『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』:1996、日本

ズフ共和国の刑務所では年に1度、独裁者・首狩り将軍や警察長官クライシスらが立ち会う中で囚人脱走処刑ゲームが催される。わざと 囚人数名を逃がし、それを追跡して射殺するのだ。だが、いきなり刑務所の所長が囚人のスパンキー博士をジープに乗せ、逃亡した。 追跡を逃れる中、所長の顔の人工皮膚が熱で剥がれた。実は、ルパン三世が所長に変装していたのだった。
ルパンは仲間の次元大介、石川五右衛門と共に、ズフ国沿岸の沖合いに浮かぶ漂流島へ赴いた。そこに財宝が眠っているのだ。3人は、前 の国王時代の研究所に足を踏み入れた。既に閉鎖されている所内で、彼らは主任研究員ボルトスキーの骸骨を発見した。洞窟へ向かった ルパンたちは、奥の扉に行き当たった。謎に包まれた無数の仕掛けに襲われた3人は、慌てて島から逃げ出した。
前国王は財宝を守るため、島全体を貯蔵庫にした。しかし2年前の軍事クーデターによって国王と息子パニシュは殺され、首狩り将軍が 実験を掌握した。首狩り将軍も財宝を狙っているが、未だ手に入れることは出来ていない。その首狩り将軍の御前試合に、峰不二子が参加 した。彼女は大女を軽やかに倒し、首狩り将軍の関心を引くことに成功した。
ズフ共和国にやって来た銭形警部を、クライシスが空港へ出迎えに赴いた。ルパンがズフ王の宝を頂くと予告したため、銭形警部はやって 来たのだ。空港を出ようとしたクライシスは、自分が殺したはずのパニシュの姿を見掛けて驚いた。だが、再び確認しようとすると、その 姿は消えていた。ルパンは修理工から、首狩り将軍の娘エメラが漂流島と深い関わりを持っていること、彼女が父親から逃げたがっている ことを聞いた。
ルパンたちはアドバルーンを上げ、「首狩り将軍の娘を頂く」と予告した。3人は城に突入し、予告通りエメラを連れ出した。だが、それは 銭形が用意した替え玉だった。それに全く気付かず、ルパンたちは隠れ家に彼女を連れ戻る。だが、彼女が隠し持った小型カメラで、その 動きは全て銭形に監視されていた。首狩り将軍が差し向けた軍隊が、隠れ家を包囲した。女も銃を持ち出し、ルパンたちに向けた。彼女は、 秘密工作員オーリエンダだった。
クライシスと軍隊は銭形の制止を無視し、隠れ家を爆撃した。ルパンは爆撃に巻き込まれそうになったオーリエンダに飛び付き、彼女を 救った。彼女の首から落ちたペンダントには、パニシュと並んでいる写真が入っていた。それを見たルパンは、その男をダウンタウンで 見掛けたと告げた。信じられないオーリエンダだが、次元も同じことを口にした。ルパンたちが脱出しようとすると、オーリエンダは銃を 構えた。だが、ルパンたちは海に飛び込んで姿を消した。
首狩り将軍は不二子をエメラの相談相手として雇うが、同時に監視役も命じた。エメラは不二子の目的を見抜き、逃がしてくれたら島の 秘密を教えると持ち掛けた。オーリエンダは町を歩いてパニシュのことを尋ね回るが、目撃情報は得られない。しかし夜、彼女の前に パニシュが現われた。パニシュは仲間を集めてレジスタンスを組織したことを説明し、オーリエンダに連絡装置を渡して内部情報を探る よう依頼した。
銭形が酒場で飲んでいると兵士が現われ、不法滞在を理由に逮捕しようとする。兵士を叩きのめした銭形は、TVジャックしたパニシュが 首狩り将軍に宣戦布告する放送を目にした。首狩り将軍はクライシスに、パニシュを生け捕りにするよう命じた。ルパンはスパンキーの元 へ行き、島の仕掛けがナノマシンだと聞く。スパンキーによると、それを黙らせる方法は無いという。
不二子はエメラを城から脱出させるが、島の秘密は何も知らないと打ち明けられた。エメラは首狩り将軍の実の子ではなく、ボルトスキー の娘だった。ナノマシンを開発した父は、娘を守るために「エメラが生きていることが秘密を解く鍵」と首狩り将軍に嘘をついたのだ。 エメラは不二子に、首狩り将軍のコンピュータに秘密を解く手掛かりがあるかもしれないと告げた。一方、クライシスは、ルパンを 捕まえた者には100万ドルの賞金を渡すと発表した。
オーリエンダが営むバーでスパンキーが飲んでいると、ルパンが姿を現した。店の外にパニシュの姿を見たオーリエンダは、慌てて追うが 見失った。店を出たルパンは、賞金目当ての連中に襲撃される。逃げ回るルパンだが、銭形の仕掛けた罠によって拘束された。しかし銭形 が目を離した隙に、ルパンは見張り役と入れ替わって脱出する。
パニシュはオーリエンダのバーに現われ、翌日に反乱軍が一斉蜂起することを告げた。パニシュとキスを交わしたオーリエンダは、ある ことに気付いた。次の日、パニシュが言った通り、反乱軍が城に攻撃を仕掛けた。オーリエンダはパニシュと通じていたことをクライシス に知られ、捕まってしまう。首狩り将軍の拷問を受けた彼女は、パニシュが漂流島にいると告げた…。

