『ラブコメ』:2010、日本

松田真紀恵は北足立花き市場へ出掛け、強気な態度で花を競り落とす。店長を務める松田花店には、旦那に浮気された姉の美津恵が来る。アルバイトの永峰涼子は真紀恵を尊敬しているが、男運の無さは見習いたくないと思っている。涼子は真紀恵の様子をこっそり覗いていた村田美晴を見て奇妙に思うが、気にせず仕事を続けた。美晴はオタク向けアニメの脚本家で、今はベテラン声優の西島涼平と仕事をしている。西島のマネージャーは彼を顔出しタレントとして売り出そうとしており、オタク向けアニメの仕事に乗り気ではない。まだ仕事が残っている美晴だが、西島はそれを知りながらキャバクラに誘う。
夜、真紀恵はバー「アモーレ」に花を届け、バーボンを注文する。疲れ果てている様子を見た常連客である探偵の梶田が「なんか荒れてるみたい」と言うと、マスターは「簡単だよ、男出来ないからだよ」と告げる。真紀恵は自分の美貌には自信があり、なぜ彼氏いない歴1年11ヶ月なのかと苛立ちを覚えている。一方、キャバクラへ赴いた美晴は西島から、「今回の台本の物語はお前の話だろう」と指摘される。それは事実であり、美晴は初恋の相手である真紀恵への思いを投影して作品を書いていた。そこへ西島の目当てであるキャバ嬢のスミレが到着するが、それが涼子だったので美晴は焦った。
真紀恵は梶田とマスターから、元カレの江島和俊と別れたことを突かれる。姉から店を引き継いだばかりだった真紀恵は、すれ違いが多くなる中で偉そうな態度を取ってしまい、それで関係が終わったのだった。涼子は美晴に「松田花店で働いてらっしゃいますよね」と指摘され、昼間の男だと気付いた。真紀恵は梶田とマスターから、もし江島がヨリを戻したいと言われたらどうするのかと質問された。そこへ江島が現れ、真紀恵に気付いて話し掛けた。
美晴は西島と涼子に、真紀恵のことが気になって花店へ行ったことを明かした。そこで涼子は、ずっと真紀恵に彼氏がいないことを教えた。真紀恵は江島から「もう一度付き合ってくれ」と告げられ、付き合うことにした。西島はバツイチで幼い息子がいることを明かした上で、涼子を口説く。西島と涼子は美晴に、「明日、コクっちゃえ」と言われる。しかし店を去る美晴の煮え切らない様子を見た涼子は、「ウチの店長、ウジウジしたの嫌いだから」と不安そうに漏らした。
翌日、休みなのに出勤した涼子は、真紀恵の「男が出来た」という言葉で美晴と付き合うことになったのだと勘違いする。そこへ西島が来たので、涼子は「上手く行ったみたい」と報告する。しかし真紀恵が江島と再会してヨリを戻すことにしたと説明したので、西島は子供の頃から貴方に恋焦がれていた青年がいるのだと語る。そこへ美晴が来て「覚えてますか」と言うと、真紀恵は「村田美晴君?私にいつもボコボコにされてたデブの」と口にした。
真紀恵は「私、男いるから」と、江島とヨリを戻したばかりであることを美晴に言う。ショックを受けた美晴だが、笑顔で「自分でも馬鹿だなあって思う。初恋の人が忘れられなくて、大人になって再会したら、すごく知ってたような気になっちゃってさ」と告げた。美津恵は涼子と江島に妹のアルバムを見せていた時、何かを思い出しそうになった。それは父親と関係のあることのように思えたが、ハッキリと思い出すことは出来なかった。
