『ライアー×ライアー』:2021、日本

20歳で大学生の高槻湊は、渋谷の歩道で義弟の透と遭遇した。その時、湊はギャル風のメイクでウィッグを被り、高校生の制服を着ていた。遡ること数時間前。潔癖症の湊は目覚まし時計で起床し、鏡の汚れが気になって拭き取った。彼女は母のひとみが再婚したことで、継父・紀行の連れ子である透と姉弟の関係になっている。ひとみから透を起こすよう指示された湊は、渋々ながら部屋へ向かう。透がドアを開けたので、湊は頭をぶつけて痛がった。透が全く心配せずに「邪魔」と疎ましそうに言うので、湊は腹を立てた。
親友である野口真樹の元へ出向いた湊は、透への苛立ちを吐露した。モテモテで女癖が悪い透のせいで、湊は中学でも高校でも周囲の女子から仮想敵国扱いされた。その日、湊は真樹から撮影モデルのバイトを頼まれていた。真樹が用意したのがギャル高校生のファッションだったので湊は嫌がるが、仕方なく撮影を始めた。真樹が小物がを探しに行っている間に、湊は透とぶつかった。コスプレ趣味のイタい姉と思われたくない湊は、咄嗟に別人を装った。無理があるかと思った彼女だが、透は人違いだと認識して謝罪した。
透は湊の写真を撮り、携帯番号やラインの交換を持ち掛けた。湊が「親が厳しいから携帯は持っていない」と嘘をつくと、透は自分の番号を紙に書いて湊に渡した。彼は「気が向いたら連絡して」と言い、その場を去った。湊は真樹に話している間に、だんだん腹が立って来た。夜、家族で夕食を取っている時も、その苛立ちは残ったままだった。ひとみが「この潔癖に付き合うのも大変ね」と話すと、透は無愛想に「そういう性癖だと思ってるし、仕方ないんじゃないの」と告げた。
透の言葉に憤慨した湊は、公衆電話から透に電話を掛けた。すると透は、「電話くれてマジで嬉しい。くれなかったらどうしようと思っていた」と静かに感激した。彼は「今度遊ぼうよ、渋谷で」と誘い、湊は待ち合わせの約束を交わした。彼女は真樹にギャルメイクをしてもらい、透の元へ赴いて「ドッキリ大成功」と正体をバラすつもりだった。当日、湊は先に待ち合わせ場所に来ていた透を隠れて観察し、どれぐらい待てるのか様子を見た。すると30分が経過しても待ち続け、女性に逆ナンされても「今、待ち合わせ中」と冷たく断った。彼は1時間が経っても待ち続け、また逆ナンされて断った。
湊は透が可哀想になり、彼の元へ赴いた。湊は「遅れてごめん、怒ってるよね」と言って正体をバラそうとするが、透に「俺も結構遅れて来たし」と告げられ、タイミングを逸した。透は湊を連れてカフェに入り、連絡用にスマホをプレゼントした。「携帯代は俺が出すから。一緒に遊んでて合わないと思ったら突き返してくれればいいから」と言われ、湊は困惑する。「俺と友達になってよ」という透の言葉に、湊は「困るって」と焦った。透が「名前聞いてなかったね」と告げると、湊は取っさに「ミナ」と答える。美樹から借りた鞄に「野口」と書いてあったので、透は「野口ミナ」だと思い込んだ。
美樹は湊から話を聞いて大笑いし、「透くんって無類のギャル好きなんじゃない?」と口にする。彼女は女癖を直すチャンスではないかと言い、湊が「どうすんの?」と尋ねると「惚れさせんのよ。あっちが好きでたまらなくなった時に、こっぴどく振って痛い目に遭わせてやんの」と答えた。湊は透とカラオケに行き、「私のこと、どう思ってんの?」と尋ねた。「好きだって言ったら、嫌か?付き合おうって言ったらダメか」と透が語ると、彼女は「すごく遊んでそうだし」と告げる。透が「相手を全部切ったら付き合ってくれる?」と言うと、絶対に無理だと確信した湊は「切ったらね」と約束した。
翌日から透は、顔に傷を作って帰宅するようになった。どんどん傷が増える中、彼が本気で関係を切ろうとしているのだと確信した湊は焦りを覚えた。そんな中、透はミナに電話を掛け、「明日、会えるかな。ちゃんと話したいことあるから」と告げる。次の日、湊がミナとして会いに行くと、透は「関係切ったよ。携帯のアドレスも消去した」と語る。「これで付き合えるよね?」と言われ、湊は返答に困る。彼女の様子を見た透は「うなずいた」と誤解し、OKだと思って大喜びする。その顔を見た湊は、否定できなくなった。
翌日、大学の食堂で湊から話を聞いた真樹は、「馬鹿じゃないの」と呆れ果てた。彼女は湊に、上手く逃げて自然消滅を狙うよう忠告した。透は同じ南青山大学に通っているが、湊が半径10メートル以内に近寄らないよう約束させたので、決して近付こうとはしなかった。湊は日本史研究同好会に入っており、会長の川西純太や仲間たちから今夜の予定について確認される。湊は全く覚えておらず、川西に東奥大学との交流会だと言われて思い出した。交流会に参加した湊は、小学校時代に塾が一緒だった烏丸真士と再会した。2人の会話は弾み、湊は烏丸に家まで送ってもらった。
湊は烏丸から「もし良かったら、今度2人で飲みに行かない?」と誘われ、すぐにOKした。そこへ烏丸透がバイトから帰宅し、すぐに家へ入った。烏丸から今のは誰かと訊かれた湊は、親の再婚で暮らすようになった弟だと説明した。烏丸と別れて家に入った湊は、玄関に透が立っていたので驚いた。透に「今の彼氏?」と問われ、湊は動揺する。「男に興味ないと思ってたから」と言われた彼女は、「アンタに関係ないでしょ」と口を尖らせた。
湊がひとみの前で透への苛立ちを吐露していると、烏丸から「今日は会えて嬉しかった」とメールが届く。湊が頬を緩ませていると、ミナ宛てに電話が入った。湊は慌ててミナ用のスマホを取り出し、洗面所に駆け込んだ。透に「今度いつ会えるかな。早く会いたい」と言われ、「明日って空いてる?連れて行きたいトコあるんだ」と誘われた彼女はOKする。洗面台を出ようとした湊は、スマホの2台持ちを見た母から「怪しいバイトとかしてないよね」と心配されて否定した。
次の日、透はミナを連れて水族館へ出掛けた。彼がヤドカリを好きだと知った湊は姉として思い出を話してしまい、慌てて誤魔化した。彼女が「今まで何人も彼女いたわけじゃない?それって全て遊びだったんでしょ。どうせ私のことも遊びなんだよね」と言うと、透は「何、その決め付け。ホントに好きな人とは付き合ったことないよ。ミナが初めてだよ。だからホントに嬉しい」と笑顔を見せた。彼は不意にミナを抱き締め、「すっごい幸せ」と手を繋いで歩いた。
