『甦える大地』:1971、日本

水戸郷士の中館広之助は百姓の勝蔵たちを雇い、鹿島の掘割工事を行っていた。鹿島では寛保二年と弘化二年に大洪水が発生しており、彼は余分な水を海に吐き出せば被害を防げると考えたのだ。しかし藩主からの工事資金が打ち切られたため、勝蔵たちは仕事を放棄した。中館は自分が何とか手間賃を用意すると訴えるが、百姓たちの気持ちは変わらなかった。そこで中館は役人の折原に頼み、牢屋者に仕事をさせた。堀は完成するが海が逆流し、大勢の犠牲者が出た。中館は百姓たちの怒りを買い、自害を選んだ。
現代。茨城県開発課の植松一也は鹿島港を作るため、大蔵省に通って大臣へのアピールを繰り返していた。それを知った建設省の野田鋭介は、予算など付かないから諦めろと告げる。植松は鹿島臨海工業地帯の計画図を彼に見せて、詳しく説明した。野田は夢物語だと一蹴し、あと3年早いと告げた。彼は最年少で知事になった岩下三雄の名前を出し、同じ穴のムジナだと評した。野田は「貧乏県の茨城が2年目で予算を付けようなんて虫が良すぎる」と言うが、植松は「そうでしょうか」と反発した。
植松は野田を鹿島の浜辺へ連れて行き、「ここには文明など無く、あるのは海と松林だけ。不毛の砂が文化を拒み続けてる」と語った。彼は鹿島を砂の鎖から解放するのが目的であり、港はそのための手段に過ぎないと明かす。港に企業を誘致し、その金で砂丘を農業団地として開発するのが、植松の目的だった。岩下は側近を伴い、ヘリコプターで鹿島の浜辺に降り立った。とよという老婆が貝を密漁しており、岩下は貧しい生活ゆえの行動だと理解した。
昭和三十七年。鹿島港建設の準備が始まった。鹿島開発計画の地元説明会が開かれ、岩下は「この開発の主人公は県ではなく地元住民。工業も港も、地元の経済を豊かにして農業を繁栄させるための手段」と語った。植松と後輩の坂口は、協力を求める資料を学校で教師たちに配布した。開発反対派の添島美奈子は資料を受け取らず、その場を後にした。説明会に参加した鹿島町長の権藤義一郎は、工業を誘致する必要性を訴えた。漁師の竜吉たちが口汚く罵ると、激怒した権藤は出て行くよう要求した。
説明会が終わった後、漁師の土屋勇作は工場経営者の滝井に呼び止められた。滝井は勇作の娘である幸子が、東京から戻っていることに言及した。幸子は工場で働いていたが、給料を前借りして踏み倒し、東京へ行っていた。滝井は勇作に利息を付けて返済するよう要求し、出来なければ土地を取り上げると通告した。勇作は土浦金属で働く息子の啓介から何かあったのかと訊かれるが、何も答えなかった。その夜、悪酔いして帰宅した勇作は、まるで反省していない幸子に殴り掛かった。
鹿島港の試験堤工事が始まり、地元住民も作業に従事する。しかし勇作は仲間の前で、「こんなモン、流されちまえばいいんだ」と苛立ちを示した。開発所長の久保は部下の坂口や横山たちに、用地買収のための行動を指示した。坂口たちは開発に賛成する承諾を得ようと奔走するが、好意的に迎える地元住民は皆無に等しかった。植松は美奈子と再会し、開発に反対する理由を尋ねた。美奈子が「港の見えない所で暮らさなければならない漁師の気持ちをお考えになったことはありますか」と言うと、植松は「その考えを打ち破ってみせますよ」と笑顔で告げた。彼が海釣りに誘うと、美奈子は快諾した。
焦りを覚えた久保は岩下の元へ行き、用地買収に踏み切るよう訴えた。しかし岩下は、「承諾書が全住民の80%を超えない限り、用地買収には掛からない」という原則は崩さないと宣言する。久保が「そんなこと言ったら、用地買収だけで5年も10年も掛かる」と言うと、彼は努力を重ねるよう要求し、「それで駄目なら計画を断念するしかない」と述べた。岩下は妻の佳子に、「私は奈良時代に東国文化の中心だった鹿島に、再び歴史の光を当てたいだけなんだ」と話す。佳子から「思い上がりよ。貴方がやるんじゃないんです」と言われた彼は、自身の過ちに気付いて反省した。
植松は美奈子と釣りに出掛け、「今回の開発は無から始めて、完全な有を作る。自然を本来の意味で人間の手に返すんです」と熱く語った。台風17号が鹿島を直撃し、植松は心配になって試験堤を見に行く。その途中で権藤と遭遇した彼は、開発に疑問を抱き始めたと言われる。植松が理由を尋ねると、地元から反対の声が上がったのだから当然だと彼は答えた。植松が試験堤に着いた直後、同じように心配した岩下も現れた。彼らは無事に台風の目が過ぎ去るのを祈るが、試験堤は壊れてしまった。
翌朝、地元住民が試験堤の近くに集まり、計画反対の声を上げた。しかし植松は全く気にせず、「壊れた原因を調べて本堤を作る」と説明してビラを配布した。とよは親切に接してくれた坂口のために、承諾書に印鑑を押した。川島製鉄の社長は視察に訪れ、岩下と会った。彼は試験堤の崩壊を懸念し、「私の決断には、5万の従業員とその家族の運命が懸かってる」と告げる。岩下が「茨城県民は200万です」と言うと、彼は「貴方の熱意に賭けましょう」と鹿島への進出を約束した。
啓介は土浦金属の工場が潰れて失業し、幸子は銚子の飲み屋で働き始めた。美奈子は教え子の園田から、高校進学を諦めると告げられた。彼女が「貴方から絶対に大丈夫」と言うと、園田は「畑は嵐で流された。肥料代が払えず、土地は高利貸しに取り上げられた。なんで俺が上の学校に行けるんだ。東京へ行く。先生は何も分かっちゃいない」と声を荒らげて走り去った。美奈子は同僚の教師から、「県には土地を売るな。もっと高く売ってやる」と言って村々を口説き回っている男がいることを知らされた。
美奈子は植松と会い、同僚から聞いた情報を教えた。開発反対派なのに教えてくれる理由を植松が尋ねると、彼女は考えが変わったのだと答える。美奈子は自分の学校の高校進学率が全国平均を大幅に下回る現実を説明し、優秀な生徒が進学を諦めて出稼ぎに行く現象を何とかしたいのだと語った。植松は坂口に電話を掛け、村々を回っているのが権藤派の町会議員である滝井だと知った。岩下は権藤と会い、進出してくれる企業名を教えるよう要求された。岩下は「公表すれば利権が渦巻いて開発の理念がメチャクチャになる」と説明するが、権藤は聞き入れなかった。植松は帰宅する権藤を待ち受けて説得を試みるが、まるで相手にされなかった。
権藤は地元住民に「絶対に土地を売るな」と呼び掛け、大勢を観光バスに乗せて県庁まで送り届けた。啓介たちが地下の値上げを要求する抗議デモを行う中、岩下は穏やかな口調での説明に終始した。植松は野田に助けを求めるが、冷たく拒否された。鹿島開発第二課に戻った彼は、不在印の土地に利権目当てのヤクザが掘っ立て小屋を建てたという情報を知らされた。現地へ飛んだ植松は重機を操縦して小屋を破壊し、わざとヤクザから暴行を受けて警察が逮捕するように仕向けた。
ヤクザが警官隊に連行された後、その様子を見ていた啓介は植松を睨んで「全て計略的なんだ。アンタのやり口は良く分かったよ。とどのつまり、権力を行使する。今にきっと、アンタたちは力で俺たちの土地を取り上げるんだろ」と非難した。植松は開発次長の林に呼ばれ、厚生課の係長に異動するよう指示された。植松が抗議すると、林は上層部が分をわきまえない行動を問題視しているのだと説明した。植松は岩下の家へ行くが、彼は東京へ出張中だった。佳子が植松に助言していると電話が入り、岩下が倒れたことを知らされた…。

