『ルパン三世』:2014、日本
シンガポール。ザ・ワークスのボスであるドーソンは、ホーガン美術館から古代オリンピック最初のメダルを盗み出すゲームをメンバーに指示した。ドーソンは峰不二子、ピエール、ジローが配置に就いたことを確認するが、ルパンとマイケルには呼びかけても応答が無かった。ドーソンは確認の取れた3人に、ゲームを始めさせた。不二子はピエールとジローを妨害してメダルに近付くが、ルパンに出し抜かれる。爆発音で警備員が集まって来たので、不二子、ピエール、ジローは逃亡した。
バイクで美術館を出たルパンは、横取りしようと待ち伏せていたマイケルに遭遇する。マイケルが不二子を遠隔操作の爆破で殺すことを示唆し、ルパンに脅しを掛けた。不二子に惚れているルパンは、彼にメダルを渡した。翌日、インターポールの銭形警部は香港警察へ赴き、美術館の事件に触れる。彼は17年前から世界的窃盗集団のボスであるドーソンを追っていること、ザ・ワークスの一味が彼の屋敷に集結する情報を得たことを説明した。
その夜、ルパンたちは結果発表を兼ねたパーティーに出席するため、ドーソンの屋敷に集まった。銭形と部下たちは監視カメラの映像を確認しながら、屋敷を張り込んだ。ドーソンはザ・ワークスの会長を引退すると発表し、昨晩の勝者に全てを譲ると告げる。マイケルから貰ったメダルを不二子が取り出したため、彼女が新しい会長に就任した。伝統として金庫が開けられ、アントニウスがクレオパトラのために作ったネックレスの「クリムゾンハート・オブ・クレオパトラ」があることをドーソンは説明した。
首飾りにはルビーが欠けており、マイケルは「どこに?」と尋ねる。ドーソンが「片付けるべきことが残っている。君らを呼んだのは、そのためだ」と口にした直後、傭兵のロイヤル、マリア、サーベルが屋敷へ突入して警備員たちを次々に銃殺した。彼らを雇ったマイケルは首飾りを奪い、ドーソンの首筋にナイフを突き付けた。ドーソンは警護を担当していた次元大介が拳銃を構えると、それを制した。銭形は警官隊を引き連れ、屋敷に突入した。
マイケルは裏切りの理由をドーソンに問われ、「エドワードはアンタを信じたせいで命を落とした」と述べた。ルパンは隙を見てマイケルに襲い掛かるが、そこへ傭兵たちが乗り込んだ。ロイヤルがドーソンを射殺すると、マイケルは「なぜ撃った?」と詰め寄った。マイケルは傭兵と共に、屋敷から逃走した。ルパンは次元に手を組むよう持ち掛け、ピエールを呼び戻してマイケルとネックレスを見つけ出す考えを説明した。不二子もルパンと同様に、ネックレスを見つけ出す決意を抱いていた。
1年後。ルパンは次元とコンビを組み、泥棒稼業を続けていた。タイを訪れたルパンは不二子からの電話を受け、「信用できない」と言う次元の忠告を聞かずにホテルへ出向いた。ルパンが部屋に入ると銭形が待ち受けており、警官隊に包囲させた。不二子は微笑して「ルパンを呼ばないと私を刑務所に連れて行くって言うから」と告げた。不二子が部屋を去ると、銭形はルパンに手錠を掛けた。彼はルパンに、ドーソンが残した手帳を見せた。
その手帳には、世界最高のセキュリティーを誇る「ジ・アーク」という会社に関する情報が記されていた。経営者のプラムックは闇社会を牛耳る男だが、強力なクライアントに守られて簡単には手を出せないと銭形は話す。彼はマイケルが偽名を使って投資家になり、アジットというブローカーを通じてプラムックに取り引きを持ち掛けたことを教える。銭形は取り引きの場から宝を盗み、それを自分に引き渡せば犯罪記録を抹消するとルパンに提案する。ルパンは「考えとくわ」と言い、手錠を外してホテルから立ち去った。
ルパンは隠れ家に次元と不二子、ピエールを集め、マイケルが現れたことを話す。事情を説明した彼はピエールにドーソンのファイルを渡し、プラムックやマイケルについて調査するよう指示した。ルパンは強力な仲間を引き入れるため、次元を連れて日本へ行くことにした。マイケルとロイヤルがアジットに会うと、プラムックの秘書であるミス・ヴィーを紹介された。取り引きの仲介をするだけだとアジットは説明し、マイケルは渡された契約書類に署名した。
