『容疑者 室井慎次』:2005、日本

東京拘置所に収監された警視庁刑事部捜査一課管理官・室井慎次の元へ、津田法律事務所の新人弁護士・小原久美子が面会に訪れた。 所長の津田誠吾から、担当するよう命じられたのだという。久美子は、すぐに拘置取り消しの手続きを取ると室井に告げる。室井は 東京地検に移送され、検事の窪園行雄と顔を合わせた。
室井が逮捕されるきっかけとなったのは、警官が絡んだ殺人事件だった。黒木孝夫という食品輸入会社社員が殺され、容疑者として 新宿北署地域課の巡査・神村誠一郎の名が浮かび上がったのだ。事情聴取を受けていた神村は、隙を見て逃亡を図った。新宿北署の 刑事課強行犯係・工藤敬一らが追い掛ける中、神村は車にはねられて命を落とした。神村は不起訴となり。捜査は終了した。だが、神村の 遺留品である手帳を見た室井は、彼の女性関係が気になった。
室井は、黒木と神村が同じ栞を所持していたことに不審を抱き、捜査の続行を決定した。そんな室井の元に、警察庁長官官房審議補佐官・ 新城賢太郎が訪れる。新城は、警察庁次長の池神が捜査終了を求めていることを伝えた。池神は、警視庁副総監の安住と次期警察庁長官の 地位を争って反目する関係にある。そのため、警視庁が起こした不祥事ということで事件を終わらせ、安住を辞任に追い込みたいのだ。 一方の安住や警視庁総務部部長・金子は、自分達の利益のために室井の捜査続行を歓迎した。
室井が新宿北署の捜査本部で工藤達に説明しているところへ、東京地検の窪園が現われた。窪園は、特別公務員暴行陵虐罪と共謀共同正犯 の容疑で室井を逮捕した。取り調べの際に過剰な暴力行為があったとして、神村の母親が刑事告訴したのだ。その告訴を仕掛けたのは、 灰島秀樹という弁護士だった。
警視庁刑事部捜査一課管理官・沖田仁美は、新城補佐官と共に津田の元を訪れた。津田に室井の弁護を依頼したのは、沖田管理官だった。 しかし津田は沖田の意向に反し、経験の浅い久美子に担当を命じた。津田は、相手が灰島では勝ち目が無いと沖田に漏らす。久美子は 神村の母親から話を聞き、彼女が室井の告訴に積極的ではなかったことを知る。
沖田管理官は室井に面会し、沖縄県警の友人に動いてもらったことを告げる。その結果、沖田管理官は神村が帰郷した時に黒木と彼の恋人 ・桜井杏子に出会い、東京に戻っても親しくしていたことを突き止めた。北署の工藤は相棒の早坂と共に、杏子を調べ始める。新城補佐官 は検事総長に会い、裏から手を回して室井を釈放してもらった。
室井は停職処分となり、警察バッジを新城補佐官に手渡した。室井が北署に出向くと、警察庁刑事企画課課長の坂村が立ち入り禁止テープ を張り巡らせて待ち構えていた。室井は路上で何者かに襲われ、負傷する。だが、襲った相手に見覚えは無い。工藤は室井が捜査を続ける 意欲を持っていると知り、勝手に捜査本部を設置した。工藤達の捜査により、杏子が黒木と神村の両方と交際していたこと、神村が押収 した薬物を横流ししていたことが判明した。
室井と工藤は杏子に話を聞こうとするが、彼女は灰島法律事務所の弁護士軍団を呼び、何も喋らず立ち去った。室井は久美子を伴って 灰島法律事務所を訪れるが、灰島は挑発的な態度を取る。さらに灰島達は、室井の大学時代の恋人が自殺していることまで挑発の材料に する。灰島は、室井が恋人を自殺に追いやったとの告発文書を警察庁や警視庁、東京地検に撒いた。室井は元警察庁長官の深江から、辞表 を提出するよう要求される・・・。

