『山形スクリーム』:2009、日本

都立紅高校歴史研究会の一行は、山形県御釈ヶ部村へ向かった。メンバーは父親から何度も連絡が入る岡垣内美香代、タレント活動をしている自信家の鏑木宙子、メガネっ娘の敏酒圭、スカした態度の波来前胸恵、そして顧問の勝海子だ。海子が勝手に企画した合宿であり、美香代は面倒だと感じているが、家に居るよりはマシだと考えて参加した。バスガイドの瓜瓦眉執は村へ向かう道中、御釈ヶ部村に残る落ち武者伝説を説明した。
今から八百年前、平家の葛貫忠経は壇ノ浦の戦いの後、恋人である官女の光笛と共に出羽国へ流れ着いた。家来の山崎田内左衛門は草薙の剣で天下を取ろうと目論み、葛貫を裏切って落人狩りの連中と結託した。しかし落人狩りの連中は山崎を穴に落として光笛を捕まえると、用済みになった山崎を殴り倒した。生き埋めにされた山崎は、何千年経っても恨みを晴らすと誓った。その後、光笛は出家し、御釈ヶ部村で一生を終えたと言われている。祟りを恐れた村人は、葛貫には祠、山崎には地蔵を建てて、魂を鎮めた。
観光バスがガス欠になったため、一行は徒歩で祠へ向かう。美香代が不審な人影を見ると、瓜瓦は「葛貫の亡霊かもしれない」と言い出す。そこへ落武者姿の男が現れ、刀で瓜瓦を斬り捨てた。美香代と宙子が怯えていると、村長の蝦蟇且茂治郎が楽器隊の演奏に乗せて歌いながら登場した。それは歴史研究会を迎えるためのサプライズ・イベントで、落ち武者を演じていたのは俳優の温水洋一だった。
理容「ヨモスガ」では店主の与藻須賀三太郎が転寝している間に、祖母のトメコが姿を消した。蝦蟇且たちを乗せたバスが通り過ぎたので三太郎は追い掛けようとするが、自転車のペダルが取れてしまった。蝦蟇且たちは美香代たちのために露店を用意しており、そこにトメコも来て射的を楽しんだ。大日本ルネッサンス・コーポレーション代表取締役の織蛾味スグルが現場入りして海子に挨拶し、今日は祠倒しの日だと告げる。蝦蟇且はスーパー祠を新しく建てようと考えており、着工式の代わりに古い祠を倒すことにしたのだ。
蝦蟇且や織蛾味たちは縁結びのテーマパークを構想していたが、祠を守ってきた一族である三太郎は「祟りで村人たちが皆殺しになる」と抗議する。しかし商工会のムトゥたちは、ショベルカーで祠を破壊した。その直後、激しい地震と爆発が起き、三太郎は「祟りだ」と顔を引きつらせた。丘の上に建つ地蔵は山崎となって蘇り、「もののふどもよ、集え。戦じゃ」という葛貫の声を耳にした。「インチキ広告に騙されやがって」と三太郎に責められた美香代は、腹を立てて「インチキなんて最初から分かってました」と言い返した。
海辺で戯れていたカップルのチャッピー&うるやんは、葛貫の家来である伊東丹波成定、藤本権田景頼、夏彦が海から復活したのを見て絶叫した。ホテル“グランドピア御釈ヶ部”に到着した歴史研究会の生徒たちは、広告が海子からレポートの作成を命じられた。また父から着信が来たので、美香代は無視して散歩に出た。美香代の母が死んだ後、父の今朝明はケイシー・千尋・セバスチャンという若いハーフ美女と再婚していた。だが、美香代は父の再婚を受け入れることが出来ず、そのことで折り合いが悪くなっていた。
廃校に迷い込んだ美香代は、健康志向集団レッドバロン団長の薔薇男と遭遇した。今ラブイズオーバー薔薇男は団員のビタヤン、ゲドヤン、山田を紹介し、一緒にハーブでトリップしようと持ち掛けた。廃校を去った美香代は、、徘徊するトメコを捜しに来た三太郎と遭遇した。2人は些細なことで笑い合い、トメコは美香代を昼食に誘った。三太郎は両親を高校1年生の時に失い、トメコと2人で暮らしていた。美香代は自分も母を亡くしたばかりであること、すぐに父が再婚したのが許せなかったことを話した。
伊東たちはチャッピー&うるやんを脅して車に乗り、御釈ヶ部村へ向かっていた。ムトゥたちは津留子が営むスナックへ行き、温水洋一の悪口を言う。すると占い師でもある津留子は、落ち武者キャンペーンは最悪だと告げた。店に来ていた温水は、自分の悪口にショックを受けた。またトメコが消えたので、美香代と三太郎は捜索に出た。三太郎は美香代に、「アホだから分からないけど、親父さん、お袋さんのこと忘れたわけじゃないと思う」と告げた。
