『胸が鳴るのは君のせい』:2021、日本

北見大学付属高等学校似通う3年生の篠原つかさは、遅刻しそうなので急いで走っていた。何とか8時半の登校時間に間に合った彼女だが、風紀委員教師の中村が正門を閉めてしまう。つかさが戸惑っていると、中村はクラスと名前を言うよう要求した。そこへクラスメイトの有馬隼人が現れ、つかさの腕を掴んで走り出した。彼は中村に「まだ時間セーフっしょ」と言い、時計を見るよう促した。有馬とつかさは一緒に走りながら、笑顔を浮かべた。
高校1年生の3学期、つかさのクラスに有馬が転入してきた。学級委員のつかさが元気に声を掛けても、有馬は無言で軽く会釈するだけだった。その態度を見たつかさは、愛想が悪い男だと感じた。高校2年生の1学期、つかさは体育教師が「つかさ」と呼んだので返事をする。しかし教師が呼んだのは司という男子生徒で、軽く笑って「篠原じゃなくて」と言う。他の生徒も笑い、つかさの親友の酒井みどりが「笑うことないでしょ」と腹を立てると1人が「笑うだろ、男とおんなじ名前って」と馬鹿にしたように告げる。すると有馬がつかさに、「いい名前じゃん、つかさって。似合ってると思うけど」と声を掛けた。
それ以来、有馬はつかさを「つかさ」と呼び、距離感の近さを感じる接し方をするようになった。つかさは彼に恋心を抱き、ずっと視線で追い掛けるようになった。高校2年生の3学期、つかさは修了式が終わり、親友のみどり&星川弥生と春休みに遊ぶ予定を話し合う。有馬が「面白そう」と接近し、つかさに写真を貸してくれと頼んだ。2人の様子を見ていたみどりと弥生は、「有馬って、絶対つかさのこと好きだよね」と語る。つかさは照れて否定するが、みどりたちは他の女子とは態度が違うと指摘した。
つかさはみどりと弥生から、有馬に告白するよう勧められた。そこで彼女は有馬を呼び出し、「私、1年の時から有馬のこと好きなんだ」と打ち明けた。すると有馬は、つれない態度で「ごめん。俺、つかさのことそういう目で見たことない」と言う。有馬に「すげーいい友達だと思ってる」と告げられたつかさは、笑顔で取り繕った。彼女は「じゃあ、これからも友達ってことで、よろしく」と気丈に振る舞い、その場を去ってから「なんとも思ってないなら、紛らわしいことするなよ」と泣いた。
高校3年生の1学期、つかさはみどり&弥生と同じクラスになって喜び合う。有馬も同じだと知った彼女は、長谷部泰広という男子から「俺もおんなじクラスみたい。よろしくね」と挨拶された。彼がイケメンだったので、みどりと弥生は浮かれた。つかさが教室に入ると、黒板に「篠原は有馬に告ってフラれた!!」と大きく書かれていた。つかさが顔を強張らせていると、安田という男子が「誰が書いたか知らないけど、俺も有馬から聞いたんだよね」と話し掛けた。
その男子が「あいつ、言いふらすなんて最低だよね」と口にすると、つかさは「有馬はそんなことしない」と声を荒らげた。そこへ有馬が現れ、黒板の文字を見て「これ書いたの誰だ?」と鋭く言い放つ。彼はつかさに安田が犯人だと見抜き、怒って殴り掛かった。つかさは彼が停学処分になったことを知り、家へ赴いた。つかさは大声で有馬を呼び出し、「私、やっぱり有馬のことが好き。まだ諦めないから。振られても、頑張るから」と明るく言う。有馬に「また1年、よろしくな」と笑顔で告げられ、つかさは喜んだ。
有馬は3年になってから急にモテるようになっており、つかさは彼が下級生からラブレターを渡される様子を目撃した。つかさは安田から先日の件で謝罪され、終業式で有馬に告白する現場を目撃していたと明かす。彼が「篠原のことがずっと好きで」と口にすると、つかさは「もういいよ」と去ろうとする。安田が「俺の気持ちも分かって欲しくて」と立ちはだかると、長谷部が来て「しつこい男は嫌われるよ」と追い払った。
つかさは長谷部から、「モテんじゃん。この際、安田くんに乗り換えれば?」と告げられる。つかさが「長谷部くんに関係ないじゃん」と口を尖らせると、彼は「それが大有りなんだよねえ」と言う。彼は従妹が前の学校で有馬の元カノで未練があり、身体調査を頼まれたと説明した。つかさのクラスでは、オリエンテーションキャンプの実行委員2名を決めることになった。立候補か推薦を募ると、名乗り出る生徒はいなかった。弱気の三上亮子が押し付けられるような形で推薦され、彼女の困った様子を見たつかさは立候補した。
