『LOVE まさお君が行く!』:2012、日本

東京タウンテレビ(TTV)のディレクターをしている河原茂雄は、新しい動物番組で使う犬とタレントを探していた。ただし低予算の番組なので、ギャラの高い犬やタレントは使えない。河原は芸能プロダクション社長の黒田光男に電話を掛け、「ギャラが安けりゃ何だっていいわけ」と話す。黒田はソファーで寝ている松本秀樹を見て、「いいのがいますよ。芸歴10年ですからね」と告げた。
河原はADの吉野水希を連れて動物プロダクション「WAN NYAN」を訪れ、犬を借りようとする。水希がラブラドールにこだわるので、河原は最も安いラブラドールを見せてほしいと社長の辻浩平に頼む。倉庫で大きな音がしたので行ってみると、「まさお君」と呼ばれるラブラドール・レトリバーが餌を漁っていた。後日、松本はTTVを訪れ、水希と会った。『まさお君が行く!』という番組タイトルに、松本は困惑した。共演者の「まさお」が犬だと知って、松本は唖然とした。
第二さくら荘に住む松本は、恋人の須永里美から番組内容を訊かれる。「犬を連れて、全国の面白ペットを訪ねて紹介するって番組」と松本は答える。10年も組んでいる漫才コンビ「WANTED」の相方であるトム・鈴木は、最近では事務所にも顔を出さないようになっていた。松本は河原から犬のしつけ本を買わされ、まさおを飼い慣らす指示される。河原は「ドッグトレーナー無し」という条件で、まさおを2万円で借りていた。しかし松本は、手取り8千円のギャラしか貰っていなかった。
まさおが全く言うことを聞かないので、松本は番組が始まらない内から黒田に「あの仕事、もう辞めたいんですけど」と告げる。芸人として舞台で漫才をやりたいと話す松本に、黒田は鈴木が「役者になる」と言ってアメリカへ帰国したことを教えた。里美のマンションを、兄の真一が訪れた。また父が病気で検査を受けたことを語った彼は、見合いでもして結婚し、実家のホテルを継ぐよう里美に促した。松本に対して、真一は「ずっと傍にいてくれるって甘えてんだ。お前のことなんて二の次だ」と扱き下ろした。
河原や水希は撮影した映像をチェックしてみるが、松本の喋りはガチガチで、まさおも全く可愛げが無く、困り果ててしまう。だが、ある映像を見た河原は、表情を緩ませる。それは、まさおが果物店に突っ込み、陳列してあった商品を落としてしまった直後の映像だ。まさおは倒れた松本の上に乗り、落ちた果物を一緒に食べていた。「これはマズいですよ」と水希は言うが、河原はそのアクシデントを番組で使うことにした。
松本は第一回の放送を見ながら実家の祖母・きぬと電話で話し、「まだ実力が出し切れてない」と述べた。一緒に夕食を取っていた里美は兄の言葉を思い出し、「私がいくなることとか、考えたりする?」と問い掛ける。しかし松本は「今はそれよりも、あのバカ犬の前にどう出るかです」と言い、里美のことなど全く考えていなかった。テレビ局には抗議のファックスや電話が殺到するが、河原は「反応があるってことは、何かしらの感情を揺さぶったってことだ」と水希に告げた。
次のロケ先でも、まさおは松本の言うことを聞かず、好き勝手に行動した。川下りのシーンを撮影している最中、松本は笑いを取ろうとして船から落ちた。水希から「笑いを取ろうとしなくていいから。これは動物番組なの。主役はあくまでも動物」と注意された松本は、納得できない表情を浮かべた。まさおが松本の上に乗って暴れると、河原は「この感じなんだよなあ、撮ってて面白いのは」と口にした。しかし水希は「番組の趣旨、違いますからね」とクールに告げた。
ロケが終わって東京へ帰る頃には「WAN NYAN」が閉まっていたため、松本はまさおを預かるよう河原たちから頼まれた。ペット禁止のアパートに、松本はこっそりとまさおを連れ帰った。しかし、まさおが逃げ出して暴れたので、住人たちは大騒ぎになった。松本は里美から居酒屋へ呼び出され、実家へ帰るよう兄に急かされていることを聞かされた。里美は「正直、いい機会だと思ってる」と言い、涙を堪えながら別れを告げた。
数日後、松本とまさおは番組収録でフリスビーに挑戦することになった。松本が思い切りフリスビーを投げると、崖下に消えてしまう。松本が「取って来い、バカ犬」と言うと、河原は「何言ってんだ、お前が取って来るんだよ」と命じる。松本が崖下に転落すると、まさおが猛ダッシュで駆け付けた。無事だった松本は、顔を舐めるまさおに微笑して「お前、俺を助けに来てくれたのか」と話し掛けた。まさおを「WAN NYAN」に返した松本は、「今日はありがとな」と礼を述べた。
テレビ局に戻った水希が抗議のファックスに目を通していると、河原は応援のハガキ2通を見せて「この番組には、こういう力があると思うよ」と告げた。翌朝、松本は自分のバンダナに「まさお」と刺繍し、まさおの首に巻いた。松本とまさおのコンビに調子が出て来る中、真一がアパートを訪れた。彼は里美が実家に帰る決心をしたことを話し、「変に里美の気持ちを揺らすな」と告げて立ち去った。松本は里美と会い、実家へ帰るバスに乗る彼女を見送った。
番組の人気は高まり、放送開始から1年目で全国ネットが決定した。番組宛てに届くファックスも、応援する内容ばかりに変わっていた。クリスマスの時期に入り、松本とまさおのコンビは、ちびっ子ハウス“太陽の家”へ番組収録で赴いた。子供たちが大喜びする中、まさおは施設で飼われているダイアンに目を奪われた。1人だけ反抗的な態度を取る少年に松本は話し掛け、笑いを取った。河原と水希は院長の町村に、まさおの見合いを申し入れた。しかしダイアンは、施設を支援している代議士の飼い犬との見合いが決まっていた。
松本とまさおは、愛犬スポーツ大会にゲストとして参加した。障害物競走で1位になった松本は喜ぶが、まさおはゴール直後にグッタリとして動かなくなった。診察した動物病院の中根院長は、数日間の休養を与えるよう告げた。河原は中根に、詳しい検査を依頼した。中根の話を聞いた松本は、以前も同様の出来事があったことを知る。彼は辻の元へ行き、「どうして話してくれなかったんですか。まさおは商品じゃないんです。俺の友達なんですよ」と非難した。すると辻は、「じゃあ君は一緒に居て気付かなかったのか。友達って、まさおに何かしてやったことあんの?」と言い返した。
松本は太陽の家を訪れ、まさおとダイアンを一緒にさせてあげたいと町村に頼み込む。すると町村は、ダイアンが嫌がったので見合いが破談になったことを話した。施設の子供たちは松本に「ダイアンとまさおのことは俺たちに任せて」と告げ、まさおとダイアンは結婚した。一方、きぬから番組宛てにハガキが届いたことを知った河原は、水希に「お前の仕切りで行ってみるか」と言う。松本はまさおや撮影クルーと共に、きぬと父の祐三が住む実家を訪れた。一方、辻は中根から、まさおに癌の可能性があると宣告される…。