湊は真樹に、「あいつのこと、勘違いしてたかも。実は昔と変わらず、純粋でいい奴なのかもって」と話す。「じゃあこのまま野口ミナとして付き合う?」と質問された彼女は、「いや、それは有り得ないでしょ」と即答する。真樹は早くミナを卒業するよう忠告し、「どうやって卒業すれば?」という湊の問い掛けに合コンをセッティングしたことを語った。合コンに透を呼び、大好物のギャルを呼んで浮気させるというのが真樹の作戦だった。
湊は真樹と共に、ギャル3人と一緒にいる透を近くの席から観察した。真樹がミナのスマホで「今何してるの?」とメールを送ると、すぐに「人数合わせの合コン中。すぐ帰るつもりだよ。事後報告でごめん」と正直な返信が届いた。そこで真樹は嫉妬心剥き出しのメールを送り、嫌われようと目論む。しかし透は「帰る。彼女が待ってる」と店を去り、ミナに「会いたい」とメールを送った。その一途な対応に真樹は「負けた」と漏らし、後を湊に任せて去った。
湊がミナとして会いに行くと、透は抱き締めてキスしようとする。湊は慌てて突き放し、「公衆の面前では無理だから」と言う。すると透はアパートの合鍵を渡し、「独り暮らしを始めるから、いつでも遊びに来て」と誘った。湊は烏丸と居酒屋に出掛け、一緒に飲んだ。彼女が何度もテーブルを拭くのを見て、烏丸は「前からそうだったっけ?」と尋ねる。湊は「小学生の頃は、そうでもなかったけど」と答え、「何かきっかけがあった?」と質問されて回想した。
中学時代、帰宅した湊は、女子の靴を発見した。すると透の部屋から深田先輩が出て来て、彼女に挨拶して去った。湊は透に呼び掛けて、部屋のドアを開けた。すると裸の透が下半身をシーツで隠し、ベッドで座っていた。それを見た湊は漠然と「汚い」と感じ、それが潔癖症のきっかけになった。そして、それは透の女関係の始まりでもあった。烏丸は湊を家まで送り、「良かったら付き合ってほしい」と交際を申し込んだ。湊が動揺していると、彼は「返事は今じゃなくてもいいから、考えてみてほしい」と告げた。
湊は真樹に電話で相談し、弟と早く別れて烏丸と付き合うよう言われる。彼女は即答できず、真樹に「何をそんなに迷ってんの。「まさかと思うけど、本気になってないよね、弟くんに」と指摘される。湊は否定するが、動揺は隠せなかった。透が引っ越す日、親友の桂孝昭が荷物を運び出す手伝いにやって来た。彼は湊に、「親友の自分にも恋人を会わせてくれない。正真正銘、本物の恋だ」と話す。さらに彼は、「色んな女と付き合って来たけど、結局、誰のことも好きになれないで可哀想だった」と述べた。
ミナのスマホに透から「いつでも遊びに来て」がメールが届き、湊は彼の心を弄ぶようなことをした罪悪感に苛まれる。真樹の助言を受けた彼女は、遠距離恋愛という名目で関係を自然消滅させようと考える。湊はミナとして、透のアパートへ赴いた。透は遊びに来ていた桂を帰らせ、湊と2人になる。湊は「急に親の転勤が決まって、家族で南米のエクアドルに引っ越すことになった」と嘘をつき、それを理由に別れを切り出した。透は「戻って来るまで待つよ」と食い下がるが、彼女は「遠距離なんて私が無理。別れて」と言う。透は「別れたくない」と泣き出し、湊を抱き締めて「ミナが好きだ」と口にする。湊は彼に謝り、「私も透が好きだよ」と言う。「初めて好きって言ってくれた」と透が語ると、彼女は「好きじゃなきゃ付き合わないでしょ」と返した。
日本史研究同好会では会誌の『つはもの』を製作する時期が訪れ、今年は東奥大学と合同で作業をすることになった。烏丸は湊の元気が無いと気付き、理由を尋ねた。湊は「私のせいで、大切な人を傷付けちゃったから」と話し、付き合えないと言おうとする。烏丸は彼女を抱き締め、「大丈夫になるまで待つよ」と告げた。湊は彼と交際を始めるが、気持ちは晴れないままだった。桂から透と連絡が取れないと聞いた湊は、ミナのスマホが解約されていないことを知った。彼女は透の部屋へ行き、ドア越しに呼び掛けた。声を聞いてミナだと思った透は顔を出すが、湊だと知ると「用が無いなら帰って」と冷たく追い払った。
『つはもの』完成お披露目会が部室で開かれ、部員たちは仮装して集まった。湊は烏丸を外へ呼び出し、「他に気になる人がいるんです」と謝った。烏丸は「何となく分かってたから」と言い、別れを受け入れた。湊はミナの姿になり、透の部屋を訪れて「帰って来たよ」と言う。大喜びする透に、湊は親戚の叔母の元で暮らすことになったと嘘をつく。透がキスしようとするので、彼女は慌てて「外だから」と告げる。「泊まって行くでしょ」と言われた湊は、「とりあえず顔出しに来ただけだから」と立ち去った。
湊は透とのデートを重ね、彼の部屋で一緒に過ごすことも増えた。彼女が自分と似ている知り合いについて訊くと、透は「あんま喋りたくない人」と不機嫌そうに答えた。透の中に自分がいないことに、湊は悲しさを覚えた。湊がミナの姿で透とデートする姿を、烏丸が目撃した。烏丸は大学で湊と会い、家まで送る。「好きな人と上手く行ってる?」と問われた湊は、「どうだろ?私じゃダメかな」と口にした。そこへ、ひとみが透を伴って買い物から帰宅し、烏丸を誘って一緒に夕食を取ることになった。
夕食の時、烏丸は透に「弟さんは、彼女と最近どうなんですか?この前、渋谷で見たんですよ。彼女といる所」と問い掛けた。すると透は彼を睨み付け、廊下へ連れ出した。「余計なこと言うなよ」と彼が凄むと、烏丸は「どうして、彼女の話、しただけだけど?」と何食わぬ顔で言う。湊が気になって様子を見に行くと、透が烏丸の胸座を掴んでいた。「何してんのよ」と湊が咎めると、透は立ち去った。烏丸が帰ろうとすると、湊は説明したいことがあると告げて一緒に外へ出た。
湊は烏丸に、「弟のフリして弟と付き合ってるんです」と打ち明けた。彼女が簡単に事情を説明すると、烏丸は姉と弟の関係であることを確認する。その上で彼は、「ちょっと理解できないかな。俺は妹いるから余計そう感じるっていうか。もし妹が自分のこと、そう思ってるって考えると、気持ち悪いなって」と口にした。彼は他言しないことを約束するが、「ちょっと、応援は出来ないかも」と告げる。自分の恋心が気持ち悪いと言われたことに、湊はショックを受けた…。