つかさたちがバスでキャンプ場に着くと、聖百合岡女子学園の麻友が待っていた。彼女が有馬を見つけて「変わってないね」と話す様子を、つかさが目撃した。つかさと亮子がカレーを作っている間、近くにいる男子たちは手伝おうとせずに文句を言う。そこへ麻友と友人たちが大きな鍋で作ったパエリアを持って現れ、有馬に「良かったら食べて。作り過ぎたの」と告げる。男子は喜んで食べ始め、カレーを完成させたつかさは唖然とした。
つかさが鍋や食器を洗うために1人で運んでいると、有馬が来て手伝う。つかさは鍋を洗い始めるが、シュシュが頭から落ちて濡れた。有馬は後ろから髪の毛を持ち上げ、「持っててやるから早く洗え」と告げる。つかさが「どうして有馬に振られたのかな」と尋ねると、彼は「だって俺ら、全然、そういう雰囲気無かっただろ」と軽く笑った。つかさが「100パーセント眼中に無し」とガッカリすると、有馬は大笑いして「いやいや、つかさもいいトコ一杯あるっすよ」と言う。彼はつかさに求められて具体例を挙げるが、まるで褒めていなかった。しかし最後に「俺を信じてくれる所」と口にしたので、つかさは微笑んだ。
そこへ麻友が現れ、有馬に「ちょっと時間ある?」と告げる。つかさはみどりたちが呼びに来たので、その場を離れた。麻友は有馬から体を心配されると、「大丈夫。新しい学校にも慣れてきたトコ」と笑顔で返した。有馬が「そうか、良かった」と安心すると、彼女は「私、隼人くんに会うために、こっち戻ってきたんだよ」と愛おしそうに見つめた。長谷部はつかさに、麻友が従妹だと教える。つかさは平静を装うが、長谷部は「すぐ顔に出るんだね。恋愛慣れしてないってバレバレだね」とからかうように語った。
消灯前、つかさと同室の女子たちは、有馬の部屋に侵入すると言い出した。つかさは「実行委員だし」と迷うが、監視役という名目で同行する。1人の男子が人生ゲームを持参していたので全員で遊び、日曜日に皆で海へ行こうという話になった。見回りをしている中村の声が聞こえたため、一同は電気を消して布団に隠れた。つかさは「こっち空いてるよ」という声で名前も知らない男子の布団に潜り込もうとするが、有馬が自分の隣に引っ張り込んだ。
翌日、つかさは有馬が長谷部&麻友と話す様子を目撃した。有馬が去った後、長谷部はつかさを手招きした。つかさが歩み寄ると、麻友が「日曜日、一緒に海へ行きたい」と話す。彼女はつかさが誘ったことにしてほしいと言い、「また隼人くんと付き合いたいの」と協力を要請した。日曜日、つかさはクラスメイトと海に出掛け、麻友も参加した。長谷部はつかさに、麻友が有馬との別れを後悔していると語る。有馬の転校が決まった時、麻友は「離れて辛い思いをするくらいなら、別れる」と言っていた。その後に病気や両親の離婚があって苦労しているのだと、長谷部は語った。
つかさは長谷部から「まだ好きなんでしょ」と指摘され、「振られても諦めないって決めたから」と明るく告げた。麻友は具合が悪くなり、ベンチで休憩した。つかさが「みんなの分まとめてアイス買って来るよ」と言うと、有馬は「俺も一緒に行くよ」と同行した。長谷部に「2人っきりにしておいていいの?」と訊かれた麻友は、「別にいいよ。だって、隼人くんは必ず私の所に戻って来るもん」と告げた。つかさに「麻友ちゃんって可愛いね。女の私でもみとれちゃうよ」と言われた有馬は、「お前がいてくれて助かった」と告げる。つかさが「どういう意味?」と尋ねると、彼は答えなかった。
有馬とつかさが戻ると、麻友の状態は悪化していた。有馬は彼女を抱き上げ、休憩所まで運んだ。つかさは麻友の首筋にある傷痕を目撃するが、何も言わなかった。有馬が水を買いに行っている間に、麻友はつかさに「私、ヤスくんとつかさちゃんのおかげで、また隼人くんと付き合えそう」と笑顔で語った。彼女は父の転勤で海外にいた時も日本のことばかり考えていたと言い、「隼人くんのことが好き過ぎて自分が壊れちゃったけど、今度はもっと上手くやれると思うんだ」と口にした。有馬は麻友を駅まで送って行き、長谷部は辛そうなつかさを見て「片想いなんてしんどいこと、やめちゃえばいいのに」と言う。すると、つかさは「そしたら、たぶんもっとしんどいもん。片想いはやめられても、好きはやめられないよ」と述べた。
有馬は駅に着くと、麻友に「ホントは具合なんて悪くないだろ。お前の仮病ぐらい、すぐ分かるよ。昔から何度も見て来たから」と告げた。「だったら、どうして送るなんて言ったの?」と麻友が質問すると、彼は「ちゃんと話がしたかったから」と答えた。麻友は「そんなの聞きたくない」と言い、「だって、今まで生きてきて一番楽しかったのは、隼人君といた時だよ。私たち、やり直せるよね」と復縁を迫る。有馬は「ごめん」と謝罪し、「あの日、お前に怪我されたこと、ずっと後悔してた。償えって言うなら、今からでも何でもする。でも、それ以上の感情は、もう持ってない」と述べた。
