『MOON CHILD』:2003、日本

2000年12月31日、東京。青年ケイと中年男のルカは、警官に追われて繁華街の路地を逃亡していた。ルカは衰弱しており、路地裏の壁に もたれて「もうそろそろかな。終わりにするわ」と呟いた。「ルカがいなくなったら、俺はどうすりゃいいんだよ」と漏らすケイに、ルカ は「また見つけろ、友達」と告げる。「海でも見てえなあ」とルカが言うと、ケイは「行こう、海」と腕を引っ張った。
2014年。アジアの小さな街・マレッパは、様々な国から来た人々で溢れていた。2004年に経済破綻によって破綻した日本からも、多くの人 が移民となってマレッパに来ていた。8歳の少年ショウは、ストリートチルドレンとして暮らしていた。彼は兄の信士、友人トシと共に、 盗みを繰り返していた。その日、信士とトシは男のスーツケースを奪い、逃走した。
2人と別行動を取ったショウは、廃墟で倒れているケイと出会った。ケイは疲れ果てた様子で、壁にもたれかかっていた。太陽の光がケイ の手の甲に当たると、そこからブスブスと煙が上がり、彼は苦悶の表情になった。ショウが「大丈夫?」と声を掛けると、ケイは「あっち 行け」と追い払おうとする。しかしショウは、気を失ったケイを隠れ家に運び込んだ。
信士とトシはスーツケースを開け、大金を見つけて喜んだ。そこへ持ち主の男が現れ、拳銃で信士の脚部を撃った。ショウは銃を向けられ、 追い払われた。逃げたトシを探しに行くと、アジトから男の悲鳴が聞こえた。慌ててショウが戻ると、信士が「来るな。お前が連れて来た 奴は化け物だ」と言う。ショウは構わずアジトに入り、「怖くないのか」と言うケイに微笑んだ。
2025年。19歳になったショウは、マフィアと銃撃戦を展開していた。指示を出していたケイだが、空を飛んで着地し、銃撃戦に加わった。 「当たっても死なねんだからよけんなよ」と言うショウに、「俺だって当たれば痛いさ」とケイは笑いながら言葉を返した。ギャングを 全て始末したショウは、戦利品を漁った。ケイの様子を見に行くと、彼は死んだ奴の血を吸っていた。
ケイとショウは、別の仕事をしてきたトシと合流した。戦利品が少なかったトシは、「次は名誉挽回、ビッグ・プロジェクトを用意した」 と告げた。家で眠っていたケイは、ルカと海へ行った時のことを夢に見てうなされる。朝が近付いても、ルカは浜辺を去ろうとしなかった。 ケイが「戻ろうルカ、やばいよ」と言うと、「お前は行け。俺はもう充分だ」とケイは告げた。朝日が昇る中、ルカの全身が燃えていく 様子を、ケイは離れた場所から見つめていた。
目を覚ましたケイは、自分に合わせて昼間はあまり出歩こうとしないショウに、「無理して俺に合わせることねえんだよ。もっと今を 楽しんだ方がいい。これからはお前たちの方が、どんどん年を取っていく。俺はこのまんまだ」と告げた。「何言ってんだよ」と笑う ショウに、ケイは「俺は悪い奴の血を吸いすぎた。体の中まで悪人になってる」と言った。
翌日、町を歩いていたショウは、義心会のチンピラ、蛇と鰐の尾行に気付いた。ショウは尾行を撒き、信士と恋人ジェシーの元へ向かう。 ショウは屋上へ上がり、信士と言葉を交わした。信士はドラッグにハマり、借金を抱えていた。マフィアが現れ、信士に金を催促した。 ショウが金を渡して追い払った。一方、夜の公園に出掛けたケイは、壁に絵画を描いている女を見掛けた。
トシはピザ宅配と称し、義心会の事務所に潜入した。そのピザには睡眠剤が混入されており、それで構成員を眠らせてからケイとショウが 事務所に上がり込む計画だった。ところが、まだ構成員が眠る前に、ケイたちが事務所に現れた。銃撃戦が始まる中、ケイとショウは孫と いう青年と遭遇した。彼は義心会に恨みを持ち、事務所に潜入していた。ケイ達は、彼と結託して戦うことにした。
孫は義心会の連中に妹のイーチェを暴行され、その復讐を果たそうとしていた。彼は負傷しながらも、その復讐を果たした。イーチェは 暴行を受けたショックで、口が聞けなくなっていた。ケイたちが孫の家へ行くと、イーチェは公園で絵画を描いていた女だった。ショウは イーチェに心を惹かれ、イーチェはケイに好意を抱いた。ケイ、ショウ、トシは孫とイーチェの兄妹と親しくなり、5人で海へドライブに 出掛けた。5人は海ではしゃぎ、集合写真を撮った。
