『約束のネバーランド』:2020、日本

15歳のエマは仲間のレイやノーマンたちと共に、孤児院のグレイス=フィールドハウスで暮らしている。ハウスに住む孤児に血の繋がりは無いが、本当の兄弟のように仲良く過ごしている。シスター・イザベラは優しく穏やかな女性で、孤児たちから慕われている。孤児たちは勉強を積み、テストを受けている。いつも優秀な成績を収めているのが、エマとレイとノーマンの3人だ。孤児たちは勉強だけでなく、外で遊ぶこともある。ただし、「敷地から外に出てはいけない」という規則は守っている。かくれんぼの最中、フィルが敷地を囲う柵に接近すると、ノーマンが来て「向こうは危険だから」と告げた。
孤児は16歳になるまでに里親を手配され、ハウスから旅立っていく。その日はコニーがエマたちに別れを告げ、イザベラに連れられて里親の元へ向かった。エマはコニーが大事にしていたウサギのぬいぐるみを忘れていると気付き、届けに行こうと考える。門の向こうに行けば叱られるのは分かっていたが、彼女はノーマンと共にコニーを追った。2人が門に入ると誰もおらず、ジープが停まっていた。エマが荷台を覗き込むと、コニーが惨殺されていた。
声がしたのでエマとノーマンがジープの下に隠れると、2体の鬼が出現した。鬼の会話を聞いたエマたちは、ハウスの孤児が食用肉として出荷されていることを知った。さらに2人は、イザベラが鬼のリーダーと話している姿を目撃した。エマとノーマンは見つからないように、その場から逃走した。ノーマンが一緒に逃げ出そうと持ち掛けると、エマは「みんなを置いていけない」と反対した。するとノーマンは、みんなで逃げようと告げた。鬼のリーダーはぬいぐるみを発見し、イザベラに「処理しておけ」と命じた。
翌日、エマとノーマンは密かに柵を越え、高い塀があることを知った。ノーマンはエマに、全員で逃げる戦略が見つかるまでは昨晩の一件を内緒にするよう告げた。鐘が鳴ったので、2人は仲間の元へ戻った。イザベラは森でライラがいなくなったと聞き、懐中時計を開いた。彼女は森へ行くと、すぐにライラを連れて戻って来た。エマとノーマンは、イザベラが発信器で孤児の居場所を把握していること、耳のしこりに発信器が埋め込まれていること、門に行った人間への宣戦布告として時計を見たことを理解した。
エマとノーマンは森へ出掛け、レイに話すべきかどうかを相談する。そこへ尾行していたレイが来たので、2人は目撃した出来事を話す。すぐにレイは「信じる」と受け入れ、3人での脱走を持ち掛けた。エマが全員で逃げると主張すると、彼は「逃げるだけじゃダメなんだ。外が鬼の世界なら、連れてっても全滅するだけだ」と反対する。しかしエマは「外の世界を変えよう」と元気に言い、ノーマンも賛同した。2人から協力を要請されたレイは、仕方なく承諾した。
ノーマンは「発信器を壊すのは逃げる時」と決め、破壊する方法についてはレイが「俺に任せてくれないか」と告げた。フィルは3人の元へ、図書室にある何冊かの本を持って来た。彼は本にフクロウのスタンプが押してあるが、少しずつ違うことを見つけたのだ。それらの本は、全てミネルバという女性から寄贈された物だった。スタンプを見たエマとノーマンは、モールス符号になっていることに気付く。そこに隠された言葉を読んだ2人は、それが自分たちへのメッセージであり、ミネルバが外にいる味方だと確信した。
イザベラは孤児たちに、シスター・クローネという新しい手伝いを紹介した。監視の目を増やすため、イザベラが先手を打ったのだ。次の出荷予定は最短で1ヶ月半後で、それまでに全員を連れ出す方法を考える必要があった。エマたちは鬼ごっこと称し、孤児たちを訓練することにした。イザベラはクローネに、「出荷を誰かに見られたが、上には報告せずに自分で処理する」と述べた。ただ見張っていればいいと指示されたクローネは、密かに不敵な笑みを浮かべた。
エマたちが鬼ごっこで孤児たちを遊ばせていると、クローネが来て混ぜてほしいと持ち掛けた。エマたちは敵を知るチャンスと考え、彼女に鬼を任せた。クローネは強敵を暴き、イザベラをハウスのママから引き摺り下ろそうと目論んでいた。20分のタイムリミットで鬼ごっこを始めると、レイとノーマンは最後まで逃げ切った。イザベラはクローネが自分に無断で鬼ごっこに参加したことを知っており、「今後は道を誤らないでね」と穏やかに告げた。
鬼ごっこが始まってからイザベラもクローネも何も仕掛けて来ないことから、ノーマンは孤児の中に内通者がいると睨む。彼はエマとレイに、それでもハウスの秘密を話すと告げた。まずエマたちは年長のドンとギルダを呼び、真実を打ち明けた。2人はショックを受けるが、エマたちの話を信じた。ドンとギルダが去った後、ノーマンはエマとレイに「スパイを炙り出すため、2人にダミーのロープの隠し場所を教えた」と明かす。ドンには自分のベッドの下、ギルダには木の上にあると教えたことを、彼は説明した。その夜、イザベラの元には、内通者からのメモが届いた。