翌朝、つかさが登校すると、長谷部が後ろから「おはよう」と抱き付く。つかさは慌てて離れるが、長谷部は全く意に介さなかった。彼がつかさを追い掛けようとすると、有馬が「あんなつかさにしつこくすんな」と注意する。「女と遊びたいなら他を当たれ」と有馬が睨むと、長谷部は「なんで君が言うの?前につかさちゃん振ってんでしょ。それなのに干渉する権利無くね?卑怯だね」と語った。つかさが下校しようとすると、有馬が待っていて「昨日は悪かったな」と謝罪した。つかさは一緒にアイスを食べに行こうと誘われるが、麻友の言葉を思い出して「今日は予定あるんだ」と断った。
つかさは麻友からメールで呼び出され、「ホントのこと言って。隼人くんと友達なんて嘘でしょ?」と問い詰められた。「馬鹿みたい。ずっと片想いのくせに。私と隼人君の間には特別な繋がりがあるんだよ」と麻友が泣き出すと、つかさは「そんなの分かってるよ。ずっと片想いでいいよ。有馬が許してくれる間は、有馬のことを勝手に好きでいたいだけ。何度も諦めようとしたけど、でも無理なんだ」と話す。彼女の言葉を聞いた麻友は、「昨日、隼人君に思いっきり振られた」と打ち明けた。
次の日、長谷部は有馬に「いいよね。あんなに一途に思われて。有馬くんが好きでジタバタしてるつかさちゃんは、小動物みたいで面白いと思ってた。でも、女の子だったんだよね」と語る。有馬が「何が言いたいんだよ」と告げると、「この間さ、君と麻友の過去について、つかさちゃんに訊かれちゃった。どこまで言っていいのかなあ」と長谷部は話す。すると有馬は彼の胸座を掴み、「言っとくけど、つかさは人づてに詮索するような奴じゃないから」と鋭く言い放った。長谷部は自分の気持ちについて女友達に相談し、つかさに恋していることに気付かされた。
つかさが美術準備室で棚の上にある本を取ろうとしていると、通り掛かった有馬が声を掛けた。驚いたつかさがバランスを崩して転倒すると、有馬は心配して駆け寄る。つかさは臀部を打っただけだが、有馬は「ごめん、俺が声掛けたから」と過剰に罪悪感を示した。つかさは「私が勝手に落ちたんだから」と言うが、有馬の手は震えていた。つかさは彼の手を優しく握り、「私、そんなに脆くないよ」と告げた。有馬は予備校で夏期講習を受けている時、つかさの言葉を思い出していた。
長谷部は真野梨々子とデートするが、もう遊びは卒業しようと決意した。彼が「ほっとけない子が出来てさ。妙に守りたくなっちゃうんだよね」と告白すると、梨々子は激怒して顔面にパンチを浴びせた。つかさは長谷部と遭遇し、事情を知って「1人の子と付き合う気は無いの?」と質問する。長谷部は彼女に、「俺、昔から家庭が複雑でさ。愛情に飢えて育ったんだよね。1人の相手と真面目に向き合うのが怖くて」と話す。つかさが「大変だったんだね」と同情すると、彼は「うっそピョーン」と冗談にした。
夏休みに入る直前、つかさはみどりから、クラスメイトの高岡俊樹と付き合い始めたことを知らされた。つかさは高岡のグループと夏祭りに行くことになり、浴衣で現場へ赴いた。有馬と長谷部も、高岡のグループとして参加した。つかさは下駄の鼻緒がすれて足が痛くなり、みどりたちに「先行ってて」と告げる。彼女が少し休憩して後から1人で行こうとすると、有馬が待っていた。2人は並んで縁日に行き、かき氷を買った。
有馬は座ってかき氷を食べ、つかさに麻友との関係を打ち明けた。麻友の傷について、彼は「あれは俺のせいなんだ」と告げた。高校1年の時に有馬の転校が決まると、麻友は「離れ離れになるぐらいなら、ここで別れる」と泣きながら告げた。それが気持ちを確かめるための言葉だと気付かず、有馬は「麻友がそうしたいなら、それでいいよ」と告げて立ち去った。麻友はショックで貧血を起こし、倒れた時に花壇の柵で怪我を負ったのだ。
話を聞いたつかさが「それって有馬のせいじゃないじゃん」と言うと、有馬は「俺のせいでもあるんだ。俺はたぶん、あいつほど真剣じゃなかったんだと思う。恋愛に対して、すっげえガキだった。あの傷が残っている以上、俺にとってあいつは一生忘れられねえし」と語る。彼が「もう、誰かと付き合ったりする資格も無いって、ずっと思ってた」と話すと、つかさはショックを受けた。彼女はトイレに駆け込み、「やっぱり、私じゃ無理なんだ」と泣いた…。