美晴はアフレコ現場に行くが、失恋の痛手で暗い表情になった。美晴とプロデューサーの大友法子はブランクの長い時五郎を起用したいと考えていたが、海外に暮らしていることもあり、決定には至っていない。真紀恵はアモーレへ行き、江島と会う。西島が帰宅すると、息子である涼太の面倒を見てくれていた元妻の奈緒が待っている。涼太は既に就寝しており、奈緒は美晴の告白のことを西島に尋ねる。失恋したことを西島が言うと奈緒は残念だと告げ、彼は「自分とは関係の無い所で幸せになってほしい部門1位」なのだと語る。
翌朝、真紀恵は美晴に電話を掛け、「夕方までデートするから1時間後に、人形町の駅な」と告げる。2人はデートに出掛け、真紀恵が好きだというモノレールに乗る。彼女は美晴に、変わり者だった父との思い出があることを語った。真紀恵は美晴に子供の頃のお気入りを尋ね、交通公園へ行ってレインボーサイクルを楽しんだ。真紀恵は花店へ美晴を連れ帰り、仕事を手伝わせる。ブーケを見つけた美晴が「ちょっと仕事の調べものでさ」と言うと、真紀恵は「やるよ。必要なんだろ」とプレゼントした。
夜、真紀恵はオシャレして江島のマンションへ行く。美晴はアフレコ現場へ赴き、ナレーションを頼んでいた時五郎が承諾してくれたという報告を受ける。翌日、急な仕事の入った西島は、美晴に涼太を預ける。真紀恵は西島の訪問で事情を知り、美晴に電話を掛けて「大変じゃなかったら、こっち来いよ。涼子もいるし」と告げる。4人でしばらく楽しい時間を過ごしてから、真紀恵は涼太に昼寝をさせる。夕方になって母親が迎えに来ると、涼子は顔を強張らせた。
夜、真紀恵は美晴を連れて、アモーレへ行く。涼子は西島に誘われ、行き付けの店へ行く。「美晴も負けを認めない男だねえ。あいつの初恋は地の果てまで行っても実らない」と西島が言うと、真紀恵と美晴が過ごす様子を見ていた涼子は「それはどうでしょうかねえ」と口にした。涼子から離婚した理由について問われた西島は、「飽きちゃったんだな。お互いに」と言い、どちらも他に相手かいたこと、相手に嫉妬していたことを明かす。そして彼は、離婚してからの方が仲がいいことを話した。涼子は笑顔で「私、負けませんよ」と言い、奈緒へのライバル心を西島に明かした。
真紀恵は美晴と2人で祭りに出掛け、一緒に花火を見た。人込みに押された美晴が倒れ込んで「ごめん」と言うと、真紀恵は緊張した様子を見せた。荒らくれ者が近付いて来るのを見た美晴は、真紀恵の手を取って「行こう」と告げた。真紀恵は「はい」と言い、彼に付いて行く。真紀恵は人気の無い場所まで来たところで立ち止まると、美晴にキスをした。美晴は動揺し、真紀恵は黙り込んでしまった。
後日、真紀恵は美晴に電話を掛け、「あれはな、簡単に言うと、後を引くなってことだな」と口にした。美晴は「分かってるよ」と言い、「忘れてくれ」という言葉に「うん」と告げる。真紀恵は江島を誘い、美晴とデートしたコースを辿る。しかし美晴との反応の違いを見て、真紀恵は表情を曇らせた。夜、彼女は美晴に電話を掛け、外へ呼び出す。「真紀恵には、いつも綺麗でいてほしい。幸せでいてほしい」という美晴の言葉に、真紀恵は冗談めかして「私の美貌に衰えが来ないように、いつもチェックしていてくれ」と言う。すると美晴は、「もう出来ないよ。僕は、いつも真紀恵の恋人のことが気になっちゃう」と話す…。

