『ルパン三世VS名探偵コナン THE MOVIE』:2013、日本

怪盗キッドがダイヤモンドを盗み出し、中森警部は警官隊を配置して建物の屋上へ追い詰めた。余裕の態度を取るキッドを眺めている野次馬の中に黒羽快斗の姿があり、不愉快そうに「誰だ、あいつ」と口にした。中森は捕獲作戦を展開するが、キッドが発砲して逃げたと聞かされて愕然とする。江戸川コナンはキッドを追跡するが、石川五ェ門に妨害された。コナンはキッドが本物ではなく、ルパン三世の変装だと確信した。ルパンは峰不二子に「もういいわ。キッドに頼むわ」と言われたため、キッドに変装して盗みを働いたのだ。
ルパンはアラン・スミシーという男に連絡を入れ、今すぐ起爆コードを解除するよう要求した。しかしスミシーは、「それは出来ない。女のために、本当に言うことを聞いてくれるのかな」と告げる。「テストかよ」とルパンが言うと、彼は「ある男から君を推薦されたんだ。チェリーサファイアを手に入れたら連絡したまえ。彼女の爆弾は、その時に解除する」と述べた。
少年探偵団と阿笠博士がテレビを見ていると、イタリア人アイドル歌手のエミリオが来日する様子が写し出された。小嶋元太と円谷光彦は、美人マネージャーのクラウディアを見て浮かれた様子を見せる。エミリオ一行から少し離れた場所で次元大介が立っているのを、コナンは見つけた。インターポールの銭形警部はルパン対策本部に現れ、目暮警部たちに「ルパンの狙いはチェリーサファイアだ」と告げる。彼が捜査の助っ人を要請すると、初恋相手がルパンだった佐藤刑事が名乗りを挙げ、彼女に惚れている高木刑事も立候補した。
毛利蘭は鈴木園子からの電話で、エミリオの宿泊しているホテルが分かったので会いに行こうと誘われた。毛利小五郎はクラウディアの美貌を知って興奮し、「俺も行くぞ」と言い出した。銭形は佐藤や高木たちと共に、チェリーサファイアの保管されている東都銀行で警備に就く。支店長は銭形に、チェリーサファイアの持ち主である若護茂英心が「宝石を移動させる必要は無い。日本の警察を信頼している」と言っていたことを伝える。高木に化けていたルパンはチェリーサファイアを盗み、銀行から逃亡した。
次の日、蘭と園子がエミリオの宿泊しているサクラサクホテルへ行くと、先に小五郎が来ていた。フロント係が簡単に小五郎を通したので、2人は困惑する。コナンも含めた3人が後を付いて行くと、エミリオの部屋には目暮と白鳥警部の姿があった。すぐにコナンは、小五郎が警察の捜査に呼ばれたと勘違いしてフロント係が通したのだと悟った。コナンは目暮と白鳥の会話を盗み聞きし、ルパンが盗みを働いたことを知った。
ルパンはスミシーの指定場所へ行き、首輪爆弾を取り付けられた不二子にチェリーサファイアを渡した。しかし不二子はスミシーと結託していた上、彼に拳銃を突き付けて宝石を自分の物にしようと目論む。ルパンは彼女に、爆弾が本物であることを教えた。スミシーは不二子からチェリーサファイアを受け取ると、「取り引きは成立した。安全が確認されれば、すぐ首輪は外してあげよう」と告げ、車で去った。
目暮は小五郎に、クラウディアとプロモーターのルチアーノを紹介した。クラウディアは「公演を中止しろ。さもなくばエミリオの命は無い」と記された脅迫状を小五郎に見せた。エミリオは中止を求めるが、ルチアーノは「今回の公演には莫大な資産が使われている」と言う。小五郎は「犯人はルパンだ」と断言するが、その根拠が「チェリーサファイアをクラウディアに渡し、落ち込む彼女を口説くためだ」という内容だったため、コナンたちは呆れた。
