『余命10年』:2022、日本

2011年。入院中の礼子はベッドで横たわりながら、車椅子を使う同室の高林茉莉にハンディカムの映像を見せた。それは息子を撮影した映像で、礼子は「入学式は難しいって言われてたの。でも出られた。もうお友達が出来たんだって。意外と社交的みたい」と嬉しそうに話した。彼女はSDメモリーカードを抜いてハンディカムを茉莉に渡し、「最後まで生きてね」と告げた。礼子は亡くなり、葬儀に出席した茉莉は彼女の夫と息子が涙を流す様子を目撃した。
2013年、茉莉は退院が決まり、病室でハンディカムを回して姉の桔梗、父の明久、母の百合子、主治医の平田を撮影した。帰りの車中でも家に到着した時も、ずっと彼女はカメラを回し続けた。茉莉の部屋には、高校生小説コンテストで佳作を受賞した時の賞状や、20歳の時に六華学園女子大学の同級生である沙苗&美弥&サオリと撮った写真が飾られていた。茉莉は机の上のノートを開き、病気に関して綴った文字に目をやった。茉莉が20歳で患ったのは、肺動脈性肺高血圧症という難病だった。発症頻度は100万人に1人か2人、根本的な治療法の無い致死的な病態で、余命10年とされていた。
茉莉は沙苗&美弥&サオリと久しぶりに再会し、美弥の恋人である三浦アキラが経営するカフェで退院をお祝いしてもらった。彼女は友人たちの前で、「月に一回は病院に行かなきゃいけないけど、もう大丈夫」と明るく振舞った。沙苗から小説は書いていないのかと問われた茉莉は、「入院してる間に忘れちゃった」と答える。沙苗は会社でコラムの編集をしていることを話し、人手不足だから来ないかと誘う。「期待に応えられなくて迷惑掛けちゃう」と茉莉が遠慮すると、彼女は「気が向いたら、いつでも連絡して」と告げた。
茉莉が帰宅すると、中学時代の同窓会の案内ハガキが届いていた。桔梗が「同窓会で再会して、そのままゴールインとか、良くあるみたいよ」と言うと、彼女は「恋愛なんてしないよ」と告げた。2014年になり、茉莉は父の車で同窓会が開かれる静岡県の三島まで送ってもらう。会場の居酒屋に入った彼女は、同級生の美幸や絵梨たちと再会した。東京での仕事を問われた茉莉は、出版社でOLをしていると嘘をついた。富田タケルは彼女に、同じ上京組である真部和人と3人で飲もうと持ち掛けた。
和人は「父親の会社を継げば安泰だったのに」と言われ、「まあ色々あるんだって」と詳細を明かさなかった。当時のタイムカプセルが開封され、茉莉の手紙には「素敵な人生を生きて下さい」と書かれていた。他の面々が二次会の会場へ向かう中、茉莉は店の前に残った。飲み過ぎた和人が吐き気を催すのを見て、彼女はペットボトルの水を差し出す。2人に気付いたタケルが「来いよ」と呼び掛けるが、和人は茉莉に「今日は楽しかった」と告げて去った。
翌日、茉莉は就職面接に向かうが、病気が原因で不採用になった。一方、散らかったアパートの部屋で目を覚ました和人は、ベランダから飛び降りた。茉莉はタケルから電話を受け、病院へ赴いた。タケルは和人の命に別状は無いこと、彼の父親から病院に行くよう頼まれたことを説明しする。茉莉とタケルが病室へ行くと、和人は怪我を負っているものの、元気な様子だった。タケルから「親と喧嘩してんの?普通は来るだろ」と問われた和人は、「ほぼ絶縁してるから。いなくなった方が好都合なんじゃない」と告げた。
「仕事か」とタケルが口にすると、和人は「先月、クビになった」と述べた。タケルが「だからって」と口にすると、和人は「親が敷いたレールが嫌で東京に逃げて来たのはいいけど、生きる意味とか分かんないし、これっていつまで続くんだろうと思ったらフワっと」と軽く笑う。茉莉が「ごめん、帰るね」と立ち上がると、「急にどうしたの?」とタケルが困惑を示す。茉莉は「真部くんのことよく知らないけど、それって凄くズルい」と言い、病室を去った。
後日、退院した和人は病院の再来受付をしている際、百合子と検査に来ている茉莉を目撃した。茉莉は和人とタケルから電話で呼び出され、彼が懇意にしている梶原の営む居酒屋「げん」へ赴いた。和人はタケルに席を外してもらい、茉莉に「見ちゃったんだよ。病気なの、お母さん?」と尋ねる。茉莉が「うん」と誤魔化すと、彼は「生きたくても生きられない人だっているのに、高林さんの気持ちも考えないで、甘えたこと喋ってごめんなさい」と謝罪した。茉莉は笑い出し、「勝手にお母さん殺さないでよ」と告げた。
