『MW-ムウ-』:2009、日本

東京。少年時代の悪夢にうなされた神父の賀来裕太郎が目を覚ますと、タイにいる結城美智雄から電話が入った。彼は「よろしく頼むよ、 神父さん」と告げ、電話を切った。それから付けヒゲとメガネで変装する。同じ頃、大手ゼネコンの社員・岡崎俊一はボストンバッグを 抱え、必死に走って公衆電話に到着した。その姿を、現地の刑事たちが張り込んでいる。岡崎の娘・愛子が誘拐され、犯人から1億円の 要求があったのだ。その犯人が結城だった。
捜査本部には、応援に来ている警視庁の刑事・沢木和之と橘誠司の姿があった。沢木が「気になるなあ。ホシは岡崎が務める竹菱建設に 身代金を要求してきた」と言うと、橘は「確かに素人の手口じゃありませんね」と同意する。すると沢木は「だったら、なんでこんな危険 を冒す?スイスの銀行でも経由すればいいだろう」と口にした。岡崎に結城から電話が入り、隠しマイクを外してセントラルワールドに 来いという要求が出た。結城は、屋上に5分で上がれと命じた。
警察が電話を逆探知すると、発信場所は東京と表示された。それは賀来が協力しているからだ。岡崎が屋上に置いてある電話を取ると、 結城は紙袋に入っている帽子を被り、アレキサンダーホテルのエレベーターに乗れと命じた。岡座が命令に従うと、エレベーターからは 岡崎と同じ格好をした大勢の男が出て来た。警察は混乱するが、沢木は岡崎がタクシーに乗るのを発見した。沢木とタイ警察の面々が追跡 すると、岡崎は結城の指定したホテルに到着した。
結城は警察を騙し、巧みに金を入手して持ち去ろうとする。しかしホテルの警備員に所持品確認を求められて殴り倒す様子を、沢木が目撃 した。沢木は結城を追い掛けるが、見失ってしまった。岡崎が指定された倉庫へ行くと、沢木が愛子を連れて現れた。すると愛子は結城に 笑顔を向け、「この人と一緒に暮らすの」と笑顔で言う。しかし結城は彼女を冷淡に銃殺し、駆け寄る岡崎も始末した。結城は身代金を 用意した日本の銀行の担当者として、何食わぬ顔で警察署へ赴いた。警察署にいた沢木は、結城に疑いを抱いた。
東京中央新聞の記者・牧野京子は、岡崎事件の記事が差し替えになったことを後輩の溝畑智史から知らされた。ゼネコン会社の不正を暗喩 するような内容だったからだ。彼女は編集会議の場に乗り込み、「憶測ではありません、情報源があります」と反発する。すると同僚の 三田が「リストラ社員の苦情だろ。信用できるもんか」と突き放し、部長も「今回は三田君の言い分が正しい」と口にした。
牧野は納得できず、事件の裏に隠された真実を探ろうとする。彼女は、荒川で起きたバラバラ殺人事件の被害者・荒木と岡崎が同じ島の 出身であることを調べ上げていた。それは人口600人の沖之真船島で、過疎化が進んで16年前に無人となっていた。賀来の教会に結城が 現れ、「助かったよ、お前のおかげで捜査を攪乱することが出来た」と言う。「もう来ないでくれ」と賀来が告げると、彼は「忘れたのか 、俺たちがどんな思いをして、ここまで生きて来たのか。俺はやめない」と述べた。
翌日、結城はL.A.新世界銀行に出勤し、電話を掛けている本部長の山下孝志に目をやった。電話の相手は大臣の望月靖男だ。岡崎の 事件で何も情報が無いことを山下が報告すると、望月は「気にすることは無い。疑心暗鬼になってもしょうがない。心配するな。それより 孫娘の件だが、よろしく頼むよ」と落ち着いた態度で言う。秘書の松尾は山下に、「今度の選挙のために、月末までに1億円を用意して ほしい」と無理な要求を出した。
結城は電話の内容を見抜いており、岡崎の隠し口座の情報を山下に渡した。そして、それが横領した金であり、1億円を越えていることを 告げる。牧野は溝畑から、荒木と岡崎が望月の後援会員だという情報を知らされた。荒木が大手商社に転職したのも、岡崎が大手ゼネコン に引き抜かれたのも、島が過疎で無人となった16年前だ。かつて川村憲明というライバル新聞の記者が島の疑惑を追及していたが、彼が 交通事故で死亡し、連載は途中で終わっていた。
牧野はライバル会社の山本に会い、川村のことを尋ねる。交通事故の後、取材は引き継がれていない。望月との関係を追及すると、山本は 「やめたほうがいいよ」と警告した。結城は山下の付き添いで料亭へ行き、望月や孫娘と会った。孫娘が去った後、結城は望月に1億円を 融通できることについて語る。翌日、結城が銀行を出ると沢木が待ち受けていた。沢木は愛子が薬物中毒だったことを語り、一緒にいた 男性が首謀者だという推理を述べて揺さぶりを掛ける。だが、結城は全く動じなかった。
