『ラブ×ドック』:2018、日本

これは剛田飛鳥が36歳から41歳までの間に、3人の男と恋をする物語である。恋と仕事と友情の狭間でもがく、馬鹿な彼女の小さすぎる成長物語だ。40歳の時、飛鳥は巣鴨の『trad』という小さな洋菓子店で、オーナーパティシエをしている。店には他に権田健一、上田美咲、そして25歳の花田星矢という3人の従業員がいる。新作のジンジャーケーキについて飛鳥が悩んでいると、花田は黒糖を入れたらどうかと提案した。花田は飛鳥を抱き締めたりデートに誘ったりと、積極的にアプローチしてきた。
5年前、飛鳥はIT関連企業CEOの山根龍一と交際しており、プロポーズを期待していた。その1年前に彼女はプロポーズされたが、その時は返事をしていなかった。そこで飛鳥は「あの時の返事、今するね。結婚、してもいいよ」と言うが、山根は「俺が困るなあ。今は結婚なんかしてる場合じゃないって気付いた」と口にする。「じゃあ仕事と私、どっちか取らなきゃいけないとしたら、どっち取るの?」と強気に出た飛鳥だが、「仕事」と即答されてしまった。
山根に振られた飛鳥は、同い年で親友の細谷千種と会う。千種はグルメブロガーで、夫はいないが妊娠中だった。飛鳥は大手の洋菓子店『シンフォニスト』で働いており、オーナーパティシエの淡井淳治は自由が丘に2店舗目をオープンさせる計画を進めていた。彼はチーフとしてプロデュースを担当する人間を従業員の中から選ぶと公表していたが、飛鳥は自分が指名されると確信していた。飛鳥はテレビで特集され、取材の数も増えていた。
飛鳥は大学時代にミスコンを獲得してモデルにスカウトされたが、劇団に所属して芸能プロからも声が掛かった。全ては飛鳥の計算通りであり、ブスの多い大学や劇団を狙ったのだ。千種は飛鳥を連れて、自分が通うスポーツジムへ赴いた。トレーナーを務める35歳の野村俊介を見た飛鳥は、千種に「付き合っちゃえばいいじゃん」と告げた。帰宅した飛鳥は、ネットでラブドックというクニリックのバナー広告を見つけた。「遺伝子を理解するところから本当のいい恋は始まる」というキャッチコピーに、彼女は「怪しい」と馬鹿にして笑う。しかし気になった飛鳥は予約を入れ、ラブドックへ行ってみた。
医院長の冬木玲子は助手の桜木美木を伴って現れ、「ここは恋愛にまつわるデータを集め、分析・研究しているクリニック」と説明した。彼女は医学的根拠のある商品として悪い恋愛菌を防ぐマスクを紹介するが、10個で3万円という値段に飛鳥は「嘘臭い」と言う。すると玲子は、「正解。貴方を試したの」と告げる。玲子から幾つに見えるか問われた飛鳥は、「35ぐらい」と答える。玲子は65歳だと言い、恋しているから若いのだと述べた。玲子は「毛髪で恋愛遺伝子を調べた。貴方は本能を抑制してきた。でも30代後半の失恋でホルモンを抑制できなくなり、今までのように計算が利かなくなる」と語るが、飛鳥は信じなかった。
36歳の飛鳥は新店舗のチーフに選んでもらうため、わざと残業して淡井が顔を出すのを待った。淡井から「次の店を任せようと思ってる」と言われた彼女は、翌日以降も仕事終わりには2人で過ごすようになった。淡井は「多忙な自分のせいで妻がホスト狂いになった」と言い、「才能に惚れたら、君に惚れてた」と告白する。飛鳥は淡井とキスを交わし、付き合うようになった。飛鳥は娘の能子を出産して3ヶ月が経つ千種に、淡井と付き合っていることを打ち明けた。「不倫は幸せを生まない」と忠告されても、彼女は「たぶん奥さんとは別れる」と言う。しかし飛鳥は仕事帰りに淡井の妻の尾行を受け、「お願いです。夫を取らないでください」と懇願された。飛鳥は淡井から、「店を辞めてほしい。無かったことにしてほしい」と告げられた。
ラブドックを訪れた飛鳥は、玲子と美木から不倫している男の努力を詳細に説明された。玲子は「ホルモンの活発な状態は続いてる。次の恋でも大事な物を失う可能性がある」と言い、その恋が危険かどうかを判断して遺伝子がブレーキを掛けてくれるという注射を紹介する。無料での利用を勧められた飛鳥だが、「もう絶対に恋で失敗なんかしませんから」と断る。38歳の飛鳥は、人気のグルメブロガーになった千種から自分の店を持つよう勧められた。飛鳥が野村との関係を尋ねると、千種は「なんも進展なんかありません」と否定するが食事に行ったことは認めた。
ぎっくり腰になった飛鳥は千種に電話を掛け、野村が家まで来て無料でマッサージしてくれた。お礼に食事を御馳走することにした飛鳥は、千種も誘う。しかし千種が風邪で高熱を出したため、飛鳥は野村と2人で外食に出掛けた。千種のことをどう思っているか飛鳥が訊くと、野村は「いい友達です」と恋愛感情が全く無いことを語った。卓球バーで若いカップルに挑発された飛鳥は憤慨し、野村と組んで酒を飲みながらの卓球対決をする。勝利を収めたものの泥酔した飛鳥は、その勢いもあって野村とセックスした。
罪悪感を抱いた飛鳥に、野村は「酔ってこういうことしたわけじゃないですから。俺、本気っすから」と言う。真剣に付き合おうと考えた飛鳥は、千種を呼び出して正直に打ち明けた。分かってくれると思った飛鳥だが、千種は「友達って何なのかな。私のこと下に見て、安心してたんだよね」と泣き出した。飛鳥は野村の元へ行き、千種に話したと明かす。すると野村は「困るなあ。なんでそんなことしたの?そういうことされると、千種さんと連絡取れなくなる」と言い、飛鳥は腹を立てて彼との交際を撤回した。
飛鳥はラブドックに行き、注射を受けた。玲子は小さな箱を渡し、「元の身体に戻したくなった時には中身を服用して。それまでは中身を開けないこと」と40歳になった飛鳥は『trad』を開き、仕事に集中した。花田が店に来てからは女性ホルモンが活発になったと自覚するが、注射を打ったことを思い出すと少し落ち着いた。ジンジャー黒糖のケーキが突如として人気になったため、飛鳥は不思議に思う。すると美咲は、淡井が飛鳥の名前を出して絶賛していることを知った。
飛鳥は『シンフォニスト』へ行き、店のケーキを差し出す。彼女が「私の腕は皆さんに比べたら、誰にも敵いません。でも、いつか皆さんに求めてもらえるよう努力します」と告げて去ろうとすると、淡井が追って来た。彼は離婚したことを明かし、「店に戻ってきて欲しい。そして今度は堂々と、俺と。待ってる」と話す。そこへ花田が現れ、「待ってるとかいう言葉、ズルいと思うんですけど」と告げる。彼は「本気で好きになったのなら、笑顔を奪うようなことしないであげてください」と淡井に言い、飛鳥の手を取って去った。飛鳥は花田とデートに出掛け、彼と付き合い始めた。しかしある夜、飛鳥は「友達と飲みに行く」と言っていた花田が元カノの重川美緒と会っている現場を目撃する。嫉妬心からスマホで写真を撮影した飛鳥は、花田に「そんな自分がどれだけ嫌いか分かる?いつか貴方は私と別れる」と告げて自分から別れを告げる…。

