『無問題(モウマンタイ)2』:2002、日本&香港

中華料理店で見習いコックとして働く木村健介は、仕事中に自分が香港映画のアクションスターとして活躍している妄想を膨らませ、店長に叱責された。彼は出前の帰りにパチンコ屋へ立ち寄るが、まるで玉が出ずに金を使い果たした。隣の客の玉を盗もうとして見つかった彼は、その場から立ち去ろうとした。すると店員が現れて1万人目の客であることを説明し、健介は香港行きの往復チケットと五つ星ホテル宿泊の旅行をプレゼントされた。
香港を拠点とする大企業の太田グループは、半年前に創業者の太田浩夫が死去していた。浩夫の養女である由美子や叔父の一夫は会社に集まり、弁護士のチョウが浩夫の遺言を公表した。それは約百億ドル相当の全資産を由美子に相続させるという内容だった。由美子も一夫も、予想外の内容に驚いた。さらにチョウは、由美子の成人までは一夫が共同で会社を管理すること、由美子が成人したら正式に引き継ぐことを浩夫が希望していると話す。由美子は困惑するが、一夫は本心を隠して「商売のことは任せなさい」と告げた。
一夫は香港マフィアのボスであるベンや側近のホンと会い、由美子の始末を依頼した。太田グループがスポンサーになっている宝石の新作発表会が来週に開かれ、そこに由美子が特別ゲストのモデルとして参加するので、そこで事故に見せ掛けて殺害してほしいというのが一夫の意向だ。彼はベンに、外部の人間を使うよう指示した。一方、香港に到着した健介は、五つ星ホテルとは名ばかりの安宿にガッカリした。町へ出ようとした彼は、いきなり見知らぬ兄妹に殴られた。
兄妹は健介をレストランへ連れて行き、人違いで殴ったことを謝罪した。お詫びとして食事を御馳走すると言われた健介は、高級料理を次々に注文した。兄は自分がラムガオ、妹がラムトイという名前で、2人とも無影門武術の伝承者だと明かした。ラムガオとラムトイが店から逃げ出したため、健介は代金を支払う羽目になった。健介は間違えて別の部屋に入ってしまい、中にいたモウテイという男に襲われた。健介はモウテイをタンスに押し込み、殺虫剤を噴射して失神に追い込んだ。
ドアがノックされたので健介が開けると、そこには仲介者だという盲目の男が立っていた。男は健介がモウテイだと思い込み、ホテルの外で待っていた組織の車に案内した。健介を乗せた車が発進すると、組織の連中は由美子の写真を見せて「強盗が誤って撃ち殺す」という筋書きを説明した。健介は状況が今一つ理解できないまま、発表会の会場へ送り込まれた。由美子と旧知の仲で彼女に惚れている刑事のドニエルは、勝手に会場で警護していた。チャン警部から他の仕事で戻るよう言われても、「電波が悪くて」と嘘をついて電話を切った。由美子を見た健介は、一目惚れしてしまった。
モデルとして由美子がステージに立つと、健介は近付いて眺めた。殺し屋のはずの健介が全く仕事をしないので、痺れを切らした組織の連中が行動を起こした。健介は由美子を助け、落ちて来た拳銃を発砲して一味を追い払った。一夫が健介の素性を尋ねると、由美子は『大学のクラスメイトのケンちゃん」と嘘をついた。一夫が「ボディーガードが必要だ」と言うと、彼女は「ケンちゃんに付いてもらう」と告げた。一夫はベンと密会して怒りをぶつけ、由美子、健介、ドニエルの3人を片付けるよう命じた。
健介が由美子に連れられて観光に出掛けると、敵対心を抱くドニエルも同行する。しかしドニエルは2人を見失った上、肥満女に好かれてしまった。健介が由美子と共にゲームセンターへ入ると、彼に復讐心を抱くモウテイが尾行した。しかしモウテイはゲームで遊んでいた男にハンマーで殴られ、気を失った。追い付いたドニエルに挑まれた健介がゲーム対決に没頭している間に、組織の連中が由美子を拉致した。健介は慌てて後を追い掛け、ドニエルも続こうとするが肥満女に見つかってしまった。
健介は連中が乗り込んだバスを追い掛け、由美子を奪還する。モウテイが立ちはだかって威嚇発砲し、バスを急停車させた。急ブレーキで一味が飛び出し、モウテイと激突してしまった。その間に健介は由美子を連れてバスから抜け出し、通り掛かった車に乗せてもらう。だが、そこに乗っていたのはベンとホンだった。ベンたちは健介を薬で眠らせ、血を付着させた手に拳銃を握らせて電話ボックスに放置した。健介は警官隊に包囲され、殺人など複数の罪で警察署に連行された。
ラムガオとラムトイは警察署を襲撃し、健介を連れ出した。逃亡の際に健介と誤ってキスをしたラムトイは、彼に惚れた。兄妹の道場へ連れて行かれた健介だが、由美子が心配なので出て行こうとする。ラムガオは彼の前に立ちはだかり、「モウテイは門弟だったが教えに背き、殺し屋となった。師匠は裏切り者の一掃を命じて亡くなった。お前はモウテイをおびき出すためのエサだ」と語る。翌朝、健介はラムガオの目を盗んで脱出を図るが、妨害する罠が仕掛けられていた。彼は道場の物品を次々に壊して追い出させようとするが、ラムガオは全く動じなかった。
由美子の失踪を受けて一夫が記者会見を開くという新聞記事を見た健介は、すぐに会場へ行きたいと考える。ラムトイはラムガオを妨害し、早く行くよう告げた。健介とラムトイは変装し、会見場に潜り込んだ。一夫は会見場に現れ、同席したチョウが「理事会の協議により、由美子が見つかるまで一夫が太田グループの総裁になる」と発表した。だが、そこへホンと手下たちが由美子を連れて現れた。動揺する一夫を無視し、ホンは会見を終わらせた。
由美子を見た健介は思わず声を出してしまい、ドニエルに見つかって逃げ出した。一夫の前にベンが現れ、「俺がグループを乗っ取る。毎日、由美子に催眠を掛けてな」と不敵に笑った。彼は一夫に不正の証拠を記録したフロッピーを見せ、「おとなしくしていれば給料は払ってやる」と告げた。ベンたちが由美子を連れて地下駐車場へ行くと、健介が姿を見せた。健介は由美子に声を掛けるが、催眠状態の彼女は「貴方なんて知らない」と無表情で告げた。
由美子を奪還しようとした健介は一味に殴り掛かるが、ベンには全く歯が立たなかった。ベンたちは由美子を車に乗せて去り、健介は失意の中で兄妹の道場へ戻った。すっかり生気を失った健介は、自殺まで図った。ラムガオは健介を励まし、「クンフーを教えてやろう」と持ち掛けた。元気を取り戻した健介は、ハリウッド映画で描かれた方法も持ち込んだラムガオの稽古に励む。一方、催眠から解けた由美子は、隙を見てドニエルに電話を掛けた…。