監督&原作はモンキー・パンチ、脚本は柏原寛司、企画は武井英彦、総指揮は漆戸靖治、プロデューサーは前田伸一郎&松元理人、 担当プロデューサーは小沢十光、文芸ディレクターは飯岡順一、アニメーション監督は矢野博之、絵コンテ・演出は矢野博之&川越淳& 篠原俊哉&日巻裕二、総作画監督&キャラクターデザインは江口摩吏介、メカニカルデザイン&メカニカル作画は今掛勇、 作画監督は村田雅彦&瀬尾康弘&菖蒲隆彦&佐々木守、作画監督補佐は山口晋&田村一彦&山田起生&梅原隆弘、 撮影は長谷川肇、編集は瀬山武司、録音監督は加藤敏、美術は東條俊寿&荒井和浩、美術協力は飯島由紀子、色彩設計は小林照美& 笛吹康二、特殊効果は林好美、音響効果は糸川幸良、メインテーマは大野雄二、音楽は根岸貴幸、音楽プロデューサーは山田慎也、 音楽監督は鈴木清司、モンキー・パンチ応援団はいがらしゆみこ&石ノ森章太郎&里中満智子&竹宮恵子&ちばてつや&寺沢武一&永井豪 &弘兼憲史&北条司&水島新司&矢口高雄&マンガジャパン。
主題歌「Damageの甘い罠」作詞は松井五郎、作曲はKIYOSHI、編曲はKAZZ&media youth、歌はmedia youth。
声の出演は栗田貫一、小林清志、井上真樹夫、増山江威子、納谷悟朗、銀河万丈、高山みなみ、野沢那智、古谷徹、横山智佐、千葉繁、 渡辺美佐、辻村真人、緒方賢一、西村幾雄、茶風林、大友龍三郎、小形満、くじら、入江崇史、石黒久也、水内清光、浅沼喜久子、 濱百合亜、小倉淳ら。


モンキー・パンチの劇画を基にしたアニメ『ルパン三世』は、TVシリーズと並行して劇場版も製作された。
TVシリーズ終了後、声優陣を総入れ替えした劇場版第4作『風魔一族の陰謀』が不評を買い、その後は1989年から1年に1本のペース でTVスペシャルの製作が開始された。
そして1995年には久しぶりの劇場版となる第5作「くたばれ!ノストラダムス」が作られた。
この時、ルパンの声優・山田康雄が病気だったため、栗田貫一が代役を務めた。

その後、山田が亡くなり、栗田はTVスペシャルのシリーズ第7作「ハリマオの財宝を追え!!」から正式に2代目声優となった。
この作品は、栗田が正式就任してから最初の劇場版ということになる。
劇場版第6作にして、原作者のモンキー・パンチが初めて監督を務めている。
「ルパン」シリーズはずっと大野雄二が音楽を担当しているが、この映画とTVスペシャル第8作「トワイライト☆ジェミニの秘密」では 根岸貴幸が担当している。

モンキー・パンチが監督を務めたことの大きな影響として、キャラクター・デザインが今までとは異なっている。
それは出来る限り原作に近付けようとした結果として生じた違いなので、個人的にはOK。
ただし峰不二子だけは、頭(というか頭髪)がデカすぎるので、キャラを動かした時(特に登場時の格闘シーン)に全体のバランスが おかしな感じになっている。

原画のクオリティーは充分だと思うのだが、アニメーションとしては躍動感が物足りない。
出て来る装置や機械は現実離れしているのに、変なところで現実的な感覚が抑制を働かせたのか、おとなしい。
例えば車がジャンプして空中3回転半ひねりで着地するとか、人が垂直な崖をダッシュで降りていくとか、それぐらい有り得ないような 動きをメカやキャラにさせてもいいと思うんだが。

まず滑り出しからして、「掴みはOK」とは行っていない。
アヴァン・タイトルで、ジープで逃走する所長の顔が剥がれて正体が現われ、そしてタイトルになるのだが、それが上手くないと 感じる。
所長のままのカーチェイスが長すぎるのが問題で、そこは早めにルパンの姿をさらし、そしてカーチェイスを続けた方がいい。
また、ルパンのセリフが全く無いままタイトルに入るのも疑問。
そこは何かセリフを喋らせてからタイトルに入った方がいい。

隠れ家が爆撃されて自分も巻き込まれそうになった時、オーリエンダは「これが首狩り将軍のやり方なのよ」と諦めたように語る。
ならば死ぬ覚悟を持って来ているのかというと、そこまでの気持ちは無いようだ。
分かっているなら、爆撃されても慌てるなよ。
爆撃されて慌てる様子を示すのなら、「まさか自分も殺そうとするなんて」と怒りを見せるべき。

