『油断大敵』:2003、日本

捜査一課刑事の関川仁は、幼い娘の美咲が急な腹痛を起こしたので救急車を呼んで病院に搬送してもらった。医師の東条は盲腸が壊死して膿が溢れ出しているかもしれないと言い、手遅れになるかもしれなかったと告げる。関川は課長の山中から電話を受け、「ホシが動きそうなんだ。来れるか」と言われ、娘が手術を受けることを説明した。「じゃあいいよ」と山中は電話を切り、関川は娘の手術が終わってから現場に駆け付けた。すると既に犯人は逮捕されており、山中は妻を亡くしている関川に再婚しろと告げた。
達磨工場の夫婦が外出中に金庫から60万円が盗み出される事件が発生し、一課は捜査に乗り出した。関川は工場を営む小栗夫妻に会い、話を聞いた。仕事を終えた関川は、母に預かってもらっていた美咲を迎えに行く。美咲は祖母の家で楽しかったかと問われ、「もう行かない。お父さんと一緒がいい」と告げた。関川は友人の長瀬から警備会社の共同経営を持ち掛けられており、少し返事を待ってくれと頼んだ。その話を受けた方が娘と一緒にいる時間は増えるが、刑事を辞める踏ん切りが付かなかったのだ。
美咲は自転車のペダルが外れて転倒し、通り掛かった男が直してくれた。関川は礼を言うが、男の工具箱を見て泥棒だと直感した。彼は警察手帳を提示し、警察署への任意同行を求めた。彼が連行した男は、ネコの異名を持つベテランの泥棒だった。彼は35回も捕まっていたが、相手の刑事に応じて全く自供しないので前科5犯で済んでいた。今回はベテラン刑事の米田と山中が順番に取り調べを担当するが、ネコはのらりくらりと犯行を否認した。
関川は取調室でネコと2人になり、自転車のことで礼を述べた。ネコから質問を受けた関川は、1年前に泥棒刑事になったこと、以前は駐在だったが2年前に妻を亡くして異動したことを話す。いつの間にか質問される側に回っていることに気付いた彼がハッとすると、ネコは軽く笑った。夜になって関川がアパートに戻ると、美咲は放課後天使会の先生である牧子と一緒に待っていた。牧子はあそひ聖母教会で働いており、放課後天使会で美咲の面倒を見てくれていた。
関川が達磨工場へ行くと、小栗夫妻は「探さないで下さい」というメモを残して夜逃げしていた。ネコは関川から小栗夫妻のことで非難されると、急に自供を始めた。驚いた関川が理由を訊くと、彼は「泥棒にあんなに素直に礼を言うバカな刑事は、そうはいねえからな」と答えた。関川は金一封を貰って表彰されるが、直後にネコが重い痔で苦しんでいたことが判明する。彼は自分の金を使わずに入院して手術を受けるため、そのタイミングで自供したのだ。
関川は同僚の加藤たちと共に、ネコを車に乗せて盗難があった場所を巡り始めた。関川が娘と一緒に作った弁当を差し出すと、ネコは礼を述べた。彼は「一流の泥棒は一流の仕事が出来なくなった時が定年だ」と言い、だから健康に気を遣っていると話す。彼は脚を鍛える必要性を語り、一流の泥棒は足音を立てないよう靴に金を惜しまないのだと告げた。関川が帰宅すると牧子が来ており、美咲が熱を出したので病院で注射を打ってもらったことを話す。彼女は美咲の看病をしてくれただけでなく、関川のために夕食も用意した。関川は体を寄せて明確に好意を示す美咲を抱き締め、肉体関係を持った。
翌朝、関川は目を覚ました美咲に、しばらく牧子が通って面倒を見てくれると嬉しそうに話した。すると美咲は不機嫌になり、牧子が用意した料理に手を付けなかった。翌日も彼女は料理を食べないどころか、ゴミ箱に捨てた。美咲は関川の前で、「家事は自分が出来る」と泣き出した。関川は娘の気持ちを汲み、牧子に別れを告げた。ネコは関川たちと共に工場を去る時、「人を傷付ける仕事はしない。美学がある」と述べた。彼はトイレに行くと見せ掛け、手錠を外して逃亡した。関川は駅のホームにいるネコを見つけ、慌てて連れ戻そうとする。ネコはホームに入って来た電車には乗らず、関川に「泥棒と向き合う時は、真剣に泥棒刑事をやれ」と説教した。
関川は長瀬に断りを入れ、刑事を続けることにした。ネコは取調室で、関川に「一流の泥棒は現場に遺留品を残さないが、手口を残す。あらゆる手口を知っておけ」と助言した。彼は調書の文章を修正し、泥棒を引退する気が無いことを明言した。ネコが「出て来た時は勝負だぜ」と言うと、関川は「楽しみに待ってますよ」と握手した。関川は藤崎警察署に異動し、同僚の城谷たちと会った。彼はパン屋の加代と親しくなり、情報収集のために食堂の常連になった。
出所したネコは藤崎警察署を訪れ、関川に声を掛けた。ネコは「お互い、健康に気を付けて頑張ろうや」と立ち去り、尾行した関川は彼が小料理屋に入っていくのを確認した。所轄ではない地域で盗難事件が発生したことを知った関川は、ずくにネコの仕業だと確信した。彼が小料理屋を訪ねると、女将の綾乃は注文していない日本酒を出した。彼女はネコから関川が必ず来ると言われていたことを明かし、酒を勧めた。関川が「泥棒した金で買った酒を飲むわけにはいきません」と断ると、綾乃は関川が言っていた通りの答えだと笑った。
17歳になった美咲は看護学校に通っており、病院での実習に参加した。彼女は尊敬している教師から、珍しく褒められた。帰宅した彼女は、その教師がカンボジアで看護活動していたこと、来年から再び海外へ行くことを関川に話す。彼女は自分も海外へ行くことを望んでいたが、関川には言い出せなかった。関川は加代から見合いを勧められていたが、その気は全く無かった。美咲が「せっかくだから一度ぐらい会ってみたら」と言い出したので、彼は意外に感じた。ネコは旅館へ行き、ラッキー興業の団体客が宴会で盛り上がっている間に部屋へ忍び込んだ。彼は金庫から金を盗み出した直後、咳き込んで吐血した…。

