『ヤッターマン』:2008、日本

渋山駅、ハッチ公前広場。泥棒の神様ドクロベエの手先であるドロンボー一味のドロンジョ、ボヤッキー、トンズラーは、巨大メカの ダイドコロンを操って海江田博士の娘・翔子を捕獲しようとしていた。そこへヤッターマン1号と2号、人工知能を搭載したサイコロ型 ロボットのオモッチャマが、犬型ロボのヤッターワンと共に現れた。戦いが繰り広げる中、ドロンジョは誤ってダイドコロンの自爆ボタン を押してしまった。敗走したドロンボー一味、ドクロベエのおしおきを受けるハメとなった。
ドクロベエはドクロストーンを集めていた。かつては1つだったが、今は4つに分かれている。それを再び集めれば奇跡が起きるとされて いる。ドクロストーンを研究していた海江田博士は、ナルウェーの森で2つ目を発見した。そこにドクロベエが現れてドクロストーンを 奪い、海江田の体を取り込んだ。その後、ドクロベエはドロンボー一味に命じて残り3つを集めさせているのだ。
高田玩具店の地下にはヤッターマンの秘密基地があり、ヤッターワンが格納されている。高田玩具店の一人息子である高田ガンと、彼の ガールフレンドである上成愛が、変身してヤッターマンになる。2人は博士から1つ目のドクロストーンを渡された翔子を保護した。 同じ頃、ドロンボー一味は「メリードロ」というインチキなウエディングドレスのブティックを開いて金を稼ぎ、バージンローダーという 新しいメカを作り出していた。
ドクロベエがドロンボー一味の前に現れ、3つ目のドクロストーンがオジプトにあることを告げた。一方、ガンちゃんと愛ちゃんも ヤッターマンに変身し、翔子を連れてオジプトへ向かう。ヤッターマンは遺跡でドクロストーンを発見するが、そこへドロンボー一味が 現れた。激しいバトルが繰り広げられる中、ヤッターワンはバージンローダーと共に爆発してしまった。
ヤッターマンはドクロストーンを手に入れるが、ドロンボー一味が追い掛けてきた。ドロンジョの頭上に大きな石が落下してきた時、 一号が彼女を救い、2人は見つめ合う。一号の頭上に小さな石が落下し、アクシデントの形でドロンジョとキスをした。ドロンジョは 一号に恋してしまった。オジプトを去ったドロンボー一味に、ドクロベエは「最後のドクロストーンは南ハルプスにある」と告げた。 ドクロベエはドロンジョの恋心を察知しており、警告を与えた。
その頃、世界中では大切な物が次々に消え始めていた。オモッチャマは、ドクロストーンが光る度に何かが消えていることに気付き、分析 を開始した。ドロンボー一味は「どくろ鮨」という詐欺まがいの回転寿司店を開いて金を稼ぎ、その売上金でイカタゴサクというメカを 作った。一味の様子を窺っていた愛ちゃんは、イカタゴサクが南ハルプスへ出発するのを目撃した。一方、分析を終えたオモッチャマは、 ガンちゃんに「大変なことが分かった」と何かを伝えようとするが、直後に消滅してしまう。
秘密基地に愛ちゃんが戻り、ドロンボー一味が南ハルプスへ向かったことを伝えた。モニターにはオモッチャマによるドクロストーンの 分析結果が残されていた。それによると、ドクロストーンが全て集まると時間の流れが狂うのだという。4つ全てが集まると地球が消える 可能性もあるが、くっつく瞬間だけは無力になるらしい。ガンちゃんと愛ちゃんはヤッターマンに変身し、ヤッターワンのコアパーツを 再利用した新たな犬型ロボ、ヤッターキングで南ハルプスへ向かって出動する…。