監督&脚本は君塚良一、製作は亀山千広、企画は関一由&阿部秀司&島谷能成&渡辺純一、プロデューサーは金井卓也&臼井裕詞&堀部徹 (ROBOT)&安藤親広(ROBOT)、アソシエイトプロデューサーは小出真佐樹、撮影は林淳一郎&さのてつろう、編集は菊池純一、 録音は本田孜、照明は磯野雅宏、美術監督は丸尾知行、美術は増本知尋、VFXスーパーバイザーは立石勝、VFXプロデューサーは 浅野秀二、特殊メイクは松井祐一&山口美雪、サウンドスーパーバイザーは藤村義孝、音楽は松本晃彦。
出演は柳葉敏郎、田中麗奈、哀川翔、筧利夫、真矢みき、八嶋智人、吹越満、柄本明、津嘉山正種、升毅、中原丈雄、松永玲子、 大杉漣、佐野史郎、大和田伸也、小木茂光、寺尾憲、木内晶子、山崎樹範、モロ師岡、高橋昌也、品川徹、斉藤暁、小野武彦、北村総一朗、 佐藤恒治、野口間徹、村上航、田鍋謙一郎、水谷あつし、長坂周、海老原敬介、須永祐介、河西健司、矢島健一、並樹史朗、大河内浩、 浜田晃、田中圭、伊達暁、田仲洋子、野元学二、しのへけい子、矢嶋俊作、武田まる美、山浦栄ら。


TVシリーズから劇場映画へと展開していった「踊る大捜査線」シリーズのスピンオフ映画第2弾。
これまで「踊る」シリーズで脚本を手掛けてきた君塚良一が、今回は監督も兼任している。
室井役の柳葉敏郎の他、「踊る」ファミリーの中からはTV版『湾岸署婦警物語』から登場した新城補佐官の筧利夫、劇場版第2作で登場した沖田管理官の真矢みきが出演。
スリーアミーゴスの斉藤暁、小野武彦、北村総一朗も、拘置所に面会に訪れる1シーンだけ登場。

「長澤まさみが浅倉南を演じてタッチが実写映画化される」という話を最初に知った時、「長澤まさみの部分しか勝てる要素が無いよな」 と感じた。
そもそも、どうして『タッチ』の実写化を考えたのだろうかと首をひねってしまう。
『タッチ』は人気のあった漫画だし、TVアニメも何度も再放送されており、多くのファンを持っている。
そういう作品を引っ張り出してくるからには、漫画やアニメのファンを意識しているのかもしれないが、だったら触れないのが吉だろう。

それ以外にも、池神次長の津嘉山正種、坂村課長の升毅、榊原・警察庁官房審議官の中原丈雄、横山・警察庁警備局公安課課長の大杉漣、 安住副総監の大和田伸也、一倉・警視庁刑事部捜査一課課長の小木茂光、金子部長の寺尾憲、多田野・警視庁刑事部長の河西健司、菅野・ 警視庁警備部長の矢島健一、大村・警察庁警備局長の並樹史朗、今野・警察庁刑事局長の大河内浩、島津・警視庁生活安全部長の浜田晃と、 TVシリーズや映画版で「踊る」ファミリーとなったメンツが多く登場する。
他のキャストは、久美子役の田中麗奈、工藤役の哀川翔、灰島役の八嶋智人、灰島事務所の篠田弁護士役の吹越満、窪園役の 佐野史郎、津田役の柄本明、灰島事務所の河野弁護士役の松永玲子、杏子役の木内晶子、神村役の山崎樹範、杏子の父親役のモロ師岡など。
トレッキアンの三上市朗が出てこないのは、監督が本広克行じゃないからなのかね。

「踊る大捜査線」の本家シリーズとは一線を画し、ほとんど緩和部分の無いシリアスなタッチの作品にしてある(だからスリーアミーゴス 登場シーンは場違い感ありまくり)。
そして、かなり地味な話でもある。
室井のキャラクターを考えた場合に、おのずとシリアスに話になる。だから、そういう演出の方向性を間違っていると断言することは出来ない。
ただし、そもそも「踊る」スピンオフとして室井を主人公にすること自体、間違っていたのではないかと私は思うのだ。
室井というのは、「踊る」メンバーの中では異質な存在であった。「踊る」が持っていた、おちゃらけたノリに加担することは、ほとんど無かった。
そういうキャラクターは、脇に回っているからこそ存在感を放っていたのではないかと思うのだ。
室井を主役にするのであれば、せめて扱う事件は彼自身に関わらないモノを選択すべきであったと思う。
室井を掘り下げようとしたのか、彼が容疑者になるだの、彼の過去が暴かれるだのという内容にしてあるが、それは失敗だったと思う。