監督はチン・ガーロウ、脚本はサム・レオン、製作は木村政雄、製作統括は竹中功&柵次隆、製作総指揮は奥田誠治&川城和実&木幡久美、プロデューサーはサム・レオン&千葉善紀&吉田晴彦&河内俊昭&長崎佳子&河野聡、撮影はキョン・ゴクマン、照明はマイケル・チョイ、美術はジョエル・チョン、編集はウー・ワンホン、衣装はウィリアム・ファン、アクション監督はチン・ガーロウ、音楽は山田次朗。
出演は岡村隆史、ユン・ピョウ、酒井若菜、サム・リー、キャンディ・ロー、菅田俊、ライ・ユウチョン、コリン・チョウ、ユン・ジン、笑福亭仁鶴 、六平直政、角替和枝、田口浩正、矢部浩之、ロー・カーイン、タッツ・ラウ、エリック・ツァン、ジェリー・ラム、チン・ガーロウ、ジョニー・タン、リー・サンサン、ヒュー・ホイ、松本志のぶ、長井律子、春日井静奈ら。


1999年の映画『無問題』の続編。ただし物語としての繋がりは全く無い。
主演は前作に引き続いて岡村隆史だが、役柄が異なっている。
前作に続いてプロデューサーを務めたサム・レオン(梁徳森)が、脚本も担当している。普段はアクション監督やスタントマンとして活動しているチン・ガーロウ(銭嘉楽)が、監督を手掛けている。
健介を岡村隆史、ラムガオをユン・ピョウ、由美子を酒井若菜、ドニエルをサム・リー、ラムトイをキャンディ・ロー、一夫を菅田俊、ホンを黎耀祥ライ・ユウチョン、ベンをコリン・チョウ、モウテイをユン・ジン、浩夫を笑福亭仁鶴が演じている。

