『ミスター・ルーキー』:2002、日本

200X年、阪神タイガースは、甲子園での試合にしか登板しない覆面姿の抑え投手ミスター・ルーキーの活躍もあり、ペナントレースを快調に走っていた。記者の椎橋純子らマスコミはミスター・ルーキーを取材しようとするが、彼の正体は謎に包まれていた。
実は、ミスター・ルーキーの正体は、大手ビール会社に勤務する、大原幸嗣という32歳のサラリーマンだった。だが、彼はそのことを、妻・優子や小学生の息子・俊介にも話していない。大原は会社勤務との二重生活を続けるため、甲子園限定で登板しているのだが、9月から東京に転勤するという話が持ち上がってしまった。
大原から事情を聞いたタイガースの瀬川監督は、ある話をデッチ上げ、ビール会社の上層部に吹き込んだ。それは、大原が瀬川の遠縁に当たり、ビールのCMモデルにミスター・ルーキーを起用したいという案を直々に持ち込んだという話だった。
契約の交渉役になった大原に、瀬川は甲子園以外でも登板することを要求した。大原は瀬川の要求を承諾し、甲子園以外の球場でも登板する。だが、会社との二重生活で疲労が蓄積した大原は、チームメイトの多田のミスに激しい怒りをぶつけてしまった。
試合終了後、大原は瀬川にも怒りをぶつけるが、逆に叱責され、登録を抹消されてしまった。自宅に戻った大原に、優子はミスター・ルーキーの正体に気付いていたことを告げた。そんな妻に、大原はミスター・ルーキーになった経緯を説明した。
大原は、高校時代に肩を壊して野球から遠ざかっていたが、阪神のトレーナーをしているマッサージ師の楊と出会い、剛速球を取り戻した。大原の素質を見込んだ瀬川は、会社を辞める気の無い彼を、甲子園限定のパートタイム・ピッチャーとして起用することにした。大原の会社では兼業が禁止されているため、覆面を被っているのだ。
ミスター・ルーキーを失ったタイガースは、すっかり調子を落としてしまった。大原は多田と和解し、チームに復帰した。チームは調子を取り戻し、ついに首位の東京ガリバーズと並んだ。そして、いよいよ優勝を賭けた東京ガリバーズとの試合が始まった…。

監督は井坂聡、原案は佐藤佐吉、台詞は飯島早苗、脚本は井坂聡&鈴木崇、企画は大木達哉、プロデューサーは田村三勇&赤井淳司&清水啓太郎、エクゼクティブプロデューサーは伊地智啓、撮影は佐野哲郎、編集は菊池純一、録音は今井善孝、照明は渡部嘉、美術は斎藤岩男、音楽は和田薫、音楽プロデューサーは高橋信之、主題歌はウルフルズ。
主演は長嶋一茂、共演は鶴田真由、橋爪功、竹中直人、宅麻伸、駒田徳広、神山繁、國村隼、山本未来、さとう珠緒、吹越満、中原丈雄、嶋尾康史、米田良、松谷賢示、宮吉康夫、乃木涼介、矢作公一、ランディ・バース、吉田義男、田淵幸一、中西清起、康すおん、木内あきら、村田和美、生部麻依子、衣厘、小川まるみ、入野佳子、道上洋三、楠淳生、伊藤史隆、中頓雄二、宮根誠司ら。


「阪神タイガースが優勝したら」という野球映画。野村監督の3年目に公開されたが、ちょうど阪神タイガースの成績が落ちて行く時期と重なったこともあってか、興行成績は伸びなかった。大原を長嶋一茂、優子を鶴田真由、瀬川を橋爪功が演じている。
阪神タイガースの現役選手である八木裕、藪恵壷、桧山進次郎、広澤克実、矢野輝弘が本人役で登場し、OBの仲田幸司、福間納、國定浩一が阪神ファンとして出演している。また、太田房江・大阪府知事も阪神ファンの1人として出演している。

長嶋一茂と鶴田真由の夫婦に小学生の息子がいるというのは変な感じがするし、両親が標準語で話しているのに息子だけは関西弁で喋っているのも妙だ。ついでに言えば、竹中直人にヘタな関西弁を喋らせているのもキツイ。そもそもキャスティングの時点で、ナチュラルな関西弁が話せない俳優を多く揃えていることに疑問が残る。
スタッフはタイガースへの愛があるのかもしれないが、大半の出演俳優にはタイガースへの愛が無いわけで、それを考えると気持ちが萎える。どうして西田敏行や矢崎滋、宮崎淑子といった、阪神ファンを公言している人をキャスティングしなかったのかと思う。

長嶋一茂の主演が心に引っ掛かって、どうしても素直になれない。
いや、決して彼の芝居が悪いとか、そういうことではないのだ。彼は彼なりに、頑張っているとは思うのだ(ハッキリ言って、芝居よりも野手投げの投球フォームの方が気になってしまった)。
ただ、やはり彼が主演を務めていることに対して、違和感を抱かざるを得ない。

何しろ、これは阪神タイガースファンの、阪神タイガースファンによる、阪神タイガースファンのための作品なのだ。プロ野球ファンに向けた映画ではなく、あくまでも弱小球団の頃から阪神タイガースを愛し続けたファンに向けられた作品なのだ。実際、バースが登場するシーンでは、現場にいた多くのスタッフが感動に震えていたそうだ。
もちろん、他のチームのファンであっても、この映画を見て感動する人はいるだろう。だが、それは「たまたま」に過ぎない。基本的には、阪神ファンのための映画だ。
だから、元ジャイアンツの人間が主人公を演じるということには、違和感を抱いてしまうのだ。

ジャイアンツ繋がりということで、もう1つ不満がある。それは、他の球団が実名で登場するにも関わらず、ジャイアンツだけは登場せず、東京ガリバーズという架空の球団になったことだ。
どうやら、読売ジャイアンツだけは球団名の使用を許可しなかったらしい。
なるほど、球界の盟主ジャイアンツとしては、映画の中とはいえ、タイガースに負ける役回りはイヤだということだろうか。しかし、ガリバーズが最終戦の相手として設定されているだけに、そこがジャイアンツではなく架空のチーム名になっているのは、ドッチラケである。だったら、巨人にこだわらず、最終戦の相手を別チームにした方がマシだ。

話としては、予定調和でベタベタの展開で、それを凡庸に演出しているだけという感じ。キャラクターの描写にも面白さは感じないし、優勝に向かっての高揚感にも乏しい。荒唐無稽なスポーツ・コメディーにも成り切れず、マスクの下の孤独や苦悩も表現が弱い。途中で入る回想シーンはモタモタしているし、シナリオの作りがマズイと思う。
最後の試合シーンの作り方も、かなりピントがズレている。ランディ・バースが代打で登場するのは、阪神ファンとしては嬉しいけど、そこが映画のハイライトになってしまっているのは、違うだろう。大原の話が弱すぎて、バースの存在に負けてしまっている。
最後に桧山がファインプレーを見せるのも、もちろん嬉しい。だが、彼は、それまでに話に全く絡んでいないのだ。そんな人間が、最後の最後に目立つのは違うだろう。そこは、多田に任せるべきではないのか。とはいえ、多田の存在感も薄いのだが。

この映画の良さは、とにかく甲子園での観客席。
ここの圧倒的な臨場感だけで、この映画は必死に踏みとどまろうとしている。
ドラマ部分には何の魅力も感じないが、球場の観客席には、本物の阪神ファンを集めただけあって、観客の熱気がある。
しかし、阪神ファンの私だが、いや、阪神ファンだからこそ、あえて言おう。
カスであると。

 

*ポンコツ映画愛護協会