『柳生一族の陰謀』:1978、日本

元和九年、徳川二代将軍秀忠が江戸城大奥にて死去した。発病後、わずか二週間での死去は疑惑を生んだが、大奥御典医は食あたりによる中毒死と発表した。その夜に毒見役は自刃し、周囲の者は責任を取らされたのだと悟った。三代将軍は本来なら長男の家光が継ぐべきだが、不幸な容貌と吃音ゆえに秀忠から嫌われていた。一方、次男の忠長は幼少から資質英明で、家中の期待を一身に集めていた。秀忠夫人の崇源院於江与も、彼を次期将軍にと切望していた。
徳川御三家の尾張大納言や筆頭老中の土井大炊頭、酒井雅楽頭忠世や安藤対馬守らの老臣も、熱心な忠長擁立派だった。これに対し、若手老中の松平伊豆守や大奥を取り仕切る春日局たちは、家光を推して譲らなかった。密かに徳川幕府の権威失墜を期待する京都宮中の九条関白や烏丸少将たちの思惑も絡み、動乱の兆しが見えていた。深夜、土井の放った甲賀衆の面々が増上寺の将軍家霊廟に侵入し、秀忠の遺体から胃袋を抜き取った。しかし柳生但馬守の子である茜、又十郎、左門が現れ、彼らを襲撃して胃袋を奪い取った。
土井は家臣の渡辺半蔵から任務失敗の報告を受け、しばらく柳生から目を離すなと命じた。但馬守は胃袋を調べ、秀忠が毒殺だと確信した。彼は茜に、国元にいる長男の十兵衛を呼び戻すよう指示した。翌日、但馬守は伊豆守と春日局を呼び出し、昨晩の出来事を説明した。彼の追及を受けた伊豆守は、自分たちが毒殺の黒幕だと告白した。そこへ家光が来ると、但馬守は自分が秀忠を毒殺したと告白する。但馬守は激怒し、彼の額を打ち据えた。但馬守は自分たちの仕業だと打ち明け、春日局は秀忠が忠長を後継者にするため家光の廃嫡を目論んでいたことを知らせる。家光は但馬守から将軍職に就くべき定めだと説得され、覚悟を決めた。
柳生ノ庄黒谷。根来衆のハヤテとマンは巣立ちの式を済ませ、頭目の根来左源太から自分たちの国を作る悲願を忘れないよう告げられた。根来衆は二十年前に国を滅ぼされ、当ての無い旅を続けていた。左源太は仲間たちに、但馬守が手紙で助力を要請してきたことを教えた。根来衆は忍んでいた甲賀衆に気付き、全員を始末した。そこへ十兵衛が現れ、忍んでいたのは土井の配下だと教えた。十兵衛は根来衆と共に暮らした時期が長く、左源太とは兄弟分のような関係だった。
土井と崇源院は忠長に、秀忠が家光一派によって毒殺されたと告げる。忠長は兄を押し退けてまで将軍職に就くつもりは無く、その言葉も信じられなかった。そこで彼は家光と会い、嫌疑を晴らすために秀忠の遺体を検分するよう求めた。しかし家光は拒否し、忠長を罵って立ち去った。秀忠は崇源院を駿河へ移し、家光一派と戦うことにした。但馬守は武蔵ノ國玉川で根来衆と会い、「家光は事が落着したら、根来の里の復帰を叶えると約束した」と話す。根来衆は盛り上がり、十兵衛も自分のことのように喜んだ。マンを見た但馬守は、重要な役目のために預けてくれと左源太に告げた。
土井は病気保養の名目で老中職を退き、自由の身となって忠長に尽くすと決めた。家光は対抗策として伊豆守を筆頭老中、但馬守を大目付に据えて幕閣の顔触れも一新した。伊豆守と春日局は家光への将軍宣下を求め、烏丸や九条、三条大納言実条たちと会う。しかし烏丸たちは兄弟の和解を促し、明確な返答を引き延ばした。駿河城下には風雲に乗じて世に出ようとする浪人たちが詰め掛け、その中には大坂夏の陣で死んだと言われていた天野刑部の姿もあった。浪人たちが勝手に旗指物を立てると、駿河藩侍大将の別木庄左衛門が排除した。左源太とハヤテは、その様子を観察した。
忠長は烏丸や九条たちを呼んで接待し、出雲の阿国が念仏踊りを披露した。忠長は笛吹きを務める名護屋山三郎の仲介で恋人の阿国と二人になり、戦になるかもしれないので早く駿河を立ち去れと告げた。阿国は一緒にいたいと懇願するが、忠長は大勢の命が懸かっているのだと説いた。土井は忠長に、伊達政宗を味方にしたこと、長州の毛利と加賀の前田を引き入れに向かうことを報告した。彼は但馬守の同門である小笠原玄信斎を、土産として同行させていた。玄信斎から「将軍になった時には、自分を剣法指南役に」と条件を提示された忠長は、迷わずに承知した。
阿国は元武士である山三郎に、血が騒ぐなら遠慮する必要は無いと話す。しかし山三郎は阿国に惚れており、「やっと決心が付いた。どこへも行かん。お前の心の中から忠長公の姿が消えるまで、お前の笛を吹き続けよう」と語った。左門と茜は根来衆の元へ行き、城下で土井を討つよう但馬守に命じられたことを伝える。彼らは馬で移動中の土井を襲うが、左門が烏丸に殺された。怒った茜が襲い掛かるが、左門には全く歯が立たなかった。騒ぎを聞き付けて役人たちが駆け付けたので、茜と根来衆は逃走した。
茜は土井を討つため、駿河に残ることを決めた。彼女は左門の髪を切ってハヤテに託し、但馬守に届けるよう頼んだ。報告を受けた十兵衛は、自分が駿河へ行くことにした。但馬守はマンに、大奥へ上がって家光を警護するよう命じた。玄信斎は柳生の屋敷に忍び込み、但馬守に立ち合いを要求した。但馬守が拒否すると、玄信斎は刀を抜いて始末しようとする。玄信斎は襖の向こうに潜んでいた十兵衛の右目に斬り付け、屋敷から逃亡した。
玄信斎は中村座へ赴き、歌舞伎役者の猿若勘三郎と猿若雪之丞に会った。雪之丞は孤児だったが、玄信斎が息子として育てた。雪之丞は5年前に剣の道を捨て、玄信斎の了解を得て勘三郎の養子になっていた。玄信斎は勘三郎に、雪之丞を返してくれと告げた。宿敵の柳生を倒すために力が必要なのだと彼が話すと、雪之丞は勘三郎に頭を下げた。家光は大奥の女中に化けた刺客に命を狙われるが、マンが盾になって救った。但馬守が駆け付けて刺客を始末すると、家光は医者を呼んでマンを必ず救うよう命じた。
マンが寝室で休んでいると、ハヤテが天井裏から忍び込んだ。彼はマンの傷を確認し、根来衆の薬を塗った。ハヤテとマンは恋仲であり、接吻を交わした。翌日、十兵衛たちは身延道で張り込み、土井の一行を襲撃した。しかし左源太と茜が命を落とし、土井には逃げられた。但馬守は問題が京都にあると考え、十兵衛を差し向けた。朝廷は家光と忠長の跡目争いを利用し、徳川幕府の転覆を目論んでいた。しかし十兵衛が烏丸を殺害し、この出来事が宮中にパニックを引き起こした。武士の恐ろしさに戦慄した朝廷は、勅使として三条大納言実条を江戸に派遣し、弁明に当たらせた。この動きは、但馬守の思惑通りだった…。