結城は歩いている途中で苦しくなり、賀来に電話を掛けた。結城は何も言えないまま倒れて失神するが、気が付くと教会で賀来の介抱を 受けていた。賀来が「最近は発作があるのか」と尋ねると、結城は「ああ。お前はどうなんだ」と言う。「俺は大丈夫」と告げる賀来に、 彼は「明日、山下を拉致する。お前は俺を裏切れない」と言う。賀来が警察に電話すると、橘が出た。賀来は彼に、岡崎のことで会って 話したいことがあると告げる。結城は寝たフリをして、それを聞いていた。
沢木はヤクの売人を捕まえて、愛子がドラッグを買いに来た時に一緒にいた男のことを尋ねる。沢木は、その男が銀行の専門用語を使って いたことを知る。結城は賀来に成り済まして橘に電話を掛け、待ち合わせ時間を早めた。賀来が待ち合わせ場所に赴くと、橘が拘束されて いた。彼が慌てて猿ぐつわを外すと、結城が仕掛けておいた罠が作動し、橘の首の血管が切れた。結城はビデオを回しながら現れ、「これ を警察に届けようか。俺には時間が無いんだ。大丈夫だ、お前が手伝ってくれれば、これ以上は殺さない」と告げた。
翌朝、結城は山下を注射で眠らせ、拉致監禁して「貴方が犯した罪を悔い改めてもらいます」と言う。牧野は川村夫人のアパートへ行き、 仕事部屋を見せてもらう。資料を調べた彼女は、川村の取材ノートを発見した。結城は山下が横領事件を起こしたというネタをマスコミに 漏洩させた。溝畑は、山下も沖之真船島の出身だと気付いた。結城は上司の記者会見を確認してから、山下の元へと赴いた。
結城は山下に、「俺たちが背負わされた地獄を思えば、まだまだ生ぬるい。MWと言うらしいな。神経ガスの名前だ。16年前、アンタは 米軍の研究所で発生したMWの漏出事故で家族を殺されながら、望月の手掛けた隠蔽工作に加担した」と語る。山下が「望月先生の言う 通りにしなきゃ、こっちが殺されてた」と弁明すると、結城は「MWは今、どこにある?」と尋ねる。高層ビルから宙吊りにして脅すと、 山下は「まだ島にある。持ち出すのは危険だったんだ」と白状した。結城はロープを切断し、山下を転落死させた。
結城は警備システムにより、沢木が部屋に侵入したのを知る。沢木は警察に電話を入れ、「岡崎誘拐殺人犯の容疑者宅を発見」と報告した 。警察が部屋を調べると、持ち主は山崎一郎という人物で、8年前に死んでいる。また、室内から指紋は発見されなかった。一方、牧野が 教会を訪れると、そこで世話になっている少女・美香が現れた。牧野が彼女と話していると、賀来が戻って来た。牧野が彼に「私、知って ます。MWのこと」と言うと、美香は去った。
牧野が「貴方たちのこと、知ってます。協力します」と賀来に告げると、結城が現れて「何を協力してくれるんだ」と言う。牧野は「島の 出身者たちが次々狙われているの。貴方たちも危険よ。私が守るから証言してほしい。望月を追い詰める」と語る。「証拠が無いのに?」 と結城が口にすると、彼女は「証拠かあるわ。MWの存在よ」と言う。牧野は2人を船に乗せ、沖之真船島へ向かった。
牧野は結城たちに、「川村記者は貴方たちを救った村越神父から相談を受け、あるスクープを掴んだ。湾岸戦争の頃に開発された史上最悪 の毒ガス兵器、MW。16年前、開発場所の沖之真船島で微量のMWが流出した。島の大半の人間は死亡し、生き残った島民も虐殺された。 出稼ぎで本土にいた島の出身者は国家に脅され、隠蔽を約束された者は必要以上の地位と金品を約束された。責任者は当時の外務次官、 望月。隠蔽は成功したはずだった。しかし島から逃げ出した少年2人が本土に辿り着いた。それが貴方たち」と語る。
島に到着した牧野は、MWが貯水池にあることを結城たちに教えた。橘の死体を発見した沢木は、松尾からの電話で事務所へ出向いた。 「一連の事件について貴方の考えを聞かせてほしい」と言われ、沢木は結城の写真を見せる。松尾は「これは国家を揺るがす事件だ。協力 しよう」と告げる。結城が貯水池からMWを引き上げようとしている間に、賀来は牧野に「彼がいなければ私も死んでいたでしょう。でも 私を助けるために彼はムーを吸い、後遺症が残ってしまった。あのガスのせいで、結城は人間じゃなくなった。国家が僕たちを脅してるん じゃなくて、彼が国家を脅そうとしてるんです。貴方も危ない」と静かに告げる。
そこに松尾の差し向けた武装ヘリが現れ、賀来と牧野を機銃掃射してきた。2人は慌てて逃げ出し、賀来は崖から転落した。牧野がヘリ から身を隠していると、結城が現れた。彼は川村の取材ノートに気付き、それを見せるよう求めた。牧野からノートを受け取った彼は、 米軍の東京基地にMWのサンプルがあることを知った。牧野は「川村の交通事故、ブレーキを壊したのは俺だよ」と明かし、牧野を突き 飛ばしてヘリに銃殺させた…。

