『矢島美容室 THE MOVIE 〜夢をつかまネバダ〜』:2010、日本

アメリカのネバダ州に、矢島徳次郎が営む矢島美容室があった。徳次郎の妻マーガレット、17歳の長女ナオミ、11歳の次女ストロベリーは 、幸せな日々を過ごしていた。だが、徳次郎が「家出します、捜さないでね」という置手紙を残して家出してしまう。ストロベリーは机の 上に50円玉が置かれているのを見て、「本当に家出したのでは」と不安そうな顔になる。するとナオミは「学校でパパのことは言っちゃ ダメ。爆笑されるわよ」と釘を刺した。
おめかししたナオミは、20歳の彼氏マイケルの車で外出した。ストロベリーはスクールバスに乗り込み、親友ノメアリー&ジョディーと 会話を交わした。マーガレットは警官を呼び、夫の捜索を依頼する。しかし警官の態度に腹を立てて暴力を振るったため、牢に入れられる 。ストロベリーはメアリーたちとグラウンドへ行き、ソフトボールの練習をする。報道カメラマン担当のトムと報道担当のサリーが取材に 来ている。ストロベリーたちのピンクボンバーズは、エース兼リーディングヒッターのラズベリーが抜けていた。
ラズベリーは新しいチーム「ブラックボンバーズ」を結成して現れ、ストロベリーたちを嘲笑った。ラズベリーの挑発を受け、両チームは 2週間後の日曜に対決することになった。マーガレットの面会に来たナオミは、ミス・ネバダコンテストの決勝進出を嬉しそうに報告し、 「憧れの芸能界デビューだわ」と告げた。。ストロベリーは憧れの同級生ケンから声を掛けられ、恥ずかしそうにする。それを見ていた メアリーは、顔を曇らせた。
ケンから「ずっと閉まってるな、お前の店」と言われたストロベリーは、徳次郎の代役として彼の髪をカットすることになった。父親が 家出したことを知られ、ストロベリーは動揺した。マイケルはナオミに、自分のパパがコンテストの審査委員長を務めていることを明かす 。マイケルがキスしようとするとナオミは拒み、「芸能界で成功するまで彼氏は作らないと決めてるの」と言う。するとマイケルは笑い、 「まるで寝言だ。現実を見たらどうなんだ」と冷淡に告げた。
マーガレットが首を吊ろうとしているのを見つけたストロベリーとナオミは、慌てて制止した。ナオミはストロベリーに、徳次郎が家の金 を持って行ったことを語り、「パパを許さない」と怒る。ストロベリーは家が貧乏になったと知った。ネバダテレビの社長であるマイケル の父サムは、息子に「本物を見抜く目を養え」と説教する。マイケルが「ミス・ネバダコンテストで、どうしても優勝させたくない人間が いる」と言うと、サムは「安心しろ、もう優勝者はラズベリーに決まっている」と告げた。
ストロベリーはカジノでスロットマシンをやって捕まり、ナオミは試着するフリをして店からドレスを盗み、それぞれ収監された。警官の 無礼な発言に激怒して蹴り倒したナオミも、やはり収監された。美容室は売りに出された。ナオミはストリップ劇場の前を通り掛かり、 「伝説のヌードダンサー、マーガレット・カメリア復帰」という看板に驚く。それはママだったのだ。ナオミが店に入ると、マーガレット は客の前でポールダンスを披露していた。ナオミに気付いたマーガレットは、逃げ出す娘を追い掛けるが、見失ってしまう。
ストロベリーはソフトボールの練習に復帰した。様子を見に来たラズベリーた、メアリーに「ストロベリーは知ってるの、貴方とケンが 付き合ってること?」と告げる。顔を強張らせたメアリーが「ストロベリーには黙ってて」と頼むと、ラズベリーは「条件次第ね」と言う 。メアリーから突然の別れを告げられたケンは、「どうしてなんだ」と詰め寄った。メアリーは寂しそうな顔で、「貴方には私より似合う 人がいると思う」と告げた。その会話を、ストロベリーは聞いてしまう。
ナオミが部屋に戻ると、マーガレットがコンテストのために用意したブラウスが置いてあった。コンテスト当日、マーガレットも応援に 駆け付けた。だが、ナオミが目を離した隙にブラウスが切られていた。ラズベリーが仲間に指示してやらせたのだ。ラズベリーはママの服 を借りて、ストリップバーのようなダンスを披露した。激怒したサムは、係員にラズベリーをつまみ出すよう命じた。
ナオミはカメラに向かい、「パパ、ママに寂しがってるわ。早く帰ってきてあげて」と呼び掛けた。ナオミと客席で暴れたマーガレットは 、また収監されてしまった。ストロベリーは東京にパパがいるかもしれないと考え、家を出ることに決めた。それを知ったマーガレットと ナオミは、引き留めようとしなかった。マーガレットがスカウトされて日本でCDデビューすることになったので、2人も東京へ行くこと を決めていたのだ。3人は荷物をまとめて車に乗り込んだ。
ストロベリーがメアリーたちに別れの挨拶をしていないと知り、マーガレットは小学校で車を停めた。ママに促されたストロベリーは、 試合が行われているグラウンドへ赴いた。試合はラズベリーのパーフェクトピッチングが続き、0対4でビンクボンバーズが負けていた。 ストロベリーはエースとしてマウンドに立った。ラズベリーの大きな当たりを、外野のジョディーがキャッチした。その裏、ラズベリーは わざと四球で塁を埋め、ストロベリーとの対決を望んだ…。

