『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』:2005、日本

「オマツリ島はグランドライン唯一のリゾートチックな喜び島。毎日がお祭り」などと記された地図を手に入れた麦わらの一味は、その島へ行ってみることにした。しかし上陸してみると、お祭り騒ぎをやっている気配は全く無い。また、地図に描かれていた花も見当たらない。ジャングルの奥から音が聞こえて来たので、ルフィたちは足を進める。ジャングルを抜けたところには豪華なリゾート施設が建っており、肩に花を咲かせたオマツリ男爵と手下たちが現れた。
オマツリ男爵はルフイたちに、「お主らには地獄の試練を受けてもらう」と告げる。ナミたちは話が違うので早々に去ろうとするが、ルフィだけは「面白そう」と好奇心を示す。男爵が「船や仲間に自信が持てぬならば、今すぐこの場から立ち去るがいい」と言うと、彼は「馬鹿言うな、もちろん受けて立つぜ」と自信たっぷりに告げる。ナミやウソップたちは声を揃えて反対するが、ルフィは能天気に「罠でも何でも、おめえらなら平気だろ。それに俺は、お前らを信じてるし」と語る。結局、みんなルフィに同意した。
男爵が彼らに用意した試練は金魚すくいだった。制限時間3分以内に、より多く金魚をすくった方が勝利だという。男爵が対戦相手として差し向けたのは、ムチゴロウという部下だ。麦わらの一味からは、金魚すくいと聞いて強気になったウソップが名乗り出た。対決が始まると、海から巨大な金魚が出現する。男爵とムチゴロウは、後出しジャンケンのような卑怯な手口で勝とうとする。だが、ニコ・ロビンとチョッパーの活躍で、麦わらの一味は勝利を収めた。
男爵は怒りに身を震わせ、「貴様らには次なる試練を受けてもらう」と言い出す。ルフィだけがノリノリになり、ナミに突き飛ばされる。麦わらの一味はゴーイング・メリー号へ戻ろうとするが、ジャングルで道に迷ってしまう。ピクニックの跡を途中で発見した彼らが歩みを進めると、男爵が待ち受けていた。第2の試練は、船に乗っての輪投げだ。男爵はケロジイ、ケロショット、ケロデーク、ケロコの4人を対戦相手として送り込む。麦わらの一味からはナミ、ウソップ、サンジ、ゾロが船に乗り込んだ。
船が猛スピードで走り出すと、川は大勢の人々が住む街に入った。一方、ルフィたちはリゾートホテルで待機する。他に宿泊客の姿は無い。ルフィは石が投げ付けられ、犯人を見つけて追い掛ける。すると男は「俺はお前に素晴らしい提案をするため、わざわざ危険を冒してこの館までやって来た男」と語る。彼はチョビヒゲ海賊団のブリーフ船長だと名乗り、オマツリ男爵の支配に対してレジスタンス運動をしているのだと説明した。
ルフィはブリーフから「お前ら全員、俺の仲間にならないか」と持ち掛けられるが、もちろん「お前の仲間になんかなるわけないだろ」と拒む。するとブリーフは「最初はどんな奴でもそう言う。だがこの島でしばらく過ごせば考えが変わる。忠告しといてやろう。オマツリ男爵に気を付けろ。男爵は仲間をバラバラにする」と述べた。街へ探索に出掛けたチョッパーは、無数の墓石が並ぶ墓地を発見した。全ての墓石の前には、花が手向けられていた。
チョッパーの背後から、お茶の間海賊団船長のパパが現れる。お茶の間海賊団は家族だけで構成されており、パパ以外の船員は長女のローザ、長男のリック、次女のデイジーという構成だ。パパはチョッパーに、リゾートだと思って来てみたが違っていたこと、金魚すくいの試練で逃げ出したことを語る。しかし娘たちは「パパは強いんだ」と信じているのだという。そこで彼は、「娘たちの前で私にやられてくれない?フリでいいから。その代わりに、この島の秘密を全部教えるから」とチョッパーに頼んだ。