ショウがイーチェに会うため孫の家へ行と、トシがランチに来ていた。孫は、イーチェの絵画が完成し、小さなセレモニーが催されること を語った。孫は招待状を渡すが、セレモニーは昼間なのでケイは出席できない。ショウはケイの姿を見て、「最近、血を吸ってないんじゃ ないのか。どんどん体が弱ってる」と心配する。ケイは「他人を食い殺して自分が生きてる。時々、そんな自分に耐えられなくなる」と 漏らし、「お前達といて楽しいけど、お前達はどんどん成長して行く、俺だけ置いてけぼり」と語った。
翌日、セレモニーが催され、ショウだけが出席した。ピザ宅配の仕事をしていたトシは、蛇と鰐に刺された。セレモニーが終わってショウ が孫やイーチェと喋っていると、蛇と鰐が現れて発砲してきた。深手を負ったトシが現われるが、銃弾を浴びた。そこへケイが出現し、蛇 と鰐に襲い掛かった。トシはショウに抱えられ、息を引き取った。ケイが敵を始末して鰐の血を吸っている姿を、孫とイーチェは目撃した。 ショウは「ケイ、やめろ。トシが死んだんだぞ」と喚いた。
9年後。ショウはイーチェと結婚し、ハナという6歳の娘を儲けていた。ショウはギャング一味のボスになり、信士とジェシーにバーを 経営させていた。ショウが信士とナイトクラブへ行くと、義心会の親分チャンがいた。チャンの隣には、義心会の構成員になった孫の姿が あった。傘下に入ろうとしないショウに、チャンは「ここはお前の街じゃない」と告げた。追い払おうとする義心会の連中に、ショウは 挑発的な態度を取った。
マレッパから遠く離れた場所。ケイは殺人容疑で拘束され、刑事ローリエの取り調べを受けた。ケイは質問には答えず、「俺を死刑にして 欲しいんだ。殺すのは簡単。真昼の庭に放り出すだけでいいんだ」と呟いた。ショウは手下4人を引き連れ、変装して宝石店を襲撃した。 帰宅したショウは、ケイが捕まっていることをテレビのニュースで知り、面会に赴いた。
ショウはケイにイーチェと結婚したことを告げ、ハナの写真を見せた。ショウは「イーチェはお前が好きだったから迷っていたが、何度も プロポーズして結婚した」と語った。「みんな元気か?」と問われたショウは、孫が「同胞と上手くやっていきたい」という理由で義人会 に入ったことを告げた。ローリエからケイのことを尋問されたショウは、「どこの誰かは良く知らねえ」と返答した。「どんなことでも いい、聞かせてもらえませんか」と問われ、「そんな気の利いた話なんてねえよ」と声を荒げた。
ショウが出掛けている間に、手下4人が義心会の連中に殺された。マレッパに戻ったショウは、信士から「お前がいりゃ、こんなことには ならなかったんだよ」と責められ、「テメエ一人じゃ何も出来ねえくせに」と怒鳴った。2人は激しい言い争いになり、「一人でやって みろよ」と言うショウに、信士は「ああ、やってやるよ」と言葉を返した。
やめていたドラッグに手を出した信士は、拳銃を握ってチャンを襲撃しようとする。だが、チャンが赤ん坊を抱き上げたことで躊躇して いる間に、手下の銃弾を浴びて死んだ。ショウが遺体の安置室へ駆け込むと、信士が殺された現場にいた孫の姿があった。ショウは孫を 睨み付け、「お前も仲間もみんな殺してやるからな」と凄んだ。イーチェは「どうしてこうなったの」と嘆いた。
数ヶ月後、イーチェは病院のベッドにいた。彼女は脳に腫瘍が出来ており、もう長くないと医師から診断されていた。彼女は腫瘍の影響で 記憶が狂っており、ショウをケイ、孫を父だと思い込んだ。ケイは望み通り、翌日の死刑執行が決まった。そこへショウから電話が入った。 ショウは「一人じゃダメだ、助けてくれよ」と泣き言を漏らした。ケイは護送車から脱走し、ショウの元へ戻った。ショウは「イーチェを ヴァンパイアにしてほしい、そうすれば死ななくて済む」と頼むが、「化け物にしたくない」とケイは拒絶した…。

