『魍魎の匣(もうりょうのはこ)』:2007、日本

戦時中、その男は日本兵の死体に紛れて息を潜めていた。子爵の息子である海軍中尉の榎木津礼二郎が通り掛かると、男は「自分も一緒に連れてって下さい」と懇願した。男は陸軍の補充兵だが、海軍の久保中尉の軍服を着ていた。捕虜になった時の待遇が違うことを考え、死んだ久保から剥ぎ取っていたのだ。榎木津は照明弾の光を見てしまい、一時的に視力を喪失した。洞窟へ入った彼は、男に「押し入れで眠ってる。箱の中の少女。お前の後ろに。子供だ。掌に闇がある」と言う。男は「子供の頃からそうなんだよ。押し入れで行李に入って眠る方がいい」と語った。彼が洞窟にあった行李を開けると中には少女がいて、無数の虫が這い回っていた。

[榎木津と陽子]
7年後、1952年の東京。「相模湖に女性の太腿。幼女連続バラバラ事件と関係」という見出しの号外が配られ、それは古本屋を営む京極堂の元にも届いた。私立探偵となった榎木津は、秘書の和寅が手に入れた号外に目を通した。八王子では先月に右脚が、その前には右手が発見されていた。寅吉は榎木津に、「先生と捕虜になった久保竣公の小説に似てませんか」と告げた。榎木津が洞窟で記憶を読み取った男は帰国後、「久保竣公」の名で小説家となり、箱の中に無数の娘が押し込められているという小説『匣の中の娘』を発表していた。
榎木津は新世界撮影所の今出川所長に呼び出され、人気絶頂で映画界を引退した美波絹子から遺産相続絡みの揉め事で相談されたことを聞く。美波絹子の本名は柚木陽子だ。今出川は陽子の窮状を救って女優復帰させたいと考えており、榎木津の力を借りることにしたのだ。榎木津が会いに行くと、陽子は娘の加菜子が先週失踪したこと、弁護士の増岡則之に命じられて雨宮典匡が連れ去ったことを話す。加菜子の父は柴田耀弘会長の孫・弘弥で、雨宮は自分たちの監視者なのだと陽子は語った。
かつて陽子は弘弥と駆け落ちしたが、3日後には連れ戻された。弘弥は見合い結婚したが、翌年のヨーロッパ旅行中に妻が病死して加菜子が相続人筆頭となった。耀弘から養育費も母親の治療費も全て面倒を見るという条件を提示された陽子は、それを受諾した。耀弘が倒れ、加菜子に全財産を残すと言い出した。増岡は「一族の反対派がどんな手を使うか分からないので、加菜子を安全な場所に移すべきだ」と主張したが、陽子は彼を信用しなかった。陽子は母娘が平和に暮らすため、加菜子に相続権を放棄させようと考えていた。
陽子は榎木津を伴って増岡の元へ行き、娘を返すよう要求した。増岡は冷たくあしらい、加菜子の居場所を言わなかった。しかし榎木津は増岡の記憶を読み取り、彼の実家である轟渓谷の料亭に加菜子がいることを知った。榎木津と陽子が料亭へ行くと、加菜子は雨宮の目を盗んでクラスメイトの楠本頼子と逃走していた。加菜子は頼子を連れて女学院に入り込み、「凧を揚げよう。演劇部の部屋にに作り掛けの凧があったじゃないか」と言う。そんな彼女たちの様子を、2人の男たちが密かに観察していた。