目暮が「とにかく、この階にガードは付けましょう」と言うと、コナンはルチアーノに「大丈夫じゃない?すっごく頼れるボディーガードがいるよね」と告げた。蘭と園子が出掛けようとすると、コナンは目を盗んで別行動を取った。蘭たちがエレベーターに乗り込むと、変装したエミリオが駆けこんで来た。エミリオが「遊びに行きましょう」と誘うので蘭は反対するが、園子は有頂天になる。エミリオは2人を連れて、東都ベルツリータワーへ遊びに出掛けた。
コナンはホテルのバーで飲んでいる次元を見つけ、「この町で何を企んでるの?」と問い掛ける。次元は首を突っ込むなと脅すが、コナンは意に介さなかった。次元はクラウディアからの電話でエミリオが消えたことを知らされ、コナンは蘭からの電話でエミリオと一緒にいることを聞かされる。次元はルチアーのやエミリオの部屋を探るが、目的の物は発見できなかった。一方、コナンはエミリオの部屋を調べ、イタリアの新聞から切り抜かれた文字を発見した。
コナンは灰原からの連絡で、少年探偵団の3人と阿笠博士が若護茂英心の住まいを突き止めたことを知らされる。若護茂は資産家のはずなのに、潰れた修理工場にいるらしい。コナンは灰原に、クラウディアとルチアーノの素性を調査するよう依頼した。エミリオが隙を見て姿を消したため、蘭はツリーを捜索する。蘭はエミリオがタワーの外に出ているのを見つけて、声を掛けた。エミリオは公演を嫌がっていることを吐露し、自殺すると感じた蘭は思い留まらせようと話し掛けた。
蘭が必死で説得していると、エミリオの気持ちに変化が生じた。しかし突風でエミリオが転落しそうになり、慌てて蘭が彼の手を掴む。蘭も一緒に落ちそうになるが、園子が駆け付ける。しかし彼女の力だけでは、2人を引っ張り上げることは出来ない。タワーに来たコナンは状況を知り、次元の協力を得て蘭とエミリオを救助した。一方、スミシーはルチアーノに電話を入れ、エミリオの行動を懸念する。ライブの開催について確認を取る彼に、ルチアーノは「ライブの中止など有り得ん。場所も時間も変更はしない」と告げた。
エミリオはコナンと蘭に、公演の最中にルチアーノが闇の取り引きを行うことを明かした。ルチアーノがプロモーターになってから急に売れるようになったが、全てが変わってしまったのだとエミリオは話す。蘭が小五郎との電話で席を外している間に、コナンは脅迫状がエミリオの自作自演だったことを指摘して証拠を示した。エミリオは公演が無くなれば取り引きも中止されると考えたのだ。コナンは彼に、ホテルへ戻ったら証拠を全て処分するよう促した。
コナンはエミリオに、「大勢のファンが待ってる。ライブを成功させて。取り引きは絶対にさせない。そして悪い奴は全部捕まえる」と告げた。次元は五ェ門に連絡を入れ、少年探偵団が来る前にアジトを捨てるよう忠告した。しかし電話を受けた五ェ門の元には、既に少年探偵団の3人が来ていた。五ェ門は睡眠薬で3人を眠らせ、隠れていたルパンが姿を現した。コナンはルチアーノがイタリアンマフィアだという情報を灰原から知らされた。その情報は銭形の元にも入り、彼はルパンが取り引きの場に必ず現れると確信する。しかし銭形には、ルパンの目的が何なのか全く分からなかった。
ルパンと五ェ門の元に不二子が現れ、スミシーに報復することを告げた。彼女は「貴方たちの邪魔はしないわ」と言い、少年探偵団を送り届ける役目を引き受けた。彼女は3人を灰原の元へ送り届け、「一緒に来てくれるって約束できる?」と誘いを掛けた。エミリオのライブ当日、銭形や高木たちは会場で警備に就いた。ルチアーノはイタリアから、殺し屋のキングを呼び寄せていた。ルパンはキングに接触して交渉し、手を引いてもらった。ルチアーノは会場を抜け出し、スミシーとの取り引き現場へ赴いた…。

