃプラスに作用しないし。
ユルいコントもどきを担当するのは主にメインキャラを演じる向井理&木村文乃&佐藤二朗だが、役者人生の中でダントツにハマらなかった役柄なんじゃないかと思うぐらいハマっていない。
彼らは被害者という一面もあるのだが、そういう仕事を引き受けちゃったんだから仕方が無い。

序盤で蘭丸が金田一耕助のコスプレ状態になるのは、その場限りの「どこにも掛かっていないネタ」ではなくて、一応は「事件を推理して解決に導く話ですよ」ってことをアピールしている。
ザックリと言うなら「金田一耕助モノ」のパロディーってことになるのかもしれないが、パロディーと呼べるほどの関連性は無い。
また、ドラマ版を見ていた奇特な人や、『トリック』シリーズを見ていた人であれば、この映画にミステリーとしての醍醐味など期待できないことは説明しなくても明らかだろう。ストーリーとは何の関係も無いネタに全力を傾けており、ミステリーなどオマケにもならない程度の扱いだ。
しかも全力を注いだネタの方も全て外しているんだから、どう頑張っても救えない。
そこだけは、ある意味で「推理はするけど犠牲者が増えていくだけで誰も救えない」という金田一耕助に似てるわな。

(観賞日:2018年3月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会