『ヤマトタケル』:1994、日本
ヤマトの国に双子の王子が誕生した。古(いにしえ)より、双子は不吉な知らせと言われている。日代(ひじり)の宮に住むケイコウ王は、双子の弟オウスをおぞましく感じた。彼は祈祷師のツキノワに命じ、双子の弟をイナヒヒメ王妃から取り上げ、崖から捨てさせる。すると、光輝く巨大な鳥、アマノシラトリが現れ、オウスを救った。アマノシラトリは伊勢の社に赤ん坊を降ろして飛び去った。オウスを発見したのは、ケイコウの妹であるヤマトヒメだった。
ヤマトヒメはケイコウと会い、許しが出るまでオウスを預かると申し入れた。ケイコウが「ならぬ」と強く反対すると、ヤマトヒメはオウスを遣わしたのがアマテラスオオミカミの使いであるアマノシラトリだったことを語る。彼女に「アマテラスオオミカミに刃を向ける覚悟がおあり?」と問い掛けられると、ケイコウは憤懣やるかたないといった表情を浮かべながらも、承知せざるを得なかった。
10年後、少年となったオウスは、ヤマトヒメの屋敷で古の神々について教わっていた。彼は森の奥にある洞窟に関心を示すが、ヤマトヒメに仕える武術師のゲンブとセイリュウが「あの洞窟には妖気がある」と近寄らないよう警告した。しかしオウスは言うことを聞かず、深夜に抜け出して洞窟へ向かう。洞窟の中に鎮座していた勾玉に触れると、彼の体は牛頭の石像がある祭壇の部屋に移動した。
石像の前の床には、剣が突き刺されている石板があった。オウスが剣を引き抜こうとすると、石像から声が聞こえてきた。石像は「お前が来るのを待っていた。お前はいずれ、3つの光を手に入れる。そして神の戦士となるのだ」と告げる。直後、石像の両眼から光線が発射され、それを浴びたオウスは意識を失った。目を覚ますと森におり、ヤマトヒメとゲンブ、セイリュウが心配そうに眺めていた。
成人したオウスの元に、ケイコウの許しが出たという連絡が入る。宮に戻ったオウスの前に、邪魔者である彼を排除しようと企むツキノワが現れた。するとオウスの両目が緑色に光り、勾玉から光線が発射されてツキノワを弾き飛ばした。オウスの兄であるオオウスは、騒ぎを起こした弟を厳しく糾弾する。病で寝込んだイナヒヒメを見舞ったオウスは、勾玉をお守りとして握らせた。そのイナヒヒメが死去し、勾玉を見つけたオオウスは、オウスが呪い殺したと決め付けた。
オオウスはオウスに襲い掛かり、殺害しようとする。その時、オウスの両眼が緑色に光り、光線が発射されてオオウスを吹き飛ばした。その様子を見ていたツキノワはケイコウと面会し、オウスがイナヒヒメとオオウスを殺害したと報告する。激怒したケイコウは、敵対勢力であるクマソの討伐をオウスに命じた。ケイコウは「叶わぬ時は、生きて帰ることは許さん」と厳しく告げる。一人で出発したオウスをゲンブとセイリュウが待ち受けており、彼に同行した。
川で水を飲もうとしたオウスは、「この先に、お前を待つ者がいる。いずれ出会う定めの者。お前の命の片割れ」という声を耳にした。しばらく進んだ先で、一行はアマテラスオオミカミに縁のある社を発見する。3人は中で休憩させてもらおうとするが、そこに巫女のオトタチバナが現れ、妖術を使って襲ってきた。セイリュウが拘束したところへ、彼女の姉であるエタチバナが駆け付けた。
エタチバナはオウスたちに、社に安置されていたシラトリノカガミが盗まれたことを語る。オトタチバナはオウスたちが泥棒だと勘違いし、襲い掛かったのだった。エタチバナはオウスたちに、「この世が暗闇に滅ぼされる時、アマノシラトリがその姿を光の鎧武者に変えて人々を救う」という言い伝えがあることを明かした。オウスの手に触れたオトタチバナは、ずっと待っていた相手だと感じる。彼女は戦装束に身を包み、クマソ討伐への同行を申し入れた。
