『LOVEDEATH─ラブデス─』:2007、日本
サイの人生は、クラブでシーラという女に出会ったことで変わった。サイはシーラのために4人の人間を殺し、さらに1人を殺す予定だ。 全ては彼女と再会したところから始まった。始まりは今から17時間と30分前だ。サイは1年ぶりにシーラと再会した。たった3日間 付き合っただけだったが、サイは「俺たちは運命共同体なんだ。どちらか1人が欠けたら成立しない」と言う。シーラは「覚えてる、 アンタがメチャメチャにした男?」と尋ねた。1年前、サイはクラブでシーラに暴力を振るっていた男を殴打していた。シーラは「あの男 、私の兄貴だったの。私を連れ戻しに来ただけ」と、表情を変えずに告げた。
サイが「なんで俺に連絡してきた?俺に会いたかったんだろ」と口にすると、シーラは「人にはターニング・ポイントがある。それを クリサイス・デイと呼ぶ。私のクリサイス・デイは明日。あと50分ほどでやって来る。アンタも同じ。だから一緒にクリサイス・デイを 乗り切りたいの」と語った。サイは「2人でバラ色の人生にしようぜ」と言い、乗り気になった。シーラがサイを自分の部屋に招き入れ、 付きまとっていたストーカーのマサオを暴行し、ドアの向こうに監禁していることを明かした。
シーラはサイに、「止めを刺して。そしたら私と共犯。2人でクリサイス・デイを乗り切りましょう」と持ち掛ける。サイはナイフを握り 、ドアから飛び出したマサオと戦う。マサオは馬乗りになるが、銃弾を浴びて倒れた。黒金組の若頭・ジュウモンジ率いるヤクザ集団が 踏み込んで来たのだ。ジュウモンジは「金はどこだ」と言い、部屋を探し始める。サイが説明を求めると、ジュウモンジはシーラが組長 あるクロガネの愛人で、悪徳刑事のマサオと共謀して3億5480万3500円を持ち逃げしたことを話した。
ジュウモンジは組員のミノルにシーラを始末させ、そのミノルを撃って落とし前を付けようとする。するとミノルの弟分であるマリオたち が、シーラを始末すると言い出した。ジュウモンジに脅されたシーラは、「その男に預けた。全部その男が計画した」とサイを指差した。 サイは殴られて失神し、気が付くと拷問マスターとシスターのいる懺悔の部屋で拘束されていた。サイは電気ショックの拷問に掛けられる が、隙を見て助手の銃を奪った。彼は親友のコウちゃんに教わった銃の扱い方を思い出し、助手を射殺して部屋を脱出した。
クロガネはシーラを拘束し、調教しようとする。そこへサイが来てクロガネの股間を撃ち、シーラを連れて逃走。シーラは駐車場で車の 種類に文句を言い、赤いコルベットに乗った。サイが「どういうことだ」と詰問すると、シーラは冷たく「過ぎたことをグチャグチャと 言わないの」と告げた。ペニスを失ったクロガネの元に、ジンノ大親分から電話が入った。若い愛人の静江と一緒にいるジンノは、 「いつまでに収めるのか。明日までに金を用意しろよ」と恫喝した。
防弾チョッキで助かったマサオは、後輩刑事のゴンと新人のホシを呼び寄せ、金と女を追えと命じた。ゴンがクロガネ邸に乗り込むと、 クロガネは「儲け話に興味はねえか」と言い、サイとシーラを見つけ出す仕事を持ち掛ける。ゴンは承諾し、シーラのプリクラとサイの 似顔絵を持って立ち去った。クロガネは殺し屋のガモウを呼び寄せ、サイとシーラを連れて来いと命じた。ガモウは狂犬軍団のチョウや カオリンたちを引き連れ、カップルを捜索した。しかしチョウはカップルというだけで、別の男女を次々に射殺した。
シーラはミノルからの電話で「親父がメチャクチャ怒ってますよ」と言われるが、落ち着き払って「私の味方でしょ。役に立ってよ」と 告げる。サイは立ち寄ったドーナツ店でホシと遭遇し、シーラのプリクラを見せられるが、「見てないですね」とシラを切った。ホシが店 を出るとシーラがいたが、彼女がフィリピン人のフリをすると全く気付かなかった。サイとシーラは、占い師マダム・エルロンのテントに 入った。サイは「アンタが確実に助かる方法が1つだけある。この女と別れることや」と言われ、シーラは「アンタが助かるには、この男 を離さんことや」と告げられた。
ガモウたちは武器密売人の元を訪れ、新しい銃を手に入れた。だが、密売人の妻が現れるとチョウが「あっ、カップルだ」と叫び、全員で 夫婦を射殺してしまった。サイはシーラを連れて、元カノのユマが営むクラブ・メゾットへ赴いた。マサオは友人である警官クニアキを 呼び、パトカーを貸してくれと頼んだ。クラブ・メゾットにやって来たダンとホシは、ようやくサイとシーラに気付いた。
