『世にも奇妙な物語 映画の特別編』:2000、日本

[ストーリーテラー]
深夜12時を過ぎた郊外の駅。突然の大雨で、6人の客が待合室に足止めされた。大学生風の青年、ロッカー風の若者、サラリーマン風の男 、カップルの男女、それにサングラスの中年男だ。大学生風の青年は、ロッカーに「すごい雨だね」と話し掛ける。ロッカーはギターを 持っており、質問を受けて、バンドをやっていることを話す。サラリーマンは自宅に電話を掛け、迎えに来るよう頼んでいる。
大学生は「退屈凌ぎにいいかなと思って」と、雪山で雪崩に遭った登山隊の話をロッカーに語り始める。2人が生き残り、吹雪の中で テントで足止めを食らい、一人は足を怪我してた。何日経っても助けが来ない。怪我をしている方は衰弱して行く。でも実は、もう一人が 食料を密かに隠し持っていた。その男は「様子を見てくる」と言ってテントの外に出ては、隠した食料を食べていた。
怪我した方は死んでしまい、もう一人は死体を雪の中に埋めた。しかし次の朝、死体が隣に寝ている。何度埋めても、翌朝に目が覚めると 隣に寝ている。そんなことを大学生が話していると、サラリーマンたちも関心を示し、どうなったのかと尋ねる。しかし青年はオチを 忘れてしまった。するとサングラスの男が「私もその話は知ってます」と口を開いた。彼は「この話の大事な部分を忘れている。この話の 本当の怖さは、そういうことじゃないんです」と言い、ある物語を話し始めた。

[雪山]
ジャンボ機が雪山に墜落し、大勢の犠牲者が出た。そんな中、若い女性の木原美佐と親友・近藤麻里、カメラマンの結城拓郎、医者の 真辺春臣、中年サラリーマンの山内義明が生き残った。結城は報道が義務だと言い、写真を撮り続ける。麻里は足を怪我しており、真辺が 診察した。山内は「数キロ先に山小屋がある。そこまで行くぞ。指示に従え」と偉そうな態度で命令する。機体は深雪の上にあり、いずれ 埋まることが確実だったため、真辺も彼の意見に賛同した。
山内が歩けない麻里を背負い、一行は歩き始めた。しばらく進むと山内は麻里を降ろし、彼女をビバークさせるための穴を掘り始める。 美佐と結城は激しく抗議した。真辺が傷口を見ると、そこが凍り始めている。結城は麻里を背負うが、すぐに疲れて座り込んでしまう。 山内は「それ見たことか。無駄に体力を使うだけだ」と告げた。真辺は「仕方ない」と言い、ビバークに賛同した。
4人は穴を掘って麻里を埋め、山小屋に辿り着く。中に入ってストーブに火を付けても、全く温まらない。真辺が「寒いという先入観が火 を冷たくしている。炎に集中するんだ」と告げる。すると、みんな温かくなってきた。美佐が毛布を見つけると、山内が奪おうとした。 すると真辺が「全員分、あるようだ」と告げる。山内が「良かったな、ちょうど4人分」と言う。真辺は食料を発見し、「これで4人とも 助かる」と口にした。その言葉を聞いて、美佐は麻里のことが気掛かりになった。
美佐は麻里の元へ行こうと山小屋を飛び出し、結城が追い掛けた。2人は穴に到着し、助けを求める麻里をスコップで掘り起こそうとする 。だが、結城が深くスコップを突き刺すと、鮮血が雪に広がった。2人を追ってきた山内が、「首を刺しやがった。人殺し」と囃し立てる ように告げた。3人が山小屋に戻ると、真辺が美佐に「友達はどうでした?」と尋ねる。山内が「もう死んでた」と述べた。
真辺は美佐たちに、雪山で雪崩に遭った登山隊の話を語り始める。それは郊外の駅で大学生がロッカーに話したのと同じ内容だ。真辺は オチを知っていたが、あえて話さなかった。彼は「食べ物では争わぬこと。それが言いたかった」と言う。それから彼は、「短時間の睡眠 なら体力は回復する。交替で起こせばいい」と告げた。山内は、自分が起こされずに死ぬことを恐れた。そこで真辺は、「1人が起きて 残りを起こす。これを5分交替で繰り返す。起こしたら、その人の場所に寝て、どんどん移動していく」と提案した。
美佐たちは順番を決め、起こす度に場所を移動する作業を繰り返した。そんな中、美佐が「もう一人、いる」と怯えて告げる。5人が いなければ、彼女たちが次々に起こしながら場所を移動していくことは不可能なのだ。それに気付いた4人は怖くなり、今度は場所を移動 せずに交替で起きることにした。しかし結城が山内を起こそうとすると、返事が無い。山内の体には死後硬直が起きていた。様子を見た 真辺は、山内が2時間前に死んでいることを宣告した…。