監督は深作欣二、脚本は野上龍雄&松田寛夫&深作欣二、企画は高岩淡&三村敬三&日下部五朗&松平乗道、撮影は中島徹、照明は北口光三郎、録音は満口正義、編集は市田勇、美術は井川穂道、監督補は土橋亨、擬斗は上野隆三&菅原俊夫、舞踊振付は藤間勘五郎&河上五郎、音楽は津島利章。
出演は萬屋錦之介、千葉真一、三船敏郎、山田五十鈴、芦田伸介、松方弘樹、西郷輝彦、大原麗子、原田芳雄、丹波哲郎、高橋悦史、夏八木勲、成田三樹夫、中原早苗、金子信雄、志穂美悦子、工藤堅太郎、矢吹二朗(千葉治郎)、室田日出男、真田広之、浅野真弓、中谷一郎、梅津栄、大塚剛、曽根晴美、岩尾正隆、小林稔侍、林彰太郎、汐路章、田中浩、成瀬正(成瀬正孝)、唐沢民賢、西田良、野口貴史、高月忠、原田君事、片桐竜次、中村富十郎、中村米吉ら。


『北陸代理戦争』『ドーベルマン刑事』の深作欣二が監督を務めた作品。
脚本は『暴動島根刑務所』『暴力金脈』の野上龍雄、『日本の仁義』『仁義と抗争』の松田寛夫、深作欣二監督による共同。
但馬守を萬屋錦之介、十兵衛を千葉真一、大納言を三船敏郎、崇源院を山田五十鈴、土井を芦田伸介、家光を松方弘樹、忠長を西郷輝彦、阿国を大原麗子、山三郎を原田芳雄、玄信斎を丹波哲郎、伊豆守を高橋悦史、別木を夏八木勲、烏丸を成田三樹夫、春日局を中原早苗、九条を金子信雄、茜を志穂美悦子、又十郎を工藤堅太郎、左門を矢吹二朗(千葉治郎)、左源太を室田日出男、ハヤテを真田広之、マンを浅野真弓、刑部を中谷一郎が演じている。