ダンから連絡を受けたクロガネはジュウモンジを呼び、クラブへ行ってシーラを連れ戻せと命じた。クロガネはガモウに連絡を入れ、 クラブ・メゾットにサイとシーラがいることを伝えた。ジュウモンジ軍団はクラブに現れ、サイたちに金を返せと要求した。そこへユマの パパであるジンノが静江を伴って現れたため、シュウモンジは挨拶した。そこへガモウ軍団がやって来るが、ジンノと静江を見たチョウが 「カップルや」と叫んだ。慌てて止めようとするジュウモンジの前で、ガモウ軍団はジンノに銃弾の雨を浴びせた…。監督は北村龍平、原作Inspired by a comic "69" byは高橋ツトム、脚本は桐山勲&北村龍平、プロデュースProduced byは北村龍平& 高橋ツトム、エグゼクティブプロデューサーは佐谷秀美、ポストプロダクションプロデューサーは篠田学、撮影は金谷宏二、編集は 長坂智樹、美術Art Directorは白石学、音楽は森野宣彦&矢野大介。
出演は武田真治、NorA、大友康平、船越英一郎、竹内力、泉谷しげる、杉本彩、寺島進、池内博之、IZAM、金澤太朗、船木誠勝、 川村カオリ、六平直政、北見敏之、小沢仁志、吉岡美穂、森本レオ、インリン・オブ・ジョイトイ、渡辺裕之、森洋子、大森南朋、 吉村由美、ニコラス・ペタス、八木小織、チャック・ウィルソン Akiko Mishiro、津田寛治、川合千春、KAN、みさきゆう、村上和成、 深浦加奈子、あいはら友子、江原修、増本庄一郎、松田ピロシ、七海智哉、大場一史、松原慎太郎、榊英雄ら。
『あずみ』『ゴジラ FINAL WARS』の北村龍平が監督を務めた作品。
原作は高橋ツトムの短編漫画『69』。
サイを武田真治、シーラを 本作品が女優デビューとなる新人のNorA、ジュウモンジを大友康平、クロガネを船越英一郎、コウちゃんを竹内力、ジンノを泉谷しげる、 ユマを杉本彩、ゴンを寺島進、ホシを池内博之、ガモウをIZAM、ミノルを金澤太朗、チョウを船木誠勝、カオリンを川村カオリ、マサオを 六平直政クニアキを北見敏之、シーラの兄を小沢仁志、静江を吉岡美穂が演じている。
他に、拷問マスター役で森本レオ、シスター役でインリン・オブ・ジョイトイ、道路で殺し屋軍団に殺される夫婦役で渡辺裕之と森洋子、 公園で殺し屋軍団に殺されるカップル役で大森南朋と吉村由美、そこに駆け付けて殺されるカップル役でニコラス・ペタスと八木小織、 武器商人役でチャック・ウィルソン、ドライブ中に殺し屋軍団に射殺されるカップル役で津田寛治と川合千春、クロガネが呼んだ医者役で KAN、ドーナツ店の店長役で深浦加奈子、マダム・エルロン役であいはら友子が出演している。この映画は、北村龍平がNorAと出会ったところから始まっている。
NorAに魅力を感じた北村監督に、『ALIVE』『スカイハイ 劇場版』を通じて盟友となっていた高橋ツトムが、自分の原作を使って彼女の 主演映画を撮るよう勧めたらしい。
ようするに、北村監督がNorAを売り込みたいがために作った映画というわけだ。
どうやら北村監督、NorAがかなりのお気に入りだったらしく、その後に監督した2本の映画でも彼女を起用している。まあ、映画監督が気に入った女を自分の作品で起用するってのは昔から良くあることだし、それ自体は別に構わない。
それよりも問題は、北村監督が思っているほど、NorAという女性に魅力を感じないってことだ。
少なくとも、シーラというキャラに必要な素養を持っているようには見えない。
NorAが本当に魅力のある女だとすれば、それを監督が作品に反映させることが出来ていないってことだ。この映画を見ていても、なぜサイが自分を騙したシーラを命懸けで守り続けるのか、まるで理解できない。
それはシーラを「魔性の女」「ファム・ファタール」として描くことが出来ていないからだ。
何もしなくても、NorAがそういうフェロモンの滲み出てくるような女性だというのなら、それでも構わないかもしれない。
だけど、そんなに出てないからね。
あと、どうでもいいけど、NorAって名前だけを見た段階では、オルケスタ・デ・ラ・ルスのヴォーカリストかと思ったよ。まず言いたいのは、「長すぎるよ」ってことだ。
これは親子三代の数奇な運命を描いた歴史ロマンでもなければ、壮大なスケールの戦争スペクタクルでもない。
監督本人は、「あえてジャンル分けするならラブコメ」と言っている。
これがラブコメかどうかはともかく(ちっともラブコメには感じられないが)、本人がそう思っているなら、そうしておこう。
で、ラブコメで158分も使うってのは、もう「私には映画監督としてのセンスがありません」と宣言しているようなものだぞ。しかも原作は短編漫画なんでしょ。