翌朝、ノーマンはエマとレイに、ベッドの下のロープが無くなっていたことを教えた。その上で彼は、レイがスパイだと指摘した。彼がドンに教えたのは、別の場所だった。ノーマンはドンとギルダだけでなく、レイにも罠を仕掛けていたのだ。レイはハウスの秘密を知り、自らイザベラに取引を持ち掛けてスパイになっていた。出荷を引き延ばすこと、結果を出したら報酬を貰うことが、彼の条件だった。だが、彼は本物のロープがある場所を、イザベラには教えていなかった。
ノーマンはレイに、自分たちに出荷を目撃させ、脱獄を仕組んだことを指摘する。ずっと前から脱獄の準備を進めて来たことをレイが話すと、エマは「みんなで行こう、外の世界に」と口にした。レイは発信器を無効にする装置を作っており、翌日に届く部品で完成だった。彼はノーマンと2人になり、「本当に脱獄したけりゃ、せいぜいドンとギルダまでだ。エマを騙せ」と要求する。ノーマンは「出来ない」と断り、「あの夜、初めてエマが泣くのを見た。家族が死ぬのが怖くて泣いてたんだ。エマには笑っていてほしい」と語った。
レイはイザベラに、「ノーマンが殺そうとしている。洗剤や除草剤を集めてる」と報告する。彼は中身を偽物に入れ替える必要があると言い、イザベラに協力を要請した。イザベラは来月は出荷が無く、次は1月のレイの誕生日だと教えた。次の日、エマ、レイ、ノーマンは、洗剤と除草剤を用意したドン&ギルダと森で合流する。そこへクローネが現れ、手を組もうと持ち掛けた。彼女はチップが埋め込まれていて外に出れば死ぬのだと明かし、農園で最も良い暮らしを目指すためにイザベラを引き摺り下ろす計画を教えた。
エマたちは相談し、クローネを信用せずに表面的に手を組むことにした。5人は情報を得るため、クローネの部屋へ行く。クローネは5人に、「外の世界を見たことは無いが、人間はいる」「遠い昔、人と鬼が争う時代があった。戦いに疲れ、互いの世界を住み分けることにした。人間は一部を鬼の世界に残して去った。置き去りにされた人間は、鬼に養殖されて食用肉になった」と説明した。エマたちの態度を見たクローネは、発信器を壊す方法を発見したのだと悟った。
レイはイザベラから報酬としてインスタントカメラを受け取り、「またクローネが近付いて来た」と報告した。翌朝、彼はエマとノーマンに、カメラの部品で発信器を壊す装置が完成することを教えた。クローネは子供たちの寝室をガサ入れし、発信器を壊す装置を見つけようとする。レイは別の場所に装置を隠しており、エマたちに診せた。エマは寝室へ行き、既にクローネが探したフィルのヌイグルミに装置を隠す。だが、クローネはヌイグルミを怪しみ、装置を取り出そうとする。そこへイザベラが現れ、本部からの異動通知をクローネに渡す。そこには第4プラントのママになるよう記されており、イザベラは早急に荷物をまとめるよう指示した。
クローネはイザベラに気付かれないよう、ノーマンの机の引き出しにペンを残した。彼女が門へ行くと、グランマが待っていた。クローネが「秘密を知った子供たちがいて、脱走を計画している」と報告すると、グランマは「制御できていれば問題はありません」と告げる。彼女はイザベラが特別な存在であることを語り、鬼にクローネを始末させた。エマとノーマンは下見に行き、レイはイザベラを引き付けるために薬の取り換えを始めようとする。しかしイザベラはエマたちの企みを見抜いており、レイを部屋に閉じ込めた。
見張り役のドンとギルダは、イザベラがエマたちの捜索に向かうのを目にした。レイはドアを蹴破り、ドン&ギルダと共にイザベラを追う。エマとノーマンが塀に到着するとイザベラが現れ、抗うことを諦めるよう諭す。エマはイザベラに飛び掛かり、ノーマンを逃がそうとする。しかしイザベラがエマの左足を折ったため、ノーマンは立ち止まった。レイたちも現場に駆け付ける中、イザベラはノーマンに出荷が決まったことを伝えた。
エマとレイはノーマンに対し、逃げるフリをして自分たちの決行日まで隠れるよう持ち掛けた。ノーマンは「僕が逃げたらレイやエマが出荷されるかもしれない」と断り、「僕の命はくれてやる。だけど。それ以外に何一つ譲る気は無い。必ず脱獄は成功させる」と覚悟を口にする。しかしエマは納得せず、一緒に生きようと訴えた。レイは胎児の頃からの記憶があると告白し、門は本部に繋がっていると話す。レイから発信器を壊す装置を受け取ったノーマンは寝室へ戻り、クローネが残したペンを発見した。
翌日、ノーマンは子供たちが庭で遊ぶ時間に、抜け出して塀へ向かった。彼はドンとギルダが用意したロープを使い、塀を登った。彼は外の様子を見ると、逃亡せずにエマたちの元へ戻った。困惑するエマとレイに、ノーマンは塀の向こう側が崖になっていること、本部のある区画だけ橋が架かっていることを教えた。彼は最初から逃げる気など無く、エマたちを脱獄させる下見として塀へ向かったのだ。そのため、彼は発信器を壊す装置も使っていなかった。その夜、ノーマンは子供たちに別れを告げ、出荷されていった…。

