『夢千代日記』:1985、日本
神戸市立西市民病院で定期検診を受けた夢千代は、主治医の山根から入院を勧められた。山根は夢千代の親代わりである渡辺タマエを呼び、余命は長くても半年だと宣告した。その会話を聞いてしまった夢千代は入院せず、わずか半年でも湯里で暮らすことにした。帰りの列車には、女剣劇一座の春川桃之助と息子のチビ玉三郎、座員の宗方勝が乗っていた。夢千代と宗方は、女性が拝むような形で列車から落ちる姿を目撃した。夢千代は車掌を呼びに行き、宗方は女性が飛び降りた連結部分へ赴いた。連結部分にいた石井という男は逃げるように去り、宗方は女性のハンドバッグと片方の靴を発見した。彼は座席に戻らず、石井がいるドア付近まで移動した。
夢千代は浜坂駅で刑事の藤森と会い、目撃した出来事を話した。藤森は浜坂駅の駅長から、列車内に女性のハンドバッグと靴が残っていたことを知らされた。湯村では温泉町スキー競技大会が開かれ、置家「はる家」の兎や紅、菊奴や小夢たちも参加した。スキー指導員の名村は、観光協会の会長から紅の指導を頼まれた。紅はスピードを出して崖へ向かい、名村が追い掛けて助けた。ストリッパーのエンジェルは山倉から温泉客相手の本番行為を頼まれ、先輩のアサ子は「やめとき」と忠告した。
「はる家」に戻った夢千代は、余命宣告を受けたことを兎たちに言わなかった。兎はタマエから、大阪の木浦が煙草屋旅館で待っていることを聞かされた。藤森と部下たちは余部鉄橋の下を調べ、川辺で女性の死体を発見した。藤森は橋の上から眺める石井に気付き、大声で呼び掛けた。石井が慌てて逃げ出したので、藤森たちは後を追った。夜、夢千代は小夢と煙草屋旅館へ出向き、踊りを披露した。旅館に宿泊していた老画伯の山科東窓は小夢に目を奪われ、妻の君乃は女将の徳田泰江に仲介役を頼んだ。
兎は木浦と温泉に入り、子作りの相手を頼まれて承諾した。夢千代は菊奴や小夢と旅館から帰る途中、温泉劇場での春川桃之助劇団の興行を宣伝するポスターを目にした。湯村ヌード劇場で本番行為を強要されたエンジェルが逃げて来たので、夢千代は「はる家」へ連れ帰った。夢千代は藤森に呼ばれて湯村警察署へ赴き、石井がダブル不倫で逃亡した末に心中を図ったと証言していることを知らされた。しかし藤森は女性が妊娠していたこともあり、帰りたくなった石井が突き落として殺害したのではないかと推理していた。
夢千代は温泉劇場を訪れて宗方と会い、列車から女性が拝むように両手を合わせて落ちるのを目撃した件について確認した。すると宗方は、見ていないと嘘をついた。石井が殺人に問われていることを夢千代が伝えると、宗方は「もう勘弁して下さい」と漏らした。翌日、泰江は夢千代を呼び出し、山科が小夢の旦那になることを希望していると知らせた。夢千代は賛成しなかったが、小夢は承諾した。山科から絵のモデルとして着物を脱ぐよう命じられた小夢は、素直に従った。
兎は夢千代に、木浦と妻の晴子にお腹を貸し、子供を産んで契約金を貰うと話す。夢千代はタマエの前で堕胎した過去への後悔を漏らし、「あの時、産んでおけば良かった」と泣いた。翌朝、夢千代はオカリナを吹いている宗方と遭遇し、改めて「列車から女性が拝むような形で落ちなかったか」と質問した。宗方は「本当に覚えていないんです」と言い、力になることは出来ないと述べた。夢千代は目の錯覚かもしれないと言い、あの時に死ぬことを考えていたと明かした。
夢千代は藤森からの電話で、石井が殺人を自白したことを知らされた。彼女は温泉劇場へ行き、宗方と話そうとする。しかし芝居を終えた座員たちが裏から宿舎へ帰ったと聞き、温泉劇場を出た。彼女は胸が苦しくなって座り込み、それを目撃した宗方は背負って「はる家」へ送り届けた。井上の診察を受けた夢千代は、しばらくは外出しないよう忠告された。夢千代は宗方が高熱だったと気付き、井上に彼を訪問するよう頼んだ。井上が宿舎へ行くと、宗方は雪に顔を埋めて熱を下げようとしていた。井上が「そんなことしたら死ぬぞ」と言っても彼は診察を拒否し、「死ぬんなら死んでもええんです」と告げた。
小夢は山科のモデルとしてポーズを取っている最中、鼻歌を口ずさんだ。古い歌なので山科が驚くと、彼女は死んだ父から教わったことを話す。小夢は両親が死んでいることを明かし、弟を大学に行かせたいのだと述べた。エンジェルはヌード劇場に出演し、本番を行った。紅は鳥取へ赴いて篠原工業の篠原と会い、百万円の小切手を切ってもらって車を譲り受けた。紅は名村を車に乗せて旅行に出掛け、金は全て出すので温泉地の良いホテルに泊まろうと持ち掛けた。名村が「僕には女房がいる」と言うと彼女はキスし、「二度と言うたら殺すで」と鋭く睨み付けた。