監督は中島信也、企画・矢島美容室プロデュースは石橋貴明(とんねるず)&木梨憲武(とんねるず)&DJ OZMA、脚本は遠藤察男、製作 は亀山千広&松浦勝人、矢島美容室プロジェクト 総合プロデューサーは石田弘、エグゼクティブプロデューサーは石原隆&石森洋、 プロデューサーは種田義彦&太田一平&谷口宏幸&藤森直登、ラインプロデューサーは鶴賀谷公彦、プロデューサー補は星野倫子、 アソシエイトプロデューサーは双川正文&山口伸也、撮影は町田博、編集は宮崎努、録音は森浩一&益子宏明、照明は木村太朗、美術は 鈴木一弘、VFXプロデューサーは土屋真治、VFXスーパーバイザーは岡本泰之、ChoreographerはKABA.ちゃん、音楽は武部聡志。
主題歌「アイドルみたいに歌わせて」矢島美容室 feat. プリンセス・セイコ 作詞:エンドウサツヲ、作曲:DJ OZMA、編曲:武部聡志。
出演はストロベリー・カメリア・ヤジマ、マーガレット・カメリア・ヤジマ、ナオミ・カメリア・ヤジマ、黒木メイサ、山本裕典、 アヤカ・ウィルソン、佐野和真、ダンテ・カーヴァー、柳原可奈子、伊藤淳史、水谷豊、本木雅弘、宮沢りえ、大杉漣、松田聖子、 藤エマ、アービー・アリーヤ明日香、岡山智樹、ケリー杏、エミリーサトウ、セラーリ、宮武美桜、珠妃、KABA.ちゃん、牧原俊幸 (フジテレビアナウンサー)、中島信也、ルアンナ マリンホ、山本康一郎、エボニー・S、シャニータ、アリィシア、エリカ小池、 エリザベス・ファレリー、ケリー・プレイサー、シャーロック・レイラ、脇田恵子、小川ティナ、シルヴィア・ダイクストラ、 タケナカ ネネ エリザベス、ニー、ムフム・ダイアナ・アサンテワ・はな他。


フジテレビ系のバラエティー番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』から生まれた音楽ユニット“矢島美容室”を主役に起用した 作品。
矢島美容室はDJ OZMAがラスベガスでスカウトし、とんねるずとDJ OZMAがプロデュースする母と姉妹3人のユニットという設定だ。
しかし見れば分かるだろうが、ストロベリーは石橋貴明、マーガレットは木梨憲武、ナオミはDJ OZMAだ。この映画は、「矢島美容室が 日本でデビューするまでの前日談」という体裁を取っている。
ラズベリーを黒木メイサ、マイケルを山本裕典、メアリーをアヤカ・ウィルソン、ケンを佐野和真、警官をダンテ・カーヴァー、 ストリップ劇場のマネージャーを伊藤淳史、ソフトボール対決の審判を水谷豊、徳次郎を本木雅弘、サムを大杉漣が演じている他、ナオミ が憧れている歌手プリンセス・セイコ役で松田聖子が特別出演している。
監督はCMディレクターで『ウルトラマンゼアス』を撮った中島信也。
脚本は矢島美容室の楽曲で作詞を担当している『象の背中』の遠藤察男。