監督は亀垣一、原作はモンキー・パンチ(MPワークス ルパン三世 officialマガジン刊)、青山剛昌(小学館「週刊少年サンデー」連載中)、脚本は前川淳、製作は城朋子&都築伸一郎&小石川伸哉大田圭二&斎藤裕&柏木登、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治&久保雅一&藤門浩之&吉田力雄、企画・プロデュースは中谷敏夫&諏訪道彦&小島哲&浅井認、プロデューサーは伊藤卓哉&米倉功人&岩佐直樹&山川剛史、キャラクターデザインは平山智&須藤昌朋、絵コンテは亀垣一、演出は西澤晋&大庭秀昭&菱川直樹、総作画監督は平山智&須藤昌朋、メカデザインは佐野隆史&小田康裕、メカ総作画監督は亀垣一、音響監督は浦上靖夫、美術監督は佐藤勝、色彩設計は海鋒重信、撮影監督は野口龍生、編集は岡田輝満、音楽は大野雄二&大野克夫。
劇中歌「wonderland」演奏:99RadioService、作詞・作曲:Ko-ta/Ko-hey、編曲:99RadioService。
声の出演は栗田貫一、高山みなみ、小林清志、山崎和佳奈、浪川大輔、小山力也、沢城みゆき、林原めぐみ、山寺宏一、山口勝平、内野聖陽、夏菜、入野自由、緒方賢一、三浦知良、八奈見乗児、岩居由希子、高木渉、大谷育江、松井菜桜子、茶風林、井上和彦、湯屋敦子、高木渉、千葉一伸、杉本ゆう、田中理恵、石塚運昇、家弓家正、一城みゆ希、緑川光、金尾哲夫、仲木隆司、松岡文雄、私市淳、川津泰彦、松本大、姫野惠二、志村知幸、三戸耕三、宮内敦士、大原さやか、あらいしずか、大本眞基子ら。


日本テレビ系で放送されてきたTVアニメ『ルパン三世』シリーズと、読売テレビ系で放送されているTVアニメ『名探偵コナン』がコラボレーションした映画。
2009年3月に放送されたTVスペシャル『ルパン三世VS名探偵コナン』の続編という扱いになっている。
読売テレビは日本テレビ系の放送局であり、『ルパン』と『コナン』の両方を制作しているのがトムス・エンタテインメントということで、このコラボレーションが実現している。
本作品は、日本テレビ開局60周年、読売テレビ開局55周年、トムス・エンタテインメントアニメ制作50周年、『ルパン三世』連載45周年、『名探偵コナン』連載20周年記念作品となっている。

ルパン役の栗田貫一、次元役の小林清志、五ェ門役の浪川大輔、不二子役の沢城みゆき、銭形役の山寺宏一が、『ルパン』の声優陣。
『コナン』の声優陣は、コナン役の高山みなみ、蘭役の山崎和佳奈、小五郎役の小山力也、灰原役の林原めぐみ、キッド役の山口勝平、阿笠役の緒方賢一、歩美役の岩居由希子、元太役の高木渉、光彦役の大谷育江、園子役の松井菜桜子、ジェイムズ役の家弓家正、ジョディ役の一城みゆ希など。
キース役の緑川光は、TVスペシャルの出演者。
映画版のゲスト声優は、スミシー役の内野聖陽、キング役の三浦知良、マスター役の八奈見乗児、クラウディア役の夏菜、エミリオ役の入野自由、ルチアーノ役の金尾哲夫など。

まず本作品の大きな欠点は、「TVスペシャルの完全なる続編として作られている」ってことだ。
TVシリーズの劇場版で「ドラマを見ていないと話が分からない」というケースは多いが、それでさえ大きな減点だと思っているのに、これは4年前に放送されたTVスペシャルの続編なのだ。そんなの、覚えている奴は少ないだろ。しかも、「見たことがある」という程度じゃダメで、ちゃんと詳しい内容を覚えている必要があるのだ。
それに、「TVスペシャルを見ていて、しかも詳しい内容を覚えている人だけが劇場に足を運んでくれたら興行としてはOKだから、一見さんは無視しよう」という、開き直りというか、思い切った戦略に基づいた方針ってわけでもなさそうなんだよね。
単純に、一見さんに対する配慮が不足しているだけだ。作り手側が、「TVシリーズを見ていない人、見ていても詳しい内容を覚えていない人は多いだろう」という気遣いというか、考えが不足しているだけだ。