クマソの国へ向かったオウスたちは、一組の父娘と出会った。クマソガミの祭りのため、娘は踊り女(おどりめ)として召し上げられるとになっていた。ゲンジュウは勝手に父親と交渉し、食料と引き換えに、オトタチバナが娘の身代わりになることを約束した。女たちは祭祀の場に集められ、そこで宴が催される。クマソの王であるクマソミコト以外の男子は、その場に入ることが出来ない。オトタチバナが踊り女に化けて城へ潜入する様子を、オウスたちは物陰から観察した。
クマソの城に入り込んだオチタチバナは、クマソミコトに選ばれた女がクマソガミへの生贄にされることを知った。だが、オチタチバナはクマソの戦士たちに捕まり、クマソガミへの貢物にされてしまう。祭祀の場に乗り込んだオウスは、クマソミコトと1対1で戦う。彼の強さを認めたクマソミコトは、「ヤマトの猛き男、ヤマトタケルと呼んでやろう」と口にした。オウスはクマソミコトを倒し、互いに強さを認め合った。オウスはオトタチバナの居場所を聞き出そうとするが、その前にクマソミコトは息を引き取った。
クマソガミが出現し、オトタチバナが生贄にされそうになったところへ、オウス、ゲンブ、セイリュウが駆け付けた。4人は戦いを挑むが、クマソガミの圧倒的な力の前に、成す術が無い。オウスは勾玉を握って念じ、自ら「もののけ」と呼んで忌まわしく感じている力を発動させる。彼の両眼から緑色の光線が発射され、クマソガミは破壊された。その直後、空からシラトリノカガミがオウスの両手に降って来た。それが3つの玉の内の1つだった。
オウスはヤマトタケルと名乗るようになり、オトタチバナを社まで送り届けた。宮に戻ったタケルに対し、ケイコウは「おごるでない。クマソを討ち取ったからといって、お前を許せるものではないぞ」と怒りの口調で告げた。一方、緊急事態をを察知したヤマトヒメはタケルを呼び出し、宮中にあるアマノムラクモノツルギを伊勢の社へ届けるよう依頼した。彼女は「ツクノミコトが帰ってくる」と言い、一刻も早く運ぶよう指示した。
かつてツクノミコトは、この世がアマテラスオオミカミを中心として定まったことに嫉妬した。ツクノミコトはその姿をヤマタノオロチに変え、この世を破壊しようとした。そこで戦神であるスサノオノミコトがツクノミコトを退治した。その時、ツクノミコトの体内から取り出されたのが、アマノムラクモノツルギである。父であるイザナギノミコトはツクノミコトを行李に封じて、宇宙(ウツ)の彼方へ流した。そのツクノミコトが、帰って来ようとしているのだ。
アマノムラクモノツルギがツクノミコトの手に渡れば、この世は滅びの危機を迎える。アマノムラクモノツルギを封じることが出来るのは、アマテラスオオミカミの力が及ぶ伊勢の社だけだ。タケルはアマノムラクモノツルギを盗み出すが、それを目撃したケイコウは、配下の戦士たちに追跡して捕まえるよう命じた。タケルは彼の元へやって来たオトタチバナと共に、伊勢の社を目指す。そんな2人の様子を、ツキノワが観察していた。
ツキノワは呪術を使って嵐を起こし、海中から巨大な怪物、カイシンを出現させた。カイシンに襲われたタケルは、海に引きずり込まれる。するとオトタチバナは自らを犠牲にしてカイシンを退治し、タケルを救った。陸に上がったタケルは、砂浜で倒れているイナヒヒメを発見し、背負って運ぼうとする。だが、それはツキノワの化けた姿だった。ツキノワは無防備なタケルの首を剣で突き刺し、イナヒヒメを呪い殺したのも、オオウスに止めを刺して始末したのも自分の仕業であることを明かした。
オウスはツキノワに剣を投げて突き刺すが、そこで力尽きた。ツキノワの祈りによって、宇宙の彼方からツクノミコトが舞い降りた。ツキノワの正体は、ヤマトノオロチの欠けた牙だった。ツキノワはツクノミコトにアマノムラクモノツルギを差し出し、牙の状態に戻った。一方、黄泉の国で目を覚ましたタケルは、あの祭壇の間に辿り着く。そこに待ち受けていたのは、黄泉の国の大王、ゴズ大王だった。ゴズ大王は「真にワシが待ち焦がれた者か、試してやろう」と言い、タケルに襲い掛かった。