監督は岩本仁志、原作は手塚治虫、脚本は大石哲也&木村春夫、製作総指揮は橘田寿宏、プロデューサーは松橋真三、撮影は石坂拓郎、 照明は舘野秀樹、美術は太田喜久男、録音は原田亮太郎、編集は朝原正志、音楽は池頼広、主題歌はflumpool「MW 〜Dear Mr. & Ms. ピカレスク〜」。
出演は玉木宏、山田孝之、石橋凌、石田ゆり子、鶴見辰吾、山本裕典、林泰文、山下リオ、デヴィッド・スターズィック、半海一晃、 中村育二、品川徹、角替和枝、小松彩夏、風間トオル、俵木藤汰、福本伸一、宇納佑、かでなれおん、川辺菜月、大田恭臣、江崎友基子、 杉本凌士、林洋平、桑代貴明、飛田光里、山崎千惠子、うさみ けん、古秦むつとし、中村知世ら。


手塚治虫の漫画『MW』を基にした作品。
結城を玉木宏、賀来を山田孝之、沢木を石橋凌、牧野を石田ゆり子、松尾を鶴見辰吾、溝畑を 山本裕典、橘を林泰文、美香を山下リオ、山下を半海一晃、岡崎を中村育二、望月を品川徹、川村夫人を角替和枝、愛子を小松彩夏、三田 を風間トオルが演じている。
監督は『明日があるさ THE MOVIE』の岩本仁志。
プロデューサーは『ただ、君を愛してる』『きみにしか聞こえない』の松橋真三。

冒頭にタイでのアクションシーンを配置している。
海外でのアクションから始めることで、スケール感を出したかったのかもしれんけど、まずタイである必要性が全く無い。
また、そのアクションシーンが20分ぐらい続くのだが、すげえダラダラしている。銃殺シーンでスローにしたり画面をブレさせたりする 映像演出も、見づらいだけで何の効果も無い。
そこって、「結城に惚れていた愛子が撃たれてショック」「岡崎が目の前で娘を殺されてショック」「結城が金を手に入れたのに冷徹に 人質を殺すショック」と、色んな意味で、もっと衝撃的でインパクトの強いシーンになっているべきなのに、映像演出がそれを打ち消して いる。

島で起きた出来事を隠したまま、ミステリー仕立てで進めているんだけど、これは失敗だろう。
むしろ、最初に明かしてもいいぐらいだ。
そんなミステリーで観客の意識を逸らさず(あえて「逸らす」という表現を使うが)、島で起きた事件を明確にして話を進めた方が、復讐 のために行動する結城と、協力しながらも苦悩する賀来の関係性、そこの人間ドラマ、心情描写に入り込みやすいはずでしょ。
それに、どうせ原作を知っていればバレバレなんだし。
どういう効果を狙ってミステリー仕立てにしたのか、良く分からないんだよな。

細かい粗を列挙していくと、まず結城と賀来が望月一派に全く命を狙われることなく、ずっと生き続けている設定に無理がある。
島での事件を隠蔽するために、島民を皆殺しにするような連中だよ。しかも、そこから逃げ出した2人の子供がいることも知っている。
だったら、本名で暮らしている結城と賀来を見つけ出さないのは不可解。
結城が娘を拉致して岡崎を呼び出した時、すぐに殺してしまうのも不可解。山下を拉致した時には、MWの隠し場所を訊いている でしょうに。なんで岡崎には訊かなかったのか。
あと、序盤で見せる結城の変装って、すげえバカバカしいよな。
あんな程度の変装だと、バレバレだろ。本気で素性を隠す気があるのかと。

結城が山下を拉致した後、横領の罪を被せてマスコミに漏洩させ意味が無い。
「その罪を苦にして自殺した」と見せ掛けるための策略だったりするのか。だとしても、納得はしかねる。
後半、結城は東京基地に侵入してMWを奪うが、どんだけ米軍の警備は甘いのかと。「子供たちを連れて慰問に訪れたから侵入できた」と いう設定で納得できるものじゃないよ。
司令官が沢木に「君たちの問題だ、君たちで解決してくれ」と言うのもメチャクチャだ。
毒ガス兵器を密かに管理していたんだから、アンタたちの問題でもあるだろうに。