監督は三池崇史、原作は竜の子プロダクション、脚本は十川誠志、製作は堀越徹&馬場清、プロデューサーは千葉善紀&山本章&佐藤貴博 、製作総指揮は佐藤直樹&島田洋一、エグゼクティブプロデューサーは奥田誠治&由里敬三、製作代表は富山幹太郎&野田助嗣&平井文宏 &西垣慎一郎&三木明博&藤島ジュリーK.&堀義晴&奥野敏聡&成嶋弘毅、撮影は山本英夫、編集は山下健治、録音は中村淳&柳屋文彦 、照明は小野晃(小野田晃弘は間違い)&藤森玄一郎、美術は林田裕至、キャラクターデザイン リファインは寺田克也、 キャラクタースーパーバイザーは柘植伊佐夫、スタイリストは伊賀大介、CGIプロデューサーは坂美佐子、 CGIディレクターは太田垣香織、アクションコーディネートは辻井啓伺&出口正義、振付は近藤良平、 音楽は山本正之&神保正明&藤原いくろう。
主題歌『Believe』嵐 作詞・作曲:100+、Rap詞:櫻井翔、編曲:吉岡たく。
出演は櫻井翔、福田沙紀、深田恭子、生瀬勝久、ケンドーコバヤシ、岡本杏理、阿部サダヲ、小原乃梨子、たてかべ和也、笹川ひろし、 斎藤歩、ムロツヨシ、松田俊政、三浦誠己、桃生亜希子、太田英明(文化放送)、水谷加奈(文化放送)、柳原哲也、(アメリカザリガニ )平井善之(アメリカザリガニ)、柴田雄平、粕谷吉洋、ケチャップ、綾貴士、寺田有毅、安間里恵、青山玲子、入船加澄実、助川まりえ 、林弓束、青柳有紀、大塚芽美、一本気伸吾、大森隆男、羽鳥慎一、まつ乃屋やよい、まつ乃屋まい可、小林梨沙、上原美優、榎美佳、 矢田真希、藤崎まや、水澤亜沙美、黒沢美怜、松田敦美、鈴木じゅん、香山梨乃、佐藤ゆりの、新堂みなみ、絵音、北川怜奈、高橋歩美、 藤森由香里、花輪彩香、小山真実、上坂すみれ、清水芽衣、平野彰子、鈴木恵、木村江梨菜、松下美夏、田井中美佳、深水美保子、 中村理恵子、河村泰子ら。
声の出演は たかはし智秋、山寺宏一、滝口順平。


1977年1月から1979年1月までフジテレビ系列で放送されたタツノコプロ制作のTVアニメ『タイムボカンシリーズ ヤッターマン』を基 にした実写版映画。
ヤッターマン1号を櫻井翔、ドロンジョを深田恭子、ヤッターマン2号を福田沙紀、ボヤッキーを生瀬勝久、 トンズラーをケンドーコバヤシ、翔子を岡本杏理、海江田博士を阿部サダヲが演じている。
アニメ版でドロンジョの声優だった小原乃梨子、トンズラー役のたてかべ和也、チーフディレクターだった笹川ひろしが、どくろ鮨の客と して登場している。

紛れも無く、「かつてアニメ版を見ていた大人たち」をメインターゲットにした作品になっている。
「このスカポンタン」「ポチッとな」「アラホラサッサ」「やっておしまい」など、アニメで使われていたセリフの数々を採用している。
ドロンボー一味のメカが爆発するとドクロマークの煙が出るし、一味は3人乗り自転車で敗走するし、ドクロベエが「おしおきだベエ」と 言う。
そのように、「アニメ版にあったお約束をいかに再現するか」というところに対する細かな気配りが見られる。製作サイドが「なるべく アニメ版のイメージを大切にしよう」という意識で作っていることは伝わって来る。山本正之の歌唱による『ヤッターマンの歌』を使って いるのも嬉しい。
ただ、大人の事情だろうが、エンディングが嵐の曲というのはヒドい。日本にラジー賞があったら、最低主題歌賞に推薦したくなるぐらい ヒドい。
あと、「ブタもおだてりゃ木に登る」というセリフの言い回しが全く違うのも気に入らないぞ。

たくさんの予算を注ぎ込んで、真剣に作ったバカ映画である。
それには好感が持てるが、残念ながらシナリオはグダグダ。まともなストーリーは無いに等しいし、ものすごく散漫でシーンの繋がりも 悪い。
それにダラダラと長い。この内容なら、もっとテンポ良く進めて90分以内に収めるべき。
あと、全体的に映像や色彩が暗い。もっと明るい配色にすべきだ。

アクションシーンは、マトリックス辺りからハリウッドで流行した「香港のワイヤーワークを取り入れたハリウッド的アクション」を模倣 しているように見受けられるが、それはヤッターマンの世界観と合わない。
マンガ的ではあるんだけど、それはいわばアメコミ的なものなんだよね。
ヤッターマンのアクションで欲しいのは、そういうことじゃないんだよなあ。

壁にぶつかったボヤッキーの足首がグニャッと曲がるのをリアルに痛々しい映像として見せてしまうのは、三池監督の悪趣味なところが 出てしまったということか。
もっと誇張すればマンガ的になったのに。
あと、岡本杏理の扱いはヒドいな。ヤッターワンから落ちそうになって必死にしがみ付くとか、戦いを見守る中で鼻血を出すとか、そんな ヒドい扱いにする必要がどこにあるのよ。
それが笑いになっていればともかく、ごく普通にスルーされてるし。
っていうか翔子って、キャラとして「要らない子」になってるよな。

最初のバトルで、一号が投げたメカの素をダイドコロンが奪ってしまうという展開があるが、それだとメカの素が何なのかが分からない。
そこでドロンジョが誤って自爆ボタンを押してしまうのもダメでしょ。そこは普通にヤッターマンが勝利すべきだ。
ドロンジョが「ついに勝ったんだよ」と言うけど、それが映画としては最初の戦闘なので、「ついに」と言われても。
バージンローダーとの戦いでヤッターワンがメカの素を食べて小型メカを出しているが、だったら最初の戦闘ではメカの素を出さなきゃ 良かったのよ。