美香代と三太郎は不気味な容貌の山崎と遭遇し、怖くなって逃げ出した。美香代が光笛と瓜二つだったので、山崎は驚いた。伊東たちは村の入り口に到着すると、橋から川へ錨を落とした。彼らが村に入ると、それに気付いた山崎は手を振った。4人はコンビニに入り、店員の雫石を怖がらせた。宙子、圭、胸恵は美香代を捜してレポートを書けなかったことにしようと考え、ホテルを抜け出した。夜、悪酔いした温水はスーパー祠の建立予定地に入り、小便を引っ掛けた。すると地面から葛貫が復活し、温水は斬り捨てられた。
建立予定地に山崎たちが到着し、葛貫に平伏した。八百年前に山崎が裏切ったことを知らない葛貫は、「お前の献身、忘れてはおらんぞ」と告げた。夏彦は逃げようとするチャッピー&うるやんに矢を放ち、葛貫は「戦じゃ。村を征伐して民を地獄の亡者と成せ」と家来たちに命じた。夏彦は「殺生は嫌なんじゃ。これで勘弁」と告げ、チャッピー&うるやん、温水に唾液を勢いよく放出した。すると3人は髪が伸び、ゾンビとなって復活した。
落ち武者たちは村へ行き、次々に住民を殺害した。温水はスナックへ行き、ムトゥや津留子たちに唾液を放出した。すると彼らもゾンビになり、店を出て歩き出した。美香代と三太郎は桟橋にいるトメコを発見し、連れ帰ろうとする。そこへ宙子たちが駐在の鹿島津を連れて駆け付けた。一行が帰ろうとすると葛貫たちが現れ、鹿島津を殺害した。美香代を見た葛貫は、「光笛」と呟いて驚愕する。美香代たちが逃げ出したので夏彦か矢を放とうとすると、葛貫が制止した。
三太郎はトメコを連れて倉庫に逃げ込み、美香代たちが「入れて」とドアをノックしても無視した。美香代たちはホテルへ向かって逃走した。ホテルで織蛾味と飲んでいた蝦蟇且は、家に伝わる光笛の装束が客寄せに使えると考えた。海子は泥酔して恋人が出来ないことを愚痴り、分倍河原と女将のサジエに絡んでいた。美香代たちがホテルへ駆け込んだ直後、葛貫の一行が現れた。海子は落ち武者の亡霊と知らず、笑顔で挨拶した。伊東が刀を振ると海子はサッと身をかわし、分倍河原とサジエが斬り捨てられた。
美香代は転んで取り残され、慌てて宙子たちの後を追った。夏彦は広間に乗り込んで「逃げるんじゃ。ワシに殺生させるな」と弓を構え、蝦蟇且と織蛾味は逃げ出した。宙子たちは荷物をまとめ、窓から脱出した。死んだフリをしていた海子も、ホテルから逃げ出した。美香代は森へ逃げて圭に電話を掛けるが、途中で電波が途絶えた。宙子たちはゾンビの群れと遭遇し、包囲されてしまった。美香代は廃校へ行き、レッドバロンの面々に助けを求めた。
廃校に伊東が現れたので、美香代は校舎に逃げ込んだ。伊東はレッドバロンの面々を殺害し、美香代を追った。一方、標識が分からずに海子が困っていると、宙子たちがやって来た。「一人で逃げる気か」と責められた海子は、「貴方たちを待ってたのよ」と嘘をついた。宙子が「美香代がはぐれたの。捜さなきゃ」と言うと、彼女は「分かったわ、任せて」と述べた。ゾンビの群れが来たので宙子たちは逃げ出し、海子は頭を抱えて「おしまいよ」と絶叫した。
葛貫は美香代を捕まえ、気絶した彼女を馬に乗せて廃校を後にした。葛貫は光笛が自分にだけ舞を見せてくれた日のことを語り、目を覚ました美香代は彼の背中に頬をうずめた。三太郎は葛貫の前に立ちはだかり、震えながら「その子を離せ」と要求する。だが、美香代の表情を見た三太郎は黙り込み、葛貫はそのまま馬を走らせた。海子は車で村を出ようとするが、橋が破壊されていた。そこへゾンビたちが現れ、車を包囲した。圭は携帯電話を改造して光線銃を作り、ゾンビを蹴散らした。倉庫に戻った三太郎は、「あの子も救えなかった」とトメコの膝に頭をうずめて泣き出す。トメコが彼を慰めて子守唄を歌うと、倉庫に侵入していた藤本の頭が膨張して破裂した…。

