『洋菓子店コアンドル』:2011、日本

十村遼太郎は製菓専門学校の講師で、スイーツの評論家もしている。だが、学校の休憩時間は外に出て煙草を吸ったり、他の講師たちが自分を捜して呼び掛けていても応答しなかったりと、やる気は全く見られない。一方、鹿児島から上京したばかりの臼場なつめは大きな荷物を抱え、洋菓子店“パティスリー・コアンドル”の場所を探していた。十村が久しぶりにコアンドルを訪れると、オーナーでシェフパティシエの依子が「久しぶり。今日は何にする?」と話し掛けた。店ではスタッフを募集しており、依子は「貴方に手伝ってもらえると助かるんだけど」と口にするが、十村はそれを聞き流して商品を注文した。
十村がコーヒーを飲んでいる間に、依子は助手のマリコとスイーツを作る。なつめはコアンドルに到着し、外にいた依子の夫のジュリアンに「海君いますか。なつめが来たって伝えて下さい」と告げる。それなりに日本語は理解できるジュリアンだが、なつめの言葉は訛りが強すぎるため、何を言っているのか全く理解できなかった。ジュリアンは彼女の相手を依子に任せた。なつめは海千尋の恋人で、そこで働いているはずの彼を捜しに来たのだった。だが、依子は「確かに働きたいって来たけど、もういない」と告げる。
なつめが「なんでいないんですか」と訊くと、依子は「何でここにいないかは、会った時に聞きなさい。どこにいるのか、私は知らない」と告げた。なつめが「冷たすぎる」と批判すると、依子は「今さら下積みは嫌なんだって。頑張れない子に、この仕事は向かない」と言う。なつめの「引き留めてあげればいいのに」という言葉に、彼女は「ウチは来る者拒まず、去る者追わずなの」とクールに告げた。
なつめが「行く所が無くて」と店の前に佇んでいるのを見つけた依子は、「帰ればいいのに」と告げる。「海君がいなけりゃ、帰っても意味無いから。ここで働かせてもらえませんかね」と、なつめは頭を下げる。依子が「素人を雇うような余裕はありません」と断ると、彼女は「素人じゃありません。ケーキ屋の娘です。店のケーキは全部私が作ってました」と言う。なつめは得意のケーキを作るが、依子や十村たちは一口で渋い顔になった。
依子は「やっぱり帰りなさい。それか、アンタのケーキが美味しいと言ってくれる所へ行きなさい。探せば幾らでもあるから。クリスマスに街頭で売るようなケーキはウチじゃ売らない」と厳しいことを言う。なつめが「私のケーキ、どこがダメなんですか」と反発すると、十村は淡々と「仕事が遅い。クリームが緩い。シロップの仕方にムラがある」と指摘する。依子が用意したケーキを食べたなつめは、その美味しさに感銘を受ける。彼女は依子に「ここの味を覚えます。働かせて下さい」と頭を下げ、アルバイトとして店の事務所に住まわせてもらえることになった。なつめは海から別れを告げる手紙を受け取っていたが、諦められずに上京していた。
なつめが翌朝早くに店へ行くと、既にマリコが仕事を始めていた。マリコは「寝てる暇なんて無いの」と、なつめに冷たく当たった。だが、なつめはめげずに、張り切って掃除から開始する。常連客の老女・芳川さんが来ると、依子は新作を勧めた。なつめはケーキ作りも手伝うが、型にバターを塗らなかったため、たくさんの失敗作が出てしまった。マリコは「ウチは失敗したケーキは全て担当者が食べるの。アンタは1週間、このケーキ食べなさいよ」と怒鳴った。
なつめは初めての給料を貰い、休日を利用して海を捜しに出掛ける。ケーキ店巡りは海のことを尋ねるためだったが、美味しそうなケーキを見つけると購入した。一方、十村は新しいガイドブック作りのため、スイーツ店を食べ歩いた。先輩の店を訪れると、「講師も評論家も、どっちもお前には退屈なはずだ。お前を捜してるレストランのオーナーがいる。会ってみないか」と勧められる。十村が無言で断る意思を示すと、先輩は「それがパリにいたお前をニューヨークに連れて行った恩義あるオーナーでもか」と告げる。師匠が日本に来ていると聞かされ、十村は驚いた。
なつめは店の食材を勝手に使ってケーキを作り、依子に「食べてくれませんか」と差し出す。依子から幾つもの欠点を指摘され、なつめは素直に聞き入れて書き留めた。なつめは依子に、ジュリアンと知り合った経緯を尋ねる。「パリで修業してた時、師匠がニューヨークに支店を出すことになって、私も連れて行かれた。そこで出会った」と依子は言い、「アンタは仕事と男、どっち取るの?一人になるのが怖いんなら中途半端で終わる。一人前になるなら、これからいろんな経験を積まなくちゃならないんだからね」と述べた。