監督は耶雲哉治、原作は金田一蓮十郎『ライアー×ライアー』(講談社「KCデザート」刊)、脚本は徳永友一、製作は佐野真之&藤島ジュリーK.&竹中幸平&角田真敏&弓矢政法&吉田尚子&奥村景二&加太孝明、エグゼクティブ・プロデューサーは豊島雅郎、プロデューサーは田辺圭吾&明石直弓、ラインプロデューサーは中島勇樹、撮影は豊納正俊、照明は小林暁、録音は竹内久史、編集は武田晃、音楽は遠藤浩二、主題歌『僕が僕じゃないみたいだ』はSixTONES。
出演は松村北斗(SixTONES)、森七菜、小関裕太、堀田真由、七五三掛龍也(Travis Japan / ジャニーズJr.)、相田翔子、竹井亮介、板橋駿谷、仙石みなみ、秋谷百音、木内舞留、松田紗和、小西はる、渡辺梨世、西田圭李、菅田愛貴、藤本ばんび、十條莉緒、星乃明日美、青山愛依、小高サラ、北村優衣、早川あひる、奥森皐月、清水詩音、若林萌々、茜子、鈴木ユリア、川原瑛都、三上さくら、垂水文音、川尻拓弥、青木俊輔、寺神大輔、柴田達成、星直実、秋葉玲花、及川詩乃、小針隆太、小関悠太、瞭、平野幸、尾崎栞、村田凪、飯田寅義、中元寺大輔、二村仁弥ら。