監督は竹中直人、脚本は継田淳、脚本協力は厨子健介&竹中直人、企画は中沢敏明&ヘンガメ・パナヒ、製作は宇野康秀&白井康介&島本雄二&當麻佳成&河野広一&川合敏久&橋本倫周&熊澤芳紀&野林定行&ヘンガメ・パナヒ&谷徳彦&松田英紀、企画協力&衣裳デザインはMASATOMO、エグゼクティブプロデューサーは丸茂日穂、プロデューサーは吉田浩二&梅村安&山崎雅史、CGプロデューサーは大野貴裕、プロデューサー補は鶴岡智之、撮影は佐々木原保志、美術は斎藤岩男、照明は安河内央之、録音は北村峰晴、編集は奥原好幸、特殊メイク・造形は江川悦子、音楽は栗コーダーカルテット(栗原正己、川口義之、近藤研二、関島岳郎)。
主題歌「Hanky Panky」Superfly 作詞:越智志保、作曲:多保孝一、編曲:蔦谷好位置+多保孝一。
出演は成海璃子、AKIRA(EXILE)、マイコ、沢村一樹、由紀さおり、生瀬勝久、竹中直人、桐谷美玲、紗綾、波瑠、三浦春馬、六平直政、井口昇、荻野目慶子、篠原ともえ、佐伯新、緋田康人、温水洋一、赤井英和、田中要次、広田レオナ、クリスタル・ケイ、岩松了、石橋蓮司、斉木しげる、デビット伊東、坂田聡、矢沢幸治、須田邦裕、神戸浩、住田隆、土平ドンペイ、高橋一平、栗コーダーカルテット、出口正義、伊藤佳範、岩倉啓太、関田安明、大藤直樹、雲雀大輔、尾崎一彦、帯金伸行、舟山弘一、叶雅貴、坂手透浩、後藤健、高槻祐士、高野ひろき、津野岳彦、田中良、Velo武田、野貴葵、横内直人、岡山和之、安田桃太郎、今井喜美子、日野由佳、じゃーじー真輝糸洲、五十嵐さなえ、徳永ゆき、瀬野千恵子、佐久間利彦ら。


俳優の竹中直人が2004年の『サヨナラ COLOR』以来、5年ぶりに監督を務めた作品。
脚本は『ラッパー慕情』『細菌列島』の継田淳。
美香代を成海璃子、三太郎をAKIRA(EXILE)、海子をマイコ、葛貫を沢村一樹、トメコを由紀さおり、蝦蟇且を生瀬勝久、山崎&薔薇男を竹中直人、宙子を桐谷美玲、圭を紗綾、胸恵を波瑠、雫石を三浦春馬、ムトゥを六平直政、瓜瓦を井口昇、津留子を荻野目慶子、チャッピーを篠原ともえ、うるやんを佐伯新、織蛾味を緋田康人が演じている。

竹中直人の人望の厚さなのか、とにかく顔触れが豪華だ。 上述した他にも、温水洋一(本人役)、赤井英和(鹿島津役)、田中要次(分倍河原役)、広田レオナ(サジエ役)、クリスタル・ケイ(ケイシー役)、岩松了(今朝明役)、石橋蓮司(伊東役)、斉木しげる(藤本役)、デビット伊東(夏彦役)といった面々が出演している。
そんな豪華な顔触れで、徹底的にバカなことをやりまくったのが、この映画だ。
そういうのは嫌いじゃないし、実は期待感もあったんだけど、残念ながら壮絶に討死したポンコツ映画である。

かつてフジテレビ系列では、正月に『新春スター・かくし芸大会』という番組を放送していた。
タイトルが示す通り、芸能人が普段はやらないような芸を披露し、2チームに分かれて点数を競うという内容だった。手品や大道芸、演武や楽器演奏など、様々な芸が披露された。
堺正章が様々な「ミスターかくし芸」と呼ばれていたことを知っている人も多いだろう。
そんな中、ドラマやコントのパートもあった。ハナ肇扮する銅像がいじられるコントや、井上順が主演を務めるパロディードラマを覚えている人もいるだろう。