[関口と敦子と鳥口]
小説家の関口巽が町を歩いていると、カストリ雑誌『實録犯罪』の編集者である鳥口守彦が声を掛けて来た。鳥口はバラバラ殺人事件に関連して本格的読み切り小説を書いてほしいと持ち掛けるが、関口は興味を示さなかった。鳥口は酒屋の2階に間借りする『實録犯罪』の編集部へ行き、妹尾編集長に声を掛ける。血溜まりを見つけた鳥口が引き出しを開けると、若い女の右腕4本が詰め込まれていた。
関口が『近代文藝』の山嵜編集長と打ち合わせをしていると、久保がやって来た。山嵜から関口を紹介された久保は、見下した態度で嫌味を浴びせた。久保は関口が別名義を使い、『實録犯罪』への寄稿で小遣い稼ぎをしていることも知っていた。あえて久保は、そのことを正面から指摘せず、『實録犯罪』で書いている人物を「駄文を書いている」と扱き下ろした。久保は関口に、『實録犯罪』の編集部で女の腕が発見されたことを語った。
関口が『實録犯罪』編集部へ向かおうとすると、『稀譚月報』の編集者をしている京極堂の妹・敦子が追って来た。彼女は個人的に、連続バラバラ事件を調べたいと思っていたのだ。編集部には刑事の青木文蔵が来ていたが、上司の木場修太郎は謹慎が解けたばかりということで不在だった。外へ出て移動しながら話していた関口、敦子、鳥口の3人は、山伏たちが工場経営者夫婦に財産を全て渡すよう要求している現場を目撃した。山伏は「穢れた富を教主が預かり、神聖な匣に入れて清める」という名目で人々から財産を奪い取っている新興宗教「穢れ封じ御筥様」の面々だった。
敦子は関口に、穢れ封じ御筥様の信者がどんどん不幸になり、自殺者も出ていることを教えた。すると鳥口は、その穢れ封じ御筥様を調査しようと考えていることを明かす。彼は関口と敦子に、入手した失踪少女一覧と穢れ封じ御筥様の信者リストを見せた。すると、失踪少女の内の10名は信者リストに入っていた。鳥口は2人に、警察が第一と第二のバラバラ事件で最初の候補に考えている少女が信者リストに含まれていることを語った。敦子は関口を連れて穢れ封じ御筥様の本部へ乗り込み、悩みを抱えている夫婦を装って事務員の二階堂寿美や教主の寺田兵衛と接触した。寺田が魍魎を匣に封じ込める儀式を開始し、鳥口は隠れて音声を録音していた。

[青木刑事と木場刑事]
その3時間前、青木は陽子の主演作をロングラン上映している映画館で木場を見つけ出していた。木場は陽子の熱烈なファンで、映画に没頭していた。陽子がチャンバラをする見せ場が訪れると、観客たちは拍手で盛り上がった。青木は木場に、監察医の里村が「生きている内に切断された腕もある。犯人は切るために殺したのではないか」と言っていたことを伝えた。さらに彼は、出て来ない腕や頭部が人体実験に使われている可能性が高いという推理を語った。
青木は「医者ならもっと上手くやるでしょう。腕を切る時は生きていて、足の時は死んでいる。だいぶ手間取っていますね。ただし、犯人は勉強熱心です。新しい死体の方が、上手くなっている」と述べた。青木は戦時中に軍が外科医や科学者を集めて実験させていた施設をリストアップしていたが、木場は「医者や病院には興味ねえ」と告げる。青木が列車で移動していると、急ブレーキが掛かった。慌てて外へ出た青木は、ホームにいる頼子に気付いた。車掌は線路に転落し、レールに挟まれている少女を発見した。青木から落ちたのは友達かと問われた頼子は、「男の人が加菜子を」と口にした。
加菜子は病院に担ぎ込まれ、緊急手術が行われる。陽子が病院に駆け付け、美馬坂近代医学研究所へ転院させる手続きを取った。それは青木がリストアップした施設の1つだった。青木は木場に電話を掛け、美波絹子が来ていることを告げるが、まるで信じてもらえなかった。病院には榎木津も現れ、陽子に美馬坂との関係を尋ねた。陽子が「懇意にさせて頂いています」と言うと、彼は「あの箱みたいな館に入るんですか。昔みたいに」と告げる。陽子は「加菜子は死なせはしません」と告げ、その場を後にした。