監督は橋洋人、原作は紺野りさ『胸が鳴るのは君のせい』(小学館「ベツコミ フラワーコミックス」刊)、脚本は横田理恵、製作は村松秀信&與田尚志&藤島ジュリーK.&久保雅一&長坂信人、企画・プロデュースは木村元子、エグゼクティブプロデューサーは柳迫成彦、プロデューサーは峠本悠悟&谷鹿夏希、制作統括は福冨薫、撮影は斑目重友、照明は川里一幸、録音は高須賀健吾、美術は長谷川功、寒河江陽子、編集は伊藤伸行、音楽はKYOHEI(Honey L Days)、主題歌『虹の中で』は美 少年 / ジャニーズJr.。
出演は浮所飛貴(美 少年 / ジャニーズJr.)、白石聖、板垣瑞生、原菜乃華、城島茂、RED RICE(湘南乃風)、浅川梨奈、河村花、若林時英、箭内夢菜、入江海斗、青木柚、神南里奈、原愛音、清田みくり、田中なずな、岡田佳大、秦健豪、飛葉大樹、大友樹乃、平田りえ、中村祐志、吉永秀平、ぴーぴる、れーゆる、八汐舞、篠田一斗、辰野幹生、茂野陸、長谷優里、晴木美羽、大塚守芽生、小田川颯依、渡邉崇、山下恵奈、田附未衣愛、井上東万、咲太朗、崎本紗衣、青山愛依、朝日奈美季、込山尊、進藤歩実、平田友貴、小沢ちひな、佐藤あお、ちばしお他。