監督は瀬々敬久、脚本はGackt&瀬々敬久&井土紀州、プロデューサーは平野隆、共同プロデューサーは神野智&下田淳行、 アソシエイト・プロデューサーは吉田剛、エグゼクティブ・プロデューサーは児玉守弘&宮島秀司、撮影は柴主高秀、編集は大永昌弘、 録音は井家眞紀夫、照明は渡部嘉、美術は丸尾知行&吉田悦子、VFXスーパーバイザーは浅野秀二、 スタント・コーディネーターは下村勇二、音楽は安川午朗、Ending Theme“birdcage”はGackt。
出演はHyde、Gackt(GACKT)、豊川悦司、ワン・リーホン、鈴木杏、石橋凌、山本太郎、寺島進、ゼニー・クォック、千原靖史、 千原浩史、YOU、三浦哲郎、YOSH、本郷奏多、春山幹介、久保孝典、 李立群、高捷、段鈞豪、張嘉年、程守一、戎祥、苗子傑、筱蔵、羅念祖、金多惠ら。


ミュージシャンのGackt(現在の表記は「GACKT」)が脚本に携わり、L'Arc〜en〜CielのHYDEを誘って共演した近未来SF映画。
ケイをHyde、ショウをGackt、ルカを豊川悦司、孫をワン・リーホン、成長したハナを鈴木杏、ローリエを石橋凌、トシを山本太郎、信士 を寺島進、イーチェをゼニー・クォック、蛇を千原靖史、鰐を千原浩史が演じている。
監督は『DOG STAR』の瀬々敬久。

まあ本職じゃないから当然と言えば当然なのだが、主役2人の芝居は下手。
あえて比較すると、Hydeの方が遥かに下。
冒頭のトヨエツとの会話シーンだけでも、彼の演技力の低さは顕著に示されている。
Gacktは、Hydeに比べるとマシだが、セリフ回しがわざとらしい。
あと、この2人の芝居が際立っているから目立たないけど、少年時代のショウを演じる本郷奏多の芝居も下手だね。隠れ家でケイの元へ 戻って微笑するシーンなんて、その笑顔が強張っていて不自然だ。
それと、ケイとショウの配役はどう考えても逆にした方が合うぞ。
フェイスだけじゃなく身長の高さを考えても、Gacktが不老不死の吸血鬼で兄貴分、Hydeが弟分の方がいいよな。

19歳に成長すると、ショウ役は本郷奏多からGacktにバトンタッチし、信士役は久保孝典から寺島進になる。
おいおい、ちょっと待て。Gacktの兄貴が寺島進なのかよ。年齢差がありすぎないか(この両名の実年齢は10歳違い)。
それに、その時点でショウは19歳の設定だ。幼少の頃の2人を考えると、たぶん兄貴は20代前半でしょ。
寺島進の20代前半はキツいものがあるなあ。

銃撃戦が開始されると、ショウは銃で撃たれて服に穴が開いているにも関わらず、身体は全く傷付いていない。
全く盾になるものが無い場所で、堂々と突っ立って銃撃戦やってるし。
あと、銃の構え方、撃ち方もカッコ悪い。
たぶんカッコ良く見せようとして、非現実的な「見せるスタイル」でやってるんだろうが、それが逆にカッコ悪く見えるという皮肉な結果 となっている。
クールに決めようとして、カラカラと空回りしているのだ。

ケイとショウは近距離で孫とバンバン撃ち合うのに、どちらも一発も当たらない。
どんだけ射撃が下手なんだよ、お前らは。
でも、その外れた弾丸が他の場所に当たっている様子も無いんだよな。
じゃあ弾丸はどこへ飛んだのかね。
あと、そこではここでショウが香港映画チックな格闘アクションも披露するが、ようするにGacktは香港アクション的なモノを やりたかったのね。

「銃撃戦で主人公になかなか弾丸が命中しない」とか、その程度の嘘は別に構わないのよ。
この映画は、ガンアクションのファンタジーとしての「暗黙の了解」の範囲を遥かに超越して不自然なのだ。
たぶん監督もGacktも、オシャレでスタイリッシュなアクションシーンだと思ってるんだろうなあ。
でも、ジョン・ウー辺りの上っ面だけをなぞっただけにしか思えない。
大体さ、ケイがヴァンパイアとしてのパワーを持っているんだから、ショウたちが危険を犯して銃をバンバン撃つ必要なんか 無いんだよな。
あと、ケイが銃を撃つのも無意味。お前はヴァンパイアのパワーを使えよ。