矢島美容室は2008年10月29日にシングル『ニホンノミカタ -ネバダカラキマシタ-』でCDデビューし、それなりにヒットした。
しかし、それがピークであり、それ以降に発売したCDのセールスは着実に下降線を辿っていった。
そんな落ち目の状態の中で、なぜか映画化の企画が決定した。
完全にタイミングを逸しており、公開される前から失敗することは確定的だったと言っていいだろう。
フジテレビは、とんねるずに多大な恩義があって、面倒を見なきゃいけないということなんだろうか。

「失敗することは確定的だった」と書いたが、しかし始まってからタイトルバックが出るまでの5分間、最初のミュージカルシーンが 写し出されている間だけは、何も考えず能天気に楽しめる音楽映画になるのではないかという期待を少しだけ抱かせてくれる。
でも、それ以降、その期待が膨らむことは無い。
タイトルの後、5分ぐらい見ただけで、これがダメな映画だということことは理解できる。

この作品は、とんねるずが過去に『とんねるずのみなさんのおかげです』でやっていたような、彼らが得意とする内輪受けコントを、ただ 長く引き伸ばしただけのモノである。
いや、「長く引き伸ばしただけ」というのは語弊があるな。
引き伸ばしただけではなく、散らかした状態にしたモノだ。
この散らかり様は、「98分の尺だから」ということではないと思う。
たぶん30分の尺で作っていたとしても、やはり散らかった状態になっていたと思う。

石橋は11歳の少女としての演技をやろうとしていない。
ただし、それは普段の彼のやり方だし、それでも「彼だけが特殊なキャラを演じていて、周囲の面々が普通の人物」という形であれば、 それなりの形になったかもしれない。
だが、木梨とOZMAが、それなりに「おばさん」「若い女」という役を演じようとしているので、その段階で世界観が破綻している。
ようするに、もう映画にする前の段階で、キャラ設定として危ういところがあったのだ。
なんでストロベリーのキャラ設定を11歳にしちゃったのかねえ。「行き遅れや出戻りで、年を誤魔化しているナオミの姉」とかにしちゃ えば、何とかなったかもしれんのに。

序盤、グラウンドでのメアリーたちの会話で「ラズベリーがチームから抜けて云々」というセリフがあるので「ラズベリーって誰やねん」 と思っていたら、いきなり敵チームとして登場するという慌ただしさ。
「エースだったラズベリーが抜けて、敵チームとして戻って来て」という展開を端折っているのだ。
ラズベリーは抜けた理由を「チームワークだの友情だのって、ちゃんちゃらおかしくてやってられないから」と言うけど、そもそも ストロベリーがソフトボールをやっていることさえ、その場面で初めて提示されるのだ。
どんなチームなのかは全く分かっていない状態で、抜けた理由を語られてもピンと来ない。

っていうか、ラズベリーは同じチームだったんだから、黒木メイサも11歳の設定ってことだよな。その段階でメチャクチャだよ。彼女も 11歳の芝居をやろうとしているわけでもないし。
混沌とは、このことだな。
で、その場で対決が決まる。
ラズベリーが登場してから、数分しか経過していないのに。
普通、まずラズベリーのキャラを描き、ライバル関係を描き、それから対決する展開に持って行くものだが、いきなり対決が決定するとは。 どんだけ慌ただしいんだよ。

で、ともかく対決が決まったのだから、それに向けて特訓するとか、そういう展開になるのかというと、そんなことは無い。 ストロベリーが惚れているケンのカットをするなど、ソフトボール対決には無関係なエピソードが並べられる。
最初から最後まで「適当に場面を並べただけ」という構成になっており、まとまりは皆無。
まとめようという意識が、そもそも無いのだろう。
それぞれのスケッチにオチがあるわけでもない。
基本的に、「雑なコントの垂れ流し」である。