しかも、人質がいるからって、米軍が関東を全滅させられるほど毒ガス兵器を、簡単に渡すとは考えられない。
「テロリストとは取引をしない」というのが、アメリカ合衆国の考え方のはずでしょ。これが日本の政府や自衛隊ならともかく。
っていうか、あの状況なら、結城を射殺するのは、そう難しくなさそうに見えるんだよな。
手榴弾を持っているとか、人質に銃を向けているとか、それだけでは「撃てない」という脅しにはならんでしょ。

牧野の存在が、なんかアホみたいに見えてしまう。
彼女は島に関わる謎を調査する役回りで、つまり観客に対するミステリーの案内役をやっているんだけど、そんなポジションって要らない でしょ。
「島で何があったのか」については、結城や賀来の回想として描けば済むことだ。
16年前の事件については、観客が知れば充分なのであって、「部外者が事件のことを知って何らかの行動を起こす」というのは、特に 必要性は無いんだよね。

後半、牧野が結城と賀来に会って、16年前の事件やMWについて詳しく語るシーンがあるんだけど、それが滑稽に見えちゃうのよね。
だって、結城と賀来は、わざわざ聞かされなくても、16年前の事件について全て知っているわけだから。
あと、牧野は「貯水池にMWがあることを結城に教える」という役割を果たしているけど、それも結城が関係者を脅して聞き出す筋書きに しておけば済む。
そう考えると、牧野の存在価値って見当たらないんだよな。

存在価値ということで言えば、美香や望月の孫娘も、「何のために出て来たのやら」という扱いだ(特に望月の孫娘)。
これは、原作にあった「結城が自分の美貌を武器にして男女問わず虜にする」という部分が削ぎ落とされていることが関係している(愛子 は彼にゾッコンだけど、もう登場した時点で薬漬け状態だしね)。
望月の孫娘なんて、どう考えたって「彼女を落として、それを利用して望月を追い込み、でも娘は残酷に始末する」という展開があるべき でしょ。
そういうのが無いのであれば、何のために登場させたのかと。

ラスト近く、結城は「異様に喉が渇くんだ、どんなに人を殺してもな」と言うけど、そういう「渇き」を、そこまでのシーンでは全く 感じさせてくれないんだよな。
あと「俺には時間が無いんだ」と何度も言うけど、そういう「ギリギリの切迫感」というのも全く感じない。
最終目的を「世界を滅ぼす」とか「どこかの国にMUを売る」とか言い出した時点で、ただのボンクラなサイコ殺人鬼にしか見えなく なっちゃうし。

原作にあった同性愛描写をバッサリと削ぎ落としたことが、この映画の致命的な失敗だ。
結城と賀来はホモセクシャルな関係であり、だから賀来は結城の魅力に抗えずに協力してしまうのだ。
その要素を排除してしまったせいで、なぜ賀来が結城への協力を続けるのか、そこの理由が弱くなっている。
一応、「子供の頃に命を救ってくれた恩人だから」というのを理由にしてあるけど、それだと動機としては弱すぎるのよ。
そこは「結城と賀来は表裏一体」という関係性であるべきだよ。

同性愛描写を削ぎ落としたことが、賀来の存在価値の薄さに繋がっている。
ぶっちゃけ、この映画みたいな扱いであれば、賀来って別にいなくてもいいんじゃないかとさえ思うぐらいなのだ。
本来であれば、賀来が結城に協力しながらも苦悩するという心理ドラマは、もっと充実して描かれるべきだろうに。でもホモセクシャルな 関係で結ばれていないので、「結城を恐れ、同じぐらい自分のことも恐れる。結城を憎み、しかし同じぐらい愛する」という深い苦悩が 無いんだよね。
あと、彼が神父である意味も薄くなっている。「神の教えに背いて結城を助けている」という意味での苦悩が見えて来ない。

製作サイドは、最初は同性愛の描写を入れようとしていたらしい。しかも玉木宏や山田孝之がホモセクシャルな描写を嫌がったわけでは なくて、彼らも所属事務所も、そこはOKしていた。
ところがスポンサーからNGが出たために、そこを描くことが出来なくなったのだという。
反対したスポンサーがどこかは知らないが、ホントに愚かだ。
ただし、それを盛り込んでいたら傑作になったのかというと、それはどうかなあと。
何しろ、監督の前作は『明日があるさ THE MOVIE』だしね。
むしろ、反対したスポンサーに駄作となった責任を被せることが出来るんだから、監督やプロデューサーは、その会社に感謝した方が いいのかもね。

(観賞日:2012年4月9日)

 

*ポンコツ映画愛護協会