[京極堂と魍魎]
その2日後、関口と鳥口は京極堂の元を訪れ、御筥様を犯罪者として告発したいので力を貸してほしいと要請した。榎木津も京極堂を訪ねどうすれば良いか分からず相談に来たことを明かす。彼は箱のような建物である研究所へ行ってみたが、眺めるだけで立ち去ったという。関口が鳥口に研究所の取材を持ち掛けると、京極堂は「あの箱には手を出さない方がいい」と言う。彼は榎木津に、「美馬坂には近付くな。多くの人間が不幸になる」と警告した。
敦子が京極堂たちの元へ来て、御筥様に関する調査内容を報告した。寺田家は元々、宮大工の家系だった。兵衛の父の代で今の土地へ移り、木工製作所を始めた。腕は良くなかったが、人形を入れる箱を一手に引き受けて「箱屋」と呼ばれるようになった。兵衛は腕の良い職人で、金属の箱が当たって注文が殺到した。その話を聞いた関口は、研究所が兵衛に箱を注文したのではないかと推測した。京極堂は改めて、研究所に手を出さないよう忠告した。
御筥様の誕生は戦後すぐのことで、当時から「魍魎退散」が売りだった。京極堂は榎木津たちに、魍魎について解説した。参考文献に目を通していた榎木津は、「久保竣公の世界」という特集記事を見た。洞窟での久保の行動を思い浮かべた彼は、その場を後にした。一方、木場と青木は研究所を訪れていた。陽子と会った木場は緊張しながら、柴田耀弘の死を伝えた。彼が学会を追われた美馬坂との関係を訊くと、陽子は医者だった父との繋がりであることを告げた。木場は柴田が殺された可能性を指摘し、アリバイを尋ねる。陽子は、娘の事故があってから研究所を一度も出ていないことを告げた。
京極堂は関口たちに、御筥様の背後に黒幕がいることを話す。関口は信者リストを確認し、頼子の母親の名があるのを見つけた。京極堂は激しく動揺し、「この事件は、まるで魍魎だ」と口にした。青木は陽子に、加菜子の姿を確認させてほしいと求めた。木場が拒んだので、青木だけが陽子の案内で研究室へ向かった。研究室には美馬坂と研究員の須崎がおり、加菜子は手足を切断された状態で大型の機械に取り付けられていた。
久保は頼子の元へ行き、「母親の手伝いか」と問い掛ける。頼子は「お母さん、本部で拝んでばかり」と答え、「僕が怖くないのか」という質問には「加菜子のことで仕返しに来たんでしょ。いいわよ、殺すなら早く殺して」と言う。彼女は「私は加菜子に言われた通りにしただけよ」と言い、事件について説明する。学校で凧を作った加菜子と頼子は、暴漢2人に襲われた。そこへ久保が現れて暴漢を射殺している間に、加菜子と頼子は外へ出て駅へ向かった。
加菜子は「全部、どうでもいいよ。大人のいない国へ行きたいよ」と言い、軽く笑った。加菜子の首の後ろにニキビを見つけた頼子は、彼女を線路へ突き落した。彼女は久保に、「加菜子にあってはならない物よ」と言う。「私はどうすれば?」という頼子の問いに、久保は「箱に入れる」と答えた。彼は薬で頼子を眠らせ、箱に入れて小舟で運んだ。榎木津は事務所へ戻り、久保の作品を読んだ。彼は和寅から、今出川が久保に脚本の執筆を依頼したことを聞かされた。
京極堂は関口、敦子、鳥口を伴い、御筥様の本部を訪れた。彼は「ここは魍魎だらけだ」と兵衛や二階堂たちに告げ、箱が鬼門に置いてあるのは間違いだと指摘する。京極堂は兵衛に、「貴方の祈祷は効いた。魍魎がここに集まって来た。貴方も二階堂さんも、このままでは、あと半年の命だ」と告げた。怖くなった兵衛たちが助けを求めると、京極堂は「箱を信者に返すんです。一ヵ所に集めるから大変なことになる。分散すれば力は弱まる」と助言した。
二階堂は指示に従おうとするが、兵衛は「しかし、あいつが許してくれるかどうか」と弱気な態度を見せる。京極堂は「あいつというのは、貴方の息子のことですね」と、彼に確認する。兵衛は「戦争があいつをおかしくしてしまったんだ。助けてやりたかった。だから御筥様を作った。それなのに、あいつは信者の娘たちを連れ出したんだ」と釈明した。すると京極堂は、「貴方の息子さんは、作家の久保竣公でしょう」と指摘した…。

監督&脚本は原田眞人、原作は京極夏彦(講談社刊『魍魎の匣』より)、製作は石畑俊三郎&気賀純夫&春名慶&水野文英&浅沼誠、企画は遠谷信幸、プロデューサーは小椋悟&柴田一成&井上潔、アソシエイトプロデューサーは宮下史之&遠藤修一&神田裕司&山口敏功、世話人は明石散人、撮影は柳島克己、照明は高屋齋、美術は池谷仙克、録音は矢野正人、VFXスーパーバイザーは古河信明、編集は須永弘志、殺陣は中瀬博文、衣装デザインは宮本まさ江、プロデューサー補は木村和弘、脚本協力は猪爪慎一、音楽は村松崇継。
エンディングテーマ「金魚の箱」作詞・作曲:伊澤一葉、アーティスト:東京事変。
出演は堤真一、阿部寛、椎名桔平、宮迫博之、田中麗奈、黒木瞳、柄本明、宮藤官九郎、清水美砂、篠原涼子、笹野高史、マギー、堀部圭亮、荒川良々、寺島咲、谷村美月、大森博史、大沢樹生、右近健一、池津祥子、田村泰二郎、小松和重、矢柴俊博、中瀬博文、月登、原田遊人、秋本つばさ、吉沢季代、植本潤、桂憲一、神谷美花、下山葵、木村彩由実、野口尋生、白井雅士、山下禎啓、宮田博一、赤池高行、河西祐樹、小倉直紀、氏原祐介、中山治哉、中野照久、佐藤友一ら。