監督は成島出、原作は飯塚訓『捕まえるヤツ 逃げるヤツ』(文藝春秋刊)、脚本は小松與志子&真辺克彦、企画は成澤章&渡辺敦、製作は成澤章&笠原和彦&石川富康&升水惟雄、エクゼクティブプロデューサーは尾川匠、プロデューサーは福島聡司&松葉せつこ&村上比呂夫&秋元一孝&升水諭、撮影は長沼六男、照明は吉角荘介、美術は中澤克巳、録音は宮本久幸、編集は奥原好幸、音楽はショーロ・クラブ。
出演は役所広司、柄本明、淡路恵子、津川雅彦、奥田瑛二、夏川結衣、菅野莉央、前田綾花、笹野高史、綾田俊樹、田中隆三、宮内敦士、水橋研二、角替和枝、斎藤歩、高橋明、三田村周三、阿部六郎、原金太郎、高川裕也、鈴木英介、井上肇、本田大輔、ささの翔太、原田文明、山下葉子、北川さおり、千うらら、濱本康輔、竹内晶子、江口徳子、大後寿々花、照井尚子、川口亮介、児玉徹、石坂実穂、AKY、ディアナ アルファロ、マリア フィリナピス他。


警察署長や警察学校長などを歴任してきた飯塚訓の著書『捕まえるヤツ 逃げるヤツ』を基にした作品。
脚本家として『シャブ極道』や『笑う蛙』などを手掛けて来た成島出が、初監督を務めている。
脚本は『宣戦布告』の小松與志子と『スリ』の真辺克彦による共同。
関川を役所広司、ネコを柄本明、綾乃を淡路恵子、東条を津川雅彦、パチンコ屋の社長を奥田瑛二、牧子を夏川結衣、8歳の美咲を菅野莉央、17歳の美咲を前田綾花、小栗を笹野高史、山中を綾田俊樹、長瀬を田中隆三、加藤を宮内敦士、城谷を水橋研二、加代を角替和枝、米田を高橋明が演じている。

