『ラプラスの魔女』:2018、日本

羽原円華は、10歳の頃の夢を見た。彼女は母の美奈と自転車で湖へ向かう途中、竜巻に遭遇した。美奈は円華を屋内に避難させるが、自分は竜巻に飲み込まれて死亡した。泰鵬大学教授で地球化学を教えている青江修介は、赤熊温泉の調査を依頼された。施設職員と共に現場へ赴いた彼は、温泉から湧き出る硫化水素の数値を調べた。映画プロデューサーの水城義郎が死体で発見され、微量の硫化水素が検知されたため、現場は立入禁止区域となっていた。
温泉の営業を懸念する職員は、一刻も早く安全宣言が欲しいと青江に訴えた。そこへ円華が現れて「死体があったのって、そこ?」と質問するが、職員に注意されると立ち去った。温泉の関係者と会った青江は、硫化水素が致死量に達する可能性は限りなくゼロだと説明した。水城は自殺だったのかと問われた彼は、「屋外では硫化水素の濃度を保つことが出来ません」と否定した。警視庁麻布北署の中岡祐二が姿を見せ、第三者が被害者に硫化水素を吸わせた可能性について尋ねた。すると青江は殺人の可能性を全面的に否定し、あの場所で硫化水素の濃度を保つことは不可能だと断言した。具体的な死因を問われた彼は、「まだ何とも」と告げた。
青江が視線を移すと、円華がロビーのソファーに座って地図を見ていた。その近くにいた少年は、飲んでいたジュースのペットボトルを落としてしまった。円華がテーブルに置いてあったスマホの位置を少しだけ変えると、そこを避けるようにジュースは流れた。青江は大学に戻るが、まだ温泉の問題が引っ掛かっていた。助手の奥西哲子からは、早く本業に戻るよう求められる。水城が亡くなったのは、妻の千佐都がカメラのバッテリーを取りに旅館へ戻っている間の出来事だった。水城は著名な映画プロデューサーであり、千佐都には多額の遺産が入ると噂されていた。
青江は中岡からの電話を受け、再び赤熊温泉へ出向いた。前回とは遠く離れた場所で、那須野五郎という男がベンチに座ったまま死んでいるのが発見されたのだ。死因は硫化水素中毒であり、わずか1ヶ月で似たような事件が起きたことについて中岡は「単なる偶然の事故死と言えますか」と問い掛ける。那須野は温泉街の入り口付近で、若い女性の運転する車から降りる様子を目撃されていた。女性は帽子とサングラスを付けていたため顔は分からなかったが、中岡は千佐都だと睨んでいた。那須野は売れない俳優であり、中岡は「水城と繋がりがあってもおかしくない」と千佐都による連続殺人だという見立てを青江に語った。
旅館に宿泊した青江が円華の侵入に気付いた直後、武尾徹と桐宮玲という2人が訪ねて来た。桐宮は「若い女性が来ませんでしたか。家出したお嬢さんを捜しております」と言い、武尾は円華がベランダから逃亡した形跡を発見した。武尾と桐宮が去った後、屋内で隠れていた円華は「事故現場へ連れてってほしいの」と青江に告げる。目撃証言を思い出した青江は、彼女が犯人ではないかと疑った。彼の考えを見抜いた円華は「私が犯人なら、わざわざ場所を訊かないでしょ」と口にした。
現場を見たい理由を問われた円華は、「人を捜してる。大切な友達。どうしても見つけたい」と述べ、スマホで青年の写真を見せた。青江は地図を描き、自分で行くよう促す。しかし下手だったため、仕方なく案内を引き受けた。水城が中岡は那須野の出演作に関わっていないことを知るが、甘粕才生という監督の作品を何本も手掛けていることに着目した。那須野は甘粕の作品に出演しており、彼を介せば2人が繋がると考えたのだ。甘粕は百年に一度の天才と称され、数々の賞を獲得した男だった。観客に媚びない突出したテーマ性の強さを持つ監督だが、現在は行方不明になっていた。
円華は現場に到着すると、硫化水素が流れて来た場所について推理する。「夏場から、こんなことにならなかったのに、地熱で上昇気流が発生して、ガスが拡散しちゃうもんね」などと彼女が詳しく語るので、青江は驚いた。「君は何者なんだ?」と青江が質問すると、円華は「魔女。ラプラスの魔女」と答えた。すぐに青江は、フランスの数学者であるピエール=シモン・ラプラスを連想した。ラプラスは18世紀の数学者で、「ラプラスの悪魔」を提唱した人物だ。ラプラスの悪魔とは、未来の状態を完全に予知できる能力のことだ。
青江は研究室に戻り、円華の予知能力について考えを巡らせた。そこへ中岡が現れ、「先生の考えをお伺いしたい」と言う。甘粕が47歳の時、長女の萌絵が自宅で硫化水素による自殺を図った。巻き込まれた妻の由佳子と萌絵が死亡し、甘粕は映画の撮影で不在だったため無事だった。中岡は青江に甘粕のブログを見せ、事故から1年間は更新されていたと教える。長男の謙人も事故に巻き込まれたが、一命を取り留めていた。