銭形はタイ陸軍本部のナローン司令官を訪ね、プラムックを逮捕するための協力を要請する。ナローンはプラムックに近付くのは危険が大きいと告げた上で、確かな証拠を手に入れれば協力すると約束した。ルパンは次元を伴って日本の山寺へ出向き、石川五ェ門と再会する。五ェ門は刀を馬鹿にした次元に反感を抱き、2人は対決することになった。互角の勝負を見届けたルパンは、五ェ門に協力を要請した。ルパンは月に二千万の報酬を約束し、五ェ門を仲間に引き入れた。
銭形はヴィーの元へ行き、31日に取り引きの場としてユニオン・トレードセンターを押さえた情報について質問する。ヴィーが返答を拒否すると、銭形は「この泥棒がプラムックを狙ってるぞ。ルビーが目当てらしいんだが」とマイケルの写真を見せる。ヴィーは「何のことだか」と軽く受け流し、銭形を追い払った。その様子を、密かにマリアが観察していた。ルパンたちはピエールと合流し、調査結果を聞く。彼らはロイヤルとサーベルの車に襲われるが、余裕で追い払った。
不二子は訪ねて来たマリアから「マイケルが会いたいって」と言われ、格闘になった。その様子を、ルバンが密かに眺めていた。不二子は同行を承諾し、マリアの案内でマイケルと会う。仲間は殺さないという約束を破ったことを不二子が責めると、マイケルは「あれは予測できなかった」と釈明した。エドワードについて不二子が尋ねると、マイケルは自分の父であること、ドーソンとネックレスを盗む時に殺されたことを語った。その会話を、ルパンが密かに聞いていた。
マイケルは「俺がやって来たことは全部、父さんとお前のためなんだ」と言い、明日の取り引きでルビーを必ず手に入れると不二子に言う。不二子が「プラムックがルビーを手放すわけが無い」と告げると、マイケルは「俺の要求は断れないさ」と自信を見せた。2人の会話で兄妹の関係だと知ったルパンは、物陰から姿を現した。ルパンが銃を構えると、マイケルも銃を向けた。ルパンは「本気でドーソンが親父さんをハメたと思ってるなら、何一つ分かっちゃいないぜ」と述べ、その場を立ち去った。
31日、大勢の人々が集まるトレードセンターの客席には、ルパンと不二子も姿を見せた。ルパンが待機している次元と五ェ門に連絡した直後、ステージではマイケルとプラムックの取り引きが行われる。2人は音声を遮断するグラスルームに入るが、ルパンは盗聴に成功していた。プラムックはマイケルの正体を指摘した上で、ルビーを見せた。マイケルが2億ドルの入札額を提示すると、プラムックは自分もザ・ワークスのメンバーだったこと、ドーソンを殺そうとしたらエドワードが身代わりになったことを話した。
プラムックはドーソンがエドワードを撃ったように偽装したことを明かし、2億ドルの小切手を書こうとする。マイケルは爆弾を仕掛けたことを告げて脅すが、プムラックは構わずに小切手を書いた。マイケルは起爆スイッチを押すが、何も起きなかった。プラムックは自分の部下であるロイヤルの報告で、マイケルの計画を事前に知っていたのだ。会場の面々は普通に取り引きが成立したと思い込むが、全てを知ったルパンは次元に「中止だ。後で説明する」と告げた。
銭形は会場を出ようとするプラムックの前に立ちはだかり、ケースを開けるよう要求する。しかしヴィーから逮捕令状を求められたため、銭形はプラムックを見送るしかなかった。マイケルはルパンたちのアジトに現れ、「プラムックを倒すには俺が必要だろう?」と口にした。次元は強い拒否反応を示すが、ルパンはマイケルと握手を交わした。各自がトレーニングを積む中、不二子が大金を支払ってピエールに世界最速のコンピュータ・システム「サターン」を購入させる。ピエールは天才プログラマーのヨゼフを呼び寄せ、ジ・アーク本部に設置された警備システムをルパンたちに説明する…。監督は北村龍平、原作はモンキー・パンチ、脚本は水島力也、ストーリーは山本又一朗&北村龍平&ジョセフ・オブライアン、脚本協力は尾崎将也&大富いずみ、プロデューサーは山本又一朗、企画は池田宏之&濱名一哉、共同プロデューサーは佐谷秀美&岡田有正&片山宣、企画協力は加藤州平、共同プロデューサーは篠田学、共同プロデューサーは鳥澤晋、撮影監督はペドロ・J・マルケス、VFXスーパーバイザーはソン・スンヒョン&ハ・ドンヒュク、美術は丸尾知行、アクション監督はヤン・ギルヨン&シム・ジェウォン、スタントコーディネーターはカウィー・シリカクン、録音は久連石由文、編集は掛須秀一、音楽はアルド・シュラク、メインテーマ曲は布袋寅泰。