[携帯忠臣蔵]
エジプトで発掘調査が行われていた。調査隊は、携帯電話を発見した。時は遡り、元禄の時代。元禄14年3月14日に発生した江戸城の 傷害事件で、赤穂藩は解散を命じられた。家老である大石内蔵助の出方が注目されるが、彼は憎き吉良の首を討つべきだという家臣たちの 要求に辟易していた。「幕府にもう一度、頼んでみるから命を懸けて仕返ししなくたって」と、大石は拗ねたように言う。「なんで殿は 吉良を。余計なことしてくれたわ」と、彼は溜め息をついた。
そんなある日、大石は家の前で鳴り響く不思議な物体を発見した。それは携帯電話なのだが、もちろん大石が知るはずもない。警戒した彼 が刀で突くとボタンが押され、「もしもし、聞こえますか」と話し掛ける男の声が聞こえた。男は大石の名前を呼び、携帯電話の使い方を 教える。男は、300年後から電話を掛けていること、歴史上であった事件が本当だったかどうかを調べていることを説明した。
大石は男の話を信じなかったが、「側近の上野喜六さんが事故で亡くなる」と言われた直後、実際に喜六が事故死した。男は大石に、 「吉良邸討ち入りのことで事実確認したい」と告げた。「そんな血生臭いことは」と、大石は討ち入りをする気が無いことを口にした。 すると男は「心の内を明かさないのが武士道なんですね、立派だ」と言う。「どうしてワシのことを知っている?」と大石が尋ねると、男 は「有名人ですから」と答える。未来で有名になっていると知り、大石は得意げになった。
男は、大石が討ち入りを果たした立派な人物だという評価がある一方で、研究者によっては、「ズルくて討ち入りから逃げた小心者」と いう説を唱える者もいることを話した。大石は「仇討ちを考えているが、今は機が熟すのを待っている」と、心にも無いことを告げた。 女房・りくが下の子供2人を連れて実家に戻ったことを知り、大石は愛人・おかるの家へ嬉しそうに出掛けた。そこへ電話があり、男は 大石に「大事な時に遊んでるのか。討ち入りする気が無いんだ」と言う。大石は「敵を欺くためにやっている」と嘘をついた。
大石は赤穂浪士の原惣右衛門から、家臣の山岡が吉良を襲って失敗したことを知らされる。すぐに江戸へ行くよう求められた大石だが、原 に「お前が江戸へ行って処理してくれ」と指示した。おかるの元へ行くと、彼女は「からくり箱に付けて」と組み紐を渡した。大石は、 それを携帯電話に付けた。おかるから妊娠を知らされ、大石は喜んだ。彼はおかるを長男・主税の待つ自宅へ連れて行く。だらしない父に 激怒した主税は、刀を抜いて斬り掛かる。大石は慌てて逃げ惑い、携帯電話で刀を防いだ。
大石は男から、討ち入りにあたって何か言葉を残すよう求められた。「吉良を討つことこそが、亡き友の恨みを晴らすことだ」と適当に 喋ると、男は「武士の中の武士だ」と称賛する。調子に乗った大石は、「吉良の首を取ることが武士の道である。皆の者、目覚めよ」と 饒舌に話した。すると、いつの間にか後ろには主税と赤穂浪士たちが集まっていた。彼らは大石が主君の仇討ちを果たす気になったのだと 思い込み、感動した。大石は江戸へ行くハメになり、困惑する彼を尻目に、浪士たちは討ち入りの日を決めてしまう…。