「げん」を出た茉莉と和人はタケルと別れ、2人で桜並木を歩く。茉莉はハンディカムを取り出し、桜を撮った。和人が「なんでそんなの持ってんの」と訊くと、彼女は「いいなあって思った物を残しておくために」と答える。彼女は和人にカメラを向けると、「これからどうするんですか」と問い掛けた。和人が「とりあえず、仕事を見つけて家賃を払う」と言うと、彼女は笑って「もっと他にあるでしょ」と口にする。和人が考え込んでいると、茉莉は「じゃあ私も頑張るから、もう死にたいなんて思わないで下さい」と告げた。
茉莉は沙苗の紹介でウェブのライターとして働くことになり、編集長の並川と会った。茉莉がタケシに呼び出されて「げん」へ行くと、和人がアルバイトを始めていた。和人が「とりあえずやれることからやってみようと思って」と言うと、茉莉は「いいと思う」と告げた。彼女は沙苗を和人とタケルに紹介し、4人で頻繁に会うようになった。4人は海へ遊びに出掛けたり、和人のアパートで集まったりする。沙苗とタケルは交際を始め、茉莉と和人も惹かれ合うようになった。
2016年。茉莉は桔梗の結婚式に出席し、トイレの個室で薬を服用した。トイレに来た親族の女性たちは茉莉がいると知らず、彼女の余命について「あと3、4年かもって」と告げた。茉莉、沙苗、タケルは和人の部屋で集まり、一緒に鍋を突いた。和人は梶原から数年後の独立を勧められたが、悩んでいることを明かす。理由を問われた彼は、「今が楽しいから、このままがずっと続けばなあって」と語った。沙苗とタケルが先に帰り、和人は茉莉に「全部、茉莉ちゃんのおかげです。ありがとう」と礼を述べた。
和人は茉莉の手を握り、そっと抱き寄せた。一度は受け入れようとした茉莉だが、「ごめん。帰ります」と告げてアパートを去った。彼女の病状は悪化しており、平田は薬を変えて様子を見るよう勧めた。茉莉は和人から「ちゃんと話したい」というメールを受け、会いに行く。茉莉が「私はこのままでいい」と告げると、和人は「俺は茉莉ちゃんが好きで、一緒にいたい」と言う。茉莉が「私と一緒にいて楽なだけでしょ」などと声を荒らげていると、胸が苦しくなった。立ち去ろうとした茉莉は、その場に倒れて意識を失った。
連絡を受けて病院に駆け付けた明久は、和人に会った。病室で目を覚ました茉莉は、和人から「茉莉を受け止めてほしいと、お父さんに言われた」と告げられる。茉莉は20歳で病気になって手術を受けたこと、胸に大きな傷があることなどを明かし、「私は和くんが思ってるような人間じゃないよ」と述べた。退院した茉莉は桔梗から、肺移植が受けられる病院に移ることを提案された。母も賛同するが、茉莉は「私の体には無理だよ。もう散々試したじゃん」と断った。
桔梗が「でも医学も日々進歩してるし、どんどん状況も変わっていくんじゃないかな」と言うと、茉莉は「何か治す方法があれば私だって頑張る。でも、この病気には無いじゃん」と反論した。明久が「茉莉の言ってることは正しい。でも桔梗の気持ちも分かってほしい」と告げると、彼女は「そんなの分かってるよ」と声を荒らげた。茉莉は泣きながら「私たちってさ、どっちが可哀想なんだろうね」と漏らし、その場を去った。
茉莉は沙苗&美弥&サオリと会い、アキラの店で酒を飲んだ。美弥は茉莉に「紹介したい人がいる」と言い出し、アキラは中学の同級生で一級建築士だと説明した。美弥は1つだけ問題があると言い、アキラは昔から心臓に障害があるのだと告げた。茉莉は本心を隠し、前向きな態度を示した。一方、梶原は元気の無い和人の様子を見て、「茉莉ちゃんと何かあったのか」と尋ねた。和人が「はい」と答えると、彼は「じゃあ、次だな」と述べた。
和人が「次なんて無いんですよ」と言うと、梶原は「いいこと言うな。愛する人に出会えるなんて、奇跡みたいなもんだよ。お前は運がいいよな、そういう人に出会えたんだから」と語る。彼が「今日はもう上がっていいよ」と告げると、和人は感謝して茉莉を捜しに出た。茉莉は一人で居酒屋へ行き、大量に食べて飲んでトイレで嘔吐した。和人は駅前を歩く彼女を発見し、声を掛けた。彼が「夢が出来た。死にたいと思ってた俺に生きたいって思わせてくれた茉莉ちゃんのために、俺は生きる。これからは俺が茉莉ちゃんのこと、守るから。だから一緒にいて下さい」と語ると、茉莉は泣きながら「馬鹿」と抱き付いた。彼女は病状が悪化する中、自身のことを小説に書き始めた。茉莉は2018年に小説を完成させ、原稿を沙苗に見せた。沙苗は感涙し、「絶対出したい」と告げた…。