これが例えば、「TVスペシャルでルパン三世とコナンは会っている」とか、その程度の要素だけを引き継いでいるのであれば、特に大きな問題は無い。TVスペシャルを見ていない人だって、余裕で話に付いて行くことが出来る。
しかし本作品は、ストーリーの重要な部分、終盤に待ち受けている謎解きの部分に、TVスペシャルの内容が関係しているのだ。だからTVスペシャルを見ていない人からすると、肝心なトコで置いてけぼりを食わされる羽目になってしまうのだ。
急に「サクラ王女」とか「ヴェスパニア鉱石」と言われても、この映画しか見ていない人からすると何のこっちゃサッパリ分からないのである。
劇場版公開前にTVスペシャルを再放送したとは言え、観客に対する扉の開き具合が狭すぎるだろ。

『ルパン三世』と『名探偵コナン』を合体させる上で、1つ大きな問題が待ち受けている。
それは「両作品の絵柄が全く異なる」という問題である。
今回はコナンの世界観にルパンのキャラクターが入り込む形なので、そのままだと「コナンの世界観にルパンのキャラクターが馴染まない」ということが起きてしまう。
これは非常に難しい問題だが、「ルパンの登場人物のデザインをコナンっぽい絵柄に寄せる」というのがベターな解決方法だろう(っていうか他に解決策が思い浮かばない)。

しかし、その問題に対して製作サイドが取った方法は、「何もやらない」ということだった。だから当然のことながら、コナンのキャラとルパンのキャラは違和感を保ったままで混在する状態になっている。
それは両方のアニメに対するリスペクトということではなくて、ただ単に手抜きをしているだけにしか思えない。
例えばルパンがキッドや高木のマスクを破り捨てて正体を明らかにするシーンなんて、明らかに違和感があるのだ。
世界観を融合させるための努力をサボるのなら、そもそもコラボさせなきゃいいのだ。

冒頭、ルパンがキッドに変装してダイヤモンドを盗み出す意味が全く無い。
一応は「不二子がキッドに頼むと言い出したので、望み通りにキッドとして盗んでやった」という説明が用意されているが、何の説得力も無い。
不二子は「ルパンが引き受けないならキッドに頼む」と言っただけであり、「だからルパンはキッドに変装した」というのは論理としてメチャクチャだ。
そこは「キッドを登場させる」ことが最初にあって、ルパンが化ける必然性や意味を用意しないまま段取りとして雑に処理しているだけだと感じる。

っていうか、そこまで無理をしてキッドを登場させる必要性って、ホントにあるのかと思っちゃうのよね。怪盗キッドや中森警部って『名探偵コナン』にも登場するけど、そもそもは『まじっく快斗』のキャラクターなわけで。
キッドを使わないとルパンを物語に絡ませることが出来ないわけでもないでしょ。キッドを使えば楽チンってことは分かるけどさ。
ただでさえ『コナン』の登場人物は多いのに、そんな2人まで登場させて、おまけに新顔となるジョディ・スターリング、ジェイムズ・ブラック、宮本由美、三池苗子まで出しているのは明らかに多すぎて邪魔なだけ。
どうして『コナン』劇場版シリーズのレギュラー陣だけに絞らなかったのか。

オープニング・クレジットでは、まず『ルパン三世』のテーマ曲が流れ、コナンが『ルパン』の登場人物を紹介するナレーションを語る。
続いて『名探偵コナン』のテーマ曲が流れ、ルパンが『コナン』の登場人物を紹介するナレーションを語る。
これは両方の作品を知っている観客からすると、単純に嬉しいし、楽しい。そして、上手く融合させられるなら、ルパンとコナンの共演は大歓迎だとも思う。
しかし残念ながら融合は失敗しており、「もっと繊細かつ丁寧にやってくれよ」と言いたくなる。