ドクロストーンが集まった時に叶えたい夢をドロンボー一味が妄想するシーンで、ボヤッキーは女子高生の海に埋もれる自分を思い描く けど、それは違和感がある描写だなあ。
大勢の女子高生が登場する妄想を膨らませるのはいいけど、そういう大人的なエロじゃなくて、もっと幼稚なイメージにすべき。
トンズラーはプロレスラーとして活躍する妄想をするが、そこをアニメで描く意味が分からない。普通に実写としてやれるでしょ。
『タイガーマスク』をネタにしているのは分かるけど、アニメにする意味が無い。

バージンローダーの「おっぱいマシンガン」は、幼稚な下ネタだからOK。
下ネタ、エロいネタをやるのは構わない。
大事なことは、それが子供じみたネタかどうかってことだ。
「ジャンボパチンコ」の看板から「パ」が消えて「ジャンボチンコ」になるというネタはちょっと違うな。文字として露骨にやっちゃ ダメだ。
っていうか、幾らなんでも下ネタに頼りすぎじゃないか。

バージンローダーとの戦いで小型メカを発進させたヤッターワンが、その後に異常を起こし、バージンローダーにキスして一緒に爆発する という展開は意味不明。
「バージンローダーに惚れてしまった」という設定なんだけど、ヤッターキングを登場させるために無理な展開を作っているとしか 感じない。
そのように勝手に自爆したような展開だと、ヤッターキングが登場しても高揚感が全く無い。
っていうか、ヤッターワンの方がヤッターキングより遥かにカッコイイぞ。ヤッターキングって色彩も地味だし。

ドロンジョとヤッターマン一号のロマンスは要らない。
恋に落ちた後、すぐに処理して元の関係に戻るのなら構わないが、しばらく引っ張るというのは要らない。それによって、ラストバトルの 前半が妙にウェットになっちゃってる。
もっと明るくバカバカしくやってくれ。
あと、ドクロベエがドロンジョを「お前は俺の女だ」と言い出すのも違う。
ドロンジョのお色気はあっていいけど、っていうか必須だけど、そこに「男女の関係」というものを持ち込むべきではない。
ドロンジョは「男に対する女」というんじゃなくて、アイコンのような存在としてのエロであるべきだ。

ラストバトルの舞台を異空間のような場所に移すのも違うなあ。
そこで親子ドラマを持ち出してウェットになっちゃうのも違うし、それは置いておくとしても、ドクロベエが人間タイプの素性を露出し、 おまけにドロンボーとヤッターマンが協力してドクロベエを倒すという展開に至っては、もう呆れてしまう。
それは無いわ。
ロマンスも違うけど、結託する展開はもっと無いわ。

「ドクロストーンが集まると時間が狂って何かが消える」という設定が後半になって出てくるが、そんなのは要らない。 だから当然、何かが消えるという展開も要らない。
ドクロストーンってのは、ヒッチコックが言うところのマクガフィンでいいのよ。
その正体が具体的に何なのかってのは、どうでもいいことなのだ。
むしろ説明をすることで、逆に陳腐になってしまった印象さえ受ける。

ここまで色々とケチを付けてきたが、一方で称賛すべき点もある。
それはドロンボー一味を演じるメンツの、マンガ映画のキャラとしての成り切りぶり。
特に秀逸なのがドロンジョ役の深田恭子だ。
アニメ版に最も似ているという観点からするとボヤッキーがダントツだし、深田恭子はアニメ版のドロンジョとは全く似ていない。
しかし本作品でダントツに光っているのが彼女だというのも確かなのである。
ミスマッチでありながら、ここまで魅力的に見えるというのは、お見事としか言いようが無い。

正直、ドロンジョ役がフカキョンだという情報が流れた時は、「そりゃ違うんじゃないか」と思った。
だが、彼女の「リアリティーの無い役柄がハマる」という女優としての特性が、見事にドロンジョとマッチした。
彼女がドロンジョを演じていることが、この映画を評価するポイントの大半を占めていると言ってもいい。
「やっておしまい」は気の抜けた発声だし、芝居が上手いとも思わないが、それでも一向に構わないと思わせるだけの圧倒的な魅力が、 フカキョンのドロンジョ様には備わっている。

これまで私は、この手のジャンル映画においては、及川ミッチーを高く評価していた。
彼が出演していれば、そのポジションだけは安心できるというぐらい信頼感を持っていた。
この映画によって、深田恭子という女優も、その信頼感を持つことの出来る存在となった。これは大きな収穫だ。
私が映画プロデューサーだったら、すぐにでも深田恭子と及川光博が共演するマンガ映画を作るだろう。
それを見てみたいと思うからだ。
その作品がヒットするかどうかは、また別の問題だが。

(観賞日:2010年4月28日)


第6回(2009年度)蛇いちご賞

・助演女優賞:福田沙紀

 

*ポンコツ映画愛護協会