監督は中村登、原作は木本正次『砂の十字架』より(講談社刊)、脚本は猪又憲吾、製作は石原裕次郎&大工原隆親&小林正彦、撮影は金宇満司、照明は椎葉昇、録音は佐藤泰博、美術は坂口武玄&小林正義、編集は渡辺士郎、音楽は武満徹。
出演は石原裕次郎、三国連太郎(三國連太郎)、滝沢修、司葉子、渡哲也、岡田英次、北林谷栄、志村喬、浜田光夫、城野ゆき、寺尾聡、川地民夫、奈良岡朋子、寺田路恵、小高雄二、信欣三、内藤武敏、高原駿雄、下川辰平、森幹太、金井大、玉川伊佐男、北見治一、戸田千代子、椎名勝巳、高津住男、武藤章生、坂口芳貞、北山年夫、弥富光夫、新倉博、小池修一、吉田次昭、陶隆、林孝一、村岡章、笹岡勝治、依田英助、猪野剛太郎、三上左京、大山豊、中村靖之介、小鯖勇、名取幸政、児玉謙次、中村豊、桂淳平、八木喬、佐々木明、瀬山孝司、荒井岩衛、木本速夫、粟津祐教、山口博義、賀川修嗣、山岡正義、沢美鶴、上西弘次、森みどり、森田蘭子、吉田朗人、石崎啓二、市原久、大門実ら。