義人会の襲撃が終わると、もうケイたちと孫は、笑い合うようなフレンドリーな関係になっている。
その後にはトシとイーチェも含めた5人でドライブに繰り出すが、夜の海に出掛けて写真を撮影しただけで、この5人の絆が描けて いるとでも思ったのかね。
でも、友情を描く場面って、そこしか無いぞ。
むしろ、出会ったばかりなんだから、そこが絆の始まりで、それから深まっていくドラマが綴られなきゃダメでしょ。

やたらとコミカルな芝居を入れたがるが、これが寒いのなんのって。
イーチェに惚れて花束を渡そうとしたショウが、トシがいたので慌てて隠すシーンとか、そういうのもキツい。
恋愛劇を描くにしても、ショウは受動的な立場にすりゃ良かったのに。
GacktとHydeは、シリアスで耽美的なイメージで貫いた方が良かったと思うなあ。コミカルなノリを入れたかったら、それは役者に任せて おいてさ。
っていうか、コミカルなノリは要らないと思うけど。
芝居が上手くない人が喜劇芝居をするのって、すげえムズいことだぜ。
下手なんだから、ポーカーフェイスで喜怒哀楽をあまり出さず、セリフも少なくすれば良かったのに。

ケイは「お前たちはどんどん成長して行く、俺だけ置いてけぼり」って言うけど、その時点でショウは19歳だし、まだ仲間は若いん だよね。
例えば昔の恋人がオバサンや老女になったとか、昔の友達がジジイになったり老衰で死んだりしたとか、そういうことは無いので、ケイが 老化しないことへの苦しみ、悲しみが全く伝わらない。
で、9年が経過するとショウとイーチェは結婚して娘もいるが、全く年を取っている印象が無い。
当たり前だよね、同じ人間が演じているんだから。
そんな風にやってるから、余計に「ケイだけが年を取らない」というのがピンと来ないのよ。

「周りの人間の命を食い殺さないと生きられない」という辛さも、セリフでチョロッと触れるだけ。
例えば「仲間の誰かを殺さないと生き延びることが出来ない」という状況に陥るようなことも無い。
ケイがヴァンパイアの能力をほとんど使わず、不老不死の悲しみも全く表現されていないのだから、彼が吸血鬼だという設定には全く 意味が無いよな。

何年もの歳月に渡る物語にしているのが、そもそも失敗だと思うよ。
それによって吸血鬼の「老化しない苦しみ」が表現されていれば意味があるけど、表現できてないし。
逆に「吸血鬼じゃない連中も老化してないぞ」と思っちゃうし、話がダラダラしちゃってるし。
特に後半に入ると、グダグダっぷりがハンパない。
これといった出来事が何も起きないんじゃなくて、描かれるエピソードが、ことごとく話を散漫にしていくのだ。

孫は「同胞と上手くやっていきたい」という理由でチャンの手下になったらしいが、「なぜ?」と首をかしげたくなる。
ケイの一件があって、ショウと袂を分かつのは分からないではないよ。
ただ、チャンの仲間に妹を暴行されたのに、そんな奴の手下になるのは解せない。
孫が一味の仲間になる理屈がサッパリ分からんので、「かつて仲間だったショウと孫が互いに銃を向ける関係に」というところのドラマが 全くスウィングしない。

クライマックスの銃撃戦でも、銃を構えているのに撃たない敵がいたり、ショウが銃をすぐに撃たず、喚いて相手を押し込んでから 撃ったりというヘンテコな行動が連発する。
ケイはショウに「死ぬ気か。隠れろ」とか言ってるのに、自分は物陰に隠れて手伝わない。
だから、ショウはどんどん傷付いていく。
あと、ラストバトルも、やっぱりケイは銃を使って敵を攻撃するんだよね。
もう何のためのヴァンパイア設定なんだか分からんよ。

役者も力不足だが、監督も力不足だな。
この内容なら、三池崇史に頼むべきだったな。脚本もNAKA雅MURAにリライトしてもらってさ。
それがダメなら、小澤啓一や金澤克次にでも頼めばいい。
どういうことかっていうと、ヤクザやチンピラが出て来るVシネマを撮り慣れた人に任せろってこと。
内容は完全に、そっち系のVシネマの世界なんだから。

(観賞日:2010年1月16日)

 

*ポンコツ映画愛護協会