ちょっと前置きが長くなったが、これは『新春スター・かくし芸大会』のコントやパロディードラマを長尺にしたような映画なのである。
つまりハッキリ言ってしまえば、正月のテレビ番組だからこそ楽しめるような内輪受け喜劇を、映画でやってしまったということだ。
前述したハナ肇の銅像コントや井上順のパロディードラマは、とても面白かったという印象がある。
しかし、もしもアレを映画として、しかも116分という長さで見せられていたら楽しめたかというと、答えはノーだ。

「TVドラマじゃなくて映画として製作している」ということよりも、「あまりにも長すぎる」ってことが、本作品の抱えている最大の問題だろう。
長編映画で116分ってのは特に「長すぎる」と評するような尺ではないが、喜劇としては少し長めだ。しかし、それどころではなくて、90分や80分でも厳しい。
仮にTVドラマとして放送されていたとしても、その長さだとキツい。たぶん50分ぐらいが適度な時間だろう。
っていうか、深夜に1時間枠(コマーシャルなどを抜くと本編は50分程度になるはず)で放送されていたら、それなりに楽しめたんじゃないかという気もするのだ。

長すぎると感じる原因はハッキリしていて、それは竹中直人の色で映画全体を染めているからだ。
竹中直人という人は超が付くほど個性的や役者だが、ハッキリ言ってクセが強くてクドい。
まあ映画や監督によっては抑えた演技をさせているケースもあるが、自由にさせると竹中直人の登場シーンは完全に彼色で染まる。
だから、主人公に関わる人間として上手く使えば「面白い脇役」「脇役で光る存在」ということになるんだけど、そのノリを長く見せられると胸焼けがするか、もしくは疲れてしまう。

困ったことに、この映画は竹中直人の出番が多いだけでなく、全ての登場人物が「いつもの竹中直人のノリ」に合わせて演技しているのである。
「いつもの竹中直人のノリ」ってのは、映画やドラマの宣伝でバラエティー番組やトーク番組に出る時でも何かのキャラを演じようとする、あの手のノリを意味している。
もちろん、他の面々の芝居は、竹中直人が監督として指導した結果なんだろう。そして、もちろん映画のシナリオも演出も、やはり「いつもの竹中直人のノリ」に満ち溢れている。
だから、よっぽど熱い竹中直人の大ファンでなかったら、早い段階で精神的に疲れてしまう。

丼鉢に山盛りのカレーライスを完食しろと言われたら、どうだろうか。
空腹だったり、大食いだったりすれば、たぶん普通に食べられるだろう。そんなに大食漢じゃない人でも、頑張れば何とか食べられるかもしれない。これがラーメンやカツ丼、うどんやオムライスでも、それほど変わらないだろう。
しかし、丼鉢に山盛りのメニューが、鮒寿司だったらどうだろうか。あるいは、くさやだったらどうだろう。
たぶん、どんな大食漢でも厳しいだろう。鮒寿司が好物の人でも、その分量だとキツいはずだ。

竹中直人は最初から「くだらない映画」を目指して製作しているから、観賞した観客が「くだらない」という感想を抱くのは狙い通りと言っていいだろう。
ただし問題は、その「くだらない」という言葉に込められた意味だ。
「くっだらねえ」と笑いながら楽しめたということになるのが、この映画の理想形だと思うのだ。吐き捨てるように「くだらない」と言われちゃうのは、望ましい結果ではないはずだ。
そして残念ながら、後者になっているのである。

「あのシーンのアレは変だろ」とか、「あのエピソードの、あいつの台詞は何なんだよ」とか、いちいちツッコミを入れながら観賞できるなら、ある意味ではバカ映画として楽しめたということになる。
後にカルト扱いされるようなZ級映画ってのは、間違いなく駄作であろうとも、そういう楽しみ方が出来るものだ。
しかし本作品の場合、そうう楽しみ方をするのは難しい。
しかも、笑いを取りに行っているのに笑えないこともんだから、それが余計に退屈を助長している。

タイトルは『山形スクリーム』だが、山形も『スクリーム』も関連性は乏しい。
「山形」に関しては、場所の設定が山形であり、住民が山形の方言っぽい言葉を喋っているものの、山形のローカルなネタを笑いの要素として積極的に持ち込むような作業は乏しい。
だから、場所を山形に設定するだけでなく、わざわざタイトルにまで「山形」と付けたことの意味合いが薄い。
バカにするような形でもいいから、もっと「山形」を活用した方が面白くなったんじゃないかと思うけどね。