出演は小栗旬、玉山鉄二、綾野剛、黒木メイサ、浅野忠信、ニック・テイト、ジェリー・イェン、キム・ジュン、タナーヨング・ウォンタクーン、中山由香、吉野和剛、山口祥行、ラター・ポーガーム、ジャエンプロム・オンラマイ、ウィッタヤー・パンシリガーム、ニルット・シリチャンヤー、ジェフリー・ジュリアーノ、デイビット・アサバノンド、ジェフリー・ブライスデル、葉山豪、山田優ら。
モンキー・パンチの同名漫画を基にした作品。
監督はアメリカに進出して『ミッドナイト・ミートトレイン』『NO ONE LIVES ノー・ワン・リヴズ』を手掛けた北村龍平で、日本で映画の監督を務めるのは2009年に横浜開港150周年記念イベントで上映されたアニメ作品『BATON バトン』以来となる。
脚本は『あずみ』『あずみ2 Death or Love』『TAJOMARU』『クローズEXPLODE』の水島力也。
知っている人も多いだろうが、山本又一朗プロデューサーの変名である。ルパンを演じているのは、マタ・ヤマモトが代表取締役を務めるトライストーン・エンタテイメント所属の小栗旬。
五ェ門役は、これまたトライストーンの綾野剛。
ちなみにマリア役の中山由香とジロー役の山口祥行もトライストーンだ。
次元を玉山鉄二、不二子を黒木メイサ、銭形を浅野忠信、ドーソンをニック・テイト、マイケルをジェリー・イェン、ピエールをキム・ジュン、ロイヤルをタナーヨング・ウォンタクーン、サーベルを吉野和剛が演じている。
飛行機の客室乗務員役で、山田優が1シーンだけ出演している。最初に「モンキー・パンチの同名漫画を基にした作品」と書いたが、たぶん大多数の人は『ルパン三世』と言えば日本テレビ系列で放送されたTVアニメ(特に第2シリーズ)をイメージするだろう。
「原作漫画は読んだことが無いけど、TVアニメは見たことがある」という人は多いはずだ。TVアニメを見ていなくても、何となく映像や音楽のイメージだけは知っているという人まで含めれば、かなりの数になるのではないだろうか。
そこまでTVアニメのイメージが広く知れ渡っているってことは、それを実写化するのは大変だ。もはや果敢な挑戦ではなく、無謀な挑戦と言った方がいいだろう。
KADOKAWAの池田宏之が実写映画の企画を出した時には、さすがのマタ・ヤマモトも難色を示したらしい。
その時に感じた「ファンを失望させるだけ」という感覚を持ったままでいてくれれば、こんな事態を招くことは無かったのだ。
しかし、池田が何度も説得する中でマタ・ヤマモトの気持ちが変化してしまい、残念な企画が通ることになってしまったのだ。「そもそも実写映画の企画が通ってしまった段階で負け戦」とは思うのだが、それにしてもスタッフやキャストの人選は、もう少し何とかならなかったと。
まず、よりによって北村龍平の監督のオファーを出すってのは、まさか「どうせ勝ち目がないからヤケクソ」ということでもないだろうに。
山本プロデューサーは「世界で通用する作品にしたい」ってことで、彼にオファーしたらしい。
だけど、ハリウッドで仕事をしているからと言って、世界に通用する作品を撮れるわけではないのよ。キャスティングに関しては、たぶん誰が演じても「大多数が高評価」ってのは無理だろうと思うが、「それにしても」という印象が強い。
ルパン役の小栗旬については、単純に「山本プロデューサーの秘蔵っ子だから」ということでの配役だろう。それ以外に、彼がルパン役を演じることへの説得力は存在しない。
五ェ門役の綾野剛も、似たようなモンだろう。
玉山鉄二の次元は「そこは浅野忠信じゃないのか」と思うし、黒木メイサは「峰不二子という同姓同名の別人」でしかない。
明らかに次元の方が似合う浅野忠信の銭形は、どこからどう見ても「とっつぁん」ではない。しかし何よりも、山本プロデューサーが自ら脚本を手掛けてしまったのも痛い。前述した担当作品を見ていれば分かるかもしれないが、この人が脚本に関わった時点で、かなり厳しい作品になる可能性が高くなる。
この脚本を書くに当たって、彼は「モンキー・パンチに喜んでもらう」ということを何よりも重視したらしいが、そんな風には到底思えない。
