『ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE』:2016、日本

九州ほどの大きさに、バス路線が網目のように張り巡らされたバス王国の台湾。太川陽介と蛭子能収は初の海外である台湾に上陸し、旅に対する意気込みを語る。蛭子は感動の場面も作ろうと言い出し、太川は賛同する。今回のマドンナである三船美佳は初めての台湾であり、楽しそうな様子を見せる。しかし台風21号が台湾に接近しており、出発前から雨が降っていた。3人は地図を広げ、旅のルートを確認する。スタート地点は台湾最大の都市である台北で、最南端のガランピ灯台がゴールだ。
今回の旅に向けて蛭子は「バス停はどこですか」という中国語だけは覚えてきており、太川は質問のためのカードを用意している。旅は3泊4日で、撮影交渉も自分たちで行う。移動はローカル路線バスのみを使用し、他の交通機関の利用は禁止されている。目的地へ向かうルートは自分たちで決め、インターネットによる情報収集は認められない。2005年9月27日、3人は台北から旅を開始する。南の桃園へ向かうことにした3人は、駅のインフォメーション・センターへ行く。しかし桃園へ行くバスは全て高速道路を通ることが判明したため、板橋を経由するルートを使うことにした。
3人はバス停へ行き、時刻表が無いことに困惑させられる。事前に3人は台湾のICカードを渡されており、ほとんどのバスに乗れるようになっている。午前8時35分、3人は最初のバスに乗り、台北を後にした。太川は西側のルートを選び、大都市を経由してゴールしようと計画している。大量のスクーターが走る台北中心部を離れ、バスは板橋に到着した。3人はバスターミナルへ行くが、高速専用だと知る。有力な情報が得られず、3人はバス停の路線図を調べた。南へ向かうルートを見つけた3人はバスの運転手に質問し、終点の永寧で下車すれば乗り継げると知った。
3人は永寧でバスを降り、すぐに次のバスへ飛び乗った。しかし高速道路に入ってしまったため、ルール違反で永寧まで戻る羽目になった。初めての食事を菓子で済ませた3人は、高速に乗らないことを確認して大渓行きのバスに乗る。大渓から次のバスで移動した3人は、昼食に餃子を食べてから揚梅へ向かう。そこから新竹に移動した3人は、台中へ向かうバスを探す。しかし全て高速を使うことが分かったため、苗栗を経由することにした。
3人を乗せたバスが苗栗に到着すると、もう20時半になっていた。もうバスが無かったため、3人は翌朝に大甲行きが出ることを確認する。しかし3人は通訳から、明日は台風でバスが運行できない可能性もあると聞かされる。22時には運行に関する情報が出るため、3人は待つことにした。3人は街で一番のホテルにチェックインし、近くの店で夕食を取った。しばらくするとスタッフが来て、明日はバスが動くことを知らせた。
2日目。3人は苗栗を出発し、大甲に到着した。朝食に台湾素麺を食べた後、3人は近くの寺院を見物してから豊原へ向かった。豊原から台中に移動した3人は次のルートを調べ、草屯を経由して南投へ向かうことにした。3人はバス停の近くで昼食を取ってから出発し、バスに乗り込んだ。草屯に到着する頃には、かなりの強風が吹き始めていた。 南投からは斗六へ向かおうとするが、バスが無かったので員林から南下することにした。
員林に到着した3人は、そこから嘉義へ向かおうとする。しかし最後のバスは10分前に出発したばかりで、それ以降は天候悪化で運休となっていた。その日も夜の10時になると翌朝の運行状況が発表されると知り、3人は待つことにした。ビジネスホテルにチェックインした3人は、近くのレストランで台湾風しゃぶしゃぶの夕食を取った。そこへスタッフが現れ、翌日はバスが運休することを知らせた。そこで3日目は朝8時から行動を開始し、出発できる時に向けて準備することにした…。

演出は鹿島健城、構成は釜澤安季子、製作は福田一平&藤岡修&松本篤信&坂本健&坂東浩二&大島信彦、プロデューサーは越山進&能登屋重男&五箇公貴&遠藤英幸、テクニカルプロデューサーは市川精也、チーフカメラマンは高橋一博、音声は山田亮佑、エディターは渋谷泰貴、音楽監督は遠藤浩二。
主題歌「人生という旅」作詞:きたやまおさむ、作曲:杉真理、編曲:坂本昌之、歌:由紀さおり。
出演は太川陽介、蛭子能収、三船美佳。
ナレーターはキートン山田。