映画は冒頭、関川が盲腸の手術を受ける美咲に付き添い、山中から「再婚しろ。ヤモメの子育ては無理だ」と言われるシーンが描かれる。これがアヴァンで、その後にタイトルが表示される。
こういう始め方をするのだから、関川と娘の関係や再婚に向けた物語が描かれるのかと思いきや、その後は関川とネコの関係が中心になる。
そこが作品のメインであるならば、アヴァンの内容は違うんじゃないか。
それでも関川とネコの関係をメインに据えるなら、そこで徹底すればいいはずだ。ところが牧子が登場し、やっぱり関川と娘の関係や再婚を巡る話を描こうとする。
このターンが来た時に、「何の話を見せられているんだろうか」と言いたくなってしまう。

関川とネコの関係を描くパートと、関川の私生活を描くパートが、完全に分離しているんだよね。おまけに、美咲の嫉妬を受けて、関川と牧子の関係は途中で完全終了を迎えてしまう。
そうなると、ますます「何の話を見せられていたのか」と言いたくなるぞ。どう頑張って解釈しようとしても、どういう計算で用意した展開なのかが分からない。
「関川とネコの関係」と「関川と美咲の関係」って、ネコが逮捕されるシーンぐらいしか交差する部分が無いんだよね。
しかもネコの逮捕にしても、美咲が絶対に必要な存在というわけでもないし。ネコの自供にも、美咲の存在は何の影響も与えていないし。

極端なことを言ってしまえば、「関川が妻を亡くして娘を1人で育てている」という設定自体、丸ごと無くしてもいいぐらいだ。
関川の私生活に関する部分なんて申し訳程度に留めておいて、もっと「刑事としての関川」と「ネコとの関係」を厚く描いた方がいい。
どうせ、どこまでストーリーが進んでも、「関川とネコの関係」と「関川と美咲の関係」が上手く絡み合うことなんて無いんだから。

加藤の運転する車で関川たちが同行し、手錠を掛けられたネコが「これから半年間、こうやって一緒に回るんだから」と喋るシーンがある。
逮捕されて自供したのに、そこから半年間も一緒に色んな場所を巡るの理由が分かりにくい。
たぶん「ネコが金を盗んだ場所を巡る」ということなんだろうけど、目的が不明だし、そこは説明が必要だったんじゃないか。泥棒が逮捕された後、そういう作業が行われるのは当たり前なのかもしれないけど、素人は絶対に知らないんだから。
あと、そこの手順がモタモタしていると感じるので、「ネコは取調室で関川に助言する」という形で全て収めちゃった方が良かったんじゃないかと。

出所したネコが関川の元へ来た後、すっかり成長した美咲が登場するので困惑させられる。
そりゃあネコの刑期を考えれば、それぐらい長い年月が経過しているのは当然っちゃあ当然なのよ。
ただ、粗筋では「17歳の美咲」と書いたけど、映画を見ているだけでは、そこまでの時間経過なんて全く伝わって来ないからね。
あと、途中で大きな時間経過を挟むなら、そのタイミングが遅すぎるわ。関川が引っ越すまでの「第一部」で1時間ぐらい費やすけど、もっと短くまとめた方がいいよ。

「牧子との関係」や「美咲の嫉妬」といった余計なことに時間を使うから、全体のバランスが悪くなっているのよ。
何だったら、ネコが出所してからのパートをメインにして、そこまでを序章みたいな扱いにしてもいいし。
もっと根本的なことを言っちゃうと、「長い年月の経過」という手順そのものが無くてもいい。
それだと「ネコが逮捕されて自供する」という展開が使えなくなるが、例えば「ネコは関川を気に入って助言はするけど自供はしない」みたいな形でも良かったのでは。

終盤、関川がネコの故郷を訪れると、子供時代のネコを描く回想シーンが挿入される。でも、そこに何の意味があるのか分からない。
ネコが不幸な子供時代を送ったことを描きたかったようだが、だから何なのかと。取調室で関川が子供時代のネコと美咲を重ねるようなことを話すけど、まるでピンと来ないし。
そんな関川の言葉を聞いたネコが子供時代を思い出して号泣し、自供するという流れにもピンと来ない。「なんでそうなるの?」と、首をかしげたくなるだけだ。
ネコの子供時代を重視する展開を急に用意されても、そこだけ完全に浮いているのよ。
あとネタバレだけど、「実はネコが胃癌じゃなくて胃潰瘍だった」ってのも、ただ脱力感を与えるだけだぞ。

(観賞日:2024年1月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会