監督は大谷健太郎、原作はテレビ東京「ペット大集合!ポチたま」(「まさお君が行く!ポチたまペットの旅」)、脚本は高橋泉、製作総指揮は井澤昌平、製作は中尾哲郎&秋元一孝&飯島三智&重村博文&水口昌彦&小崎宏&藤井潤一&都築伸一郎&為森隆&濱田清三&町田智子、エグゼクティブ・プロデューサーは深沢幹彦&関根真吾、プロデューサーは五箇公貴&池田史嗣&和田倉和利&福島聡司、アソシエイト・プロデューサーは峰彩子&山崎康史、ラインプロデューサーは宿崎恵造、音楽プロデューサーは安井輝、撮影は釘宮慎治、照明は田辺浩、美術は中山慎、録音は松本昇和、編集は張本征治、ドッグトレーナーは鈴木和夫、助監督は山口晃二、音楽は上田禎。
主題歌『君は僕だ』前田敦子 作詞:秋元康、作曲:you-me、編曲:佐々木裕。
出演は香取慎吾、広末涼子、成海璃子、光石研、寺島進、小野武彦、浅野和之、左時枝、木下隆行(TKO)、大久保佳代子(オアシズ)、神田瀧夢、松本秀樹、土屋裕一、田中要次、森下能幸、佐藤真弓、千葉ペイトン、手塚とおる、ダンテ・カーヴァー、内田岳志、島岡安芸和、河野達郎、下江昌也、倉本郁、篠山輝信&ちゃたろう、剛州、須永千重、松井晶煕、青木一、金子祐子、橋本銀次、佐藤五郎、島崎友之、高橋真子、広山詞葉、土屋史子、廻飛呂男、荒井タカシ、須間一也、白神允、芹澤興人、横塚真之介、藤井亜紀、宮坂あゆみ、鈴木祥二郎、田村健太郎、細川洋平、伊澤恵美子、當島未来、中田敦夫、澤純子、大久保英一、藤田昌宏、三田恵子、富田エル、中務一友、辰巳直人、村上周、鮫島満博、中道宏幸、山口航太、小野瀬侑子、森正明、上村愛香、金子純士、秋田樹、秋田椿、上倉景子ら。
ナレーションは小倉久寛、