甘粕は刑事から娘が自殺する動機について心当たりを問われ、「あるわけないだろ」と怒鳴った。意識不明の重体に陥った謙人に対し、彼は謝罪の気持ちをブログに綴っていた。謙人は意識を取り戻すが、右手の薬指しか動かせない状態だった。主治医は謙人が指を動かす回数によって、「イエス」「ノー」「分からない」という合図を決めた。主治医は甘粕に、謙人は自分に関する記憶が抜け落ちているのだと説明した。甘粕は専用のコンピュータを使って会話するが、謙人は消極的な反応だった。「もうここへは来ない方がいいかな?」という問い掛けに、彼は「ドッチデモイイ」と打ち込んだ。これを受けて、甘粕は謙人と距離を置くことにした。
ブログを読んだ青江は中岡から感想を問われ、「今回の件と、どう関係があるんです?」と言う。すると中岡はある仮説を立てれば筋が通るのだと告げる。甘粕は興行的に失敗した作品も多く、水城は多額の借金を背負わされていた。そのせいで彼は家族とも離散するためになったが、一方で甘粕は家族への愛を周囲に語っていた。そこで甘粕に恨みを抱き、家族の殺害を那須野に実行させた。それに気付いた甘粕が、2人に復讐したというのが中岡の仮説だった。
青江が「人為的に硫化水素中毒を起こすことは不可能です」と指摘すると、彼は千佐都が手伝ったのではないかと食い下がった。青江は「有り得ません。あんな場所でガスが狙い通りに流れる可能性は、ほぼゼロです」と告げるが、中岡は「ということは、ゼロではない」と満足して立ち去った。改めて甘粕のブログを見た青江は、彼が円華の捜している青年に似ていると感じた。青江は円華に電話を掛けて質問し、捜している相手が謙人だと知った。
全て話すよう青江が求めると、円華は庭園に呼び出した。彼女は「こないだの借りがあるから特別に教えてあげる。だから、これ以上は関わらないで」と言い、ドライアイスのガスが流れる場所を計算できる特殊能力を披露した。そこへ武尾と桐宮が数名の部下を率いて現れ、青江と円華を包囲した。桐宮は「一緒に来ていただけますか」と青江に言い、開明大学病院へ案内する。そこには円華の父である脳神経外科医の羽原全太朗が待っており、手術から3年後の謙人の映像を見せた。謙人はサイコロを振った直後に生じる重力や空気抵抗などを全て瞬時に計算し、出る目を確実に予測する能力を発揮していた。
羽原は「私たちは誰もが、この力を手に入れることが出来る可能性を持っている」と語り、健常者に同じ施術をする実験の必要性を口にした。すぐに青江は、羽原が娘の円華を実験台に使ったことを悟った。病院は国の研究機関であり、羽原は技術が進むまで極秘にするよう指示されてていた。青江が批判すると、桐宮は円華が自分で被験者に名乗り出たのだと明かした。羽原は円華が10歳の時に目の前で母を亡くしていること、自分のワガママのせいだと罪悪感を抱いていたこと、特殊能力を得て気象を予測できれば同じ悲劇が起きなくて済むと考えたことを語った。
羽原は青江に、これ以上は関わらず、今日のことは全て忘れるよう釘を刺した。青江は謙人が復讐として事件を起こしているのではないか、彼は記憶を失っていないのではないかという推理をぶつけ、「この研究で2人も死んでるんです。それでも何も言うなと?」と感情的になる。すると羽原は全く表情を変えず、静かに「それが貴方のためでもあります。そこから先は、私の一存ではどうすることも出来ないレベルの話ということです」と述べた。
青江は中岡の電話で、甘粕が見つかったこと、心が壊れて廃人同様になっていることを聞かされる。中岡は甘粕による復讐が無理だと確信するが、同じ動機を持つ人物がいると青江に話す。彼は謙人の名を挙げ、「もし彼に記憶が残っているとすれば」と言う。円華は監視役の武尾を罠に掛け、部屋から逃げ出す。彼女はエレベーターで病院を去ろうとしていた青江の元に現れ、「もう少しだけ力を貸してください。どうしても教授の力が必要なの」と依頼した。彼女が求めた「力」とは、逃亡のために車を運転することだった。
青江が「もしかして、君は後悔してるんじゃないのか。そんな力は無い方が良かったんじゃないのか」と訊くと、円華は「良く分からないけど、1つだけ分かることがある。謙人は凶悪犯なんかじゃない」と述べた。彼女は謙人の苦しみに気付けなかったことへの後悔を語り、「だから今度は私が謙人を助ける」と口にした。青江は千佐都が外出するのを確認し、円華を車に乗せて尾行する。彼は円華に、「水城と那須野を殺害したのが謙人くんだとしても、彼らを連れ出すには共犯者が必要だ」と語った。
中岡は青江に電話を入れ、甘粕の家族について調べ直したこと、ブログの内容が全て嘘だったことを伝える。甘粕は由佳子から離婚を要求されており、萌絵は援助交際が問題になって児童相談所の世話になっていた。青江は謙人が記憶喪失を装った理由について、犯人である身を守るためではなかったかと推理する。そして彼は、水城と那須野を殺害した犯人が廃人を装った甘粕であり、8年前に自分の妻と娘も殺したのではないかと考える…。

