『妖怪大戦争』:2005、日本

10歳の稲生タダシは両親の離婚を受け、母の実家がある鳥取県の田舎町で暮らしている。母は留守がちで、タダシは痴呆の始まった祖父の対応に困ることも多い。ある日、神社のお祭りに赴いたタダシは、大勢の子供の中から「麒麟送子」に選ばれた。麒麟送子になった子供は、大天狗が守る伝説の聖剣を取りに山の洞窟へ行かなくてはならないらしい。大天狗の山へ出掛けたタダシだが、怖くなって途中で引き返す。
バスに乗ったタダシは、スネコスリという小さくて愛らしい妖怪と出会い、家に連れ帰った。同じ頃、人類滅亡を企てる魔人・加藤保憲が復活し、その手先・鳥刺し妖女アギに命じて日本全国の妖怪達を捕獲させていた。加藤は大怨霊ヨモツモノの力を利用し、人間に捨てられた廃棄物の怨念と妖怪を混ぜ合わせた新種の悪霊「機怪」を生み出していく。刀鍛冶の妖怪である一本だたらも、アギに捕まってしまった。
外出したタダシは、祭りの取材に来ていた雑誌「怪」の記者・佐田に声を掛けられる。佐田は幼少の頃、一度だけ妖怪を見たことがあるらしい。帰宅したタダシは、祖父の「大天狗の山で待っとる」という置手紙を発見する。山へ赴いたタダシは、のっぺらぼうやろくろ首などと遭遇する。実は手紙でタダシを誘い出したのは祖父ではなく、妖怪の猩猩だった。
タダシが大天狗から剣を受け取った直後、アギが姿を現した。アギは大天狗を拘束し、ヨモツモノの元へ送る。タダシは機怪と戦うが、聖剣を折られてしまう。アギはスネコスリを拉致し、加藤の指令によって立ち去った。猩猩は妖怪たちを集結させ、加藤と戦おうと告げる。しかし大半の妖怪は立ち去ってしまい、残ったのは川姫、河童の川太郎、川太郎に捕まった一反木綿、足が痺れて逃げそびれた小豆洗いだけだった。タダシはスネコスリを取り戻すために戦うことを決意し、猩猩たちと共に加藤のいる東京へ向かう・・・。

監督は三池崇史、脚本は三池崇史&沢村光彦&板倉剛彦、脚本プロデュースは荒俣宏、企画は佐藤直樹、製作は黒井和男、製作総指揮は角川歴彦、プロデューサーは井上文雄、アソシエイト・プロデューサーは門屋大輔&清水俊、プロデュースチーム「怪」は水木しげる&荒俣宏&京極夏彦&宮部みゆき、企画協力は郡司聡、撮影は山本英夫、編集は島村泰司、録音は中村淳、照明は木村匡博、美術は佐々木尚、撮影効果は横山聖、妖怪キャスティングは京極夏彦、機怪デザインは韮沢靖、妖怪特殊メイクは松井祐一、妖怪造形は百武朋、特殊造形は相蘇敬介&西脇直人&藤原カクセイ&吉田伸、妖怪衣裳コーディネートは千代田圭介、『加藤保憲・アギ』スタイリストは北村道子、『麒麟送子』衣裳デザイン制作は川上登&YOU|KO、チーフアニメーターは諸橋伸司、音楽は遠藤浩二。
挿入歌『教えてジィジ』歌は忌野清志郎with井上陽水。
主題歌『愛を謳おう』作詞は三池崇史、作曲は忌野清志郎、歌は忌野清志郎with井上陽水。
出演は神木隆之介、宮迫博之、南果歩、菅原文太、豊川悦司、近藤正臣、阿部サダヲ、高橋真唯、田口浩正、忌野清志郎、竹中直人、岡村隆史、栗山千明、成海璃子、佐野史郎、宮部みゆき、大沢在昌、徳井優、板尾創路、ほんこん、田中要次、永澤俊矢、津田寛治、柄本明、花原照子、萩原利映、Erico、吉野憲人、渡部翔、西村陵、山崎宗一郎、足立弾、瀧本勝代、伴遼太、遠藤憲一、根岸季衣、三輪明日美、吉井怜、蛍原徹、石橋蓮司、荒俣宏、京極夏彦、水木しげる他。


角川グループ創立60周年記念作品。
1968年に大映が作った同名映画のリメイクという扱いだが、中身は登場人物も物語も全く違っており、完全なる別物だ。
1968年版『妖怪大戦争』の今の観客に対するアピール度はそれほど高いとも思えないし、そこに訴求力は無いはずだから、そこまで違うのならタイトルも変えて、完全に別のオリジナル映画として作ればいいのに。

タダシを神木隆之介、川姫を高橋真唯、アギを栗山千明、加藤を豊川悦司、タダシの祖父を菅原文太、猩猩を近藤正臣、川太郎を阿部サダヲ、小豆洗いを岡村隆史、佐田を宮迫博之が演じている。
プロデュースチーム「怪」として携わった作家の皆さんも、それぞれ妖怪大翁(水木しげる)、魔王(荒俣宏&京極夏彦)、学校の宮部先生(宮部みゆき)として顔を見せている。

この作品、有名な俳優やタレントを大量に起用している。妖怪のメンツについては後述するとして、ここでは人間を演じたメンツのみを。
タダシの母を南果歩、大人になったタダシを津田寛治、タダシの姉を成海璃子、「怪」編集長を佐野史郎、ホームレスを大沢在昌、駐在を徳井優、アナウンサーを板尾創路、屋台の主人をほんこん、タダシのクラスメイトの父を田中要次、安倍晴明を永澤俊矢、農夫を柄本明、といった具合だ。