テレビ東京系列の『土曜スペシャル』でレギュラー企画として放送されていた旅番組の劇場版。
。テレビ番組は2007年10月20日から2017年1月2日まで全25回に渡って放送され、レギュラー陣が交代して『ローカル路線バス乗り継ぎの旅Z』に引き継がれた。
劇場版でも当然のことながら、レギュラーの太川陽介と蛭子能収が登場。マドンナとして、三船美佳が参加している。
テレビ版にも参加している鹿島健城が演出を担当。映画版では主題歌として、由紀さおりの『人生という旅』が採用された。

テレビ局が人気ドラマを映画化することは、もはや当たり前の出来事になった。今では、ちょっと人気が出たドラマやシーズン2まで製作されたドラマは「ああ、こりゃ映画化の可能性もあるな」と思ってしまう程だ。それどころか、あまり視聴率が高くないドラマが映画化されることもある。最初から映画化まで含めての企画というケースもあるしね。
ともかくテレビ局が稼ぎを得る手段として、「ドラマの映画化」ってのが重視されるようになっているのだ。
で、それに飽きたらず、バラエティー番組やコント番組まで映画化するようになった。例えばテレビ東京であれば、『ゴッドタン』の「キス我慢選手権」を映画化したりするようになった。
そもそも低予算で製作している上、たぶん興行収入がパッとしなくてもDVD販売まで含めて稼ぎが出ればOKという考えなんだろう。
そして、とうとう旅番組にまで手を出すようになったわけだ。

TVシリーズは初回放送から少しずつ人気が広まり、翌年からは年に2回の放送に格上げされた。2011年は年3回になり、視聴率も二桁をコンスタントに叩き出す人気番組へと成長した。2014年1月4日の放送では、他の各局が正月特番を組む中で同時間帯の視聴率トップを記録した。
ゴールデンタイムでも一桁が当たり前のテレビ東京にとっては、大ヒット番組と言える。
そんなコンテンツだから、テレビ局が積極的に活用したくなるのは良く分かる。
ただし、「だからって映画はねえだろ」と言いたくなる。

映画になっても、やってることはTVシリーズと全く一緒である。
いつものように太川陽介と蛭子能収が登場し、しばらく喋ってから今回のマドンナ(ゲストの女性タレント)である三船美佳が紹介される。
3人でルートを確認し、ナレーターのキートン山田が旅のルールを説明する。
いつもと同じルールで、いつもと同じように撮影し、いつもと同じような旅が繰り広げられる。
映画ならではの特別な仕掛けや演出など、何も用意されていない。

しかし『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』においては、「いつもと同じ」ってのは決して悪いことではない。
映画版だけの特別ルールを用意したり、旅に出るメンバーを増員したりすれば、いつものTVシリーズとの差別化は図れるだろう。しかし、それは番組のファンからしてみれば「そんなのは『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』じゃない。ワシが見たいのは、そういう旅じゃない」ってことになるはずだ。ある意味でのマンネリズムや予定調和こそが、番組の魅力だからだ。
「いつもと同じでは映画版の意味が無いし、でも何か変えてしまうとファンの不評を買う可能性が高い」というジレンマが、そこにあるわけだ。
ってことは、ようするに「そもそも映画化するのが間違い」ってことなのよ。

TVドラマを映画化する場合、海外ロケによってゴージャス感をアピールしようとすることもある。
この映画も日本を飛び出して初めて海外での旅になっており、そこで「映画ならでは」のスペシャル感を出そうとしているんだろう。
しかしテレビ番組であっても、海外ロケをするコンテンツなんて幾らでも存在する。海外で観光地を巡ったり美味しい物を食べたりする番組なんて、それこそ山のように作られている。
なので、そこに「映画にする理由」としての説得力など何も無い。

『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』というコンテンツを考えた場合、海外でロケをする意味もメリットも全く見えて来ない。
むしろ、言葉が通じないという余計な問題が、マイナスに作用している。
旅に困難があるのは別にいいのだが、そういう原因は要らないでしょ。
しかも、三船が英語を話せるし、通訳も付いているので、「言葉が通じないせいでトラブルやピンチに見舞われる」というトコで機能しているわけではない。
ただ単に、「現地の人々との触れ合いが普段の旅と違う」という微妙な問題が起きるだけ。

あえてスペシャルな要素を挙げるなら、「台風直撃によるバスの運休」というハプニングだ。
しかし、これはあくまでも偶然の産物であり、製作サイドが映画版のために用意した趣向ではない。
それに、そのハプニングは「映画ならでは」というモノでもない。ずっと放送されているTVシリーズだったとしても、無いとは言えない出来事だ。
繰り返しになるけど、この作品の批評って、とどのつまりは「映画にする必要性が全く無い」ということに尽きるのよね。

(観賞日:2017年10月13日)

 

*ポンコツ映画愛護協会