詳しい中身については後述するが、もしも本気で「これでモンキー・パンチに喜んでもらえる」と考えていたとしたら、そのセンスは相当にズレている。
脚本を完成させるまでに2年半の歳月を費やしたらしいが、時間を掛けてもダメなモノはダメなんだねえ。常に自信満々という印象のある北村龍平監督だが、さすがに『ルパン三世』の実写映画というオファーに対しては消極的だったらしい。
最終的には監督を引き受けているが、ひょっとすると本人の中で納得しかねる部分が残っていたのかもしれない。
師匠のように思っている山本プロデューサーからの依頼だから、引き受けざるを得なかったんだろう。
もしも断っておけば、「ハリウッドで活躍している日本人監督」というポジションを守ることが出来ていたかもしれない。北村龍平監督は、とりあえずはアクション映画を得意分野とする監督ってことになるんだろう。
しかし『ルパン三世』は、アクションシーンのオンパレードで「キメ」の絵だけ撮っていれば成立する作品ではない。
ハードボイルドな雰囲気も出しつつ、一方でコミカルなテイストも盛り込みつつ、犯罪を成功させる作戦の面白さであったり、ルパン一味のチームワークであったり、騙し騙されのコン・ゲームであったり、様々な要素が組み合わさって出来上がる作品だ。
北村龍平監督には、きっと荷が重すぎたんだろう。北村監督の得意分野であるはずのアクションシーンでさえ、まあ「いつものこと」ではあるのだが、見事なぐらい残念なことになっている。何しろ北村監督は、アクションが得意分野だが、面白いアクション映画を撮るセンスは乏しいという困った人だ。
とは言え今回の映画に関しては、やはり脚本を手掛けたマタ・ヤマモト大先生の方が責任は大きいだろう。
この脚本だと、たぶんホントにハリウッドで大活躍している超トップクラスの監督が演出を手掛けても、どうにもならなかったと思う。
その理由は簡単で、「むしろルパンの一味を登場させず、全く別の映画として作った方が腑に落ちる」という内容だからだ。色々とダメな部分は多いが、一番の欠点は「お前は誰なんだよ」という連中が多いってことだ。
ルパンの一味ってのは、もちろん言わずもがなの次元と五ェ門で、そこに裏切ったり協力したりを繰り返す不二子を加えた4人だ。
ところが本作品だと、いきなりピエールやジローという別の連中が一緒に行動している。
その一方で、ルパン、次元、五ェ門、不二子は、みんなバラバラで活動している(最初の段階だと五ェ門は登場しないし)。
ルパンが組織の一員というのも、「コレジャナイ感」に満ち溢れている。そもそも、もう「ルパン、次元、五ェ門がチームを組んでいる。ルパンは不二子は惚れていて、裏切られることもあるけど協力する」という関係性が構築された状態で、物語をスタートさせてもいいぐらいなのだ。
4人がチームを組むまでの経緯なんて、どうだっていい。
そこに面白さの種なんて、転がっているとは思えない。
だから、「みんながチームを組むまで」というビギニングとして映画を始めている時点で上手くないとは思うのだが、それに加えて「他の連中も仲間」という状態なので、無駄にゴチャゴチャしている。序盤でジローは死亡し、マイケルは裏切って去るけど、ピエールはルパンの仲間として主役サイドに留まってしまう。
しかし、ルパン一味ってのは次元と五ェ門と不二子でいいのよ。
しかも、無理にピエールを仲間として残留させているけど、こいつの存在意義ってのは皆無に等しいのだ。一応は調査や分析を担当させているけど、そんな役回りのキャラなんて全く必要性が無いわけでね。
他の仲間を日本人俳優が演じている中、ピエールだけ外国人ってのも違和感に繋がるし。で、ピエールだけでも充分すぎるほど邪魔なのに、後半に入るとマイケルまで仲間に加わってしまう。騙されたとは言え身勝手な理由でドーソンを死に追いやった野郎なのに、全て忘れて手を組んでしまう時点で乗り切れないんだけど、それを受け入れるとしても「ルパン一味に余計な仲間なんて要らんよ」という気持ちが強いのよ。
ところが、いよいよ最終決戦という段階に来て、唐突にヨゼフという新しいキャラが参加しちゃうのである。
「お前は誰だよ」の極致だわ。