タケルは石板の剣に歩み寄り、それを引き抜いた。すると、まばゆい光を放った剣が、ゴズ大王の兜を真っ二つに割った。彼の正体は、スサノオノミコトだった。スサノオは「お前には果たさなければならない大きな使命がある。お前はツクノミコトを討つために生まれてきたのだ。その剣はオロチノカラサイノツルギ。ツクノミコトを倒すことの出来る唯一の剣だ」と語る。そして、その剣こそ、3つの光の内の2つ目だった。
スサノオはタケルに、「数々の試練を経て、お前はアラミタマを得た。お前がもののけとして恐れる、あの力だ。アラミタマを持つ者にしか、ツクノミコトは倒せん」と言う。彼は棺の中に安置されていたオトタチバナを蘇らせ、「オトタチバナにはアマテラスオオミカミの御霊(みたま)、オウスには我の御霊が宿っている。共に宿命を抱く者だ。ツクノミコトを倒し、この世に光を取り戻すのだ」と述べた。タケルとオトタチバナは地上に戻され、ツクノミコトに戦いを挑む…。監督は大河原孝夫、特技監督は川北紘一、脚本は三村渉、製作は富山省吾、撮影は関口芳則、美術は小川富美夫、録音は池田昇、照明は望月英樹、編集は小川信夫、殺陣は金田治、音楽は荻野清子。
主題歌「RAIN」Produced by YOSHIKI、作詞:YOSHIKI、作曲:YOSHIKI/TAKURO、編曲:YOSHIKI、演奏:GLAY。
出演は高嶋政宏、沢口靖子、宮本信子、麿赤児、藤岡弘(藤岡弘)、篠田三郎、杜けあき、目黒祐樹、阿部寛、ベンガル、石橋雅史、秋篠美帆、大岡旭、利倉大輔、上田耕一、栗原敏、武田滋裕、植田博美、澤藤詩子、重光絵美、向野澪、瓜生栞奈、鈴木雄斗、寉岡凌弦、小林皇洋、益田哲夫、渡辺実、清水剛、西村陽一、吉田瑞穂、上戸章、井殿雅和、大谷恭子ら。
語り手は江守徹。
監督の大河原孝夫、特技監督の川北絋一、脚本の三村渉、プロデューサーの富山省吾、撮影の関口芳則、特技撮影の江口憲一、特殊美術の大澤哲三、照明の望月英樹、主演の高嶋政宏といった『ゴジラVSメカゴジラ』のチームが再結集して作り上げた特撮映画。
オウスを高嶋政宏、オトタチバナを沢口靖子、ヤマトヒメを宮本信子、ツキノワを麿赤児、クマソタケルを藤岡弘(藤岡弘、)、ケイコウを篠田三郎、イナヒヒメを杜けあき、スサノオを目黒祐樹、ツクヨミを阿部寛、ゲンブをベンガル、セイリュウを石橋雅史、エタチバナを秋篠美帆、オオウスを大岡旭が演じている。TVアニメや漫画、ゲームなどのメディアミックス展開が行われ、東宝がかなり力を入れて製作した映画だった。
3部作が予定されていたが、この1作だけで終了している。ってことは、まあ、そういうことだ。
合成やミニチュアはバレバレで、今となっては随分とチープ&陳腐に見えちゃうけど、当時の特撮技術では、それで精一杯だったんだろう。
ただ、この映画の問題点は、それよりも「特撮ヒーロー物のノリで作っている」ってことにあるんじゃないかと思うなあ。
まあ厳密に言うと、特撮ヒーロー物に平成ゴジラシリーズと『スター・ウォーズ』の要素を組み合わせているって感じかな。そういう書き方をしちゃうと、まるで特撮ヒーロー物を全否定しているみたいに思われるかもしれないけど、そういうことではないのよ。特撮ヒーロー物には、そのジャンル作品としての面白さ、魅力ってモノがある。
ただ、この映画を特撮ヒーロー物として仕上げるのは、いかがなものかってことよ。そういうテイストで作ったことが、この映画を陳腐な印象にしてしまったんじゃないかと。
まあ低年齢層を主なターゲットにした子供向け映画として作られているのかもしれんけど、それにしても陳腐なんだよなあ。