『ベツコミ』で連載されていた紺野りさの同名漫画を基にした作品。
『悼む人』『春待つ僕ら』の監督補など様々な形で映画に携わってきた橋洋人が、長編映画の監督を初めて務めている。
脚本は『恋極星』『覆面系ノイズ』の横田理恵。
有馬役の浮所飛貴は、これが映画初主演となる。
つかさを白石聖、長谷部を板垣瑞生、麻友を原菜乃華、かき氷屋の大将をRED RICE(湘南乃風)、梨々子を浅川梨奈、みどりを河村花、高岡を若林時英、弥生を箭内夢菜、金子を入江海斗が演じている。
城島茂が中村役で特別出演している。

中村は登場した時点では標準語で話していたのに、有馬の指摘で時間を確認した途端に「あっ、ホンマや」と関西弁になる。それ以降は、基本的には関西弁で喋っている。
それだけでも充分にキツいのだが、それより遥かに引っ掛かる台詞がある。
彼は有馬に対して、「生活の乱れは心の乱れや。そんな生徒は心から美少年、美少女にはなられへんぞ」と呼び掛けるのだ。
この「美少年」という台詞で浮所が所属するグループ名を強引にネジ込んで来る辺りに、呆れてしまう。
それがギャグ的なモノとして成立していればともかく、そうじゃないし。。何しろ、映画の冒頭シーンなんだから。

高校1年生の3学期のシーンでは、つかさの名前に対して男子生徒が「笑うだろ、男とおんなじ名前って」と言っている。
このシーンには、ものすごく違和感があるんだよね。「つかさ」が男子の名前って、いつの時代の認識なのかと思っちゃうのよ。
いや、そもそも古い世代でも、「伊藤つかさ」というアイドルだっていたわけで、「つかさは男子の名前」というイメージなんて、全く無いんだよね。
なので、「周囲はつかさを馬鹿にしたのに有馬が擁護する」という筋書きに、大きな無理を感じてしまうのだ。

有馬は転入初日につかさが挨拶しても、無愛想な態度を見せる。
しかし高校1年生の3学期のシーンでは、自分から「いい名前じゃん、つかさって。似合ってると思うけど」と声を掛ける。
そして2年生の1学期には、つかさにキザな言葉を掛けて、それどころか「つかさ、チンタラしてっと遅れるぞ」と恋人みたいな態度を取ったりする。
そこまでフランクな態度で笑顔をたくさん見せる奴に変貌する経緯が、サッパリ分からない。

後半に入っと有馬と麻友の関係が判明すると、転校初日の無愛想な態度は「それが原因だったのかな」ってのは何となく推理できる。まあ、つかさが明確に「そういうことだったんだ」と理解するようなシーンは無いので、不親切だとは思うけどね。
でも、そこから有馬が笑顔を見せたり、つかさに恋人みたいな態度を取ったりするように変化するのは、何かしらのきっかけがあったはずでしょうに。でも、そういうのは全く見えないのよ。
そもそも、高校1年生の3学期という中途半端な時期に転校して来たことに、誰も違和感を覚えないのか。そして理由を知りたいとは思わないのか。
そこを華麗にスルーしているのは、どうにも引っ掛かるぞ。