映画斜陽の時代を任侠映画路線で突破してきた東映だが、それも行き詰まりを見せていた。
そこで東映が久しぶりに時代劇をやろうと決め、時代劇映画を撮りたがっていた深作欣二が監督として起用された。
但馬守を演じる萬屋錦之介は1971年の『暁の挑戦』以来の映画出演。その翌年に中村錦之助から改名しているので、「萬屋錦之介」としては初めて出演した映画になる。
かつて所属していた東映製作の映画に出演するのは、1966年の『丹下左膳 飛燕居合斬り』以来となる。

萬屋錦之介は周囲の面々と比べて、極端に大仰な芝居を見せている。特に台詞回しが、「重厚にも程があるだろ」という状態になっている。
深作欣二監督は他の面々のような芝居に合わせてほしかったが、その要求を錦之介が拒否したため、仕方なくOKにしたらしい。
錦之介としては、「華やかなりし頃の東映時代劇の復興」を強く意識していたんだろう。
一方、深作監督は「新しい時代劇を作ろう」という野心を抱いていて、そこに大きなズレがあったのだろうと思われる。

十兵衛が烏丸を殺害すると、「九条関白道房の死は、宮中にパニックを引き起こした」というナレーションが入る。
細かいかもしれないけど、「パニック」という言葉を使うのは避けた方がいいでしょ。
同じような意味合いの言葉なんて、他に日本語で色々とあるだろうに。わざわざパニックという言葉を選んで、そこに何かしらの効果を狙っているわけでもなさそうだし。
全編に渡って、やたらとカタカナや英語を多用するなら、それも1つのやり方だけど、そうじゃないんだし。

やはり本作品の一番のセールスポイントは、何度も用意されているアクションシーンだろう。
サニー千葉が率いるジャパン・アクション・クラブ(JAC)の面々が、所狭しと躍動している。
それまでにサニー千葉やJACが出演するアクション映画は何本も製作されていたが、全て現代劇だった。時代劇というジャンルとJACによるアクションの組み合わせが、日本映画界に新しい風を送り込んだのだ。
今までのようなチャンバラ・アクションとは大きく異なり、当時としては斬新だった。

十兵衛と根来衆が参加する戦いでは、存分にJACらしさがアピールされている。しかし彼らが関わらないアクションシーンは、従来の時代劇映画と大して変わらないので、そんなに魅力を感じない。それは集団戦闘だけでなく、タイマンの対決においても同様だ。
終盤に入ると、但馬守と玄信斎がサシで勝負するシーンがある。キャラ的には「宿敵が決着を付ける戦い」だし、萬屋錦之介も丹波哲郎も時代劇映画で何本も主演を務めて来た役者だ。
なので大きな見せ場として用意されているのだが、「別に無くてもいいかな」と感じる。
そもそも錦之介はともかく、丹波は決してチャンバラが上手な役者じゃないし。
まあ勝負は一瞬で終わるから、上手いも何も無いんだけど。

完全ネタバレだが、但馬守は邪魔になった根来衆の口を封じるため、又十郎に皆殺しを命じる。十兵衛は惨殺現場を目撃し、わずかに生き残ったハヤテたちから事情を聞いて怒りを燃やす。彼は但馬守の元へ乗り込み、家光の首を床に転がす。
その直前に彼が家光の元へ行く様子が描かれているが、そこで殺害したってことだ。
大抵の時代劇映画では「史実を曲げない」という暗黙のルールが守られているが、この映画では堂々と「家光が殺される」という展開を用意している。
ただし、そのままだとホントに歴史が変わっちゃうので、「家光の死は伏せられて徳川政権は続いた」という形にしてある。

史実の改変が云々ってのは置いておくとして、ともかく十兵衛は「自分の大事な物を奪った但馬守から大事な物を奪い取る」という目的で家光の首を取る。
ただし残念ながら映像表現に難があるせいで、その衝撃的な展開を充分に活かし切れていない。
と言うのも、家光の首が床を転がる時、顔が良く分からないのだ。
そこは正面からハッキリと顔が分かるショットを用意すべきでしょ。
出来ることなら作り物の顔じゃなくて、上手く工夫して本物の松方弘樹の顔を「切断された首」という形で見せることが望ましいし。

十兵衛は家光を殺しただけで満足したのか、首を転がして去る。でも見ている側からすると、ちっとも充分じゃないのよ。なんで但馬守を殺さないのかと言いたくなるのよ。
根来衆は女子供を含めて、大半が惨殺されているのだ。その無念や怨念たるや、相当なモノだろう。
それを考えると、「家光の首を取る」というだけでは、復讐には全く足りていない。
最後は錦之介に一人芝居の独壇場を用意して大物に気を遣ったのかもしれないけど、それが作品としての収まりを悪くしている。
大仰な芝居で長々と台詞を喋る錦之介を最後に見せられても、キレの悪い小便みたいになっちゃってるのよ。

(観賞日:2024年6月25日)

 

*ポンコツ映画愛護協会