チョッパーはパパの頼みを承諾し、子供たちを呼び寄せた彼の前で「降参です」と怯える芝居をする。デイジーは無邪気に「パパ、強い」と喜ぶが、ローザは「なんか嘘臭い」と疑い、「うっせえんだよジジイ」とパパに反抗する。ニコ・ロビンはムチゴロウを酔わせ、この島にしか無い花について尋ねる。ムチゴロウは、島のてっぺんにリリー・カーネーションという花が咲いていることを話した。
チョッパーはパパから、かつて男爵が海賊だったことを示す手配書を見せられる。だが、男爵が海賊を集め、強い海賊を見つけて何をしようとしているのか、それは分からないという。一方、輪投げ対決では、些細なことでナミがウソップに激怒し、ゾロとサンジが喧嘩を始めてしまう。最終的にはウソップの活躍で勝利したものの、ナミとウソップ、ゾロとサンジは険悪な状態になってしまった。
手配書を眺めていたチョッパーは、男爵だけが若いことに気付く。その直後、彼は背後から忍び寄った男爵に弓矢で撃たれる。ホテルでは男爵が「これから晩餐をプレゼントしよう」と言い、野外鉄板レストランが開店される。男爵の部下のコテツが巨大な鉄板の上で調理を始めると、ルフィたちが興奮する。サンジは「これから俺がこのデブより100倍美味い飯を食わせてやるぜ」と料理対決を始めた。
いつまでもナミが怒っていることに納得いかないウソップが建物の外に出ると、男爵の部下のDJガッパが現れる。彼は勝手に「バカにしたっプ」と怒り出し、ウソップに襲い掛かった。ナミに酒を飲まされたムチゴロウは、男爵や自分たちがレッドアローズ海賊団だったことを明かす。彼は大昔に死んだ伝説の海賊ゴールド・ロジャーのことを、「こないだ会ったぞ。嵐の夜さ」とナミに語った。
リリー・カーネーションを探していたロビンは、座礁した男爵の船を発見する。そこに男爵が現れ、「秘密の花を見せてやろう。血と再生の花」と山のてっぺんを示す。山のてっぺんにある巨大な管を目にしたロビンが「これが花ですって?」と驚愕していると、男爵は彼女に矢を放った。同じ頃、ムチゴロウは急に老化して死んでしまった。ナミやゾロたちは、仲間が3人もいなくなっていることに気付いた。ゾロとサンジは、そのことで言い争いになった。
サンジはルフィに「どうすんだよ。お前がこの島へ行くって決めたんだぞ。こんな風になった原因はお前だ」と怒鳴る。ゾロとサンジは男爵の仕業と知り、仲間を返すよう要求する。男爵は「焦るな、まずは次の試練について知るがいい」と要求するが、2人は相手にせず、別々に捜索へ向かう。男爵は次なる試練として、「ルールは無い。100人の狙撃手がお主らを狙う。逃げ切れる自信があるなら、仲間でも何でも捜すが良い」と説明する。ルフィはナミに「ルフィ、どうする?」と訊かれても全く返事をせず、動こうともしなかった。ナミは仕方なく、一人で逃げ出した。
ルフィは男爵に「海賊の船長が仲間を見捨てるのか」と嘲笑されると、怒って飛び掛かろうとする。だが、「そうこなくては」と言う男爵や暗闇に潜む狙撃手たちが、矢を発射してきた。トンネルに落下して意識を失ったルフィは、ブリーフに救われる。ブリーフはルフィに、自分の仲間たちが男爵にさらわれたこと、巨大な管に飲み込まれたことを語る。男爵は結束の固い海賊を憎み、その管の生贄にすることで、かつて嵐で死んだ仲間を復活させていたのだ…。