室井は基本的に感情を表に出さず、寡黙で表情の乏しいキャラクターだ。
しかし、この映画の内容だと、主人公は追い詰められて苦悩したり焦心したり、悔恨に落ちたり怒りに燃えたり、そういう感情を表に出すべきだろう。
ハードボイルドではキツい。
キャラクターと話の作りが合っていないと思う。
わずかな表情の動きや仕草で感情の動きを豊富に表現できるほど、柳葉敏郎は器用な役者ではないのだし。

もともと「踊る」シリーズは「似非リアリティー」の世界なので、警察組織の役職や扱いに関してウソがあるのは別に構わない。
本作品で描かれているような「警視庁副総監が、遥か上のポジションである警察庁次長が次期警察庁長官の地位を争う」というポスト争いは現実的 ではないが、そんなのはどうでもいい。そこまで細かいことが気になる人は少数だろうから。
そう、そういうことが気になる人って、たぶん少数なのよ。
大抵の人は、警察組織に関して詳しい知識を持っていないはずなのよ。
警察庁と警視庁の具体的な違いも、良く分からない人が少なくないんじゃないかと思うわけ。
だから、そういう観客に向かって、警察庁と警視庁の複雑な人間関係を詳しい説明も無しに描写して、それで充分に伝わるのかと疑問に思うんだが。

この映画、ガッカリさせられるポイントが複数ある。
タイトルが『容疑者 室井慎次』なので室井は殺人など重大犯罪の容疑で捕まるのかと思ったら、違うのよね。
あと、室井が容疑者だということに意味があるのは拘置されている期間だけで、釈放された後は「室井の捜査が 妨害される」という追い込み方はしても、「室井の容疑が濃くなる」とか「法廷で次々に不利な証言が飛び出す」という追い込み方は 無いのよね(というか法廷に至る前に解決しているし)。
警察庁と警視庁の対立という要素も、ガッカリのポイントになっている。
室井が勢力争いのゴタゴタに巻き込まれるという部分が大きく扱われているので、事件の裏に組織が絡んでいるのかと思いきや、全く関係が無いのね。
で、事件の真相は「恋愛を巡るゴタゴタ」という、ものすごく個人的なこと。
その萎みっぷりは、ガッカリさせるのに充分すぎるほどだ。
いや、犯人の存在感が薄いのは「踊る」シリーズの特徴かもしれんが、それにしてもキツいわ。

室井が無口な分、久美子にナレーションまで担当させて話を進行させている(それも序盤だけで終わっているが)。
久美子を主導する役割に置くことで、室井ではなく彼女が主役のようにも思えてくる。
スピンオフなのに、ニューキャラがそれではマズいだろう。
室井がメインで動かないのであれば、別の「踊る」ファミリーを主導的立場に持って来るべきだ。
素直に新城補佐官と沖田管理官をメインに据えて、久美子をもっとサブ的立場に回した方が良かったのではないか。

室井って結局のところ、ほとんど何もしていないのよね。
理不尽な容疑で逮捕され、警察組織の対立に翻弄されたり灰島に追い込まれたりする様子を描いておきながら、室井が反撃することは全く無い。 怒り爆発で組織を糾弾したり、灰島を打ちのめしたりすることも無い。
ポール・ヴァーホーヴェン風味で、イヤな野郎どもは揃いも揃ってノホホンと生き延びるのだ。
室井は、事件を捜査して解決に導くことも無い。室井がやったことと言えば、犯人に謝罪することぐらいだ。
いやいや、悪いのは100パーセント、犯人であって、アンタは何も悪くないだろうに。
その部分で過去の恋人自殺を絡めているつもりなのかもしれんが、完全に不発だし。
その恋人自殺を言われるシーンで怒りを爆発させるが、室井に足りないのは怒り以外の感情表現なのよね。

というか、そもそも室井が動かないというだけでなく、捜査がまるで進展していかないのよね。
工藤も思ったほど出てこないし、久美子もまるで役に立っていないし。
久美子は終盤で灰島のミスを指摘するが、さんざん狡猾なワルっぷりを見せ付けてきた灰島が自分のミスで反撃を食らうってのは、どうなのよ。そのシーンだけでも、久美子が1つ上を行く形にすべきじゃないのか。
とどのつまり、室井も工藤も久美子も、ほとんど何もしないまま話は進んでいく。
事件を解決に導き、室井を助けたのは、全て裏で行動していた新城補佐官と沖田管理官のおかげである。
ってことは、この2人に関してはスピンオフ作品を作れそうだ。
何しろ灰島で2時間ドラマを企画するぐらいなんだから、この2人でも行けるでしょ。

 

*ポンコツ映画愛護協会