なつめは部屋を見回し、依子とジュリアンがシェフ姿の十村と一緒に写っている写真に気付く。依子に訊くと、かつて十村は伝説のパティシエと呼ばれており、10年前まではトップ・パティシエだったという。なつめは彼がパティシエを辞めた理由を尋ねるが、依子は「さあ、なんでだろう」と口をつぐんでしまう。十村は高級パティスリーのオーナーをしている師匠を訪ねた。「事故のことを聞いて心配してたんだ。何年になる?」と訊かれ、彼は「8年です。生憎ですが、私はもう厨房には立てません」と告げた。
ある日、なつめはマリコの作業を交代しようとするが、「何も出来ないくせにでしゃばるな」と罵倒される。「いちいち憎たらしい言い方すんなよ」と反発していると、マリコは突っ掛かって来た。「そうやって海君も苛めたんでしょ自分より才能ある奴を追い出すんでしょ」となつめが言うと、マリコは「あいつは2日で辞めていったんだから、今頃、ルミエールだって逃げ出してるわよ。あいつは根性無しの勘違い野郎だったけど、アンタが捨てられたの、良く分かるわ」と嫌味っぽく告げた。
なつめは「捨てられてない」と怒って店を飛び出し、海の元へ行く。なつめは「一緒に鹿児島へ帰るばい」と持ち掛けるが、海は一人前のパティシエになるまで帰らない意思を示す。そこへ海の恋人がやって来た。なつめの責めるような顔に、海は「だって俺たち、別れたわけだし。手紙読んだでしょ」と告げる。なつめは別れたと思っていなかったので「別れてないって」と反論するが、海は呆れた。
なつめは泥酔してコアンドルに戻り、泣きながら依子に「私、頑張りますから。ここに置いて下さい」と口にした。依子は「分かった。でもマリコに謝りなさい。私にジュリアンが必要なように、貴方にも仲間が必要なんだから」と告げる。なつめはうなずき、「私、絶対日本一のパティシエールになります」と決意を示す。翌朝、依子は芳川さんに「今日は食べて頂きたいケーキがあるんです」と言い、なつめにカシス・フロマージュを作らせた。芳川さんは「売り物としてはどうかしらねえ。お店の評判を落とさないように、もっと努力しなさい」と手厳しい意見を告げられる。
十村が来た時にも、依子はなつめにカシス・フロマージュを作らせる。店を後にする十村に、なつめが「私のケーキは何点ですか」と訊くと、「ゼロ点だ」という答えだった。なつめが「なんでですか。食べさせたんだから、私には聞く権利があります」と反発すると、十村は「客にそんなことを言うパティシエは世界中を捜してもお前ぐらいだ。もう辞めろ。本気で修業した奴の邪魔だ」と冷たく言う。なつめは「貴方はどうなんですか。人の作った物に文句言って、気分いいですか。天才とか言われても、途中で投げ出したんでしょ。どうしてパティシエ辞めたんですか」と十村に告げる。十村は「俺にはケーキを作る意味が無い」と言い、店を去った。
なつめは依子に、彼がパティシエを辞めた理由を尋ねる。依子は「十村には綺麗な奥さんと可愛い娘が一人いたの」と話し始めた。その日、妻のマキは税理士と会う用事で帰りが遅くなるため、幼稚園に通う娘・由実を迎えに行く役目は十村の担当だった。だが、彼は仕事を優先し、由実を迎えに行く時間を守らなかった。通園バスから一人で帰路に就いた娘は、十村を見つけて道に飛び出し、車にひかれて死んだ。それがきっかけで、十村はパティシエを辞めてしまったのだ。なつめが「どうして十村さんが伝説なんですか」と尋ねると、依子は「あの人のケーキは人を幸せにするから。どんな人でも、笑顔に変えたから」と説明した。
依子は晩餐会のデザートを担当する契約を交わすが、その帰りに突然のめまいで階段から落ちて大怪我を負ってしまう。最低でも2ヶ月はギプスが取れないため、それまでは店を閉めざるを得ない。「2ヶ月もお店閉めたら、お客様から別れられちゃうわ」と依子は漏らすが、「一旦、解散は仕方ない」と食材の処分をマリコに指示した。当然のことながら、晩餐会の契約も撤回となった。コアンドルの休業中に、マリコは恵比寿でレストランを経営している横井から、新しく出す店のチーフとしてスカウトされた。
なつめはジュリアンから、「最後の注文。届けて下さい」とケーキを届けるよう指示される。メモのアパートへ行くと、そこは芳川さん夫婦の住まいだった。芳川さんの夫に招き入れられ、なつめは中に入った。芳川さんは少し前から体調を崩しており、来週に手術をする予定だという。夫は「残念ながら、妻は今までのように貴方のお店に伺うことは出来ないと思います。医者から止められていたのに、私の目を盗んで通ってたんですからね」と笑う。そして彼は、「近頃は体力を付けなきゃならないのに、何も食べないんですよ。それで何か食べたい物は無いかって訊いたら、貴方のケーキを食べたいって言いましてね」と語った…。