京極夏彦の百鬼夜行シリーズ第2弾となる同名小説を基にした作品。
監督&脚本は『狗神』『伝染歌』の原田眞人。
京極堂役の堤真一、榎木津役の阿部寛、木場役の宮迫博之、敦子役の田中麗奈、京極堂の妻・千鶴子役の清水美砂、関口の妻・雪絵役の篠原涼子、鳥口役のマギー、青木役の堀部圭亮、和寅役の荒川良々は、前作からの続投。
他に、関口を椎名桔平、陽子を黒木瞳、美馬坂を柄本明、久保を宮藤官九郎、今出川を笹野高史、加菜子を寺島咲、頼子を谷村美月、寺田を大森博史、増岡を大沢樹生、雨宮を右近健一が演じている。

百鬼夜行シリーズ第1弾『姑獲鳥の夏』が2005年に映画化されており、その続編という扱いになる。
いずれも企画は小椋事務所だが、配給は日本ヘラルド映画からショウゲートに変更された。
前作を撮った実相寺昭雄は2006年11月29日に胃癌で死去したため、続投できなくなった。それ以外のスタッフも大幅に入れ替わっている。
主要キャストの大半は前作から続投しているが、関口役の永瀬正敏が腎尿路結石で降板を余儀なくされたため、椎名桔平が代役を務めている。

『姑獲鳥の夏』は「雰囲気だけで中身の薄い映画」だったが、裏を返せば雰囲気だけはキッチリと醸し出されていた。
そして、その雰囲気というのは、このシリーズにおいて重要な要素になっている。
ところが本作品は、怪奇ミステリーとして構築するつもりが本当にあるのかと首をかしげたくなるぐらい、その肝心な雰囲気が全く出ていない。
幻想、怪奇、恐怖、不安、そういったモノが、この映画からは決定的に欠け落ちている。

関口、敦子、鳥口が外で話しているシーンなんて、BGMも含めて、なぜか抒情的なムードさえ漂って来る。その直前には女の右腕が発見されているというのに、何故そんなことになってしまうのか理解不能だ。
京極堂の家で榎木津や関口たちが話すシーンでも、クラシックギターが抒情的なメロディーを奏でて、やたらと穏やかな雰囲気が漂う。
榎木津が事務所で久保の小説を読むシーンでは、サックスが朗々とソロ演奏をする。
観客を心地良くさせたいのか。だとしたら、その狙いは何なのか。

加菜子が登場し、「どうせ遺産の話さ。僕にはどうでもいい」「楠木頼子君、月の光を浴びなさい」「馬鹿だね、君は。太陽の光は動物や植物に命を与える。月の光は一度死んだ光りだ。生き物には冷たい」などと台詞を語った時、ちょっと笑いそうになってしまった。
たぶん原作通りのキャラクター造形なんだろうけど、その口調が明らかに「用意された台詞を喋っています」という感じなのよね。
その舞台的で大仰な台詞回しは、違和感が強いわ。
他の面々も大仰で舞台チックならともかく、そうじゃないので彼女だけが浮いている。まるで別の物語から迷い込んで来たかのようになっている。

最初に戦時中の榎木津と久保のシーンを用意し、榎木津に特殊能力が備わった出来事を描いている。
しかし、そんなシーンを冒頭で入れている必要性を感じない。
彼だけに特殊能力があり、それによって事件を解いていくならともかく、京極堂にも「拝み屋」としての能力がある設定だ。そっち側の説明は無いんだから、榎木津だけ説明しても中途半端になるだけだ。
どうせ続編なんだし、そこは「そういう能力の持ち主」と割り切ってしまった方がいいんじゃないか。
それと、そこで榎木津と久保の関係も示しているんだけど、これまた必要性を感じないんだよなあ。
ぶっちゃけ、戦時中に久保と会っていなくても、榎木津は探偵として事件を調べるだろうし。「戦時中に会っているから積極的に動く」ってのも、違和感があるし。

「加菜子が達磨のような状態で巨大装置に取り付けられている」ってのは観客に大きなインパクトを与えるべきシーンなのに、その見せ方に失敗している。
まず機械が競り上がる段階で、遠目の映像として加菜子の様子が写っている。
その後、機械に取り付けられた加菜子の全身を正面から捉えるカットがあり、次に美馬坂が写り、続いて加菜子のバストショットになるが、そこは順番が違うでしょ。
先に加菜子のバストショットを見せて、それから全身にすべきでしょ。