夢千代は宿舎を訪れて宗方と会い、手作りの寿司を差し入れた。彼女は列車の女性の件について、「聞き過ぎました」と詫びた。木浦は兎から妊娠を知らされ、「跡継ぎが出来た」と大喜びする。彼が妻には出来ないことを改めて確認すると、兎は「よう分かっとります」と告げた。菊奴は桃之助を訪ねて一緒に酒を飲み、本来ならチビ玉より大きい子供がいると話す。そこへ舞台の片付けを終えた宗方が来ると、菊奴と桃之助は一緒に飲もうと誘った。
宗方は遠慮するが、菊奴と桃之助が引き下がらないので仕方なく応じた。桃之助は菊奴から宗方との関係を冷やかされて否定し、彼は7年11ヶ月前に劇団へ来てから一度も女を近付けたことが無いと話す。宗方はチビ玉から夢千代に惚れていると指摘され、動揺して部屋を去る。桃之助は夢千代が気になり、どういう女性なのかと菊奴に質問した。菊奴は「ピカを浴びて命の乏しい人」と評し、夢千代を思って嘆く。部屋の外で、宗方は彼女の言葉を聞いていた。
翌日、藤森が夢千代を訪問し、石井が検察庁で証言を翻したことを伝えた。石井は女性を突き落としたことを否定し、「先に死ぬと言って飛び降りた」と主張したのだ。藤森は温泉劇場へ赴いて宗方と会い、「どういう格好で女性が落ちたのか、見たままを言ってくれ」と頼む。宗方は少し考えてから、「両手を合わせて落ちた」と証言した。証人として法廷で話すよう求められた彼は、密かに荷物をまとめて逃げ出した。宗方は「はる家」へ行き、夢千代に「お別れに来ました」と告げる。彼は「僕は人殺しなんです」と告白し、逃げるように夢千代の元から走り去った…。監督は浦山桐郎、企画 脚本は早坂暁、プロデューサーは岡田裕介&佐藤雅夫&坂上順&斎藤一重、撮影は安藤庄平、照明は渡辺喜和、録音は荒川輝彦、美術は井川徳道&佐野義和、編集は玉木濬夫、擬斗は上野隆三、舞踏振付は藤間勘五郎、音楽は松村禎三。
出演は吉永小百合、北大路欣也、名取裕子、田中好子、樹木希林、小川真由美、前田吟、河原崎長一郎、加藤武、横内正、斉藤絵里、小田かおる、渡辺裕之、チビッ子玉三郎(白龍光洋)、風見章子、浜村純、荒木道子、三條美紀、左時枝、岸部一徳、市川好郎、小島三児、中島葵、中村錦司、野口貴史、井上高志、大月正太郎、森源太郎、白井滋郎、松岡由利子、丸平峯子、宮城幸生、有島淳平、福本清三、細川淳一、足立昭美、横江香織、勝山純子、星野美恵子ら。
NHKの『ドラマ人間模様』で放送された3部作のTVドラマの完結編。
監督は『私が棄てた女』『青春の門』の浦山桐郎。脚本はドラマ版と同じく早坂暁が担当している。
夢千代を吉永小百合、宗方を北大路欣也、兎を名取裕子、紅を田中好子、菊奴を樹木希林、桃之助を小川真由美、木浦を前田吟、井上を河原崎長一郎、藤森を加藤武、山根を横内正、エンジェルを小田かおる、名村を渡辺裕之、タマエを風見章子、山科を浜村純、君乃を荒木道子、泰江を三條美紀が演じている。
小夢役の斉藤絵里は東映太秦映画村の「第一回ミス映画村」に選ばれ、女優デビューした人物。
チビ玉を演じているのは、大衆演劇の子役として活躍していたチビッ子玉三郎。夢千代は胎内被爆者であり、原爆症で余命宣告を受けている。急に苦しくなって倒れ込んだり、死を怯えて泣き出したりする様子が描写されている。
ところが、菊奴が言うように「日に日に弱っている」という状態のはずなのに、実際には全く衰弱していく様子が見られない。ずっと夢千代は綺麗なままで、「どんどん頬がこけていく、やつれていく、顔色が悪化していく」みたいな明確な変化は無い。
そこに関しては、完全にファンタジーの世界なのだ。
死の間際になって「顔色の悪さ」だけは表現するけど、申し訳程度だ。「TVドラマの完結編」と前述したが、続投しているキャストは夢千代役の吉永小百合と菊奴役の樹木希林だけだ。
では他のキャラは全て映画が初登場なのかというと、そうではない。井上、藤森、泰江、小夢、山倉、アサ子は、TVシリーズにも登場している人物だ。しかし、TVシリーズとは演者が異なっているのだ。
ちなみにTVシリーズだと、それぞれ沼田曜一、中条静夫、加藤治子、中村久美、長門勇、緑魔子が演じていた。
あと、そもそもTVシリーズだと舞台は「湯里」だったはずで、それが「湯村」と微妙に違う地名に変更されている理由は何なのだろうか。
まあ実際の地名は湯村なので、そっちに合わせたってことなんだろうけど。紅は名村の指導を受ける段階で、彼に惚れている。
兎は木浦と交際しており、以前から「夫婦のために腹を貸してほしい」という話を持ち掛けられている。