監督は深川栄洋、脚本は いながききよたか&深川栄洋&前田こうこ、製作は桐畑敏春&豊島雅郎&鏡啓祝&伊藤ナツキ&小池一彦&古橋明、プロデュースは前田浩子&小榑洋史、ラインプロデューサーは星野秀樹、撮影は安田光、照明は中村裕樹、録音は林大輔、VEは さとうまなぶ、美術は製菓総合監修は上霜孝二、製菓総合指導は大川満、岩城南海子、編集は坂東直哉、音楽プロデューサーは緑川徹、音楽は平井真美子。
主題歌「明日、キミと手をつなぐよ」作詞:ももちひろこ&イワツボコーダイ、作曲・編曲:イワツボコーダイ、歌:ももちひろこ。
出演は江口洋介、蒼井優、戸田恵子、加賀まりこ、江口のりこ、尾上寛之、粟田麗、山口朋華、鈴木瑞穂、佐々木すみ江、ネイサン・バーグ、イアン・ムーア、嶋田久作、武発史郎、山村美智、松本亨子、岩井七世、野上敦美、あじゃ、平野靖幸、家入彬、朝香賢毅、田村彰規、北風寿則、岡村洋一、向井章介、土屋史子、谷川昭一朗、佐藤旭、小山かつひろ、菊原祐太朗、阿部六郎、星野晶子、長尾奈奈、渡辺慎吾、マーク・チネリー、シンシア・チェストン、ポリーナ・ズベレワ他。


『百万円と苦虫女』に続いて前田浩子が企画・プロデュースした作品。
監督は『60歳のラブレター』『半分の月がのぼる空』の深川栄洋。
十村を江口洋介、なつめを『百万円と苦虫女』でもヒロインだった蒼井優、依子を戸田恵子、芳川さんを加賀まりこ、マリコを江口のりこ、海を尾上寛之、マキを粟田麗、由実を山口朋華、芳川さんの夫を鈴木瑞穂、なつめの祖母を佐々木すみ江、ジュリアンをネイサン・バーグ、十村と依子の師匠をイアン・ムーア、横井を嶋田久作が演じている。

序盤、コアンドルを訪れた十村はミルフィーユとタルトを注文するが、それを食べる際、ミルフィーユがボロボロと崩れている。
十村は伝説のパティシエと呼ばれた男で、製菓専門学校の講師で、スイーツの評論家もしているプロフェッショナルなのに、そりゃマズいでしょ。
っていうか、何故そんなに食べるのが難しいスイーツを注文する設定にしちゃったのか。
江口洋介が上手く食べられないのなら、もっと簡単なのにすれば良かったのに。
どうしてもミルフィーユにしたいのなら、手元のアップだけ吹き替えにするとかさ。