監督は三池崇史、原作は東野圭吾『ラブラスの魔女』(角川文庫刊)、脚本は八津弘幸、製作は市川南、共同製作は堀内大示&藤島ジュリーK.&吉崎圭一&弓矢政法&高橋誠&奥野敏聡&渡辺勝也&荒波修、エグゼクティブ・プロデューサーは山内章弘、企画・プロデュースは臼井央&臼井真之介、プロデューサーは坂美佐子&前田茂司、アソシエイトプロデューサーは二宮直彦&西崎洋平、ラインプロデューサーは今井朝幸&善田真也、撮影は北信康、照明は渡部嘉、美術は林田裕至、整音は中村淳、録音は小林圭一、編集は山下健治、プロダクション統括は佐藤毅、音楽は遠藤浩二、主題歌『FADED/フェイデッド』はAlan Walker/アラン・ウォーカー。
出演は櫻井翔、広瀬すず、福士蒼汰、豊川悦司、玉木宏、高嶋政伸、檀れい、リリー・フランキー、志田未来、佐藤江梨子、TAO、信太昌之、橋本一郎、渋川清彦、外山誠二、菅原大吉、平原テツ、大宮将司、平島寛子、安藤聖、本田大輔、潟山セイキ、松澤匠、石田佳央、田中誠人、狩野海音、名嶋真、朝霧涼、中野剛、石田尚巳、蔵原健、小川大悟、山本智康、藤田剛、福田望、久場雄太、奥野智也、吉田興平、逸見亨平、中松俊哉、永友勇、池田祥一、沢木楓、三倉翔、阿部信介、鈴木アメリ、塚原さやか、三木結美、阿部信介、鈴木奈津子、中村優希、小林三十朗、みなもとみらい、駒水健、内村来美、渡邊志穂、瀬戸葉介、田邉健太、今野ゆか、藤尾勘太郎、岩田知幸、鈴木雄二ら。


東野圭吾の同名ベストセラー小説を基にした作品。
監督は『テラフォーマーズ』『無限の住人』の三池崇史。
脚本は『イキガミ』『神さまの言うとおり』の八津弘幸。
青江を櫻井翔、円華を広瀬すず、謙人を福士蒼汰、甘粕を豊川悦司、中岡を玉木宏、武尾を高嶋政伸、美奈を檀れい、羽原をリリー・フランキー、哲子を志田未来、千佐都を佐藤江梨子、桐宮をTAOが演じている。
櫻井翔の映画出演は、2014年の『ピカ☆★☆ンチ LIFE IS HARD たぶん HAPPY』から4年ぶりとなる。

三池崇史は「質より量」の監督で、基本的に来た仕事は引き受けるスタンスだ。1997からは毎年必ず、2本以上の劇場映画を撮ってきた。
しかし、少女向けの特撮ドラマ『アイドル×戦士 ミラクルちゅーんず!』や『魔法×戦士 マジマジョピュアーズ!』で総監督を務め始めて多忙になったのか、2018年は本作品しか劇場映画を撮っていない。
で、その1本が、よりによって、なぜコレなのかと。
この人は感覚で演出する監督だから、綿密な計算が求められるような理数系の映画は向いていないのよ。ミステリーなんて、まるで向いていないのよ。
三池崇史に東野圭吾って、それは桜木花道にポイント・ガードを任せるようなモンだろ。