[チェス]
世界チェスチャンピオンの加藤晃は、コンピューター「スーパーブルー」との戦いに敗れた。3年後、彼は酒浸りで浮浪者寸前となって いた。彼はスーパーブルーに負けてからチェス界を去り、消息不明となっていた。ある日、彼は黒スーツの男たちに捕まり、車で高層ビル に連行された。通された部屋には、1人の老人が待ち受けていた。彼は晃に「スーパーブルーとの戦いでは大金を賭けて大損をした。償い をしてほしい」と言い、自分とチェスで勝負するよう持ち掛けた。
晃はチェス盤を見ることさえ出来なくなっており、勝負を拒否した。しかし老人が「不戦敗というわけか」と言って晃のキングを倒そうと すると、その手を掴んで制止した。晃はチェス盤を見ないまま、ゲームを開始した。老人はゲームをやりながら、「君に必要なのは酒じゃ なくて医者だ。チェスを拒否しても君はチェスを求めている」などと饒舌に語る。窓の外を見ながら動かす駒を指示していた晃は、それに 耐えかねて「黙れ!」と怒鳴った。すると、窓の外を歩いていた人々が突然、チェスの駒のように並んだ。
晃が困惑していると、老人はポーンを取った。すると窓の外では、同じ位置に立っていた白服の男が、動いてきた黒服の男に刺された。 晃が驚いて「どういうことだ」と尋問すると、老人は下へ行って確かめるよう促す。慌てて晃が下に行くと、本当に彼らはチェスの駒の 位置に立っていた。晃が短刀を抜くと、刺された男は「次の手はどうしますか」と告げて息絶えた。他の連中は歩き出し、どこかへ去った 。駆け寄った主婦が、短刀を持っている晃を見て悲鳴を上げた。
晃はメンタルクリニックの院長を務める友人・友田誠一の元へ行き、事情を説明するが、まるで信じてもらえない。「スーパーブルーに 負けてからの悪夢と同じじゃないのか」と友田は言う。晃はスーパーブルーに敗北した後、「負けたキングはクイーンを守れない」と妻の クミに告げ、家を出ていた。友田は「他の駒を犠牲にしてキングを救えばいいのはチェスだけだ。現実は違う」と言う。
クリニックのファックスに、「次の手は?」と書かれた紙が送られてきた。晃は次の手を叫ぶ。すると、今度はクイーンで晃のナイトを 取る手を示すファックスが届いた。刹那、コーヒーを飲んでいた友田が吐血して倒れる。そのカップにはクイーンが書いてあり、壁には馬 に乗る彼の写真が飾られていた。晃が狼狽していると黒衣の看護婦がドアを開けて現れ、「次の手は?」と問い掛けた。
晃が部屋を飛び出すと、廊下に立っていた少年が「次の手は?」と言い、チェスのゲーム盤を書いた紙を見せる。晃が駐車場へ行くと、車 が全てチェスの位置に移動する。車には、駒を示すキーホルダーが付いている。晃がルークの車に乗ると、黒い車が正面から突っ込んで きた。かつて住んでいた家に晃が行くと、売り家になっていた。「次はクイーン?」と、晃は妻の危機を察知した。
老人の元へ戻った晃は、「妻はどこだ。こんなチェスは無い。降ろしてもらう」と告げる。老人は「負けを認めるなら、キングを倒した まえ」と言うが、晃は「キングのチェスを見せてやる」とチェス盤に向かい、ゲームを続ける。そして晃は、あと2手でチェックメイト まで辿り着く。すると老人は「また他の駒を犠牲にするのかね」と言う。黒スーツの男たちが晃を捕まえ、目隠しをした。
晃は目隠しのまま、別の場所に連行された。そこは競技場となっており、巨大なチェス盤が置かれていた。目隠しを外された晃は、人間 サイズの駒が配置されているのを目にした。老人は「君がチェックのためにナイトを動かせば、クイーンは死ぬことになる」と告げる。 クイーンの仮面が外されると、それは拘束されたクミだった。老人は「次の私の手は、ルークでクイーン取りだ」と宣告した…。