ちょっと気になったのは、『コナン』の視聴者だけど『ルパン』は見ていないとか、『ルパン』は好きだけど『コナン』に興味が無いとか、そういう人が本作品を観賞したら、どういう風に受け止めるんだろうかってことだ。
例えば、小五郎や目暮たちがエミリオに届いた脅迫状やルパンの起こした事件について語っている際、その場にコナンや蘭たちが同席しているのは『コナン』視聴者からすると、今さらツッコミを入れようとも思わない暗黙の了解だ。
しかし『ルパン』目当てで鑑賞した人からすると、違和感ありまくりだろう。
一方で『コナン』は好きだけど『ルパン』はそうでもないという人からしても、やはり違和感を覚える描写があるだろう。
まるで毛色の違う2つの作品をコラボさせるってのは、かなり困難な作業だと言える。
でも、そういう企画を立てた以上は、ちゃんとやってほしかった。

エミリオは脅迫状が届いたことを受けて公演中止を求める一方で、こっそりホテルを抜け出して遊び歩く。
それはキャラの動かし方として上手くない。なぜなら、それによってネタが割れまくりだからだ。
つまり、「殺す」という脅迫を恐れて公演の中止を望んでいるのではなく、単純に公演を嫌がっているだけってことが分かる。
しかも全く怯えずに外へ出て遊び歩くってことは、脅迫状はエミリオの自作自演だろうということも容易に予想できる。

そうなると、エミリオ周辺で残っている謎は、「なぜ次元がボディーガードとして同行しているのか」ってことだけだ。それに関連して、「なぜルパンや五ェ門が米花町に来たのか」という謎もある。
だが、それらは事件と全く関係の無い謎である。
そこをミステリーとして話を進め、終盤に入って謎が明らかになったところで、事件は解決されないのだ。
ようするに、余計なトコに大きな謎を用意しちゃってるということになるわけだ。

エミリオが東都ベルツリータワーの外に出ているのを見た蘭が、自殺すると感じて必死に説得するのは、かなり違和感がある。
まず、あの様子を見ても、エミリオが自殺を考えているようには全く見えなかった。それと、自殺すると思い込んだにしても、「人の命より大切なライブなんてあるはずがありません。あの人たちが中止にしないなら、私が、私が」「お願いだから、話をちゃんと聞かせて下さい」と今にも泣き出しそうな勢いで訴える蘭の様子は、取って付けたような印象が強い。
その後、突風でエミリオが落下しそうになったので蘭が腕を掴み、2人とも落ちそうになるけどコナンが次元の協力を得て救助するという展開があるんだけど、そこに来て、前述した「エミリオがタワーの外で佇み、自殺すると感じた蘭が説得して云々」というシーンの意味が分かった。
ようするに、「コナンと次元が協力してミッションを達成する」というシーンを作りたかっただけなのだ。
で、それをやるための計算が下手なので、「蘭がエミリオを説得する」というシーンが無理にハメ込んだような印象になっているのだ。

ちゃんと逆算をしていないからスムーズな流れは作れていないけど、ただしコナンと次元がタッグを組んでミッションを行うというのは歓迎できる展開だ。
むしろ、そういう仕掛けが少なすぎるのは大いに不満だ。
せっかく『ルパン』と『コナン』のコラボなのに、それぞれのキャラが別行動を取っているシーンが大半なのだ。双方のキャラクターが合流し、呉越同舟で協力して事件解決に当たるというシーンは少ない。
まあ一緒に行動するシーンを多く用意したら、それはそれで、前述した「絵柄が合っていない」という問題が余計に目立つ羽目になっちゃうだろうけどさ。