あと、もしも低年齢の子供向け映画として作ったのなら、ヤマトタケルを題材に選んだのは、どうなのかなあという疑問が沸くぞ。オウスが10歳に成長し、森に行くと、ゲンブとセイリュウが現れる。この2人、いきなり登場して洞窟へ行くのを制止するのだが、何者なのか良く分からない。たぶんヤマトヒメの家来的な存在なんだろうってことは推測できるが、説明が無い。2人の名前も、オウスがクマソ討伐に出掛けるシーンまでは分からない。
オウスが森に入っただけで、「盗掘へ行こうとなされたな」と2人が止めるのも、手順を飛ばしていると感じる。
まずは成長したオウスの様子を描き、どういう少年なのかをアピールする。で、ゲンブとセイリュウという武術師がいること、洞窟があることを描く。オウスが洞窟に関心を示し、行ってはいけないと警告される。
そういう手順を踏んで、「オウスが洞窟へ行く」という流れに移行した方がいいんじゃないか。
だから、ゲンブたちがオウスを制止する特撮アクションシーンは、別に無くても構わない。勾玉に触れて祭壇の間に移動したオウスは、何の迷いも無く、警戒心も示さず、真っ直ぐに剣へ歩み寄り、それを引き抜こうとする。
まあ見事なぐらいの段取り芝居だ。
オウスが「俺は呪われた王子なのだ。一体、何のために生まれて来たのか」と悩むシーンがあるが、そこに向けてのドラマ描写が不足しているため、その苦悩が薄っぺらく見えてしまう。
それもまた、「悩んでいる」という段取り芝居をやっているようにしか見えない。なぜオオウスが最初からオウスを強烈に忌み嫌っているのか、良く分からない。
たぶんケイコウから色んなことを聞かされたとか、母がいつもオウスのことを気にしていたので憎しみを抱くようになったとか、何か理由はあるんだろう。
ただ、そういうバックグラウンドが全く示されていないので、「ラウスを忌み嫌っている」という段取り芝居をやっているようにしか見えない。
母が死んだ時に「オウスが呪い殺した」と思い込んで襲い掛かるのも、強引な展開に感じる。どんな出来事があっても、余韻を残そうとせず、容赦なくぶったぎる編集でどんどん次へ進もうとする。
そのせいで、やたらと慌ただしい。色んなところで説明や場面が足りないように思える。
見ている途中で、TVシリーズのダイジェスト版を見せられているかのような気分になってしまった。
また、チェンジ・オブ・ペースも無いし、かなり淡白でメリハリの無い仕上がりになっている印象を受ける。ツクヨミノミコトはオウス&オトタチバナと戦っている途中、巨大なヤマタノオロチに変身して暴れ出す。
なぜラスボスをヤマタノオロチにしちゃったのかなあ。どうしたって、キングギドラを連想しちゃうでしょ。しかも同じ東宝でしょうに。
で、そんなヤマタノオロチに対して、オウス&オトタチバナはアマノシラトリに乗って戦う。
ここまで書き忘れていたが、そのアマノシラトリは巨大な鳥、つまり生物という設定なのだが、ロボット感に満ち溢れている。人工的に作られた物にしか見えない。オウス&オトタチバナはヤマタノオロチと戦っている途中で、宇宙に弾き飛ばされる。そこでオトタチバナが3つ目の光に変化し、オウスはウツノイクサガミへと姿を変える。
それは一応「巨大な鎧武者」という設定なんだけど、戦隊ヒーロー物の巨大ロボットにしか思えん。「人間サイズで戦っていた敵が巨大な怪物に変身したら、主人公サイドも巨大ロボットで対抗する」って、まんま戦隊ヒーロー物のパターンだよな。
あと、そのスタイルが妙に小太りで、重厚さよりも鈍重さを感じてしまうんだよなあ。
ちなみに戦隊ヒーロー物の巨大ロボットと同様、ウツノイクサガミは圧倒的な強さで、あっさりとヤマタノオロチを葬るのであった。(観賞日:2013年4月5日)