『ラヴァーズ・キス』:2003、日本

[冷たい月 the moon]
鎌倉。老舗料亭の娘・川奈里伽子は高校3年生。ある日、彼女は夜の浜でダイビングをしていた同級生の藤井朋章 に出会った。翌日、里伽子は学校の屋上から、親友の尾崎美樹と共に音楽室を眺めていた。音楽室では、同級生の鷺沢高尾がピアノを 弾いていた。里伽子も幼い頃は鷺沢と同じピアノ教室に通っていたが、とっくに辞めている。
ピアノ教室に藤井が現れ、鷺沢と親しげに話し始めた。それを見た里伽子は、昨日の夜に藤井と出会ったことを美樹に語る。藤井は大病院 の息子で、女子高生を妊娠させて父の病院で堕ろさせたなど、悪い噂の多い男だ。だが、里伽子は「意外に普通の男だった」という感想を 持っていた。廊下を歩いていた里伽子は、藤井から声を掛けられた。それだけで2人の関係は噂になった。里伽子が帰宅すると、妹の 依里子がピアノを弾いていた。依里子は母・春恵が里伽子ばかり可愛がっていると考え、姉に反発している。
藤井は女子に人気があり、里伽子は周囲からやっかみを受けることになった。レストラン&バー“ドルフィン”で藤井を見掛けた里伽子は、 「噂を本当にしない?寝ていないのに寝ていると思われるのはイヤなの」と誘った。里伽子は藤井と共にラブホテルへ行くが、ベッドの中 では無表情だった。里伽子は藤井から、「つまらない女」と評された。
翌日、里伽子は学校で藤井を見掛け、つまらない女呼ばわりされたことに反発する。だが、逆に「男は消耗品じゃない」と言われ、腹を 立てて平手打ちを食らわせた。夜、里伽子はビールを飲み、美樹の前で「完璧に嫌われたよね」と泣いた。“ドルフィン”をオーナーで ある義理の姉・美佐子の車で通り掛かった藤井は、酔い潰れた里伽子を見つけて自分の部屋まで連れ帰った。
里伽子は藤井に「ずっと怖かったの」と本当の気持ちを打ち明け、そのまま眠り込んでしまった。翌朝、目を覚ました里伽子は、藤井が噂 されているような高級マンションではなく、安いマンションに暮らしているのを知って驚いた。そこは美佐子の部屋だが、今は藤井が 使わせてもらっているのだ。しかも父親から仕送りを貰っているわけでもなく、アルバイトで金を稼いでいるという。
里伽子は依里子の親友・緒方篤志から、藤井が学校を辞めて小笠原へ行くことを知らされた。里伽子は美樹に「ちゃんと気持ち、伝えて きなよ」と背中を押され、藤井のマンションへ赴いた。しかし、いざ藤井がドアを開けると、「何でもないから」と逃げ出してしまう。 浜まで追ってきた藤井は、「小笠原へ行くのは自分で決めた」と告げる。里伽子は周りの目ばかり気にしていた自分のことを語り、そして 2人は夕景の中でキスをした。
[je te veux あなたがほしい]
寺の息子である鷺沢が音楽室でピアノを弾いていると、藤井が現れ、ダイビング道具を安く売ってやると 持ち掛けてきた。鷺沢は中学のバスケ部時代から、藤井とは知り合いだった。そして鷺沢は、藤井に恋をしていた。最近は藤井と心中する 夢ばかり見て、なかなか眠れない。藤井が校庭で里伽子の平手打ちを受ける様子を目撃し、鷺沢は心を揺り動かされた。
仲の良い緒方と街を歩いていた鷺沢は、藤井がアルバイトをしている現場を見掛けて驚いた。緒方は「金持ちの息子なのにバイトなんて 嫌味だ」と鷺沢に言う。里伽子から藤井のバイト先を聞かれた時、鷺沢は「知らない」と嘘をついた。緒方が藤井に「女を妊娠させて堕胎 させた噂は本当か」と突っ掛かり、鷺沢は激怒した。藤井が去った後、鷺沢は彼に恋していることを緒方に指摘された。そして鷺沢は、 「お前が好きだ」と緒方から告白された。
緒方と共に“ドルフィン”を訪れた鷺沢は、美佐子から藤井が小笠原へ行くことを聞いた。その夜、鷺沢は藤井のマンションへ行った。 2人が食事していると、藤井の母・純子が激しくドアがノックした。だが、藤井は無視してドアを開けなかった。鷺沢は里伽子への罪悪感 を抱き、藤井が小笠原へ行くことを伝えようとする。だが、自分より先に緒方が伝えてしまった。緒方と一緒に浜へ出掛けた鷺沢は、 里伽子と藤井のキスを目にした。
[テンペスト tempest]
依里子は緒方と共に、テンペストの楽譜を買いに出掛けた。それは好きな相手へのプレゼントだが、依里子は 「渡せる日は永遠に来ないかも」と思っている。彼女が好きな相手は美樹だった。里伽子が酔い潰れて藤井に介抱された日、依里子は美樹 の家へ出掛けていた。遅くに帰宅した美樹は、「里伽子を取られちゃった」と元気が無かった。依里子は、美樹が里伽子を好きだと知って いながら、わざと姉のことを悪く言って怒らせた。
美樹は酒店を営む父に同行して良く病院へ配達に行っていたため、藤井とは昔から知り合いだった。美樹は藤井の元を訪れ、「里伽子を 傷付けたら許さないから」と告げた。彼女は藤井から「来月には小笠原へ行く」と聞かされ、驚いた。依里子は緒方から、藤井が小笠原へ 行くことを里伽子に伝えると言われた。その直後、緒方は里伽子の教室へ行った。依里子は浜に美樹と並び、里伽子と藤井のキスを眺めた。 依里子は美樹から、里伽子が幼い頃にピアノ教室の先生に性的悪戯を受け、ピアノを辞めたのだと聞かされた。
[大潮 the spring tide]
鷺沢は美佐子に純子のことを尋ね、息子を溺愛するだけでなく夫の役割まで求めるようになった女性だと知った。藤井家と関わりを持つ気 は無かった美佐子だが、大潮の日に海へ入って死のうとした藤井を友人が発見し、面倒を見るようになったのだという。里伽子は藤井と 映画鑑賞に出掛け、「もうすぐ卒業なのに、小笠原へ行くの?」と尋ねる。藤井は詳しい理由を明かさず、「鎌倉にいられないから」と だけ答えた。
緒方は藤井に浜での決闘を申し込み、依里子は立会いを頼まれた。緒方は藤井と一発ずつ殴り合い、スッキリした。緒方と依里子が浜を 去ろうとした時、純子が現れた。彼女は藤井に「離れないで。鎌倉から出たら死ぬ」と告げ、ナイフを持ち出して自殺しようとする。 慌てて止めようとした藤井は、揉み合う中で腹を刺された。藤井は病院に運び込まれたが、軽傷で済んだ…。