ルチアーノがライブ会場の地下通路を密かに延長していたってことは、彼は警察が自分をマークしていると分かっていたわけだ。ってことは、マークされていると分かっていても、リスクを冒してでも取り引きしたいと思ったわけだ。
で、そこまでリスクを冒して取り引きを行う必要性がホントにあったのかと考えると、疑問が残る。少なくとも、その日にこだわる必要は無かったんじゃないかと。そもそも、日本で取り引きする必要性さえ無かったんじゃないかと。
っていうか、取り引きのシーンが描かれた時に、「じゃあエミリオのライブって何のためなの?」という疑問が生じる。
それまでの説明からすると、「ライブを隠れ蓑にして闇取引が行われる」ということだったはずだよね。だけどルチアーノは会場を出て、全く別の場所でスミシーと会っているわけで。
だったら、その日にライブを行う必要性さえ無いでしょ。ライブと取り引きって、まるでリンクしていないでしょ。取り引きだけを行っても、何の支障も無いでしょ。

『ルパン』は主に活劇、『コナン』はミステリーという色分けがあるので、本来ならそこの擦り合わせが必要になって来る。
だが、劇場版の『コナン』は以前からアクション志向が強かったので、そこは大して難儀なことは無い。
しかも、この映画は普段の劇場版『コナン』と比べて、格段にミステリーの要素が軽視されている。いつもは「殺人事件が発生し、コナンが調査を進めて犯人やトリックを見抜く」というパターンが多いが、今回は殺人事件が発生しない。
殺人事件でないにせよ、「事件の発生を受けてコナンが捜査に乗り出す」という形にするのかというと、それも無い。宝石強盗は冒頭で発生するが、犯人がルパンってことは最初から分かっている。

コナンが知りたがっているのは「ルパン一味が米花町に来た目的」であり、強盗の犯人やトリックではない。
しかも「ルパン一味が米花町に来た目的」に関するコナンの調査は、是が非でも突き止めて解決しなきゃいけない仕事というわけでもないし、一刻も早く解明しなきゃいけないという切迫感も無い。
だから、観客の興味を引き付ける力は弱い。
そして当然のことながら、コナンがルパンの目的を探る流れにおいて、サスペンスが生じることも無い。

後半に入り、エミリオが真相を明かすことで、初めてコナンはルチアーノが闇の取り引きを行おうとしていることを知る。
エミリオの話を聞いたコナンは取り引きを阻止するために動き出すのだが、そこまでの流れの中でミステリーとしての要素は皆無に等しい。
コナンが謎を解き明かしてルチアーノの正体や取り引きを突き止めたわけでは無いし、その段階ではスミシーの存在さえ知らないのだ。
脅迫状の一件は自作自演だとコナンが突き止めているけど、どうせバレバレだったし、取り引きと直接的な関係があるわけでないし。
「脅迫状の真相を突き止めて、それによって取り引きの存在が明らかになった」ということではないからね。

ようするにコナンは今回、名探偵としての仕事を、ほとんど見せていないのだ。
終盤にはルパンが米花町に来た目的、取り引きに介入した目的を語るけど、「手掛かりを集めて真相に辿り着く」という謎解きの面白さは無く、取って付けたような感じが強いし。
おまけに、その真相が明らかにされたところで、「だから何なのか」と思ってしまう。
ルパンの目的が明らかになっても、それで事件が解決するとか、そういうわけではないしね。

ルパンの目的はヴェスパニア鉱石を取り戻すことにあるんだけど、それを隠したまま物語を進める中で、無駄にゴチャゴチャした内容になっている。
おまけに、目的が明らかになった時に、「ルパンがそんな手口を使うかね」と思ってしまう。
ルチアーノがヴェスパニア鉱石盗んだことが分かっているのなら、彼から直接的に盗み出そうとするだろう。
それを奪い返すために偽の取り引きを設定し、無関係な人間を巻き込むってのはルパンらしからぬ行為だと感じる。
スミシーには「自らの国を救いたい」という思いがあるんだけど、そういう人間をルパンは自らの計画の犠牲にしているのだ。それはダメでしょ。

(観賞日:2015年2月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会