朝日マリオン・コム連載の「三池監督のシネコラマ」によると、角川グループの角川歴彦会長は『ハリー・ポッター』と『ロード・オブ・ザ・リング』を超えるよう言明したらしい。しかも、予算に関しては「金を掛ければいいわけではない」と渋チンなことを言ったらしい。
しかし、三池監督に大ヒット映画を作れというのは、デヴィッド・リンチにラブコメを作れって言うようなモンだぞ。
あと、角川会長は脚本を読んだ後で前述のセリフを口にしたらしいが、この脚本で大ヒット作が出来上がると本気で思ったのかね。

公開当時、「子供から大人まで誰にでも楽しめる映画」という風に宣伝されていたように記憶しているが、むしろターゲットをちゃんと絞り切れず、子供も大人も置いてけぼりを食らうような映画になっているという印象がある。
というか、まあ紛れも無く三池テイストの映画なんだよね。
だから、三池監督のファンという狭い観客層にだけ受ける内容じゃないかな。

まず子供向けとしては、ほとんど何の説明もない加藤保憲が敵という時点で「ハア?」となるんじゃないだろうか。
加藤保憲を敵に設定してあるのは、荒俣宏のアイデアだろうか。
個人的には、加藤保憲を敵にするのは構わない。ただし、それを演じるのがトヨエツってのは大いに不満。
誰が考えても、そこは嶋田久作じゃないとダメだろう。

大人も子供も、三池流の脱力系ギャグを受け入れるのは難しいと思う。
例えば、麒麟送子に引っ掛けて、佐田がキリンの缶ビールを飲むと妖怪の姿が見えるようになるというネタも、ちょっとキツいモノがあるよなあ。
三池テイストに慣れているつもりの私でもそう思うんだから、これを「三池監督の映画だから」という心構えで見ていない人は、もっとキツいだろうなあ。

三池監督がマトモに大ヒット作を作ろうなんて気がさらさら無いことは、序盤を見るだけでも分かる。
具体的に言うと、タダシを苛める子供たちの芝居。
これが情けないぐらいにヘタクソなのだ。
そこで「ああ、どうでもいいんだな、脇役の芝居なんて」と思った。
そう、この映画、そんな名も無き子役の存在なんて、どうでもいいのである。

タダシが祖父の手紙を見て山へ行くと、姉の格好をしたのっぺらぼうや、あばら家にいるろくろ首など妖怪が次々に現れて驚かされる。
このシーン、物語の進行だけを考えれば特に必要は無い。
一応は猩猩が「試させてもらった」と理由を付けているが、そんなのは後付け。
ようするに、この映画がやりたいのは「大勢の妖怪を登場させること」である。

ってなわけで、幾つかの妖怪は有名俳優やタレントが演じている。
一本だたらは田口正浩、大天狗は遠藤憲一、砂かけ婆は根岸季衣、ろくろ首は三輪明日美、雪女は吉井怜、豆腐小僧は蛍原徹、大首は石橋蓮司、ぬらりひょんは忌野清志郎、油すましは竹中直人といった具合。
で、大勢の妖怪を登場させた段階で、もう目的は果たされているのである。
妖怪を次々に登場させるためならば、話にまとまりが無くなっても、散漫な印象になっても、その犠牲をいとわないほどだ。

タイトルは『妖怪大戦争』だが、実際には『妖怪大宴会』といった感じだ。
というのも、妖怪は戦わないからだ。集まって戦おうと決意するのかと思いきや、さっさとお開きにしてしまう。
後半になって東京に大勢の妖怪が集まってくるが、それも戦いに加わるためでなく、「東京が面白いことになってるから行ってみようぜ」というお祭り感覚である。

敵がいるので戦わなければやられてしまうわけで、だから戦いはタダシが一手に引き受けている。妖怪は周りでワサワサしているだけ。
水木先生自らが登場して「戦争しても腹が減るだけ」と言うが、妖怪が戦わないのは、水木先生の反戦的な考え方を取り入れたのだろう。
そんな先生も、かつては怨念や怒りのマグマをたぎらせ、悪魔くんや鬼太郎を戦わせていたんだけどね。

反戦的な主張の他に、「身勝手な人間が捨てた物の怨念が」などと、モノを安易に捨てる人間を批判するようなセリフもあって、そういう部分は、かなり説教臭い。
これも水木先生のテイストっぽいな。
ただし、三池監督は社会的メッセージに何の関心も示さない監督なので、そういう説教臭いセリフは言わせるだけ言わせて適当に流し、伝えようとする気はゼロ。

そうそう、「タダシの味方となる妖怪は戦わなくても、敵の妖怪は戦うじゃないか」と思うかもしれないが、敵サイドに「妖怪」なんぞいない。
アギは1人だけ特撮映画の宇宙人みたいな格好で、加藤が操る「機怪」は怨霊や妖怪ではなく特撮ヒーロー映画の悪役ロボットみたいなデザイン。
どっちも妖怪っぽくないし、バランスやマッチングなんて何も考えていない。

で、加藤とのバトルはどうやって終わるのかというと、これがまた見事な三池節。
タダシが一騎打ちで倒すのでもなく、仲間の妖怪と協力して倒すのでもない。
佐田が飛び降りて、その勢いで小豆を拾っていた小豆洗いがシーソーの要領で飛んで行き、ヨモツモノの中に落下し、忌野清志郎with井上陽水が歌う陽気な小豆の歌『教えてジィジ』が流れる。
すると、小豆のパワーで機怪が停止し、加藤はヨモツモノもろとも爆発するという脱力モノのオチ。
これは三池作品を見慣れていない人にとっては、キツいだろうなあ。

(観賞日:2006年8月11日)


第2回(2005年度)蛇いちご賞

・作品賞
・男優賞:神木隆之介

 

*ポンコツ映画愛護協会