『デザート』で不定期連載されていた金田一蓮十郎による同名少女漫画を基にした作品。
監督は『MARS〜ただ、君を愛してる〜』『暗黒女子』の耶雲哉治。
脚本は『かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜』『カイジ ファイナルゲーム』の徳永友一。
透を松村北斗、湊を森七菜、烏丸を小関裕太、真樹を堀田真由、桂を七五三掛龍也、ひとみを相田翔子、紀行を竹井亮介、川西を板橋駿谷が演じている。

湊がギャル風の格好でモデルのバイトをしなきゃいけない理由が、イマイチ良く分からない。彼女とぶつかった透が、瓜二つの別人だという嘘を簡単に信じるのはバカバカしい。透に腹を立てた湊が別人として電話を掛けるのは、かなり無理のある展開だ。
しかし、こういう導入部の描写によって、この映画を観賞する上での大切なポイントがハッキリと分かる。
ようするに、あらゆる不自然さや強引さを寛容に受け入れることが必要不可欠ってことだ。
そこのハードルを越えないと、この映画を楽しむことは出来ないってことだ。それって、かなり難しい作業だ。少なくとも、私のような器の小さいボンクラには無理だった。

漫画の場合、設定や展開に不自然さや強引さが多く含まれるケースは、決して少なくない。しかし大抵の場合、「漫画だから」ってことで特に問題もなく受け入れることが出来てしまう。
アニメ化された場合も、そこのハードルは基本的に変わらない。
だが実写になると、全く同じというわけにはいかない。
それでも、上手く突破する方法はある。最も分かりやすいのは、漫画から内容やテイストを変えることだ。
また、逆に荒唐無稽に振り切ることで、観客を世界観に引き入れる方法もあるだろう。