脚本・監督は鈴木おさむ、製作は佐野真之&岡田美穂&水野道訓&中村家久&藤田晋&千代勝美&入江清彦&片岡尚&高橋一仁、エグゼクティブプロデューサーは豊島雅郎&吉條英希、企画・プロデューサーは山田雅子、プロデューサーは池田篤史、撮影は大嶋俊之、照明は島田裕介、美術は原田恭明、録音は室薗剛、音楽は倉内達矢、編集は森下博昭、ミュージックディレクションは加藤ミリヤ、アートディレクションは飯田かずな。
主題歌【ROMANCE】 Artist:加藤ミリヤ 作詞・作曲:Miliyah、プロデュース・編曲:Singo.S。
出演は吉田羊、野村周平、大久保佳代子、玉木宏、吉田鋼太郎、今田耕司、大島優子、広末涼子、成田凌、篠原篤、唐田えりか、大友康平、福井謙二(声の出演)、川畑要(CHEMISTRY)、山田純大、音尾琢真、大鶴義丹、柳美稀、北村諒、廣瀬智紀、戸塚純貴、小宮有紗、森下ひさえ、町田マリー、早出明弘、井上史乃、崇勲、中西紅葉、中島めぐみ(関西テレビアナウンサー)、益田愛子、吉村美樹、園都、藤原大輔(ゆんぼだんぷ)、江原杏樹、奥田彩花、守屋光治、鹿嶋ゆかり、TK da 黒ぶち、アルベルト リカンドロ、山田羽久利、川上ファラ、フィッシャーズ他。