監督は平川雄一朗、原作は『約束のネバーランド』白井カイウ&出水ぽすか(集英社 ジャンプ コミックス刊)、脚本は後藤法子、製作は石原隆&瓶子吉久&市川南、プロデューサーは村瀬健&小林美穂、撮影は今村圭佑、照明は小林暁、録音は渡辺真司、美術は清水剛、編集は伊藤伸行、音楽は得田真裕、音楽プロデューサーは谷口広紀、主題歌『正しくなれない』は ずっと真夜中でいいのに。。
出演は浜辺美波、城桧吏、板垣李光人、北川景子、三田佳子、松坂桃李、渡辺直美、山時聡真、安藤美優、松本レイラニ、アディナン、溝口元太、古橋キット、志村美空、柴崎楓雅、木村皐誠、ギラルド沙羅、太田しずく、パーマー ルパート、アリアナ、浅田芭路、森優理斗、佐藤遙灯、宮島さゆき、ドメリチ エーデン樹奈、金子莉彩、アレ・M、矢野詩、石塚陸翔、トウマ・H、スベディオザス、ダリア・N、山城琉飛、平莉枝、石田芽良、実花、森本のぶ、辻大樹、ニクまろ他。


白井カイウ&出水ぽすかによる同名漫画の第一部、「GFハウス脱獄編」を基にした作品。
監督は『僕だけがいない街』『春待つ僕ら』の平川雄一朗。
脚本は『チーム・バチスタFINAL ケルベロスの肖像』『僕だけがいない街』の後藤法子。
エマを浜辺美波、レイを城桧吏、ノーマンを板垣李光人、イザベラを北川景子、クローネを渡辺直美、ドンを山時聡真、ギルダを安藤美優が演じている。謎の男役で松坂桃李が友情出演、グランマ役で三田佳子が特別出演している。

まず「コスプレにしか見えない」という問題がある。様々な色のウィッグを装着し、互いに外国人の名前で呼び合っても、「どこからどう見ても日本人ですよね」と言いたくなってしまう。
これがコミカルな作品なら、それを含めて面白さに出来る可能性はある。また、荒唐無稽に振り切っている作品でも、力ずくで突破できる可能性はある。
だが、この作品のようなテイストだと、コスプレの陳腐さから逃れることは難しい。
あと映像も、色合いも含めて安っぽい、鬼と呼ばれるクリーチャーも、上手く馴染んでいない。
そもそも日本で実写化すること自体に無理があって、海外に権利を売ってネットフリックス辺りで連続ドラマ化した方が良かったんじゃないかと。