監督は藤井道人、原作は小坂流加『余命10年』(文芸社文庫NEO刊)、脚本は岡田惠和&渡邉真子、製作は高橋雅美&池田宏之&藤田浩幸&善木準二&小川悦司&細野義朗&佐藤政治、エグゼクティブプロデューサーは関口大輔、プロデューサーは楠千亜紀&川合紳二郎&瀬崎秀人、撮影は今村圭佑、照明は平山達弥録音は根本飛鳥、美術は宮森由衣、編集は古川達馬、音楽はRADWIMPS、主題歌はRADWIMPS『うるうびと』。
出演は小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、黒木華、松重豊、リリー・フランキー、原日出子、田中哲司、上原実矩、三浦透子、井口理、MEGUMI、山中崇、黒木華、山下容莉枝、中島唱子、富山えり子、根矢涼香、安藤聖、川原瑛都、安部賢一、安井順平、呉城久美、青木誠人、池田智美、多田愛佳、大原実咲季、岡幸太、岡森健太、沖山翔也、尾尻征大、鹿野祥平、木越明、北澤響、北向珠夕、島村新之介、高取生、田中珠里、千葉冴太、鉢嶺杏奈 、花影香音、早川咲月、松崎亮、宮地尚子、安井紀子、山口葵、山田桃子、竜太朗ら。


小坂流加の同名小説を基にした作品。彼女自身も茉莉と同じ肺動脈性肺高血圧症を患っており、原作の文庫版が刊行される3ヶ月前に38歳で逝去している。
監督は『新聞記者』『宇宙でいちばんあかるい屋根』の藤井道人。
脚本は『8年越しの花嫁 奇跡の実話』『雪の華』の岡田惠和と『凛』の渡邉真子による共同。
茉莉を小松菜奈、和人を坂口健太郎、タケルを山田裕貴、沙苗を奈緒、桔梗を黒木華、明久を松重豊、梶原をリリー・フランキー、百合子を原日出子、平田を田中哲司、美弥を上原実矩、サオリを三浦透子、アキラを井口理、並川をMEGUMI、聡を山中崇、美幸を富山えり子、絵梨を根矢涼香、礼子を安藤聖が演じている。

帰宅した茉莉が机の上のノートを開くと、カメラが綴られた文字を捉える。そこには「私の病気は?」「肺動脈性肺高血圧症」「略称:PAH」「呼吸器の病気」「極めてまれな原因不明の難病」と書いてある。
最初のページだけで説明は終わらず、次のページに移動すると「致死的な病態」「根本的な治療法なし」と書いてある。
さらにページをめくると、今度は「発症頻度は100万人に1〜2人」「余命10年」などと書いてある。
文字の大きさや色を変えながら、詳しく解説してくれているわけだ。

そのような説明のための文字が書いてあるページを分けてあるのも、その文字が書いてある場所も、何もかもが「わざとらしさ」に満ち溢れている。
そりゃあノートの文字を使えば、観客には分かりやすいかもしれない。
だが、あからさまに「説明のためのノート」と化しており、その不自然さには思わず苦笑させられる。
しかも帰宅して部屋に入り、すぐにノートを開いて目を通すとか、「あえてのツッコミ所を用意したのか」と言いたくなるし。

そもそも「難病モノ」ってのは、「駄作」とノットイコールになる可能性が低いジャンルだ。
どうしても安っぽい「お涙頂戴」に陥りがちだし、そこを避けようとしてもポンコツの魔の手から逃れることは難しい。
古くは『ある愛の詩』を始めとして、これまで世界中で数多くのポンコツな難病モノが作られて来た。それは日本も例外ではなく、数えればキリが無いほどの難病モノが駄作の棚に並べられてきた。
むしろ日本こそが、ポンコツな難病モノの代表的な原産国と言ってもいいかもしれない。