テレビ東京系列で2000年10月から2010年3月まで放送されていた動物バラエティー番組『ペット大集合!ポチたま』の人気コーナー、『ポチたまペットの旅』を題材にした作品。
脚本の高橋泉と監督の大谷健太郎は、『ランウェイ☆ビート』に続いてのコンビとなる。
松本を香取慎吾、里美を広末涼子、水希を成海璃子、河原を光石研、辻を寺島進、町村を小野武彦、祐三を浅野和之、きぬを左時枝、真一を木下隆行(TKO)が演じている。
本物の松本秀樹も、吊り橋ロケに通り掛かる旅人の役で1シーンだけ出演している。

「動物映画で当たりクジを引くのは、砂漠で落としたダイヤモンドを見つけるより難しい」ってのが私の持論である。
全てが駄作というわけではないだろうが、その割合は相当に多いと見ている。そして、この映画もまた、その大半の中に含まれている。
っていうか、日本で製作された動物映画で、傑作と呼べるような作品が思い浮かばない。どこかに転がっているのかもしれないが、私はお目に掛かっていない。
ひょっとすると過去に見ているのかもしれないが、私の記憶から取り出すことは出来ない。

この映画の場合、ただでさえ当たりクジを引くのが難しい「動物映画」というジャンルの上に、「テレビのバラエティー番組から誕生した映画」という要素もプラスされる。その付加価値は、良い方向には作用しない。
とは言え、番組関連の部分は出来る限り事実に即した内容にすべきだろうに、なぜか「東京タウンTV」という架空の放送局を舞台にしてしまう愚かしさ。
テレビ東京系列で放送された番組を題材にしており、そのテレビ東京が製作しているにも関わらず、なんで「テレビ東京」じゃダメなのか。他のテレビ局での宣伝が難しくなるだろうという判断だったのか。
どういう理由があるにせよ、アホかと思うよ。そこは実在するテレビ局にしておいた方が、宣伝のことは知らないけど、映画の内容だけを考えればプラスだと思うぞ。
松本の所属事務所だって、浅井企画でいいでしょ。そこを架空の事務所にする必要は無い。なるべく現実とリンクさせた方が、何かと得策だと思うんだけどなあ。

松本とまさお君との関係は事実を基にしているものの、それ以外の部分ではフィクションが色々と含まれているらしい。
例えば恋人との関係なんかは、そんなに都合良く映画になるようなドラマティックなエピソードを持っているわけもないしね。
何から何まで事実通りである必要は無いから、脚色が入るのは大いに結構。
ただし問題は、フィクションとして持ち込まれた部分が面白くないってことだ。

例えば、番組出演の経緯。
松本の漫才コンビ時代の相方は日本人で、番組内容を知らされないまま、一緒にオーディションを受けている。
松本だけが部屋に残され、プロデューサーの飼っていたシェルティーに「お座り」と呼び掛けるよう促される。「お座り」と松本が言うと、シェルティーは言うことを聞いた。
それまで600人以上の参加者が言っても座らなかったのに、松本の呼び掛けだけには応じたのでオーディションは終了し、彼が合格したというのが、番組に出演する経緯である。

そこを映画では、「相方が黒人」「ディレクターから電話を受けたプロダクション社長が松本を推薦している」「オーディションは無くて松本の出演が決定している」という設定にしてある。
それが物語として面白くなる方向での脚色なら、何も文句は言わない。
だけど、前述した実際の経緯と比較して、どっちが魅力的なエピソードかと問われたら、たぶん大半の人は、前者を選択すると思うんだよね。
全て事実通りにしろとは言わないから、例えば「オーディションでまさおにお座りしろと言ったら、松本の時だけ反応した」という形で持ち込むぐらいのことはしても良かったんじゃないかと。

漫才コンビなのに片方だけを社長が推薦していることに関しては、「相方が全くやる気を見せずに解散状態だから」ってことで受け入れることも出来る。
だが、オーディションが無くて、社長の推薦だけでディレクターが出演者を即座に決定しているというのは妙だ。
幾ら低予算であっても、出演者ってのは番組にとって重要でしょ。どんなタレントか良く知らないまま、ディレクターが出演させるなんて有り得ない。
チョイ役ならともかく、番組のメインなんだし。