根本的な問題として、有馬が身勝手で卑怯な奴にしか見えないんだよね。前述したように、彼はつかさに対して、まるで恋人のような言動を見せるようになっているのだ。
そりゃあ、つかさが「告白すれば付き合える」と期待するのも当然だ。
なので、「友達だと思っている」という理由で断るのは、酷い奴だとしか思えない。
しかも、つかさが「まだ諦めないから。振られても、頑張るから」と宣言すると、彼は笑顔で受け入れるんだよね。
もう誰とも付き合う気が無いんだったら、その時点でハッキリと「幾ら諦めなくても無理なんだ」と拒絶しておけよ。それが優しさってモンだろ。

つかさは有馬が下級生からラブレターを渡される様子を目撃した時、みどりから「捕まえそこねたね」と言われる。
だけど、つかさにしてみれば、「逃した魚は大きかった」ってことにならないでしょ。有馬に振られているんだから、どうしようもないんだし。
捕まえ損ねたという感情は、むしろ、つかさが男子と親しくしているのを見た時に有馬が抱くべきモノでしょ。
あと、3年になってから有馬がいきなりモテ始めた設定だが、理由がサッパリ分からんぞ。女子からの印象が急に変化したのなら、何かしらの理由はあるはずでしょ。

キャンプのエピソードでは、つかさのシュシュが落ちて濡れ、有馬が「持っててやるから早く洗え」と髪の毛を後ろから持つシーンがある。
これを「女子がキュンキュンするシーン」として用意しているんだけど、「いや無理だろ」と呆れてしまう。
もちろん、「壁ドン」とか「顎クイ」のような「胸キュンの見せ場」の新バージョンとして、そういう状況を用意しているのは分かるよ。
だけど、ホントに優しい男なら、髪の毛を持って洗い物を続けさせるよりも、自ら食器洗いを引き受けるべきだろ。

美術準備室でつかさがバランスを崩して倒れた時、有馬が異常に心配している。
だけど、それまでにも、つかさを心配すべき状況なんて幾らでもあったはず。
今までは全て軽く流しておいて、その時だけ急に「有馬は周囲の人間の怪我に対して敏感になっている」ってことを示すのは、思い出して慌てて用意したようにしか思えない。
「今回は有馬が声を掛けたせいで起きた事故なので、麻友のことを連想して」という見せ方にしたいのは分かる。だけど、不細工極まりない描写にしか思えんよ。

わざわざ書くまでも無いだろうし、もはやネタバレもクソも無いだろうけど、もちろん最終的に有馬とつかさはカップルになる。長谷部と麻友が噛ませ犬に過ぎないのは、最初から誰もが分かり切っていることだろう。
そんな2人の内、麻友は有馬に強い未練を抱いている設定だが、あっさりと引き下がる。役目が終わると潔く退場するという、物分かりの良さを見せる。
一方、長谷部は麻友のターンが終わるまで、しばらくは三角関係を作ろうとしない。麻友のターンが終了してから、「次は自分の番」ってことで積極的に動き、終盤まで物語を牽引しようとする。
こちらも、ちゃんと自分の役割を分かっている。

そのように都合のいい脇役がいてこそ、恋愛劇はスムーズに進行する。特に少女漫画の場合、それは顕著なのだ。
なお、「お前は一体、何を書いているのか?」と問われたら、「特に意味は無い」と答えておく。何となく書いてみたけど、後から見るとマジで「私は何を書いているのか?」と思ってしまったわ。
でも批評の尺を少し稼ぐ目的で、そのまま残しておくことにする。
何しろ後半に入ってからは思考停止の状態に陥ってしまい、まるで批評が思い浮かばなくなっちゃったのよね。

(観賞日:2022年9月29日)

 

*ポンコツ映画愛護協会