木本正次の小説『砂の十字架』を基にした作品。石原プロモーションが製作し、松竹が配給した。
監督は『わが恋わが歌』『風の慕情』の中村登。
脚本は『ある兵士の賭け』に続いての石原プロ作品となる猪又憲吾。
植松を石原裕次郎、野田を三国連太郎(三國連太郎)、川島製鉄の社長を滝沢修、美奈子を司葉子、中館を渡哲也、岩下を岡田英次、とよを北林谷栄、権藤を志村喬、坂口を浜田光夫、幸子を城野ゆき、土屋を寺尾聡、横山を川地民夫、佳子を奈良岡朋子が演じている。

冒頭で描かれる江戸時代のシーンは、全く要らない。
「そんな過去の歴史を経て現在がある」という形で始めたいのは分かるけど、植松や岩下たちが勧める計画とは何の関係も無い。
そこを上手くリンクさせているとは到底思えない。江戸時代のシーンが無くて困ることも、特に見当たらないし。
あと、そのシーンでは「海が逆流する」という映像と「それを見て慌てる百姓たち」の映像が完全に別撮りなのがモロに分かっちゃうので、しょうがないことだけど気持ちが萎えちゃうわ。

なぜ植松が鹿島港の建設に向かって必死になって行動しているのか、モチベーションの源泉がサッパリ分からない。
本人の口から「それは手段で、目的は鹿島を砂の鎖から解放する」という説明はあるけど、「なぜ鹿島を砂の鎖から解放したいと思ったのか」という部分が大事なのよ。そこの熱情が生まれた理由について触れておかないと、植松に共感できないし、話にも乗りにくいのよ。
この映画だと、単に仕事だからという使命感ぐらいにしか思えない。
そうじゃなくて、例えば「苦しむ住民を見て助けてあげたいと思った」とか、あるいは「岩下と話して、その思いに心を動かされた」ってことでもいいし。

序盤で大蔵大臣が岩下の熱心なアピールを冷たく無視していること、野田が「予算は付かないから諦めろ」と言っていることが描かれる。
ところが粗筋で触れたように、昭和三十七年には鹿島港建設の準備が始まっている。説明会に出席した岩下は、国の予算が取れたことを口にしている。
それだと、簡単に予算が付いたように感じる。
きっと本当は予算が取れるまでに、大勢の人々が様々な行動を取り、苦労を重ねたはずなのだ。それなのに、そこをバッサりと削り落としちゃうのね。

勇作が幸子に殴り掛かって非難した時、啓介は「鹿島に海が無くなったのは幸子のせいじゃない」と言う。彼が言うように、漁師の仕事が厳しくなって生活が苦しくなったのは、幸子のせいじゃないだろう。
しかし、工場の金を踏み倒して東京へ逃亡したのは幸子であり、そのせいで勇作は土地を奪われそうになっているのだ。それに関しては、明らかに幸子が悪い。
にも関わらず幸子は全く悪びれず、「鹿島がもうちょっとマトモなトコなら東京なんか出て行かないよ。文句言うなら、もっと稼いで来なさいよ」と言い放つ。
それは開き直りにも程があるだろ。

とよが貝を密漁したり、勇作が武井から金を返すよう迫られたりと、地元住民の生活が厳しいことを描くシーンは幾つかある。
だが、その多くは台詞だけに頼っている。
そもそも、本来ならば鹿島の開発が始まる前に、「不毛の土地なので住民が生活に困窮している」という様子を描いた方がいいんじゃないのか。そして、「そんな現状を見た岩下が心を痛め、開発計画を進める」という流れの方がいいんじゃないの。
ただ、岩下は地元住民のために開発計画を進めているのかと思ったら、「奈良時代に東国文化の中心だった鹿島に、再び歴史の光を当てたいだけなんだ」とか言い出すので、「何を言ってんのか」と呆れるわ。

美奈子は開発に反対しており、だから資料も受け取らない。しかし、植松に冷淡な態度を取ることは無く、再会した時も楽しそうにお喋りしている。釣りに誘われると喜んでOKしているし、明らかに恋心を抱いている。
そんなキャラにするぐらいなら、開発反対派の設定は何の意味も無いんじゃないか。
開発反対派なら、「最初は植松に反発して拒絶するが、彼と何度か会う中で次第に考えが変化していく」という動かし方をすべきじゃないのか。
っていうか、もっと根本的なことを言うと、そこのロマンスとか邪魔なだけだし。