ただし、東野圭吾なので真っ当なミステリーかと思いきや、実は全く違うんだよね。原作小説は、東野圭吾が今までのスタイルを全て破壊するという思いから執筆されているのだ。
だからなのか、この映画もザックリ言うと、トンデモ系の物語になっている。
普通のミステリーじゃないことは、円華がこぼれたジュースからスマホを守る序盤の描写で既に匂わされている。
ようするに、円華には特殊能力が備わっているのだ。そして彼女の能力が、事件の解決に大きく貢献するのだ。
つまり、何でもアリってことだよね。

「トンデモ系なら三池監督も得意分野じゃないか」と思った人がいるかもしれないが、確かにその通りだ。
ただし残念なことに、三池監督が自身の持ち味を発揮できる類のトンデモっぷりは無い。
ハチャメチャなパワーとエナジーが爆裂するような、振り切ったトンデモ映画ではないのだ。基本的には落ち着き払ったミステリーで、解決方法がトンデモ系ってだけなのだ。
なのでハッキリ言うと、「ミステリーとして破綻している失敗作」になっちゃうんだよね。
まあ東野圭吾なので、きっと原作は失敗していないんだろうと思うけどさ。

円華が謙人と知り合い、仲良くなったことを示すための回想シーンが途中で分割して挿入される。それを描くことによって、「なぜ円華が謙人を必死になって捜し出そうとするのか」という疑問に対する理由を説明しようとしているわけだ。
ただ、それってホントに必要なのかと考えた時、無くてもいいんじゃないかと感じてしまう。
回想シーンを全て削除したとしても、「なぜ円華が謙人を捜すのか」と疑問に思うようなことは無いよ。そんなトコには引っ掛からないよ。別のトコや別の意味の引っ掛かりは幾つもあるけどさ。
回想シーンに時間を割くよりも、現在のシーンを充実させた方が良かったんじゃないかと。回想シーンを描くことで、円華と謙人の特殊能力にリアリティーや説得力が生じるわけでもないんだし。

櫻井翔が久々の映画出演ってことでファンは喜んだだろうが、実際に観賞した後も満足できたかどうかは疑問だ。
単純に「櫻井翔の姿さえ見られれば何でもいい」という人ならいいだろうが、「こんな扱いだったのか」と不満を抱いた人もいるんじゃないだろうか。
なぜなら、櫻井翔は主人公を演じているはずなのにも、ちっとも主人公らしい活躍を見せないからだ。
もっとハッキリ言ってしまうと、青江という男は完全なる役立たずなのだ。こいつは事件の解決に、これっぽっちも貢献していないのだ。

事件を捜査する主人公が、犯人の計画を阻止できなかったり、犠牲が増えるのを止められなかったりってこともあるだろう。
例えば有名な金田一耕助だって、いつも遅すぎる男だった。次々に事件が発生する中で、なかなか犯人を突き止めることが出来なかった。
ただし彼の場合、それでも手掛かりを集めて最終的には事件の真相に辿り着いていた。
しかし青江の場合、そういう探偵としての仕事も出来ていない。では語り手としての仕事を担当するのかというと、それも出来ていない。
「実は青江って要らなくねえか」という疑念が途中で生じてしまい、それは映画を見終わると確信に変わるのだ。

青江が要らないってことは、助手である奥西哲子も要らないってことになる。
実際、彼女の存在意義はゼロであり、話を進める上で必要な仕事は何もしていない。
例えばコメディー・リリーフとか、緊張が続く中での一服の清涼剤とか、そういうポジションでもない。「青江には助手がいます」ってことを示すだけで、それ以上でもそれ以下でもない。
だから彼女を演じる志田未来は、完全なる無駄遣いだ。
あと、桐宮の存在意義も乏しいし、武尾が終盤に入ると急に円華の味方になるのは唐突で違和感しか無い。

そろそろ完全ネタバレを書くと、由佳子と萌絵が死亡した8年前の出来事は甘粕の仕業だ。そして犯行の動機は、失敗作である家族を始末して悲劇の主人公になり、自分を題材にしたドキュメンタリー映画を撮るためだ。
この真相が明らかにされた時、たぶんホントは「恐るべき事件だ」と身も凍るような思いにならなきゃダメなんだろうと思うんだけど、実際は「バカバカしい」という感想しか湧かないのよね。「なんだ、その動機は」と、呆れ果てるだけだ。
甘粕を「狂った殺人者」として怖がるのではなく、「底抜けの阿呆」としか捉えられず、冷めた気持ちになってしまう。
甘粕が情熱的に思いを語るシーンも、退屈な義太夫でしかない。しかも、その後には謙人までダラダラと自分の考えを語るシーンがあるので、「御託はいいから」と呆れてしまう。

(観賞日:2019年8月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会