小夢は「自分には外見の美しさも才能も無いし、足が悪いから芸者としては一流になれない」という劣等感を抱いている。
兎は自分が踊りも歌も下手だと感じており、紅は母の死を引きずっている。
そういった情報は、「もう皆さんは良く御存知でしょ」ってな感じで、サラッと片付けられている。エンジェルは劇場から逃げ出すぐらい本番行為を嫌がっていたのに、なぜ急に受け入れたのかがサッパリ分からない。
しかも小夢のシーンが切り替わるとエンジェルが本番を始める様子が描かれ、すぐに別のシーンへ移ってしまう。
エンジェルのストーリーとして、本番への覚悟を決めるに至る流れも、それが終わった後の余韻も、何も無いのだ。
おまけに本番を始めるシーンを過ぎると、もうエンジェルというキャラ自体がストーリーからほとんど消えてしまう。夢千代の周囲にいるキャラにも目を配り、それぞれのエピソードを掘り下げようとしている。それは当然っちゃあ当然だし、必ずしも悪いことだとは思わない。
ただしシリーズ完結編であることを考えると、もう少し夢千代へのフォーカスを強く意識した方が良かったのではないか。
あと完結編ではあっても、兎や紅やエンジェルたちは初登場なのよ。だから、彼女たちはTVシリーズからドラマが続いているわけじゃない。
さらには、前述したように山倉や小夢たちは演者が違うので、「TVシリーズから正しく繋がっている」ってわけじゃない。
TVシリーズの演者が引き続いて同じ役で登場していれば、「その後」の人生を見たいと思うかもしれない。でも、それは菊奴なので、余計に「夢千代に絞り込めばいいのに」と。まだ会ったばかりのはずなのに、紅は名村に「車をあげる」と持ち掛け、断られると怒って「このまま海に突っ込む」と言い出す。名村が「もう帰るよ」と去ると、その場で泣き崩れる。
そんな様子を見せられても、「なんで急激に恋心が燃え盛っているのか」と言いたくなる。
いつの間に、そこまで名村に惚れ込んだのかと。
初めての面々の人生模様を見せられても、TVシリーズで積み上げて来た過去の貯金が無いから、薄いドラマの寄せ集めでしかないのよね。兎が訪ねて来た木浦の妻に「頼まれて出産するだけで、木浦の妻になりたいわけではない」と説明し、子供のことを頼まれる。
山科は小夢に欲情するが、強引に抱こうとして心臓発作で死亡する。
その後、小夢は君乃から、山科が癌で余命3ヶ月と宣告されていたことを聞く。
そんな風に各キャラのエピソードが綴られるが、メインである夢千代の物語と上手く絡み合っているとは到底思えない。
夢千代が各キャラのエピソードから何かを感じたり、影響を受けたりする様子は皆無に等しい。紅が入水自殺を図って目撃したカメラマンに救われるという展開も、「なんで急に死のうと思ったんだよ」と呆れるばかりだ。
その心情が、サッパリ理解できない。
病室を訪れた夢千代が「生きたくてたまらない人間がいるのに、貴方は自分の命に酷いことをし過ぎるわ」と言うけど、それを描きたかっただけでしょ。
いや、それは別にいいけどさ、そこからの逆算を丁寧にやっていないから、紅が唐突に命を粗末にする変な奴になっているのよ。結局、脇を固める女性たちのサブストーリーは、どれも全て中途半端なままで放り出されている。
兎は木浦の妻と話した後、どうなるのかが描かれない。出産して気持ちが変化するとか、木浦夫妻との関係性が変化するとか、そういうのも描かれない。
紅は自殺を図って救助された後、名村との関係がどうなったのかが描かれない。小夢は山科が死んだ後、何か心境や考え方に変化があったのかが描かれない。エンジェルは本番を承諾した後、どうなったのかが描かれない。
そんな結果で終わるぐらいなら、もっと「夢千代が迫り来る死に不安を覚えながら、宗方との恋に命の炎を燃やす」という部分に集中した方が絶対に良かったでしょ。夢千代は藤森から、宗方が15年前に父親を殺した指名手配犯で、時効が迫っていることを知らされる。
でも、ここのロマンスが他に気をとられておざなりになっているため、「実は宗方が殺人犯で」と明かされても「そういうの要らんなあ」と感じるだけ。
宗方が隠岐の島にいるという情報を得た夢千代は彼を追い掛けるが、それも「いつの間に、そこまで惚れたんだよ」と言いたくなる。
そのロマンスが大きく扱われているんだけど、まるで気持ちが乗らないのよ。
もっと「夢千代の死に対する不安」に絞り込んだ方がいいと思うし、安っぽくて薄っぺらいロマンスよりも、「はる家」の仲間とのシスターフッドを重視した方が良かったんじゃないかと思うし。(観賞日:2024年6月3日)