監督は平川雄一朗、原作は松久淳+田中渉 『ラブコメ』(小学館文庫刊)、脚本は石井薫、製作は雨宮俊武&村山直樹、エグゼクティブプロデューサーは塚田俊文&神山隆&斎藤裕弘&八木達雄、企画は博報堂、プロデューサーは春名慶&安藤親広、ラインプロデューサーは安田邦弘、協力プロデューサーは日下部雅謹&梶原富治&森井輝、撮影は大石弘宜、照明は北條誠、録音は山成正己、美術は黒瀧きみえ、編集は今井剛、音楽は高見優、主題歌はWEAVER『僕らの永遠 〜何度生まれ変わっても、手を繋ぎたいだけの愛だから〜』。
出演は香里奈、北乃きい、田中圭、渡部篤郎、中越典子、塚本高史、志賀廣太郎、佐藤二朗、加藤虎ノ介、辺見えみり、江口のりこ、北山雅康、岩田丸、諏訪雅、鈴木アキノフ、新谷良子、小松利昌、田中裕士、uK、三谷翔太、景山栞月、坂本大河、今泉彩良、小谷早弥花、桃瀬ツカサ、くぼたみか、藤木由依、星野真央ら。


松久淳+田中渉の同名小説を基にした作品。
この2人の著作は、かつて2004年に『天国の本屋』とシリーズ3作目『恋火』を組み合わせて『天国の本屋〜恋火』として映画化されており、それに次いで2度目となる。
真紀恵を香里奈、涼子を北乃きい、美晴を田中圭、涼平を渡部篤郎、美津恵を中越典子、江島を塚本高史が演じている。
監督の平川雄一朗と脚本の石井薫は、『そのときは彼によろしく』のコンビ。

KDDIが100%出資で製作し、映画公開に先駆けて携帯向けのショートドラマが配信された。
KDDIとしては、あくまでもau『LISMO!』のキャンペーンの一環であり、映画は配信用プロローグドラマに繋げるためのコンテンツに過ぎず、その内容は「当たればラッキー」という程度にしか考えていなかったのかもしれない。
そんな風にしか思えないぐらい、手抜き感が露骨に見えてしまう出来栄えだ。
ただし、「キャンペーンのための取っ掛かりとしてのコンテンツ」という意味合いが強かったとしても、映画じゃなくてTVの2時間ドラマとして製作した方が効果的だったんじゃないかと思うけどね。

そうなのだ、この映画を見て真っ先に感じるのは、「TVドラマでいいでしょ」ということなのだ。
何しろ冒頭、香里奈が北足立花き市場で競りに参加するシーンからして、もう「まるでTVドラマじゃねえか」という印象を強く感じる。
この仕上がりで映画にするってのは、かなり無謀というか、愚かというか、ともかく賢明な考えとは思えない。
ただし誤解されないように書いておくと、決して「軽いタッチのラブコメだから、TVドラマで充分だ」ということではない。そんなことを言い出したら、「ラブコメ映画」というジャンル自体を否定することになってしまう。

この作品を「TVドラマで充分だ」と感じるのは、商売として成立しないと思うからだ。
なぜなら、「このメンツで同じようなラブコメを2時間ドラマとして製作することは難しいのか」と考えた時に、そうでもないでしょ。
これが派手な爆発やカーチェイスのあるアクション映画とか、特殊効果を使いまくるSF映画なら、「予算的に厳しい」などの理由で、「同じメンツであっても難しいかも」という答えになる可能性はあるだろう。
でもラブコメだと、そういう部分での難しさが生じる可能性は低いでしょ。

ハリウッドのラブコメ映画が「映画」として成立する要因の1つは、「出演しているのが映画俳優だから」ってことだ。
かつて「ロマコメの女王」と呼ばれたメグ・ライアンにしろ、その後に登場したキャメロン・ディアスやリース・ウィザースプーンにしろ、「映画女優」だった。その相手役を務める男優も、やはり映画俳優だった。つまり、同じような作品をTVドラマで見ることは不可能に等しいからこそ、そこには「劇場へ観客を呼び込む訴求力」が生まれていたのだ。
しかし残念ながら、今の日本で「映画俳優」と呼べるような人材は、ほんの一握りしか存在しない。映画で主演を張る俳優は、ほぼTVドラマの世界でも目にすることが出来る。
しかし、「じゃあTVドラマに出演していないような俳優を起用すればいいのか」っていうと、そういうわけでもない。無名の役者では困るわけで。仮に舞台で活躍している人だったとしても、一般的な知名度が低かったら、そこに訴求力は期待できないわけで。

つまりラブコメ映画を作るなら、「知名度や人気は高いけど、ほとんどTVドラマに出演していない俳優」を起用しないとダメってことだ。
そういう条件を踏まえた上で、果たして邦画でラブコメ映画を成立させられる女優って誰がいるんだろうと考えた時に、ちょっと思い付かない。
以前なら宮崎あおいとか蒼井優の名を挙げたけど、最近はTVドラマにも結構出ているしなあ。
そう考えると結局のところ、日本でラブコメ映画を作るってのは相当に難しいってことだ。

それと、これも誤解されたくないので書いておくが、「TVドラマで充分だ」とは感じるけど、「TVドラマなら楽しめる」という意味ではないからね。
TVドラマだとしても、やはり出来栄えは良くないよ。単純にラブコメとしてつまらない。
まずラブコメの「コメ」の部分が弱いと感じる。
一口に「ラブコメ」と言っても、どれぐらい喜劇色を入れるのかと作品によって様々だし、それほど笑いが多くない類の作品もある。
しかしタイトルに「ラブコメ」と付けている割には、ロマンスの方の味付けが濃すぎる。
ジャンルとしてのラブコメということなら特に気にならなかったかもしれないが、それがタイトルになっていると「内容が合っていない」と感じてしまう。