監督は及川中、原作は吉田秋生、脚本は後藤法子&及川中、製作は植田文郎&藤原正道、企画は山下暇人&斎春雄&原田宗一郎、 プロデューサーは山川恵一&村田祐一&岡田和則、撮影は長谷川元吉、編集は阿部亙英、録音は鶴巻仁、照明は高坂俊秀、 美術は尾関龍生、音楽プロデューサーは大和朗、エンディング曲「Red Clover」は白鳥マイカ。
出演は平山綾(現・平山あや)、宮崎あおい、西田尚美、石垣佑磨、成宮寛貴、阿部進之介、市川実日子、鈴木一功、佐藤恒治、天光眞弓 、青山知可子、奥野敦史、田岡美也子、岩手太郎、播田美保、丸山清佳、奏谷ひろみ、さわきょうこ、松永英晃、大野秀、中谷朱里、 宮坂あゆみ、岡崎菜々、沢松綾子、熊谷圭、坂本加菜子、芹澤みもり、小林輝、高橋研、松島遼ら。


小学館「別冊少女コミック」に連載された吉田秋生の同名漫画を基にした作品。
監督&共同脚本は『富江』の及川中。
里伽子を平山あや、依里子を宮崎あおい、美佐子を西田尚美、鷺沢を石垣佑磨、藤井を成宮寛貴、緒方を阿部進之介、美樹を市川実日子、 高校の教師を鈴木一功、医師を佐藤恒治、春恵を天光眞弓、純子を青山知可子が演じている。