[結婚シミュレーター MARRIAGE SIMULATION SYSTEM]
夕立の降る映画館の前で高城千晴が雨宿りしていると、バスから降りてきた徳永有一が隣に駆け込んできた。2人は会話を交わし、一緒に 映画を見ることにした。これが2人の出会いだった。1年も経たない内に結婚を決めた2人は、結婚式場を見学する。結婚式場担当者は、 式場オリジナルのサービスに関して説明した。千晴と有一は、10年目の記念後に送られるビデオメッセージを撮影した。
千晴と有一は、最新のオプションサービスを知った。それは「結婚シミュレーター」と呼ばれるもので、結婚生活をコンピューターで シミュレーションし、疑似体験させてくれるのだという。医師は「DNAや生い立ち、血液検査などから、結婚生活を性格に分析する」と 説明する。最初から内容が決まっているわけではなく、感情の変化によって展開も結末も違ったものになっていくという。
シミュレーションが開始され、千晴と有一の脳内で結婚生活が進行していく。結婚した2人は、目玉焼きに掛けるのが醤油かソースかで 意見が分かれる。便座を上げておくかどうかでも意見が異なった。有一は明るいと眠れず、千晴は明かりが無いと眠れない。食べ終わると テレビばかり見ている有一に、千晴は文句を言う。有一は、スウェットにすっぴんばかりという彼女の姿に不満を漏らした。
休憩に入って目を覚ました2人は、「違う人間なんだから、ぶつかるのは当たり前」と互いに言い合い、納得しようとする。2人は再び シミュレーターの機械に戻った。千晴が妊娠し、2人は子供の名前を「晴季」と決めた。しかし男児が誕生すると、有一の母が勝手に 「有太郎」と決めてしまう。徳永の家の伝統だと聞かされるが、千晴は「子供の名前は好きに付ける」と有一に愚痴を言う。
有一は接待で結婚記念日をすっぽかし、千晴が怒ると、「接待だったんだ。明日はゴルフ」と、謝ろうともしない。それどころか、彼は 「いつまでも恋人気分で色々と注文するなと」と逆ギレする。千晴が働きに出ることを決めると、有一は文句を言う。2人は言い争いに なり、離婚を決めた。シミュレーションが終わると、現実の世界でも2人は険悪な雰囲気になっていた。有一は結婚式のキャンセルを 式場担当者に告げ、それに千晴も同意した…。