で、その後、十村が他の店でケーキを食べるシーンもあるんだけど、やっぱりポロポロと崩れており、ちょっとしかフォークで突き刺すことが出来ていない。
それって、ひょっとして「そのケーキを分析するために、わざと細かく崩している」ってことなのか。
だとしたら、それを分かるように説明すべきだよ。
ただ、なつめのカシス・フロマージュを食べる時には、そんなに崩していないんだよな。
ってことは、やっぱり、ただ食べるのが下手なだけなんじゃないかと。

クロージング・クレジットでは江口洋介と蒼井優が最初に並列表記されているので、ダブル主演ということなんだろう。
だけど映画を見た限り、なつめの方が十村よりも遥かに出番が多いし、彼女が関わるドラマの方が厚い。
役者としての格があるから、江口洋介サイドが蒼井優とダブル主演の表記を要求したってわけでもないだろう。『少林少女』では柴咲コウの助演に回ったりもしているんだし。
ダブル主演ということにしてあるのなら、十村となつめの2人を描くバランスが悪すぎる。

この映画の抱えている大きな欠陥は、映画の主な舞台がコアンドルであるにも関わらず、十村は部外者に過ぎないってことだ。
彼は「たまに店を訪れる客」という立場に過ぎない。
それなのに、主役になるってのは無理がある。
ずっと十村の視点で物語を進め、彼が訪れる時だけコアンドルのシーンになるということなら、それでも成立するだろう。
しかし、十村がいなくても、コアンドルのシーンは登場するのだ。それは上手くない。

「なつめとの出会いによって、十村が過去の傷から立ち直る」という筋書きがあるわけだから、十村を脇役ではなく主役として配置しているのであれば、なつめはコアンドルで働き始めるのではなく、調理学校へ通う筋書きにすべきだろう。
そして、彼女を教えることになった十村が、その中で次第に変化していくというドラマを描くべきだ。
そうなると、コアンドルは登場させなくてもいいってことになるけどね。
絶対にコアンドルを舞台にしたいのであれば、十村をそこのオーナーパティシエにしておくべきだ。
そして、「かつては繁盛していたが、彼が意欲を失って店の味が落ち、客足が遠のいている」という設定にでもすべきだろう。

なつめが依子やジュリアンたちから仕事を教わるシーンは皆無で、アルバイト初日からケーキ作りを手伝っている。
失敗作をマリコに怒鳴られるシーンはあるものの、依子が「これはこうして頂戴」と指示したり、「これはこうしなきゃダメ」と注意したりすることは無い。
なんでだよ。
幾ら実家で手伝っていたとはいえ、やり方は全く違うし、なつめの学んでいた仕事だと、コアンドルでは全く通用しないはずでしょ。
そういう「なつめがケーキ職人として成長していく」ってトコを、ちゃんと描かないとダメなんじゃないの。

なつめが夜道を歩きながら英語の発音を勉強するシーンがあって、翌朝のシーンでは彼女が作ったクリームを依子が味見して「うん、悪くない」と言っているんだけど、その急激な成長ぶりは何なのか。
何も教わっていないのに、ただ英語の発音を勉強しただけで、なぜケーキ作りの技術が上がるのか。
英語の発音を勉強するシーンを入れる暇があったら、なつめがケーキ作りの練習をするシーンを入れるべきなんじゃないのか。
「うん、悪くない」の後、なつめが閉店後にケーキ作りを勉強するシーンを入れているけど、それだとタイミングが遅いでしょ。「うん、悪くない」と褒められてからじゃダメでしょ。

依子は芳川さんに「今日は食べて頂きたいケーキがあるんです」と言い、なつめにカシス・フロマージュを作らせる。
だけど、その前になつめが作ったケーキは、依子から幾つも欠点を指摘されているよね。
そこから、なつめが人前に出せるケーキを作れるほど上手くなったようには思えないのよ。
なつめが「日本一のパティシエールになる」という決意を示したんだから、そこからダイジェスト処理でもいいから、彼女がケーキ作りに今まで以上に真剣に取り込む様子でも挟んで、依子がなつめの成長を認めるようなシーンを用意して、それからお客さんに作らせるべきじゃないのか。

