『予言』:2004、日本

福島県郡山市。大学講師の里見英樹は、同じ大学に勤務する妻・綾香と5歳の娘・奈々と共に祖父の家に帰郷した。綾香の運転する車で 自宅へ戻る途中、里見はパソコンでメールを送ろうとするがエラーが出たため、電話ボックスに立ち寄った。電話ボックスでメールを送信 している最中、彼は電話帳の下に挟まっていた古びた新聞の切れ端を発見する。ふと見ると、そこには里見の車にトラックが衝突して5歳 の奈々が死亡するという記事が書かれてあった。
記事によれば、事故が起きるのは1分後の午後8時だった。綾香が車を降りて様子を見に来たので、里見は新聞記事を見せようとする。 その直後、走ってきた大型トラックが車に正面から激突した。ガソリンが漏れ、車に火が付いた。奈々が助けを求め、里見と綾香が急いで 駆け寄ろうとした刹那、車は激しい音を立てて炎上した。トラックドライバーは運転中、既に死亡していた。現場にマスコミが来て事件を リポートする中、里見は新聞記事を必死に捜すが、見つからなかった。
3年後。大学を辞めた里見は、高校の現文教師となっていた。その日も彼は、騒ぐ生徒を注意しようともせず、無気力に教科書を読んで いた。その時、彼は天井を眺めている女子生徒・岩窪沙百合に気付いた。一方、大学に残った綾香は助手の宮本美里と共に、透視能力者・ 御子柴聡子の研究を行っていた。新聞の念写を依頼すると、御子柴は険しい顔で断った。「これは研究じゃありませんね。貴方の個人的な 問題」と言われ、綾香は「個人として、改めてお願いします」と頭を下げた。
御子柴は綾香の仕草を見て、離婚したことを見抜いた。綾香は彼女に、アカシックレコードから情報が発信されており、一部の人間が様々 な形態で受信しているという説を述べる。その現象に「恐怖新聞」と名付けた鬼形礼という人物を、綾香は1年以上も捜索していた。 御子柴は、「他にも山梨県の弁護士など多くが彼を捜している。ある日、その新聞が彼の元へ届くようになった。でも私に連絡があった後 、彼は行方不明になった。おやめなさい。貴方が考えている以上に危険なことよ」と警告した。
職員室で答案用紙を採点していた里見は、同僚教師から研修会の出席表を書くよう求められた。「欠席」と書いて採点に戻った彼は、 沙百合の用紙に奇妙な文字が書き殴られているのを目にした。そこには「埼玉県連続通り魔殺人」「新たに5人目の犠牲者」「14日午後 1時すぎ」「市立西中学校3年」「村田美雪さん」という言葉が記されていた。困惑していると、同僚教師が研修会の出席表を持って来た 。記入したはずの「欠席」の文字は無く、沙百合の答案用紙の言葉も消えていた。
里見が帰宅すると、配達員が勝手に新聞を届いていた。彼は新聞を配達員に返却し、「何度言えば分かるんだ。新聞が嫌なんだ」と怒鳴る 。ふと新聞に目をやると、そこには連続通り魔殺人で5人目の犠牲者が出たという記事が掲載されていた。一方、綾香の元には御子柴から 電話が入った。ノイズ混じりの中で呻き声が聞こえ、御子柴の「もう逃げられない」という声が入り、そこで電話は切れた。
綾香が御子柴の家へ行くと、事故や事件の記事をスクラップした資料の中に「鬼形氏から連絡あり」という走り書きがあった。机の上の 手帳で、綾香は鬼形の電話番号を知った。2階へ上がると、念写写真が散乱した中で御子柴が衰弱死していた。御子柴の手に握られた写真 を見て、綾香は驚愕した。彼女は里見に電話を掛け、御子柴が握っていた写真を見ながら「行ってもいい?例の新聞のことよ」と言う。 しかし里見は「何度を言ったら分かるんだ、俺の頭は狂ってない」と怒鳴って電話を切った。
翌日、里見が教室で沙百合に声を掛けようとすると、「新聞、先生も見たことがあるんでしょ」と彼女は呟く。「私にもあれが届くんです 。先生は何もしなかったんですよね、それで良かったんです」と沙百合は口にした。その夜、里見がアパートにいると、いきなり窓に新聞 が貼り付いた。そこには、沙百合が通り魔に殺される記事が載っていた。それを読んだ刹那、新聞は溶けるように消えた。