監督は落合正幸(『雪山』)&鈴木雅之(『携帯忠臣蔵』『ストーリーテラー』)&星護(『チェス』)&小椋久雄 (『結婚シミュレーター』)、原作は清水義範(『携帯忠臣蔵』)、脚本は三谷幸喜(『ストーリーテラー』) &鈴木勝秀(『雪山』) &落合正幸(『雪山』)&中村樹基(『チェス』)&星護(『チェス』)&相沢友子(『結婚シミュレーター』)、脚色は君塚良一 (『携帯忠臣蔵』)、製作は宮内雅喜、プロデューサーは小牧次郎&石原隆&岩田祐二&井口喜一、アソシエイトプロデューサーは 瀧山麻土香&関口大輔、企画は河村雄太郎&丸省一郎&植原正人、製作統括は島谷熊成&高野力&武政克彦&市村佳生&豊忠雄、 撮影は藤石修(『雪山』『結婚シミュレーター』『ストーリーテラー』) &栢野直樹(『携帯忠臣蔵』)&高瀬比呂志(『チェス』)、 編集は田口拓也&深沢佳文&山本正明、録音は小野寺修&横野一氏工、美術は清水剛&吉田孝、音楽は[くさかんむりに配]島邦明& 佐橋俊彦、テーマ音楽は[くさかんむりに配]島邦明。
[ストーリーテラー]出演者はタモリ、山本耕史、佐藤隆太、相島一之、正名僕蔵、岩崎道子、谷津勲。
[雪山]出演者は矢田亜希子、鈴木一真、宝田明、大杉漣、中村麻美、石橋祐、小西崇之、藤田正則、浅川綾、河合杏奈。
[携帯忠臣蔵]出演者は中井貴一、奥菜恵、戸田恵子、八崎智人、勝地涼、酒井敏也、成田浬、木村靖司、小林すすむ他。
[チェス]出演者は武田真治、石橋蓮司、甲本雅裕、岡元夕起子、吉田朝、川合千春、北原奈々子、樅木英介、照英、杉山愛國、谷畑聡ら。
[結婚シミュレーター]出演者は稲森いずみ、柏原崇、郷田ほづみ、益戸育江、芽島成美、浅野和之、北村有起哉、小西真奈美ら。


1990年から1992年まで3シーズンに渡ってフジテレビ系列で放送され、その後も春と秋の番組改編時期になるとスペシャル版が放送されて いる『世にも奇妙な物語』の劇場版。
『トワイライトゾーン』を模倣して作られている。
ストーリーテラーのタモリが登場する駅での様子をプロローグとエピローグ、そして各話のブリッジとして挟みつつ、4つのエピソードを 並べる構成となっている。

[ストーリーテラー]に登場する大学生風の青年は山本耕史、ロッカー風の青年は佐藤隆太、サラリーマン風の男は相島一之。
[雪山]の美佐は矢田亜希子、結城は鈴木一真、真辺は宝田明、山内は大杉漣、麻里は中村麻美。
[携帯忠臣蔵]の大石は中井貴一、かるは奥菜恵、りくは戸田恵子、未来の男は八崎智人、主税は勝地涼。
[チェス]の晃は武田真治、老人は石橋蓮司、友田は甲本雅裕、クミは岡元夕起子。
[結婚シミュレーター]の千晴は稲森いずみ、有一は柏原崇、結婚式場担当者は郷田ほづみ。

公開された当時、「テレビでは製作不可能な4つのエピソード」という風に宣伝されていたはずだが、どこがテレビで放送できないのか、 サッパリ分からない。
放送コードに引っ掛かりそうな残酷描写や性的描写、あるいは差別的な発言や倫理的に物議を醸し出しそうなネタなど、そういうモノが 含まれた4編なのかというと、そんなことは全く無いのだ。
大体さ、これって公開が終わった後、フジテレビ系で放送されたこともあるし。
それによって、宣伝文句が嘘だったことが露呈しちゃってるし。

[ストーリーテラー]では、ふと大学生が視線を向けると、ストーリーテラーがじっと見つめている。
その辺りで、不安を煽るようなカメラワークやSEで演出しているんだけど、そこで何か恐ろしい出来事、奇妙な出来事が起きるわけでは ない。
その演出は、分からないではないけど、過剰だよね。
そういう風にやるのなら、最初からストーリーテラーを登場させておくのではなく、大学生が話のオチを忘れたところで、いつの間にか ストーリーテラーが出現している形の方がいい。そして彼が話し始めたところで、初めて「これから奇妙な物語が始まりますよ」という 雰囲気を作ればいい。

各話が終わると、また駅のシーンに戻る。そして大学生たちが「もっと他の話を」とせがみ、その度に携帯電話や結婚式場のパンフレット など、次の話に関連のある物品がアップになり、それを見たストーリーテラーがニヤリとして、次のエピソードが始まるという構成に なっている。
だけど、彼の話を聞いていた大学生たちのリアクションは、全く無いんだよな。
怖がることも無いし、[雪山]が終わった時なんて、サラリーマンは電話を掛けているし。
っていうかさ、そのブリッジ、ブリッジの役目を果たしていないでしょ。
普通にオムニバスとして4つのエピソードを並べても、特に変わりは無いよ。