映画は4つのパートに別れており、第1章は里伽子、第2章は鷺沢、第3章は依里子のモノローグによって、それぞれ進行する。
第3章までは、同じ期間の出来事を別の角度から描いている。そして第4章だけは誰のナレーション進行でもなく、群像劇の作りになって いる。
しかし、これは失敗だった。
最初に里伽子の話が40分ぐらい続くのだが、ストーリーは陳腐で退屈だし、それを引っ張っていくだけの力量も、第1章の主役である 平山あや&成宮寛貴には無いのだ。

ただ、順番だけの問題ではなく、そもそも視点が次々に切り替わる3つの章を連ねたこと自体、果たして正解だったのだろうという気が する。
全体を群像劇にしてしまった方が良かったのではないか。
というのも、第4章では、里伽子と藤井の物語でテンションが落ちても、依里子や美樹が出てくれば盛り返してくれる。
どの順番に回したところで、第1章の部分は厳しいものがあると思う。

里伽子というキャラクターは、たぶん相当に複雑で難解な人物設定なのだろうと思われる。
しかし、それを上手く表現できていないために、ただワケの分からない女になってしまっている。
平山あやの演技力だけでは、難役をこなすには力不足が明らかだ。そして、それを補うための繊細な演出も無い。完全に役者の演技力に 任せっ放しになっている。そりゃ無茶が過ぎる。
まあ平山あやも、女性陣の他2名が宮崎あおい&市川実日子なんだから、そりゃキツいよな。
そんなの勝てるはずもない。

導入部分からして、もう演出に引っ掛かりを覚えてしまう。
料亭での宴らしきシーンを長回しで撮影しているのだが、しかし途中で1つカットを割ってしまうという中途半端さ。
どうせ長回しでカメラがグングンと動いていくのであれば、1カットで最後まで撮り終えなきゃ意味が無いよ。
それと、そこで主要人物が全て登場するのだが、特に関わりを持つでもなく、ただボンヤリと出てくるだけだし、どういう意図を持った シーンなのか、サッパリ分からない。

で、出演者のテロップが流れ、監督のテロップが表示されるところで宴のシーンが終わるので、それでアヴァン・タイトルは終了なのだと 思ったら、違うんだよね。
その後、ドルフィンのシーンと、海で依里子と藤井が出会うシーンを繋げて、ようやくタイトルが表示される。
でも、その宴の後の2シーンも散漫だし、ドルフィンのシーンの意味も薄い。
海のシーンはドギツい色彩と紗を掛けすぎた照明ばかりが気になって、「運命的な出会い」といった効果は薄い。

第2章では、鷺沢の周囲に心中で死んだカップルの幽霊が出現するのだが(鷺沢には見えていない)、ものすごく安っぽいし、それによる 効果も全く感じない。
一応は鷺沢の心象風景という意味合いなのだろうか。
しかし、最後に幽霊が消えるようなことも無く、第2章の終了と同時にフェードアウトするだけだし、やはり何の意味があるのか良く 分からない。
また、あまりに鷺沢が軽い&明るいために、片思いの切なさ、いじらしさといった感情は、まるで伝わってこない(明るさの裏にある辛さ は描かれない)。

第1章にあった音楽教室のシーンを鷺沢サイドから繰り返すが、再び第1章で描かれた屋上の里伽子と美樹の会話シーンも挿入される。
いやいや、そんなの要らないでしょ。
何の意味も無い、ただの時間浪費でしょ。
音楽教室の窓から屋上にいる2人の姿でも映せば、同じシーンを別角度から繰り返していることは充分に伝わる。
あと、その部分に限らず、同じシーンを別角度から繰り返されても、「あの時の出来事に、実はこういう別の一面がありました」という ところでの効果は、感じられないんだよな。

里伽子が幼少時代に男にイタズラされた心の傷を抱えていることは、それによって男性不信になっていることが、なかなか見えて来ない。
次から次へと男を乗り換えて自分を取り繕っていること、藤井との出会いで心の傷が癒されていくことが、一向に見えて来ない。
そういった彼女の気持ちの揺れ動き、繊細で微妙な心情が、全く見えて来ない。
彼女の過去と藤井の秘密は隠したまま引っ張らず、もう早い内から小出しに見せていった方が、そのキャラを観客の心に届かせるための 手助けになったんじゃないかなあと思ったりするが。

(観賞日:2008年1月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会