岩下は台風が過ぎるのを植松と共に車で待つ時、中館について詳しく語る。
彼が「百姓たちは中館を狂人として葬ったが、彼の志は死んでしまったのだろうか。この話をどう思う?」と尋ねると、植松は「私は中館という人を否定します。いかに純粋であろうと、情熱その物には一文の価値も無いということです。鹿島だって同じです」と答える。
ようするに「絶対に結果を出さなきゃいけない」と言いたいわけだけだが、そのために例え話が必須なのかと問われると、答えはノーだ。
ましてや中館エピソードを挟む必要なんて、全く無い。

粗筋で書いたように、権藤は批判する漁師を一喝するぐらい開発計画に賛成していた。しかし途中で鞍替えし、反対派に回る。しかも単に考えが変わるだけでなく、部下に情報を流させて土地の売却を阻止したり、住民を扇動して抗議デモを起こさせたりする。
そういう権藤のやり口は、ものすごく卑怯だ。そして彼に煽られた住民が岩下邸の壁に誹謗中傷の貼り紙を貼るのも、やり過ぎだとは思う。
ただ、岩下が主張するように、本当に今回の開発計画しか鹿島を救う方法は無いのかと考えた時、肩を持つことが難しくなるのだ。
その理由は簡単で、「確かに、それ以外に方法は無いよな」と納得させてくれるような根拠や材料を、まるで提示できていないからだ。
とよが真っ先に土地の売却を承諾しているが、「夫の墓地も開発計画で海に沈む」という情報を知らされていない。そういう大事な情報を説明していないのは、住民を騙す行為でしかない。

後半には野田が岩下の要請を受けて開発部長になる展開があるけど、なぜ彼が引き受ける気になったのかがサッパリ分からない。きっかけになるような出来事が、何も見当たらないからね。
植松が熱い思いをぶつけたり、必死で頼み込んだりした時には、つれない態度だったわけで。
ようするに、野田が心変わりするタイミングがストーリーテリングとしてズレているのよ。
せめて後から野田が「実はこれが理由で気持ちが変化した」みたいなことを言うならともかく、そういうのも無いし。

野田は開発部長に就任すると、報奨金という形で地元住民から土地を買い上げる金額を増やす。さらに進出する企業名も明かし、これを受けて土地の売却を快諾する住民が一気に増える。
しかし植松は野田の方針に反発し、値上げを撤回するよう訴える。彼は「それで住民は付いて来るだろうが、鹿島はそれじゃいけない。地元の人々が本当に開発を理解して協力してくれないと」という考えなのだ。
だけど、それは綺麗事にも程がある主張なんだよね。
そういう方針で動いていたから、今までは交渉が遅々として進まなかったわけで。だからこそ、岩下は野田を招聘して状況の打破を要請したはずで。

植松にしても、野田の方針に激しく反発するものの、だったら難航している用地買収の問題を解決する策を何か提案するのかというと、何も無いんだよね。「今まで通りに粘り強く交渉を続ける」という以外に手が無いのなら、植松の主張は現実を無視した幻想でしかないのだ。
結局、野田が方針を変えないので、植松は「自分の好きなようにやらせてもらう」と反旗を翻す。そして住民に提供される荒地に上質な土を運び、農業に適した土地に変える。
だけど、それは野田の方針に乗った上での行動であって、「地元住民に開発を理解してもらうための行動」とは言えない。
それに住民にエサを与えているようなモンだから、やってることは野田と大して変わらんのじゃないか。

しかも、そこから住民の意識に変化が訪れ、「地元の人々が本当に開発を理解して協力してくれる」という状況になるのかというと、さにあらず。
「鹿島港本堤工事始まる」「港湾掘り込み工事着工」「臨海工業地帯建設進む」というテロップの後、バーやパチンコ店などが出来て風紀が乱れ、ガラの悪い連中が出入りするようになる様子が描かれる。
これを受けて、植松は「なぜみんな仕事をしないんだ?」と漏らし、「緑の楽園になるはずだったのに、安っぽい看板が増えて行く」と落胆するのだ。

植松は野田に「鹿島は化け物になった」と言うが、「鹿島はこれでいいんだ」と告げられる。もちろん植松は納得せず、美奈子の前でも似たようなことを喋って苛立ちを見せる。
彼は「7年間、俺は住民を騙して来た」と言い、鹿島を出て行こうとして「鹿島から逃げることは出来ない」と説教される。
いや、そこは「苦労の末に目標が達成された」というハッピーエンドにしないのかよ。
そんなモヤモヤする結末を用意して、誰か得をするんだよ。

(観賞日:2025年3月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会