オーリエンダが首狩り将軍に忠誠を誓っているようにも思えないのだが、逃げようとするルパンに再び銃を向けて「もう逃げられないわよ」 と言う。
どうも彼女の態度や行動がフワフワしているように感じられてしまう。
あと、オーリエンダが首狩り将軍から「パニシュは国王に殺され、自分が仇討ちした」と聞かされて信じていたという設定にも、かなりの 無理を感じる。
だって、どうもゾフの国民はパニシュが首狩り将軍に殺されたと分かっているような気配があるし。

ルパンはスパンキーに会って「島で襲ってきたのはナノマシンだ」と説明を受けているのに、その後、アジトに戻って島で付着した砂粒を コンピュータで調べるシーンで、また「ナノマシンとは云々」と説明する展開がある。
これは二度手間だ。ナノマシンが何なのかを説明するのなら、それもスパンキーと会うシーンでやっておけばいい。
っていうか、スパンキーって最初にルパンが刑務所から連れ出すぐらいだから重要なキャラかと思ったら、全く必要性の無い存在に なってるぞ。
必要性が無いといえば、エメラもそうだ。彼女が財宝の鍵を握っているということで、本格的にルパンがズフと関わっていくことになる にも関わらず、当の本人は途中でさっさと退場してしまう。
で、終盤になって「実は防御システムを解除する鍵はエメラでなくパニシュだった」ということが明らかになるが、だったら首刈り将軍が エメラに固執した理由は何だったのかと。

途中、ルパンが賞金目当ての連中に狙われる展開があり、それに関連してクライシスの手下が「DEAD OR ALIVE」というタイトルにもある 言葉を口にする。
だが、ルパンが賞金稼ぎに狙われるという展開は、物語のメインになっているわけではないし、中盤の1シークエンスに描かれるだけで 後には全く繋がらない。むしろ無駄な寄り道と化している。
そもそも、「ルパンが賞金首になった」というアピールも弱いし、賞金首になったと観客に知らせてから実際に狙われるまでに間を空けて しまうし。

銭形に捕まったルパンが見張り役と入れ替わったのはバレバレなのに、そのネタを引っ張るのは意味が無い。
その場で、入れ替わって脱出したルパンのニヤリ顔を描写し、ネタを観客には明かしてしまえばいい。
銭形がルパンの入れ替わりに気付くタイミングも、かなり遅い。
っていうか、もうルパンが脱出した直後に気付いてしまっていいんじゃないかと思うけど。

財宝のためというより「正義のため」に行動しているという感じが強かったルパンが、オーリエンダが首刈り将軍に拘束されて殺されそう になった時、救出に駆け付けないのは疑問が残る。
もちろん、オーリエンダたちが漂流島に来なければ話が上手く転がらないという事情はある。
だが、その都合のためにルパンの行動理念にブレが生じていると観客に感じさせたら、それは失敗でしょ。

島の洞窟に現われたパニシュはルパンの変装なんだが、幾ら荒唐無稽とは言え、ここは無理を感じる。
精密な防御装置の認証システムを騙すぐらい(つまり指紋まで完璧に)、実際に会ったことも無い相手に化けるなんて、そんなアホな。
あと、実は空港に登場したパニシュからして全てがルパンの変装だったわけだが、でも実際にレジスタンスが城を襲っているのだ。
あの連中はどうしたのかと。島に入ってから数日で、あっという間にレジスタンスを組織したのかと。

あと、その「パニシュが存在すると見せ掛け、レジスタンスを組織したことを大々的に宣伝し、オーリエンダにもパニシュが生きていたと 思い込ませ、城を攻撃する」というルパンの行動は、「漂流島の財宝を盗み出す」という目的からは明らかに逸脱している。
最初から首刈り将軍を倒す目的があったとでも仮定しなければ、整合性が取れない。
だが、それは泥棒がやるべき仕事じゃないだろう。もはや「財宝を盗むのが目的だが、それに付随する形で」というレヴェルじゃな いぞ。
しかも、パニシュが生きていたと思い込ませてオーリエンダを引き込むことは、彼女の恋心を悪質な形で利用しているように感じられる。 実際には、パニシュは死んでいるわけだからね。
オーリエンダが笑顔で「いい夢だった」と漏らすシーンを描いているけど、こっちは納得できねえぜ。

キャラの出し入れ、緩急の使い分け、ストーリーテリングにおける抑揚の付け方、シーンを繋ぐ順番や構成、それら全てが、ことごとく ダメ。
全体的なテイストはハードボイルドを狙っているのだろうと見受けられるが、単にテンポが悪いだけになっている。
あえて擁護するならば、低予算の上にスケジュールが非常に厳しかったらしい。
絵コンテから完成までの期限が3ヶ月だったとか。
アニメ映画だと、少なくとも半年は必要じゃないかなあ。ジブリやピクサーなんかは、もっと時間を掛けるわけだし。

(観賞日:2010年12月28日)

 

*ポンコツ映画愛護協会