里見が沙百合の家へ赴くと、後ろから彼女が現れ、「届いたんですね、先生にも」と言う。しかし近付こうとすると彼女の姿は消え、近く から悲鳴が聞こえた。慌てて里見が悲鳴の方へ行くと、沙百合が歩いていた。その背後で、ナイフを持った男が不気味に笑っていた。 ゆっくりと近付いてくる男を里見が押し倒すと、彼は気絶した。里見は振り返り、後ろで倒れている沙百合を抱き起こす。その途端、彼女 のセーターに赤い血の滲みが広がった。既に彼女は殺されていたのだ。
翌日、里見は大学へ行き、新聞が来たことを綾香に告げる。「教え子が死んだ。分かってたのに何も出来なかった。奈々の時と同じだ。 いつだって俺は遅すぎる」と自分を責める彼に、綾香は「貴方のせいじゃない」と言う。彼女は御子柴が持っていた写真を見せた。そこ には、里見の顔写真が掲載された新聞の一部分が写っていた。「もう自分を責めてる場合じゃないのよ」と彼女は告げた。
里見と綾香は、新聞が届けられた少年が収容されていた総合精神医療センターへ向かった。医者は2人に、13歳の入院患者が半年後には 老人に変貌したことを説明する。収容されていた部屋の壁には、事故や事件の予言が幾つか書かれていた。医者によれば、彼は筆記用具を 取り上げると排泄物や爪を使って文字を書き、最後は舌を噛み切って、その血で文字を書こうとして亡くなったという。 里見は少年のように自分も死ぬことを確信するが、不安そうな綾香に向かって「どうせ、いつか死ぬんだ」と投げやりな言葉を口にした。 娘の死に罪悪感を感じている彼は、「死んだ方がマシなんだよ」と吐き捨てた。
綾香は美里からの電話で、鬼形の電話番号の場所が判明したことを聞かされる。里見は授業中、急に黒板に「富山がけ崩れ八人死亡」と 書き殴り、我に帰って動揺する。夕方、その事故は実際に発生した。そのニュースを電気店のテレビで見ていた彼は、近くにいた男から 「恐ろしいですよね、自分の書いたことが現実になるなんて」と告げられた。アパートに綾香が行くと、里見は幾つもの予言を書き殴って いた。里見は弱々しく、「もう時間が無いらしい」と漏らした。
里見と綾香は、鬼形が住んでいた田舎の家へ向かう。そこは廃屋となっており、人の気配は無かった。室内に残されていたビデオテープを 再生すると、それは1992年、12年前に鬼形が撮影したホームビデオだった。彼は死亡事故の記事を受信したことを語り、「恐怖新聞に よって予言された未来を変更すればどうなるのか。それを自ら試すことにしたのです」とカメラに向かって話した。
鬼形は、ガス爆発で死ぬはずだった家族に事前に警告したこと、それによって事故は発生しなかったことを説明した。それから、「しかし 、そのせいではないかと思われますが、このようなものが現れ始めました」と言うと、自分の腕に出現した黒いシミを見せた。ビデオを 見て行くと、やがて彼の全身は黒く変色した。家に残された人型の黒い影を見た里見と綾香は、それが鬼形だと確信した。
里見は綾香の部屋を訪れ、「強盗殺人、一家3人が惨殺」という2時間後の予言を書き綴った。彼は「書き続ければ、あの男の子みたいに なる。どうすればいいんだ」と漏らす。すると綾香は「あの日、貴方の言うことを信じていれば、貴方まで失うことにはならなかった。 ごめんなさい」と泣き出す。里見は彼女を抱き締め、優しく「いいんだ」と告げる。そして2人は、一夜を共にした。翌朝、綾香が仕事へ 出掛けた直後、里見は室内で新聞を発見した。そこには所沢線脱線転覆事故で百人を越す死傷者が発生する記事が掲載されており、死亡者 の中に綾香の名前があった。慌てて彼は駅へ向かい、綾香が電車に乗るのを止めた…。