[雪山]は、山小屋が見える奴と見えない奴がいて、次に山小屋の中でもストーブが見える奴と見えない奴がいるという、ある意味では 分かりやすさが強すぎるんじゃないかと感じるほどの伏線が張られている。
で、真辺が「寒いという先入観が火を冷たくしている。炎に集中するんだ」と言い、みんなが見つめた途端に炎が青から赤になって温かく なるので、もう「ああ、こいつら幻覚症状に陥ってるな。そこで描かれていることは現実じゃなくて、彼らの思い込みなんだな」という ことは読み取れる。
ただし、それはそれで別に構わない。オチとして、そこを上回るモノ、意外な展開があれば、その分かりやすいネタバレは構わない。
問題は、これが「どこにでも良くあるような話」のレベルに留まっているということにある。
特に演出面で際立ったものがあるわけではなく、心理ドラマで惹き付けるものがあるわけでもなく、良くある話を凡庸な演出で見せている だけ。
あと、とにかく暗すぎて姿が良く見えないというのも、大きなマイナスだな。

山小屋で「もう1人いる」と気付くのは、「4人が壁の隅に立ってタッチしていく遊びを始めたけど、4人だと成立しないことに気付く」 という、有名な都市伝説が元ネタだろう。
私は元ネタを知っていたので、美佐たちが「次々に起こして、場所を移動していく」という作業を始めた段階で「もう一人いるということ でビビるんだろうな」と展開が予測できた。
「元ネタを知っていたら、先に展開が分かるので、楽しめないのではないか」と思うかもしれない。
でも、この映画は、たぶん元ネタを知っていた方がいいと思う。と言うのも、元ネタを知らない人は、美佐が物を使って自分たちの動きを 見せても、「5人いなけりゃ彼らが起きることは不可能」ということが理解しにくいんじゃないかと思うのよね。
っていうか、そもそも「1人が起きて、残り3人を起こす」というだけでいいのに、場所を移動していく」というルールにしている時点で 、設定に無理があるよな。
そんなことをする必要性が全く無いのよ。

[携帯忠臣蔵]は、まず喜劇テイストの話を持って来た時点で、バランスの悪さを感じる。
あと、冒頭では携帯電話がエジプトで発掘されているが、これに全く意味が無い。いきなり元禄時代から始めて、そこに未来の男から電話 が掛かるという形でいい。
その未来の男は、大石に「急に音を立てられると困る」と文句を言われ、着信音を変えると告げている。だから、それが何か展開にとって 重要な意味を持つネタなのかと思ったら、他のメロディーに変更されるだけ。討ち入りには何の関係も無い。
着信音がそのまま変更されなくても、話には何の影響も無い。
なんじゃ、そりゃ。

討ち入りをする気の無い大石に、未来の男が討ち入りについて確認を取るという話なので、てっきり「未来の男が先走って色々なことを 喋り、それによって、本来は討ち入りなどする気の無かった大石の行動が、史実で言われている通りに軌道修正されていく」というネタ なのかと思ったら、そうじゃなかった。
おかるが携帯電話にストラップを付けるとか、まるで討ち入りとは関係のないネタをやりつつ、それ以外は大石がフラフラと遊び歩く中で 、たまに携帯で会話を交わすだけ。
「誉められて調子に乗る」というだけなら、未来からの携帯電話を使わなくてもいいのよね。
「話す相手が討ち入りについて全て知っている」ということを、もっと効果的に使うべきだろうに。