監督は細田守、原作は尾田栄一郎(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)、脚本は伊藤正宏、製作は岡田裕介&高橋浩&山路則隆&関一由&竹内淳、企画は清水慎治&梅澤淳稔、製作担当は椎葉一夫、編集は後藤正浩、録音は市川修(脩一郎は間違い)、音響効果は新井秀徳、撮影監督は白鳥友和、CG監督は西川和宏&新井啓介、CG合成監督は加藤律昭、美術監督は串田達也、色彩設定は塚田劭、キャラクターデザインは作画監督は すしお&久保田誓&山下高明、音楽は田中公平。
主題歌「夢見る頃を過ぎても」歌:氣志團、作詞:綾小路翔、作曲:綾小路翔、編曲:氣志團。
声の出演は田中真弓、岡村明美、中井和哉、山口勝平、平田広明、大谷育江、山口由里子、綾小路翔(特別出演)、渡辺美佐、国本武春、安原義人、大塚明夫、草尾毅、青野武、佐藤正治、八奈見乗児、山本圭子、永井杏、池松壮亮、大本眞基子、阪口大助、田中大文、山本圭一郎、平井啓二、金子英彦、福原耕平、笹田貴之、三宅淳一、岡本寛志、濱野雅嗣、森岳志ら。


尾田栄一郎による週刊少年ジャンプ連載の漫画『ONE PIECE』を基にしたTVアニメの劇場版第6作。
ルフィ役の田中真弓、ナミ役の岡村明美、ゾロ役の中井和哉、ウソップ役の山口勝平、サンジ役の平田広明、チョッパー役の大谷育江、ロビン役の山口由里子というTVシリーズのレギュラー声優陣は、もちろん引き続いて出演している。
他に、オマツリ男爵の声を大塚明夫、ムチゴロウを草尾毅、コテツを綾小路翔、リリーを渡辺美佐、お茶の間パパを国本武春、ブリーフを安原義人、ケロジイを青野武、ケロショットを佐藤正治、ケロデークを八奈見乗児、ケロ子を山本圭子、デイジーを永井杏、DJガッパを池松壮亮、ローザを大本眞基子、リックを阪口大助が担当している。

「オマツリ男爵と秘密の島」というタイトルからは、いかにも楽しい内容になっているような印象を感じる。
さらに、この映画が公開された時のキャッチコピーは「史上最大の笑劇!!」だった。
そうなると、観客が「明るく楽しく元気な活劇」を期待しても当然だろう。
しかし、実際の内容は、まるで違っているのだ。むしろ後半に入ると、重くて暗い内容になってしまう。
だったら、キャッチコピーで「史上最大の笑劇!!」なんて、平気で嘘をついちゃイカンよ。

っていうか、「キャッチコピーやタイトルから受ける印象と、実際の中身が全く違う」というJAROに相談したくなるような問題とは別に、それ以前の問題として、そもそも陰気で暗い内容にしたこと自体が、どうなのかと思ってしまうのよね。
これって少年漫画が原作なんだし、基本的にはジュブナイル映画であるべきなんじゃないかと思うのよ。
例えば、シリアスな雰囲気を漂わせるとか、感動的なストーリーを用意するとか、そういうのは別にいいよ。
だけど「重苦しくて陰気」ってのは、そりゃ違うんじゃないのかと。

ちょっと調べてみると、最初のプロットと完成した脚本には大きな違いがあるらしい。
当初のプロットでは、麦わらの一味がオマツリ島で幾つもの試練を強いられる内容だった。
バラエティー番組の放送作家である伊藤正宏が脚本担当なので、いかにもバラエティー番組的な内容だったようだ。
で、それに納得できなかった細田守監督の意向によって、内容が変更されたという経緯があるようだ。

プロットのままで映画を作ると薄っぺらい映画になった可能性もあるから、内容を変更するのは別に構わない。
ただし問題は、そこに当時の細田監督が抱えていた問題や、それに対する個人的な感情を投影しているってことだ。
この当時、彼はスタジオジブリに招聘されて進めていた『ハウルの動く城』の監督を降板した直後であり、その問題で抱えていた感情を、この映画に盛り込んでしまっているのだ。
ようするに、ものすごく私的な理由、もっとハッキリ言えば私怨によって、内容を変更しているのだ。
それはダメでしょ。

ナミとウソップ、ゾロとサンジは、些細なことで、なぜか異様なぐらい険悪な雰囲気になる。
だけど、これまでの冒険の中で、麦わらの一味は誤解が生じたり言い争いになったりしても、すぐに仲直りしていたはず。今回に限って、なぜ修復不可能になるぐらい険悪な状態に陥ってしまうのか。
「男爵が結束の固い海賊を嫌っており、バラバラにしようとする」という設定に合わせて、無理に険悪な雰囲気へ持ち込んでいるようにしか思えない。
男爵が結束の固い海賊をバラバラにしようとするのは、そういう筋書きにしたいのなら、別にいい。
ただ、それならそれで、もっと自然な形で、ナミたちをバラバラにすべきだ。