監督は鶴田法男、原作はつのだじろう、脚本は高木登&鶴田法男、プロデューサーは一瀬隆重、アソシエイト・プロデューサーは木藤幸江 、エグゼクティブ・プロデューサーは濱名一哉&小谷靖、撮影は栢野直樹、編集は須永弘志、録音は小松将人、照明は渡部嘉、美術は 斎藤岩男、特殊効果は岸浦秀一、視覚効果は橋本満明、特殊メイクは中田彰輝、音楽は川井憲次、音楽プロデューサーは慶田次徳、 主題歌は荘野ジュリ『うたかた』。
出演は三上博史、酒井法子、堀北真希、小野真弓、吉行和子、山本圭、井上花菜、向井政生、広重玲子、高野貴裕、鶴水瑠衣、足立学、 諏訪太朗、伴大介、出光秀一郎、山路和弘、溝口遊人、寺十吾、浦口直樹、高橋洋、荒井眞理子、藤真美穂、小林徳司ら。


中田秀夫、黒沢清、清水崇、落合正幸、鶴田法男、高橋洋という6人の監督がホラー映画を競作する新レーベル“Jホラーシアター”の 第一弾。
落合正幸監督の『感染』と同時上映された。
つのだじろうの漫画『恐怖新聞』をモチーフにした作品だが、原作の主人公である鬼形礼は脇役の中年オヤジにされてるし、「恐怖新聞が 主人公に届けられる」という部分だけを拝借して換骨奪胎された内容になっている。
監督は『リング0 バースデイ』『案山子』の鶴田法男。里見を三上博史、綾香を酒井法子、沙百合を堀北真希、美里を小野真弓、 御子柴を吉行和子、鬼形を山本圭が演じている。

冒頭、トラックが車に激突して奈々が死ぬのではなく、炎上する車の中で奈々が助けを求め、里見たちが駆け寄ろうとしたら爆発すると いう演出は、そりゃあ確かにショッキングではあるけど、なんか微妙に嫌悪感を催すなあ。
あと、リポーターが中継をしているとこへ里見が「新聞を見なかったか、この辺に落ちてるはずなんだよ」と来るが、被害者の両親が そんな風に中継の最中にウロウロできている状況って変でしょ。
っていうか、そこで里見が新聞を捜すカットを入れること自体が無駄。事故の後、新聞記事が燃えて無くなるようなカットを入れて、すぐ タイトルロールに移ればいいのに。
なんかモタついてるなあ。

この映画は構成に大きな失敗があって、それは冒頭に娘の死を持って来たことだ。
それは里見にとって、劇中で発生するどんな事件よりも大きな出来事だ。
その後に起きる「予言通りの事件・事故」は、そりゃあ予言の通りに発生するんだから驚きはあるだろうが、娘の事故に比べれば大した ことは無い。驚きはあっても、里見が奈々の事故の時ほど深い悲しみを引きずるようなことは無いのだ。
掴みとして、デカい死亡事故を用意したいのは分からないではない。
だけど、それは里見の娘じゃなくて、他人が死ぬ事故にしておけばいいのに。
そんでもって、最初は赤の他人の死が予言されるだけで、里見は予言を変えることに無関心、あるいは消極的だったが、やがて近しい人間 の予言が届くようになり、ついには娘が死ぬ予言が届けられるという流れにでもすれば良かったんじゃないのかなあ。

里見が沙百合の予言を受け取った後の展開は、既に殺されていた沙百合が彼に話し掛け、倒れているのを抱き上げるとセーターに赤い血の 滲みが広がるという風に、幻覚を交えて描写している。
冒頭は過剰なほどショッキングな演出をしておいて、何故そこは、むしろ殺人の衝撃をボカすような描写にするんだろうか。
妙にキレイに殺されているんだよなあ。
ホマキへの気遣いとも思えないが。

総合精神医療センターのシーンでは、13歳の入院患者が半年後には老人に変貌したことが説明される。
「そりゃあ恐怖新聞は超常現象だけど、受け取った人間に起きる現象を非現実的なことにするのはピントがズレているなあ」と思って いたんだけど、「書き続ければ、あの男の子みたいになる」と里見が漏らした時に、原作の「恐怖新聞を読む度に寿命が少しずつ奪われて 行く」という設定が、そういう形で持ち込まれているんだと気付いた。
だけど、分かりにくいわ。