『スクリーム』との関連性は薄いが、あえて言うなら「様々な映画のパロディーを盛り込んでいる」という部分は共通している。
ただし、内容や『スクリーム』というタイトルからして、ホラー映画のパロディーをやるのかと思いきや、それ以外のジャンルにも手を出している。
竹中直人が映画マニアであることは、たぶんファンには有名な話だろう。そして、そんな彼の映画に対する愛や情熱が、これでもかと注ぎ込まれているわけだ。
しかし、あまりにも熱が強すぎてバランス感覚を失った結果、パロディーとしての面白さも無くなってしまった。

例えば序盤、綿菓子の露店で美香代が「4つ下さい」と告げると村人が「2つで充分ですよ。分かってくださいよ」と返すが、それは『ブレードランナー』でデッカードと寿司屋の主人が交わした会話だ(寿司屋の主人は日本語で喋っていた)。
ホラー映画のパロディーじゃないのは、とりあえず置いておくとしよう。
だが、それを抜きにしても、そのシーンは有効に機能していない。
ただ単に同じ言葉を何の脈絡も無く拝借しているだけであり、だからパロディーとして成立していないのだ。

映画じゃないけど、山崎が足でピアノを演奏するというTVドラマ『柔道一直線』の近藤正臣を意識したネタも持ち込まれている。
しかし、それも「美香代が廃校の中を逃げていたら突如としてピアノの音が聞こえ、山崎が足で演奏している様子が写る」という、やはり脈絡の無いシーンになっている。
っていうか、そもそも『柔道一直線』をパロディー化するのなら、単に「足でピアノを演奏する」ってことじゃなくて、そこに捻りや変化を加えないと成立しないはずで。

後半、トメコが左ト全とひまわりキティーズのヒット曲『老人と子供のポルカ』を歌うと、それを聴いた落ち武者の頭が膨らんで破裂する。これはヨーデルのレコードを聴いたエイリアンの頭が破裂する『マーズ・アタック!』を意識した描写のようだ。
しかし、これまた全く脈絡や流れってモノが無いまま唐突に訪れるシーンなので、何が何やらサッパリ分からない。それがパロディーであることさえ、なかなか伝わりにくい状況になっている。
そもそも『マーズ・アタック!』の当該シーンは、地球人には無害のバクテリアでエイリアンが死滅するという『宇宙戦争』のパロディーになっているのだ。パロディーのパロディーってのは、絶対にやっちゃいけないことでしょ。
そういうのは他にも用意されていて、子守唄で癒やされたゾンビが残る村の様子をエピローグで描いているのは『ショーン・オブ・ザ・ デッド』からのネタなんだけど、そもそも『ショーン・オブ・ザ・デッド』が『ゾンビ』のパロディー的な映画なわけで。

ようするに、映画のバランスとか全体の統一感とか、そういうことは全く考えず、竹中直人が好きなことを好きなようにやっているだけなんだよね。
だから終盤、本性を現した山崎が草薙の剣を奪って葛貫に襲い掛かった後、唐突にブルース・リーの物真似をする芝居が入ったりするのだ。
それは「山崎のキャラクター造形が云々」ってことなんて完全に無視して、ただ単に竹中直人が自分の得意芸を披露しているだけだからね。

せめて勢いとハチャメチャなパワー満開でテンポ良く一気に突っ走ってくれたら何とかなったかもしれないが、変に静かで淡々としたシーンを作ったり、ゆったりと時間が経過する箇所を用意したりするんだよな。
ヒロインが父の再婚を許せずに云々とか、そういうマジなトーンのドラマ要素なんて全く要らないのに。
ゾンビが動き出すまでの話も、無駄に長くてダラダラしているし(そこまでに50分ぐらい掛かるのよ)。
繰り返しになるが、とにかくダダダっと勢いとパワーだけで畳み掛け、50分程度で終わるような深夜枠のTVドラマなら、「お世辞にも出来栄えが良いとは言えないけど、なんか楽しめた」という感想になった可能性はあるような気がするんだけどね。

(観賞日:2015年6月10日)


第3回(2009年度)HIHOはくさい映画賞

・最低助演女優賞:マイコ
<*『山形スクリーム』『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』の3作での受賞>

 

*ポンコツ映画愛護協会