加菜子を突き落としたのが頼子であることは、意外に早く本人の口から明らかにされる。
ただ、その動機が「ニキビがあったから」というのでは、まるでワケが分からない。
どうやら「頼子にとって加菜子は崇拝の対象であり、常に完璧な存在だった。しかしニキビがあったことで完璧ではなくなったから、それを否定するために突き落とした」ということのようだが、映画を見ていて、そんな風に解釈して納得できる観客は皆無に等しいだろう。
2人の関係描写が乏しいために、意味不明な殺人未遂になっている。

最初に榎木津と久保の関係が描かれているが、そこを軸にして話が進むわけではない。すぐに陽子が登場し、柴田財閥の遺産絡みの出来事が入って来る。
では遺産争いの話で進めるのかというと、関口や敦子たちが連続バラバラ事件を調査する話が描かれ、穢れ封じ御筥様という宗教団体も絡んで来る。
木場や青木が登場し、美馬坂近代医学研究所も絡んで来る。
どんどん主要人物が増えて、相関図が広がって、話が複雑化していく。
途中で「これって何の話だっけ?」と思ってしまう。

関口が登場した辺りで「バラバラ事件の犯人や真相を探るミステリー」としての歩みが始まるが、冒頭シーンで久保と「箱の女」との関係を示し、いかにも怪しげに久保を描いているので、もう犯人が久保だろうってことはバレバレになっている。
それが「久保が犯人であるかのようにミスリードしておいて」ってことならともかく、ホントに彼が犯人なのだ。
また、加菜子を突き落とした犯人についても、やはりバレバレだ。
列車の事件が起きる時、急ブレーキの直前に誰かを突き落している様子の頼子が写る。男の姿は写らないので、頼子の証言が嘘であり、実際に彼女が加菜子を突き落としたことはバレバレなのだ。
そうなると、この映画ってミステリーが存在しないのだ。

ミステリーを解くために、主要人物が手掛かりを集めて真相を究明するという展開も無い。
関口たちは御筥様を探っているけど、そこを探って明らかになるのは「兵衛の息子が久保」ってことであって、「だから久保が犯人」という根拠になるわけではない。
御筥様を探った流れから美馬坂近代医学研究所との繋がりが明らかになっていくけど、久保の背後に美馬坂がいることが分かっても「だから何なのか」と思ってしまうし。
美馬坂の狂った野望が終盤に露呈しても、そこまでの話と上手く絡んでいないんだよな。後から強引に取って付けただけにしか感じないのだ。

バラバラ事件の号外が出た後の、御筥様とか、加菜子&頼子とか、美馬坂近代医学研究所とか、それらは全て、バラバラ事件の犯人に迫って行くためのエピソードではなく、そこから観客を遠ざけるためのモノになっている。
ミスリードという意味合いではない。
ただ単に、別の話を描いているというだけだ。
実際は全く別の話を描いているわけではなく、それなりに繋がりはあるんだけど、かなり無理をしてパッチワークを施したせいでツギハギだらけになっている。

バラバラ事件と加菜子の殺人未遂事件については、終盤に入ってから関連性を持たせているけど、違和感は否めない。バラバラ事件を探る方向で進んでいたのに、途中で加菜子の殺人未遂が挿入されるので、「それって要るのかな」と思ってしまう。
もっと言ってしまうと、遺産争いやら美馬坂近代医学研究所やらも含めて、その辺りが全て要らないんじゃないかとさえ思ってしまう。
そりゃあ、それらは全て原作に盛り込まれていた要素であり、原作ではちゃんと融合していたんだろう。
でも、映画だと、そこがあろうと無かろうと、あまり大差が無いというか、むしろ話を散らかしているだけなので邪魔だと感じる。

原作は未読だが、本がやたらと分厚いことは、情報として知っている。だから、原作の内容をそのまま映画化するのは非常に困難(っていうか不可能)だろうってことも分かる。
そもそも映画化に向いている素材ではなくて、映像化するにしても連続ドラマでやるべきなのだ。映画化に当たって換骨奪胎し、大幅に改変するというのは、決して望ましいことではないが、止むを得ないことだと理解できる。
ただし、この映画の改変は、スッキリとした形で133分に話を収めるための作業になっていない。ものすごくゴチャゴチャしており、全く整理されていない。筋を追うだけで精一杯になっており、人物を掘り下げるとか、人間ドラマを描くという余裕が無い。
大幅に改変したにも関わらず、本来ならば133分に入り切らないボリュームになっており、それを無理に押し込んだから、やっぱり無理がハッキリと分かる形に仕上がったという感じである。

(観賞日:2015年4月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会