[チェス]は、ギミックの処理方法に失敗していると言わざるを得ない。
最初にチェスの駒通りに配置された男が刺し殺されるが、それが晃の知人じゃない時点で中途半端。
さらに、そこで駒通りに配置されている人々を見せておいて、次は友田がチェス盤の配置とは無関係に死ぬ様子を描くのも失敗。
だったら、最初に配置通りに並ぶ人々は見せるべきじゃない。それよりは、「晃はゲームの途中で馬鹿馬鹿しくなって部屋を立ち去ったが 、友田が死んでしまい、知人がチェスの駒になっていることが判明」という流れの方がいい。

晃が駐車場へ行くと、そこでは車が全てチェスの位置に移動する。
その時点で「チェス盤と現実をリンクさせるなら、友田の時も徹底しろよ」と言いたくなる。
しかも、その駐車場では、誰も知人が死なないんだよな。それも中途半端でしょ。
駒が取られたら、必ず晃に近い人間が死ぬべきなんだよ。家が売り家になっているとか、そんなのは別にチェスと関係が無くても、 ありそうだし。
「人間がチェス盤の駒になる」というギミックを持ち込みながら、それを中途半端な形でしか描写できていない。

あと、たぶん元ネタはデヴィッド・フィンチャー監督の『ゲーム』なんだろうけど、それが晃を立ち直らせるためのショック療法という 設定も無理がありすぎる。
みんなが拍手で集まってきて「治療だったんだよ。もう一度、お前がチェスに挑戦するようにってな」と友田が言い出すと、すげえ バカバカしさを感じる。
それと、晃はクミを守るためにキングである自分が盾になったことに関して「チェスプレーヤーとしては最低の一手だった」と言ってる けど、そういう問題じゃないんだよな。
私はチェスに詳しくないけど、どうやらチェスでは、劇中で晃がやったようなキングの動かし方は認められていないらしいのだ。

そこを「ルールより愛を優先した」ということにしたいのなら、晃がルール通りに宣言し、ホントの駒のようにマスの上に立つのは違う でしょ。
そこは、「クイーンを守る」と叫んだ後にルークをやっつけるとか、あるいはルークが突進しようとしてから急いでクイーンの前に立ち はだかり、ルークに突き刺されてから「ルールなんてクソ食らえだ」と叫ばせるとか、そういう形にしないと。
ルールに従っているかのような動きを示しておいて、だけどルールでは認められていない動きってのは、納得し難いものがある。

あと、実は老人の打つ手は全てスーパーブルーの計算をイヤホンで聞いていたものであり、最後は「スーパーブルーは思いもよらぬ君の手 にオーバーロードしたんだ」と言い出し、晃がキングでクイーンを守ったことを「所詮、機械は機械。愛は計算できなかったんだよ」と 称賛するが、いやいや、そんな手を打った時点で反則負けだろ。
もしくは、そんな手を打とうとしても、スーパーブルーは次の手として認めないだろ。
なんでルール違反の手を打たれてオーバーロードなのよ。

[結婚シミュレーター]は、登場人物が大事な言葉を言い間違えていることが、引っ掛かって仕方が無かった。
小夜子は「結婚シミュレーター」を「結婚シュミレーター」と言う。
千晴は「結婚生活をコンピューターでシュミレーションして」と言う。
医師は「それでは、シュミレーションを開始します」と言う。
エレベーターのカップルの男は「シュミレーションの中の話だよ」と言う。

誰か一人が、たまたま言い間違えているわけではない。全ての登場人物が、最初から最後まで、「シミュレート」を「シュミレート」と 言い間違えているのだ。
ってことは、ひょっとすると、シナリオに「シュミレート」と書いてあるんじゃないか。
まあ書いてあったとしても、誰かが気付いて「これは間違っているのでは」と指摘すべきだとは思うけどさ。
言い間違いが物語の展開に関わって来るのか、意味があるのかというと、そうじゃないんだから。
そこが気になってしまい、あまり内容が頭に入って来なかった。
ともかく、テレビの2時間スペシャルで充分な作品だろう。

(観賞日:2011年2月21日)

 

*ポンコツ映画愛護協会