ナミとウソップたちは喧嘩によってバラバラになるのだが、チョッパーやニコ・ロビンたちに関しては、ただ単独行動を取ったというだけに過ぎない。
男爵が彼らに対し、単独行動を取るよう仕向けたわけではない。
それを「オマツリ男爵に気を付けろ。男爵は仲間をバラバラにする」ということだとすれば、気を付けるもへったくれもありゃしない。
っていうか、単独行動を取っている間に男爵が矢を放って生贄にすることを繰り返すのであれば、ナミたちを仲違いさせる意味なんて全く無いじゃないか。

後半、ルフィが男爵によって動きを止められている間に、麦わらの一味は全員がリリー・カーネーションの生贄となって死亡する。
男爵は「全ての仲間を失った。その事実は永遠に変わらない。お主はどうする?生き残っても苦しい絶望と孤独の長い日々が待っているだけだ。お主はどちらを選ぶ?生きるか、死ぬか」とルフィに問い掛ける。
そこへブリーフとお茶の間海賊団が助けに入り、彼らの励ましを受けたルフィは、協力を得て男爵と戦う。ルフィはブリーフが危機に陥ると、「俺の仲間に手を出させねえ」と激怒して男爵を殴り、チョビヒゲ海賊団の挨拶をする。パパはデイジーに勇気付けられ、リリーに弓矢を放つ。
なぜか終盤は麦わら一味ではなく、「ルフィと新しい仲間たち」の戦いになっているのである。
この展開が何を意味しているのかというと、「仮にナミやゾロやウソップたちが全て死んだとしても、ルフィは新しい仲間たちと冒険を続けるだろう」ってことなのだ。

そこには、細田監督が『ハウルの動く城』の降板を経て感じた思いが込められている。
つまり、目標(ルフィにとっては海賊王になること、細田監督にとっては映画製作)を達成することと、仲間を大切にすること、その2つを天秤に掛けたら、前者を選ぶべきだと細田監督は言いたいわけだ。
いなくなった仲間にこだわらず、新しい仲間たちと一緒に、目標達成に向けて進んでいくべきだと言いたいわけだ。
オマツリ男爵のように、死んだ仲間にこだわっていても無意味じゃないのかと言いたいわけだ。

で、ルフィが新しい仲間たちと一緒に戦う様子を見せることで、細田監督としては、「ルフィは男爵のように昔の仲間に固執せず、目標を果たすために新たな仲間と冒険を続けるだろう」という描き方をしている。
だけどね、それは違うんじゃないか。
そりゃあ、ルフィは仮に麦わらの一味が全滅したとしても、海賊から足を洗わず、また新たな仲間を見つけ出すだろう。
ただし、ナミたちが全滅したら、かなり長い間、どん底まで落ち込むはずだ。
そういうのが、彼の「仲間意識」ってモノだろうと思う。

だけど、この映画で細田監督が描いている「理想の船長」ってのは、「仲間意識よりも目標達成を優先する」という、冷たいイメージになっていると感じるのよね。
それは違うんじゃないかと。
ルフィにとって、麦わらの一味に対する仲間意識ってのは、単に「目標達成のために行動を共にしているだけ」という関係ではない。
もっと強い絆で結ばれているのだ。
仲間のためなら命懸けで戦うし、クールに袂を分かつことなんて有り得ない。

それは細田監督からすると、理想の船長ではないかもしれない。
ただ、ルフィってのは、そういうキャラでいいのだ。
このアニメシリーズで描くべきは、「船長としてルフィはこうあるべきだ」ということではなく、「麦わらの一味は強い絆で結ばれた連中だ」ということでいいんじゃないのかと。
それなのに、細田監督が個人的な感情を注ぎ込んだせいで、今回は麦わらの一味よりもルフィの新しい仲間たちの方が魅力的に描かれている。
麦わらの一味は、つまらないことで言い争って、本気で仲違いしてしまうチンケな連中に成り下がっており、後半は全く活躍の場を与えられない。
ハッキリ言おう、これは失敗作だ。

(観賞日:2012年10月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会