エマたちの年齢設定を上げたことも、大きなマイナスになっている。エマ&レイ&ノーマンの年齢は原作だと11歳だが、この映画ではエマ&ノーマンが15歳でレイが13歳に引き上げられている。
もちろん、これは浜辺美波、板垣李光人、城桧吏という出演者に合わせての変更だ。それでも実年齢とは合わないが、「16歳までに出荷される」というルールがあるので上限なのだ。
浜辺美波のような人気のある役者を起用し、その訴求力に期待したくなるのは良く分かる。作品によっては、年齢設定を変更しても大きな影響が無かったり、むしろ物語の改変に伴ってプラスになったりするケースもある。
だが、この作品において11歳が15歳に引き上げられるのは、印象を悪い方向へ大きく変えてしまう。

イザベラが懐中時計を見てからライラを捜しに行き、すぐに連れて戻ると、エマとノーマンは驚く。そして、すぐに「イザベラは発信器で孤児の居場所を把握している。耳のしこりに発信器が埋め込まれている。門に行った人間への宣戦布告として時計を見た」と理解する。
ものすごく聡明なのね。まあ学業優秀ってことは示されていたけど、それにしても。
あと、そこはBGMを使って盛り上げているけど、あまりに強すぎて状況が負けちゃってるぞ。
エマがレイとノーマンに「みんなで行こう、外の世界に」と言い、3人が笑い合うシーンも、やはりBGMが盛り上げようとする。ここは感動的に演出しようと目論んでいるが、やはりドラマが音楽に負けている。

もっとエマたちを精神的にも肉体的にも追い詰めてもいいんじゃないかと思うのだが、そんなに緊張感が高まらないまま時間が経過する。
イザベラの動きが少ないから、仕方がない部分もあるとは思う。だが、それでも「不気味な圧力」「静かに忍び寄る恐怖の気配」みたいなモノはあるのかというと、それも薄い。
それを補う意味では、積極的にエマたちに接触して来るクローネの存在がポイントになってくる。ただ、どうしてもコミカルな感じが出ちゃってるのよね。
「原作のクローネもそうだから」と言われたら、その通りかもしれない。ただ、それを渡辺直美が演じることによって、コミカルな感じが不気味さを凌いでしまうんだよね。

映画開始から50分ぐらいでイザベラが「そろそろ頃合いかしら」と呟くので、いよいよ本格的に動き出すのかと思ったら、まだ動かない。
そして1時間ぐらい経った辺りで、ついにイザベラはエマたちの前で本性を現す。エマの足を折り、ノーマンに最後通告を突き付ける。
このシーンで、ようやく子供たちに対する恐怖や緊張感が充分なレベルに達したかな、という感じだ。
「ノーマンの出荷」という出来事で絶望感は出しているけど、そこまでの物足りなさは感じるなあ。

ノーマンが出荷されると、すっかり沈んでいるエマとレイの姿を見せて、2ヶ月後に飛ぶ。そして再びエマとレイの姿を描き、相変わらず沈んでいる様子が描かれる。
でも、決して絶望していないこと、諦めていないことはバレバレだ。
なので、レイの出荷前夜になって「実は、それぞれに準備を進めていた」ってのを明かされても、「でしょうね」と思うだけで驚きは無い。
それよりも、イザベラが完全勝利を確信した後、エマとレイが密かに準備を進める様子を描いて「レイの出荷前夜」に入った方が良かったんじゃないかなあ。そうやって観客に成功への期待感や高揚感を与えておいた方が、引き付ける力は強かったんじゃないかなあ。

ノーマンが出荷される時、門に行くと謎の男が現れる。これを演じるのが松坂桃李だ。わずか1シーンの登場だが、それなりに重要な情報を語るし、今後の展開にも絡んできそうな気配はある。
この後も原作は長く続くし、映画版もシリーズ化された場合は再登場する可能性を残しての出演なんだろうと思われる。
ただ、子供って成長が早いから、早く続編を作らないと孤児を演じる子役たちが別人みたいになってしまう恐れもある。『ハリー・ポッター』シリーズも、長く続く中で次第に厳しいことになっていたしね。
その他の諸々の条件を考えても、たぶん頑張っても3作ぐらいがギリじゃないかなあ。

(観賞日:2022年3月5日)

 

*ポンコツ映画愛護協会