なんで短編漫画が158分の尺になっちゃうのか、ワケが分からん。どういう脚色をしたのか。
むしろ、短編漫画を長編映画にする場合、どうやって尺を稼ぐかという部分で苦労するはずだと思うんだけど。
この映画に関しては、もう中身云々ではなく、上映時間が158分という段階で、ダメな映画と断定してもいい。
幸いなことに、それに見合って中身もダメだし。有名人だらけで悪ふざけをしているだけ。
悪ふざけでも面白ければいいんだけど、笑えない悪ふざけだから、かなりタチが悪いぜ。冒頭、サイのモノローグで始まるところからしてモタついている。
彼の語りから回想に入っていくという導入の手口は決して悪くないが、そのモノローグが無駄に言葉を使いすぎ。
この映画の半分でいい。
タイトルの後、シーラが「海面から200メートル以上の海の底は太陽の光が届かない。永遠に夜が続く世界。そこに生きる生物は自らの体 を発光する術を見つけることで、初めて光を手に入れることが出来た」とクールに話し、サイがクールに「この世界でお前だけが光ってる のと同じだなあ。だから俺はお前を見つけることが出来た」と返す最初の会話で、もう「ああ、どうやらダメな映画らしい」と匂って 来る。どうやらスタイリッシュにカッコ良く決めようとしているようだが、完全に滑っている。寒いことになっている。
その後も2人の会話がしばらく続くのだが、まあ退屈なことと言ったら。
始まって10分も経過しない内に、ヒドい疲労感に襲われた。
その後もサイとシーラは、基本的に「オシャレに、クールに」という佇まいを続けるのだが、キマらないんだよな、これが。
だからと言って、「カッコ付けてるつもりが傍から見るとギャグ」という感じで演出しているわけでもない。
マジにやって、マジに滑っている。その後は一応、コメディーにしようという意識があるらしく、ギャグを並べているのだが、ことごとく上滑り。
テンポも間もカメラワークも編集も、全てが笑いを薄める方向に作用している。
それでも、まだ脇役の面々だけが登場している間は、まだマシな方だ。
サイやシーラがいる場面では、さらに滑っているし、そもそも喜劇性は薄い。サイとシーラの2人だけがいるシーンでは、前述したように 、ただカッコ付けて滑っている。
まあ、どっちにしても滑っていることに変わりは無いのだが。主人公のサイは喜劇の中に入っても、常にカッコ付けたままで位置している。
だが、それが「スカした笑い」に繋がるわけではなく、ただ単に笑いを薄めているだけ。
そもそも、スカした笑いという方向性で用意していないギャグに対して、スカしたりする。
それと、サイの「クールな対応」のやり方にしても、もっと誇張すれば笑いになったかもしれないのだが、ただ淡々としているだけ なのよね。例えばさ、サイを草刈正雄にやらせて、彼がクールに対応すれば、それは喜劇になったと思うのよ。
だから、そこはミスキャストってのも大きいんだよな。
武田真治に、この役は合っていないんじゃないか。
主演させるなら、クールに徹するのではなく、「カッコ良く決めようとしているけど、いざとなるとビビったり焦ったりしてしまう」 というキャラにしておけば、もう少し笑いに繋がっただろうし、そういう役ならフィットしたんじゃないかと。サイがコウちゃんのことを回想するシーンは、ただ話の進行を妨害してテンポを悪くしているだけ。そこを削除しても何の支障も無いし、 むしろ削除した方がいい。
そこに限らず、「有名俳優を多く出したい」というだけで用意され、話のまとまりやバランスを崩している場面が幾つもある。
また、登場キャラクターに、それぞれの個性を付けようという意識は薄い。基本的には「暴力的でキレている」という奴ばっかりで、 どれも似たり寄ったり。
キャラの個性を、「演じている役者の違い」に頼りまくっている。ただし、「カップルや」と叫んでサイ&シーラとは別の男女を次々に射殺するおバカな船木誠勝だけは、なかなか面白い。
だが、その彼をちゃんと活用する気も無くて、例えば喧嘩をしている夫婦の前にトラックで現れた時には、ガモウが撃っている。そこでは カップルだからと船木誠勝が射殺するようなネタも無い。
しかも、「カップルだ」で船木誠勝だけが暴走すればいいのに、4組目のカップルからは他の連中もその声に合わせて発砲する。
それは完全にキャラの動かし方を間違っている。
だったら船木だけでいいじゃん。IZAMをツッコミ役にするのなら彼だけは存在意義が生まれるけど、ボスだったはずなのに全く個性が 無いし、他の奴らも同様なんだから。(観賞日:2011年9月19日)