序盤から構成に失敗していると感じる。それは、真紀恵が競りから戻って店で仕事をしている様子を描き、そこに美晴が通り掛かって彼女に気付き、慌てて隠れるという手順。
その流れで「真紀恵が美晴に気付く」とか「涼子が美晴に気付いて真紀恵に知らせる」という展開に繋げるならいいけど、何も起きないまま終わってしまうのだ。
それなら、そこで美晴が真紀恵に気付く手順を入れる意味が無いぞ。
そこで「美晴が真紀恵に気付いて隠れる」というシーンを入れるなら、その後に「西島からの電話を受けた美晴と、花を持って真紀恵が同じ橋を反対方向に歩いているけど、どちらも気付かないまま、すれ違う」というシーンを入れている意味も無くなってしまう。
そこに「すれ違い」を用意するのなら、その前に「気付き」の手順を入れちゃダメでしょ。「すれ違い」を真紀恵と美晴が同じ画面に写る最初のシーンにして、その後に「2人が互いを認識する出会い」という順番にすべきでしょ。

さらに細かいことを言うと、まず美晴が何の仕事をしているのかを示さず、仕事現場の様子を描かない内に「店の前を通り掛かって真紀恵に気付く」という手順に入っていることも失敗だと感じる。
この映画は片方だけをメインにして、一方の視点からのみ恋愛劇を描くわけではない。
真紀恵と美晴の両方から責めて行く形にしてあるんだから、まずは2人のキャラクター紹介と「現在の状況」の描写を処理し、それから「2人の出会い(再会)」のターンへ移ればいいんじゃないかと。
早々と「美晴が真紀恵を見て隠れる」という手順を用意したことが、無駄な焦りに思える。

キャバクラに涼子が到着した時、美晴は花屋のアルバイトだと気付いて焦る。
で、もちろん涼子だって昼間に彼を見ているので、すぐに気付くんだろうと思っていたら、西島が「彼女は昼間、何をしているか」というクイズに付き合う。で、美晴は簡単に「松田花店で働いてらっしゃいますよね」と指摘し、驚いた涼子はようやく昼間に彼を見ていたことに気付く。
いやいや、おかしいだろ。
昼間にハッキリと顔を見ていた涼子がすぐ気付かないのも、バレたくないはずの美晴が簡単に彼女の仕事を指摘するのも、どっちもおかしいだろ。

美晴が西島と涼子から告白するよう求められた時、既に真紀恵は江島と付き合うことを決めている。しかも、そこまでに「江島とは過去に付き合っており、自分の失礼な態度で別れることになったけど今も未練は残っている」といった真紀恵の様子が示されている。
そうなると、もはや美晴に勝ち目があるようには到底思えない。
これが「真紀恵が美晴に好意を抱くようになった辺りで江島が登場する」という順番だったり、あるいは「江島への未練は全く無いけど、酔っ払った勢いでヨリを戻しちゃう」とか、そういうことなら、まだ美晴に勝ち目がありそうな気もするけど。
っていうか、そういう形にせず、「真紀恵が未練の残る江島とヨリを戻した後、美晴が彼女に接触する」という順番にしている意味が分からん。何のメリットも無いと思うんだけど。

真紀恵は美晴に電話を掛けてデートに誘うのは、まるでワケの分からない行動になっている。
江島とヨリを戻したばかりなのに、しかも美晴に対する恋愛感情なんてゼロのはずなのに、なぜなのかと。
デートに誘われて美晴が浮かれるのも、ちょっと理解に苦しむ。美晴は真紀恵が元カレとヨリを戻したことを知っているはずで、「デートに誘われたからって真紀恵と付き合えるわけじゃない」という考えにはならないのか。
ウジウジした性格なのに、そこは「真紀恵と恋仲になれるかも」というポジティブな考えになるのか。
どうもキャラの行動に理解しかねる部分が多いなあ。

真紀恵と美晴が科学館で月の石を眺める際、顔が急接近したので2人が慌てて離れるってのは、やりたいことは分かるのよ。
ただし、それは「互いに少なからず好意を抱いている」ってことで成立するシーンであって。
真紀恵は美晴に対して何の恋愛感情も抱いていないはずなので、そのリアクションは変でしょ。
もしも「既に真紀恵も美晴に好意を抱いている」という設定だとすると、それを表現するための作業が全く足りていない。