『ハンサム★スーツ』『新宿スワン』などの脚本も手掛けている放送作家の鈴木おさむが、初めて監督を務めた作品。
飛鳥を吉田羊、花田を野村周平、千種を大久保佳代子、野村を玉木宏、淡井を吉田鋼太郎、玲子を広末涼子、美木を成田凌、権田を篠原篤、美咲を唐田えりかが演じている。
観光協会のスタッフ役で大島優子、男性患者役で今田耕司、CMのミュージシャン役で大友康平、卓球バーの店長役で川畑要(CHEMISTRY)、山根役で山田純大、飛鳥の元同僚役で音尾琢真、熱帯魚屋の店長役で大鶴義丹が出演している。

最初に感じたのは、「なんか古いタイプのコメディーを感じさせるプロットだな」ってことだ。
パッと連想したのは、松坂慶子の初主演作である1971年の『夜の診察室』だ(内容は全く違うけどね)。
それは全く関係ないだろうけど、ともかく「2018年という時代に作る映画としては、アイデアがレトロすぎやしないか」とは感じる。この設定のままで現代風にアップデートするってのは、ちょっと無理だろう。
とは言え、あえて古めかしさやダサさを誇張するとか、ケバケバしく飾り付けて大仰に演出したりするとか、そういう方向でやれば面白くなる可能性はあったかもしれない。
でも残念ながら鈴木おさむ監督は、どうやら「普通にやったら時代錯誤のコメディーにしかならない」ってことを理解していなかったようだ。

古臭いかどうかってはひとまず置いておくとして、「怪しげな恋愛専門クリニック」ってのを用意したのであれば、そこを中心に据えて話を進めるのは当然のことだろう。
つまり具体的に言えば、ヒロインが序盤でラブドックを訪れ、診断を受けたり処方箋を貰ったりする展開に入るってことだ。
ところが、なぜか鈴木おさむ監督は、なかなかヒロインをラブドックの患者にしないままで話を進めてしまうのだ。
自分で「これが武器」と考えて用意したはずの物を、なぜ積極的に使おうとしないのか。
『忍者部隊月光』の拳銃じゃないんだから、最後の武器として取っておく意味も無いでしょ(例えが分かりにくいだろ。せめてウルトラマンのスペシウム光線にしておけよ)。

飛鳥がラブドックと初めて絡むタイミングが、ものすごく遅いわけでもない。そして、絡む回数が少ないわけでもない。
しかし、飛鳥はラブドックでの診療に積極的ではなく、最初は玲子の助言を聞き入れたり薬を飲んだりする気を全く見せていない。最初にラブドックを訪れた後、しばらくは完全に足が遠のいている。
それだと、「飛鳥がラブドックの患者である」とは言えないのだ。
だから具体的な改善策としては、まず最初に飛鳥がラブドックを訪れるか、もしくは玲子と出会ってラブドックに誘われる手順を描写する。そこから飛鳥が過去の恋愛経験や現在の恋愛状況を語るという形で、回想劇に入ればいいんじゃないかと。
この映画だと、無駄に構成が入り組んでいるのよね。だけど、そういう構成に変更すれば、かなりスッキリすると思うんだよね。

そもそも、冒頭に入る飛鳥のナレーションからして、完全に間違っているんだよね。
彼女は「これは私、剛田飛鳥が36歳から41歳までの間に、3人の男と恋をする物語。恋と仕事と友情の狭間でもがく馬鹿な私の小さすぎる成長物語を、ポップコーンでも食べながら見届けていただきましょう」と語るんだけど、そこではラブドックについて全く言及していないのだ。
そして本人が語っているように、これが彼女の3つの恋と小さな成長物語だとすれば、ラブドックの必要性はゼロと言ってもいいのだ。
そのくせ、その語りが入った直後には玲子と美木を登場させているんだから、のっけから話が破綻していると言っても過言ではない。
むしろ、「玲子が飛鳥のことを語る」という形を取ってもいいぐらいなのに。