原作から改変された箇所が幾つもある。
例えば、原作の茉莉は小説を執筆せず、漫画家としてデビューする。原作の茉莉は中学校の同窓会ではなく、群馬で小学校時代の同窓会に出席する。原作の和人は茶道の家元の長男であり、悩みは抱えていても自殺は考えない。
原作から改変された箇所の大半は、お涙頂戴の成分を増やすための作業だ。
茉莉を漫画家ではなく小説家デビューさせたり、群馬ではなく静岡の同窓会に出席させたりするのは、原作者である小坂流加にキャラを寄せるための改変だ。

なぜ茉莉が中学時代の同級生に病気だと言わないのか、その理由が良く分からない。
別に「治療根本的な治療法が無い」とか「余命10年」とまでは言わなくてもいいけど、「病気で入院していた」ってことぐらいは言ってもいいんじゃないの。そうすれば、仕事の件で変な嘘をつく必要も無いんだし。
あと食事にも色々と気を遣わなきゃいけないんだから、そういう部分でも病気ってことは言った方が何かと得策じゃないかと。
「周囲に気を遣ってもらいたくない」ってことかもしれないけど、理由や心情が良く分からないのよね。

茉莉はアパートで和人に手を握られて抱き締められた時も、病気のことを話さない。呼び出されて「茉莉ちゃんが好きで、一緒にいたい」と告白されても、やはり病気のことを話さない。
倒れて病室に運ばれると、ようやく「20歳で病気になった」と話す。
だけど、さすがに誤魔化し切れないから、仕方なく打ち明けただけだ。もしも目の前で倒れて病院に搬送されていなかったら、まだ病気のことは明かさずに済ませていただろう。
でも、そこまでして頑固に病気のことを隠そうとする心情が、まるで分からないのよね。

しかも茉莉は、ようやく病気のことは告白するものの、根本的な治療法が無くて余命10年という事実は隠したままだ。これも隠したままにしている理由が良く分からない。
これが「好きで交際しているので、真実を知られて和人が遠ざかることが怖い」ってことなら分かるのよ。でも茉莉は相手の告白を受け入れず、恋愛しないように努めているわけで。
つまり、「好きではあるけど、和人が求める交際は拒もうとしている」という状態なんでしょ。
だったら、むしろ全て明かしちゃった方が良くないかと。

あと、病室での和人への言葉を聞く限り、どうも茉莉は余命10年よりも胸に残る手術の傷跡を気にしている様子なんだよね。
そりゃあ、「傷を見られたら嫌われるかも」と心配するのも、女心として分からんではないのよ。
だけど彼女の病状を考えると、「それよりも気にすべきことがあるでしょ」と言いたくなるのよ。
余命10年で少しずつ病状が悪化していくのが確定的になっていることの方が、傷跡よりも重要な問題じゃないのかと。

茉莉は和人と付き合うことになっても、まだ治らない病気であることは隠している。それは「俺が守るから」と約束した和人に対する重大な裏切り行為になってないか。
しかも、事実を隠すことに対して、茉莉が罪悪感を抱く様子も、葛藤する様子も皆無なんだよね。
一緒に一泊旅行に出掛けるけど、それでも真実を隠しているのは、かなり危険だろうに。
もはや「真剣に生きようとしているのか」という疑問さえ浮かぶほどだぞ。

旅行先のロッジで和人がプロポーズした翌朝、茉莉は彼が眠っている間に内緒で去ろうとする。気付いた和人が追い掛けて「なんで?俺、怒らせるようなことした?」と尋ねると、彼女は「和くんは悪くない。ずっと嘘ついてた」と治らない病気であることを明かす。
だけど、もし和人が目を覚まして追い掛けていなかったら、まだ内緒にしておくつもりだったんでしょ。
「和人は悪くない」と思っているのなら、せめてプロポーズされた時に告白しろよ。
明確なOKは出さないものの、何となく受け入れたかのようにフワッとさせておいて、翌朝に内緒で去ろうとするってのは、最低のドッキリだぞ。そもそも、そのタイミングですら告白は遅すぎるけどさ。

あと、一応は「私のせい」と口にしているけど、ずっと病気の真実を隠していたことに対して、そこまで強い罪悪感を抱いている様子は見えないんだよね。
そりゃあ、治らない病気で余命10年と宣告されているんだから、本人も苦しいと思うよ。そうでなくても、病状は悪化する一方なので、辛い日々を過ごしているとは思うよ。
ただ、「だから嘘をつき続けて、プロポーズのタイミングで別れを告げるのも仕方がない」みたいな形になっているのは、いかがなものかと。
それに関しては、シンプルに「酷い奴だな」と感じるぞ。
ずっと付き合っていたら、いずれ結婚の話が出ることぐらい分かるだろうに。

(観賞日:2024年1月12日)

 

*ポンコツ映画愛護協会