真紀恵は江島に未練があり、ヨリを戻して再び付き合い始めたはずなのに、その関係を描くシーンが著しく足りていない。
たまに「真紀恵が江島と会う」というシーンが申し訳程度に挿入されるだけ。
しかも、ホントに「会いました」と事実だけが分かる程度の描写に過ぎず、2人の会話劇が描かれるわけでもなく、会っている時の互いの心情が表現されるわけでもない。
だから、真紀恵が江島に対してどのような気持ちを抱いているのか、交際を続ける中でどのような心情変化が起きているのか、それはサッパリ分からない。

とにかく江島の存在感がチョー薄いので、「いっそのこと、こいつを排除しちゃってもいいんじゃないか」と思ってしまう。
ぶっちゃけ、「真紀恵が江島とヨリを戻した」ってことが、この映画において全く有効に機能していないんだよね。
その要素を排除した上で、「美晴が初恋の相手である真紀恵に再会する」という形にしても、まるで問題は無いんじゃないかと。
で、その上で「真紀恵は美晴が自分を好きだと知ったけど、幼い頃に子分的存在だった相手ということもあって、最初は同じように扱う。
しかし何度も会っている内、気持ちが次第に変化していく」という流れにでもしておけば、江島という障害の必要性なんて消えるんじゃないかと。

江島の登場しないシーンが描かれている間、「真紀恵が江島と付き合っている」という設定が意味のある要素として機能することって、ほとんど無いのよね。
真紀恵は江島と交際していても構わずに美晴を「デート」として呼び出しているし、美晴の方も彼女に恋人がいることなんて全く気にせずに遊んでいる。
そして最初のデートから、前述したように真紀恵は美晴に対して照れるような態度を見せている。
そんな2人の関係ばかり描写すると、「むしろ江島の入る余地が無い」と感じるぐらいだぞ。

映画開始から1時間ぐらい経過した辺りで、ようやく真紀恵と江島のデート風景が描かれ、初めて「江島と会っている時の真紀恵の心情」が表現される。
だけど、それは「美晴と一緒にデートしたルートを真紀恵が辿る」という作業であり、「既に美晴に対する恋愛感情を自覚している真紀恵が、それを確認するための行動」に過ぎないんだよね。
もちろん、そういう手順があってもいい。
だけど江島と過ごす様子をマトモに描くのが、そのシーンしか存在しないってのは明らかに手落ちだわ。

その後、真紀恵に呼び出された美晴が「僕は、いつも真紀恵の恋人のことが気になっちゃう」と言い出すのは、違和感が強い。
それまでのシーンで、美晴が江島のことを気にしている様子なんて一度も無かった。そもそも、彼は真紀恵が江島と一緒にいる様子を見たことさえ無い。「一緒にいる時に江島から電話が掛かって来て、真紀恵が話している様子を見る」ということも無い。
「真紀恵が彼氏の話しても、怒るほど子供じゃないよ。けど、悲しくならないほど大人にもなれない」と美晴は話すけど、真紀恵が彼の前で江島のことを話すシーンも無かったし。
前提条件を全くクリアしていないのに、そういうことがあった上で成立することばかり喋られても「はあっ?」だよ。

真紀恵&美晴だけでなく西島&涼子のカップルについても一応の恋愛劇が用意されているのだが、こちらは前者に輪を掛けてチョー適当な中身になっている。
まず西島が涼子を口説くのはキャバクラで軽い調子だから、本気には見えない。そして、そんな彼と楽しく喋っている涼子も、やはり本気に受け止めているようには見えない。
ところが、元妻が涼太を花店まで迎えに来た時、涼子は顔を強張らせている。
その反応は、「西島に対して本気の感情を抱いている」という風にしか受け取れない。

しかし、そうなると「いつ、どの辺りで、西島を本気で好きになったのか」という疑問が生じる。
その答えはサッパリ分からない。
そこまでに、「涼子の気持ちが本気へと変わって行く」という変遷は全く描かれていなかった。
ってことは最初から本気だったと解釈せざるを得ないんだけど、「最初から本気で惚れている」と観客に感じさせるような描写も全く無かったぞ。

(観賞日:2015年5月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会