そういう手順をスッ飛ばしているから、依子が芳川さんに出すケーキをなつめに作らせるのは、失礼なことに見えるぞ。
実際、芳川さんからは「売り物としてはどうかしらねえ」と手厳しい意見を貰っているし。
そんなの、依子からすれば分かっていたはずでしょ。
どうして、まだ売り物になるケーキを作れないレベルなのに、なつめのケーキを芳川さんに食べさせたのか。
まるで理解できない。

しかも、依子が芳川さんに出すケーキとして作らせるのは、それまでになつめが一度も作ったことの無かったカシス・フロマージュなのだ。
それって、どういうつもりなのか。
何か1つケーキの種類を決めて、それを何度かなつめに作らせて、依子がダメ出しする流れがあって、そのケーキを人前で出せるレベルにするように持って行くべきなんじゃないのか、筋書きとしては。
いきなり作らせたら、そりゃ上手く作れなくても当然だよ。
あと、なつめが「日本一のパティシエールになる」と決意するので、そこからは心を入れ替えて真摯な態度で頑張るのかと思いきや、またマリコと言い争いになったり、「なんでですか。食べさせたんだから、私には聞く権利があります」と生意気なことを十村に言ったりしている。
まるで変わっていないのね。

なつめが十村に頼んでコアンドルのシェフになってもらうってのは、予定調和の展開ではあるんだけど、ちゃんと布石を打った上でのモノかというと、そうではない。
スムーズな流れを作ることをやらないまま、なつめが頼みに行くシーンに到達してしまう。
で、心に深い傷を抱えており、師匠から頼まれても現場復帰しなかった十村なのに、なつめが泣きながら懇願すると、あっさりとコアンドルのシェフになってしまう。
なんだよ、そりゃ。

それまでに、十村がなつめと関わった時間って、そんなに多くなかったのに。
その短い時間の中で、密度の濃い関係を築いていたわけでもないのに。
なぜ、なつめの懇願が十村の心を溶かしたのか、そこに説得力が全く無いよ。
なつめの「私にもケーキの作り方、教えて下さい」という言葉と、十村の娘が死ぬ日の朝に言っていた「じゃあケーキの作り方、教えてくれる?」という言葉を重ね合わせ、それが十村に復帰を決意させる引き金になったということにしてあるんだけど、それが彼の心を打ったとしても、こっちの心には全く響かないよ。

大体さ、十村は10年前にパティシエを辞めているのよ。
つまり、それだけブランクがあるわけで、そのブランクを取り戻すための時間は必要なはずでしょ。
それなのに、いきなり晩餐会のケーキを作っちゃうのね。そんで、それが客から絶賛されるのね。
10年前って相当なブランクだと思うんだけどね。
「実はパティシエを辞めた後も、個人的にはケーキを作っていた」ってわけでもないのに。
あと、十村が抱える心の傷の深さも、あんまり伝わって来ないんだよね。
その理由は簡単で、描写が足りていないからだ。

十村が復帰した後、マリコがなつめに苛立ちをぶつけたりしながらも結局は店に戻ってくるという展開があるんだけど、それは逆だと思うんだよなあ。
マリコが店を続けようという意思が先で、その後で「なつめが十村に頼んで手伝ってもらう」という順番にしないと、「十村の復帰」という出来事が弱くなってしまう。
そこを逆にするのなら、十村のパティシエ復帰は、もっと早めて中盤か前半に済ませるべき。
で、「最初はブランクが響いて上手く行かない」とか、幾つかの出来事を挟んで、「依子の怪我をきっかけに店を辞めていたマリコも戻って来る」というエピソードに移ればいい。

あと、最後まで「なつめがケーキ職人として成長する」という経緯が全く見えて来なかったんだけど。
晩餐会で出してお客から喜ばれるガレット・デ・ロワも、十村が作ったものだし。
「かつて十村からダメ出しを食らったカシス・フロマージュを、今度は美味しいと言ってもらえる」という流れも無いし。
にも関わらず、十村は彼女にニューヨーク留学の手続きをしてやるんだよね。
どこに才能を感じたのか、サッパリ分からんぞ。

(観賞日:2012年9月15日)

 

*ポンコツ映画愛護協会