『ルパン三世』を描くのなら、ルパン一味の絶妙なチームワークや掛け合いってのが面白さを出す上で重要なポイントなる。そこに別の人間を介入させる必要性なんて、これっぽっちも無いのだ。
敵側にキャラを配置するのは、もちろん一向に構わない。「ルパン一味が手を貸す存在」とか、「仕事を依頼する存在」とか、そういう意味で主役サイドに位置するキャラを登場させるのも構わない。しかし「ルパンの一味」として別のキャラを絡ませるのは、どう考えても間違いだろう。それでも、「ルパン一味に新たなキャラクターを加えることで化学反応が生まれ、新たな面白さが見えた」という結果に繋がっていれば、私の考えは否定されることになっただろう。
しかし実際のところ、「やはり私の考えは間違っていない」と確信を深めることに繋がっている。
化学反応が生まれていないどころか、「そもそも邪魔なだけ」という状態なのだ。ただの不純物、もしくは厄介者でしかない。
そういう連中を消去しても物語は成立するし、そっちの方が明らかにスッキリするのである。序盤でルパンと次元が手を組む経緯が描かれるのだが、「ドーソンが死んだ後、ルパンが次元に声を掛ける」というだけだ。そこには何のドラマもありゃしない。
そもそも次元なんて「その場にいた警護担当者」という程度の存在感だけであり、中身はスッカラカンの状態だ。
だから、なぜルパンが「お前とはウマが合いそうだ」と誘うのか、まるで分からない。「2人が手を組んで仕事をするようになる」という経緯には、スムーズな流れも説得力も皆無なのだ。
だから、ますます「ビギニングから描く必要性なんて無い」と感じさせる。ルパン一味以外の面々でもナローンやらアジットやらヴィーやらといったキャラが登場するが、こいつらも全く必要性が無い。
もっと単純に「ルパン一味vsプラムック」に銭形が絡むという図式で構成すればいいものを、なんで余計なキャラを放り込んで無駄にゴチャゴチャさせるかねえ。
ルパンとマイケルの「対立から協力へ」という手順なんて、ホントに要らんよ。
そんなことをしているせいで、本来のルパン一味よりもマイケルの方がルパンにとって重要な存在になっているじゃねえか。マイケル役が台湾のアイドルグループ「F4」のジェリー・イェンだったり、ヴィー役がタイの歌手であるラター・ポーガームだったり、ヨゼフ役がタイのコメディアンであるジャエンプロム・オンラマイだったりするのは、アジア市場を意識したキャスティングなんだろう。
それが全てダメだとは言わないが、そっちを優先したせいで無駄にゴチャゴチャしたり、ストーリー展開が行き当たりばったり状態になってしまったりしたら本末転倒でしょうに。
っていうか、ぶっちゃけ、この話ってルパン側はルパンと不二子とマイケルだけで事足りるんだよね。実はピエールどころか、次元と五ェ門の存在意義さえ乏しいのだ。
アクションシーンで存在意義を存分に発揮してくれるのなら、まだ「助っ人」的な意味はあったかもしれんよ(それじゃあホントはダメなんだけど)。
しかし、次元が驚異的な射撃能力を発揮するとか、五ェ門が卓越した刀の腕前を披露するとか、そういう見せ場も弱いんだよね。映画開始から35分ほど経過した辺りで、銭形がルパンに手を組むことを提案する。
この時点で、「ああ、マタ・ヤマモト大先生は完全に『ルパン三世』を崩壊させるつもりなんだな」という確信を抱いた。
そりゃあアニメ版でも、成り行きでルパンと銭形が協力することはあった。しかし銭形ってのはルパンを捕まえることに人生を懸けているような男であり、自分から彼の元を訪れて「手を組もう」などと持ち掛けるってのは信じ難い光景だ。「他の犯罪者を逮捕するためにルパンと手を組もうとする」なんてのは、キャラクターの崩壊であり、アイデンティティーの喪失だ。
しかも終盤に入ると、「ルパンが危機に陥り、銭形が警官隊を引き連れて助けに駆け付ける」という展開まで用意されている。
もうさ、呆れて溜息さえ出ないわ。見事な変装で相手を欺いたり、巧妙な作戦で目的の場所に潜入したり、特殊な道具で難関を突破したり、とにかく「知能を存分に駆使してスマートに計画を成功させる」ってのが、ルパンの持つ面白さのはずなのだ。
それなのに、ルパンはちっともスマートに犯罪を遂行してくれず、やたらと力押しで銃を撃ちまくったり人を殴ったりするばかり。