話が始まると、まず『trad』のシーンから入る。冒頭の語りで「36歳から41歳までの間に」と言っているのだから当然のことながら飛鳥は36歳なんだろうと思ったら、なんと40歳の設定。
いや、どういうことだよ。
そんで「もうお気付きかもしれないが、私はこの15歳年下の彼と、後に恋に落ちることになる」という語りが入るんだけど、これ全く要らないよね。既に恋している状態から入ればいいよね。
だけど、そこから「私はあの注射を打ってから大丈夫だと思ってた」という語りを入れて5年前に遡り、ここでラブドックを登場させるという構成にしてあるのだ。
いや、回想で見せるべきシーンって、そこじゃないから。ラブドックは全て現在進行性で見せて、飛鳥の恋愛遍歴を回想で見せるべきだから。

「どういう注射を打たれたか、5年前に遡る」ってことで回想シーンに入るのだが、なかなかラブドックが出て来ない。そして当然のことながら、飛鳥が注射を打ってもらうシーンに至るまでにも随分と時間が掛かってしまう。「これって何のための回想だっけ?」と、途中で首をかしげたくなるほどだ。
そんな回想シーンの最初には山根との関係が描かれるが、ここで「去年のプロポーズは返事をしていない」ってことが説明されている。それって、ホントに必要な設定なのか。
そんなの無しで「求婚を強く期待していたが、向こうから来ないので自分から言い出した」ってことでいいでしょ。
「去年は返事をしていない」という設定を持ち込むと、そこが無駄に引っ掛かるでしょうに。
一応は返事をしなかった理由も後から説明しているけど、「その程度なら要らない設定だわ」と言いたくなるし。

飛鳥がラブドックで注射を受けるのは、映画が始まってから約1時間後。つまり、もう後半に入っているのだ。
それが完全に計算ミスであることは、たぶん多くの人が気付くだろう。
いっそのこと、飛鳥の恋愛遍歴なんて10分ぐらいで済ませて、「それを止めるために注射を打つ」というトコから本格的に物語を転がしていく構成でもいいと思うんだよね。
ラブドックをタイトルに使っているぐらいなんだから、飛鳥がラブドックの治療を受けてからが本番じゃないのかと。そこで初めて、ラブドックの存在意義が生じるんだからさ。
過去の恋愛遍歴に時間を割きたいのなら、注射を受けた後から回想で挿入すりゃいいでしょ。
まあ多くの時間を割く必要性は感じないけど。

笑いを取りに行こうとしているシーンも、ことごとく空回りしている。
一発目に用意されているのは、美咲が耳の遠そうな老婆の客に大声でゆっくりと「ウチは塩大福は無い」と説明するシーン。
老婆が「声がでけえんだよ」と罵って去るのだが、これっぽっちも笑えない。
これはネタそのものにも問題があるのだが、実は言い回しやタイミングも外している。老婆の「声がでけえんだよ」という言い方や表情は、特に「ああ、それじゃ笑いに繋がらないな」と感じてしまう。

それ以降も、笑いを取ろうとしている箇所は、全てが単にガチャガチャしているだけ。流れを無視して笑いを取るためだけのシーンを挿入しているケースも幾つかあるが、ことごとく話のリズムを狂わせているだけ。
恋愛を描くパートとコメディーパートの噛み合わせも悪い。
飛鳥が男に口説かれるような恋愛シーンは洒落た感じで演出して雰囲気を盛り上げようとしているが、そこが一周回って喜劇っぽくなっている。ただし、そこで出るのは苦笑だけどね。
それと、何度も歌が入るんだけど、これもホントに邪魔だわ。歌がちゃんとBGMとして起用しているならまだしも、自己主張が強すぎて映像が「歌の背景」と化してしまうし。
だから歌が入る度に話の流れがブチッと切れて、完全にリズムを壊しているんだよね。
まあ、そもそも他の様々な原因があって、基本のリズムは崩れているんだけど。

(観賞日:2019年9月6日)

 

*ポンコツ映画愛護協会