鬼形や総合精神医療センターの少年は自ら予言を書き綴っており、やがて里見も予言を書くようになる。
だけど予言が届くんじゃなくて、自分が予言を発信する立場になるというのは、ピントがズレてるでしょ。
それだと「予言が届くことが怖い」じゃなくて「自分の予言が当たるのが怖い」になっちゃう。
っていうか、そもそも予言が届いても、それだけだと、怖さはそれほどでもないよな。
「届いた予言を変えることが出来ない」というところに恐怖を置くのであれば、「死んでもいい」と投げやりになってる主人公じゃ マズいし。

終盤、「里見が幾つも予言を書き殴っているから、もう時間が無い。だから何とかしないと」というところで切迫感を持たせようとして いるが、設定として苦しい。
そこは、里見が死ぬかどうかってことよりも、「その予言された事故や事件を止められないのか」ということが気になって しまうので。
そういう行動を、彼は一度も取っていないのよね。
沙百合の時は彼女の家へ向かっているけど、彼女を助けることが出来なかったのは、タイミングが遅れただけだし。

「その時間に、その現場へ行き、事故や事件を防ごうとするが、何か目に見えない妨害があって失敗に終わる」というようなシーンは、 一度も無い。
そして、里見が予言を阻止するための行動が無いまま、「自分の死を阻止する」という流れに入ってしまう。
それをやるなら、まず「予言は変えられない、阻止しようとしても発生する」と感じさせるための手順を踏んでおかないと、サスペンスが 弱くなる。
っていうか、本人が死んでもいいと思っているしなあ。

っていうか、この映画だと、「予言を変えることは可能だ」という設定なんだよな。
だったら、里見が沙百合を救えないのはダメでしょ。そこは救っておけよ。
そして、そうであるならば、生徒は新聞を受け取った人物ではなく、単に「里見に届いた新聞で死ぬことが予言されていた人物」という 設定にしておくべきだ。
生徒が目の前で殺されるシーンを、里見が娘を救えなかったことに重ね合わせたいのは分かるけど、主人公の喪失感や悲しみのドラマより 、まずはホラー映画としての充実を重視しようよ。

「恐怖新聞が届く」という設定が失われて、「自らが予言を書く」というところにシフトしていくもんだから、なんかボンヤリした印象に なってしまう。
どうして「予言が届く」という設定を貫かなかったんだろうか。
そもそも、最初は予言が届いていたのが、なぜ自分で書くように変化したのか、その理由も良く分からないし。自分が予言を書き殴るより は、「新聞が届かないようにしようと抵抗しても、勝手に新聞が届く」という方が怖いと思うんだけどなあ。
でもラスト近くでは、また新聞が届くし。
そこの統一感の無さは何なのか。

で、自分が予言を書き続けるのなら、それを止めるために自分の腕を縛るとか、あるいは錯乱して腕を切断しようとするとか、そのぐらい 行き着かないとダメでしょ。
里見って、予言を書き殴るのを止めるための抵抗を何もしていないでしょ。
まあ、それを最初からさせないようなことを、医者が言っちゃってるんだけどね。
「排泄物で書き、爪で文字を書き始め、鎮静剤も効かない、最後は舌を噛み切って血で文字を書こうとして死んだ」とか言われると、 そりゃあ抵抗するのも怖くなるわな。

予言を変えて家族を救った鬼形の腕に黒いシミが出現するシーンがあるが、ここを「恐ろしいもの」として見せたいのなら、「里見は予言 された事件を阻止したが、その後、謎の黒いシミが体に出現する」という手順を踏んでおくべきじゃないのか。
っていうか、どうも監督は里見の喪失感や家族愛のドラマを描こうという意識が強すぎたのか、恐怖映画としての焦点が定まっていない ように感じる。
で、ナンダカンダとあって、なぜか終盤になって2人がベッドを共にするという明らかに邪魔なシーンを挟み、綾香を助けた里見が時空を 越えて過去に飛ぶんだが、鬼形は予言された家族を救ったら体に黒いシミが出来てのに、なんで里見は妻を助けたら過去に戻るのか、ワケ が分からん。
大体、まだ1人しか救ってないのに、もう里見はアウトなのかよ。
恐怖新聞の判定基準ってグラグラだな。

(観賞日:2010年12月18日)

 

*ポンコツ映画愛護協会