正面から敵の本部へ乗り込み、拳銃を撃ちまくったりマーシャルアーツで戦ったりして敵を倒しながら突破するルパンという、違和感に満ち溢れた光景が描かれる。
『ルパン三世』に期待するケレン味ってのは全く見られず、良くも悪くも(まあ完全に悪いんだけど)「いつもの北村龍平」だ。登場人物の行動は支離滅裂で行き当たりばったりだし、揃いも揃ってボンクラばかり。ストーリー展開はメリハリに乏しく、一本調子で退屈になる。
「アクション→繋ぎ目→アクション→繋ぎ目」というパターンが延々と続くのだが、アクションとアクションを繋ぐ部分にドラマとしての面白味は無く、おまけにアクションを盛り上げるための力も無く、ホントに「単なる繋ぎ目」、もしくは「しばらく休憩」でしかないのだ。
一応は会話劇が挿入されるんだけど、ただダラダラと説明のための言葉を喋っているだけなのよ。
最初から最後までアクション過剰なのに、それで退屈を感じるってのは、かなりマズい事態だぞ。しかも、まるで話の流れに乗っておらず、無理に盛り込んだとしか思えないアクションシーンの邪魔っぷりが大いに引っ掛かる。
ロイヤルとサーベルの車にルパンたちが襲われるシーンなんかは、その典型だ。当初の予定ではカーアクションシーンが存在せず、北村監督の希望で撮影したらしいけど、バッサリと削り落としても全く支障は無いし、むしろスッキリする。
「そんなことをしたらアクションシーンが1つ減るじゃないか」と思うかもしれないが、そのアクションを増やしたことで映画の面白味が増しているわけではない。見せ場としての力なんて皆無だし、それなら削り落として上映時間を短くした方が遥かにプラスだ。
そもそも、ロイヤルやサーベルという連中からして「要らない子」なんだから、そういう意味でもカーアクションのシーンは要らない。それ以外でも、例えば不二子とマリアの格闘も無駄に時間を使っているだけ。劇中で描かれるアクションシーンは、ことごとく必要性に疑問を抱かせる上、無理に詰め込んだことに見合うだけの面白味も無い。
そもそも、この映画でホントに描くべきは「目的のブツを盗むための作戦」であって、「敵との戦い」ではないのよね。
その部分を、マタ・ヤマモトも北村龍平監督も大いに誤解している。
普通に「カッコ良さを意識したアクション映画」を作りたいのなら、別の素材を使ってやればいい。ルパン三世は、そのための道具に使うべき素材ではない。
そういうのを「長いシリーズの中1本」として作るならともかく、そうじゃないんだから。あとさ、前述したカーアクションで付け加えておくと、五ェ門がカッコ悪いのよね。
彼は斬鉄剣を使っており、有名な「また詰まらぬ物を斬ってしまった」というセリフも口にするけど、車は真っ二つにならないのよ。
じゃあ何を斬ったのかというと、ボンネットに飛び乗った時に敵が発砲した弾丸なのよ。
その後の行動は「道路に剣を突き刺してブレーキ代わりに使い、車をジャンプさせる」というモノであり、何も斬っちゃいない。
つまり、台詞と行動が合致していないのよね。北村監督は、アクションシーンで無闇にカットを細かく割ってゴチャゴチャさせたり、カットとカットの繋がりがスムーズじゃなくて何がどう動いたのか分かりにくくしたりするのが得意な人だ。
その得意技は、この映画でも惜しみなく発揮されている。
それと、この人は「キメ」の絵にこだわるくせに、実はケレン味を出すことが不得手な監督でもある。
ようするに「静止画」だとカッコ良く見える絵は表現できても、動画としてのカッコ良さを作るセンスが低いってことなんだろう。
本来、それこそが「アクション」なんだけどね。この映画の製作委員会にはTBSが参加しており、TVアニメを放送していた日本テレビ系列は関与していない。
そのせいで、TVアニメで有名になったテーマ曲は使われていない。
しかし、仮にテーマ曲を使う許可を得られたとしても、そんなことで評価が上がるような映画ではない。TVアニメのテーマ曲を流したところで、焼け石に水だろう。むしろ、「テーマ曲だけは良かった」と、皮肉めいた感想になるかもしれない。
この映画は脚本が完成し、ゴーサインが出た時点で、絶対に救うことの出来ない作品と化したのである。(観賞日:2016年4月18日)