始まって15分ぐらいで、すんげえ雑な作りだなあ、この後も雑なんだろうなあと感じさせられる。
製作資金を出しているのは日本だけど、やっぱり香港映画なんだろうな、その辺りは(日本映画に雑なモノが無いとは言わんけど、この作品に感じる粗さは香港映画のモノだ)。
まず、健介が出前に行こうとした店員に凄み、自分が行くってのが良く分からん。
「パチンコ店に立ち寄ってサボりたい」という目的があるってことなら、その時点か、もしくは直後のシーンで、それが分かるようにしておくべきだ。
ところが「出前の量が予想外に多くて大変だ」という別のネタを挟んでしまうので、もしもサボりたいってのが理由だったとしても上手く繋がらない。

「出前の量が予想より遥かに多かった」というネタをやりたいのであれば、その前に「出前を名目にして外へ出て、パチンコでもやろう」と健介が企んでいることを明示しておく必要がある。
そうじゃないと、「適当にサボるつもりだったのに重労働」というネタが成立しない。
しかも、出前に出た直後には「出前を運び終わって軽くなった」という状況に移ってしまうので、「出前の量が多い」というのも笑いのネタとして使い切れていない。
あと、走って来た車とぶつかりそうになるのは、笑いも無いしアクションシーンってわけでもないから、何のために挟んでいるのか分からない。

パチンコ店で香港旅行が当たったのなら、まずは健介を香港へ飛ばすべきだろう。
ところが、この映画は旅行が当選した次のシーンで浩夫の遺言状が開封されるシーンを持って来る。
さらに、そのシーンには「なぜ死んでから半年も開封されなかったのか」「由美子と一夫以外に親族はいないのか」「香港の大企業なんだから日本人じゃなくて中国人にしておけよ」といった疑問が湧く。
そこを置いておくとしても、その次に一夫がベンと会うシーンを用意するってのは構成が下手。なんで健介を消したまま2つもシーンを連ねるかね。

パチンコ店で当選した香港旅行がツアーパックでもなく現地ガイドも付いていない一人旅ってのは、かなり無理があるぞ。
せめてガイドが付いていることにすれば、そのガイドと健介のやり取りを喜劇に利用できたりもしただろうに。
「言葉の分からない健介が現地の面々とコミュニケーションを取ろうとする」というところで笑いを取りに行こうとしているのかもしれんが、そんなに上手くいってないし。
あと、ガイド付きでも、そういうネタはやれるしね。「健介がガイドとはぐれる」とか、「ガイドがデタラメな日本語しか喋れない」とか、そういうことにすればいいわけで。

ベンが登場すると、手下の男が拘束されている。ホンはベンに「奴が勝ったせいで大損した」と説明するが、何のことだか良く分からない。で、ベンは男に「お前のせいで大損だ。そんなに勝ちたければ俺と戦え」と言い、格闘を開始する。
それは、あまりにも強引すぎる展開だろう。
登場シーンでベンの格闘能力をアピールしておきたいってのは分かるし、それ自体は決して悪いことじゃない。
ただ、格闘能力をアピールするためのシーンとして、それは無理があるでしょ。

一夫はベンに「外部の人間を使え」と指示するのだが、それは変だ。
そもそもベンの組織は太田グループと表向きは無関係なわけだから、そこで「外部の人間を使え」ってのはおかしいでしょ。
そういうことを言い出すなら、そもそも香港マフィアとベッタリと通じていること自体が問題なわけで。
肝心な時に外部の人間を使うのなら、なんで一夫は香港マフィアと手を組んでいるのかと。そういう裏の仕事をやってもらう時のための関係性じゃないのかと。

由美子は一夫から健介について「その男は?」と問われると「大学のクラスメイト」と言うが、そんな嘘をつく必要性が分からない。普通に「私を助けてくれた人」ってことでいいじゃねえか。別に健介が何かの疑いを掛けられているわけでもないんだから。
それと、そこで一夫が「まだ香港の生活に慣れていないからボディーガードが必要」と由美子に言うのは不可解だ。由美子を殺そうとしているんだから、ボディーガードは邪魔でしょ。
これが例えば「ボディーガードと称して子飼いの男を付けて由美子を始末させようとする」ってことならともかく、そうじゃない。健介が殺し屋のはずなのに由美子を守った男だと知っているのに、なぜか彼が警護役になることを了承するのね。
お前は何がしたいのかと。
由美子と健介はともかく、ドニエルの始末をベンに命じるのも目的が良く分からんし。

