『マッスルヒート』:2002、日本

2009年。命令違反で米国海軍特殊部隊をクビになったジョー・ジンノは、麻薬取締局の桂木とコンビを組み、日本で特殊任務に就くこととなった。東京は、恐るべきドラッグ“ブラッドヒート”を売りさばく香港マフィアの台頭で、無秩序状態と化していた。
ジョーと桂木は、黎建仁が率いる組織の取引現場に潜入する。だが、建仁の一味は桂木を捕まえ、逃亡してしまう。建仁は、廃嘘の街ゴールドで経営している地下闘技場マッスル・ドームに、桂木を立たせた。桂木は李孫民と戦い、一方的に殴り倒された。
ゴールドに乗り込んだジョーだが、建仁に逃げられ、警察の朝倉義正らに捕まってしまう。ジョーは、刑事の1人・亜加音が桂木の妹だと気付いた。護送車から逃亡したジョーは、建仁の一味に捕まっていた少女・遥を救出した。建仁は、ブラッドヒートを超えるドラッグの精製法を発見した立花博士を脅迫するため、遥を人質にするつもりだった。
ジョーは遥を連れて逃亡し、憲が率いる地下組織のアジトに辿り着いた。遥を憲に預けたジョーは、亜加音と連絡を取って事情を全て話した。ジョーは亜加音と共に地下組織のアジトに戻り、遥を安全な場所に移動させようとする。だが、そこに建仁の一味が現れ、ジョーと遥を連行する。ジョーはマッスルドームに入れられ、李と戦うことになる…。

監督は下山天、原案&企画は樋口潮、脚本は大石哲也&金剛、脚本協力は佐藤佐吉&川上英幸&下山天、プロデューサーは濱名一哉&中沢敏明、アソシエイトプロデューサーは大岡大介、エグゼクティブ・プロデューサーは児玉守弘、共同エグゼクティブ・プロデューサーは谷徳彦、撮影は山本英夫、編集は平澤政吾、録音は白取貢、照明は松隈信一、美術は吉田悦子、アクション監督は黄明昇(サム・ウォン)&陳文清(チャン・マンチン)、音楽は遠藤浩二。
主演はケイン・コスギ、共演は加藤雅也、哀川翔、橘実里、金子昇、盧惠光(ケネス・ロー)、李耀明(ジョー・リー)、竹中直人、渡辺いっけい、橋本真也、高山善廣、冨家規政、渡辺典子ら。


アクションの得意なタレント、ケイン・コスギが初主演し、スタントマンを使わずに挑んだアクション映画。ジョーをケイン・コスギ、建仁を加藤雅也、桂木を哀川翔、亜加音を橘実里、憲を金子昇、李をケネス・ローが演じている。

どこかで聞いたような設定、どこかで見たような風景、「使い古されている」という印象の強い要素がたっぷりと詰まった映画である。それを逆手に取るわけでもなく、大げさに誇張しているわけでもない。あくまでも、安っぽい形のままで提示する。
「寒い設定やダサいネーミングは、ワザとやっているんだろう、そこを誇張して荒唐無稽を狙っているんだろう」と、最初は好意的に受け止めようとした。だが、残念ながら、そういう徹底ぶりは無い。付き抜けたバカバカしさを見せようとはしていない。

主人公に悩みを持たせようとしているが、キャラも話も薄いのに、苦悩のドラマなど描けるはずがない。そもそも、ケイン・コスギにヘタな日本語を喋らせるとマズいと考えたのか(それは大正解)、日本語のセリフが極端に少ないのに、難しい心理ドラマなんてムリでしょ。ケインに表情や仕草だけで苦悩する心を表現しろってのか。
この映画、極端に言ってしまえば、ケインの活躍しないシーンって、ほとんど価値が無いのね。ケインが「これでもか」とアクションを見せまくってこそ、意味がある映画なのよ。なのに、そのアクションが少なくて、余計なことで無駄に時間を費やしてしまう。