それと、カットが切り替わって松本がテレビ局を訪れるシーンがあって、そこで初めて「彼が番組内容を知らされていない」「動物番組ということも知らない」ということが分かるのだが、そこは明らかに説明不足。
先に「テレビのレギュラー出演を社長から聞かされて喜ぶ」「番組内容は詳しく教えてもらえないが、お笑い系の番組だと誤解する」という手順を踏んでおかないと、「そうじゃないと知って驚く」というところの落差が付かないでしょうに。
笑いを作る上での基本でしょ、そういうのって。
あと、「相手が人間だと思って楽屋へ挨拶に行ったら犬だった」という描写があるけど、こっちは最初から犬だと分かっているので、そこで笑いは発生しないぞ。
だから、そんな見せ方をしても意味が無い。

それと、動物番組で犬が主役だと知った後、それに対して松本が不満を抱くという描写を、その直後に入れておくべきでしょ。
直後に恋人と話すシーンがあるんだから、普通に処理できる手順だ。
ところが、そういう反応も無いし、だからって「レギュラーが決まって喜ぶ」という様子も無いんだよな。
だから、そのシーンで何を表現したいのか分からん。
いや、「恋人がいる」「相方は覇気が無い」ってのは伝わるけど、それだけじゃ不充分じゃないかと。

まさおのギャラが2万円だと知ったり、何を言っても指示に従わなかったりすることで、松本はまさおへの不満を抱くようになるのだが、それだとタイミングが中途半端。
前述したように、動物番組と知った時点で不満を抱かせておいた方がいい。
ただ、不満を抱いているはずの松本だけど、まさおにマウントを取られて暴れられても、本気で怒ったりはせず、じゃれている感じなんだよな。
そこもまた中途半端で、まさおに対して不満を抱いているなら、もっと徹底してそういう反応を出させるべきだ(マジで激昂して怒鳴り付けろとか、暴力を振るえとか、そういうことじゃなくて、あくまでも喜劇の範囲内でってことだよ)。

そこがキッチリしていないから、「最初はまさおに不満を抱いていた松本が、次第に、あるいは何かのきっかけで、親愛の情を抱くようになる」というドラマもボンヤリしてしまう。
っていうか、アパートを追い出された松本が、神社の境内でまさおに死んだ母親のことを語るという展開は、そこを「まさおと仲良くなる」というきっかけの1つにしたいのかしれないけど、ものすごく唐突にしか感じないし。
崖下に転落した松本をまさおが助けに行くシーンで「これをきっかけに松本の気持ちが変化して」とやりたいのも、進め方としては分かるけど、スムーズな進行とは感じない。
全体を通して、メリハリの付け方やテンポも上手くないし。

前半の内に松本とまさおのコンビは出来上がり、中盤以降は2人のコンビが上手く行き始めてからの物語になる。
一応、施設の子供たちとのふれあいとか、まさおの結婚とか、幾つかのエピソードはあるんだけど、気持ちを引き付けるようなモノは無い。
松本と里美の恋愛劇ってのも描かれていて、前半で別れて後半でヨリを戻すという展開があるけど、これまた魅力に欠ける。
そんな恋愛劇に余所見するより、もっと松本とまさおが絆で結ばれる物語に集中した方が良かったんじゃないか。

最後に触れておきたいのは、「あの終わり方でいいの?」ってことだ。
『ポチたまペットの旅』の初代旅犬であるまさお君は2006年12月9日に悪性リンパ腫で亡くなり、その息子のだいすけ君が二代目の旅犬としてコーナーを引き継いだ。
まさお君の死と、だいすけ君の誕生は、劇中でも描かれている。
ところが、劇中では「松本はだいすけ君と旅をしている」というところで終わっているのに、そのだいすけ君は2011年11月29日に亡くなっているのだ。

撮影当時、だいすけ君はまだ存命だったから、急な死亡に対応できなかったという事情はあるのかもしれない。
しかし、どうにも収まりが悪いエンディングだ。
ポスト・プロダクションの段階では既にだいすけ君が死去していたんだし(この作品の封切は2012年6月23日)、ラストシーンをカットするなり、だいすけ君の死に触れるなり(今は「まさはる君」と旅を続けていることにも触れて)、何か手を打つべきだったんじゃないか。
そこを放置したままにしているってのは、手抜きにしか思えないんだよなあ。

(観賞日:2013年12月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会