由美子は健介を伴い、ノリノリで観光に出掛ける。健介を「ケンちゃん」と呼び、楽しそうにプリクラを撮ったりする。由美子も健介に一目惚れしたってことなのか。
それにしても、最初から心の距離がすんげえ近いってのは、違和感が否めない。まるで以前から知り合いだったかのような距離感だ。
いっそのこと、ホントに幼馴染とか初恋の相手とか、そういう設定にでもしちゃえばいいんじゃないか。
健介は覚えてないけど実はそういう関係で、由美子の方は覚えていたってことにでもしてさ。

由美子と健介とドニエルの殺害を命じられたベンだが、由美子と健介を拉致したのに殺さず、健介は殺人犯に仕立て上げて放置する。
でも健介を殺さず、殺人犯に仕立て上げる必要性が良く分からん。別にベンが何かの罪で追われそうになっているわけでもないんだし。
由美子に関しては、殺さないのは太田グループを乗っ取るためなんだけど、その方法が「由美子を催眠で操る」というモノなので、その陳腐な仕掛けには呆れてしまう。そこに来て、いきなり催眠という要素を持ち込むかね。バカバカしさの極致だわ。
しかも、その催眠、すげえ簡単に解けちゃうんだぜ。
そこは「健介と由美子の恋愛劇が薄っぺらい」という問題をひとまず無視するなら、「健介が救出に乗り込み、愛の力で由美子が催眠から解ける」という形にでもした方がいいんじゃないの。

ベンに蹴り飛ばされた健介が生きる意欲を失って自殺まで図るのは、そこまでが「由美子のためならエンヤコーラ」的にまっしぐらだったことからすると、あまりにも急激なヘタレっぷりだ。
それと、「ラムガオが励ます意味も込めてクンフーを教えることを持ち掛ける」というのは、流れとして違うんじゃないのか。そこは「由美子を助けるために強くなりたくて、健介がクンフーを教えてもらおうとする」という形の方がいいんじゃないかと。
ただし、健介は格闘の素養が全く無いド素人であり、しかも稽古は数日しか積んでいないんだよね。だから、そんなに急激に強くなろうはずもない。
それでも「強くなった」という風に描いて中身にするということは自由だが、「そんなに急に強くなるわけねえだろ」とツッコミを入れられることは確実だ。
で、この映画では、健介がそんなに強くならないので、そこでツッコミを入れられることは回避している。ただし強くないから、由美子の救出に赴いても大して活躍できないという問題は生じている。

そこに限らず、全体を通して、健介はアクションシーンにおいて、あまり活躍していない。
せっかく前作の反省を生かしてアクション・コメディー色を強めたのに、肝心のアクションシーンで岡村より脇役の方が圧倒的に活躍するってのは、本末転倒になってないか。
で、さすがに最後は主人公に活躍させなきゃいけないだろうということなのか、健介がベンを倒している。なぜか健介は、気の塊を作り出して発射する技術だけは簡単に会得しており(たぶん発勁のイメージなんだろう)、それを使って倒すのだ。
一応、「尻の穴に強い力が加わらないと発射できない」というところでコミカルな味付けはしてあるけど、ちと無理があるなあ。

クライマックスの戦いにおいて、健介がベンを倒すことよりも遥かに引っ掛かることがあって、それは「健介がラムトイに惚れる」という展開だ。
それまでは由美子にベタ惚れしており、徹底して「由美子のために」ということで行動させておきながら、ラムトイが自分を救うために犠牲になろうとした途端、急に彼女への愛に目覚めるのだ。そして最終的に、由美子が健介との婚約を発表する場を抜け出し、ラムトイの元へ行くのだ。
そりゃあ、そこまでもヒロインとしては、由美子よりもラムトイの方が遥かに存在感も魅力もあったよ。
ただ、そうであっても、そこまでは何の兆しも無かったのに、急にラムトイに惚れて由美子との恋愛劇から離脱するのはダメだろ。最終的にラムトイを選ぶなら、そのための流れを作っておかないとさ。

(観賞日:2014年9月20日)

 

*ポンコツ映画愛護協会