ノーミソ空っぽな話なんだから、割り切ってアクションのみで引っ張ればいいものを、人間ドラマも見せようと余計な色気を見せちゃうから、ロクなことにならない。半端なドラマなんてどうだっていいから、とにかくケインのアクションを見せればいいのよ。
日本語の話せないハーフの主人公が来日して事件に巻き込まれるという、ジャッキー・チェン映画みたいなノリのコミカルなアクションにしちゃえばいいのに、と一瞬だけ思ったが、しかしクソ真面目が全身から滲み出ているケインにコメディーはムリだろうなあ。

最初のアクションシーンでは主人公の強さをアピールするってのが、この手の映画の定番だ。ところが、この映画では、最初にガンアクションを持ってきて、哀川翔をフィーチャーしてしまう。肝心のケインは、ちょっと格闘アクションを披露する程度。
で、次のアクションシーンは、李と桂木のバトル。いやいや、哀川翔の格闘アクションなんて要らないって。そりゃあ、終盤の展開を考えると、李の強さをアピールしておく必要はあるだろう。でも、橋本真也や哀川翔を倒しても、なんか強そうに見えないんだよなあ。
で、終盤に待っているジョーと李のバトルも、イマイチなんだよなあ。どうやら李は重厚感タイプのファイターっぽいけど(それも中途半端なんだけど)、それにケインが合わせる必要は無いのよ。まあ根本の問題として、どうやら監督が基本的に「アクションが出来る人のアクションシーンを撮ろうとしていない」ということがあるんだが。

相手役の格闘能力の問題なのか、ケインの限界なのか、アクション演出の問題なのか、理由は不明だが、アクションのスピード感が足りない。ケインは重厚感で勝負するタイプの人ではないので、スピードで見せていかなきゃいけないのに、それが足りないのだ。
ちょっと動いては一瞬止まり、また動いては一瞬止まる、といった感じで、流れるようにアクションが連続しないという印象が強い。例えば「敵パンチを腕で受け長し、自分がパンチを食らわす」という動きが、「パパパパッ」という感じで連続しない。「パンチを受けて1つ間を取り、受け流して間を取る」という風に、1つ1つ止まる時間が入るのだ。

この映画で最も好演しているのは金子昇。主役のケインよりもカッコ良く写る。ヒロインは話の邪魔さえしなけりゃ誰でもいいので、橘実里でOK。竹中直人は特別出演だとしても要らないし、渡辺いっけいも作品のテイストに合っていない。
加藤雅也は悪くないが、登場シーンのニット帽にスニーカーというファッションはダメだろう。そこは大物っぷりを見せるべきなのに、それじゃチーマーだよ。あと、最後にケインが戦う敵としても、役者不足だろう。アクション俳優じゃないからね。
ケネス・ローが格闘のメインディッシュを担当してくれれば、加藤雅也とは格闘せずに終わらせてもいいと思うんだけどね。あと、ケネス・ローと戦った後で哀川翔と戦うって、そりゃ無いだろ。そんでもって、最後はケインが加藤雅也を倒すシーンを描かず、ヘンなモノローグを入れてオシマイ。戦いのカタルシスは無く、煮え切らないエンディング。

この映画では残念ながらシナリオや監督に恵まれなかったが、それでケイン・コスギの評価が下がるわけではない。日本語の芝居を要求出来ないというネックは抱えているが、それでも彼は、素晴らしいアクション・スターになれる可能性を秘めている。
ケイン自身は、ジャッキー・チェンに憧れているらしい。しかし、彼が目指すべきはジャッキーではない。彼は、別のハリウッド俳優に匹敵するほどの素質を持っている。
そう、ケイン・コスギは、日本のジャン=クロード・ヴァン・ダムになれる可能性を秘めた男なのだ。
この映画は、ケイン・コスギ版の『クエスト』だったのだ。

 

*ポンコツ映画愛護協会