他にも、例えば役者の演技力や説得力に頼る方法もあるだろう。
この映画の場合、主要キャストが新人なので、役者の力に頼る方法は最初から完全に排除しておかないといけないだろう。
それでも、まだ映像のケレン味、話の勢い、キャラクターのパワーに引っ張ってもらうなど、方法は色々と考えられる。
しかし残念ながら、この映画には何も無いのだ。これといった工夫も凝らさず、ただ漫然と漫画を実写化しているだけなのだ。

たぶん序盤の段階で、「ホントは透が湊に惚れている」ってことに多くの観客が気付くだろう。そこは分かりやすさが強すぎる予定調和だが、そんなのは一向に構わない。
ところが厄介なことに、その程度のことを受け入れるだけでは、まるで足りていないのだ。
そして色々なことが軽薄だし、色々なことが安っぽい。
もっとコメディーに振り切っていれば、少しは何とかなったかもしれない。
でも、かなりマジなトーンが強いので、良くも悪くも誤魔化すことが出来なくなっている。

湊が大学生なのは冒頭のナレーションで説明されているが、実際に大学生としての彼女を描くのは、開始から20分以上が経過した食堂のシーンが初めてだ。そして大学生としての活動は、その次の交流会シーンが初めてだ。
だから大学生としての湊を描いた途端、すぐに烏丸と再会する展開に入る形になっている。
これは構成として、ものすごく不細工だ。
真樹は大学の親友なんだから、彼女と話すシーンは全て「大学生としての湊」を描く目的と並行して処理しておけば良かったんじゃないかと。

湊が日本史研究同好会のメンバーってのも、烏丸と再会するシーン以外では無意味と化しているので、かなりカッコ悪い。
湊は交流会(という名の飲み会)で「日本の城巡りが趣味」と自己紹介しているけど、そういう趣味を言動で示すシーンは皆無だし。
で、ここで登場した烏丸を恋のライバルとして配置し、三角関係を描こうとしているのだが、これも完全に失敗しているのよね。
「湊が烏丸に好意を寄せる」ってのは申し訳程度に描くけど、実質的に湊は透しか見ていない。なので烏丸は、恋のライバルとして全く機能していない。

それでも烏丸はマシな方で、桂はもっとドイヒーだ。
彼は湊の親友というポジションにいるキャラクターだが、引っ越しのシーンで初めて登場する。これだけでも、キャラクターの出し入れとして完全に失敗していることは断言できる。
それ以降も、彼が存在意義を発揮することは皆無だ。彼はミナの格好をした湊を見て「湊」と認識するが、すぐに透が「ミナ」と説明すると受け入れる。
その後、桂が透より先に、ミナの正体に気付くような展開も無い。そして透と湊恋愛劇において、何かしらの役目を果たすことも無い。

「合コンで卒業」という計画は、最初から失敗が目に見えているのでバカにしか思えない。
「透がギャル好き」というのが決め付けなのは、最初から分かり切っているし。「ホントに好きなのはミナだけ」ってのが、明らかにされているからね。
いや、それが分かった上で用意しているイベントなのは、百も承知なんだよ。
だけど味付けが下手だから、喜劇としても恋愛劇としても、つまらないだけのエピソードになっちゃってるのよ。

透が自分と瓜二つのミナにベタ惚れするんだから、湊は「彼は自分のことが好きなんじゃないか」と容易に想像できるはず。
それなのに、「透はギャルが好きなだけで、自分のことは嫌っている」と思い込んだままで話が進むので、その無理筋には乗っていけない。
その苦笑せざるを得ないくらい無理があり過ぎる設定を受け入れないと、ヒロインの悲しみや切なさに共感できないように出来ているのよね、この話って。
そりゃあ、相当に厳しいモノがあるよ。

後半に入って透がミナに別れを切り出す時に、本当は瓜二つの女性に惚れていて、その身代わりにしていたことを謝罪する。その上で彼は、その瓜二つの女性について「死んだ」と言う。これが嘘だと湊は全く気付かず、素直に信じ込む。
これには「いやテメエのことだよ。なぜ気付かないんだよ」と呆れるし、ちょっとイライラする。
そういうのが恋愛劇の「じれったさ」として、ちっとも成立していないのよ。
だから、ちっとも歓迎できない要素になっちゃってるのよ。

(観賞日:2022年9月17日)

 

*ポンコツ映画愛護協会