始まって30分ぐらいでサムが登場し、「マイケルとラズベリーの父」というテロップが入るが、おいおい、マイケルとラズベリーって兄妹 だったのかよ。
それをサムの説明テロップで初めて明らかにするって、どういう計算なんだよ。
どう考えたって、そこまでにマイケルとラズベリーが兄妹だと示すためのシーンを用意しておくべきだろうに。
「安心しろ、もう優勝者はラズベリーに決まっている」のセリフで、初めてラズベリーがコンテストに出場することも分かるが、計算能力 ゼロなのか、脚本家は。
っていうか、ラズベリーはストロベリーのライバルで、だけどミスコンにも出場しているのだが、何歳の設定なんだよ。

冒頭で「父親が置き手紙で家を出た」ということが示されるので、それに関連する形で物語が進行していくのかと思ったら、まるで関係が 無いじゃん。
様々なエピソードがあってもいいけど、その中で父の不在を悲しむとか、そういうことになっていくべきでしょ。
父が家出したのに、完全シカトで話を進めている。
正直、それなら冒頭で父親が家出するという設定は、全く要らないでしょうに。

色々なエピソードがあっても、「父の家出」という要素が真ん中にビシッと通っていればいいのだが、それが見えない。むしろ、「既に 父親はおらず、母親は娘たちに死んだと説明している」という設定にして、しばらくはアメリカでの生活風景を描いて、その中で「実は 父親が生きて日本にいることが母親から知らされて」とか、そんな展開の方が、少しはスムーズになったのではないかと。
家族愛を描くことも出来ていない。ストロベリーはストロベリー、ナオミはナオミのエピソードが、それぞれバラバラに描かれて いる。
ストロベリーの悩みをナオミが解決してやるとか、ナオミを助けるためにストロベリーが協力するとか、「家族の絆」を示すような展開は 見られない。
ママがヌードダンサーだったことにナオミはショックを受けたはずなのに、そこからの和解のドラマは無い。例えばブラウスが切られたの なら、ママとストロベリーが新しい物を用意するなり、修繕するなりして励ます展開にすればいいものを、ナオミが憧れているプリンセス ・セイコの幻影を見て励まされるという展開にしてある。
ママもストロベリーも、全く関与しないのだ。

ストロベリーはメアリーとケンの関係を知ってショックを受け、メアリーからの着信を見ても電話に出ないという行動を示していたのに、 そこから、なぜか急に「パパの故郷である日本のことを気にする」という展開になる。
どういう思考回路なのか。
コンテストに出たナオミは踊り終わった後で涙を流すので、自分に関して泣いているのかと思ったら、急にカメラに向かって「パパ、 見てる?ママが寂しがってるわ。早く帰ってきてあげて」と言い出す。
それまでパパのことなんて全く気にする様子が無かったのに。
しかも、コンテストに出るのも、パパに呼び掛けるのが目的とか、そんなことではなかったのに。
どういう思考回路なのか。

ソフトボールの対決が行われないままでストロベリーが東京へ行こうとするので、どうすんのかと思ったら、小学校に立ち寄ると試合が 行われている。
試合当日だったのかよ。
だったら、試合当日であること、それに関してストロベリーが悩んでいることを描いておけよ。
っていうか、東京へ行くのは対決が終わってからでもいいはずで、なんで試合をすっぽかして東京へ行こうとしたんだよ。

「デビューまでの秘話」という作りだから仕方が無いんだろうけど、最後までパパと再会しないままで終わっているのは、1本の映画と して考えた場合は不完全。
パパが家出した理由さえ分からないままだし。
ようするに、テレビで企画をやっていた頃から矢島美容室を知っている、矢島美容室のファンだけに向けられた内輪受け映画ということ だな。
で、矢島の熱烈なファンの数がどれぐらいなのかと考えた場合に、そりゃあコケるでしょ。
「どこをどのように修正すれば」とか、そういう問題じゃない。
この映画を救う方法は、何も無い。
「矢島美容室」という素材で映画を作ろうとした段階で、もう失敗は決まっていたのだ。

(観賞日:2011年9月10日)

 

*ポンコツ映画愛護協会